子供向け施設事業で注意したい法務のポイントについて弁護士が解説!

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【ご相談内容】

こども庁の創設をはじめとした子供政策の拡充もあり、当社としても、既に実施している企業内保育所を分離させ、新たに独立事業として保育事業をスタートさせようと考えています。

ただ、利用者層が当社従業員以外にも拡大するため、それに伴い色々なトラブルやリスクも予想されるところです。

子供向け施設事業を展開する上で、法務の観点からの注意事項を教えてください。

 

 

【回答】

子供を対象とした施設事業は、保育園や幼稚園が代表的なものとなりますが、近時は子育て政策の一環として、認定こども園、事業所内保育事業、企業主導型保育事業、放課後等デイサービスなど新たな類型も生まれてきています。

そして、政府による子供政策をビジネスチャンスと捉え、新規参入を検討する事業者も増加しているようです。

もっとも、子供向け施設事業は、通常のビジネスとは異なる要素が多く、また行政との結びつきが強いことを考慮したサービス展開が必要となります。

以下では、執筆者がこれまでに関与してきた事例をもとに、特に注意してほしいと考える事項を、経営資源である「人」、「物」、「お金」、「情報」の視点で整理したものとなります。

 

 

【解説】

 

1.概説

 

残念ながら、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業は、他の事業と比較すると低賃金・重労働の労働環境である点は否めません。このため、労働トラブルが起こりやすく、一歩対応を間違えてしまうと大量離職を招き、たちまち事業運営が困難になるといった事態になりかねません。この観点から、労働トラブルには細心の注意を払う必要があります。

また、近時は、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)を騒音が発生する迷惑施設と捉える人も一定数存在します。このため、施設の管理体制を含めた見直しが求められる事態となっています。

さらに、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の運営資金は、行政からの支援に依存するところが多いところ、支援条件を充足していない等の理由で、支援が中断する、返金を求められる等のトラブルが多発しています。このため、お金の管理については、高度な緊張感をもって臨む必要があります。

なお、個人情報やプライバシー意識が高まる中、子供及び保護者の個人情報の取扱い方法についても十分意識を払いたいところです。

複数の子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の顧問弁護士として業務遂行している執筆者の経験を踏まえ、人に関する問題、物に関する問題、お金に関する問題、情報に関する問題に分けて、いくつかの事例解説を行います。

 

2.人に関する問題

 

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業における「人に関する問題」といえば、人員配置基準をイメージする方も多いかもしれません。これについては、弁護士としては、誤魔化さずに遵守してくださいと言うほかありません。

ここで取り上げるのは、事業運営上の法務課題、典型的には従業員との労働トラブルとなります。

もっとも、近時ではカスタマーハラスメント対策が重要な経営課題となっていることも忘れてはなりません。また、利用者間で発生したトラブルに対し、どこまで事業者が関与するのかという意味での問題も意識する必要があります。

 

(1)従業員トラブル

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業に限った話ではありませんが、未払い賃金、ハラスメント問題、メンタルヘルス不調問題などは、残念ながら避けて通れないものとなっています。

 

この点、未払い賃金問題については、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の場合、事業者によるコントロールが効かない構造上の問題があります。例えば、保護者による子供のお迎えが頻繁に遅れ、結果的に保育士等の従業員の労働時間が後ろにずれ込むことで残業が発生しがちであるといった事情があるからです。

このため、残業代の発生は不可避であることを前提に賃金体系を構築するといった工夫が必要となります。

 

また、ハラスメント問題については、悪口や仲間外れといった精神的なものが多く、明確な証拠も乏しいことから、事業者によっては、一方当事者の受け止め方の問題に過ぎないと軽く考えてしまう場合もあるようです。

しかし、申告があったにもかかわらず放置することで、本人がメンタルヘルス不調となるだけではなく、職場環境の悪化による従業員の大量離職といった深刻な事態になる場合もあります。少し過剰なくらい先手を打つくらいの意識の方が良いかもしれません。

 

さらに、メンタルヘルス不調問題については、一気に事を進めようとせず、一歩ずつ着実に対処することが肝要となります。どうしても時間がかかってしまうため、我慢しきれずに強硬手段に出てしまうことも見かけるのですが、たいていの場合、手痛いしっぺ返しをくらうことになります。慎重かつ確実に手順を踏んでいきたいところです。

