ネット上でプラットフォームビジネスを行う際に留意したい法的事項を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

インターネット・WEB上でのプラットフォームビジネスを行おうと考えているのですが、どういった点に注意すればよいでしょうか。

【回答】

プラットフォームビジネスについては明確な定義があるわけではなく、直接的な法律も存在しません。このため、複数の法律を鳥瞰的に見ながら検討する必要があります。なお、一般的にはマッチング型プラットフォームとメディア型・非マッチング型プラットフォームに分けて検討が行われているようですので、以下の【解説】でもこの2分類に従いつつ、マッチング型プラットフォームを中心に説明します。

【解説】

1.プラットフォームビジネスとは

GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表される、インターネットユーザーに対して取引を含む交流(情報交換など)の場や仕組みを提供する事業のことをプラットフォームビジネスと呼ぶことが多いようです。プラットフォームビジネスは在庫仕入れを持たない、初期投資が少なく等の特徴があるため企業の大小を問わず参入しやすいビジネスといわれており、これに伴い様々な問題点が指摘されるようになってきました。

今回はプラットフォームビジネスのうちマッチング型(オークションサイト、オンラインショッピングモール、クラウドソーシング、シェアリングサービスなど利用者同士が直接の契約関係に立ち、プラットフォーム運営者は仲介を行うに過ぎないもの)を中心に検討を行います。

 

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2.プラットフォーマー自身が最初に確認しておきたい事項

(1)電気通信事業法

プラットフォームビジネスを開始するに際しては、利用者同士の交流の場を設置する必要があり、インターネット上ではサーバーを設置することからスタートします。ところで、時々ニュースにもなるのですが、無届でサーバーを設置したことで逮捕されるという事例が存在します。なぜ、こういったことが生じるのかというと、「電気通信事業法」と呼ばれる法律が存在するからです。

具体的には、「電気通信事業」を行うのであれば、総務大臣に対して登録または届出が必要とされています。そして、電気通信事業法2条では、電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することを電気通信役務と呼び、この電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業を「電気通信事業」と呼ぶと定めています。この電気通信事業に該当する典型例は、電話会社とかプロバイダーなのですが、要は、他人間の通信のやり取りに関与する(媒介)を行うとなると、電気通信事業に該当する可能性が生じると考えれば良いかと思います。

従って、例えば、企業内でのLANシステムを構築するためにサーバーを設置することは、「他人」ではなく「企業自身」のやり取りを行うに過ぎない以上、電気通信事業には該当しません。また、ホームページやネットショッピングのためのWEBサイトを開設することも該当しないと考えられます。さらに、不特定多数の者が閲覧・投稿可能なネット掲示板を設置することも該当しないと考えられます。

一方、利用者間でクローズドなメッセンジャー機能を有するシステム用のサーバーを設置した場合、「電気通信事業」に該当し、登録または届出が必要になります。なお、具体的な判断方法については、総務省が公表している「電気通信事業参入マニュアル(追補版)」(ネット上で公開されています)を参照しつつ、総務省へ問い合わせを行うのが一番確実かと思います。

以上の通り、プラットフォームビジネス運営者は、プラットフォーム利用者同士の交流手段をあらかじめ検討し、電気通信事業に該当するか確認する必要があります。

(2)許認可

いわゆる仲介ビジネスを行う場合、各種業法による規制が行われている可能性を検討する必要があります。代表的なものとしては、

  • 中古品売買の仲介を行う場合は古物営業法に基づく届出(古物競りあっせん業者)が必要
  • 求人者と求職者のあっせんを行う場合は職業紹介事業の許可が必要(求人求職情報の検索サービスは、情報を提供するのみで雇用関係の成立をあっせんするものでない限り、職業安定法の規制は及びません。ただ、情報の提供のみならず、積極的に求職者・求人者に連絡を行い、応募・採用への介入・採用面接日時の調整等を行う場合には、職業紹介に該当すると判断される可能性が高いので注意が必要です)
  • 不動産仲介業を行う場合は宅建業法に基づく免許が必要(いわゆるタネ屋行為は免許不要ですが、限界事例があいまいです)
  • 保険商品の販売を行う場合は保険業法に基づく免許が必要(保険代理店としての登録が必要)
  • 旅行のための運送・宿泊の手配を行う場合は旅館業法に基づく登録が必要

