訴訟に巻き込まれた場合の初期対応について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

裁判所から訴状等の書類一式が郵送されてきました。これから裁判へ臨むにあたり、どういった点に注意すればよいのか、教えてください。

 

【回答】

訴状を受領してから第1回目の裁判まで、一般的には1ヶ月ほどの猶予期間があります。この間に会社の言い分をまとめた上で、答弁書という書類を裁判所に提出することになるのですが、なかなか1ヶ月では準備ができないということもあり得ます。

こういった場合に、どのように対処すればよいのかを中心に、第1回目の裁判が始まる前までに留意するべき事項について以下解説を行います。

なお、最近では訴訟詐欺と呼ぶべきものが出現しているようです。訴訟詐欺に引っかからないようにするための注意点も解説しておきます。

 

【解説】

1.裁判所からの郵便物を受け取った場合

 

(1)資料の確認

裁判所からは、特別送達(イメージとしては書留郵便です)という形式の郵便物で裁判書類一式が郵送されてきます。そして、その中には、

・第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状

・訴状

・証拠

といった書類が入っているはずです(その他にも、証拠説明書と題する書類や答弁書の書き方が記載してある参考書類などが入っていますが、初期対応の段階では重要ではないので省略します)。

この中で、最初に見て欲しいのは「第1回口頭弁論期日呼出状」です。真ん中よりやや下の方に、「期日」欄というものがあり、いつ裁判が行われるかの記載があります。とにもかくにもまずはこれを確認して下さい。また、この第1回期日の1週間前までに答弁書を提出するよう書いてあるはずですで、それに合わせて逆算し準備を行うこととなります。

 

(2)誰に相談するべきか

裁判といえば弁護士を連想する方が多いかと思います。もちろん裁判業務は弁護士の主要な業務の1つです。

ただ、簡易裁判所の事件であれば、司法書士も代理人として選任可能です。また、事情を分かっている従業員(担当者)を代理人として許可するよう裁判所に申請することも可能です。一方、地方裁判所の場合、弁護士以外の代理人を立てることが出来ません。

ちなみに、弁護士の知り合いがいない場合、会社にとっては一番身近な専門家である税理士を通じて弁護士等を紹介してもらうのも一案ではないかと考えられます(なお、税理士は裁判の代理権限はありません)。

 

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2.第1回目の裁判への対処法

 

(1)時間を稼ぐための答弁書の書き方

訴状等の書類はある日突然郵送されてきます。このため、訴状を受け取った側(被告側)は、裁判に対応するための準備時間が不足することが起こりえます。

例えば、第1回目の裁判までに答弁書を裁判所に提出する必要があります。答弁書には、訴状に記載されている事実について認めるか、認めないか、認めないのであればその理由は何か、その他反論するべき事項は無いか等々、できる限り、訴えられた側(被告)の言い分を整理しつつ、詳細に記載する必要がある、というのが法律上の建前です。しかし、限られた時間内に作成することは現実的には難しい場合が多く、ましてや自分で訴訟対応しようとした場合、何を書けばよいのか分からない…という事態も想定されます。

そこで、とにもかくにも、第1回目の裁判を乗り切り、第2回目以降に勝負をかけていく…、といった合法的な「時間稼ぎ」を検討することも必要となります。

時間稼ぎという悪い印象を与えるかもしれませんが、焦って対処し失敗してしまっては元も子もありません。準備時間不足であれば、その点を考慮した答弁書を作成し、裁判所に提出することがポイントです。具体的には次のようなものです。

 

令和×年(ワ)第××号 ××請求事件
原告  ××
被告  ××

答弁書

令和×年×月×日

××地方裁判所 第×民事部 御中

〒××-××××
大阪市中央区××××××
被告××××

請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。

請求の原因に対する認否

追って認否及び被告の主張を行う。

以上

 

