労使紛争の解決に役立つ就業規則のチェックポイントを弁護士が解説!

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【ご相談内容】

就業規則の制定・見直しを検討しているのですが、厚生労働省がモデル就業規則を公表しているので、その内容をそのまま用いようと考えています。何か問題はあるでしょうか。

【回答】

いわゆるお役所が公表している資料ですので、たしかに信頼性は高いと思われます。ただ、モデル就業規則は個々の会社の実情に応じた内容になっていないことはもちろん、一部法律以上に会社に責任と義務を課している内容も含まれており、決して会社有利な内容とはなっていません。これらの注意事項について、【解説】で説明します。

【解説】

以下で引用するモデル就業規則は、厚生労働省が「平成31年3月版」として公表している内容に依拠しています。この点、ご注意願います(なお、この記事を作成した2020年4月時点で最新のモデル就業規則は「平成31年3月版」となります)。

第1章 総則

第1条(目的)
1.この就業規則(以下「規則」という。)は、労働基準法(以下「労基法」という。)第89条に基づき、××株式会社の労働者の就業に関する事項を定めるものである。
2.この規則に定めた事項のほか、就業に関する事項については、労基法その他の法令の定めによる。

第2条(適用範囲)
1.この規則は、××株式会社の労働者に適用する。
2.パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
3.前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

第3条(規則の遵守)
会社は、この規則に定める労働条件により、労働者に就業させる義務を負う。また、労働者は、この規則を遵守しなければならない。

第1条と第3条は当たり前のことを規定したものに過ぎず、あえて就業規則に記載しなければならないわけではありません。

ポイントは第2条、この就業規則がどの属性に分類される労働者に適用されるのかという点です。一般的には、いわゆる正社員と非正規雇用の社員(契約社員、パート、アルバイト等が典型ですが、今後は無期転換社員も含める必要があります)とは処遇や労務管理は異なることを前提にしている会社が多いと考えられます。ところが、就業規則に適用される労働者の属性について明確にしない場合、非正規雇用の社員にも正社員と同じ就業規則が適用されてしまい、実際の処遇や労務管理上の不都合が生じえます(例:業務内容、責任負担、人事評価、人事異動などの業務命令、育児介護休暇の適用範囲など)。したがって、第2条第2項で規定されている通り、適用対象となる労働者を明確にし、適用対象外となる労働者は別の就業規則を作成するのが労務管理の基本となります。

なお、いわゆる働き方改革の一項目である「均等待遇・均衡待遇」の観点から、正社員と非正規社員との待遇差を設けてよいのか、設けてよいとして合理的な程度と言えるのか、別途検討を行う必要があります。この検討の際、同一労働同一賃金という言葉が独り歩きした成果、賃金(特に手当)についてのみ検討すれば足りると考えるのは誤りです。均等待遇・均衡待遇は毎月の賃金のみならず、賞与、退職金、昇給、その他福利厚生などのあらゆる待遇が問題となってきます。この点は要注意です。

 

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第2章 採用・異動等

採用関係

第4条(採用手続)
会社は、入社を希望する者の中から選考試験を行い、これに合格した者を採用する。

第5条(採用時の提出書類)
1.労働者として採用された者は、採用された日から×週間以内に次の書類を提出しなければならない。
①住民票記載事項証明書
②自動車運転免許証の写し(ただし、自動車運転免許証を有する場合に限る。)
③資格証明書の写し(ただし、何らかの資格証明書を有する場合に限る。)
④その他会社が指定するもの
2.前項の定めにより提出した書類の記載事項に変更を生じたときは、速やかに書面で会社に変更事項を届け出なければならない。

第4条は当然のことを規定していますので、特にコメントはありません。

第5条については、書類提出の期限を採用日以降にしていますが、これについては要注意です。
時々あるのですが、身元保証書等の会社が指定する書類を勤務開始後いつまで経っても提出しない労働者が存在するからです。提出期限については遅くとも勤務開始日までといった明確な期限を設定しること、また、万一提出しない労働者は採用しないという方針をとるのであれば、内定時に提出させ、当該書類の提出をもって採用決定にするといった前倒しも検討に値します(なお、内定取消し事由として書類不提出の場合を明記するのも一案です)。
あと、第5条に記載のある提出書類ですが、現場実務(特に総務担当者)の便宜を考えた場合、マイナンバーカード等の提出も明記したほうが無難です。

 

試用期間

第6条(試用期間)
1.労働者として新たに採用した者については、採用した日から×月間を試用期間とする。
2.前項について、会社が特に認めたときは、使用期間を短縮し、又は設けないことがある。
3.試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第51条第2項に定める手続によって行う。
4.試用期間は、勤続年数に通算する。

世間では誤解があるようなのですが、試用期間中であっても、労働者との労働契約が成立している以上、労働者を辞めさせることは解雇に該当します。
そして、解雇に該当する以上は簡単に辞めさせることはできません。特に、会社の期待する能力を持ち合わせていなかったとして解雇する場合は、会社が求める基準を客観化し、教育指導を徹底させたという履歴を残しておかないことには、不当解雇として争われた場合、使用者・会社側にとっては厳しい判断になる可能性が高いと言わざるを得ません。
もし、試用期間を会社が当該労働者の能力を見極める期間であり、試用期間満了と同時に残ってもらうか去ってもらうか決めたいというのであれば、試用期間に相当する有期雇用契約を締結し、期間満了をもって社員として登用するか否かを決めるというプロセスを踏んだ方が安全です。ただし、この場合、有期雇用=非正規雇用となりますので、求人票や求人広告その他採用募集時には正社員募集と記載するわけにはいかないことには注意が必要です。

 

第7条(労働条件の明示)
会社は、労働者を採用するとき、採用時の賃金、就業場所、従事する業務、労働時間、休日、その他の労働条件を記した労働条件通知書及びこの規則を交付して労働条件を明示するものとする。

これについても就業規則の内容としては問題ありません。
ただ、現場実務としては、労働条件通知書はどこまでいっても使用者・会社側が一方的に提示する書面に過ぎず、後で労働者より「そのような労働条件には合意していない」と言われてしまうリスクがあります。したがって、実際の現場対応としては、労働条件通知書ではなく、労働契約書という形で、労働者からの署名押印をとる格好にするべきです(労働条件通知書の形式にしつつ、労働者から署名押印をもらうという形でもOKです)。
また、労働条件の明示を行う場合、最近多い賃金体系である「固定残業代(定額残業代、みなし残業代)」を用いるのであれば、労働条件通知書に、固定残業代に該当する賃金名目と何時間分の残業代が含まれるのか、時間外労働だけではなく、深夜労働や休日労働分も含まれるのか等を明記しておくことも重要です(当然のことながら、就業規則や賃金規程も固定残業代制度を採用していることが前提となります)。

 

第8条(人事異動)
1.会社は、業務上必要がある場合に、労働者に対して就業する場所及び従事する業務の変更を命ずることがある。
2.会社は、業務上必要がある場合に、労働者を在籍のまま関係会社へ出向させることがある。
3.前2項の場合、労働者は正当な理由なくこれを拒むことはできない。

これは使用者・会社側による配置転換の根拠となる条項となります。裏を返せば、何かの際に配置転換を行おうとした場合、この条項がないことには、直接的な明文上の根拠がなくなってしまうため、配置転換を拒絶された場合の対応に苦慮することになります。
したがって、この条項は必須と考えるべきでしょう。なお、配置転換は原則会社の合理的裁量(人事政策など)により行ってもよいとされていますが、最近では、配置転換に伴う就業場所の異動と労働者の育児介護とが対立する場面が増えています。育児介護への配慮が必要となっていることに要注意です。
次に、2項は、在籍出向(会社に籍を置く=労働契約を残したまま出向すること)について規定していますが、いわゆる転籍出向(会社に籍を置かない=労働契約を終了させて関係会社と新たに労働契約を締結すること)については、会社の一方的指示により行うことはできません。労働者の同意が必要となること要注意です。

 

休職

第9条(休職)
1.労働者が、次のいずれかに該当するときは、所定の期間休職とする。
①業務外の傷病による欠勤が×か月を超え、なお療養を継続する必要があるため勤務できないとき…×年以内
②前号のほか、特別な事情があり休職させることが適当と認められるとき…必要な期間
2.休職期間中に休職事由が消滅したときは、原則として元の職務に復帰させる。ただし、元の職務に復帰させることが困難又は不適当な場合には、他の職務に就かせることがある。
3.第1項第1号により休職し、休職期間が満了してもなお傷病が治癒せず就業が困難な場合は、休職期間の満了をもって退職とする。

まず確認していただきたいのが、休職制度を設けるか否かは全く会社の裁量です。
したがって、休職制度を設けないという選択肢をとってもまったく問題ありません。ただ、多くの企業では休職制度を設けていること、私傷病を理由に直ちに解雇することが果たして適切と言えるのか、非常に微妙な問題があることからすれば、設けた方が望ましいのではないかと考えられます。
そして、設けるのであれば、最近問題となっているメンタルヘルス問題に対応できる休職制度にするべきです。例えば、第1項①では欠勤期間が継続して×カ月となっていますが、メンタルヘルス問題の特徴は、断続的な出勤を繰り返すということです。つまり継続して長期欠勤を行わない事例がありますので、「同一傷病による欠勤が通算して×日を超えた場合」といった形に修正したほうが対処しやすいと思われます。
なお、メンタルヘルス問題に対応するべく、他にも次のような点にも注意しながら就業規則の整備を図るべきです。
①私傷病休職制度の適用対象者の絞り込み
②メンタルヘルス不調疑義者に対する受診命令の根拠規定の整備
③出勤停止措置の根拠規定の整備
④私傷病休職命令の要件の整備
⑤休職期間中の診断書提出義務の根拠規定の整備
⑥復職の判断基準の整備
⑦リハビリ出社・リハビリ出勤(連動して賃金規程も要検討)
⑧休職期間の通算規定の整備

 

