LGBTをめぐる企業の労務対応について、弁護士が解説!

 

 

【ご相談内容】

最近になってLGBTやSOGIハラという概念を知るようになり、会社としても何らかの対策を進めなければならないと考えていた矢先、従業員の中に、自らの性的指向・性自認に基づいて行動する者が現れました。外見と服格好・立振舞との相違に不快感をもって接する者も一部存在し、会社としても対応に苦慮しています。

いきなり完璧な対策を講じることは不可能であることから、現時点で最低でもやっておくべき現実的対策について教えてください。

 

 

【回答】

年代層にもよりますが、本記事を執筆した時点では、人事労務を担当する40代以上の方においては、LGBTについて発想の大転換を迫られており、表面的には理解できても根っこでは違和感があるという方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、各人の性的指向や性自認について、不当な取り扱いをすれはSOGIハラとして法的責任を追及されたり、社会から糾弾されるリスクもあることから、自らの考え方を改めるほかありません。

もっとも、LGBT等に関する考え方は、最近になって浸透しつつあるというところもあり、まだまだ人事労務担当者の中にも「建前」と「本音」が混在しているように思います。そこで、本記事では、あえて「建前」と「本音」を対比させつつ、現状でもこれだけはやっておきたいと考えられる最低限の対策について解説を行っています。当然のことながら、社会認識はどんどん変化していきますので、本記事執筆以降においては、最低限のハードルがもっと上がっていることも予想されます。この点は、あらかじめご注意いただければと思います。

なお、執筆者はLGBTに関する専門家ではありません。会社側の人事労務問題を法務視点で取り扱うことが多いことから、専ら違法性の有無を検証しており、社会的妥当性(世論動向など)を踏まえた記事解説とは必ずしもなっていないことにご注意ください。

 

 

【解説】

 

1.採用

 

(1)採用見送り

(事例)外観は明らかに男性であるが、女性のような服格好で採用面接に臨もうとする人物がいた。会社は不自然な人物と判断し、採用面接を行うことなく帰宅させた。なお、後で当該人物の履歴書を確認したところ、性別欄に何らの記載がなかった。

 

(建前)

性的指向や性自認は尊重される必要があり、上記事例のような見た目と服格好の違和感のみで採用面接を拒絶する(採用見送りとする)ことは許されない。

 

(本音)

明らかに不自然であり、ふざけて採用面接にきている可能性も否定できない。仮に本人の性的指向や性自認があるとして、当社ではこれまでの採用実績がなく、他の従業員との関係もあり対処に苦慮する可能性があることから、採用するわけにはいかない。

 

(解説)

たしかに、会社には採用の自由があります。しかし、この採用の自由も無制限に認められるわけではありません。この点、近年のLGBTに関する国内外の活動や社会認識の変化、厚生労働省が性的指向や性自認を排除しない公正な採用を要請していることを考慮すると、性的指向・性自認だけを理由として採用見送りとすることは、違法行為と判断されるリスクが高いと言わざるを得ません。

したがって、見た目・服格好の違和感があったとしても、採用面接自体は行うべきであり、適性・能力の有無を見極めたうえで採否を行うという対応が必要です。なお、採否の理由を求職者に開示する必要性はありませんが、変な誤解を受けないためにも、採否理由は開示しないことは明言・明記したほうがよいかもしれません。

ところで、上記事例では履歴書の性別欄に記載がありません。そこで、面接担当者が性別を質問することが想定されます。もちろん性別が職務内容や職業能力に関係するのであれば質問しても問題ありません。ただ、思っている以上に性別と職務内容・職業能力が結びつく場面は狭く、現代の風潮(LGBTに関する社会認識以外にも、性別欄の記載がない履歴書がスタンダートになりつつあることも考慮)のを踏まえると性別に関して当然に質問してよいと考えるべきではありません。

 

(2)内定取消

(事例)採用内定を出した求職者(履歴書上は女性)より連絡があり、「戸籍上は男性であるが、性自認は女性である」との報告を受けた。当社は女性顧客をターゲットとし、顧客に安心感を与えるために女性スタッフが対応することを事業方針としているところ、当該求職者をスタッフとして配置することは事業活動に支障をきたすため内定取消を行った。

 

(建前)

