人件費削減を実施するための人事労務対策と注意点について弁護士が解説!

【ご相談内容】

新型コロナウイルスその他の事情により、会社の経営状態が悪化していることから、会社再建策の一環として人件費の削減を検討しています。人件費の削減を実施するための方策にはどういったものがあり、それぞれ何に注意したらよいでしょうか。

 

 

【回答】

人件費削減を検討するに際し、大まかな視点として、会社が雇用している従業員に対してどういった施策を講じるのか、社外より受け入れている人材に対してどういった施策を講じるのかを分けて検討したほうが整理しやすいと考えられます。

以下では、「現在雇用している従業員に対する手段」として、労働時間の削減、賃金カット、自発的な退職への誘導(希望退職の募集、退職勧奨)、整理解雇、非正規社員との契約打ち切りという手法と簡単な注意点を解説しています。

また、「外部人材に対する手段」として、派遣の打ち切り、出向受入の中止、出入り業者(個人事業主)との契約解消という手法と簡単な注意点を解説しています。

なお、最後に新規採用の中止に際しての注意点についても触れています。

 

 

【解説】

 

1.現在雇用している従業員に対する手段

 

(1)労働時間の削減

雇用を維持しつつも人件費の削減を実施しようとする場合、賃金単価を下げることで賃金をカットするのか、労働時間を減らすことで賃金をカットするのかのどちらかを選択せざるを得ません。

この点、労働時間の削減を考えた場合、一時帰休やワークシェアリングという言葉が用いられることがあります。しかし、これらは法律用語ではなく、この言葉自体から法的解決策が導き出されるわけではありません。そもそも論となりますが、会社と従業員との労働契約上、所定労働時間と賃金が定められています。これは会社が従業員に対し、所定労働時間の就業をさせる義務を負うこと、そして賃金を支払う義務を負うことを意味します。このような会社の義務を、会社の都合のみで一方的に変更することは不可能です。したがって、会社都合で労働時間の削減を図るのであれば、労働者の同意を得ることが絶対条件となります。

仮に、労働者の同意を得ることなく、会社都合のみで会社が労働(就業)時間を減らした場合ですが、この場合は就労の有無を問わず、会社は満額の賃金支払い義務を負うと考えざるを得ません(法律上は「危険負担」と称する問題となります)。

ちなみに、例えば、新型コロナウイルスの流行に伴い、労働者の同意を得ることなく、会社の自主判断で休業を行う場合(結果的に労働時間の削減が生じる)、たとえ公衆衛生の観点から望ましいとしても、休業手当(平均賃金の6割以上)の支払い義務が生じる可能性があることにも注意が必要です。なお、行政からの休業要請等があった場合は会社都合とは言えませんので、休業手当の支給義務は生じないと考えられます。

 

(2)賃金カット(労働条件の変更)

上記(1)でも記載した通り、雇用を維持しつつも人件費の削減を実施しようとする場合のもう1つの手法として考えられるのが、賃金単価を切り下げることによる賃金カットです。

全労働者から同意が得られた場合、書面等で同意を得た証拠を残すことはもちろん必要なのですが、さらに注意するべき事項があります。それは就業規則(賃金規程)の変更も同時に行う必要があるという点です。この就業規則(賃金規程)の変更が必要となる理由ですが、個別の合意内容が就業規則に定める内容を下回る場合、個別の合意内容は無効となり就業規則の内容が労働契約の内容として取り扱われることになるからです(労働契約法第12条参照)。したがって、個別合意と就業規則(賃金規程)の変更はセットで考える必要があります。

一方、多くの労働者から同意は得られたものの、一部の労働者が反対するという場面もあり得ます。この場合、実は会社にとっては非常に都合が良いのですが、就業規則(賃金規程)を法律上の手続きに従って適切な内容(合理的な範囲内での賃金カット)に変更することで、反対する労働者に対しても賃金カットの効力を及ぼすことが可能となります。ただ、賃金は労働者の利害に最も関係する事項であることから、かなり厳格な要件が定められています(労働契約法第10条参照)。賃金カットを伴う就業規則(賃金規程)の変更を行うのであれば、労働者無の説明会の開催を含む手続きの進め方はもちろん、合理的な範囲内にとどまっていると言えるのか等の検証が必要不可欠ですので、弁護士等の専門家と相談しながら進めていくのが良いと考えられます。

 