第3章 服務規律

服務の内容

第10条(服務)
労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない。

第11条(遵守事項)
労働者は、以下の事項を守らなければならない。
①許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用しないこと。
②職務に関連して自己の利益を図り、又は他より不当に金品を借用し、若しくは贈与を受ける等不正な行為を行わないこと。
③勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと。
④会社の名誉や信用を損なう行為をしないこと。
⑤在職中及び退職後においても、業務上知り得た会社、取引先等の機密を漏洩しないこと。
⑥酒気を帯びて就業しないこと。
⑦その他労働者としてふさわしくない行為をしないこと。

トラブル対応を行う弁護士としては、一番整備してほしいところが、実は服務規律の部分です。
何が禁止されているのか、されていないのか常識でわかるだろうと思われるかもしれませんが、裁判や団体交渉等のトラブルになった場合、「明文化されていない以上、禁止されていない」という傾向になりがちだからです。つまり、たとえ常識と思われる事項があったとしても、就業規則上は逐一書いておかないことには通用しないと考えておくべきです。
特に最近では、SNS(ツイッター、ブログ、フェイスブック等)による情報漏えい、炎上騒ぎが頻発していますので、第11条④⑤のような抽象的な規定ではなく、どういった情報は投稿禁止なのか具体的に規定することが必須ではないかと思われます。

なお、具体的にはどういった事項を服務規律として規定するべきなのか、ご参考までに例示します(会社の実情に合わせて取捨選択したり、実情に応じた修正が必要なので、このままコピペして使っても問題なしという趣旨ではありません)。
(1)常に健康に留意し、積極的な態度をもって勤務すること
(2)勤務時間を励行し、遅刻または早退するときは所属長に申し出ること
(3)欠勤する時または休暇を取得するときはあらかじめ所属長に申し出ること
(4)自己の業務上の権限を越えて専断的なことを行わないこと
(5)会社の業務上の機密および会社の不利益となる事項を他に漏らさないこと
(6)会社の車輪、機械、器具その他備品を大切にして消耗品の浪費を慎むこと
(7)職場の整理整頓に努め、常に清潔を保つようにすること
(8)会社の許可なくソフトウェアのコピーを行わないこと
(9)お客様に対しては、常に明るく親切に対応すること
(10)酒気を帯びて勤務しないこと
(11)相手方の意に反する性的な言動により、その者に不利益な労働条件を与えたり、就業環境を不快なものにする行為をしないこと
(12)始業時刻にはすぐに業務に取り掛かれるようにすること
(13)セクシャル・ハラスメント、パワー・ハラスメントなどにあたる行為をして、他の従業員、取引先その他関係者に迷惑をかけないこと
(14)従業員同士または取引先との金銭の貸借を行わないこと。なお、金銭貸借時の保証人になりあうことも同様とする。
(15)業務の遂行にあたっては、会社の方針を尊重するとともに、上長・同僚と協力し合って、円滑なチームワークに努めること。
(16)会社または会社に属する個人を中傷、誹謗し、あるいはその名誉、信用を傷つけないこと
(17)私事に関する金銭取引その他証書類に会社の名称を用いないこと
(18)職制に定められた所属長の命令又は指示をよく守り、率先して、その職責を遂行すること
(19)会社の掲げる方針や約束事、命令、注意、通知事項を必ず遵守すること。
(20)所定の場所以外で喫煙し、又はたき火、電熱器などの火器を許可なく使用しないこと
(21)勤務時間中は、所属長の許可なく職場を離れないこと、また他の従業員の職務を妨害しないこと
(22)許可なく職務以外の目的で会社の設備、車輌、機械、器具その他の物品を使用しないこと
(23)会社の許可なく、在籍のまま、他に雇用されたり、又は自己の営利を目的とする行為を行わないこと
(24)社内において、許可なく業務に関係のない印刷物等の配布又は掲示回覧しないこと
(25)会社の許可なく、会社の業務関係データ、資料その他一切の情報を個人のパソコンに取り込まないこと。
(26)業務はまじめに誠実に取り組み、社内の調和を乱す行為をしないこと
(27)他の従業員と共謀し会社の不利になるようなことを行ったり、そそのかしたり、教唆したりしないこと
(28)暴行、脅迫、傷害、監禁、賭博、窃盗、器物の破壊等の行為、または職場の風紀秩序を乱す行為、あるいは他人の業務を妨害する行為をしないこと
(29)職務上の地位を利用して自己の利益を図ったり、また、金品の貸借関係を結んだり、贈与、饗応の利益を受けたりしないこと
(30)会社の許可なく、みだりに外来者を職場内に立ち入らせないこと。また、外部の人に諸会社を撮影、スケッチ等をさせたり、会社内の物品を贈与しないこと
(31)外部から持ち込んだ記録媒体を会社のパソコンに挿入する時は、ウイルスチェックの実施後に行うこと
(32)業務上必要としない火器、凶器その他の危険と思われる物品を所持しないこと
(33)流言、悪口、侮辱、強要、勧誘、迷惑となる行為をしないこと
(34)会社の電話を私的使用しないこと
(35)会社のパソコンを使用して、私的なメールのやり取りを行わないこと
(36) 勤務時間内における会社からの電話・メールなどの連絡に対して、途絶えないようにすること
(37)会社の許可なく、残業しないこと(場外・場内)。
(38)正社員として、採用された者については、採用後1ヶ月以内にその年の年次計画書を提出すること。その後毎年、1月中に年次計画書を提出すること
(39)社内のグループウェアにより連絡する事があるので、業務上使用するPCにインストールして業務指示などを受け取れる状態にしておくこと
(40) 業務上取り扱いまたは取り扱った情報については、ソーシャルメディアポリシーに従い、在職中はもちろん退職後においても及び就業時間内外を問わず、他に開示、漏洩しないこと

 

ハラスメント

第12条(職場のパワーハラスメントの禁止)
職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

第13条(セクシュアルハラスメントの禁止)
性的言動により、他の労働者に不利益や不快感を与えたり、就業環境を害するようなことをしてはならない。

第14条(妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメントの禁止)
妊娠・出産等に関する言動及び妊娠・出産・育児・介護等に関する制度又は措置の利用に関する言動により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

第15条(その他あらゆるハラスメントの禁止)
第12条から前条までに規定するもののほか、性的指向・性自認に関する言動によるものなど職場におけるあらゆるハラスメントにより、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。

第12条については、雇用管理上必要な措置の1つとして必ず規定しておかなければならない条項です。これがないことには一切セクハラ対策をやっていなかったと言われても仕方がないくらい重要な条項となります(当然のことながら、設けただけではダメですが)。

第13条はパワーハラスメント(パワハラ)についてです。最近はパワハラ問題が労働相談事例で大きな比重を占めていること、相談体制等の整備を含めた雇用管理上の措置が義務付けられる方針であることを踏まえ、パワハラについても最低限この程度の条項は設けておくべきでしょう。なお、第13条では抽象的過ぎて、何がパワハラか分からないというのであれば、厚生労働省が示しているパワハラ6類型を具体的に示した条項にすることも一案です。例えば次のようなものです。
「職務上の地位や人間関係などの職場内の優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動(例えば、暴行・傷害(身体的な攻撃)、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)、隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)、業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)、私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)など)により、他の労働者の就業環境を害するようなことをしてはならない。」

第14条はいわゆるマタニティハラスメント(マタハラ)と呼ばれる問題です。マタハラについても雇用管理上必要な措置を講じなければならないことから、このような条項を設けることは必須となります。

第15条については最近社会的に認知されつつあるLGBT等に関する問題です。本来的にはセクハラ問題の1つに位置づけられるので、あえて独立条項とする必要性はないかもしれませんが、注意喚起する上で別途定めるということも検討してよいかもしれません。

>>会社が従業員よりパワハラと言われないために対処するべき事項とは?

第16条(個人情報保護)
1.労働者は、会社及び取引先等に関する情報の管理に十分注意を払うとともに、自らの業務に関係のない情報を不当に取得してはならない。
2.労働者は、職場又は職種を異動あるいは退職するに際して、自らが管理していた会社及び取引先等に関するデータ・情報書類等を速やかに返却しなければならない。

第17条(始業及び終業時刻の記録)
労働者は、始業及び終業時にタイムカードを自ら打刻し、始業及び終業の時刻を記録しなければならない。

第18条(遅刻、早退、欠勤等)
1.労働者は遅刻、早退若しくは欠勤をし、又は勤務時間中に私用で事業場から外出する際は、事前に××に対し申し出るとともに、承認を受けなければならない。ただし、やむを得ない理由で事前に申し出ることができなかった場合は、事後に速やかに届出をし、承認を得なければならない。
2.前項の場合は、第43条に定めるところにより、原則として不就労分に対応する賃金は控除する。
3.傷病のため継続して×日以上欠勤するときは、医師の診断書を提出しなければならない。

第16条から第18条については、トラブル事例を想定して特に条項修正等が必要であるといったコメントはありません。あえて指摘するとすれば、第16条では標題が「個人情報保護」となっていますが、情報管理一般に関する内容ですので「個人情報その他業務情報の保護」が正確といったところでしょうか。

なお、就業規則の文言とは直接関係しませんが、第17条に関連し労働時間の算定方法については、色々と誤解があるように思います。例えば、15分刻みで15分未満は切り捨てといった算定を行う会社もあるようですが、そのような取り扱いはNGです。1分毎で労働時間を算定する必要があることにご注意ください。
また、次のような場合も労働時間として算定されますので、十分ご注意ください(以下の3事例は厚生労働省が労働時間に該当するものとして公表している内容です)。
①会社の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 

第4章 労働時間、休憩及び休日

労働時間管理

第19条(労働時間及び休憩時間)
1.労働時間は、1週間については40時間、1日については8時間とする。
2.始業・終業の時刻及び休憩時間は、次のとおりとする。ただし、業務の都合その他やむを得ない事情により、これらを繰り上げ、又は繰り下げることがある。この場合、×前日までに労働者に通知する。
①一般勤務××
②交代勤務(日勤××、準夜勤××、夜勤××)
(※勤務形態別の始業・就業時間の記載例は省略)
3.交替勤務における各労働者の勤務は、別に定めるシフト表により、前月の×日までに各労働者に通知する。
4.交替勤務における就業番は原則として×日ごとに×番を×番に、×番を×番に、×番を   ×番に転換する。
5.一般勤務から交替勤務へ、交替勤務から一般勤務への勤務形態の変更は、原則として休日又は非番明けに行うものとし、前月の×日前までに×が労働者に通知する。

