非正規社員への無期転換制度の導入により、会社が対処するべき事項を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

2018年4月より無期転換制度がスタートしましたが、どういった点に注意したほうが良いのでしょうか。

 

【回答】

無期転換制度とは、有期雇用の労働者(アルバイト、パートタイマー、期間雇用、非正規社員など名称は問いません。労働契約の有効期間が半年や1年といった期限が定められている労働者のことを指します)について、ある一定の要件を充足し、かつその労働者が申入れを行った場合は、無期雇用(労働契約の期間について定めない)の労働者に強制的に変更になってしまうという法制度のことをいいます。

無期転換の変更することはやむを得ないとして、無期転換した元有期雇用の従業を正社員と全く同様の処遇としてよいのか、検討を行う必要上がります。

 

【解説】

1.無期転換=正社員ではないこと

無期転換制度の概要は上記【回答】で記載した通りです。

ただ、このように書くと、「正社員になるの?」という質問が必ず飛んできます。事業者における正社員とはどういった方々を指すのかにもよりますが、少なくとも無期転換制度だけで考えた場合、完全に正社員と同一視するところまで法律は求めているわけではありません。

とはいえ、昨今の働き方改革、特に均等待遇・均衡処遇が求められる環境下では、無期転換者他従業員に対する職務内容や業務上の責任が正社員と何ら変わりがない場合、処遇について差異を設けることができませんので、正社員と同一視する必要があります。

無期転換制度と働き方改革(均等待遇・均衡処遇)は別制度ですが、相互にリンクさせながら考える必要があります。

 

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2.無期転換制度の対象となる労働者とは?

有期雇用の労働者であれば誰でも申入れができるという訳ではありません。同一の法人で5年雇用され続けていることが要件となります。「同一の法人」ですので、例えば2.5年間は東京本社、3年間は大阪支店で勤務していた場合は要件を充足します。一方、親子会社でもなければ資本関係もない、全くの別法人ではあるものの同業種のところで2.5年勤務し、現在のところで3年勤務したという場合には無期転換制度が適用されません。

なお、ケースバイケースの判断とはなりますが、法人格が異なるとはいえ、無期転換権を行使させないために、経営者が同じ別法人に移籍させたという場合には、実質的に同一の使用者であるとして通算される場合があります。

3.期間のカウント方法は?

まず大前提となるのが、1回以上の労働契約の更新があり、かつ通算して5年を超えることが要件となります。では、いつから数えて5年を超えたと判断するのか、という問題が出てくるのですが、2013年(平成25年4月1日)以降に「締結」された有期労働契約より起算するというのが法律のルールとなります。例えば、6ヶ月ごとの有期労働契約を繰り返し締結していた場合…

・2013年(平成25年)1月1日に6か月の労働契約を締結した場合、2013年(平成25年)4月1日より前に締結した契約であることからカウントされない(更新後である2013年(平成25年)7月1日を起算日として、そこから5年を超えるか否かの判断を行う)

・平成24年10月1日に6か月の有期労働契約を締結していた場合、更新日の平成25年4月1日よりカウントを開始する。

ということになります。

4.無期転換制度によって有期雇用の労働者はどうなるのか?

非常に誤解が多いのですが、あくまでも労働契約の期間が有期から無期に転換されるだけにすぎません。つまり、その他の労働条件(賃金、勤務時間、福利厚生など)は当然に変更されるわけではありません。

ただ、先述の通り、有期雇用であった労働者と無期雇用(いわゆる正社員)の労働者との勤務内容に差異がない場合、双方の労働条件格差は問題点として必ずクローズアップされることになります(均等待遇・均衡処遇)。方向性としては、無期転換となった元有期労働者と正社員との条件格差を是認することができるだけの職務内容に差異を設けるか、格差を是正するための方策を講じるのか、どちらかのアプローチをとることになるかと思います。

5.無期転換制度を迎えるにあたっての注意点は?

(1)現行就業規則のチェック

例えば、労働契約の期間の有無によって就業規則を別々にしている場合、無期転換となった元有期労働者は、形式的には正社員(労働契約期間の定めのない労働者)用の就業規則の適用を受けることになります。こうなった場合、法律では労働契約期間以外の労働条件の転換を義務付けられているわけではないにもかかわらず、社内ルールに則り、法律が求める以上の労働条件の転換を行わざるを得ない場面が生じることになりかねません。

したがって、無期雇用転換後の労働者はどの就業規則が適用されるのか、チェックする必要があります。

(2)労働契約終了に関する規定のチェック

一般的に有期雇用の労働者に対する解雇事由については簡略化されているか、もしくはそもそも解雇事由を定めていないということも見受けられます。しかし、無期転換となった以上は、何らかの事情で労働契約の終了を言い渡さなければならない場面が生じた場合、解雇事由の整備がされていないことには対処困難となります。

したがって、無期転換となった労働者に対して解雇手続きの整備は必ず行った方がよい事項となります。

なお、無期転換となった時点で当該労働者の年齢が事業者の定める定年を超えているという場面も今後は想定されます。都道府県労働局長の認定に基づく特例制度の適用を目指すことも一案ですが、第2定年制度の整備を図るなど対応が必要になってくるものと思われます。

(3)就業規則等の社内規定の整備は早急に!

先ほどより無期転換後の労働条件については、労働契約の期間以外は従前のまま(変更がない)と記載してきましたが、実は重要な例外が定められています。

あえて誤解を恐れずに記載すると、無期転換した場合、就業規則によって従前の労働条件を変更することができる旨法律上は明記されています(当然のことながら変更の程度問題は生じます)。様々な社内事情により、無期転換した元有期雇用労働者の処遇について、従前と同じような労働条件を適用できないと判断した場合、就業規則の整備を図る必要があるのですが、時期を失して転換後に就業規則の整備(変更)を行うとなると、就業規則の不利益変更の問題は避けて通れません。無期転換権の行使前に就業規則の変更を行えば絶対安心であるとは言い切れませんが、無期転換の前後によって就業規則の変更に関する有効性のハードルは異なるものと考えられていますので、早めの準備が必要です。

 

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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