 

なお、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業特有の従業員トラブルとしては、事業者が定める保育理念に同調しない保育士等の従業員への対応があります。端的には協調性のない問題社員対応となるのですが、指導しても聞き入れず、反抗的な態度をとったため解雇したといった強硬策をとってしまうと、残念ながら事業者は後で大きな代償を支払うことになります。なぜ保育理念に従わないのか保育士等の従業員からのヒアリング、事業者として検討の余地がないか検証、業務指導、業務改善命令、軽めの懲戒処分などの一連の手順を踏むと共に、証拠を残さないことには事業者有利に対処することはできません。誤った法解釈で対応しないよう十分注意したいところです。

 

従業員トラブルの対応を誤ると、(1)対象となっている従業員との間で複数の問題が同時に勃発してしまうこと、(2)対象となっている従業員以外の従業員にまでトラブルが飛び火すること、という特徴があります。早期の段階から弁護士に相談し、その時々で適切な対応を行いたいところです。

 

(2)カスタマーハラスメント

カスタマーハラスメントという用語が近時定着してきた感がありますが、何をもってカスタマーハラスメントに該当するのか明確な基準はありませんし、ましてや法的な裏付けはありません。

したがって、事業者にとって気にくわない苦情であれば、カスタマーハラスメント扱いとし、一切協議を行わないというのは考え物です(なお、法律または行政の指導に基づき苦情解決制度を設けていることが通常であるため、この観点からも一切協議しないという取扱いは不可となります)。

もちろん、一昔前のような「お客様は神様です」とした上で、何でもかんでも聞き入れてしまうと、今度は保育現場が持たなくなります。

結局のところ、是々非々の対応を行うことが重要となるのですが、次の記事などを参照していただきつつ、随時弁護士と相談しながら対応することをお勧めします。

 

(参考)

・クレームを受けた場合の初期対応のポイントを弁護士が解説!

・不当要求があった場合の対処法について、弁護士が解説!

 

(3)利用者間の調整

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)は多数の利用者が出入りしますので、利用者同士の軋轢やトラブル等が発生しがちです。そして、その軋轢やトラブル等につき、事業者に何らかの対策を講じるよう要求されることがあります。

当然のことながら、事業者の責任で生じた軋轢やトラブルであれば、事業者が積極的に介入し、解決に向けて尽力することが必要です。例えば、施設内で利用者が他の利用者に怪我をさせたという場合、事業者は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。

したがって、怪我をした利用者の保護者に対して経緯を説明すると共に、当該保護者の意向につき怪我をさせた利用者の保護者に伝えること、場合によっては事業者立会の保護者同士の面談協議の場を設定するなどの対応が必要と考えられます。

 

一方、何らかの理由で保護者間に対立関係があり、それを原因として、一方の保護者が他方の保護者の子供(利用者)と交流させないようにしてほしいといった要求が行われることがあります。この場合、対立関係につき事業者の責任がある事情とは言えませんし、少なくとも保護者の好き嫌いで子供(利用者)の行動に制限を掛ける保育方針をとるのはおかしな話と考えられます。

したがって、事業者としての考え方を説明した上で、要求に応じるような利用者間の調整は行わない旨明確に回答することが必要と考えられます。

 

さて、悩ましいのは施設外で発生したトラブルが尾を引き、施設での保育業務に悪影響を及ぼす場合です。例えば、子供の両親が何らかの離婚トラブルに発展していると予想される場合において、一方(例えば父親)が、自分以外の者(例えば母親や祖母など)がお迎えに来た場合、子供を引き渡さないでほしいといった事例に遭遇したりします。

上記と同じく、事業者に責任が無いとはいえ、場合によっては子供の生命・身体に悪影響を及ぼしかねない事態も想定されることから、事業者としてもある程度介入せざるを得ないと考えられます。

 

事業者が利用者間の調整をどこまで行うのかについては、非常に悩ましい問題となります。ただ、上記の例でも分かる通り、一見すると事業者に責任が無いので介入しなくてもよいと考えられる事項であっても、実は大きなリスクが潜んでいるという場合があり得ます。

この判断は事業者だけでは適切に行いづらいことから、弁護士と直ぐに相談できる体制を予めお構築しておくことが重要となります。

 

 

3.物に関する問題

 