といったものがあげられます。

必要な許認可を取得せずにプラットフォームビジネスを行った場合、一夜にして廃業に追い込まれてしまう等の回復困難な被害が出てしまうリスクがありますので、適切に検討する必要があります。

なお、マッチング型プラットフォームの場合、プラットフォームの利用者(例えば、プラットフォームを利用して商品を売ろうとする者)が許認可を得なければならない場面も想定する必要があります。どういったものを想定する必要があるのかは後述4.で触れますが、そもそも論としてプラットフォーム利用促進・活性化を図るのであれば、プラットフォーム利用者自身において許認可が不要となるようなビジネスモデルを構築する必要があります。

(3)個人情報保護法など(データの利活用)

プラットフォームビジネス運営者に対して、近時規制を及ぼすべきではないかと指摘されている項目となります(2019年に公正取引委員会が取締り方針であることを明確にしています)。プラットフォームの利用者が多くなればなるほど、利用者ごとの取引履歴等を含むビックデータがプラットフォーム運営者側に蓄積されることになります。これにより利用者の趣味嗜好に合致した商品案内や広告宣伝を行うことができるようになるわけですが、このビッグデータを含む個人に関する情報は、商品・サービスを販売する側(プラットフォーム上の売主に限られません)からすれば喉から手が出るほど欲しい情報となります。

この項目については、①どういった個人に関する情報を取得するのか(対象範囲の問題)、②個人に関する情報の取得に対する同意を得る方法は適切なのか(同意強制の問題)、③取得した情報を第三者に開示すること、特に個人を特定できない形式に加工した情報であれば問題とないと言い切ってよいのか(取得情報の利用形態の問題)を意識しながら検討する必要があります。

なお、法律による規制のみをクリアーしていれば問題なしと割り切ってよいのか悩ましいところです。例えば、日本の個人情報保護法では、個人情報を取得するに際して本人の同意を得る必要はないとされています。しかし、例えば、アプストア(プラットフォーム運営者)は原則同意が必要というルールを設定しています。このようなアプストアの事例は、利用者の権利意識の向上に対する対応、プライバシーへ配慮していることの企業アピールといった意味も含まれており、利用者目線を意識したものといえそうです。こういった観点も考慮しながら、プラットフォーム運営者としては個人情報を含むプライバシー情報の取扱いに関する方針を決める必要があります。

(4)表示規制

プラットフォーム運営者がインターネットユーザー等に対してプラットフォームへの参加、利用を呼び掛ける行為は、まさしく顧客の誘因行為=広告宣伝活動となります。したがって、景品表示法(優良誤認、有利誤認など)を意識する必要があります。

また、プラットフォーム運営者はプラットフォーム利用者より何らかの費用(例えば仲介手数料やプラットフォーム利用料など)を徴収することで事業運営を行いますが、これはまさにインターネットという通信手段を用いた有償サービスの提供にほかなりません。したがって、プラットフォーム運営者によるマッチング型プラットフォームビジネスは通信販売に該当する以上、特定商取引法に基づく表示の掲載などを行う必要があります。

ところで、上記景品表示法及び特定商取引法については、プラットフォームの利用者、特に商品・サービスの販売者(売主)にも同様に規制されるものです。プラットフォームの利用者の中には、こういった法規制を意識していない方もいますので、プラットフォーム運営者は利用者に対して、積極的に働きかける必要があります(後述4.を参照)。

3.プラットフォーマー運営者と利用者との関係性に関する事項

(1)約款・利用規約の適法性・妥当性

プラットフォームを利用してもらう場合、通常はプラットフォーム運営者が定めた約款・利用規約に同意してもらったうえで、利用可能となるという形式をとることが通常だと思われます。この形式の場合、次のような点に注意を払う必要があります。

・約款・利用規約が民法上の「定型約款」に該当する可能性が極めて高いと考えられます。したがって民法の規定に則った対策を講じる必要があります(特に約款・利用規約が契約内容となるための同意の取り方、約款・利用規約の事後的な変更のやり方など)。