モデル就業規則では上記のような「完全週休2日制」を全体にした条項例以外に、「1ヶ月単位の変形労働時間制」や「1年単位の変形労働時間制」についても条項例が掲載されています。必要に応じてモデル就業規則例の内容をご参照ください。

さて、上記規定内容に関連してですが、いわゆるシフト(輪番)制をとる場合、「別途シフト表により定める」とだけ記載して、各シフトにおける具体的な始業・終業時間が就業規則上明記されていない場合があります。これでは労働基準法89条に定める始業・終業時間を定めたことにはなりません。必ずシフトごとで始業・終業時間を定める必要があること要注意です。
次に、一週の労働時間に関する特例にまつわる勘違いについて触れておきます。1週間の労働時間の上限は40時間と定められています。但し、特例措置として、商業(労基法別表第1第8号)、映画の製作の事業を除く映画・演劇業(同第10号)、保健衛生業(同第13号)、接客娯楽業(同第14号)の事業であって、労働者数10人未満の事業場(以下「特例措置対象事業場」といいます。)は、1週44時間まで働かせることが認められています(労基法第40条、労基法施行規則第25条の2)。したがって、上記業種に該当するにもかかわらず、1週間の労働時間を40時間としたうえで賃金体系を構築した場合、当然のことながら40時間超の部分は基本給ではカバーされず、残業代として別途支払う必要が生じますので注意が必要です(なお、40時間を超え44時間までの労働時間に対応する賃金について、理論的には割増分は不要なのですが、賃金規程等の定め方によっては本来不要な割増分を支払う必要が出てきますので要注意です)。
さらに、休憩の一斉付与に関する勘違いです。意外と意識されていないのが、法律上の大原則論は、休憩の全従業員に対して、一斉に付与しなければならないということです。つまり、お昼休憩中に電話対応のため交代で休憩をとるということが原則認められていません。もし、交代で休憩を取らせたいのであれば労使協定を締結する必要があります。もっとも、運輸交通業(労基法別表第1第4号)、商業(同第8号)、金融・広告業(同第9号)、映画・演劇業(同第10号)、通信業(同第11号)、保健衛生業(同第13号)、接客娯楽業(同第14号)及び官公署の事業について、労使協定なくして一斉に休憩を与えなくてもよい旨が定められています。このあたりについても注意はしておくべきでしょう。

なお、最後に、最近「勤務間インターバル」と呼ばれる制度について、ここで触れておきます。これは業務の終了時間から翌日の業務開始時間までの休息時間について、最低限×時間の休息時間を付与しようという制度です。法制度としては存在しますが、現時点(2020年1月1日時点)では義務化はされていません。したがって、勤務間インターバル制度を設けるか否かは任意なのですが、助成金の支給対象にする等して行政は導入支援を行っています。興味のある事業者は導入を検討してもよいかもしれません。

 

第20条(休日)
1.休日は、次のとおりとする。
①土曜日及び日曜日
②国民の祝日(日曜日と重なったときは翌日)
③年末年始(12月  日~1月  日)
④夏季休日(  月  日~  月  日)
⑤その他会社が指定する日
2.業務の都合により会社が必要と認める場合は、あらかじめ前項の休日を他の日と振り替えることがある。

よく見かける条項なのですが、賃金管理のことも考えるのであれば、上記第1項は、法定休日はいつ、法定外休日はいつ…と分けて規定したほうが無難です。なぜならば、法定休日に出勤した場合は1.35の割増賃金となりますが、法定外休日に出勤した場合は単なる時間外労働ですので1.25の割増賃金となるからです。賃金計算で誤解を与えないためにも、確実に会社が休みであるという日を法定休日として明記するべきでしょう。

あと、上記第2項に関連して、実務上非常に間違われている「振替休日」と「代休」ですが、かなり世間では誤解があるようですので、厚生労働省が公表している説明内容を以下引用しておきます。
∇労働基準法上の振替休日と代休の取扱いの違い
①振替休日は、あらかじめ定められた法定休日を他の日に振り替えることですから、振替前の休日に勤務しても通常の勤務と同じです。したがって、休日労働に対する割増賃金の問題は発生しませんが、振り替えた休日が週をまたがった場合、振替勤務したことにより、当該週の実労働時間が週の法定労働時間を超える場合があります。その場合は時間外労働に対する割増賃金の支払が必要となります。
その一方で、代休は、定められた法定休日に休日労働を行わせた場合ですから、その後に代休を与えても休日労働をさせたことが帳消しにされるものではありませんので、休日労働に対する割増賃金を支払う必要があります。
②休日は労働者の労働義務のない日ですから、これを振り替える場合は、以下に示す措置が必要となります。
ア 就業規則に振替休日の規程を置くこと。
イ 振替休日は特定すること。
ウ 振替休日は4週4日の休日が確保される範囲のできるだけ近接した日とすること。
エ 振替は前日までに通知すること。

>>会社が割増賃金を支払うに際して注意するべき事項とは?

 

時間外労働(残業)

第21条(時間外及び休日労働等)
1.業務の都合により、第19条の所定労働時間を超え、又は第20条の所定休日に労働させることがある。
2.前項の場合、法定労働時間を超える労働又は法定休日における労働については、あらかじめ会社は労働者の過半数代表者と書面による労使協定を締結するとともに、これを所轄の労働基準監督署長に届け出るものとする。
3.妊娠中の女性、産後1年を経過しない女性労働者(以下「妊産婦」という)であって請求した者及び18歳未満の者については、第2項による時間外労働又は休日若しくは深夜(午後10時から午前5時まで)労働に従事させない。
4.災害その他避けることのできない事由によって臨時の必要がある場合には、第1項から前項までの制限を超えて、所定労働時間外又は休日に労働させることがある。ただし、この場合であっても、請求のあった妊産婦については、所定労働時間外労働又は休日労働に従事させない。

就業規則の規定内容それ自体は当たり前のことしか書いていないため、条項それ自体の修正等に関するコメントはありません。
ただ、この部分は働き方改革により時間外勤務に上限規制が設けられるなど、現場運用面では大きな変更が生じる分野となります。以下、簡単に時間外勤務の上限規制について解説を行います。

(1)残業指示を出す場合、原則1ヶ月当たり45時間以内の範囲内となること
上限時間に関する法的根拠が定められたこと、働き方改革による法改正の重要なポイントとなります。法律上の根拠が定められたということは、裏を返せば上限規制に違反した場合、違法行為となり刑事罰を受けるということになります。この上限ですが、原則的には1ヶ月当たり45時間の残業しか認められないこととなりました。
しかし、繁忙期に業務量がどうしても増える等の特別な事情もあることから、どうしても45時間を超えて残業せざるを得ない場合も想定されます。そこで、45時間を超えてさらに例外的に残業を行いたいという特別な事情がある場合、労使協定に「特別条項」と呼ばれるものを定めて労働基準監督署に提出しておけば、45時間超の残業を行うことができるようになります。整理すると、残業ルールに関しての概略は次のとおりです。
・法の建前 …残業禁止
・残業ルール…労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることで、1ヶ月45時間の範囲で残業可能。
・残業ルールの例外…1ヶ月45時間の残業で収まらない場合、労使協定に特別条項を定めることで、45時間超の残業が可能。
なお、誤解がないよう触れておきますと、残業させるためには労使(サブロク)協定が必要ですが、仮に労使協定が無くても残業させてしまった場合、その残業分に対する対価=賃金の支払い義務は生じます。たまに労使協定がない以上、残業代を支払う必要がないと強弁する方がいますが、残業させて良いかという問題と、残業してしまった場合の賃金支払いはどうなるのかという問題は全く次元の異なる問題であることを、ご理解いただければと思います。

(2)45時間を超える残業をさせることができるのは極めて例外扱いであること
今回の働き方改革による法改正の目玉であると同時に、非常に悩ましい(混乱を招く)のが45時間超の残業が認められる場合の条件についてです。
ポイントとしては、①年720時間以内であること、②複数月平均(2ヶ月平均、3ヶ月平均、4ヶ月平均、5ヶ月平均、6ヶ月平均)のいずれにおいても80時間(休日労働含む)以内であること、③1ヶ月において月100時間未満であること、④月45時間超となるのは年6回を上限とすること、この4つの条件を充足させる必要があります。おそらく現場で混乱しやすいのは②ではないかと想像しますが、例えば、ある月に90時間、翌月70時間、翌々月90時間、それぞれ残業があった場合、3か月平均すれば80時間超となりますので法律違反となります。この点は要注意であると共に、労働時間管理が一層重要になります。

(3)残業許可制は運用実態が重要であること
残業について法定の上限が定められ、違反した場合は刑事罰の対象となることから、会社としては従業員の独自判断により残業をさせるわけにはいきません。そこで、就業規則上、残業する場合は上長の許可を得て行うこと、上長の許可を得ない残業は労働時間として算定しないことを明記する等の対策を講じる会社も出てきました。
誤解のないよう申し上げると、残業許可制を採用すること、それ自体は適法です。問題なのは、許可制といいつつ全く社内で運用されていない、仕事量からして残業せざるを得ない状況であり会社も上司もその点を認識していた、といった場合です。形式的には上司の許可を得ていませんが、こういった事例の場合、ほとんどの場合で黙示の許可があったと裁判では認定されることになります。
就業規則を制定しても、その内容どおりに運用されていなければ、せっかくの規定が無意味になってしまうという典型例ですので、ご注意ください。

>>元従業員が残業代請求した場合における会社が検討するべき事項とは?