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業における「物に関する問題」については、設備基準をイメージする方も多いかと思います。これについても、「人の問題」と同じく、弁護士としては適切に守ってくださいと申し上げるほかありません。

さて、物=施設として捉えた場合、上記1.でも触れた通り、近時は騒音を発生させる嫌悪施設であると捉える人がいることに留意する必要があります。

また、多数の人が出入りする施設であることから、施設の管理体制についても検討を行う必要があります。

なお、物=事業運営上必要な書類と捉えた場合、法律上要求される書類を揃えることはもちろんですが、各事業者で工夫したい書類として利用契約書、重要事項説明書、保護者向けサポートブック(ガイドブック)などがあります。どこかで拾ってきた契約書等のコピペでは、現場実情に合致せず上手く対応できないことが生じることに注意する必要があります。

 

(1)近隣対策(騒音問題など)

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業を行う場合、子供や保護者の声、調理場からの臭気や煙、送迎時の違法駐車(交通量増加)などを原因とした、様々なクレームを受けることが多くなっています。

一昔前であれば、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の公共性を理由にクレームを押さえることができたのかもしれませんが、現在ではこの理屈だけで納得する人はいないと考えたほうが良いかもしれません。

このような問題が起こった場合、近隣住民に対する説明会を開催するなどして納得が得られるよう努力することがまずもっての対応となりますが、事業者として具体的にどのような対策を行ってきたのか、あるいは今後対策を行おうとしているのかを提示ができるのかがポイントになります。いわゆるガス抜き程度で、単に話を聞くというだけでは根本的な解決にはならないことを十分意識する必要があります。

一方、クレームを受けた場合、同時並行として行政に相談することも重要です。

但し、行政に相談した場合、行政が積極的に介入してトラブルを解決してくれると期待してはいけません。行政に対して相談する目的は、①一方だけの言い分を聞いた行政の担当者が、事業者に対して偏見を持たないようにするため、②騒音などの法規制の有無及び内容について、行政より情報を得るため、③行政と情報を享有することで、アドバイスを得られやすい環境を構築するため、に留まります。

あえて誤解を恐れずに言うのであれば、あくまでもトラブルは事業者にて対応する必要があることを前提に、法的根拠が十分ではないにもかかわらず行政が変に近隣住民側に肩入れして、事業者の足を引っ張るような動きをさせないようにすると認識しておけばよいかと思います。

なお、近隣住民の大部分は納得してくれたが、一部強固に反対する住民がいるという場合、任意の場での協議を諦め、調停等の裁判所を利用した協議の場に移行させるといった方法を取ることも想定したほうが良いかもしれません。

 

近隣対策については事業者の思い描いた通りに事が進まないことが多く、これといった有効打もありません。このため、弁護士とあれこれ相談しながら、複数の対策を講じつつ、突破口を見つけていくという対応が求められます。

 

(2)施設管理

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)は不特定の者が出入りする場所ではないものの、多数の人が出入りする場所です。このため、施設内の什器備品が損傷したり、施設内で預かっていた物が紛失したり、施設内の設備によって利用者が怪我をしたりなど、色々とトラブルが起こりがちです。

人的及び物的な事前予防策を講じることはもちろんなのですが、残念ながら事故・事件が発生することは不可避と言わざるを得ない以上、事故・事件が発生した場合の事後処置をスムーズに進めることができるよう準備しておくことがより重要と考えられます。

ちなみに、事故・事件が発生した場合、事業者によっては警察等の行政の介入を極端に嫌がる場合があるようです。しかし、嫌がれば嫌がるほど、相手の不信感は増すばかりであり、逆に警察等の行政に介入してもらった方が事業者自らの防御にもつながることもあります。したがって、よほどのことがない限りは、警察等の行政の介入には協力するというスタンスを取ったほうが良いと考えられます。

 

ところで、最近では施設内に防犯カメラを設置することが多くなってきていますが、やはりプライバシー侵害の問題を避けて通ることはできません。防犯カメラで撮影された映像の利用目的、保存期間、不正利用の防止措置などを職員や利用者に事前に公表・周知することが最低でも必要と考えられます。その上で確実性を期すのであれば、防犯カメラの利用に関する承諾書を取り付けることも検討するべきです。

 