本人の性的指向や性自認を尊重する必要があり、適性・能力以外の事由で内定取消を行うことは許されない。

 

(本音)

顧客からクレームが発生した場合、説明のしようがなくリスクありと言わざるを得ない。また、勤務している他の女性スタッフの不安や困惑を原因とするトラブルを起こしたくない。

 

(解説)

会社が内定通知を出し、求職者が受諾した場合、法的には労働契約が成立したことになります(正確には始期付解約権留保付労働契約と呼ばれています)。したがって、内定の取消は、理屈の上では解雇に準じて考えることとなり、解雇の正当性を維持できるだけの客観的かつ合理的な事由が必要となります。この点、性的指向や性自認のみを理由として内定取消(解雇)することは正直難しいといわざるを得ません。

もっとも、女性スタッフが対応するという事業方針という点を強調した場合、①当該求職者の行為は経歴詐称に該当しないか、②当該求職者はスタッフとしての適性を欠くのではないか、と考えることができるかもしれません。しかし、①については、性的指向や性自認はプライバシー情報の中でも機微情報と言え、これを安易にカミングアウトさせるよう義務付けることは難しいと考えられています。また、②についても、男女雇用機会均等法の観点からは女性のみの求人活動ができない以上、女性のみ採用するつもりだったという主張の正当性を維持することは困難と考えられます。

会社の予防策としては、具体的な職務内容の限定を行わずに内定通知を行い、当該求職者の事情と事業方針を考慮しながら、人事配置を調整し対処することになると考えられます。

 

 

2.社内環境整備

 

(1)取引先からのクレーム

(事例)戸籍上は男性である営業職員が、ある日「自分は女性だと思っているので、今後は女性として働きたい」と宣言し、以後女性らしい姿・格好で勤務するようになった。会社としては黙認していたところ、当社取引先より、当該営業職員の外見に関する強烈なクレームが寄せられる事態に至った。

 

(建前)

従業員の性的指向や性自認を尊重し、取引先に納得してもらえるよう説明を尽くすべきである。

 

(本音)

経済的利益を求めて事業活動を行うことが会社の本来的目的であり、決して従業員の自己実現を図る場ではない。会社の事業活動の支障をきたす以上、従業員の趣向は制限されるべきである。

 

(解説)

「建前」と「本音」が激しく衝突する場面ですが、本記事を執筆した時点では、一方が当然に優位に立つという関係性にはならないと考えられます。したがって、従業員の性的指向や性自認を重視し、会社は性的指向や性自認に理解を示さない取引先との取引を打ち切らなければならない法的義務があるわけでもなく、ましては取引先を説得する法的義務が当然に生じるわけではないというのが原則的な考え方となります。

一方、従業員との間で明確な職務や職種の限定契約を行っていない限り、会社は広範な配置転換権を有していることが通常です(一般的には就業規則に定められていますが、就業規則がない会社であっても労働条件通知書等で将来的に業務内容の変更があり得る旨明記されていることが多いと思われます)。したがって、取引先とのこれ以上のトラブル回避のために、当該営業職員を担当から外すことも法的には可能と考えられます。

もっとも、理屈の上では上記の通りではあるものの、人事労務政策として安易な配置転換は当該職員のモチベーションや士気低下につながりかねませんし、これまで性的指向や性自認を尊重してきた会社のスタンスからすると、他の従業員に対しても悪影響を及ぼしかねません。したがって、会社としてはできる範囲で取引先の説得を試みる、説得を行ったが取引先の考え方を変えることができない、このままでは当該営業職員の精神的負荷や業務従事に支障を及ぼす懸念等を説明の上、配置転換を実施するといった手順を踏むべきではないかと考えられます。

 

(2)同僚(社内)での差別的言動

(事例)カミングアウトしていない同性愛者の従業員より、同僚の従業員が同性愛者をバカにするような言動を業務内外で繰り返し行っているため、精神的苦痛を被っている旨の相談を受けた。

 

(建前)

同性愛に対する差別的言動を行わないよう、同僚の従業員に対して指導教育を行う必要がある。

 

(本音)