(3)希望退職募集

希望退職の募集とは、会社が労働者に対し、一定の退職条件(通常は何らかの優遇措置を講じることが多い)を提案しつつ自発的な退職者を募集することをいいます。希望退職の募集手続きについては法律上の規制はありません。ただ、あくまでも募集行為にすぎませんので、労働者が応募しなかった場合は特段の効果は生じません。つまり、あくまでも労働者からの申込と同意を前提として会社から退職してもらい、人件費削減を行うという方法となります。ちなみに、法律上の規制はありませんが、一般的には希望退職の募集手続きを行う場合、上記で記載した退職条件(優遇措置)以外にも、なぜ募集するのかその理由、募集期間の設定、応募対象者の絞り込み、応募人員数などを決めたうえで進めていくのが通常です。

なお、希望退職の募集は後述する整理解雇の有効性を基礎づける一事情となり得ます。このため、希望退職の募集手続きを行う場合、応募人員数に達しなかった場合の次の施策はどうするのかまで見込んで手続きを進めるのがポイントとなりますので、可能であれば弁護士等の専門家と事前に協議しながら進めていく方が良いと考えられます。

 

(4)退職勧奨

退職勧奨は、特定の労働者に対し、会社を辞めるよう働きかけることをいいます。退職勧奨についても上記の希望退職募集と同じく法律上の規制はありません。もっとも、退職勧奨は、あくまでも会社からお願いベースでの提案にすぎず、退職勧奨を行ったから当然に労働契約が終了するといった効果は生じません。また、また労働者はこの提案自体を拒否することも可能です。

退職勧奨を実施する際も、退職条件については何らかの優遇措置を講じることが通常です。そして、退職勧奨に応じた労働者とは合意退職という取扱いで労働契約を終了させ、結果的に人件費削減を図るという手法になります。

ちなみに、退職勧奨を行う際に問題となりがちなのが、退職勧奨の対象となった労働者が、退職勧奨を行う担当者の言動や態度をパワハラであると主張してくるトラブルがあります。たしかに、退職勧奨時に暴力をふるうことは当然ダメですし、人格非難等の言動もNGです。一方で、退職勧奨の対象となった労働者が、退職勧奨に反発して虚偽の申出を行ってくる事例も散見されます。退職勧奨を行う際は、必ず録音をするなどの自衛策を講じる必要があります。

 

(5)整理解雇

整理解雇とは、経営上の理由で余剰人員を解雇するというものです。解雇手続きに分類されますので、法律上の規制が及ぶことにあります。そして、整理解雇についてはこれまでの裁判例の積み重ねにより、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性の4要素を考慮して、その有効性を判断するという実務運用が固まっています(ちなみに、上記で記載した希望退職の募集は、②の考慮要素となります)。

整理解雇を実施することで人件費の削減を図ることは可能です。ただ、整理解雇の有効性の判断、すなわち4要素の考慮はかなり高度な専門的判断が必要となります。整理解雇の実施を検討するのであれば、弁護士等の専門家に相談するべきであり、素人判断での実施は非常にリスクが高いと言わざるを得ません(労働者が反発した場合、大規模な労使紛争となって社内混乱はもちろん、風評被害などかえって経営危機が増大することにもなりかねません)。

 

(6)非正規社員(定年後再雇用社員)の雇止め

ここでいう非正規社員(定年後再雇用社員)とは、労働契約の期間が定められている有期雇用の労働者を意味します。

ところで、形式的な理屈で言えば、労働契約の期間満了と共に非正規社員の雇用を終了させることができるはずです。たしかの、理屈上はその通りなのですが、この理屈については裁判例の積み重ねにより、「雇止め」法理として重大な制限が加えられています(つまり期間満了と共に非正規社員との雇用を終了させることに一定の制限がかけられているということです)。そして、この「雇止め」法理は、労働契約法第19条という形で明文化されるに至っています。

具体的には、次の通りです。

①有期雇用契約を繰り返し更新することで、実質的には期間の制限のない労働契約を同視できる状態になっている場合は、期間満了だけを理由として雇用を打ち切ることはできない。

②会社の言動等により、労働者において今後の雇用継続に合理的期待を持っても仕方がないと判断される状況である場合は、期間満了だけを理由として雇用を打ち切ることはできない。

 

もちろん、期間満了により労働契約を打ち切ることを会社が労働者に通知し、労働者が特に異議を挟まなかった場合は問題なく労働契約は終了します。しかし、上記①又は②のような事情があることを労働者が主張した場合、会社は期間満了以外の合理的な労働契約終了事由を主張する必要があります。そして、合理的な労働契約終了事由を主張立証できない場合、引き続き当該労働者を雇い続ける必要があります(期間満了による労働契約の終了とはならないということです)。労働契約法第19条の存在自体を知らない会社もまだまだ存在するようですが、少なくとも3回程度更新を行っている有期雇用の労働者を対象に、次回更新せずに労働契約の打ち切りを検討しているのであれば、労働契約法第19条=雇止め法理の問題が生じる可能性が高いことを意識して対処する必要があります。