施設管理の問題は、人的・物的基準についてはある程度行政等が公表している場合が多いので、それらを参照しながら対処することになります。一方、施設管理が不十分であることを(不十分か否か不明な場合を含む)原因としたトラブル対応については、事業者自らで体制構築しなければならないことがほとんどです。この体制構築に当たっては弁護士に関与してもらうことが望ましいことはもちろん、事故・事件が発生した場合の対処法などにつき、直ぐに相談ができるよう弁護士との関係性を持っておくことが重要です。

 

(3)利用契約書などの書類

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の場合、行政との結びつきが強く、行政が定める必要書類を作成し保存しておくことが義務付けられています。これらの書類については、行政からの指導もあるためか揃っていることがほとんどです。

しかし、行政の指導が届きにくいところとなると、途端に書類の作成が不十分となる傾向があります。典型的なものとしては、利用者との利用契約書と職員との雇用契約書があげられます。

 

まず、利用契約書についてはサンプルが出回っているため、それを用いることが多いようです。ただ、サンプルを一切変更せずに用いているため、現場実情に合致せず、使い物にならないという事案にしばしば遭遇します。特に、利用者の負担となる金額とその内容(費目)、利用者に対する禁止事項の具体化・明確化、契約書以外の書類やサポートブックなどの順守義務などは意識して定めてほしい事項となります。

なお、契約書以外に利用者負担となる金銭費目を明記した場合、果たして利用者に支払い義務が発生するのか法律上も疑義が生じることに注意を要します。

また、契約書の内容と、重要事項説明書やサポートブック等の内容に矛盾相違がある事例を見かけることが多いので、十分に精査してほしいところです。

 

次に、雇用契約書については、厳密には必ず必要となる書類とは言い切れません。しかし、労働基準法上、労働条件通知書(事業者が職員に対して労働条件を明示した書面のこと)の交付義務があることから、この労働条件通知書を契約書代わりにサインさせるという運用を行っていることが多いと考えられます。

様々な雇用契約書がありますが、例えば、シフト制と記載されているが正しく運用できているのか、固定残業手当が支給されていることになっているが適切に残業時間を把握しているのか(固定残業手当ではカバーしきれない残業代を支払っているか)、職員のミスに対して過大な懲罰制度を定めていないか、といったことに留意してほしいところです。

 

利用契約書や重要事項説明書は、現場実情に合わせた創意工夫が求められる書類となりますので、法的有効性や妥当性などについては是非弁護士に相談して作成を進めたいところです。また、様々な書類について相互矛盾が生じていないか等について、弁護士にリーガルチェックしてもらうのも有用です。

一方、雇用契約書については、記載内容と運用が異なることしばしばあり、トラブルに発展しやすい書類です。チェックだけではなく、労務環境改善のアドバイザーとして弁護士を利用することも検討したいところです。

 

 

4.お金に関する問題

 

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業における「お金に関する問題」については、やはり利用者からの債権回収が大きな問題となっています。ただ、金額が少額であることが多く、弁護士等の専門家を利用した場合、費用倒れになるリスクもあることから、事業者としてもどこまで回収活動を行うべきか躊躇することも多いと思われます。

また、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の場合、行政からの支援や補助金で事業活動資金を得ることが多く、行政との関係が極めて重要となります。ただ、残念ながら、本来得られないはずの支援を受け取っている事例も一定数存在しており、これが発覚した場合の対処は極めて重要な経営課題となります。

一方、事業者が支出する金銭としては、損害賠償問題があります。保険に加入しているから大丈夫と高を括っている事業者が多いような気がするのですが、意外な落とし穴があることに注意してほしいところです。

 

(1)利用料金滞納者からの回収

いわゆる債権回収であり、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業だから何か特別な対策を講じなければならないという訳ではありません。しかし、保護者と毎日顔を合わせるといった関係性があること、強引な債権回収手段を行った場合に風評被害が生じる懸念があること等の理由で、他の事業と比較すると、かなり慎重に手続きを進める傾向があります。

もっとも、事業者がいくら配慮しても回収手続きが進まない場合、内容証明郵便の送付や場合によっては訴訟手続きまで視野に入れる必要があります。ただ、金額が低額であることが多く、費用対効果につき十分に検討する必要があります。

 

ところで、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業の場合、債権回収ができないことによるサービス提供のあり方について特殊性があります。