・約款・利用規約の内容がプラットフォーム運営者にとって一方的に都合の良い内容となっている場合、いくら同意を得ていても後で法律上無効とされる可能性があります。したがって、プラットフォーム利用者に消費者が含まれるのであれば消費者契約法を、事業者のみであっても独占禁止法に適応するものなのか意識する必要があります(なお、民法の定型約款の規定には不当条項がある場合は効力を有しないことが定められており、これは利用者の属性を問わず適用されます)。

なお、後述6.でも少し触れていますが、プラットフォーム上で掲示板・コメント機能を設ける場合、プラットフォームに投稿された情報に問題があった場合の対処基準(具体的には削除対応)についても、約款・利用規約に明記しておくこともポイントとなります。

(2)独占禁止法

上記(1)と内容が重複しますが、例えば、プラットフォームであるインターネットモール運営者がインターネットモール出店者(商品・サービス販売者)に対し、モール上で実施するキャンペーン期間中の値引き販売を強制する、商品・サービスの販売価格にかかわらず配送料の負担を強制するといったことを行った場合、プラットフォーム運営者は、出店者に対する優越的地位の濫用があるものとして処分を受ける可能性があります。

また、プラットフォーム運営者がプラットフォーム上で商品・サービスを販売する事業者に対し、他のプラットフォームへの出店を禁止するという措置を講じた場合、排他条件付取引に該当するものとして処分を受ける可能性があります。

公正取引委員会がプラットフォーム運営者に対する監視活動を強めているのに対し、プラットフォーム運営者側は独占禁止法についてあまり意識していないことが多いように思います。違反事例として公表されるなど制裁を受けた場合、プラットフォーム自体の信用を落とすことになり顧客離れにつながりかねませんので、やはり意識的な対策を講じる必要があります。

(3)対価の徴収方法

プラットフォームを利用することで利用者同士のマッチングが成功し、約定に従いプラットフォーム運営者が利用者より事後的に成功報酬を支払ってもらうという形態の場合、未回収リスクが残るものの決済方法として特に問題視する必要はありません。

検討を要するのがエスクロー決済の場合です。例えば、インターネットモール上で利用者間の商品売買が成立した場合、買主は購入代金をプラットフォーム運営者に送金する、入金確認後売主は商品を買主に引渡す、その後プラットフォーム運営者は売主に利用料等を控除した残額を送金する、これによって決済完了(売買代金の支払い完了)とするものが代表的なものです。ここで想定しなければならないのは、お金(売買代金)を預かること、預かったお金を預託者以外の第三者に送金することの適法性となります。実は、お金を預かることについては出資法の検討が必要であり、一方送金行為は為替取引として、合法的に行うためには資金決済法に基づく「資金移動業」の登録を行う必要があります。ただ、資金移動業登録のハードルは高く(例えば1000万円以上の履行保証金の供託が必要です)、簡単にできるものではありません。そこで、次の手段として収納代行として取り扱うということが考えられます。

収納代行については、いわゆる代引きで商品を購入した場合における配送業者が行っている方法とイメージすれば分かりやすいかもしれません。この場合、売主はプラットフォーム運営者に対して代金の受領権限を付与することになります。このため、上記エスクロー決済とは異なり、買主がプラットフォーム運営者に対して代金を支払った時点で決済完了となります。このような形態を用いると為替取引には該当しませんので、資金移動業登録は不要となります。したがって、プラットフォーム運営者としては収納代行の形態を採用することが多いと予想されますが、この場合、現場実務でよく問題となるのが約款・利用規約との矛盾です。上記の通り、決済完了時期が売主に送金された時点より前倒しとなりますので、その点を意識した約款・利用規約にする必要があります。

なお、どちらの方法をとるにせよ、預かったお金をプラットフォーム運営者が一定期間保有するという形をとった場合、出資法違反のリスクが生じます。また、預かったお金をプラットフォーム上にて利用可能なポイントに変換する場合、今度は前払式支払い手段に該当するものとして資金決済法の問題が出てきます。お金の預託及び移動に関する法規制は網の目のように張られており、細心の注意を払いながらビジネスモデルを構築する必要があることをご確認ください。

