ネット通販事業者が知っておきたいネット通販に関する法規制とは?弁護士が徹底解説!

Contents

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【ご相談内容】

ネット通販事業に進出しようと考えているのですが、どのようなリーガルリスクがあるのか、またどういった点に注意すればよいでしょうか。

【回答】

ネット通販を全般的に網羅した法律が存在せず、様々な法律を組み合わせて検討する必要があります。以下の【解説】では、ネット通販事業の立ち上げから販売実施までの各業務フローに応じて整理を行っていますので、詳細は【解説】をご参照ください。

なお、概要としては次の通りです。

〔事業計画の段階〕

1.利用者(顧客)の行動…この段階ではまだ意識する必要なし。

2.法律上の留意点…①許認可の有無~各種業法、②ドメイン取得~不正競争防止法、③WEB制作の依頼~民法、商法など、④モールへの出店~電子モール運営事業者の利用規約・約款

〔マーケティングの段階〕

1.利用者(顧客)の行動…通販事業者が管理するWEB上で販売している商品・サービスに気が付く。

2.法律上の留意点…①電子メール広告規制~特定商取引法、特定電子メール送信適正化法、②広告内容に関する規制~景品表示法、特定商取引法、各業界の自主規制、③文章・画像コンテンツの利用~著作権法、④ロゴ・マーク等の標章利用~商標権

〔顧客への説明・提案の段階〕

1.利用者(顧客)の行動…ネット通販にて購入する際の条件を検討する。

2.法律上の留意点…①通販業者が表示するべき法定事項~特定商取引法、②利用規約・約款の適法性・妥当性~消費者契約法(BtoC)、独占禁止法(BtoB)、民法、商法

〔顧客へ販売する段階〕

1.利用者(顧客)の行動…ネット通販で商品・サービスを購入する意思決定を行う。

2.法律上の留意点…①誤解を招かない画面設計~特定商取引法、②ユーザーの操作ミスに対抗できる注文フロー~電子消費者契約法

〔代金支払いの段階〕

1.利用者(顧客)の行動… 購入した商品・サービスの支払を行う。

2.法律上の留意点…①代金前払式通信販売と通知~特定商取引法、②分割払い~割賦販売法

〔トラブル発生の段階〕

1.利用者(顧客)の行動…ネット通販による不満等についてクレームを申し立てる。

2.法律上の留意点…①解決基準の設定~民法、商法、消費者契約法、②口コミ評価への対応~各種メディア・媒体の利用規約、プロバイダ責任制限法

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【解説】

第1.ネットショップ開業に向けての事業計画の段階

∇ポイント

1.許認可との関係

・行政への届出・許認可が必要な業種かを確認したか。

(例)中古品の販売(古物営業法)、運送又は宿泊サービスの手配(旅行業法)、不動産の売買、賃借の仲介(宅建業法)、医薬品の販売(薬機法)、酒類の販売(酒税法)、人材紹介(職業安定法)など

2.ドメイン名紛争

・ドメイン名の取得につき2つの観点を意識しているか。

3.WEB制作

・制作会社が対応してくれる事項、費用について確認したか

(例1)WEBの仕様、ページ更新の可否、WEBコンテンツの著作権、ドメイン管理、サーバ管理、セキュリティ対策、保守運用の有無など

(例2)サーバ代、SEO対策費用、更新費用、グーグル広告・アフィリエイト等への広告配信代行費用など

(例3)リース

4.電子モールへの加入

・モール運営特有のリスクを念頭においているか。

<1 許認可との関係について>

いわゆる仲介・あっせんと呼ばれるビジネスと体内に取り入れる物を取扱うビジネス(食品販売など)は許認可が必要となることが多いと思われます。調査方法は色々あるかと思いますが、例えば「許認可 一覧」等のキーワードで概括的な当たりをつけ、「e-Gov」(イーガブ)と呼ばれる政府のポータルサイトで検索をかけたりすれば、おおよそのことは分かるのではないかと思います。

おおよその当りをつけた上で、必要に応じて弁護士等の専門家に詳細確認を行えば効率的に業務が進むのではないかと思います。

<2 ドメイン名紛争について>

2つの観点と書きましたが、1つ目は自己防衛です。ドメインの取得は早い者勝ちです。 従って、リアル店舗である程度の実績(評価)を持っているのであれば、ネット上での将来進出やネット上でのなりすまし(風評被害が意外と多い)を防止する意味でも、ドメインだけでも先に取得しておくべきかと思います。なお、少し事例は異なりますが、例えば、中国では、日本のブランド商品・サービスに対して先行的な商標登録が横行しているという話は耳にしたことがあるかと思います。結局これも早い者勝ちの弊害とでも言うべき事象なのかもしれません。

2つ目は、他社ブランドを拝借しないとう点です。要は、有名企業・ブランドと類似するようなドメインを取得することで、自社をあたかもグループであるかの如く見せることができ、対外的な信用度を上げることが可能と考えるかもしれません。ただ、その様な行為は、本家ブランドから警告等が来ますし、場合によっては不正競争防止法により民事・刑事の両方で制裁を受けるリスクがあります。このような行為は止めておくのが得策です。