第5章 休暇等

年次有給休暇

第22条(年次有給休暇)
1.採用日から6か月間継続勤務し、所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、10日の年次有給休暇を与える。その後1年間継続勤務するごとに、当該1年間において所定労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、下の表のとおり勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
(※表については省略)
2.前項の規定にかかわらず、週所定労働時間30時間未満であり、かつ、週所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数を定める労働者については年間所定労働日数が216日以下)の労働者に対しては、下の表のとおり所定労働日数及び勤続期間に応じた日数の年次有給休暇を与える。
(※表については省略)
3.第1項又は第2項の年次有給休暇は、労働者があらかじめ請求する時季に取得させる。ただし、労働者が請求した時季に年次有給休暇を取得させることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に取得させることがある。
4.前項の規定にかかわらず、労働者代表との書面による協定により、各労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある。
5.第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。
6.第1項及び第2項の出勤率の算定に当たっては、下記の期間については出勤したものとして取り扱う。
①年次有給休暇を取得した期間
②産前産後の休業期間
③育児・介護休業法に基づく育児休業及び介護休業した期間
④業務上の負傷又は疾病により療養のために休業した期間
7.付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる。
8.前項について、繰り越された年次有給休暇とその後付与された年次有給休暇のいずれも取得できる場合には、繰り越された年次有給休暇から取得させる。
9.会社は、毎月の賃金計算締切日における年次有給休暇の残日数を、当該賃金の支払明細書に記載して各労働者に通知する。

働き方改革による法改正により、企業規模を問わず、年次有給休暇の強制取得制度は2019年4月1日より義務付けられました。この結果、会社は1年間当たり5日間の年次有給休暇を義務として取得させなければならないことになります。この点を反映させたのが第5条の内容です。

ところで、今まで通常勤務日と設定した日のうち5日間を年次有給休暇に割り当てる必要がある以上、中小企業では人員配置に苦労しているという話を耳にします。そこで、なるべく影響を及ぼしたくないとして、法律上は祝日ではないが、なんとなく休みにしていた日(お盆休み、年末年始など)を年次有給休暇に割り当てることができないか、といったことを検討する場合があります。
これについては結論だけでいうと可能です。但し、これまで慣例として休日扱いであり、年次有給休暇の消化が行われていなかった以上、使用者(会社・事業主)が一方的に行うことはできません(労働条件の不利益変更)。したがって、説明会を行うなどして個々の労働者に説明・納得をしてもらいつつ、就業規則の変更手続きを適切に履行し、休日の範囲と年次有給休暇の計画付与について明確にするべきです。
年次有給休暇の強制取得以外に実務上留意したいのは、上記第4項、第7項及び第8項です。
まず、上記第4項ですが、いわゆる「年休・有給の計画的付与」と呼ばれる制度です。計画的付与の制度を導入する義務はないのですが、色々な事情で年休の取得率を向上させる必要性がある企業にとっては、導入のメリットがあると思います(上記の通り、年休取得義務への対応策としても検討に値します)。また、賃金管理の観点からは、いわゆるお盆休みや年末年始休暇の時期を計画的付与の導入によって年休扱いにするという方法もあり得るかもしれません。
次に、上記第7項ですが、年次有給休暇の消滅時効に関する規定になります。まず確認ですが、実は法律上、年次有給休暇の消滅時効を真正面に定めた規定は存在しません。解釈上は2年が穏当だろうと考えられているという意味合いに過ぎません。このため、過去2年より前に遡って取得した年休を要求された場合、あるいは退職時に年休の買い取りを要求された場合、対応に苦慮することがあります。そのような場面に備えて、穏当な解釈とされる2年の消滅時効を明記するのはリスクヘッジの観点から望ましいといえます(なお、2020年4月施行の民法改正によっても2年という解釈は維持されそうです)。
さらに、上記第8項ですが、付与された年次有給休暇のどれから消化していくべきかのルールに関する内容となります。これも意外と現場実務では頭を悩ますものであり、残年休日数がいくらかというときに、古いものから消化したのか、新しいものから消化したのかはっきりさせておかないことにはトラブルとなります。なお、どちらから消化するのか特段のルールはありませんので、直近で取得した分から消化していくという形で規定しても、直ちに違法とはならないと考えられます。

 

第23条(年次有給休暇の時間単位での付与)
労働者代表との書面による協定に基づき、前条の年次有給休暇の日数のうち、1年について5日の範囲で次により時間単位の年次有給休暇(以下「時間単位年休」という。)を付与する。
(1)時間単位年休付与の対象者は、すべての労働者とする。
(2)時間単位年休を取得する場合の、1日の年次有給休暇に相当する時間数は、以下のとおりとする。
①所定労働時間が5時間を超え6時間以下の者…6時間
②所定労働時間が6時間を超え7時間以下の者…7時間
③所定労働時間が7時間を超え8時間以下の者…8時間
(3)時間単位年休は1時間単位で付与する。
(4)本条の時間単位年休に支払われる賃金額は、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金の1時間当たりの額に、取得した時間単位年休の時間数を乗じた額とする。
(5)上記以外の事項については、前条の年次有給休暇と同様とする。

年次有給休暇の時間単位取得制度ですが、福利厚生の充実という意味では導入の価値があるものの、時間管理・賃金管理等の労務管理が非常に面倒なのも事実です。また、先に述べた年次有給休暇の5日間強制取得に関連し、時間単位で取得させても通算して1日分取得させたという取り扱いにはなりません。
正直なところ、使用者・会社側弁護士の視点としては、よほど労務管理がしっかりしている企業・事業者以外は、時間単位の年次有給休暇の制度は運用面で大変な作業になってしまうのではないかと懸念するところです。

 

第24条(産前産後の休業)
1.6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性労働者から請求があったときは、休業させる。
2.産後8週間を経過していない女性労働者は、就業させない。
3.前項の規定にかかわらず、産後6週間を経過した女性労働者から請求があった場合は、その者について医師が支障ないと認めた業務に就かせることがある。

第25条(母性健康管理の措置)
1.妊娠中又は出産後1年を経過しない女性労働者から、所定労働時間内に、母子保健法(昭和40年法律第141号)に基づく保健指導又は健康診査を受けるために申出があったときは、次の範囲で時間内通院を認める。
①産前の場合
妊娠23週まで・・・・・・・・4週に1回
妊娠24週から35週まで ・・・2週に1回
妊娠36週から出産まで ・・・・1週に1回
ただし、医師又は助産師(以下「医師等」という。)がこれと異なる指示をしたときには、その指示により必要な時間
②産後(1年以内)の場合
医師等の指示により必要な時間
2.妊娠中又は出産後1年を経過しない女性労働者から、保健指導又は健康診査に基づき勤務時間等について医師等の指導を受けた旨申出があった場合、次の措置を講ずる。
①娠中の通勤緩和措置として、通勤時の混雑を避けるよう指導された場合は、原則として×時間の勤務時間の短縮又は×時間以内の時差出勤を認める。
②妊娠中の休憩時間について指導された場合は、適宜休憩時間の延長や休憩の回数を増やす。
③妊娠中又は出産後の女性労働者が、その症状等に関して指導された場合は、医師等の指導事項を遵守するための作業の軽減や勤務時間の短縮、休業等の措置をとる。

第26条(育児時間及び生理休暇)
1.1歳に満たない子を養育する女性労働者から請求があったときは、休憩時間のほか1日について2回、1回について30分の育児時間を与える。
2.生理日の就業が著しく困難な女性労働者から請求があったときは、必要な期間休暇を与える。

第27条(育児・介護休業、子の看護休暇等)
1.労働者のうち必要のある者は、育児・介護休業法に基づく育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、育児・介護のための所定外労働、時間外労働及び深夜業の制限並びに所定労働時間の短縮措置等(以下「育児・介護休業等」という。)の適用を受けることができる。
2.育児・介護休業等の取扱いについては、「育児・介護休業等に関する規則」で定める。

上記規定については、法律上の制度通りの条件を明記することがまずもっての対処法になるかと思います。
なお、第27条については別規程で定めるとなっていますが、このあたりの内容については大きな法改正が今後も予想されるところであり、柔軟に変更可能となるよう別規程化し都度修正するという対応が望ましいように思います。

 

第28条(慶弔休暇)
労働者が申請した場合は、次のとおり慶弔休暇を与える。
①本人が結婚したとき ×日
②妻が出産したとき ×日
③配偶者、子又は父母が死亡したとき ×日
④兄弟姉妹、祖父母、配偶者の父母又は兄弟姉妹が死亡したとき ×日

第29条(病気休暇)
労働者が私的な負傷又は疾病のため療養する必要があり、その勤務しないことがやむを得ないと認められる場合に、病気休暇を×日与える。

一昔前の就業規則であれば、慶弔休暇や病気休暇を設けた上で、年次有給休暇とは別に賃金を支給するという形にしてあったのですが、最近ではこのような休暇制度自体設けていないところも多いようです。
法律的にはこういった休暇制度を設ける必要はありませんし、ましてや勤務していないにもかかわらず賃金を支給することが果たして適切か、福利厚生として望ましいのかを含めて再検討してもよいと思われます。

 

第30条(裁判員等のための休暇)
労働者が裁判員若しくは補充裁判員となった場合又は裁判員候補者となった場合には、次のとおり休暇を与える。
①裁判員又は補充裁判員となった場合 必要な日数
②裁判員候補者となった場合 必要な時間

裁判員制度で呼び出しを受けた場合、会社としても協力せざるを得ませんので、こういった規定を設けるのも一案かもしれません。なお、法律上、裁判員休暇中の賃金支払い義務はありませんので、無給としても問題ありません(行政は支給が望ましいとしていますが、法律上の義務ではありません)。

 

第6章 賃金

第31条(賃金の構成)
賃金の構成は、次のとおりとする。
(※各種手当等の賃金構成図については省略)

一昔前の会社であれば、モデル就業規則にも記載されているような賃金構成(基本給と複数の各種手当を支給する賃金構成)をとるところが多かったのですが、賃金制度の見直しが進む昨今では、たくさんの手当てをつけるべきか議論のあるところです。
少なくとも支給実績の無い手当を就業規則または賃金規程に残したままにしていた場合、あとで(多くは退職後に)賃金未払いとして請求を受けることになってしまいますので、早めに見直しを行うべきでしょう。

