メーカー・委託者側視点で特約店・代理店契約を検討するポイントを弁護士が解説!

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【ご相談内容】

販路拡大を目指して特約店・代理店を通じての商品販売を検討していますが、メーカー・委託者側において特約店契約書(代理店契約書)をチェックするに当たり、どういった点に注意すればよいでしょうか。

 

 

【回答】

特約店・代理店契約を締結する際の視点は色々とあると思うのですが、商流に合わせて時系列にそってチェックすると割と分かりやすいかと思います。

具体的には、「どういった商品を対象にするのか」、「その商品の販売先である顧客を特約店・代理店はどのように発掘するのか」、「どのような販促手法をとるのか」、「発掘した顧客とメーカー・委託者とはどういった接点が生じるのか」、「商品の引渡し方法はどうするのか」、「代金の支払い・回収はどうするのか」、「クレーム対応は誰が行うのか」、「契約終了時の清算ルールはどうするのか」といった時系列です。

以下、解説します。

 

 

【解説】

 

1.何を売ってもらうのか、商品の特定を確認する

そもそも論にはなってしまいますが、特約店や代理店といった第三者資本を用いて販路を拡大する場合、対象となる商品(目的物)がはっきりしないことには話を進めようがありません。例えば、次のような条項が必須となります。

なお、条項例では定めていませんが、特約店や代理店への売値が決まっているのであれば、単価等を明記することも問題ありません。

また、第2項については明記しないこともあるのですが、明記しない場合、ケース(例えば目的物が廃版になった等)によっては特定の商品について商品供給義務を果たしていないとしてクレームを受けることがあります。したがって、メーカー・委託者側からすれば、できる限り明記したい内容です。

(例)
第×条(対象製品)
1.本契約の対象となる商品は、「××」と称する商品、その他両者協議し定めた商品(以下まとめて「本商品」という。)とする。
2. 前項に定める商品の内容を変更、削除、追加等する場合は、委託者から受託者に対して書面により通知するものとする。

 

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2.特約店・代理店に何をどこまでしてもらうのか、確認する(役割分担)

特約店や代理店が行うことは、依頼を受けた商品(目的物)を第三者(顧客)に販売することであり、この点は当事者間で認識の齟齬が生じることはまずあり得ません(但し後述する通り、顧客に対して売主となるのは誰かという点で2通りのパターンが考えられます)。

しかし、メーカー・委託者とすれば、販路拡大を目指す以上、他にも商品を売ってくれる特約店や代理店が存在するのであれば、そちらにも依頼を行うことになります。こうなると特約店や代理店同士で競争が生じることになるのですが、この競争が度を過ぎた場合、特約店や代理店はメーカー・委託者に対し、行き過ぎた競争を是正するよう何らかの対応を求めてくることになります。

上記は一例ですが、想定できる事態を踏まえて、特約店や代理店の活動範囲について定めておくことが有用です。具体的には、地理的範囲、時間的範囲、最低購入数量の取り決め、独占権の有無、競業禁止の有無などになります。次のような条項例が考えられます。

(例)
第×条(販売特約店の指定)
1.委託者は、本商品の販売に関し受託者を販売特約店に指定し、受託者はこれを引受け積極的に本商品の販売に努めるものとする。
2.受託者が本商品を販売する地域は、日本国内に限定されるものとする。
3.本契約の締結によって、委託者が本商品を自ら又は他の特約店等の第三者を通じて販売することを妨げるものではない。

 

3.特約店・代理店への販売(商品供給)方法を確認する

特約店・代理店という用語例は一般的に用いられるものの、特約店だから商品売買契約となる、代理店だから委託者と顧客との商品販売の仲介を行う、という決まりごとはありません。あくまでも、契約書に書いてある具体的な条項から、どちらのタイプなのかを判断することになります。

メーカー・委託者が特約店・代理店に対して商品(目的物)を売渡し、特約店・代理店が顧客に売渡すという転売フローとなる場合は、単なる商品売買契約ということになります。チェック事項としては次のような内容となります。

□どうすれば発注したことになるのか、発注書には何を記載するのか?
□受注までの回答期間が適切か?
□受注したとみなされる旨のルールはあるか?
□商品をいつ、どこで、誰負担で納入するか?
□検収はどのように行われるのか?
□不合格となった場合はどのように処理されるのか?
□合否不明の商品が毀損等した場合はどのように処理されるのか?