被告側の具体的な反論は何一つ書いてありません。しかし弁護士が代理人として就任している場合を含め実務上、第1回目の裁判では、とりあえず訴えた側(原告)の請求内容だけは争っておき、具体的な反論等は何も行わず、第1回目の裁判を欠席し、時間を稼いで体制を整えるという方法がよくとられています。

 

(2)合法的戦略としての裁判への欠席と引き延ばし作戦

ここで疑問として、裁判に欠席しても大丈夫なのか、実質的に何も反論しないまま裁判を引き延ばすと何か不利益を被るのではないかという点です。

まず、欠席に関してですが、第1回に限っていえば、欠席しても何ら問題はありません。むしろ何も準備せずに裁判所に出頭した場合、独特の緊張感の中で、裁判官等からの質問の意味が分からないまま受け答えすることで、自分にとって不都合な言質をとられてしまい、裁判に不利に作用するということさえ起りえます。したがって、第1回目に限っては、よほど準備が整っている場合でない限り、欠席したほうが無難です。

なお、第1回目の裁判を欠席するという手法をとれるのは、事前に答弁書を出している限りにおいてという留保がつきます。答弁書も出さずに欠席すると、欠席判決=訴えた側(原告)の請求を認める判決が出されることとなりますので、必ず答弁書は提出し、裁判所が受領したか否かの確認を行うようにして下さい。ちなみに、簡易裁判所の裁判手続きの場合を除き、第2回目以降の裁判は出席が必要となります。裁判所に連絡するに際しては、答弁書を受領したか否かの確認と共に第2回目の裁判期日について事前に日程調整を行っておくことをお奨めします。

 

次に、欠席による不利益がないかという点については、よく裁判官の印象が悪くなるのではという問い合わせを受けます。が、この点については心配ご無用かと思います。変な言い方にはなってしまいますが、裁判所も第1回の裁判期日で全ての言いたいことを主張するのは難しいと分かっています。もっとも第2回目で言いたいことはできる限りまとめておくという準備をしておかないと、たしかに裁判官の印象は悪くなる可能性があります。何度も引き延ばして良いということにはならないこと注意が必要です。

ちなみに、裁判を引き延ばすことで明らかに不利益になる事項と言えば、遅延損害金が加算されていくということが考えられます。通常の裁判では、「お金を支払うまで遅延損害金を付けて支払え」という請求が起こされますので、裁判が長期化すればするほど遅延損害金も膨らんでいくという関係に立ちます。このため、引き延ばすことで遅延損害金が加算されるというデメリットがあるのは事実です。ただ、訴訟の根本である、訴えた側(原告)の言っていることが正しいか否かの問題と、遅延損害金が加算されるか否かの問題は別問題です(訴えた側(原告)の主張していることが間違っているのであれば、そもそも遅延損害金は加算されません)。慌てふためいて自分の首を絞めるような答弁を行うくらいなら、1回分くらいの遅延損害金(約1ヶ月分)は覚悟の上で、熟考した主張を行う方がベターではないかと考えます。

 

(3)注意事項

上記の引き延ばし作戦は、一般的な民事裁判にはほぼ当てはまる戦術なのですが、一部この戦術を使うわけにはいかない場合があります。代表的なものとして、労働審判手続きと呼ばれる裁判手続き、仮処分(民事保全)と呼ばれる手続きの場合です。

引き延ばし作戦をとってよいものか、専門的判断が必要となる可能性が高いので、裁判手続きの進め方については弁護士にあらかじめ相談することをお勧めします。

 

3.時間稼ぎとしての移送申立て

移送申立とは、訴訟が提起された裁判所以外の裁判所で裁判を行って欲しいことを希望する場合に行う手続のことを言います。

例えば、自分は大阪であるにもかかわらず、東京地方裁判所に裁判を起こされた場合、東京に出向くことも可能ですが、時間も交通費もかかりますので、できれば地元大阪の裁判所で裁判を行いたいと考えたくなるのも一理あります。

