<脱下請>オリジナルブランドを企画等する場合の法務ポイントについて、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社は半世紀以上にわたり、特定の企業からの注文だけで事業運営してきたのですが、近年その特定企業の経営が振るわず、また海外への生産移管等を図りつつある状況です。そこで、当社としても生き残り策を講じるべく、自社でオリジナル製品を製造・販売することで、特定企業のみに依存しない経営体制を急ピッチで進めることになりました。

オリジナルブランドを立ち上げていくにあたって法務上注意するべき事項について、教えてください。

 

 

【回答】

下請の製造事業者が自社ブランドを立ち上げて、脱下請を図ろうとする動きは近時非常に目立ってきています。また、製造事業者が他社に制作を依頼し、当該制作物に自社ブランド付して販売すること(いわゆるOEM)、あるいは小売事業者が小売事業者の名称を付してナショナルブランドに対抗する商品を販売すること(いわゆるプライベートブランド)といった動きも、同様のものと考えられます。

本記事では、脱下請を検討する製造事業者を念頭に置きつつ、企画段階、研究開発段階、生産段階、販売段階と区切って解説を行うと共に、オリジナルブランドを展開することにより生じるトラブルについても合わせて解説します。

 

 

【解説】

 

1.企画

 

オリジナルブランドを立ち上げ、脱下請けを達成するのであれば、事前準備が肝要です。ここではオリジナルブランド構築作業を開始する前に検討しておきたい事項を含め、5つのポイントを解説します。

 

(1) 元請(発注者)との契約内容確認

脱下請を検討するにあたり、まず確認しなければならないのが元請(発注者)と契約書を取り交わしていないか、取り交わしているのであればどのような内容が定められているのかという点です。具体的には、次の3点です。

  • 権利帰属
    (例えば、製造物に関する特許権、図面・仕様書に関する著作権、ノウハウ・アイデアの営業秘密等が元請に帰属すると定められていないか)
  • 秘密保持
    (例えば、元請が開示した情報はもとより、元請からの依頼に基づき当方が提案した情報まで秘密情報として取り扱われ、元請との取引実施以外の目的で使用することを禁止されていないか)
  • 競業禁止
    (例えば、元請に納入する製造物等と同種又は類似する製造物等の制作を禁止されていないか)

 

元請が大企業である場合、10頁を超え、ページ内にびっしり文字の書かれた契約書を(いつの間にか)締結していることも少なくありませんし、内容を正しく読解することも難しい場合があります。契約書から想定しておかなければならないリスク抽出とその対処法については、是非弁護士にご相談ください。

 

(2)プロジェクト情報の管理

脱下請を目指す場合、当面は社長や役員、一部従業員のみで構成されたプロジェクトチームを組成し、そのチーム内で計画を練り、ある程度計画が固まった段階で全従業員に発表するという手順を踏むことが通常です。

さて、このプロジェクトチームの構成員は、秘匿性の高い社内情報を知り保有することになります。そうであるにもかかわらず、チーム外の従業員その他第三者にベラベラ社内情報を口外されてしまうと、計画を進めることに支障を来すこともあり得ます。したがって、プロジェクトチームに参加させるに際し、必ず秘密保持誓約書を当該構成員より徴収するべきです。秘密保持誓約書に定めるべき事項としては、秘密情報の特定、口外及び転用の禁止、在職中のみならず退職後も秘密保持義務を負うこと等が主なものとなりますが、プロジェクトチームの内容如何によって定めるべき事項も異なってきます。会社にとって重要な局面を迎える以上、汎用的な秘密保持誓約書に留めるではなく、会社の実情に合致するカスタマイズした秘密保持誓約書を弁護士と相談しながら作成したいところです。

 

(3)商品・サービスの名称

自社オリジナルブランとして商品・サービスを展開する場合、ユーザに響く商品・サービス名称を付したいところです。もっとも、過去に誰も取り扱ったことがない商品・サービスであればともかく、通常は先行者(競業他社)が存在します。そして、先行者(競業他社)がユーザに馴染みやすい商品・サービス名称を既に使用しています。

先行者(競業他社)が使用している名称と同一又は類似する名称を用いた場合、不正競争防止法違反(混同惹起、著名表示冒用)として民事及び刑事の両面で制裁を受ける場合があります。また、先行者(競業他社)が使用している名称が商標登録されている場合、商標権侵害として法的制裁を受けることもあります。