なお、時々勘違いされる人事担当者がいるのですが、上記で記載した「雇止め」法理の問題と、有期雇用労働者の「無期雇用契約の転換」は全く別制度です。この点は意識的に分けて検討する必要があります。

 

2.外部から受け入れている人員に対する手段

 

(1)派遣契約の解除

人員過剰を理由に派遣契約を途中で打ち切ること、これについては法律上禁止されているわけではありません。これは派遣契約が、あくまでも派遣先と派遣元との事業者間取引であり、労働法が適用される場面ではないからです。ただ、労働者派遣法では、派遣契約の中途解約を行う場合、派遣労働者保護のため必要な措置を講じることを派遣先に義務付けています。この必要な措置については、派遣契約書に具体的な内容が定められています。例えば、金銭的な負担という観点から見た場合、本来の派遣期間中に派遣労働者が受け取れるはずであった賃金相当額を派遣先が派遣元に支払うというったことが契約上定められていることが多いようです。

以上のことから、派遣先は、派遣契約を中途解約することは可能ではあるものの、一定の金銭負担を含めた派遣労働者保護のための必要な措置を講じる必要がることに注意が必要です。

 

(2)出向受入の解除

取引先との関係上、取引先の従業員を出向で受け入れるという場面も実務上よく見かけるものです。そして、人員過剰となった出向先としては出向契約を解除し、出向従業員を出向元に戻すことで人件費削除につなげたいと考えることは十分想定されるところです。

ただ、出向と一口で言っても、いわゆる転籍出向の場合は、出向契約の解除による人件費削減の実現は困難と考えられます。なぜならば、転籍出向の場合、出向従業員は出向元との間で既に労働契約がない(出向元を退職している)状態です。このため、出向元との出向契約を解除したところで、出向元に出向従業員を戻すことができません。この結果、法律上は、出向先は出向従業員との労働契約を解約する、すなわち解雇するということを検討することになります。解雇である上、不当解雇とならないか、特に会社都合であれば整理解雇の4要素を充足するのか等を考慮する必要がありますので、出向先としてはかなりハードルの高い作業となります。したがって、転籍出向の場合は、出向契約の解除による人員削減は事実上不可能と考えるべきです(人員削減を実施したいのであれば、自社従業員と同様に整理解雇等の手手続きを取るほかありません)。

一方、在籍出向の場合、出向元との労働契約は残っている状態です。このため、出向契約を解除し、出向従業員を出向元に戻すことができるか否かは、出向契約の内容如何となります。一般的には出向契約を途中で解約する場合のルールが定められていますので、そのルールに則って手続きを進めることになります。

 

(3)個人事業主との契約解除

本来の個人事業主であれば、個人事業主と締結している業務委託契約や請負契約に従って中途解約を行えば足ります(なお、成果に応じた一部報酬の支払い等の清算関係は残りますが、途中解約を行うこと自体は法律上問題なく行えることが多いと考えられます)。

問題となりうるのは、形式上は個人事業主扱いとなっていても、実質的には労働者と同視できるのではないか(いわゆる偽装請負)というパターンです。ケースバイケースの判断にはなってしまうのですが、個別具体的な指揮命令権が及んでいる等の事情が存在し労働者と同視できる状況である、すなわち実態としては労働契約であると評価される場合、一方的な契約解消は不当解雇と同視されるため不可能となります。もちろん、契約を解消される側のスタンスにもよるかと思いますが、契約解消・清算方法については取引実態を考慮しながら十分に注意を払う必要があります。

 

3.受け入れ予定だった人員に対する手段

 

(1)採用募集の停止

新規採用の手続きを中止すること、これ自体は問題ありません。

ただ、いわゆるヘッドハンティングのように、中途採用に向けて特定の求職者との交渉が進んでいた場合、会社が一方的に採用手続きを中止した場合はトラブルになる可能性があります(特に求職者に対し、採用を期待させても仕方がない言動を行い、求職者が既に退職している場合など)。

また、いわゆる人材紹介会社を利用している場合、進捗状況(例えば、求職者との採用面接段階にまで至っている場合など)によっては一部報酬や違約金を請求される場合もあります。この点は紹介契約書をよく確認する必要があります。

 

(2)内定取消

世間一般に誤解があるようなのですが、内定段階にまで至ると、法律上は既に労働契約が成立していると評価されます(始期付解約留保権付労働契約と法律上は呼ばれます)。このため、内定取消は法的には解雇に準じて考えることになり、実は内定取消が法的に有効な場面というのはかなり限定されることになります。具体的には、会社都合による内定取消である以上、整理解雇の4要素(①必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続きの妥当性)を考慮する必要があります。

会社の経営環境が悪化したから内定取消を行っても問題はないと安易に考えることは危険です。

 

 

<2020年9月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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