また、働き方改革に伴う均等待遇・均衡待遇(いわゆる同一労働同一賃金)の問題が先鋭化するのが、この各種手当となります。往々にして、正社員には各種手当が支給されるのに対し、非正規社員には各種手当が支給されていません。このような支給実態が果たして均等待遇・均衡待遇に沿って合法と言えるのか、今後はシビアな問題が出てくるもの予想されます。各種手当の支給の有無も含めた見直しが必須になると考えられます。

 

第32条(基本給)
基本給は、本人の職務内容、技能、勤務成績、年齢等を考慮して各人別に決定する。

これについてもよく見かける内容ではあるのですが、いわゆる能力重視の賃金体系や成果報酬体系を採用するのであれば、こういった抽象的なものではなく、人事評価に基づく考課表をもとに基本給が定める旨の明記が必要となります。

 

諸手当と働き方改革

第33条(家族手当)
家族手当は、次の家族を扶養している労働者に対し支給する。
①18歳未満の子、1人につき月額×円
②65歳以上の父母、1人につき月額×円

第34条(通勤手当)
通勤手当は、月額×円までの範囲内において、通勤に要する実費に相当する額を支給する。

第35条(役付手当)
1.役付手当は、以下の職位にある者に対し支給する。
部長:月額×円
課長:月額×円
係長:月額×円
2.昇格によるときは、発令日の属する賃金月から支給する。この場合、当該賃金月においてそれまで属していた役付手当は支給しない。
3.降格によるときは、発令日の属する賃金月の次の賃金月から支給する。

第36条(技能・資格手当)
技能・資格手当は、次の資格を持ち、その職務に就く者に対し支給する。
(※詳細については省略)

第37条(精勤手当)
1.精勤手当は、当該賃金計算期間における出勤成績により、次のとおり支給する。
①無欠勤の場合:月額×円
②欠勤1日以内の場合:月額×円
2.前項の精勤手当の計算においては、次のいずれかに該当するときは出勤したものとみなす。
①年次有給休暇を取得したとき
②業務上の負傷又は疾病により療養のため休業したとき
3.第1項の精勤手当の計算に当たっては、遅刻又は早退×回をもって、欠勤1日とみなす。

上記にある「手当」を支給するか否かは任意です。
したがって、法律上は基本給のみ支給するという形にしてもまったく問題ありません。

もちろん、福利厚生の観点から様々な手当てを支給することも問題ありませんが、こういった手当は、①働き方改革に伴い導入される均等待遇・均衡待遇という法制度にマッチするものなのか検証が必要となること、②次に述べる割増賃金を計算するに際して基礎賃金に含められてしまうことが多いこと、つまり残業代として上乗せ支給する格好になりますので要注意です。

なお、最近多い、「固定残業代、定額残業代、みなし残業代」制度を採用するのであれば、この箇所で「手当名」、「手当の定義(×時間分の所定外労働に対する賃金として支給すること)」、「手当分を超える残業が生じた場合は別途支給すること」等を明記する必要があります。特に、最近の裁判例の傾向から、深夜残業を除く残業代支払い義務が無い管理監督者に該当する労働者はほぼ皆無に等しいので、部長職などの管理職に支給されている「役付手当」については固定残業代として位置づけることができるよう早期に改訂を図るべきです。

 

割増賃金(残業代)

第38条(割増賃金)
1.時間外労働に対する割増賃金は、次の割増賃金率に基づき、次項の計算方法により支給する。
(1)1か月の時間外労働の時間数に応じた割増賃金率は、次のとおりとする。この場合の1か月は毎月×日を起算日とする。
①時間外労働45時間以下・・・25%
②時間外労働45時間超~60時間以下・・35%
③時間外労働60時間超・・・・・50%
④③の時間外労働のうち代替休暇を取得した時間・・・35%(残り15%の割増賃金は代替休暇に充当する。)
(2)1年間の時間外労働の時間数が360時間を超えた部分については、40%とする。この場合の1年は毎年×月×日を起算日とする。
(3)時間外労働に対する割増賃金の計算において、上記(1)及び(2)のいずれにも該当する時間外労働の時間数については、いずれか高い率で計算することとする。
2.割増賃金は、次の算式により計算して支給する。
(※以下計算方法の詳細については省略)

第39条(1年単位の変形労働時間制に関する賃金の精算)
1年単位の変形労働時間制の規定(第19条及び第20条)により労働させた期間が当該対象期間より短い労働者に対しては、その労働者が労働した期間を平均し1週間当たり40時間を超えて労働させた時間(前条の規定による割増賃金を支払った時間を除く。)については、前条の時間外労働についての割増賃金の算式中の割増率を0.25として計算した割増賃金を支払う。

法定労働時間を超えて労働させた場合には2割5分以上、法定休日(週1回又は4週4日)に労働させた場合には3割5分以上、深夜(午後10時から午前5時までの間)に労働させた場合には2割5分以上の割増率で計算した割増賃金をそれぞれ支払わなければならないことは、皆様ご承知のことかと思います。モデル就業規則では、この計算方法を具体的に示していますが、計算方法自体は法令上の根拠があることから、あえて規定する必要はないかもしれません。
ここで注意するべきは、①割増賃金の算定基礎から除外することができる賃金とその内容、②割増率と中小企業の特例です。

まず①ですが、割増賃金の算定基礎から除外することができる賃金として、家族手当や通勤手当のほか、別居手当、子女教育手当、住宅手当、退職金等臨時に支払われた賃金、賞与等1か月を超える期間ごとに支払われる賃金とされています。が、単にこの名称がつけていたから除外されるというわけではなく、その実質によって判断という留保がついています。例えば、マイホーム・賃貸を区別にせずに住宅手当を支給している場合、名称は住宅手当であっても基礎賃金から除外されることは無いとされています。
したがって、基礎賃金から除外される手当なのかは、慎重に吟味する必要があります。

次に②ですが、上記規定では60時間を超えた場合、年360時間を超えた場合と区分してありますが、大多数の中小企業(※ここでいう中小企業の定義はモデル就業規則に記載されている内容をご参照ください)は現在適用が猶予されていますので、この区分は現時点では不要です。つまり、原則通りの2割5分で問題ありません。
したがって、次の表に当てはまる中小企業は誤解を招かないためにも、第38条第1項のうち(1)②③④、(2)(3)に関する内容は削除するべきです(※38条1項(1)②では、あえて45時間超60時間以内という区分を設けて35%としていますが、法律上は25%で問題ありません。割増率変更となる残業時間の区分は60時間です)。
もっとも、中小企業の適用猶予措置は2023年3月までとなっています。長時間残業については見直しを図る必要性があります。

>>元従業員が残業代請求した場合における会社が検討するべき事項とは?

第40条(代替休暇)
1.1か月の時間外労働が60時間を超えた労働者に対して、労使協定に基づき、次により代替休暇を与えるものとする。
2.代替休暇を取得できる期間は、直前の賃金締切日の翌日から起算して、翌々月の賃金締切日までの2か月とする。
3.代替休暇は、半日又は1日で与える。この場合の半日とは、午前(×:×~×:×)又は午後(×:×~×:×)のことをいう。
4.代替休暇の時間数は、1か月60時間を超える時間外労働時間数に換算率を乗じた時間数とする。この場合において、換算率とは、代替休暇を取得しなかった場合に支払う割増賃金率50%から代替休暇を取得した場合に支払う割増賃金率35%を差し引いた15%とする。また、労働者が代替休暇を取得した場合は、取得した時間数を換算率(15%)で除した時間数については、15%の割増賃金の支払を要しないこととする。
5.代替休暇の時間数が半日又は1日に満たない端数がある場合には、その満たない部分についても有給の休暇とし、半日又は1日の休暇として与えることができる。ただし、前項の割増賃金の支払を要しないこととなる時間の計算においては、代替休暇の時間数を上回って休暇とした部分は算定せず、代替休暇の時間数のみで計算することとする。
6.代替休暇を取得しようとする者は、1か月に60時間を超える時間外労働を行った月の賃金締切日の翌日から5日以内に、会社に申し出ることとする。代替休暇取得日は、労働者の意向を踏まえ決定することとする。
7.会社は、前項の申出があった場合には、支払うべき割増賃金額のうち代替休暇に代替される割増賃金額を除いた部分を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、当該月の末日の翌日から2か月以内に取得がなされなかった場合には、取得がなされないことが確定した月に係る賃金支払日に残りの15%の割増賃金を支払うこととする。
8.会社は、第6項に定める期間内に申出がなかった場合は、当該月に行われた時間外労働に係る割増賃金の総額を通常の賃金支払日に支払うこととする。ただし、第6項に定める期間内に申出を行わなかった労働者から、第2項に定める代替休暇を取得できる期間内に改めて代替休暇の取得の申出があった場合には、会社の承認により、代替休暇を与えることができる。この場合、代替休暇の取得があった月に係る賃金支払日に過払分の賃金を精算するものとする。

おそらく大多数の中小企業ではなじみのない(聞いたことがない)制度ではないかと思われます。専門的な人員配置が難しい中小企業では、代替休暇制度を導入することは難しいところがあるというのが実情のように思います。
したがって、こういった制度が存在するが導入義務はないこと、しかし、将来的に月60時間超えの残業代にかかる割増率アップに備えての対策の1つであるという知識を持っておけばよいかと思います。
なお、厚生労働省が公表している制度目的を以下引用しておきます。
「特に長い時間外労働を抑制することを目的として、1か月に60時間を超える時間外労働については、法定割増賃金率が50%以上とされていますが、やむを得ずこれを超える時間外労働を行わざるを得ない場合も考えられます。このため、そのような労働者の健康を確保する観点から、平成22年4月1日より1か月に60時間を超えて時間外労働を行わせた労働者について、労使協定により、法定割増賃金率の引上げ分の割増賃金の支払に代えて、有給の休暇を与えることができることとしたものです。」

>>会社が割増賃金を支払うに際して注意するべき事項とは?