4.利用者(ユーザー)に対して利用に際して注意喚起するべき事項

(1)利用者が許認可取得しなければならない可能性

上記2.(2)でも触れましたが、インターネットモールのような利用者同士による商品売買取引を行う場合、出品者は売主という立場になる以上、売主としての法規制に服することになります。特に、許認可を得ないことには商取引を行ってはならないものは色々と存在し、代表的なものとしては次のようなものがあります。

  • 中古品の売買を行う場合は古物営業法に基づく許可が必要(但し、自ら保有する中古品を1回出品する程度であれば不要と考えられます)
  • 医薬品を販売する場合には薬機法に基づく許可が必要(現行法上、医薬品販売業の許可は実店舗を必要としますので、インターネットのみでの医薬品販売業は不可能です。また、実店舗を有して薬機法上の許可を得ていても、インターネット上で販売できるものは眼科用薬等制限されているので注意が必要です)
  • 酒類を販売する場合には酒税法に基づく免許を受ける必要(なお、一般種類小売業免許を有していてもインターネット上で販売する場合には、別途「通信販売酒類小売業免許」を取得する必要があります。また、インターネット上で販売可能な酒の種類は制限されています(販売可能なものは地酒、輸入酒などに限定されています))
  • 労働者派遣事業を営む場合には労働者派遣法に基づく許可or届出が必要
  • 貸金業を営む場合には貸金業法に基づく登録が必要
  • 証券業を営む場合には金融商品取引法に基づく登録が必要
  • シャアリングエコノミーの場合は各種業法(例えば、住宅宿泊事業法、旅館業法、旅行業法、道路運送法など)

なお、プラットフォーム運営者が、上記のような許認可が必要となる取引の場を提供しているというのであれば、利用者に対して許認可の必要性について注意喚起を行うべきと思われます(注意喚起を行わず、利用者である売主が行政より不利益処分を受けた場合、トラブルになる可能性があります)。なお、場合によっては、プラットフォーム運営者自身が無許可営業に積極的に関与しているとして処分を受けるリスクがあることも想定する必要があります(特に薬機法や健康増進法に基づく規制は行為主体を売主に限定していないことに要注意です)。

(2)広告表示規制

プラットフォーム利用者が商品・サービスの売主や提供者という場合、事業者に該当する可能性があります。事業者に該当する場合は、買主であるプラットフォーム利用者が消費者に該当する場合は景品表示法の規制が及びます。また、特定商取引法に基づく表示も必要となります。さらに、商品・サービス・取引内容によっては各種業法の基づく表示規制もありえます(例えば、健康食品であれば健康増進法に基づく表示規制など)。

ところで、法人が個人事業主であればともかく、普段は商取引を行っていない個人について、どういった場合に「事業者」に該当するのか一律の判断基準が存在するわけではありません。ただ、特定商取引法に関するものですが、消費者庁が「インターネット・オークションにおける「販売業者」係るガイドライン」を公表していますので、プラットフォーム運営者としては、これを参考にしつつ事業者該当性の判断、それに応じた法規制の順守等の注意喚起等を行っていけばよいと考えられます。

(3)契約当事者に対する直接の報酬請求ができない場合への対応

プラットフォーム上で展開される商取引上の決済について、上記3.(3)で記載したプラットフォーム運営者が関与するエスクロー決済を行う場合もあれば、直接利用者同士で金銭のやり取りを行う場合も想定されます。

単純な商品売買に過ぎないのであれば、売主が買主に対して売掛金の請求等を行うことにつき何ら問題はありません。ただ、プラットフォーム利用者の許認可の問題とも関係するのですが、例えば、ペットの世話を任せたい(ペットを預けたい)利用者と、ペットの世話を代行する利用者とをマッチングさせるサービスの場合、法律上無登録の利用者がマッチング先の利用者に対して代行料等の請求を行うことは動物愛護法上禁止されています。このような法規制がある以上、プラットフォーム運営者としては明確に報酬請求の禁止を約款・利用規約に定めるとともに、それに代わる代替手段を講じる必要があります(さすがに無料でペットの世話を行うプラットフォーム利用者はいないと考えられるため)。