商標権侵害の有無については、例えば特許庁が公開している商標検索システムを用いれば、自社でもある程度調査は可能です。また、候補となっている商品・サービス名称をネット検索すれば、競業他社による使用の有無・状況もある程度わかります。自社オリジナルブランドとして市場に出してから、名称につき他社から名称使用差止等のクレームを受けるのは事業戦略上問題となることは明らかですので、できる限り名称については調査を尽くしたいところです。

なお、自社オリジナルブランドとして付す名称について、競業他社による使用が確認できない場合、こちらが先行的に出願を行って商標登録を行うといったことも検討するべきです。

 

(4)人材採用

自社オリジナルブランドを展開するにあたり、社内人材だけでは検討を進めることができないという場合、外部人材を登用することを検討することになります。この外部人材を登用するに際してですが、手段別に次のような注意点があります。

・他社より引抜く場合

有望な人材を発見し、自社への入社を促すこと(転職を持ち掛けること)は問題ありません。ただ、当該人材が勤務先との間で何らかの秘密保持契約や競業禁止特約を結んでいる可能性があります。また、勤務先の重要な営業秘密を保有している可能性があります。当該人材を採用したことで、元勤務先とトラブルになるといったことが最近では多くなっていますので、事前のスクリーニングが重要です。次の記事をご参照いただきつつ、具体的な対策については弁護士にご相談ください。

 

(参考)

中途採用者/退職予定者が保有する情報の取扱いで注意したい事項につき、弁護士が解説!

 

・人材紹介会社を利用する場合の注意点

人材紹介会社を利用する場合であっても、上記解説のスクリーニングが重要となることに変わりはありません。人材紹介会社の場合、さらに特有の問題として、①紹介を受けた人材を採用したものの、短期で退職した場合に紹介手数料の返金の有無・条件、②紹介を受けた人材の採用を見送った後、何らかの事情で当該人材を後日採用することとなった場合の紹介手数料支払い義務の有無、の2点があげられます。

人材紹介会社が提示する契約書をよく読んで確認してほしいところです。なお、人材紹介者が提示する契約書は各社各様であり、上記2点を含めかなり契約条件が異なるように執筆者は感じます。必要に応じて人材紹介契約書について弁護士に確認してもらい、契約条件変更交渉を含め検討したほうがよいかもしれません。

 

さて、外部人材を採用する場合、労働契約を締結することになりますが、この労働契約についても、漫然と結んでよいのか検討を行うべきです。例えば、プロジェクトの成否如何によっては当該人材の必要性に疑義が生じる場合、職務内容を限定した労働契約にする、求める能力・成果について細かく規定した労働契約にするといったことが考えられます。

 

(5)外部コンサルを利用する場合の注意点

上記(4)で解説した外部人材を社内に迎え入れるのではなく、あくまでも外部人材のまま関与してもらうという形態をとる場合、いわゆるコンサルティング契約を締結することが通常です。

この場合の注意点としては、①報酬体系とそれに対応する業務はどのような関係に立つのか、②何をどこまで業務として引き受けてくれるのか(契約書の文言上抽象的な言い回しが多いため)、③秘密保持義務の内容は適切か、④コンサルティングの成果に関する権利は誰に帰属するのか、が主な事項となります。なお、コンサルタントが有名又は実績豊富な場合、潜在的な競争事業者からも依頼を受けている可能性があるので、情報が混在・漏洩しないかも注意したいところです。

上記注意点を含め、弁護士以外の者が、契約内容について妥当か否か判断するのはやや難しいところがあるため、是非弁護士に相談してください。

 

 

2.研究開発

 

企画検討が終了した場合、商品化に向けた研究開発を行うことになります。この研究開発段階で注意したいポイントを以下解説します。

 

(1)外部業者との研究開発契約

自社のみで商品化することが難しい場合、外部業者の力を借りて商品化を進めることになります。この外部業者の力を借りる際、当然のことながら研究開発依頼を行うのですが、この際、口頭又は発注書ベースで依頼を行い、契約書を締結しないということもあるようです。