同性愛に対する考え方は個人の自由であり、業務とも直接の関連性があるわけではないことから、同僚の従業員に対して指導教育を行うことが煩わしい。

また、ある日突然にLGBTに関する指導教育を行うことで、かえって社内に同性愛者が存在することを知らしめることになり、相談した従業員を追い込んでしまわないか不安がある。

 

(解説)

現在厚生労働省は、性的指向や性自認に関する性的言動がセクシャルハラスメントに該当し得ること、性的指向や性自認について侮辱的な言動を行うことや本人の同意なく暴露すること(アウティング)はパワーハラスメントに該当すること、を明らかにしています。したがって、会社としては、同性愛をからかう、嫌悪感を露にする言動はNGであることを社内に周知し、職場環境を改善する義務があると認識する必要があります。

その上で、差別的言動のある従業員に対する指導教育の方法として、個別指導で対処するのか、まずは社内全体での集団指導とするのか方針を決める必要があります。この方針決定に際し、会社が懸念するリスク(同性愛者が社内に存在することを知らしめる可能性)を相談者に伝え、意見を聞きながら進めていくのも一案と考えられます。

次に、差別的言動を行った同僚従業員に対する懲戒処分については、慎重に判断する必要があります。なぜならば、本件のような同性愛に対する差別的言動を理由とした懲戒処分規定がそもそも存在するのか、存在するとして相当な懲戒処分とは何かを検証する必要があるからです。根拠がないのに懲戒処分を行った場合、今度は懲戒処分を受けた従業員より会社はクレームを受けることになりかねないこと注意が必要です

なお、本件では業務中でも差別的言動があるため問題にはなりませんが、仮に、業務外での差別的言動を理由に相談があった場合、会社がどこまで指導教育を行う必要があるのかは非常に悩ましい問題となります(例えば、相談者が、偶々同僚従業員のプライベートで投稿した差別的言動を含むSNSを見つけてしまった場合など)。業務外=プライベートの領域に属する以上、差別的言動を行っている従業員に対して業務指導を行う根拠を欠くと考えられるからです。結局のところは、当該言動による社内秩序への悪影響度をケースバイケースで検討するほかありませんが、一方に肩入れしすぎると他方より不満を持たれてしまうという関係になるため、早急に弁護士に相談し、アドバイスを受けるべきです。

 

(3)性自認に応じたトイレ使用

(事例)戸籍上は男性である事務職員が、ある日「自分は女性だと思っているので、今後は女性として働きたい」と宣言し、女性用のトイレを使用するようになった。なお、当社はテナントビルに入居しており、当該トイレ設備はビルオーナーが管理するものであった。

当該トイレ設備は、他社の従業員や関係者も使用するところ、当該事務職員による女性トイレの使用について、他社より困惑や不安の声が複数寄せられ、またテナントオーナー側からも対策を講じるよう強く要請される事態となった。

 

(建前)

性的指向や性自認については尊重する必要性があることから、当該事務職員による女性トイレ設備の使用について、他社やテナントオーナーにも理解してもらえるよう働きかけを行うべきである。

 

(本音)

当社が管理する設備使用であればともかく、他社が管理する設備であり、ましてや当社以外の第三者も使用する設備である以上、自らの主義・趣向にこだわるのではなく、第三者の感じ方・受け取り方についても配慮してほしい。

 

(解説)

性的指向や性自認については本人の問題であり、何か自分が不利益を被るわけではないことからLGBTに関する施策について特に異論はないと普段は理解を示す人であっても、トイレといういわば究極的な個人の領域に踏み込む事態となると、強い違和感や困惑・不安を示すことが多いのが実情です。

そして、強い違和感や困惑・不安を有する自社従業員に対し、会社が教育指導することで完全に取り除くことは困難であることが多く、また根絶できるまで、会社が逐一指導教育しなければならない高度な義務があると考えることも現状では疑問があるといわざるを得ません。ましてや、自社以外の第三者に対して協力・理解を求める法的義務が会社に当然に発生するとは言えないでしょう。

したがって、本件のような第三者が管理する設備の使用について、抽象的なものではなく、現実に複数のクレームが発生している状況下では、当該事務職員に対して、女性トイレの使用を中止するよう業務命令を出すことも許されるものと考えられます。