5.プラットフォーマーの対外的責任

(1)プラットフォーム利用者間のトラブルと運営者の責任

プラットフォーム運営者はプラットフォーム上での利用者間の取引を含む交流の場を提供するにすぎません。このため、利用者間の交流について直接の当事者になるわけではない上、利用者間のトラブルに対して責任を負う立場にはならないことが大原則です。ただ、インターネットオークションの事例ですが、詐欺取引が生じている状況下において、被害防止に向けた注意喚起措置をとるべき義務があるとした裁判例が存在します(名古屋地判H20.3.28。なお裁判結果は義務違反なしという認定)。したがって、プラットフォーム運営者だから一切責任を負わないと断定することはできません。

プラットフォーム運営者が例外的に責任を負う場面ですが、利用者間取引がBtoCの場合とCtoCの場合とを分けて検討することが有用です。

①BtoCの場合

この類型の典型ですが、プラットフォームはインターネットモール、Bは売主、Cは買主、トラブル内容としては代金を支払ったが商品が届かないというものです。

繰り返しになりますが、商品に関する売買契約は、プラットフォーム利用者である売主と買主との間で成立しています。この契約関係から形式的に導き出される結論は、商品の引渡し義務等を負っているのは利用者である売主ショップ、プラットフォーム運営者ではないということになります。従って、債務不履行に陥っているのは売主であり、プラットフォーム運営者ではない以上、プラットフォーム運営者が契約責任を負ういわれはありません。そうすると、契約責任が追及できないので、プラットフォーム運営者に対して不法行為責任を追及できないかと検討することになりますが、プラットフォーム運営者の故意・過失を立証することは相当困難と言わざるを得ません(プラットフォーム運営者が、利用者である売主側において詐欺まがいの行為を行うことを認識し、むしろ積極的に加担していたというのであればともかく、一般的にその様なことを認識しているとは思えませんし、また、その様なことを予見することも難しいと思われます)。

以上の原則論からすると、プラットフォーム運営者に対して責任追及することは相当困難というのが結論です。もっとも、過去の裁判例を紐解くと、プラットフォームビジネスの事例ではありませんが、次のような事例があります。

すなわち、スーパーマーケットの一区画にテナントとして出店しているペットショップ(=スーパーマーケットの運営者とテナント経営者とは全く別人です)から、顧客がペット(=商品)を購入したところ、当該ペットが病気に罹患しており、その病気が元で顧客の家族が死亡したという事案で、遺族側は、テナントは勿論のことスーパーマーケットに対しても損害賠償責任を追及しました。この事案において裁判所は、商法14条(裁判係属中の旧商法でいえば23条)の類推適用を指摘し、具体的には、

  • 名板貸人(=スーパーマーケット)が営業主(=ペットショップ)であるという外観の存在すること
  • 外観作出につきスーパーマーケットの責任があること
  • 顧客が①の外観を重大な過失無く信頼したこと

以上の3要件を充足する場合には、損害賠償責任を負うと判示しました。講学上の「表見責任」といわれるものですが、この判決の趣旨からすると、プラットフォーム運営者も損害賠償責任を負う余地があるといえると思います。ただ、例えば、「ショップの運営は、各出店者の責任において行われており、当社が管理又は運営しているものではありません。従って、各ショップからの購入は、お客様によるご判断でお願い致します。」等の文言がWEB上の目立つところに記載してあった場合、おそらく顧客の悪意・重過失を立証する上で有力な証拠になると思われます。そして、実際のインターネットモールではこの様な表記がなされていることが多いと思われますので、プラットフォーム運営者に対して責任追及できるのは、かなり限定的になると考えられます。

②CtoCの場合

この類型についても、やはりプラットフォーム運営者が責任を負わないという大原則論に変更はありません。ただ前述した名古屋地裁の裁判例を踏まえると、例えば、

  • プラットフォーム運営者が利用者である売主の出品行為に積極的に手伝い、これに伴う出品手数料又は落札報酬を出品者から受領する場合(※つまり、プラットフォーム運営者が実質的に売主の立場に近づいているという事例です)
  • 特定の売主を何らかの形で推奨する場合(※つまり、プラットフォーム運営者が利用者である買主に積極的な取引誘因を行っており、広告事業者が例外的に責任を負うという事例とパラレルに考えられます)

