インターネット上の取引において契約の成否が問題となる場面とは?弁護士が徹底解説!

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【ご相談内容】

インターネットを介したWEB上の取引について、次の場合、契約が成立しなかったものとして、義務履行を拒否してもよいのでしょうか。

(1)ネット通販において価格誤表示(市場価格より著しく安価)があったことを理由として、誤った価格にて販売することをネット通販事業者が拒否すること

(2)「なりすまし」であることを理由として、購入名義人が商品代金の支払いを拒否すること

(3)クリックやスマホタッチ等の動作により突然支払いを要求する通知(メールやポップアップ表示など)に対し、有料になる旨の事前案内がなかったことを理由として支払いを拒否すること

【回答】

(1)ネット通販事業者による価格誤表示の場合、原則拒否することはできない(誤った価格にて取引しなければならない)と考えられます。

(2)購入名義人の意思に基づかない購入申込である限り、原則的には商品代金の支払いを拒絶することができます。ただし、表見代理制度の適用がある場合は例外的に支払い義務が生じる場合があります。

(3)事前に有料になる旨の案内がないにもかかわらず、突如支払いを要求するようなものであれば、いわゆる不正請求に該当する可能性が高く、支払いを拒否することができます。

>>ネット通販事業者が知っておきたいネット通販に関する法規制とは?
>>ネット通販事業者が法的に有効な利用規約・約款を作成するためのポイントとは?

【解説】

ご相談事項について、まずは総論として、インターネット取引における契約の成立はいつの時点になるのかを確認し、その上で、個別問題の検討を行います。

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1.インターネット取引において契約が成立するのはいつの時点か?

(1)意思表示の到達

まず、常識的に考えて、「この商品を下さい」と申込者(消費者)がいくら頭の中で考えても、販売者に伝わらない限り売買契約は成立のしようがありません。また、販売者も「売りますよ」と頭の中で考えているだけでは、売買契約が成立しようがありません。この様に、「この商品を下さい」「はい、売りましょう」と頭の中で考えている「意思」を、相手方に「表示」して、相手方が理解して初めて売買契約は成立します。このことを、法律上、「意思表示」と呼んでいます。

ところで、例えば、申込者(消費者)が「意思表示」を外部に発し、販売者も「売りますよ」と意思表示を外部に発したけれども、申込者(消費者)に伝達しなかった場合、売買契約は成立するのでしょうか? 申込者と販売者とのインターネット取引では、この問題について、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」という法律が規定しています。すなわち、販売者の「承諾」の通知が、申込者に「到達」した時点で売買契約は成立するとされているのです。では、電子メールで取引きした場合に、具体的に「到達」とはどの様な状態を言うのでしょうか。また、Web画面で取引きした場合はどうなのでしょうか。

(2)電子メールの場合

電子メールの場合、メールを送信したけどトラブルで受信しなかったという場合もあれば、受信はしたけど未開封だったという場合など、色々な場面が想定されますが、一般的には、次の2要件を充足する状態になれば、「到達=契約成立」と考えて良いとされています。

①申込者が指定した又は通常使用するメールサーバー中のメールボックスに記録されたこと

②読み取り可能な状態で記録されたこと

具体的には、①については、メールサーバーの故障等で申込者が承諾通知メールにアクセスできない場合には要件充足とは言えないでしょう。一方、一度メールボックス中に記録されたのであれば、例え未開封状態であったがシステム障害でメールが消失し、結果的に申込者が内容を見ることができなかった場合であっても、要件充足といって良いと考えられます。②については、例えば文字化けがひどく、一般人でも対応可能な文字コードの選択等の手段を講じても読み取り不可だったという場合には、要件充足とはいえないでしょう。

(3)Web画面の場合

Web画面についても電子メールの場合と同様に①②の双方の要件を充足すれば「到達」と考えて良いでしょう。例えば、申込者が利用する画面上に「注文承りました。」と表示されれば、①②を充足すると考えて良いでしょう。なお、申込み後、申込者側の電源トラブル等で、実際に上記画面を見られなかったとしても、「到達した」と法律上は解釈されると思われます(販売者側には関係のない事情であるため)。

2.ネット通販において価格の誤表示があった場合はどうなるのか?

一般的にはネット通販での購入申込みを行った後のアクションとして、例えば、電子メールが購入申込者に送信され、そのメールを受信したとき、あるいはWeb画面上で「注文承りました。」と表示された場合は、売買契約が成立したものといえます。したがって、価格誤表示があったとしても、誤表示のあった価格で売買契約が成立したと考えるのが原則論となります。

ただ、個別具体的な事情によっては電子メールをしたので必ず契約が成立したとは評価できない場合があります。

例えば、電子メールにおいて、「本メールは受信確認です。在庫を確認後、改めて受注可能かお知らせします。」と条件が付いていた場合には、売り主は「承諾の意思表示」を行ったとは言えないことが明白ですので、契約が成立したと評価することはできないでしょう。また、Webサイトの規約上、「発送をお知らせするメールの受信をもって契約が成立したものとみなす」となっていた場合、規約の有効性に争う余地がないのであれば当該規定に従って契約は成立すると法的には判断されます。このため、購入の申込みを受けたが、発送のお知らせメールをまだ送信していないのであれば、契約は不成立であり、売り主は商品販売を拒絶することができるということになります。

次に、売買契約が成立したと法的に評価される場合であっても、例外的に売主であるネット通販事業者が、誤った価格での販売を拒否できる場合がありえます。これは民法で定める錯誤取消しという制度のことなのですが、イメージとしては、頭の中で考えていることと外部に表示したことに相違がある場合、意思表示を行った者(=売主)は勘違いしているんだから法律上守ってあげましょうという制度です。ただ、常に売主の勘違いが優先されてしまうと、Web画面を見て注文を行った買主からすれば、「売主の頭の中で何を考えているか、そんなこと分かるわけがない!」と文句を言いたくなります。そこで、民法は両者のバランスを考慮して、売り主の勘違いが甚だしい場合(=重過失がある場合)には、錯誤取消しの主張ができないと規定しました。