<3 WEB制作について>

「契約内容をよく確認して下さい」ということが結論となってしまうのですが、最低限のチェックポイントとしてここに記載したものを、よく検討して頂ければと思います。

  • 「ページ数等の上限」については、通常、WEB制作は1頁当たり幾らという単価になっていますので、あれもこれもとお願いすると、予想もしなかった費用請求がきて慌ててしまうことがあるので注意してください。
  • 「ページの仕様」については色々あるのですが、スマートフォンでも見やすい形式になっているのかという機器媒体によるスイッチ対応、各種ブラウザやOSへの対応、SSL対応、ホスティング対応など、色々と検討するべき事項が増え、思っていたものと違う…というトラブルが多いようですので、注意して頂ければと思います。
  • 「ページ更新の可否」については、自分で更新できるのか、更新できないのであれば保守管理の範疇として業者に依頼できるのか、別途費用は発生するのか等について確認する必要があるかと思います。
  • 「著作権」については、ホームページを構成するプログラム(表面的には見えません)と画面上の映像・画像(WEB上で公開され視認できるもの)について業者側に著作権がある場合、その制作業者と何らかの理由で契約が終了と場合に、別の制作業者への乗り換えができない場合があり得ますので注意が必要です。なお、WEB制作を依頼している以上、著作権も当然に譲渡されるものと思われるかもしれませんが、法律上は間違いといわざるを得ません。将来的に制作業者の変更を行う場合は引継ぎ可能なのかという視点で検討する必要があります。
  • 「ドメイン管理」「サーバ管理」等については、ドメイン、サーバの取得者(権利者)が業者である場合、これまた別の業者の変更ができない、つまり、そのWEBを捨てざるを得なくなりますので注意が必要です。
  • あと、トラブル事例として必ずあがってくるのがホームページリースです。よく複合機やビジネスフォンについてリースを組まれることがあると思うのですが、ご承知の通り、リース契約は途中で解約できませんし、解約しようものなら、残額を一括で支払うよう言われてしまいますので、不要となったときのトラブルリスクが極めて高い形式となります。そして、WEB制作のリースの場合、例えば、ネット通販が上手くいかず、維持費もかかるので撤退しようとしたときに、一括請求が来るなどして八方ふさがりになってしまうということも現実に起こりえます。別にホームページリースの全てが悪いとは申し上げるつもりはありませんが、後々の縛りが非常にきつくなりますので、よく検討して頂ければと思います。

<4 電子モールへの加入について>

楽天やアマゾン、ヤフーショッピングなどが代表例かと思いますが、あくまでもWEB上の販売場所を貸してくれるに過ぎませんので、商品が売れなかろうが、顧客とトラブルが生じようが、代金未回収が生じようが、モール運営者側は助けてくれません。全て自己責任ということを肝に銘じて欲しいと思います。

なお、モールに関連してですが、最近ではスマートフォンを通じてネット通販を行うことが多くなってきています。この場合、日本ではアップル社のスマートフォンの使用率が高いことから、アップル社が用意するプラットフォームを利用することになるのですが、このプラットフォーム審査が非常に厳しいといわれています(なお、アンドロイド端末のプラットフォームであるグーグル社の審査はアップル社ほど厳しくはないと一般的には言われています)。審査に通過しないことには通販事業を開始することができないということになりますので、この点も十分に意識する必要があります。

あと、法律論からは若干離れてしまうのですが、モール運営者の裁量により、出店者(ネット通販事業者)に対する費用負担が課せられる(例えばキャンペーン期間中は一定の値引きを強制されるなど)、ペナルティを課すなどの処分を受けた結果、当該モールでの通販事業を行うことができなくなってしまったというご相談が非常に多いという現実があります。積極的な宣伝広告がモール運営者側の内規に違反してしまったという場合もあれば、不合理な顧客からのクレームによりモール運営者側が悪徳業者であると判断してしまったという場合などがあるのですが、往々にして出店者側(通販業者側)は対抗手段が無いのが実情です。私の範疇からは外れてしまうのですが、モールへの出店のみを唯一の事業とするのは非常にリスクを伴うのではないかと思いますので、この点は事業計画立案の際にご参考にして頂ければと思います。

 

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第2.ネットショップ開業後のマーケティングの段階

∇ポイント

1.電子メール(メルマガを含む)広告規制

・迷惑メール防止の観点から受信者側の「事前承諾(オプトイン)」が必要となっていることを認識しているか。

2.広告内容に関する規制

・景品表示法に基づく規制を意識しているか(業種を問わず適用される法律です。特に優良誤認、有利誤認(二重価格表示など)、内閣総理大臣が指定するその他の不当表示(おとり広告など)、比較広告に注意)。

・業界特有の規制を意識しているか。

・特定商取引法に基づく誇大広告の禁止について意識しているか。

3.著作権

・著作物(文章、画像、映像、キャラクター、音楽など)を無断使用していないか

<1 電子メール広告規制について>

(1)迷惑メール広告規制については、特定商取引法と特定電子メール送信適正化法の2つがあります。ネット通販事業についてはどちらの法規制も受けることに注意が必要です。特に、よく勘違いされる事例が、特定電子メール送信適正化法において、事前承諾を要せずしてメール送信OKの例外事由の1つとして、「自己の電子メールアドレスを公表している団体・営業を営む個人」というのがあげられています。今やほとんどの事業者がホームページを持つ時代ですので、そのホームページに連絡用のアドレスが記載されていたりするのですが、これをもって「公表」されているとして、広告宣伝の電子メールを送信しても良いと解釈する方がいます。しかし、特定商取引法では、この様な例外事由は定められていません。