といった事情がある場合、プラットフォーム運営者が利用者に対して責任を負う可能性が生じるものと考えられます。

(2)プラットフォーム利用者と利用外の第三者とトラブルが生じた場合の運営者の責任

プラットフォーム運営者は取引等を含む交流の場を提供するにすぎないことから原則責任を負わないということが同様に当てはまりますが、この場合、プラットフォーム外でのトラブルとなりますので、ますますプラットフォーム運営者の関与度合いが低く、プラットフォーム運営者が責任追う場面は限定されるように思われます。

ただ、実際の裁判例として、インターネットモールに出店していた売主が、第三者の商標権を侵害する態様で取引を行っていたという状況下で、プラットフォーム運営者が権利者である第三者より権利侵害である旨の申告を受けた場合は、その有無の調査を行うべき義務があり、これを怠った場合は責任を負うとしたものがあります(知財高判H24.2.14.なお、結論として、申告後プラットフォーム運営者が適切な対応を行ったことを理由に責任は否定されています)。

少なくともプラットフォーム運営者が、何らかの理由で第三者の権利侵害が生じている可能性について認識したにもかかわらず、適切な対処を行わなかったという事情がある場合は例外的に責任を負う可能性があることに注意が必要です(なお、上記裁判例からは、第三者の権利侵害が予見できて場合については触れられていませんので、その意味では責任を負う場合がプラットフォーム内トラブルよりやや限定されていると評価することができるかもしれません)。

6.メディア型・非マッチング型プラットフォームの留意点

(1)上記5.までで、マッチング型プラットフォームに関して法的に注意したい事項を記述してきました。ところで、プラットフォームビジネスについては、マッチング型以外にメディア型・非マッチング型と呼ばれるものがあります。典型的にはFacebookやYouTubeなどのSNSが当てはまるのですが、これらは原則プラットフォーム内での交流にとどまり、取引のあっせん・仲介を行っているわけではありません。また、メディア型・非マッチング型プラットフォームビジネスの場合、収益構造がプラットフォーム利用者以外の第三者による広告収入に依存することが通常です。

このような相違点から、利用者間の取引上のトラブルは想定する必要はなく、プラットフォーム上に投稿されたコンテンツにまつわるトラブルを想定しながらビジネスモデルを構築する必要があります。

(2)プラットフォーム上の投稿情報の削除に関する注意点

掲示板開設者やホスティング事業者のみならず、コメント欄掲載機能を持つインターネットオークションを運営するプラットフォーム事業者などが、プラットフォーム上の投稿を通じて、名誉毀損情報・プライバシー侵害情報・著作権侵害情報など違法な情報の拡散に寄与した場合、被害者に対する関係では不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性は否定できません。

ただ、プラットフォーム運営者自ら書き込んだ情報であればともかく、他者が書き込んだ情報についてまで常に管理し違法か否か判断するというのは現実的に不可能と言わざるを得ません。そこで、プロバイダ責任制限法は、次に記載するいずれかに該当する場合でない限り、民事上の責任を負わないと規定しています。

  • 削除が技術的に可能であり、かつ情報の流通によって権利が侵害されることを知っていた場合
  • 削除が技術的に可能であり、かつ情報の流通を知っていることに加えて情報の流通による権利侵害を知ることができたと認めるに足りる相当の理由がある場合
  • 自らが情報の発信者である場合

プラットフォーム上の投稿の場合、通常はプラットフォーム運営者が投稿情報の削除権限を有している以上、削除が技術的に可能という要件は充足すると思われます。あとは権利侵害と認めるに足りる相当な理由があるか否かの判断を行い、削除要請に応じるか決めるという流れになります。

ところで、情報を投稿した者との間には約款・利用規約等に基づく契約関係が存在し、当該契約関係に基づき情報の書込みを認めているにもかかわらず適法な情報を削除したという場合には、契約違反という債務不履行責任の問題が生じ得ると考えられます。もっともこの場合でも、次のいずれかに該当する場合にはプロバイダ責任制限法により免責されます。