しかし、契約書を締結しない場合、例えば自社が持ち込んだ商品企画について、外部業者が当該企画をパクリ、外部業者が当該商品を市場展開するといったことも有り得る話です。このような事態を避けるためにも、適切な契約書を締結する必要があるところ、双方の役割分担・業務内容は当然のこととして、さらに規定しておきたいポイント事項は次の通りです。

  • 研究成果と権利帰属
    (研究成果に関する権利について自社が独占できれば、それに越したことは無いが、一般的には独占化が難しいため、外部業者との調整が必要であり、どのラインで調整するのか専門的知識が必要となることが多い)
  • 外部業者がもともと保有する権利の処理
    (商品化するための技術・方法等に外部業者が保有する知的財産権等が用いられている場合、そのライセンス条件について調整する必要あり)
  • 競業禁止
    (商品化する企画内容にもよるが、少なくとも外部業者自らによる同種・類似商品の市場展開は禁止する旨定めておく必要あり)

 

外部業者が専門性を有し、取引実績が多ければ多いほど、契約条件交渉がナーバスになりがちなので、落しどころや譲歩ラインを見極めるためにも是非弁護士に相談してほしい内容となります。

 

(2)権利侵害の調査

商品化するにあたり、生産技術や工法、機能等について、第三者の特許権等を侵害していないか検討する必要があります(商品・サービス名称については、上記1.(3)参照)。

外部業者において調査してくれる場合もありますが、一切の非侵害保証ができないとする外部業者も存在します。結局のところは自社と外部業者との役割分担の問題となりますが、外部業者が調査能力について自信がないことを表明している場合において、無理に調査を要求する、また非侵害保証条項を定めても実効性を確保できません。こういった場合は、権利侵害の有無について別の専門家に依頼するといった割り切りも必要と考えられます。

 

(3)労働時間管理

脱下請けを検討しつつ、一方で自社オリジナルブランドの研究開発を行う場合、通常業務を遂行しつつ、研究開発業務を担うことになるため、どうしても長時間労働になりがちです。テレビドラマ等の世界であれば、社長と従業員が一丸になって昼夜問わず業務遂行し、喜怒哀楽を共にする…といった場面が描かれることが多いですが、残念ながら現実世界ではそのようにはなりません。

残業が発生すれば当然残業代を支払う必要があります。また、働き方改革により導入された労働時間の上限規制を順守する必要があります。さらに、長時間労働により従業員の心身に変調をきたした場合、会社はその責任を負うことになります。

もちろん、脱下請けを目指すということは、何らかの切迫した事情があり時間との闘いであるという事情も理解はできるのですが、労務リスクが増大することは一方で認識しておく必要があります。なお、労務リスクの軽減策がないかについては、一度弁護士と相談することをお勧めします。

 

 

3.生産

 

研究開発が成功した場合、量産化に向けた生産・製造を行うことになります。ゴールも見えてきているため一気に進めたいところなのですが、やはり落とし穴がありますので、次のような事項について注意してほしいところです。

 

(1)仕入れ(売買)契約の注意点

自社で商品等を製造するために原材料等を仕入れる(購入する)場合、売買契約を締結することになります。一昔前であれば受発注書又は電話(口頭)だけで取引を行うこともあったようですが、最近、特に新規取引の場合、売買契約書の締結を売主側より要請されることが多いようです。

この点、買主視点で売買契約書をチェックする場合、大きくは次の2つの観点から整理すると判別しやすいかもしれません。

通常の商流にて注意するべき事項

・発注、受注について特別なルールはないか(例えばEDIの導入が必要である等)

・納品方法、納期に問題はないか(例えば納期を売主都合で変更可能になっていないか等)

・納期後の検査期間は合理的な日数か(例えば短期の検査期間しか与えられていない等)

・決済時期、方法のルールは妥当か(例えば前払いが必要、現金払いのみ等)

異常が生じた場合に注意するべき事項

・検査不合格となった場合の処理は適切か(例えば売主が不具合の存在を認めない限り、返品不可となっていないか等)

・検査合格後に見つかった不具合に対するフォローは万全か(例えば契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)について法律より厳しい制限が設けられていないか等)

・一方当事者の都合で契約を解消、受発注をキャンセルできるようになっていないか(例えば売主が中途解約権を行使することで商材を入手できないリスクはないか等)

 

その他にも色々と気を付けたい事項があるのですが、次の記事もご参照いただきつつ、必要に応じて、弁護士に売買契約書のリーガルチェックを依頼するようにしてください。

 

(参考)

民法改正を踏まえて売買取引契約書を検討する際のポイントを弁護士が解説!