 

第41条(休暇等の賃金)
1.年次有給休暇の期間は、所定労働時間労働したときに支払われる通常の賃金を支払う。
2.産前産後の休業期間、育児時間、生理休暇、母性健康管理のための休暇、育児・介護休業法に基づく育児休業期間、介護休業期間、子の看護休暇期間及び介護休暇期間、裁判員等のための休暇の期間は、無給 / 通常の賃金を支払うこととする。
3.第9条に定める休職期間中は、原則として賃金を支給しない(×か月までは×割を支給する)。

上記第2項、第3項では選択肢がありますが、無給と定めてもまったく問題ありません。福利厚生をどこまで充実させるべきかという観点から決めればよいでしょう。

 

第42条(臨時休業の賃金)
会社側の都合により、所定労働日に労働者を休業させた場合は、休業1日につき労基法第12条に規定する平均賃金の6割を支給する。この場合において、1日のうちの一部を休業させた場合にあっては、その日の賃金については労基法第26条に定めるところにより、平均賃金の6割に相当する賃金を保障する。

この規定ですが、例えば、勤務態度の悪い従業員を帰宅させた場合(懲戒処分を除く)、不正行為の調査のため自宅待機にさせた場合にも適用があります。そして、就業規則及び労働基準法上は平均賃金の6割と定められていても、上記のような事例であれば最終的には10割の満額支払いになると考えられます。
このような規定があっても6割の支払いで済むのは、かなり限定的と考えた方がよいかもしれません。
(※2020年3月以降大問題となっている新型コロナウイルスに伴う休業の場合、休業手当を支払う必要があるのか、休業手当を支払う必要があるとして平均賃金の6割でよいのか等議論が錯綜しること要注意です)

 

第43条(欠勤等の扱い)
1.欠勤、遅刻、早退及び私用外出については、基本給から当該日数又は時間分の賃金を控除する。
2.前項の場合、控除すべき賃金の1時間あたりの金額の計算は以下のとおりとする。
(1)月給の場合
基本給÷1か月平均所定労働時間数(1か月平均所定労働時間数は第36条第3項の算式により計算する。)
(2)日給の場合
基本給÷1日の所定労働時間数

いわゆる「ノーワーク、ノーペイ」の原則であり、勤務していない以上、賃金支払い義務が無いことは当然であり、当たり前のことを規定したものとなります。
なお、モデル就業規則では欠勤控除する対象を基本給のみとしていますが、手当についても、手当の性質(支給目的・対価内容)いかんによっては欠勤控除することは理論上可能です。賃金(基本給、手当)のうちどこまでを対象として欠勤控除するのか就業規則で明記する必要があります。

 

第44条(賃金の計算期間及び支払日)
1.賃金は、毎月×日に締め切って計算し、翌月×日に支払う。ただし、支払日が休日に当たる場合は、その前日に繰り上げて支払う。
2.前項の計算期間の中途で採用された労働者又は退職した労働者については、月額の賃金は当該計算期間の所定労働日数を基準に日割計算して支払う。

第45条(賃金の支払と控除)
1.賃金は、労働者に対し、通貨で直接その全額を支払う。
2.前項について、労働者が同意した場合は、労働者本人の指定する金融機関の預貯金口座又は証券総合口座へ振込により賃金を支払う。
3.次に掲げるものは、賃金から控除する。
①源泉所得税
②住民税
③健康保険、厚生年金保険及び雇用保険の保険料の被保険者負担分
④労働者代表との書面による協定により賃金から控除することとした社宅入居
料、財形貯蓄の積立金及び組合費

労働基準法第24条を受けた規定であり、内容それ自体は留意する必要はありません。
なお、実務上よく問題となるのは、上記第45条第2項に関連し、賃金支払先の金融機関口座を会社側が指定することができるのかという点です。
結論から言えば、金融機関を指定することができません。この結果、振込手数料は会社負担となります。振込手数料の支払いを回避したいのであれば、労働基準法第24条の原則通り、支給日に手渡しするほかないと考えられます。

 

第46条(賃金の非常時払い)
労働者又はその収入によって生計を維持する者が、次のいずれかの場合に該当し、そのために労働者から請求があったときは、賃金支払日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払う。
①やむを得ない事由によって1週間以上帰郷する場合
②結婚又は死亡の場合
③出産、疾病又は災害の場合
④退職又は解雇により離職した場合

これは労働基準法第25条を受けて規定されているものであり、特段問題はないと考えられます。

 

第47条(昇給)
1.昇給は、勤務成績その他が良好な労働者について、毎年×月×日をもって行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合は、行わないことがある。
2.顕著な業績が認められた労働者については、前項の規定にかかわらず昇給を行うことがある。
3.昇給額は、労働者の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。

年功序列型の右肩上がりの賃金体系であれば、このような規定を設けてもよいのですが、最近多い能力給型であれば、昇給のみならず、降給もあることも明記するべきでしょう。
また、1項本文の書きぶりであれば、但書にある「やむを得ない事由」がない限り、常に昇給を行う義務があるようにも解釈できます。資金繰り等の問題もあるかと思いますので、「行う場合がある」といった緩めの表現に修正するのも一案ではないでしょうか。

 

 

第48条(賞与)
1.賞与は、原則として、下記の算定対象期間に在籍した労働者に対し、会社の業績等を勘案して下記の支給日に支給する。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由により、支給時期を延期し、又は支給しないことがある。
算定対象期間:×月×日から×月×日まで
支給日:×月×日
2.前項の賞与の額は、会社の業績及び労働者の勤務成績などを考慮して各人ごとに決定する。

賞与それ自体は支給義務がありませんので、このような条項を設けるか否かは全くの任意となります。もし賞与に関する規定を設けるのであれば、上記以外にさらに「賞与の支給日に在籍している労働者に限り支給する」という趣旨の文言を追加で入れるのも一案です。
なお、働き方改革に伴う均等待遇・均衡待遇の観点からすると、正社員には賞与支給、非正規社員には賞与を支給しないという取り扱いが果たして適法と言えるのか、非常に悩ましい問題が生じます(会社の業績や本人の貢献度等を支給要件とした場合、非正規社員に支給しないことが合理的であるという説明は相当困難と考えられます)。したがって、賞与制度の在り方自体についても見直しが必要になるものと考えられます。

 

第7章 定年、退職及び解雇

[例1] 定年を満65歳とする例
第49条(定年等)
労働者の定年は、満65歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

[例2]定年を満60歳とし、その後希望者を継続雇用する例
第49条(定年等)
1.労働者の定年は、満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2.前項の規定にかかわらず、定年後も引き続き雇用されることを希望し、解雇事由又は退職事由に該当しない労働者については、満65歳までこれを継続雇用する。

定年と65歳までの高年齢者雇用の関係は誤解を受けやすいところです。
まず、いわゆる定年について、法律上は60歳を下回ることはできません(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条)。しかし、一方で、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第9条では、事業主には65歳までの高年齢者雇用確保措置が義務付けられています。
この結果、多くの会社では、定年である60歳から65歳までの間について、一種の空白期間ができることになります。そして、現行法の整理では、①65歳までは雇用を行わなければならない、②ただし、60歳前までの労働条件にて引き続き雇用する必要はない(出勤日を減らす、労働時間を減らす、賃金を減額するといった対応が可能)ということになります。
したがって、定年後の労働条件についてどのように定めるのかが問題となってきており、別途社内規程を設けて対応する会社が多くなってきているのが実情です。
なお、労働人口の減少、高齢者の増加に伴う社会医療費の負担増を踏まえ、今後は高齢者を活用するという名の下で定年に達する年齢について60歳を超えるような内容の法改正が行われるものと予想されます。また、高年齢者雇用については議論が錯綜しており、朝令暮改のような格好で法改正が度々行われる可能性もあります。この点は法改正議論の行方を追いながら、適宜見直しを図る必要があります。

 

第50条(退職)
1.前条に定めるもののほか、労働者が次のいずれかに該当するときは、退職とする。
①退職を願い出て会社が承認したとき、又は退職願を提出して×日を経過したとき
②期間を定めて雇用されている場合、その期間を満了したとき
③第9条に定める休職期間が満了し、なお休職事由が消滅しないとき
④死亡したとき
2.労働者が退職し、又は解雇された場合、その請求に基づき、使用期間、業務の種類、地位、賃金又は退職の事由を記載した証明書を遅滞なく交付する。

第50条第2項は、労働基準法第22条第1項に定められている退職証明書交付義務に関する事項であり、法律の内容そのものであることから説明は省略します。

第50条第1項でポイントとなるのは、②の有期雇用の終了についてです。
就業規則上の表現の仕方としては、上記の通りでまったく問題ありませんが、実際の運用では「雇止め」(契約期間が満了し、契約が更新されないこと)の問題に留意する必要があります。例えば、厚労省の通達では、有期労働契約が3回以上更新されている場合や1年を超えて継続勤務している有期契約労働者について、契約を更新しない場合、使用者は少なくとも契約の期間が満了する日の30日前までに、その予告を行うよう求めています。また、裁判例(判例)法理が明文化した労働契約法第19条に基づき、繰り返し更新されたことによって実質的に期間の定めのない従業員と同一視できる場合(例えば、3回以上更新され、正社員と同一業務を行っていた場合など)、または雇用継続への合理的期待が認められる場合(例えば、次回も更新することを雇用主が説明していた場合など)は、単純に期間満了により労働契約を終了させることを認めない取り扱いがなされています。
したがって、実務的には、雇い入れに際しては更新に際しての条件を明示すること、就業中は不用意に雇用への期待を抱かせないこと、といった対策が必要です。
ところで、就業規則の表現例からは離れますが、第50条第1項①に関連し、退職願を出して、あとは年次有給休暇の申請をされてしまい、上手く引継ぎがいかないことから、「引継ぎ終了後14日を経過したとき」といった形に修正ができないかという問い合わせを受けたりします。が、結論的には難しいと言わざるを得ません。年次有給休暇の申請を拒絶すること自体難しいことから、退職願を提出してから30日くらい経過期間を設けることで引き継ぎに必要な期間を確保しつつ、服務規律において引継ぎを適切に行う旨明記するくらいかしか対処しようがないのかもしれません。