というのも、一般の事業であれば、利用料を支払わない以上、サービス提供を中断する又は契約を解除するという手法をとることが通常です。しかし、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業がこのような対策を講じようとすると、行政より待ったがかかることが多いからです(実際問題としても、滞納している利用者(子供)のみ、一部のサービス提供を中止するというのは現場の混乱を招きますし、その利用者(子供)への悪影響を考えると実施に踏み切ることはできないと思われます)。

行政と予め相談しつつ、費用について相談可能な弁護士と一緒に債権回収手続きを進めることがポイントとなります。

 

(2)行政に対する報酬請求、補助金など

多くの子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業では、行政からの支援や補助金などが事業活動資金となっており、逆に言えば行政からの支援が得られない場合、事業として存続することが難しいのが実情です。

したがって、事業者は、行政から支援を得るための条件を必ず遵守しなければならないのですが、残念ながら一部の事業者は、故意に誤魔化して本来得られないはずの支援を受け取っていたりします。もちろん、このような事例の場合、たとえ利用者に迷惑がかかるとしても、当該事業者は退場してもらうほかありません。

一方、故意ではなく軽過失により本来得られない支援を受け取っていた場合、誤りを素直に認めた上で訂正し、もらいすぎた分を返金すると共に、今後の改善策を提示するなどして、できる限り行政との折衝を行うことが重要となります。ただ、事業者独自の判断で対処してしまうと、残念ながら失敗することが多いので、行政に対して法的根拠を求めながら折衝ができる弁護士を通じて進めていくことがポイントです。

 

(3)損害賠償と保険

子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業者は、サービス提供中に利用者が何らかの災害にあった場合を想定して、損害保険に加入することが通常です。

このため、万一利用者から損害賠償請求を受けたとしても、損害保険で対応できるので安心だと思われている事業者が多いかもしれません。しかし、事業者の勘違いもあるのですが、色々と落とし穴があったりします。

典型的なものは示談代行サービスが付いていないという点です。事業者としては、自動車保険と同じ感覚で、利用者(被害者)との交渉は損害保険会社でやってくれるものと思っていることが多いのですが、残念ながらやってくれません。示談代行サービスが付いているのは自動車保険のみであり、利用者(被害者)との交渉は事業者自らが行わなければならないことは知っておくべきです。

また、損害保険が適用される場面・範囲についても、実は色々と制限があったりします。例えば、事業者が初期対応として見舞金を利用者に支給した場合、損害保険の適用対象外となることが通常です。他にも、利用者情報の漏洩による損害などについても、損害保険の適用対象外となり、保険金が支給されないことが通常です(別に情報漏洩保険に加入するか特約を付す必要があります)。

保険については、保険会社(保険代理店)任せという事業者も多いかと思うのですが、いざというときに役に立たず、慌ててしまう場面を見かけたりします。どこまでカバーされていればひとまず安心と言えるのか、弁護士にアドバイスを受けながら保険を選ぶことも一案ではないかと考えられます。また、示談代行が付いていないことを踏まえ、災害が生じた場合にすぐに相談し、対応を任せることができる弁護士を確保しておくことも重要となります。

 

 

5.情報に関する問題

 

経営資源といえば「ヒト、モノ、カネ」ですが、現代社会では「情報」が付加されることが一般的です。

さて、子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業における「情報に関する問題」についてですが、企業秘密やノウハウの流出といった事例は、経営課題として意識されていないようです。多くの場合、ネット上の掲示板等で誹謗中傷の投稿が行われているといった風評被害への対応、利用者の個人情報やプライバシー情報の取扱いが大きな経営課題となっているようです。

なお、著作物として保護される情報を悪気なく(?)コピペして使用する事例を散見します。大きなトラブルになりかねないので改めて正しい法律知識を知ってほしいところです。

 

(1)口コミ投稿による風評被害

ネット上の掲示板、Googleマップ上の評価、Twitter等のSNS上での投稿など、最近は事業者が知りたくもない、外部からの評判を知ってしまう機会が著しく増加するようになりました。そして、悪い評判が立っている場合、やはり何とかしたいと多くの事業者が思って当然であり、この点では理解できます。

ただ、正直なところ、時間・労力・お金をかけてどこまで対処するのかは検討の余地があります。例えば、SNS上で投稿者に対して反論等を行った場合、周囲の者が面白がり、かえってレス合戦となり悪評が目立ってしまう(場合によっては炎上騒ぎになってしまう)ことがあり得るからです。最近のユーザは、1人の口コミ投稿だけで事業者=悪と決めつけることは少ないので、むしろ静観したほうが賢いといった対処法も想定されるところです。