もっとも、上記(1)でも触れましたが、クレームが発生したから一方的に使用中止命令を出すというのは考え物です。LGBT等に対する社会認識の変化等を踏まえ、会社としてはできる範囲でテナントオーナー等へ説明し理解を求めるといった対策を講じるなどして、当該事務職員への配慮を示すことがポイントになるものと考えらえます。

なお、本事例は、あくまでも第三者が管理する設備使用を前提にしましたが、自社管理物件でのトイレ使用の場合、費用負担等の問題はさておき、自社で対策を講じることが可能となりますので、上記のような考え方とはならないこと注意が必要です。

 

 

3.福利厚生

 

(1)育児・介護休暇

(事例)同性パートナーと生活をする従業員より、「パートナーが交通事故にあい、介護が必要な状態となったので、介護休暇を申請したい」との申出があった。なお、当社の介護休業規程は、育児介護休業法に準じた内容となっている。

 

(建前)

同性パートナーであっても異性の配偶者であっても介護の必要性に差異はない以上、介護休暇を認めることは差し支えない。

 

(本音)

事実婚の場合以上に同性パートナーであることの裏付け判断を行うことが難しいにもかかわらず、簡単に介護休暇申請を認めてしまうと、今後悪用される懸念がある。

 

(解説)

まず、育児介護休業法第2条第4号では、「配偶者」の定義として、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むと定めています。文言上、同性・異性を前提にした内容とはなっていない以上、同性パートナーを育児介護休業法上の配偶者に包含させることは支障がないと考えられます。

もっとも、同性パートナーであることを、会社としてはどうやって判断するのかについては法的な基準が整備されているわけではありません。この点、住民票上の住所が同一であることを前提としつつ、さらに付加的な判断材料として、一部の自治体が発行するパートナー証明書をもって判断するというのは、1つの考え方と思われます。しかし、パートナー証明書はすべての自治体で発行されているものではありません。このため、パートナー証明書がない場合であっても他に代わる資料(例えば、結婚式に関する資料、場合によっては本人による自認書の提出など)で判断するといった柔軟な対応が必要になると考えられます。

同性だから介護休業は認められないと判断するべきではないこと、注意が必要です(同様のことは育児休業でも該当します)。

 

(2)慶弔

(事例)当社は、当社独自の制度として、従業員が結婚した場合に結婚祝金の支給を行っている。今般、某従業員より、同性パートナーと結婚したので結婚祝金の申請を行いたい旨の相談があった。

 

(建前)

同性であれ異性であれ、従業員の結婚に対し、会社が祝福の意を込めて支給する制度である以上、同様に支給するべきである。

 

(本音)

同性同士による結婚に違和感があり、支給対象としてよいものか悩ましい。

また、同性同士の結婚でも支給するのであれば、事実婚についても支給する必要性が生じる等の懸念があり、取扱いが混乱する恐れがある。

 

(解説)

いわゆる慶弔見舞金等の支給は、法律上定められて制度ではありません。したがって、支給の有無、支給対象、支給条件等については、会社が任意に定めることが可能です。このため、例えば結婚祝金の支給対象を法律婚のみに限定すると定めても、直ちに違法とまでは言い難いと考えられます。

もっとも、様々な価値観を有する従業員の働きやすい環境を整えるという意味では、法律婚と事実婚、異性婚と同性婚とであえて差異を設ける意義は薄いものと考えられます。また、LGBT等をめぐる考え方の変化や社会風潮を踏まえると、将来的には不合理な差別といわれるリスクが高いと考えられます。このような観点からすると、同性婚であっても結婚祝金の支給対象にする方向で検討したほうが無難といえます。

なお、同性パートナーによる結婚の事実を裏付ける方法論については、前述(1)の介護休暇に関する解説を参照してください。

 

 

4.懲戒

 

(1)業務命令違反

(事例)戸籍上は男性である営業職員が、ある日「自分は女性だと思っているので、今後は女性として働きたい」と宣言し、以後女性らしい姿・格好で業務従事し、取引先への訪問も行うようになった。これに対し、当社取引先より、当該営業職員の外見に関する強烈なクレームが寄せられる事態に至った。そこで、当該姿・格好での取引先訪問は中止するよう指示したところ、当該営業職員は拒否したため、当社は業務命令違反を理由にした懲戒処分を検討している。なお、当社は業務遂行中の服装について特段の指定は設けていない。