  • 必要な限度での削除であり、かつ情報の流通により他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある場合
  • 必要な限度での削除であり、かつ権利を侵害されたとするものからの申し出があった場合において、書込み者(発信者)に対する意見照会を行ったが、書込み者が当該照会を受けた日から7日を経過しても、書込み者から削除に同意しない旨の申出が無かった場合

なお、プロバイダ責任制限法は、法律という性質上、どうしても抽象的な内容にとどまり、どういった場合に投稿情報を削除しても問題がないのか具体的な基準が示されていません。したがった、投稿情報削除に関するトラブルをできる限り防止したいのであれば、約款・利用規約等で具体的な削除基準をプラットフォーム運営者であらかじめ設定・明記し、これに則って運用するというのが賢いやり方となります。その意味で、プラットフォームビジネスを行う場合は約款・利用規約の内容を充実化させることはもちろん、実効性を担保できる規定の明確化を図ることが必須となります。

(3)クローズドなSNSであれば権利侵害は生じない?

いまだに誤解があるようなので、この点に関連し、著作権と肖像権を例に簡単に触れておきます。

まず「SNSだから…」「クローズドな世界だから…」という理由で、著作権侵害の問題が一切生じないと考えるのは危険と言わざるを得ません。なぜなら、著作権侵害の有無については、一部の人しか見ることができないか否かによって判断されるわけではないからです。

著作権侵害の問題を回避すること、例えば、他人の著作物をSNSの中で用いたいというのであれば、その使用方法が、他人の著作物の「引用」として認められる(=著作権侵害が成立しない)かという、著作権法32条及び同48条に照らして、原則通り判断するのが適当となります。ちなみに、適法な「引用」(=著作権侵害とならない)と言えるためには、 ①公表された著作物を引用すること、②公正な慣行による引用であること、③正当な範囲内での引用であること、④出所が明示された引用であること、の4要件を充足する必要があります。

ところで、SNSと著作権法での議論として、クローズドな世界である以上、「私的使用」に該当するので、著作権法違反の問題は生じないのではないかと言われることがあるようです。ただ、著作権法において「私的使用」が認められているのは、著作物を「複製」する場合です。ところが、SNSといったインターネット上の世界の場合、著作物を掲載する行為は、複製ではなく「公衆送信」という扱いを受けます。従って、果たして「私的使用」に該当するか条文上の構造からも疑問がありますので、SNSの場合、「私的使用」だから著作権法違反の問題が生じないと考えるのは大きなリスクを伴うと考えられます。そして、プラットフォーム運営者においても、この点を誤解することなく、投稿情報の適法性を判断した上で、投稿情報の削除等の適切な措置を講じる必要があります。

次に、肖像権についても、対象となった人物の了解がない限り、SNS上の掲載する行為は肖像権侵害が成立すると考えた方が無難です(なお、有名人の場合はパブリシティ権侵害の問題も別途発生します)。

ちなみに、一部の裁判例では、肖像権侵害が成立しない場合として、名誉権侵害が成立しない場合と類似した考え方を取ることを明示したものがあるようです。すなわち、「個人の容貌等の撮影及びウエブサイトへの掲載により肖像権が侵害された場合であっても、①当該写真の撮影及びウエブサイトへの掲載が公共の利害に関する事項と密接に関係があること、②これらが専ら公益を図る目的で行われたこと、③写真撮影及びウエブサイトへの掲載方法がその目的に照らし相当なものであること」の3要件を充足すれば、例外的に肖像権侵害が成立しないと判断したものです(東京地判H17.9.27)。この裁判例をどこまで一般化できるかは検討を要しますが、SNSで掲載された写真(場合によっては動画も含む)については、原則肖像権侵害が成立するが、場合によっては成立しない場合も想定されるかもしれません。ただ、実際問題として、趣味の範囲内で掲載する場合、上記①~③の要件のどれかを満たさない可能性が極めて高いと思われますので、例外の場面に該当するのは相当狭いと考えた方が良いように思います。したがって、プラットフォーム運営者としては、少なくとも肖像権侵害の申告があった場合は重大問題として速やかに削除等の対応を行ったほうが無難と考えられます。

 

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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