従って、結論としては、特定商取引法に定める迷惑メール規制に違反する可能性が出てくることになります。この点はご注意頂きたいところです。

なお、通販事業者であれば、新規顧客を増やすことも必要ですが、リピーターを増やすことも営業戦略として必要になるかと思います。そこで、ネット通販を利用して頂いた顧客に対して、リピーターになってもらうためにメルマガを発行する営業手法が採られることがあるかと思うのですが、先ほど述べた通り、メルマガ等の電子メールを送信する場合は顧客の事前承諾が必要となります。

<2 広告内容に関する規制について>

まず、優良誤認の定義ですが、景品表示法4条1項1号では、「商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」と規定されています。端的に言えば、品質(内容)面を強調しすぎた不当表示のことを優良誤認表示と考えればイメージしやすいと思います。

例えば、十分な根拠がないにもかかわらず、「ラクラク5~6kg減量!食事制限はありません。専門家が医学理論に基づき、ダイエットに良いといわれる天然素材を独自に調合したものです。」と、効能・効果を強調し、それが学問的に認められているかのように表示することは優良誤認であるとして景品表示法違反となります。

次に、有利誤認の定義ですが、景品表示法4条1項2号では、「商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの」と規定されています。この定義規定を読むと、優良誤認と何が違うのか分からなくなってしまう場合もあるのですが、優良誤認が品質面を強調しすぎた不当表示をいうのに対し、有利誤認は、取引条件、特に価格面を強調しすぎた不当表示とイメージすれば区別しやすいと思います。

例えば、実際には希望小売価格など存在しないにもかかわらず、「特価2,000円(税込み)、なお、メーカー希望小売価格5,000円」等と記載することにより、通常よりも特別に安価で購入できるかのように表示していた場合は、有利誤認であるとして景品表示法違反となります。ところで、特に二重価格表示に注意と記載しましたが、まさしく上記例のように、自社における通常価格と特売価格とを対照させて販売する営業手法のことを二重価格表示といいます。この営業手法それ自体は禁止されているわけではありません。ただ、存在しない通常価格や希望小売価格を明記して、あたかも安くなっているかの如く騙し討ちすることはダメ!とされている訳です。この点は、誤解の無いようにしていただければと思います。

さらに、内閣総理大臣が指定するその他の不当表示(特におとり広告)と記載させて頂きましたが、現時点で指定されているものは、「無果汁の清涼飲料水等についての表示」、「商品の原産国に関する不当な表示」、「消費者信用の融資費用に関する不当な表示」、「不動産のおとり広告に関する表示」、「おとり広告に関する表示」、「有料老人ホームに関する不当な表示」の6つとなります。とりあえず、業界横断的に適用される「おとり広告」について簡単に触れておきたいと思います。

定義としては、「広告、ビラ等における取引の申出に係る商品又は役務が実際には申出どおり購入することができないものであるにもかかわらず、一般消費者がこれを購入できると誤認するおそれがある表示」ということになりますが、要は、目玉商品を出し、集客を図ることに対する規制とイメージして頂ければと思います。間違って欲しくないのは、この様な目玉商品を出して集客を図るという営業手法それ自体は違法ではありません。ダメだといっているのは、目玉商品を売る気が無いにもかかわらず、これを利用して集客し、他の商品を売りつけるやり方、顧客にとって「だまし討ち」となる広告手法がダメだといっているだけにすぎません。この点はご留意頂きたいと思います。

あと、比較広告についてですが、定義としては、自己の供給する商品又は役務(以下「商品等」という。)について、これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む。)、商品等の内容又は取引条件に関して、客観的に測定又は評価することによって比較する広告とされています。先ほどの二重価格表示と似ているのですが、二重価格表示は自社内での価格比較であるのに対し、ここで言う比較広告はライバル会社との商品・サービスを比較して、自社商品・サービスが優れていることを表示する広告のことを言っていますので、区別をしてください。そして、この広告手法についても、当然に禁止されているわけではありません。むしろ、一般消費者にとって同種の商品・サービスの品質や取引条件を適切に比較して判断するために有用なものとさえいえます。

しかし、虚偽比較はもちろんダメですし、恣意的な比較を行って他社商品が見劣りするように印象づけるなどすることは、一般消費者の誤認を招くものとなります。従って、比較広告を行うこと自体は禁止されませんが、一定の限界ラインを越えれば不当表示であるとして景品表示法違反の問題が発生すると理解すれば良いと思います。

さらに付言しておきますと、ネット通販特有の規制が実は存在します。これは、①ハイパーリンクの文字列の表示方法、②情報の更新日の2点がポイントとなります。

例えば、「送料無料」と強調表示したものの、実は「送料が無料になる配送地域は大阪市内だけ」という配送条件があったとします、この配送条件の詳細について、リンク先に表示する場合、例えば、ハイパーリンクの文字列を小さい文字で表示すれば、顧客は、当該ハイパーリンクの文字列を見落として、当該ハイパーリンクの文字列をクリックせず、当該リンク先に移動して当該配送条件についての情報を得ることができず、その結果、あたかも、配送条件がなく、どこでも送料無料で配送されるかのように誤認する可能性が出てきます。これも一種の「騙しうち」に近いものとなりますので、「消費者がクリックする必要性を認識できるようにするため、リンク先に何が表示されているのかが明確に分かる具体的な表現を用いる」、「消費者が見落とさないようにするため、文字の大きさ、配色などに配慮し、明瞭に表示する」、「消費者が見落とさないようにするため、関連情報の近くに配置する」等を意識しないことには、景品表示法違反として処断されることとなります。