 

(建前)

取引先の意向よりも、従業員の性的指向・性自認が優先されるべきであり、従業員に対する懲戒処分は許されない。

 

(本音)

従業員の性的指向や性自認の尊重は理解できるものの、取引先に説明し、説得すること自体が取引先の態度をさらに硬化させ、当社の事業活動の支障にもなりかねない。従業員はその点を理解し、自制してほしい。

 

(解説)

業務遂行中の服装について特段の指定は設けていない以上、服格好については従業員の裁量に任されていることが原則となります。もちろん、例えば切削等の危険な作業を行う場合には、安全衛生の観点から肌の露出の多い服装を禁止するといった措置を会社が講じることは有り得る話です。そして、これに従わない場合は業務命令違反として懲戒処分を行うことも許されますが、やはり何らかの客観的合理性(正当性)があることが前提となります。

本件の場合、服格好の指定について、法令上の根拠があるわけではありません。また、取引先の感じ方という極めて主観的事由を踏まえての従業員に対する要請となります。たしかに、取引先への依存度等を考慮すると、事実上取引先の意向に歯向かうことができないといった現場実務は想像できるところですが、従業員に対する服格好の指定を正当化させるだけの根拠としては乏しいといわざるを得ません。

したがって、服格好の指定に関する業務命令違反を理由とした懲戒処分は難しいと考えられます。現時点では、上記2.(1)で解説したような配置転換等も視野に入れて、当該従業員と取引先への説明を試み、落ち着かせるほかないかもしれません。

 

 

(2)経歴詐称

(事例)履歴書上は女性と記載されており、服格好や仕草から女性と認識していた従業員について、戸籍上は男性であることが発覚した。発覚後に聞き取り調査を行ったところ、当該従業員は「自らの性自認に従い業務を遂行している」との弁明を行っている。会社としては虚偽申告があったとして、何らかの処分を行う必要があるのではないかと考えている。

 

(建前)

自らの性自認に従う限り、本人の主観的には性別を偽ったことにはならず、またこれまでの業務遂行に支障をきたしていないのであれば、今更経歴詐称で懲戒処分を行うことは不合理である。

 

(本音)

法律上は性別不一致であり経歴詐称に該当する。

また、業務内容や顧客対応等によっては、どうしても性差による区分を行う必要があるのであって、会社による適切な業務配置判断を誤らせる可能性があるものとして、社内秩序を乱すものと言わざるを得ない。

 

(解説)

経歴詐称による懲戒処分が許されるのは、「重要な経歴」を偽ることで、会社が従業員の能力や適性、人物評価を正確に判断できず、労使間の信頼関係を破壊した場合とされています。この点、男女雇用機会均等法を持ち出すまでもなく、男女の性差によって能力や適性、人物評価の判断妨げになるとは原則言えないことを踏まえると、男女の性差が「重要な経歴」に該当するとは言いづらいのが実情といえます。

したがって、戸籍上の性別不一致を理由に経歴詐称で懲戒処分を行うことは原則難しいと考えられます。

もっとも、例えば、会社の業務内容として、女性顧客に対する身体的接触を伴うマッサージサービスを提供しており、対外的にも女性スタッフであることをアピールポイントとしていた場合、どうしても女性顧客の中には、男性による身体的接触に拒否感や嫌悪感を抱く人がいるのは紛れもない事実です。また、対外的なアピール内容からすると、男性スタッフによるサービス実施の事実が発覚すると、顧客の反発を招いたり、場合によっては虚偽サービスを実施していたとして糾弾されるリスクもあります。このような事情がある場合、戸籍上の性別不一致を一切不問とするわけにはいきません。

とはいえ、本件の場合、現状では特段の問題が生じていたわけではなく(もちろん単にバレなかっただけという評価もあり得ます)、業務遂行に支障が生じているわけではない以上、現実に社内秩序を乱したという訳ではありません。したがって、社内秩序を乱したことを理由とする懲戒処分についても、本件では難しいと考えられます。なお、戸籍上の性別不一致が明らかとなった以上、会社の業務内容に応じて、当該従業員とも協議しながら配置転換を検討することは有り得る話です。

 

 

 

<2021年9月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

 

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