クレームを受けた場合の初期対応のポイントを弁護士が解説!

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【ご相談内容】

最近カスタマーハラスメントなどが言われていますが、当社も理不尽なクレームに担当者が疲弊してしまうなど悪影響が生じています。クレーム対応について、何をどこまでやるのかある程度整理しようと考えているのですが、どのように検討を進めていけばよいでしょうか。

 

【回答】

クレームに対する初期対応法は色々とありますが、執筆者個人の見解としては、次のような手順で整理していけば、整理ができるのではないかと考えています。詳細は【解説】をご確認ください。

・クレーム対応の目的は何か
・クレームへの初期対応で行うべき事項とは
・クレーム受付時に意識することは何か
・顧客の要求内容を明確化するには
・初期対応時に謝罪するべきか
・顧客の要求内容を整理するには
・クレーム受付後の対応は

 

【解説】

1.そもそもクレーム対応の目的は?

一時と比べれば耳にすることが幾分少なくなってきましたが、「クレームを通じて顧客をファンにしよう」という標語は今も残っています。確かに、クレーム対応を通じて、顧客が貴社のファンになってくれるのであれば、これほど効率の良いことはありません。しかし、顧客のファン化を重視しすぎると、顧客の非常識な要求に屈し、顧客をファンにするどころか、かえってトラブルが拡大している場合が多数あります。

ここで、改めて確認したいのが、クレーム対応の目的は、「顧客の全ての要求に応じることではない』ということです。

あくまでも、クレーム対応の本来の目的は、「顧客の要求に対して適切な対応をすること』です。まずはこのことを再度確認する必要があります。

 

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2.クレームへの初期対応とは?

クレーム対応の流れを概観すると、次のような流れになります。

①クレームの受付(電話、メール、面談等)

②:①に対する当社の対応

③:①と②を踏まえて、当社内での方針検討(場合によっては保険会社への連絡)

④:示談交渉、訴訟等の法的手続き

⑤:解決(?)

弁護士などの専門家は、常に会社に張り付いているわけではありません。したがって、貴社は、否が応でも「①」と「②」の手続きに対応する必要があります。では、「①」と「②」とは、具体的に何をすれば良いのでしょうか?

まさしく「初期対応」にかかわる部分ですが、一言でいうと、「顧客の要求内容を明確化すること」です。この要求内容を明確化させないことには、③以降の流れに進むことができず、堂々巡りのクレーム対応となり担当者を含めて会社が疲弊するだけですので、絶対に意識したいところです。

ちなみに、「⑤:解決(?)」と書きました。この意味ですが、クレームは全て示談(和解)or裁判で終了するとは限らない、ということです。例えば、悪質クレームの場合、明確に「NO」と言って、後は一切対応しないという場合もあり得ます。また、法律の範囲を超える不当要求に対しては、当社が適正な提示を行った後は相手のアクション待ち(一種の塩漬け状態にする)という場合もあり得ます。何が何でも解決する必要はないということも頭の片隅においてよいのではないでしょうか。

 

3.クレーム受付時に意識することは?

顧客が貴社に対しクレームを出すとき、顧客も一大決心しています。このため、言いたいことを全て言おうとして理路整然としないことを主張する、または感情的に物事を言う…等の傾向があります。正直、クレームを受け付ける側にとっては大変なストレスとなり、できれば早めに切り上げて回避したいと思うはずです。しかし、この様な対応をとってしまうと、「話を聞いてくれない。」「対応が悪い。」という、顧客が当初伝えようとしていた問題とは別の問題が発生します。また、顧客の真の要求事項が見えなくなってしまい、かえって解決の妨げとなります。

したがって、クレームへ上手く対処したいと考えるのであれば、クレーム受付側はぐっと我慢して、『まずは(特に初回時は)話を聞いてあげる』という対応を徹底するべきです。 なお、執筆者の感覚的な話となってしまいますが、長くても30分も話を聞いていれば、相手も落ち着いて、ある程度冷静な話ができるようになります。結局、初期の段階では、受け付ける側において『ねばり強く&気長に』という意識が必要になります。

ちなみに、クレーム受付時に気を付けておきたいポイントを次に記載しておきますので、ご参照ください

・クレーム電話のたらい回しをしない。

・相手の「言い分」をまずは聞いてみる。

・相手の話を途中で遮らない(特に初回時)。

・当社からの回答は、「いつまでに」「誰から」「どの様な方法で」伝えるか具体的に相手に話す。

・「誠意」が伝わる話し方、言葉遣いを心がける(下手に出るという意味ではなく、いわゆる上から目線、横柄な態度に出ないという意味です)

・会話の記録を書面に残す。

 

4.顧客の要求内容を明確化するには?