この様な場合、上記で記載したような「答弁書」を提出する前に、移送申立書という書類を作成し、現在裁判が行われている裁判所、つまり上記例でいえば東京地方裁判所宛に提出するという手順を踏みます。

ここでのポイントは、

・答弁書提出前に移送申立書を提出すること(答弁書を先に出してしまうと、移送申立を行えない可能性が出てきます)

・移送申立手続を行った結果、どこの裁判所で裁判を行うべきかを先に検討することになるため、指定されていた第1回裁判期日が取り消されること(移送申立を認めるか否かの判断を先に行うため、第1回期日は延期される)

という点です。

すなわち、移送申立ての手続きを行うことで、第1回目の裁判を後ろにずらすことができます。訴訟遅延を招くため、何でもかんでも移送申立てするべきとは到底言えません。が、弁護士を探すのに時間がかかるという場合には、一応検討しても良いかもしれません。

なお、例えば、京都地方裁判所に訴訟提起された事件を大阪地方裁判所に移送するよう申し立てること、それ自体は可能です。しかし、関西圏内どうしであれば、移送を許可する決定を裁判官が出さない可能性があります(近場なので裁判所まで出頭せよということです)。どの程度離れていたら移送申立てが許可されるのか一律の基準はありませんが、執筆者個人の感覚としては、関西の交通機関を前提とした場合、1時間程度で出廷可能な裁判所であれは、移送申立てを行っても裁判官は認めてくれいないといったところでしょうか。

 

4.訴訟詐欺に注意

 

(1)はじめに

最近、「訴訟詐欺」とでも言えばよいのでしょうか、訴訟手続きに慣れていない人をターゲットにした悪質な通知文書等に関する相談を、執筆者も受けることが増えてきました。

あくまでも執筆者の個人的感覚に過ぎませんが、訴訟詐欺の特徴として、①通知書を受領すると同時に裁判が開始するかのように記載がある、②裁判を停止するためには今すぐ支払いが必要である旨の記載がある、③今すぐ指定の連絡先に電話をしないと自動的に通知書を受領した者に不利な判決が出る旨の記載がある、といった特徴があります。

しかし、裁判実務を経験すれば分かりますが、上記はすべて誤りと判断できます。

 

(2)通知書受領と同時に裁判は開始しない

上記1.で確認するべき資料の中に、「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」をあげましたが、訴訟詐欺の場合、この書類がないことが多いようです。また、当該書類もどきが存在していたとしても、第1回目の裁判が行われる日時が不自然だったりします。

したがって、訴訟詐欺であるか否かを見破るためには、まず「第1回口頭弁論期日呼出状及び答弁書催告状」という書類が存在するのかを確認してください。

なお、書類が入っていた場合、本物か否かを確認するためには、書類に書いてある連絡先ではなく、インターネット上の裁判所の公式サイト上に記載のある裁判所の連絡先に問い合わせてください。その際、第1回目として指定されている裁判日時や原告・被告の当事者などを言えば、本当に裁判が行われているのか確認することができます。書類に書いてある連絡先の場合、もしかすると詐欺を働こうとする者たちの連絡先である可能性があるため、いったんは書類に記載のある連絡先への連絡は控えたほうがよいかもしれません。

 

(3)裁判所が最初から支払いを要求することはない

裁判制度というのは、双方の言い分に食い違いがあるため、どちらの言い分が正しいのかを決める制度です。

したがって、裁判が開始する前段階から、訴えた側(原告)の言い分を前提に、裁判所が金銭を支払うよう要求することはありません。逆に言えば、裁判開始の前段階から、裁判所の名の下で支払いを要求する(支払先口座が明記されている等)通知書であれは、まず訴訟詐欺といって間違いないと考えられます。

