精神疾患を理由にした休職命令と休業手当の支給義務(ショート記事)

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企業法務に関する相談を受けていると、ある程度似通ったご相談をお受けすることがあります。

このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。

 

 

【ご相談】

普段から勤務態度の悪い従業員に対して少々きつめの指導を行ったところ、その従業員は精神疾患があることを記載した診断書を提出し、会社に対して一定の配慮を行うよう要求してきました。

そこで、精神疾患が治るまで勤務をしないよう命じたのですが、この場合、休業手当の支給は必要なのでしょうか。

 

回答

 

休業手当の支給義務

残念ながら、会社から勤務禁止命令を出した以上、休業手当の支給を免れることができないというのが結論となります。

 

休業手当の支給額

この場合、休業手当はいくら支払うべきかという問題が生じるのですが、実は巷で言われる「平均賃金の60%」で済むとは言い切れないことに注意が必要です。

どういうことかと言いますと、たしかに、労働基準法では、平均賃金の60%を休業手当として支払うことを定めています。

しかし、労働基準法は、不可抗力以外の場面で、会社に必ずしも帰責性があるとは言えない場合であっても(近時であれば新型コロナによる休職に対して休業手当を支払うべきか、大いに問題なったこと記憶に新しいかと思います)、従業員の責めに帰さない事由により休ませた場合は、最低限の休業手当を支払うよう定めた労働者保護のための法律です。

もし、明らかに会社に帰責性がある場合、単に会社が就労拒絶しただけに過ぎませんので、休業手当は100%分支払わなければならないというのが原則となります。

したがって、本件の場合、100%の休業手当の支払いを余儀なくされるのが原則です。

 

もっとも、例えば、就業規則において、私傷病を理由として勤務に絶えないと会社が判断し、勤務停止命令を出した場合の休業手当は平均賃金の60%で足りる旨定めている場合、この就業規則の定めを優先させるという取扱いも可能です(ただし、就業規則に定めているから休業手当は常に平均賃金の60%で大丈夫とは言い切れないこと、法律のややこしいところです…)。

 

休業手当の支払い問題を回避したいのであれば…

ところで、本件の場合、会社が勤務停止命令を出したために、休業手当の支払いを余儀なくされています。

そこで、戦略的に考えるのであれば、従業員が診断書を提出してきた時点で、従業員に休職申請させるように持っていくことがポイントとなります(従業員が休職申請した以上、単なる欠勤扱いとなりますので、休業手当の支払い義務は生じません)。

ケースバイケースによって進め方は異なってきますが、

  • 診断書を提出してきた時点で、従業員本人より就労可能か意見を聞く
  • (会社の安全配慮義務などを根拠として)主治医より聞き取り調査が必要であるとして、従業員より同意書をもらう
  • 主治医より就労可能性についてヒアリング等の調査を行う
  • 産業医がいるのであれば、産業医の見解も聞いておく
  • 最終的に会社が就労可否につき判断する

といった事項を意識しつつ、従業員と協議することがポイントとなります。

なお、上記はあくまでも私傷病休職を前提にした解説であり、労働災害(の疑い)の場合は全く別の検討が必要となること、ご注意ください。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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