さて、顧客がある程度冷静な話をできる段階に至ったのであれば、顧客の要求内容を明確にするべく、『貴社側より積極的に問いかけ等を行う』ことになります。

ところで、顧客の要求内容を明確化するためには、例えば次のような「初期対応時のステップ」を踏んで行くことが参考になります。

①顧客の感情を害さないための対応

・迷惑をかけたことに対する謝罪

・相手方の言い分をよく聞く

・問題解決に対して共感の態度を示す

②要求内容の明確化

・時系列で事実関係を聞き取る。

・5W1Hに整理して事実関係を把握する。

・根拠と要求事項そのものを区別して把握するようにする。

③対応方針の明確化

 

初期対応時は「②」を目指して、顧客とやり取りするわけですが、顧客に一方的にしゃべらせても、なかなか判然としないこともあります。この様な場合、当社側から、次のような言葉を投げかけて会話をすれば、比較的スムーズに要求内容の明確化を図ることが可能になると思います。

例1:相手の喋った事実を反復して確認する。「…だということでしょうか。」

例2:話の内容を整理するための橋渡しを行う。「ところで、今の点と関連して2~3点お伺いしたいのですが…」

例3:貴社側より整理した内容を伝える。「ご要望は…ということですね。」

例4:整理した要求事項への対処方法について顧客より合意を取り付ける。「今のお客様のご要望に基づいて、今後弊社としましては…という形で対応させて頂きますが、それでよろしいでしょうか。」

ただ、注意して欲しいのが、あくまでも相手の話を聞き終わった上で、上記のような質問を発するということです。相手の話を遮って上記のような質問を行うと、かえって逆効果ですので注意しましょう。

 

5.初期対応時に謝罪するべきか?

先ほど、上記4.①に記載した「初期対応時のステップ」で、「迷惑をかけたことに対する謝罪」と記載しました。この点に関し、よく「謝罪すると法的責任を認めたことになるのではないか」と質問を受けるのですが、色々と考え方はありますが、必ずしも法的責任を認めたことにはなら無いと考えます。たとえば、「この度はご迷惑をおかけしております。この様な事態に至ったこと深くお詫び申し上げます。原因については、追って○○○までに調査して回答致します。」と回答した場合、法的責任を認めたとは評価されにくいのではないでしょうか。

昨今のマスコミの傾向として「謝罪の言葉」が無かったことを捉えて、「謝罪無し」と大袈裟に報じ、会社とその担当者が嫌がらせや誹謗中傷を受けるといった事例は枚挙に暇がありません。

顧客の勘違いか否かは初期対応時では分かりません。ただ、先述の通り、顧客は一大決心をして貴社に連絡を行っています。しかも、法律上の因果関係はともかく、何らかの関係で貴社の商品・サービスで迷惑を被ったと思っているわけです。したがって、最初から企業側の理屈だけで押し通そうとしても上手くいくはずがありません。初回時は話を聞くと共に、顧客の感情を和らげるためにも、「ご迷惑をおかけしました。」ということを伝えた方が無難な対応であり、結果的には早期解決につながるのではないでしょうか。

 

6.顧客の要求内容を整理するには?

顧客からの話を聞いていると、顧客の要求内容には様々なレベルがあることが分かります。大まかには次のような類型に分類されます。

①:単に話を聞いて欲しい、あるいは感情を  理解して欲しいといったもの。

②:具体的な改善を要求するもの。

③:(法律上の)責任を追及するもの。

④:不当な金品を要求するもの。

①であれば、「貴重なご意見ありがとうございました。」ということで対応すれば足りることが多いでしょう。また、②であれば、改善の必要性及び有無を検討し、改善が必要であれば改善し、改善の必要がないのであれば、何故必要がないのか明らかにするという対応を取ることになるでしょう。さらに、③であれば、法律上の責任範囲を検討するべく、『責任の有無』、責任があるのであれば『損害賠償の範囲』及び『具体的な損害賠償額の算定』の検討を行うということになるでしょう。④であれば、不当要求と言うことで、明確に「応じられない」旨の回答を行い、一切対応しないと言う毅然とした対応が求められるでしょう。

ただ、①~④までの判断は、受付担当者1人で判断できるものではないと思われます。また、「③法律上の責任追及」となると、法律の専門家に相談した方が無難でしょうし、「④不当要求」と断定して良いかは、かなり高度な判断能力を必要とします。(単に言葉遣いが荒いとか、反復して連絡を取ってくるなどの理由だけで不当要求とは即断できないのが実情です。) したがって、1人で早合点せず、少なくとも複数人で検討する、できれば弁護士等の専門家の意見を聞いた方が良いでしょう。

 

7.クレーム受付後の対応方法は?

クレームを受付け、相手の話を聞いた後、今後の方針について社内で協議し、決定された方針に基づいて交渉を行うことになります。上記6.で記載しましたが「1人で判断するのは厳禁」です。

昨今の報道を見ていますと、現場レベルでは把握できている事実関係が、上長が十分認識していない、あるいはあえて認識しようとしていない事を取り上げて、厳しく問いつめられる場面を目にします(最悪の場合、上長には伝わっていないことに託けて、事実関係を隠匿しようとする場合もあります。)。したがって、よほどのことがない限り、クレーム案件については、『全て上長(社長あるいは決裁権限のある担当者)まで伝える』ようにするべきです。

なお、社内で情報共有するべきチェック事項の一例を次に記載します。

・相手の住所、氏名、電話は確認したか。

・(同義的な)謝罪は既に行ったのか。

・クレームの前提となる事実関係を把握したか(時系列、5W1H)。

・被害を受けた製品・サービスの特定、購入年月日、購入・提供場所

・被害者は誰か、被害の程度は。

・どの様な利用方法だったのか。

・製品は現在どの様な状態になっているのか。

・相手の要望は何か。

・原因について説明できるか。

・直ちに回答できるか。

・解決メニューを提示できるか。

・クレームを今後の経営に活かすことを説明できるか。

 

<2020年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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