なお、最近では「判決書」というタイトルの文書を送りつけて、裁判所名義での支払いを要求する通知書もあるようです。もちろん、何らかの理由で、本人が感知しない状況下で裁判が進行し、判決が出てしまったという場面は例外的ですが有り得る話です。ただ、通常の日常生活を送っていたのであれば、上記のような例外場面が生じることはまずありえません。とはいえ、本物か否かは確認したほうが無難です。必ず通知書を受領してから10日以内を目安に、上記で記載した通り、判決書と題する書面上に記載のある裁判所に対し、公式サイト上の連絡先を通して問い合わせを行うことをお勧めします。判決書と題する書面上にある連絡先へ問い合わせることは、やはり詐欺を働こうとする者たちの連絡先である可能性も否定できないことから、控えたほうが良いと考えられます。

 

(4)自動的に不利な判決が出ることはない

上記1.及び2.でも記載しましたが、裁判へ対応する場合、答弁書という書面の提出が必要となります。ところが、訴訟詐欺の場合、この点を触れずに、通知書に記載のある連絡先に電話するよう書いてあります。裁判手続き上、特定の連絡先に対して電話連絡することを要求することはあり得ません。

したがって、電話連絡を行うこと、電話連絡しない限り受領者に不利な判決が出る旨記載されていたのであれば、まず訴訟詐欺とみて間違いありません。

 

5.参考(訴訟提起後から第1回裁判までの流れ)

訴訟提起すれば直ぐに裁判が開始する、ますので、最初に訴訟提起後から第1回裁判(口頭弁論)までの大まかな流れを記載しておきます。

 

(1)訴状は訴訟提起と同時に郵送されるわけではない

訴状はある日突然郵送されてきます。

ただ、原告(訴訟を仕掛ける側)が裁判所に訴状を提出した直後に、被告(訴訟を仕掛けられる側)に訴状が郵送されることはありません。これは原告が提出した訴状について、裁判所が訴状審査を行い、審査に通過した訴状のみが被告に郵送されることになっているからです。よく報道等で訴訟が提起された直後に、訴えられた者(被告)にコメントを求めても「訴状を受け取っていないのでコメントできない」という定型コメントしか返ってこないという場面を見たことがあるかと思います。これは上記の通り、訴訟提起と実際に訴状が被告に郵送されるタイミングがずれるからです(大阪の場合、訴訟提起しても訴状審査に最低1週間程度はかかるという感覚です。したがって、早くても1週間後にしか被告に訴状は郵送されていないのではと思われます)。

ところで、訴訟詐欺を働くものは、訴状を提出したら翌日くらいには訴訟が開始し、直ぐに判決が出て差押等の執行が可能…といった短時間で訴訟手続きが進むかの如く説明を行っているようです。しかし、そのようなことはありません。逆に短時間で手続きが進むという説明であれば、訴訟詐欺を疑ったほうが良いのかもしれません。

 

(2)訴状を受け取った日と実際に裁判が開始する日は同一ではない

訴状は特別送達という方法で郵送されます。特別送達という名前は馴染みがないと思われますが、書留郵便のようなものをイメージしてください。

さて、訴状の受け取り=裁判開始と考える方もいるようですが、そうではありません。一般的には訴状を受け取った日から約1ヶ月後に第1回目の裁判(口頭弁論期日)が指定されていることが多いです。また、第1回目の裁判の1週間前の日を答弁書提出期限と定めていることが多いようです。

上記の通り、訴状を受領してから、第1回目の裁判が開始されるまでに一定の時間的猶予があります。この間に弁護士等の専門家に相談するなり対処法をじっくり検討してください(なお、不在による受取指定日を後日にずらしたため、結果的に訴状を受領した日と第1回目の裁判開始日が近接することはあり得ます)。

 

(3)第1回目の裁判で全ての言い分を出す必要はない

上記2.でも記載しましたが、第1回目の裁判で整理されたすべての言い分が出てくるとは裁判官も考えていません。

したがって、準備が間に合わないようであれば、上記で記載したような簡易な答弁書で済ませておき、第2回目で主張するべき事項を主張するという戦略をとるべきです(但し、労働審判等の手続きでは、この戦略を取れないこと上記記載の通りです)。

 

 

<2020年9月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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