一方、例えば「新製品」などと商品の新しさを強調表示している場合、既に「新製品」でなくなったものであっても、いまだ新しい商品であるかのように表示することも問題があると言わざるを得ません。従って、「表示内容を変更した都度、最新の更新時点及び変更箇所を正確かつ明瞭に表示する」ことを意識しないことには、やはり景品表示法違反として処断されることとなります。

(2)「業界特有の規制を意識しているか」と記載しましたが、若干イメージしづらいかもしれません。大まかには、業界団体が定めた自主規制を公正競争規約として行政に申請することで景品表示法の一部として取り込まれたものと、業界団体が自主的に定めた自主規制との2種類があります。

表示に関する公正競争規約については多数存在します、消費者庁のWEB等で自社が取り扱う商品・サービスに該当がないかご確認頂ければと思います。

一方、業界の自主規制については正直どの位あるのか分かりません。通販の業界団体と言えばJADMA(ジャドマ)と呼ばれる公益社団法人日本通信販売協会という団体があり、色々と自主的なガイドラインを出していますので、これを参照しながらリスクヘッジを図るのも一案ではないかと思います。

(3)「特定商取引法に基づく誇大広告の禁止について意識しているか」と記載しましたが、大部分は景品表示法の問題と重複します(その意味では二重規制です)。しかし、特定商取引法特有の規制も一部有ります。具体的には「特定商取引法に基づく表示」の記載に問題があった場合が適用対象とされていることです。例えば、特商法上の表示の一項目として返品に関する条件を明記するよう記載されているのですが、返品条件が細かく設定されているにもかかわらず、面倒くさがって単に「いつでも返品可能」なんて書いてしまうと、特商法違反として処分されることになります。そして、景品表示法との最大の違いがペナルティです。景品表示法違反の場合、基本は措置命令や警告という行政指導になってくるのですが、特商法違反の場合、いきなり業務停止命令や刑事訴追が行われる場合もあり、その効果は甚大です。意外と意識されていないのですが、この点はご留意頂ければと思います。

<3 著作権について>

どういう訳か、インターネット上に公開される情報については、原則誰でも閲覧可能であるため、当該情報を使用することも特に問題は無いと考えている方が多いような印象を受けています。しかし、ここにも記載しました通り、インターネット上の情報は著作物に該当することが多く、いわばインターネットは著作権があちこちに張り巡らされた「権利の空間」と言った方が良いかもしれません。従って、ネット上にある情報を無断で拝借することは止めるというのが大原則となります。

ところで、時々、「著作権フリー」と記載されているフリー素材などがあります。ただ、ここでいう「フリー」とは使用料を徴収しないという意味でのフリーであることが多く、目的や態様などの使用条件についてまでフリーとまでは言っていないことが多いことにご留意ください。典型的には、商用での使用はダメと書いてあることがあるからです。もし、この条件に違反した場合、著作権法違反として損害賠償や使用差し止め等の厄介な紛争に巻き込まれることになりますので、「ただほど怖いものはない」という昔からの格言通り、十分に注意する必要があります。

あと、著作権法の問題と少し離れてしまいますが、有名人(芸能人やスポーツ選手など)の名前や写真などを無断使用した場合、パブリシティ権という別の権利侵害で問題となってしまう場合があります。また、有名人ではない一般の方であっても、その方が映り込んだ写真などを掲載した場合、肖像権やプライバシー権侵害の問題としてトラブルになってしまうこともありますので、モザイク処理するなどの対応が必要となります。

第3.ネットショップを訪問した顧客への説明・提案の段階

∇ポイント

1 特定商取引法と販売条件等の表示義務

・「特定商取引法に基づく表示」について、必須記載項目を理解しているか。

2.利用規約・約款作成に際して特に留意しなければならない条項

・何でも了解(同意)さえ得れば「有効」となるわけではないことを理解しているか。

(例:通販事業者の免責条項に対する消費者契約法による無効化など)

・利用規約・約款を作成する際のチェックポイントは意識しているか。

(特に2020年4月の改正民法を踏まえ、利用規約・約款の承諾の取り方、利用規約・約款の事後的な内容変更への対応について意識する必要あり)

<1 特定商取引法と販売条件等の表示義務について>

リアル取引では商談を行う際、まずは名刺を出したり、ネームプレートを開示して、自分の属性を明らかにすることが通常だと思います。ネット通販の場合、名刺交換という場面が想定されませんので、自分(ネット通販事業者)の属性を明示することを目的として、特定商取引法が15項目について開示するよう求めています。内容的には、ゆっくり読んで頂ければ内容はご理解頂けるかと思いますので、2点のみ説明します。

まず、「事業者の氏名(名称)、住所、電話番号」、「事業者が法人であって、電子情報処理組織を利用する方法により広告をする場合には、当該販売業者等代表者または通信販売に関する業務の責任者の氏名」については、先頭に明記する必要があります。

次に、「商品若しくは特定権利の売買契約の申込みの撤回又は売買契約の解除に関する事項(その特約がある場合はその内容)」と「商品に隠れた瑕疵がある場合に、販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容」の相違ですが、前者は通販業者側に責任がない場合であっても返品を受け付けるのか、受け付けるのであればどの様な条件なのかを明記する項目となります。一方、後者は通販業者側に責任がある場合の対応内容を明記することとなります。そしてここからが注意して欲しい事項なのですが、いわゆるノークレームノーリターンを実現するべく、両者まとめて「一切の返品を受け付けません」と記載するとアウトとなります。少なくとも後者に関して返品不可と記載することは、消費者契約法違反で無効となります。また、前者についても返品不可と明記したか疑わしくなってしまいます。この結果、特定商取引法が定める8日間の無条件返品を受け入れざるを得なくなる可能性があります。責任がない場合に一切返品を受け付けたくないというのであれば、別項目にしたうえで、前者の場合についてのみ返品不可と明記するようにしてください。あるいはどうしても都合上、両者を区分できないのであれば、「商品に欠陥がある場合を除き、返品には応じられません」と明記するようにしてください。