 

(2)製造委託・制作物供給契約の注意点

製造委託、特に制作物供給契約の場合、売買契約の側面を有していることから、上記(1)に記載したチェック事項の内容がそのまま当てはまります。もっとも、請負契約の側面も有していることから、さらに次のような事項についても検討を行う必要があります。

  • 仕様確定のルールが定められているか
  • 品質保証が定められているか
  • 製造工程や原材料の変更を受託者都合で変更できないように定めているか
  • PL対策に関する規定は盛り込まれているか

 

上記事項のうち最初の3つは、いわゆるクオリティコントロールに関するものとなります。最後の1つは不具合発生時の原因究明への協力、リコール、損害賠償、PL保険への加入といった事後対策に関するものとなります。

 

(3)優越的地位の濫用、下請法に注意

独占禁止法が定める優越的地位の濫用、優越的地位の濫用を具体化した下請法については、「大企業に対して適用される法律であり、中小企業の当社には関係がない」と考える事業者がかなり多いようです。しかし、特に下請法については、中小企業同士の取引であったとしても、資本金と取引内容が当てはまれば形式的に適用されるものであり、中小企業といえども親事業者に該当し、下請法の規制を受けることが結構な頻度で生じてきます。

以下の記事等をご参照いただきつつ、具体的な対策や疑問点に関する相談等については是非弁護士にお声かけください。

 

(参考~優越的地位の濫用)

優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(公正取引委員会)

 

(参考~下請法)

企業が下請法を意識しなければならない場面(取引類型、資本関係)を弁護士が解説!

 

下請事業者による下請法の上手な活用法について、弁護士が解説!

(※下請事業者視点による解説記事ですが、この記事に書いてあるような追及を受けるリスクがあるという視点でご参照ください)

 

 

4.販売

 

オリジナルブランドの量産化に目途がついた場合、いよいよ市場販売を行うことになります。ただ、例えば下請けの製造業であれば、これまで小売販売などしたことがないといったことがあります。また、小売販売を経験していたとしても、異業種へ参入する場合はまた勝手が違うということもあります。ここでは3点ポイントを解説します。

 

(1)商流別での注意点

・自社販売(ネット通販等)

自社店舗にて小売りを行う、あるいは自社サイトにて通信販売を行うことは、流通コストがかからず、また利害関係人が限定されるため、一面では比較的行いやすい手法ともいえます。しかし一方で、顧客の呼込み、購入動機付け、クロージング、決済、アフターフォロー等を全て自社で対応する必要があるため、まったく業界経験がない事業者がゼロから始めることは相当なリスクを伴います。

様々なことを総合的に検討する必要がありますので、次の記事などをご参照いただきつつ、不明点等があれば弁護士に相談するなどして対策を講じてください。

 

(参考)

小売業で注意したい法務のポイントについて弁護士が解説!

 

EC(eコマース)事業者が注意したい法務のポイントについて弁護士が解説!

 

・小売業者、代理店、特約店等の利用

顧客・ユーザへの直接的な接点を持っていない、あるいは顧客開拓を行うだけのノウハウや体制整備ができていないという場合、小売業務を第三者に委ねることで対処することが通常です。小売店、代理店、特約店等の様々な名称がありますが、まず気を付けておきたいのが、当該第三者が商品等を購入し、顧客・ユーザに転売する流通経路をとるのか、当該第三者が顧客・ユーザを紹介し、自社が顧客・ユーザと直接取引を行うのか、を明確にすることです。例えば前者であれば、顧客・ユーザの有無を問わず商品等を売り渡すことができるので現金化しやすい反面、小売価格をコントロールすることは難しいといった問題があります。一方後者の場合、顧客・ユーザが発掘されない限り商品等の現金化ができず、在庫リスクを抱えますが、小売価格のコントロールは容易です。

第三者が関係する以上、利害関係を考慮しながら効率的な商売を模索する必要があります。次の記事もご参照いただきつつ、随時弁護士に相談の上、リスクの少ない商取引を実行してください。

 

(参考)

メーカー・委託者側視点で特約店・代理店契約を検討するポイントを弁護士が解説!