 

普通解雇

第51条(解雇)
1.労働者が次のいずれかに該当するときは、解雇することがある。
①勤務状況が著しく不良で、改善の見込みがなく、労働者としての職責を果たし得ないとき。
②勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき。
③業務上の負傷又は疾病による療養の開始後3年を経過しても当該負傷又は疾病が治らない場合であって、労働者が傷病補償年金を受けているとき又は受けることとなったとき(会社が打ち切り補償を支払ったときを含む。)。
④精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき。
⑤試用期間における作業能率又は勤務態度が著しく不良で、労働者として不適格
であると認められたとき。
⑥第66条第2項に定める懲戒解雇事由に該当する事実が認められたとき。
⑦事業の運営上又は天災事変その他これに準ずるやむを得ない事由により、事業
の縮小又は部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき。
⑧その他前各号に準ずるやむを得ない事由があったとき。
2.前項の規定により労働者を解雇する場合は、少なくとも30日前に予告をする。予告しないときは、平均賃金の30日分以上の手当を解雇予告手当として支払う。ただし、予告の日数については、解雇予告手当を支払った日数だけ短縮することができる。
3.前項の規定は、労働基準監督署長の認定を受けて労働者を第66条、第65条第1項第4号に定める懲戒解雇にする場合又は次の各号のいずれかに該当する労働者を解雇する場合は適用しない。
①日々雇い入れられる労働者(ただし、1か月を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
②2か月以内の期間を定めて使用する労働者(ただし、その期間を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
③試用期間中の労働者(ただし、14日を超えて引き続き使用されるに至った者を除く。)
4.第1項の規定による労働者の解雇に際して労働者から請求のあった場合は、解雇の理由を記載した証明書を交付する。

いわゆる「普通解雇」に関する規定となります。
普通解雇事由については上記第1項のような定めが行われるのが一般的ですが、いざ裁判実務を経験すると、「著しく」という評価概念を用いると、何をもって「著しく」というのか一義的に解釈することができず、対処に苦労することがあったりします。そのため、私個人としては、「著しく」とか「高度」といった評価概念は、解雇事由や後で出てくる懲戒事由にはできる限り明記しない形式のほうがよいのではないかと考えています。
また、解雇するに際しては、なかなか一発解雇というわけにはいかないことから、教育・改善指導を行いつつ、業務命令や軽めの懲戒処分を経て、最終的に解雇という手順を踏むという流れになることが多いのですが、上記解雇事由では、これにうまく対応できるような直接的な解雇事由がありません。そこで、例えば、「規則違反、職務怠慢等の事由で制裁を受けた後も改善あるいは改悛のあとが見られないとき」といった条項を設けておくのも必要ではないかと思われます。
最後に、これは意見が分かれますが、上記第51条第1項⑥については、私個人としてはあえて入れる必要はないと考えています。理由は、懲戒事由が存在することによる普通解雇であれば第51条第1項⑧で対処可能なこと、第51条第1項⑥のような規定を設けることで懲戒解雇と普通解雇との相違がなくなってしまうこと(普通解雇を懲戒解雇並みにハードルを上げてしまいかねないこと)と考えるからです。

 

第8章 退職金

第52条(退職金の支給)
1.勤続×年以上の労働者が退職し又は解雇されたときは、この章に定めるところにより退職金を支給する。ただし、自己都合による退職者で、勤続×年未満の者には退職金を支給しない。また、第65条第2項により懲戒解雇された者には、退職金の全部又は一部を支給しないことがある。
2.継続雇用制度の対象者については、定年時に退職金を支給することとし、その後の再雇用については退職金を支給しない。

退職金は支給義務がありませんし、最近では退職金制度が存在しないという会社も増加してきているようです。
もっとも、退職金制度を設けるのであれば、就業規則に明記する必要があることから、対象者は誰か(なお、正社員のみに限定するのであれば、均等待遇・均衡待遇に違反しないか要検討)か、どういった条件にて支給するのか(一定の勤続年数を条件とするのか、懲戒解雇の場合は支給しないのか、退職時の引き続き不十分の場合には減額するのか等)について定めておくべきです。

 

第53条(退職金の額)
1.退職金の額は、退職又は解雇の時の基本給の額に、勤続年数に応じて定めた下表の支給率を乗じた金額とする。
(※下票は省略)
2.第9条により休職する期間については、会社の都合による場合を除き、前項の勤続年数に算入しない。

モデル就業規則では、いわゆる年功序列型の昔ながらの退職金計算方法が記載されていますが、退職金の計算方法は会社の裁量に委ねられています。例えば、中退共からの支給額を退職金とすることでもまったく問題ありません。したがって、会社の事情に合わせて退職金の計算方法を定めれば足ります。

 

第54条(退職金の支払方法及び支払時期)
退職金は、支給事由の生じた日から×か月以内に、退職した労働者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う。

第54条はよくある条項なのですが、問題事例としてよくあるのは、労働者(従業員)死亡の場合における退職金の支払先です。上記では「遺族」となっていますが、この遺族とは相続人を指すのか、配偶者のみを指すのか一義的に解釈することができません。したがって、遺族という抽象的な記述ではなく、例えば「生計を一にする配偶者」といった記載を行うべきです。

 

第9章 無期労働契約への転換

第55条(無期労働契約への転換)
1.期間の定めのある労働契約(有期労働契約)で雇用する従業員のうち、通算契約期間が5年を超える従業員は、別に定める様式で申込むことにより、現在締結している有期労働契約の契約期間の末日の翌日から、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)での雇用に転換することができる。
2.前項の通算契約期間は、平成25年4月1日以降に開始する有期労働契約の契約期間を通算するものとする。ただし、契約期間満了に伴う退職等により、労働契約が締結されていない期間が連続して6ヶ月以上ある従業員については、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めない。
3.この規則に定める労働条件は、第1項の規定により無期労働契約での雇用に転換した後も引き続き適用する。ただし、無期労働契約へ転換した時の年齢が、第49条に規定する定年年齢を超えていた場合は、当該従業員に係る定年は、満×歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。

2013年(平成25年)4月1日以後に開始する有期労働契約が、同一の使用者との間で、通算で5年を超えて繰り返し更新された場合は、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)へ転換します(労働契約法第18条)。
上記はこれに備えたものなのですが、根本的な問題として、いわゆる従来からの正社員と、無期転換した準正社員とでもいうべき2種類の正社員が発生する点を意識する必要があります。なぜならば、両者では業務内容や責任などに応じた処遇・待遇大きく異なっていることが通常だからです。
このため、果たして正社員用の就業規則で、準正社員もカバーするべきかという問題が出てきます。処遇・待遇差については均等待遇・均衡処遇を意識する必要はあるものの、準正社員用の別規程を設けたほうが良いのではないかと考えられます。

>>非正規社員に対する無期転換制度が導入されることによって、会社が講じなければならない対策とは?

第10章 安全衛生及び災害補償

第56条(遵守事項)
1.会社は、労働者の安全衛生の確保及び改善を図り、快適な職場の形成のために必要な措置を講ずる。
2.労働者は、安全衛生に関する法令及び会社の指示を守り、会社と協力して労働災害の防止に努めなければならない。
3.労働者は安全衛生の確保のため、特に下記の事項を遵守しなければならない。
①機械設備、工具等の就業前点検を徹底すること。また、異常を認めたときは、速やかに会社に報告し、指示に従うこと。
②安全装置を取り外したり、その効力を失わせるようなことはしないこと。
③保護具の着用が必要な作業については、必ず着用すること。
④20歳未満の者は、喫煙可能な場所には立ち入らないこと。
⑤受動喫煙を望まない者を喫煙可能な場所に連れて行かないこと。
⑥立入禁止又は通行禁止区域には立ち入らないこと。
⑦常に整理整頓に努め、通路、避難口又は消火設備のある所に物品を置かないこと。
⑧火災等非常災害の発生を発見したときは、直ちに臨機の措置をとり、に報告し、その指示に従うこと。

上記第56条はよく見かける条項であり、内容自体は問題ないと考えられます。
ところで、労働安全衛生でよく会社が労働基準監督署より指摘を受ける事項として、安全衛生推進者等の選任に関する事項です。これは、常時使用する労働者数が10人以上50人未満の事業場で必要となります。また、一定の業種及び労働者数が一定規模以上の事業場においては総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者及び産業医の選任が義務付けられています。従業員数が急激に増加した会社では、うっかり忘れていることが多く、労働基準監督署の検査では必ずと言っていいほど是正を受ける事項ですので、忘れないようにしてください。
あと、意外と知られていないのですが、安衛法は、労働者の受動喫煙を防止するため、実情に応じた措置を講ずる努力義務を会社に課しています。そして、最近の分煙に関する流れを受け、2020年4月より、健康増進法で喫煙禁止措置が義務付けられることになります(義務付けには一定の要件があります)。受動喫煙については何らかの対策が求められる世の中になっていること、留意したいところです。

 

第57条(健康診断)
1.労働者に対しては、採用の際及び毎年1回(深夜労働に従事する者は6か月ごとに1回)、定期に健康診断を行う。
2.前項の健康診断のほか、法令で定められた有害業務に従事する労働者に対しては、特別の項目についての健康診断を行う。
3.第1項及び前項の健康診断の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。

上記第57条については、内容的には一般的なものだと思われます。
健康診断について問題になりうるのは、就業規則の表現というよりも、健康診断実施に際しての費用の取り扱いについてです。結論から言えば、健康診断の費用については会社(使用者)が負担する必要があります。一方、定期健康診断を就業時間中に行った場合の賃金支払い義務については、法律上は賃金支払い義務がありません。そこで、現場実務では、就労時間外で健康診断に行かせたり、年次有給休暇を利用させたりすることが多いようです。

 