<2 利用規約・約款の作成について>

ネット通販事業者としては、なるべく自己に有利になるよう利用規約や約款を作成し、顧客より了承してもらった上で、取引を行いたいと考えるかと思います。この考え方自体は誤りではありませんし、当然に違法という判断にはなりません。ただ、物事には何でも限度があり、仮にネット通販事業者にとって有利な利用規約・約款を提示し、顧客より了解(典型的には同意のクリック)をもらったとしても、後で消費者契約法によりひっくり返される可能性はあり得ます(なお、消費者契約法は、ネット通販の利用者=買主が消費者である場合に適用される法律となります。いわゆる法人取引・BtoBの場合は適用がありません)。

消費者契約法でまず押さえておきたいポイントとしては、ネット通販事業者の責任を免除する条項です。上記でも記載しましたが、ノークレームノーリターン=全部免責は消費者契約法では無効となります。ただ、故意・重過失の場合を除き、責任を一定範囲まで限定することは原則有効とされています。典型的には、消費者より頂戴した代金相当額を損害賠償責任の上限額と設定することがあるのですが、基本的には有効な規定になると考えて良いかと思います。その他、消費者契約法に関しては、消費者が負担する違約金について一定の制限があること、消費者の利益を一方的に害する条項は無効とされる場合がることを押さえておく必要があります。

次に、利用規約・約款を作成するに際して、適当にインターネット上にある利用規約をコピペすることも行われているのが実情かと思います。これについては、そのままコピペすることは危険であると申し上げるほか無いのですが、さりとて専門家に作ってもらおうにも費用等の問題でコピペするしかないという場面も想定されます。

この場合、最低でも13項目(具体的には、①利用資格、②申込方法(規約への同意の取付け方。なお、民法改正に注意)、③サービス内容(何を提供し、何を提供しないのかの明示)、④ID・パスワード管理(なりすましへの対策)、⑤利用料・手数料などの費用負担の開示、⑥決済方法、⑦キャンセルの可否、⑧利用上の禁止事項、⑨損害賠償責任の発生要件・範囲、⑩個人情報の取扱い、⑪規約の変更(なお、民法改正に注意)、⑫契約上の地位譲渡の禁止、⑬準拠法、管轄裁判所)について、自社の実情と合致した条項となっているかチェックを行い、必要に応じて修正して頂ければと思います。

※上記⑧ですが、利用規約・約款の内容変更に際して、WEB上で変更内を公開し周知するという手順をとることはもちろんですが、変更内容に合理性があるのかも求められます。具体的には、取引相手に契約解除権が付与されているか、取引相手が被る不利益を回避・補填・軽減する措置が講じられているか、取引相手の個別同意を得ることが困難な事情があるか、約款手変更の手続きが予め定められているか、等の事情が考慮されます。

第4.ネットショップの顧客へ販売する段階

∇ポイント

1.誤解を招かない注文画面・画面遷移

・行政が公表しているガイドライン等を考慮した画面表示にしているか。

(例1)販売業者又は役務提供事業者が、電子契約の申込みを受ける場合において、電子契約に係る電子計算機の操作が当該電子契約の申込みとなることを、顧客が当該操作を行う際に容易に認識できるように表示していないこと。

(例2)販売業者又は役務提供事業者が、電子契約の申込みを受ける場合において、申込みの内容を、顧客が電子契約に係る電子計算機の操作を行う際に容易に確認し及び訂正できるようにしていないこと。

2.利用規約・約款の組入れ(利用規約・約款に基づく取引であることの証明方法)

・利用規約・約款をネット通販の取引条件とするための方策を講じているか(なお、民法改正に注意)

3.操作ミスに対抗できる画面設定

・いわゆる民法特例法(電子消費者契約法)を意識した画面構成にしているか。

(原則)消費者のクリックミスであっても、消費者は注文の無効を主張できる。

(例外)次のような対応策を通販事業社側が講じていれば、消費者は無効主張できない。

①事業者(その委託を受けた者を合む)が、消費者からの申込みまたは承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込みもしくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置(確認措置)を講じた場合

②消費者から事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合

4.最終確認画面の重要性

・最終確認画面で意識するべき事項(電子メール広告への承諾、返品特約の公表、顧客の意に反して申込みをさせようとする行為の制限への対応、利用規約・約款の組入れ・取引条件化、電子消費者契約法)

<1 誤解を招かない注文画面等について>

端的に記載すると、「注文画面」と「最終確認画面」を別々に表示させるということがポイントです。なお、誤解の無いように付言しますと、「注文画面」と「最終確認画面」を別々に表示しなかったから違法というわけではありません。ただ、後述する通り、ネット通販においては、最終確認画面には色々な機能が含まれますので、私個人としては、最終確認画面を別に設ける画面構成を行った方が良いのではないかと考えています。