なお、詳細については本WEB上で別記事となっている「民法改正を踏まえて売買取引契約書を検討する際のポイントを弁護士が解説!」もご参照ください。

 

一方、商品販売の仲介を行うというタイプの場合、特約店・代理店の役割は商品(目的物)を購入する顧客をメーカー・委託者に紹介することが主たる業務内容であり役割となります。この場合、発掘した顧客を紹介する場合のルール、顧客との売買契約締結交渉は誰の責任の負担で行うのかの役割分担となります。この点を意識した条項として次のようなものがあります。

(例)
第×条(販売先の発掘等)
1.受託者は、本契約及び委託者の指示に従い、本契約の業務を善良な管理者の注意をもって行うものとし、販売先開拓等に積極的に努めるものとする。
2.受託者は、あらかじめ委託者の書面による承諾を条件として、独自の宣伝広告を行うことができるものとする。

第×条(紹介方法)
1.受託者による販売先開拓等の業務遂行により、委託者に対して商品の開発・製造等を希望する見込客より問い合わせ・資料請求等を受けた場合、速やかに、委託者に対して当該見込客の名称・連絡先その他委託者が要求する事項を通知するものとする。
2.受託者は、委託者の代理人その他代理人たる外観を呈するような言動等を用いて、紹介業務を行ってはならないものとする。
3.本条第1項により受託者より紹介通知を受けた委託者は、直接に当該見込客と交渉の上、売買契約その他契約を行うものとする(以下、締結した契約のことを「売買契約等」といい、売買契約等を締結した受託者紹介の販売先を「顧客」というものとする)。なお、受託者は、委託者より指示があった場合、当該見込客との売買契約等の締結に向けて必要な協力を行うものとする。

第×条(各種商品の引渡し)
委託者は、顧客に対し、顧客との間で締結した売買契約等条件に従い、各種商品を直接に引き渡すものとする。

 

4.代金を効率よく回収できるか確認する

前述の通り、メーカー・委託者が特約店・代理店に対して商品(目的物)を売渡し、特約店・代理店が顧客に売渡すという転売フローとなる場合は、メーカー・委託者は特約店・代理店より商品代金を回収することになります。一方、特約店や代理店の役割は商品販売の仲介を行うというタイプの場合、メーカー・委託者は直接顧客より商品代金を回収することとなります。

商品代金の回収を行う名宛人は異なることになりますが、どういった与信管理等を行うのかは共通事項となります。例えば次のような事項がチェック事項となります。

□支払いサイトはどうなっているのか?
□所有権の移転時期はいつの時点か(所有権留保)?
□支払期限を前倒しにできるようになっているか(期限の利益喪失)?

ところで、商品販売の仲介を行うというタイプの場合、直接的な契約関係はメーカー・委託者と顧客との間になるとはいえ、販売に至るまでの手続きで特約店・代理店が介入しています。つまり、顧客からすると顔が見えているのは特約店・代理店であり、特約店・代理店に対して事実上の信頼を置いている場合もあり得ます。このような特殊事情を踏まえると、代金回収について、原則的にはメーカー・委託者が行うものの、例外的に特約店・代理店に行わせた方が得策であるといったことも検討に値します。具体的には次のような条項例となります。

(例)
第×条(代金の受領)
1.顧客との売買契約等に基づく代金は、委託者が、直接に顧客から受領する。
2.前項の定めにかかわらず、委託者の指示がある場合、委託者は、受託者をして、代金を代理受領させることができるものとする。その場合、委託者が、予め発行する委託者名義の領収書をもって領収せしめるものとし、受託者名義の領収書を発行させないものとする。

 

なお、特約店・代理店にある程度代金回収に協力させたいと考えるのであれば、特約店・代理店への紹介手数料(報酬)の支払条件として、顧客より代金回収できた場合と定めるということもポイントになります(転売型の場合はこの方法は用いることができません)。
例えば次のような条項です。

(例)
第×条(紹介手数料)
紹介手数料の計算期間は毎月1日から月末までとし、当該期間内に委託者が顧客より売買契約に基づいて受領した金員を基準として、これに×%を乗じた金額を、翌月10日までに、受託者が指定する銀行口座に振り込んで支払うものとする。

 

5.特約店・代理店の顧客に対する販売方法を確認する

メーカー・委託者が特約店・代理店に対して商品(目的物)を売渡し、特約店・代理店が顧客に売渡すという転売フローとなる場合、当然のことながら顧客と契約関係に立つのは特約店・代理店となります。あたかも特約店・代理店がメーカー・委託者の代理人のようにふるまわれてしまっては困ります。特に、特約店・代理店の無責任な(?)セールストークによって、顧客からの直接のクレームを受けないようにするためにも、次のような条項を明記する必要がないかがチェック事項となります。

(例)
第×条(取引形態)
受託者は、委託者から本商品を買受け、自己の名と計算においてこれを他に販売する。

 

次に、特約店や代理店の役割は商品販売の仲介を行うというタイプの場合、顧客との関係で売主になるのはメーカー・委託者となります。したがって、商品(目的物)をいくらで売るのかは売主であるメーカー・委託者の判断となりますので、特約店や代理店に対し、商品(目的物)の販売価格を指定することは何ら問題がありません。

一方、メーカー・委託者が特約店・代理店に対して商品(目的物)を売渡し、特約店・代理店が顧客に売渡すという転売フローとなる場合、商品(目的物)は既に特約店・代理店の所有物になっている以上、その商品(目的物)をいくらで誰に売るのか、特約店・代理店の自由裁量となります。しかし、メーカー・委託者としては商品(目的物)の値崩れ防止等の観点から、特約店・代理店の顧客に対する販売価格を指定しようとしますが、これは再販価格の維持に該当するため、独占禁止法違反が成立することになってしまいます。