第58条(長時間労働者に対する面接指導)
1.会社は、労働者の労働時間の状況を把握する。
2.長時間の労働により疲労の蓄積が認められる労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
3.前項の面接指導の結果必要と認めるときは、一定期間の就業禁止、労働時間の短縮、配置転換その他健康保持上必要な措置を命ずることがある。

第59条(ストレスチェック)
1.労働者に対しては、毎年1回、定期に、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を行う。
2.前項のストレスチェックの結果、ストレスが高く、面接指導が必要であると医師、保健師等が認めた労働者に対し、その者の申出により医師による面接指導を行う。
3.前項の面接指導の結果必要と認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等、必要な措置を命ずることがある。

第60条(労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱い)
事業者は労働者の心身の状態に関する情報を適正に取り扱う。

内容それ自体は特に問題はないかと思います。ただ、おそらく現場の実情としては、定めた内容通りに実施できていない、特にストレスチェックなど実施したことがない、という会社も多いのではないかと予想します。
いろいろ事情があるとは思いますが、事が起こってからでは遅いので、早急に対応できるようにしてくださいと申し上げるほかないところです。

 

第61条(安全衛生教育)
1.労働者に対し、雇入れの際及び配置換え等により作業内容を変更した場合、その従事する業務に必要な安全及び衛生に関する教育を行う。
2.労働者は、安全衛生教育を受けた事項を遵守しなければならない。

第62条(災害補償)
労働者が業務上の事由又は通勤により負傷し、疾病にかかり、又は死亡した場合は、労基法及び労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)に定めるところにより災害補償を行う。

これらの内容は、労働安全衛生法や労働者災害補償法の問題となりますので、就業規則の内容としてはこの程度でよいかと思います。
なお、あえて誤解を恐れずにいうと、(広義での)社会保険の負担を嫌う会社(事業者・使用者)が一定数存在していますが、労災保険については加入しておくべきです。労働災害に対する会社の責任は多額になりがちであるところ、労災保険でカバーされる支給額は使用者にとって大きなメリットがあるからです。

 

第11章 職業訓練

第63条(教育訓練)
1.会社は、業務に必要な知識、技能を高め、資質の向上を図るため、労働者に対し、必要な教育訓練を行う。
2.労働者は、会社から教育訓練を受講するよう指示された場合には、特段の事由がない限り教育訓練を受けなければならない。
3.前項の指示は、教育訓練開始日の少なくとも  週間前までに該当労働者に対し文書で通知する。

一般的な内容としてはこの程度でよいかと思います。
しかし、行政が設ける様々な補助金制度の適用を受ける場合、事実上、行政が条件化している社内規程を定める必要があります。支給のために社内規程だけを設けるのは考えものですが、状況に応じて見直しが必要となる条項であることを付言しておきたいと思います。

 

第12章 表彰及び制裁

第64条(表彰)
1.会社は、労働者が次のいずれかに該当するときは、表彰することがある。
①業務上有益な発明、考案を行い、会社の業績に貢献したとき。
②永年にわたって誠実に勤務し、その成績が優秀で他の模範となるとき。
③永年にわたり無事故で継続勤務したとき。
④社会的功績があり、会社及び労働者の名誉となったとき。
⑤前各号に準ずる善行又は功労のあったとき。
2.表彰は、原則として会社の創立記念日に行う。また、賞状のほか賞金を授与する。

最近では規定を設けることもなく、規定があっても適用事例がないという状況になっている制度のようですが、こういった制度を設けることで従業員の士気を高めたりすることができますので、導入検討の余地はあるかと思います。

 

懲戒処分

第65条(懲戒の種類)
会社は、労働者が次条のいずれかに該当する場合は、その情状に応じ、次の区分により懲戒を行う。
①けん責…始末書を提出させて将来を戒める。
②減給…始末書を提出させて減給する。ただし、減給は1回の額が平均賃金の1日分の5割を超えることはなく、また、総額が1賃金支払期における賃金総額の1割を超えることはない。
③出勤停止…始末書を提出させるほか、×日間を限度として出勤を停止し、その間の賃金は支給しない。
④懲戒解雇…予告期間を設けることなく即時に解雇する。この場合において、所轄の労働基準監督署長の認定を受けたときは、解雇予告手当(平均賃金の30日分)を支給しない。

懲戒処分については、どのような種類を設けるのか会社(事業者)の裁量に委ねられていますので、第65条のような処分でもよいですし、会社の規模によっては、②と③の間、または③と④の間に「降格」処分を設けてもよいかと思われます。また、③と④の間に「諭旨解雇」処分を設ける会社も比較的多くみられるところです。
ところで、懲戒処分で一番のポイントとなるのは、懲戒処分の種類について就業規則に明記しておかないことには、そもそも懲戒処分を科すこと自体不可能という点です。したがって、就業規則を作成するのであれば、懲戒処分については何をどこまで設けるのかについて相当な注意を払うべきです。
なお、実務上の悩みとして1点触れておきますが、上記第65条④後段において、労働基準監督署の認定を受けた場合は解雇予告手当を支給しなくてもよいとされています。労働基準法第20条に定める事項を就業規則に明記しただけに過ぎないのですが、実際の現場実務において、この認定を受けることは至難の業と思われます。この意味で、解雇する場合には、即時解雇の場合は解雇予告手当の支給を、予告解雇の場合は30日間の勤務を認めることのどちらかを覚悟する必要があります。会社(事業者)にとっては酷なことですが、法律がそうなっている以上、仕方がないと割り切るほかありません。

 

第66条(懲戒の事由)
1.労働者が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、譴責、減給又は出勤停止とする。
①正当な理由なく無断欠勤が×日以上に及ぶとき。
②正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
③過失により会社に損害を与えたとき。
④素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
⑤第11条、第12条、第13条、第14条、第15条に違反したとき。
⑥その他この規則に違反し又は前各号に準ずる不都合な行為があったとき。
2.労働者が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、第51条に定める普通解雇、前条に定める減給又は出勤停止とすることがある。
①重要な経歴を詐称して雇用されたとき。
②正当な理由なく無断欠勤が  日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。
③正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、×回にわたって注意を受けても改めなかったとき。
④正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
⑤故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき。
⑥会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)。
⑦素行不良で著しく社内の秩序又は風紀を乱したとき。
⑧数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないとき。
⑨第12条、第13条、第14条、第15条に違反し、その情状が悪質と認められるとき。
⑩許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
⑪職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め若しくは供応を受けたとき。
⑫私生活上の非違行為や会社に対する正当な理由のない誹謗中傷等であって、会社の名誉信用を損ない、業務に重大な悪影響を及ぼす行為をしたとき。
⑬正当な理由なく会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき。
⑭その他前各号に準ずる不適切な行為があったとき。

懲戒処分を行う場合、懲戒処分を行うだけの事実関係と証拠がそろっているのか、認定した事実関係に基づき、どの懲戒処分に当てはめるのかを検討する必要があります。恣意的な処分であるという批判を浴びないよう、具体的な懲戒処分事由については細かく列挙することがポイントです。
なお、普通解雇(第51条を参照)のところでも記載しましたが、「しばしば」、「重要」、「著しく」といった評価概念は、ここでも用いない方がベターです。労働組合が介入してきた場合や裁判となった場合、この評価概念に該当するか否かで争いが生じることで、余計な争点が増えてしまうためです。書き方だけかもしれませんが、原則は厳しい処分、但し「軽微」な場合は弱めの処分に落とすという形にもっていった方が色々と現場実務では対処しやすいような気がします。

 

第13章 公益通報者保護

第67条(公益通報者の保護)
会社は、労働者から組織的又は個人的な法令違反行為等に関する相談又は通報があった場合には、別に定めるところにより処理を行う。

公益通報者保護法が存在することを踏まえて別規程にすることが望ましいことから、就業規則上はこの程度の記載で問題ないかと思います。
ところで、現場対応で非常に悩ましい問題として、公益通報者保護法による保護を受けない以上、公益通報者保護法が禁止する解雇等の懲戒処分を行っても良いのかという問題があります。形式上は、公益通報者保護法に定める公益通報に該当しない以上、行ってもよいという結論になりそうです。ただ、実際には他の法令と兼ね合いを検討する必要があり、解雇であれば労働契約法第16条に定める「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合は労働契約法により無効と判断されてしまいます。あるいは、懲戒処分についても、労働契約法第15条が「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めていますので、やはりこの要件を充足するか否かの問題が生じてきます。
したがって、公益通報者保護法による保護を受けないことと、懲戒処分の有効性は別問題であると認識しておいた方がよいでしょう。

 

第14章 副業・兼業

副業・兼業の原則解禁

第68条(副業・兼業)
1.労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2.労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3.第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏洩する場合
③会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合

副業・兼業禁止が解禁されたと言われて久しいですが、よくよく考えると、就業時間以外はプライベートな時間ですので、会社の管理が及ぶはずがなく、労働者本人が自由にしてよい時間のはずです。したがって、理屈上は、副業・兼業が認められて当然のはずなのですが、ほとんどの会社では就業規則等で副業・兼業を禁止する旨規定してあります。このような規定が設けられているのは、副業・兼業を行うことで、翌日以降の業務に支障を及ぼしかねない、労働者本人の体調に悪影響が生じかねない(使用者(会社・事業主)に課せられた安全配慮義務)、会社の機密情報漏洩が生じる、といった理由からです。
そうであれば、これらの理由に該当する場合のみ、副業・兼業を禁止してよいという結論に帰着することになります。
ただ、そうはいっても、労働時間の算定方法(副業・兼業先との合算による割増賃金支払の問題)、労働災害への対処など、まだまだ副業・兼業によって会社が被るデメリットとそのリスクヘッジ対策が不明確な点も多く、モデル就業規則のように原則解禁とすることは躊躇を覚える会社も多いと思われます。したがって、私個人としては、2項に定める「届出」だけではなく、会社の許可を条件に明記したほうが良いのではと考えます。ただし、不許可にする場合は、上記でも記載した通り、不許可事由を具体的に明記し、なるべく原則許可するという運用を行う必要があります。その観点からすると、上記3項以外にも具体的な不許可事由を列挙するのも一案ではないでしょうか。

 

<2020年4月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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