<2 利用規約・約款の組入れについて>

先ほど、利用規約・約款の作成に際して留意するべき事項を申し上げましたが、これが取引条件となることを顧客に知ってもらい了解を取り付けないことには意味がありません。ネット取引の場合、顧客より署名押印を徴収することが困難と言わざるを得ませんので、それに代わる方法が用いられるのですが、典型的には「利用規約に同意する」というチェックボックスを設けてチェックしてもらうという方法かと思います。この方法自体は問題ないのですが、一番のポイントは、画面構成として「顧客からみて利用規約・約款を容易に認知できる状態にあったのか」ということになります。例えば、画面遷移として、利用規約を掲載した画面と同意ボタンを配置し、同意ボタンを押さないことには購入手続きに進めないという構成にしておけば、ほぼ間違いなく利用規約・約款が取引条件であると言い切れるかと思います。要は何処まで画面遷移の中に落とし込めばよいのかという話になります。

なお、2020年4月より民法が改正され、新たに「定型約款」という概念が生まれます。ネット通販事業者が定める利用規約はこの「定型約款」に該当する可能性が非常に高いです。利用規約・約款への同意・承諾の取り方はもちろんですが、購入申込前の利用規約の開示の在り方が問われるようになりますので、画面構成・遷移についてはさらに対策が必要になること注意が必要です。

<3 操作ミスに対抗できる画面設定について>

法律上は錯誤と呼ぶのですが、要は、顧客がクリックミスをして注文を行った場合、原則的には顧客は注文を取消すことができると法律上はなっていますので、これが適用されないために、ネット通販事業者としては十分な対抗策を講じる必要があるというのが、ここでのポイントとなります。端的に申し上げますと、例外の①の部分に当てはまるよう対策を講じてくださいと言うことになります。この対策を実行するための方法として、最終確認画面を置くことを私自身は推奨しています。

<4 最終確認画面の重要性について>

先ほども少し触れましたが、最終確認画面については、ネット通販を行って行く上で非常に重要な画面構成となります。最終確認画面を設ける意義として5つ指摘したいと思います。

1つ目は、電子メール広告への対応です。先ほど記載した通り、広告メールを送信するのであれば、事前承諾が必要となります。ところで、ネット通販業者としては、顧客にリピーターになってもらい、繰り返し注文を行ってもらった方が商売をしやすいので、過去に注文した顧客に対して、例えば新商品の案内等の広告メールを送信したいところです。そこで、注文時の確認画面に、今後、広告メールを送信することに関して承諾を得る形式にしておくことで、迷惑メール広告規制へ対応するという意味合いを持つことになります。

2つ目は、「返品特約」に関する対応です。この返品特約ですが、通販業者側には全く非が無い場合には、返品に応じませんと明記しておけば、返品に応じる必要は無いと特定商取引法は定めています。ただ、逆に明記してないor不十分な場合には、送料は顧客負担となりますが、8日間の間は無条件返品に応じなければなりません。この様な返品特約への対応として、返品を受け入れたくない、又は返品に際しては条件を課したいというのであれば、確認画面上に明記するよう経産省は指導していますので、この点でも最終確認画面は重要な意味合いを持ちます。なお、返品特約の明記については、確認画面だけではなく、発注の際の画面にも記載する必要がありますので、最終確認画面だけでは不十分であることはご注意ください。

3つ目は先ほど「誤解を招かない注文画面・画面遷移」の部分で触れたところです。これは経産省が出している「顧客の意に反して申込みをさせようとする行為の制限」というガイドラインへの対応になるわけですが、要は注文内容を再確認させることで、注文者の勘違いをなくすように業者側は注意喚起を行うこと、と捉えれば良いかと思います。

4つ目は「利用規約・約款の組入れ」で触れたものとなります。例えば、最終確認画面の配置として、「注文確定」ボタン付近は顧客にとって一番注目が行く場所である以上、ここで利用規約・約款についても触れておくのが賢いやり方ではないかと考えるところです。

最後に5つ目は、電子消費者契約法上のメリットを享受するための対策となります。法形式上は例外となっていますが、ネット通販事業者としては、これを原則化するべきですので、注文内容を確認する画面上の措置を講じることで、無責任な注文無効の主張を許さないようにすることとなります。

第5.ネットショップの顧客より代金決済を行う段階

∇ポイント

1.代金前払式通信販売と通知義務

・通知義務が免除される場合を理解できているか。

⇒当該商品若しくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領した後遅滞なく当該商品を送付し、若しくは当該権利を移転し、又は当該役務を提供したときは、通知義務は免除される。

(※代金前払式通信販売=当該商品の引渡し若しくは当該権利の移転又は当該役務の提供に先立って、当該商品もしくは当該権利の代金又は当該役務の対価の全部又は一部を受領することとする通信販売)

2.割賦販売法

•2ヶ月以上の1回払い及び2回払いも適用対象

•指定商品・指定役務制度の廃止→割賦販売法の適用がある場合には一定事項の通知・開示義務

<1 代金前払式通信販売と通知義務について>

この部分については、読んで頂ければお分かり頂けるかと思いますが、ポイントとしましては、前払式の場合、原則特定商取引法が定めた一定事項を通知する必要があるのですが、だいたい1週間程度で商品発送を行う場合には、「遅滞なく」送付したとみなされ、通知をしなくても良いとされている点です。

<2 割賦販売法について>

ネット通販事業者が直接顧客との間で、割賦販売すなわち分割支払いを認めることはあまり想定されないかと思いますので、ここは省略をしますが、注意を要するのはクレジットカードによる決済を認める場合です。この場合、割賦販売法上は「包括信用購入あっせん」の加盟店として取り扱われ、色々な義務が生じてきます。

詳しくは、カード会社との加盟店契約を締結する際に説明を受けるかと思いますので、そちらで確認して頂ければと思います。

第6.トラブルが生じたら…

∇ポイント

1.価格誤表示のトラブル

・契約は成立したといえるか?