そうすると本件ですが、ネット通販事業者にとって、値段の設定は基本中の基本の事項であり、十二分に確認すべき事項である以上、いくら勘違いがあったとはいえ重過失があったと評価されるのがほとんどだと思われます。従って、結論としては、売り主は錯誤取消しの主張をすることは難しいということになるでしょう。ただし、売主が錯誤に陥っていることを買主が知っていた場合には、もはやその買主を保護する理由はありません(売主の勘違いに乗じて不当な利益を得ようとしているため)。例えば、値段が2桁以上違っていた場合等、価格の誤表示が誰の目から見ても明らかである場合には錯誤取消しを主張できる余地はあります。ただ、ここまでくるとケースバイケースの判断になるので、まずは誤表示をなくすということに力を入れるべきと言うことになります。

なお、勘違いされている方もいるようなのですが、いわゆる電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律第3条(いわゆる民法特例法における錯誤に関する特則規定)は、消費者が錯誤に陥った場合のみに適用されます。このため、本件のような事業者には適用がありませんのでご注意ください。

 

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3.なりすましを理由に支払い拒否ができるのか?

(1)本人が自らの意思でネット通販業者に対し注文を行った場合には、ネット通販業者からの請求に応じなければならないのは当然のことです。また、本人が第三者に対して、本人名義で注文を行うよう依頼していた場合(=代理権を付与していた場合)、有効な代理行為ですので、ネット通販業者からの請求に応じなければならないことになります。

この様に、注文する本人が注文する意思がある場合には売買契約は成立するのが法律の大原則ですので、本人に注文する意思が無い場合には、売買契約は成立しません。

 

(2)上記(1)のような大原則に対して、民法は「表見代理」という例外を認めています。簡単に説明しますと、①第三者が有効な代理権を持っているかの如く外観があること、② 取引相手方(=本件ではネット通販業者)が善意無過失であること、③①の外観作出について本人に帰責事由があること、以上3要件を充足した場合には、本人が責任を負担しなければならないという規定です。そして、この表見代理という規定は、第三者が本人と偽称した場合であっても類推適用されるとされています。

では、ネット通販においてどの様な場合に表見代理が問題となるのでしょうか。

例えば、ネット通販業者と取引を行うに際して、本人しか知り得ないID・パスワードが発行されており、当該ID・パスワードをちょっとした不注意で友人などに教えてしまい、当該友人が悪用した場合であれば、表見代理の規定が適用される可能性は高くなるでしょう。また、クレジットカードあるいはネットバンキングを用いて決済する場合、一般的には本人しか知り得ない暗証番号その他本人確認のためのセキュリティシステムが用いられていることが多い現状に鑑みると、これらクレジットカード等が用いられて決済されている場合には、本人の管理不十分として表見代理の規定を主張される可能性が高いでしょう(但し、クレジットカード会社等は、約款で本人の救済規定を設けている場合がありますので、必ず約款を確認しましょう)。

ケースバイケースの判断にはなりますが、通常本人しか行えない行動(ID・パスワードによるログイン、クレジットカードやネットバンキングの利用など)を伴う場合、なりすましを理由に支払いを拒絶することが難しくなる可能性があります。

4.いわゆるワンクリック詐欺について

まず、本件の場合ですが、「契約が成立したといえるのか」という観点から検討する必要があります。いわゆる「架空請求、不当請求」の類は、最初から「欺す」つもりで申込完了画面を表示させ、電子メール等にて請求を行ってきているはずですので、そもそもWeb利用者には「契約の申込み」に関する意思表示がないという理論構成が可能な場合があります(契約は申込みと、当該申込みに対する承諾により成立しますので、申込みがない以上、契約が成立しようがないということです)。

また、Web上での取引については、「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」(よく民法特例法なんて言われたりします)という法律の適用も検討してみることも有用です。具体的には、同法の第3条において、クリックの押し間違い等の錯誤による申込みは原則的に取消し可能と規定してあります。もっとも、例外として、ネット通販事業者側において、申込み内容を確認できる措置(典型的にはネット通販等でよく見られる、注文内容の最終確認画面など)を講じていれば、錯誤取消しの主張はできないと規定されています。この点、例えば、画面上から有料申込みであることが明示されておらず、単にクリックしたら一方的に申込完了画面が表示されたというものであれば、同法3条の原則通り契約は取消し可能と考えて良いと思われます。

ところで、電子メールの文章やポップアップ画面上に、支払わなかった場合は「家まで押しかけるぞ!」とか「勤務先まで行ってやる!」等々色々な脅し文句が書かれていることがあります。しかし、技術的なことは留保しつつ、Webを通じて開示した情報が電子メールアドレスのみである場合、電子メールアドレスが分かっているからといって、住所や電話番号等が第三者に知られてしまうことはほぼあり得ません(プロバイダが管理していると思われる住所・連絡先情報が、不正サイト運営者・不正請求者に対して、開示されることは通常考えられません。もちろん、電子メールアドレスの文字列から容易に推測できる、電子メールアドレスと個人が特定できる情報とがWeb上で紐づけることができる(例えば、Facebookの登録情報に氏名、連絡先、メールアドレスが一括して記載されているなど)といった事情があれば別途検討の必要がありますが…)。

いずれにせよ、原則的には支払いを拒絶することは可能と考えられますが、実は利用者が気が付いていないだけで、確認画面と確認クリック等の動作を行っていたという場合もありますので、慎重な検討が必要です。

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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