 

・海外販売

海外の現地代理店を用いる場合はもちろん、ネット通販を実施する場合、自社のみで海外顧客向けに商品等を販売することが可能となります。

もっとも、日本と異なる商慣習・法制度である以上、日本的発想で商売を実施することは極めて危険です。また、有体物を商品として取り扱う場合、海外へ当該商品をどうやって運送するのか等について専門知識を必要とすることになります。

海外での販売を検討する場合、自社のみで全てを対応しようとせず、専門業者に依頼する方が無難ではないかと考えられます。なお、専門業者と接点がない場合、例えば商工会議所の経営指導員等を通じて紹介してもらうといった方法があります。

 

(2)宣伝広告

オリジナルブランドを立ち上げたとしても、顧客・ユーザに購入してもらわないことには利益を出すことができません。そこで、顧客・ユーザにオリジナルブランドを認知してもらい、購入のきっかけを作るべく、宣伝広告を行う必要が生じてきます。

この点、宣伝広告を行うための媒体としては、今では紙媒体よりもネット媒体(ネットと一口で言っても、メルマガ、検索連動型広告、アフィリエイト、SNS等様々な媒体が存在します)の方が主流になりつつありますが、媒体ごとで検討する事項が若干異なったりします。詳細については是非弁護士にご相談ください。

また、宣伝広告の内容(コンテンツ)については、景品表示法をはじめ、業界ごとに適用される業法(例えば健康食品であれば、薬機法、健康増進法など)を意識する必要があります。とはいえ、法律上明確にセーフ/アウトの線引きが定められているわけではない以上、なかなか自社だけでは判断がつきにくいものと思われます。弁護士はいわゆる広告審査も行っていますので、是非ご相談いただければと思います。

なお、次の記事もご参照ください。

 

(参考)

マーケティング活動を行う企業が知っておくべき景品表示法について、弁護士が徹底解説!

 

SNSを用いた広報戦略で注意したい権利侵害問題について、弁護士が解説!

 

(3)競業他社への対応

自社オリジナルブランドがある程度市場で認知されるようになると、競業他社がライバルとして様々な仕掛けを行ってきます。例えば、販売価格の値下げや比較広告、口コミ等のバズマーケティングといった原則合法のものから、小売店からの締出し、悪評の流布、キーパーソンの引抜きといった場合によっては違法性を帯びるものまで、様々な方法がとられます。商取引の実態を理解している弁護士であれば、法的手段以外の方法での対処法についてもアイデアを出せる場合がありますので、是非声をかけてほしいところです。

また、市場ニーズがあると判断した競業他社が、あえて自社オリジナルブランドに似せた商品等を仕掛けてくることがあります。自由競争社会である以上、模倣商品等が出回ることはある程度仕方がないところがあり、法的には如何ともし難いところがありますが、一定の限界を超えた場合、法的な対処が可能となる場合があります。この点については次の記事をご参照いただきつつ、弁護士と相談してください。

 

(参考)

商品名称・デザインを模倣された場合(パクリ)の対処法について、弁護士が解説!

 

 

5.トラブル

 

(1)他社からの警告

競業他社が自社に対し、知的財産権(特許、商標、著作など)侵害の警告、不正競争防止法違反を指摘するといった紛争を仕掛けてくることもあります。これらの警告・指摘の中には、法的に全く根拠がないと考えられるものもありますが、中には深刻な事態を招来するものもあります。

競業他社から直接警告等がきた場合はもちろん、競業他社より営業妨害されていると感じた場合は、早めに弁護士に相談し、対策を講じるべきです。

 

(2)顧客・ユーザからのクレーム

商品等に不具合がある旨申入れがあり、原因調査の結果、自社に責任があることが判明した場合は真摯に対応しなければならないこと、当然のことであり、ある意味分かりやすい顧客対応となります。

現場実務で悩ましいのは、クレーム内容について自社に責任があると断定しきれない場合や、ハードクレーム(過剰要求)となった場合の対処法です。

次の記事などもご参照いただきつつ、早めに弁護士に相談し、事例によっては弁護士に交渉窓口を依頼する等の対応を取ったほうが良いかもしれません。

 

(参考)

クレームを受けた場合の初期対応のポイントを弁護士が解説!

 

不当要求があった場合の対処法について、弁護士が解説!