(契約の成否、   錯誤取消し主張の可否、利用規約・約款による特約の有効性)

2.なりすましに関するトラブル

・本人確認をどの様に行うか。

3.未成年者の取消権に関するトラブル

・年齢確認をどの様に行うか。

4.返品に関するトラブル(不具合がない場合)

・クーリングオフの適用はないことを理解しているか。

・返品特約を明記しない場合、商品受領後8日間の返品を受け付ける必要があることを理解しているか。

・「注文時の画面」と「最終確認画面」の両方で返品特約を明示することを意識した画面構成にしているか。

・不具合のない返品と不具合がある返品との相違を理解しているか。

5.ネット通販事業に付随するCGMサービス(ブログ、クチコミコミサイト)の運営とトラブル

・サイト利用者が提供する情報管理に対する責任を認識しているか。

<1 価格誤表示トラブルについて>

先ほど記載した(最終)確認画面を経て、顧客が注文する旨のクリックを押した場合、最近ではシステム上、自動オート返信メール機能を用いて、顧客に注文したことが分かるようにプログラムされていることが多いと思います。

このサービス自体は何ら問題はありません。しかし、このサービスの故に、落とし穴がある場合があります。例えば、ネット通販を行った際、価格の誤表記、具体的には桁を1個少なくして表記してしまったようです。当然、激安商品ですので注文が殺到するわけですが、通販業者としては、赤字垂れ流しの商売を行う訳にもいきませんので、価格の誤表記だから売買契約は成立していないと法律上言えないか問題となる訳です。要は、「売りたい」という意思表示と「買いたい」という意思表示が合致すれば売買契約が成立しますので、ネット通販の場合は、顧客が買いたいという意思表示を注文画面で行い、これを受けて売り主である業者が売りますという返答をすれば売買契約が成立すると考えることになります。

この売り主からの返答の一手段として電子メールが使われるのですが、例えば、返信メールに「ご注文承りました」となっていた場合、この場合は売買契約が成立したと言えるでしょう。しかし、「注文内容は次の通りです。なお、ご注文の承諾の可否については、商品の発送に代えさせて頂きます」となっていた場合、理論上は、承諾したことになっていませんので、売買契約は成立していないことになります。従って、この理論を用いれば、価格誤表示に基づいて発注があったとしても、売買契約は成立していない以上、その誤表示価格で売る必要は無いと言うことになります。つまり、何を言わんとしているのかと言いますと、ホームページ構築に際して、自動返信メール機能を付けると思うのですが、その返信内容について気を付けて欲しいと言うことです。

次に、売買契約が成立していると評価される場合、勘違いによる誤表示である以上、契約取消しが可能かという検証を行うことになります。法律的には勘違いのことを錯誤というのですが、錯誤がある場合は取消すことが可能というのが民法の一般原則です(注:民法改正により錯誤が成立する場合の法的効果は無効から取消しに変更されました)。ただ、民法では、錯誤を主張する者に重大な過失がある場合には主張できないと規定されています。この点、事業者が価格の誤表示を起こしている以上、一般的には重過失ありと認定される可能性が高いと言わざるを得ず、主張が通りにくいのが実情かと思います。

もっとも、万一、買い主側がネット通販事業者が勘違いしていることを知っていて、それに乗じて注文を行ったというのであれば、買い主を保護してあげる必要がありませんので、なお錯誤取消しが主張できる場合があります。ここまで来るとケースバイケースの事例となってはしまいますが、法律的に検討した場合には今ご説明申し上げたようなことになります。

あと、「利用規約・約款による特約の有効性」と記載しましたが、例えば、返信メールの内容からすると売買契約が成立したと評価されても仕方がないようなことが記載されてはいるものの、利用規約上、売買契約の成立時期はあくまでも商品発送時期である旨規定されていた場合、発送前に気が付いた以上、売買契約はなお成立したとは言えないのではないか、つまり売る義務は無いのではないかという疑問です。たしかに、この利用規約・約款が有効であるのであれば、この様な主張は可能ではないかと思いますが、やはりケースバイケースの判断が出てくるような気がします。

ちなみに、利用規約・約款の中に、「価格誤表示の場合には、ネット通販事業者は一方的に取り消すことができる」と規定されている場合がありますが、厳密に考えていった場合、法的に有効かは疑問と言わざるを得ません。ただ、実際の現場では結構用いられているようですので、法的有効性に疑義が生じるにしても、あえて利用規約・約款に明記しておくのも1つの対抗策なのかもしれません。

<2 なりすましに関するトラブルについて>

リアル店舗ではあまり問題とならず、ネット通販に特有の問題と言って良いかもしれません。理論上、本人が買いたいと言っていない以上、売買契約は本人との間では成立せず、無効となってしまうのが大原則と言わざるを得ません。したがって、本人確認は必須の作業となるはずなのですが、ネット通販は対面しないで販売することが特徴である以上、確認しようがないというのが実情ではないかと思います。有効打がありませんので、高額商品についてはコールバックするなどして意思確認を行う、あえて書面のやり取りを行う、本人名義のクレジットカード決済を行う等の対策を講じて、リスクを減らすしかないように思います。