したがって、顧客への販売価格を指定する旨の条項を設けることはNGとなります。この点を意識しながら、それでもなお何らかの条項を置きたいというのであれば、次のような条項が参考になるかもしれません。ただ、道義的条項にすぎず法的効力が及びませんし、当該条項を根拠に実質的に見て販売価格を指定するようなことを行った場合、独占禁止法違反となりますので、要注意となります。

(例)
第×条(販売価格)
受託者は、本商品を販売する際、予め委託者が推奨した価格にて販売等を行うよう努める。

 

6.特約店・代理店の販売手法についてどこまでコントロールできるか確認する

メーカー・委託者としては、自らの営業力不足をカバー又は補完してもらうために、特約店・代理店契約を締結しています。したがって、販売手法については特約店・代理店にお任せするというのが原則的スタンスとなります。ただ、特約店・代理店が法令には違反しないものの強引な販売手法を行っている場合、口コミ等で商品(目的物)の悪評が立つなどしてかえって販売ができなくなってしまう場合があります。

したがって、メーカー・委託者としては、特約店・代理店の販売手法について例外的に関与できる余地を残しておきたいところです。特に商標等の標章の使用については、企業イメージにもかかわってきますので、適切な管理ができるよう条項化しておくことがポイントとなります。具体的には次のようなものです。

(例)
第×条(信用維持等)
1.受託者は、本商品の品質規格等を変更して販売したり、法令に違反した販売方法を行ったり、本商品の需要家に対し信義に反する行為を行なう等その他委託者の販売特約店として委託者の信用を害し又は害するおそれのある行為は一切行わない。
2.委託者は必要あると判断した場合は、受託者に対しその経営内容、取引の実態等について帳簿等の提出を求め、又は報告書の提出を求めることができる。
3.受託者が本商品の販売にあたり、名刺、パンフレット、看板等に委託者の商標等を使用する必要があるときは、事前の委託者の承諾を得た上、その指示に従い実施する。なお、これらの書類等は本契約が終了したときは、委託者の指示に従い廃棄その他適当な方法で処分するものとする。

 

なお、上記以外にも、例えば販促物についてメーカー・委託者が準備するのか、特約店・代理店自ら作成した販促物については事前にメーカー・委託者が内容確認する形をとるのか等、様々なパターンが想定されますので、上記条項案を適宜加除修正することになります。

 

7.契約終了に際して上手く対処できるか確認する

販路拡大を期待して特約店・代理店に商品(目的物)に委託したものの、思うような成果を上げることができないという場合、メーカー・委託者としては、契約関係を打ち切ることを検討しなければなりません。特に、特約店・代理店に対して、地域(テリトリー)の独占販売権を付与している場合は重大な問題となります。

したがって、契約の拘束力から、メーカー・委託者がなるべく不利益を被ることなく開放することができるのかという点がポイントとなります。具体的には次のような条項です。

(例)
第×条(中途解約)
委託者は受託者に対して、本契約終了の3ヶ月前に予告することで、本契約を解約することができる。

 

次に上記のような中途解約又は一般的に定められることが多い契約解除条項に従って契約を終了させた場合、

(1)転売型であれば、特約店・代理店が占有する商品(目的物)を引き上げるのか、引き揚げない場合は引き続き特約店・代理店に販売させることを認めるのか

(2)仲介型であれば、特約店・代理店が顧客と進めている商談をストップさせるのか

等について一定のルールを定めておくのがポイントとなります。例えば、次のような条項です(転売型に関する条項です)。

(例)
第×条(契約終了後の措置)
1.事由の如何を問わず本契約が終了したときは、受託者は、売買代金を完済していない引渡済品を委託者の指示に従い委託者の指定する場所で委託者又は委託者の指定する者に返還するものとし、また返還するまでの間善良な管理者の注意をもって本商品を保管する。
2.前項により受託者が返還義務を免れた商品にかかる個別売買契約については、本契約の各条項がなおその効力を有するものとする。

 

なお、特約店・代理店が保有する販促物、特にメーカー・委託者の標章が掲載されているものについては、適切な処分等ができるように明文化しておくことがポイントです。例えば次のような条項です(条項内容は前述の信用保持条項の一部引用となります)。

 

(例)
第×条(信用維持等)
3.受託者が本商品の販売にあたり、名刺、パンフレット、看板等に委託者の商標等を使用する必要があるときは、事前の委託者の承諾を得た上、その指示に従い実施する。なお、これらの書類等は本契約が終了したときは、委託者の指示に従い廃棄その他適当な方法で処分するものとする。

 

最後に、何らかの秘密情報が開示されている場合には、契約終了後の秘密保持義務を課しておく必要があります。例えば次のような条項です。

(例)
第×条(秘密保持)
本契約当事者は、本契約に関連して知り得た本商品の技術面及び販売面にかかる機密事項その他相手方の秘密を、本契約終了後といえども、他に漏洩してはならない。

 

 

<2020年12月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

 

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