一方、プラットフォーム等の管理者に削除依頼を行う、裁判手続きを経て投稿者を特定し損害賠償請求を行うといった法的手段を用いる場面も当然あり得ます。

結局のところ、どの程度閲覧される媒体なのか、投稿内容が検索サイトで上位表示され続けるのか、真に受けるユーザがどの程度存在するのか等々を弁護士と一緒に考えつつ、費用対効果の高い対処法を選択することをお勧めします。なお、同一人物の場合、部外者の場合のどちらもありますが、誹謗中傷する口コミ投稿が後日続く可能性も否定できません。この場合に備えて、直ぐに対処法を相談できる弁護士と関係性を構築することも重要となります。

 

(2)個人情報、プライバシー権

上記3.(2)で記載した防犯カメラの事例は、プライバシー権侵害の可能性が生じ得ることは直感的に分かり得ることだと思います。

しかし、最近では、施設内で実施した行事の写真を掲載すること自体がプライバシー権の侵害であると言われたり、必要性があると判断し利用者の連絡先を開示したところ個人情報の漏洩である言われたり、利用者からの過剰反応とも思える事例も増えてきています。

個人情報及びプライバシー権の問題は、法律上問題となり得るレベルの問題と、違法とは言い難いが多くの人において心情的に気持ち悪い・不安と思われても仕方がないレベルの問題、特定個人の受け止め方に難ありと判断せざるを得ないレベルの問題をきちんと整理しながら、是々非々で対処することが事業者に求められます。もっとも、この判断を事業者のみで行うことは難しく、また誤った判断を行ってしまい、後で大きな問題となってしまうことも想定されるところです。

したがって、弁護士と相談しながら、適切な判断と対応方針を組み立てつつ、一貫した対応を取ることが重要となります。なお、この種の問題は、相手が行政等へ問い合わせを行う傾向があるため、事業者は先回りして行政の見解を得ておく(あるいは行政が事業者に対して偏見を持たないようにする)ということもポイントになることも意識しておくとよいかもしれません。

 

(3)コピーと著作権侵害

例えば、知育教材を購入し、知育教材内に含まれている資料等をコピーして利用者に提供した上で、事業者のサービスに利用するといったことが行われているようです。この場合、事業者は、知育教材を購入し所有権は持っている以上、どのように利用するかは事業者の自由なので問題ないと考えていることが多いのですが、残念ながら誤りと言わざるを得ません。

なぜなら、法律上、所有権を取得したとしても著作権まで取得したことにはならず、かつ所有権を取得したことで無制限の著作物使用許諾権を取得したことにはならないからです。要は、所有権と著作権は全く別物であるということを押さえておく必要があります。

なお、上記のような法律等の取扱いについて知っていたにもかかわらず、あえて無断コピーしていたというのであれば言語道断ですが、法律について知らなかった(正しく理解できていなかった)という場合であっても、著作権侵害は成立します。知育教材の使用が禁止されることでサービス提供に悪影響が生じることはもちろんですが、損害賠償問題にまで発展しかねませんので、十分注意したいところです。

上記以外にも、意外なところで著作権侵害を含む誤った情報の取扱いが見受けられます。事が発生してからでは対処のしようがないのが実情ですので(なお、通常は損害保険でカバーされない問題となります)、先手必勝ではありませんが、事業者が提供するサービス内容等につき弁護士に検証してもらった方が安心といえます。

 

 

6.当事務所でサポートできること

 

当事務所では、社会福祉法人が運営する認定こども園、民間事業者が運営する放課後等デイサービス、事業所内保育事業を行う企業などとお取引させて頂いており、上記で記載したような経営課題については、常日頃より相談を受けています。

また、上記で記載した以外にも様々なご相談を受けており、法務視点だけにとらわれることなく適宜アドバイスしています。

以上のような経験例と蓄積されたノウハウにより、ご依頼者様に、実践的な課題解決をご提案することが可能となります。子供向け施設(こども園、放課後等デイサービスなど)事業を運営する中で、経営課題を解決したいと考える事業者様は、是非当事務所をご利用ください。

 

 

 

 

<2023年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 

 

コンプライアンスのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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