ところで、民法には表見代理という規定があります。ポイントとしては、本人が買いたいと言ってきたとネット通販事業者が信じて疑わない事情があり、その様な事情の作出に本人(購入者)に責任があるのであれば、例外的に売買契約の無効は言えないとされている規定です。これをネット通販で用いる場合、ネット通販を利用する顧客に対して、事前に会員登録させると共に、各利用者毎にIDとパスワードを発行し、これらの管理義務を本人に課すことで、表見代理の規定を用いることができる場合もありうるのではないかと思います。すなわち、本人の管理不十分でID・パスワードが漏洩し、IDとパスワードを第三者が用いて取引した場合には、闘う素地があるのではないかという議論です。この意味で、利用規約・約款に、ID・パスワードの管理義務、漏洩した場合の通知義務、漏洩による責任は本人が負う等の規定は必須ではないかと思います。

なお、カード決済の場合、加盟契約の中に、カード名義人から不正カード使用の申告があった場合は返金対象となる旨の規定がありますので、非常に悩ましいところです。

<3 未成年者の取消権に関するトラブルについて>

これも民法の原則論からすれば、親権者の同意のない未成年者による取引については、一方的に親権者が取り消すことが可能となっており、事業者にとっては非常に厳しいものとなっています。ただ、一方で民法には例外規定として、未成年者が年齢を誤魔化して取引した場合には取消はできないと規定していますので、事業者としては、年齢確認を行ったにも関わらず、本人が嘘の情報を提示したという状況を作り出すことで対抗策を講じる必要があるかと思います。もっとも経産省が公表している電子商取引の準則などを読んでいると、単に「成年ですか」というボタンにクリックさせただけでは、取消不可という民法の例外には該当せず、具体的な年齢や生年月日を入力させた場合を例示していることからすると、実際に対抗策を講じることは困難かもしれません。

あと、近年悩ましい問題となってきているのが、いわゆるキャリア課金と呼ばれる、携帯電話会社が代行して請求を行う場合に未成年者取消があった場合の処理です。この問題がややこしいのが、現状の携帯電話の加入方法として、親権者の同意を条件としているとはいえ、未成年者が申込人であっても加入ができてしまうという問題があるからです。つまり、未成年者が悪用しようとするのであれば、未成年者名義の携帯電話で注文を行い、商品やサービスを受け取った時点で、未成年者取消を行い、実質的にはタダで商品やサービスを受け取ることができてしまう状況になっているという現実があります。キャリア課金の取引条件を検証する必要もありますが、未成年者が一定数含まれると予想される商売を行う場合、あえてキャリア課金を選択せず、本人名義のクレジットカード決済のみによる取引条件にする等の自己防衛策を図るなどの方策を考えるほか無いような気がしています。

<4 返品に関するトラブルについて>

最近、消費者も色々な情報を持つようになり、特定商取引法の一形態である通信販売においても、クーリングオフを主張する人も多くなってきました。

ところで、特定商取引法にはクーリングオフに関する規定はありますが、通信販売に関しては適用除外となっています。従って、ネット通販事業者としては、慌てることなくクーリングオフに関する規定は適用されない旨きちんと回答し、誤解を解くようにしなければならないかと思います。

ただ、クーリングオフに関する規定はないものの、特定商取引法では、①事業の責任ではない返品を受け付けたくないというのであれば、その旨明記しなければならない、②記載がないor不十分な場合は8日間の無条件返還を受け付けなければならない(たとえ事業者に責任がないとしても)とされています。この点を意識して、返品についてどの様に設定するのか利用規約・約款及び画面に反映させる必要があります。

<5 CGMサービスに関するトラブルについて>

CGMという用語は聞き慣れない言葉かもしれませんが、Consumer Generated Mediaの略であり、要は、消費者がコンテンツを作り出すメディアと訳せばイメージがわくかもしれません。最近、単に販売用のWEBページだけを置いてもなかなか反響がないことや、顧客の囲い込み戦略の一環として、あるいは顧客の声を拾い上げる方法として、ネット通販業者と顧客とのコミュニティを図るサイトを設ける営業手法が一部で行われています。例えば、企業が掲示板を設けたり、最近ではFacebookのファンページといったSNS(但しクローズドなSNS)で顧客交流を図るといったこともこの営業手法の一つに含めてよいと思います。

さて、この様なCGMサービスを行う場合、不特定多数の利用者が閲覧し、また書込投稿などを行うことが想定されるため、①CGMサービス上の情報によって権利を侵害されたと主張する者に対してどの様に対処するのか、②CGMサービス上に情報提供した者に無断で情報を削除して良いのか、③CGMサービスを管理する企業が恣意的に情報掲載することが違法ではないか等の問題を検証する必要があります。ポイント解説だけとなりますが、①についてはプロバイダ責任制限法を理解した上で、権利侵害がある場合には情報を削除する等の対策が必要となります。②については、プロバイダ責任制限法の理解はもちろんですが、削除基準をCGMサービスの利用規約において、情報削除基準をできる限り詳細に列挙し、当該利用規約に同意させた上で情報削除を行うことで、トラブルを回避する対策を講じる必要があります。③については、最近いわゆるクチコミサイトでのやらせ=ステルスマーケティングが話題となっていますが、自作自演がばれてしまった場合の風評被害は思った以上にダメージが大きいですし、自社の商品やサービスを必要以上に持ち上げた場合には景品表示法上の優良誤認や有利誤認の問題が、他社の製品を誹謗中傷した場合には景品表示法上の問題以外に不正競争防止法上の信用毀損や刑法上の業務妨害罪にも発展しかねませんので、自ら情報発信するにしても細心の注意が必要です。
<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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