 

(3)委託先への求償、損害保険会社への請求

商品等に不具合が発生し、自社が顧客・ユーザに対して損害賠償その他何らの金銭支払いを行った場合、自社としては、原因を作出した委託先に対して責任追及を行いたいと考えるのが通常です。

ただ、この責任追及を検討する場合、①責任追及するだけの法的根拠があるのか、②責任追及ができるとして満足のいく金額を請求できるのか、を分けて検討する必要があります。なぜなら、例えば①であれば、契約書に定める契約不適合責任の追及期間について民法とは異なる特約を定めているため、法的根拠が制限されているといった場合があるからです。また、例えば②については、システム開発等の契約に多いのですが、損害賠償額について上限が定められているため全額補償を受けられないといった場合があるからです。

契約書に定められている内容の法的解釈によって何か対策を講じることができないか、あるいは契約書に定められている内容の抜け道を探って対処できないか等を検討するには、極めて行動な専門知識が必要となります。是非弁護士に相談してほしい事項となります。

 

なお、自社が付保している損害保険を利用して補償を受けることも有り得る話かと思われますが、事故内容が保険の対象となるのか、保険金請求を行うに当たり制限が付されていないか等を確認する必要があります。早めに保険代理店等を通じて保険会社に確認を取るべきです。

 

(4)代金未回収

自社オリジナルブランド商品等を販売・提供が無事に実行できたとしても、その対価を回収できないことには商売として意味がありません。特に消費者向けビジネスを展開する場合、その対価は後払いとなるのが通常であり、代金未回収問題は必ず発生する問題となります。

したがって、自社でどこまで回収業務を行うのかフローを事前に確立することが必要不可欠であるところ、この点については回収業務に明るい弁護士に相談しながら構築することが望ましいといえます。

なお、少額の売掛金の場合、弁護士に依頼しても費用倒れになると懸念される事業者もいるかと思いますが、条件如何によっては定額で一定範囲内の回収業務を担う弁護士も存在します。一度弁護士に声をかけてみても良いのではないでしょうか。

 

(5)事業撤退

自社オリジナルブランドの展開で脱下請を目指したものの、残念ながら思うような成果が出ないという場合も当然あり得ます。この場合、どこかで事業撤退を決断しなければならないことになるのですが、この事業撤退を検討するに際してよく問題となりうる事項としては、次の3点が考えられます。

・借入れの処理

自社オリジナルブランドを一から立ち上げた場合、資金借入れを行っていることが通常です。金融機関に事情を説明の上、支払条件の変更(リスケ等)を協議するべきですが、場合によっては金融機関の納得が得られない場合があります。この場合、金融機関を動かすような交渉手段(例えば再生支援協議会に介入してもらう等)が使えないか考える必要があるところ、どういった手段があるのか等については企業再生に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

なお、どうしても廃業せざるを得ない状況に追い込まれた場合は、次の記事もご参照しながら、やはり弁護士にご相談いただければと思います。

 

(参考)

債務を整理しながら廃業するための法的手段について、弁護士が解説!

 

・人員整理

事業撤退を行う場合、自社オリジナルブランドのために雇入れた従業員の処遇をどうするのか難しい決断を迫られることになります。もちろん配置転換を実行して引き続き雇用することが望ましいことは間違いありませんが、経営状況によってはそのような余裕がない場合もあります。この場合、いわゆるリストラを含めた強硬手段を取らざるを得ないのですが、かなり慎重に事を進める必要があります。人事労務に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。なお、次の記事もご参照ください。

 

(参考)

人件費削減を実施するための人事労務対策と注意点について弁護士が解説!

 

・事業譲渡等

自社オリジナルブランドについて、自ら事業運営して利益を出すことが難しかったとしても、競業他社からすれば、当該ブランドを吸収することで相乗効果が得られる等の理由で魅力のある事業となることがあります。このような事業を手放すことを考えている自社と事業を取り入れたいと考えている他社との利害が合致すれば、事業譲渡を行うことで苦境を乗り切ることができるかもしれません。

事業を欲しがる者を見つけることがやや大変なところがありますが、銀行や商工会議所等を通じて探してみることも検討してよいかもしれません。なお、事業譲渡を実行する場合の注意点については、次の記事もご参照ください。

 

(参考)

一事業部門のみをM&Aする方法について、弁護士が解説!

 

 

<2022年3月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

リスク管理・危機管理のご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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