企業法務に関する相談を受けていると、ある程度似通ったご相談をお受けすることがあります。
このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。
ご相談
労働者と突然連絡が取れなくなり、無断欠勤が続いています。
このまま当社従業員としての籍を置いておくわけにはいきませんので、退職扱いにしようと考えているのですが、問題ないでしょうか。
回答
1.当然退職扱いはリスクを伴う
上記状況だけで、当然に退職扱いとするのはややリスクを伴います。まずは…
- ①労働者の自宅を訪問し生活実態があるのか確認すること
- ②身元保証人や家族などに連絡を取り状況確認を行うこと
- ③携帯電話、電子メール、LINEなど様々な手段を用いて連絡を試みること
が必須となります。
上記3つの手段を講じたものの、一向に労働者の動静が不明という状況になって、処遇を考えることになります。
2.解雇手続きの確認
この点、就業規則を制定しているのであれば、一定期間の無断欠勤が継続した場合は解雇事由に該当すると定められていることが多いと思われます。
ただ、解雇する場合、厄介になるのが「どのようにして解雇したことを労働者本人に伝えるのか」という点です。
なぜ、これが問題になるのかというと、解雇とは法的には労働契約終了の意思表示であり、意思表示であるのであれば相手方に当該意思を伝達しなければならないというルールがあるからです。
この点を考慮した場合、解雇の意思表示を行ったことを客観的に証明することができるツールである配達証明付き内容証明郵便で解雇通知書を送付することが本来的対処法となります。しかし、おそらくは送付しても、本人が受領せず、保管期間切れで戻ってくるだけであり、解雇通知書を本人の手元に届けることはできません。
その結果、解雇したくても、労働者にその旨伝えることができず、解雇が成立しないという事態に陥ってしまいます。
3.解雇の意思表示の伝達方法
ではどうするか?
実のところ、「これで大丈夫!」という方法は存在しません。
このため、以下に記載する方法は、あくまでもリスクは残ったままだが、リスク低減には役立つというものであることのご注意ください。
まず、解雇の意思表示をどのように伝えるかですが、携帯電話の留守電、電子メールやLINEなどありとあらゆる連絡手段を用いて、解雇の意思表示を行った痕跡を残すようにします。
次に、念のため住民票を入手し、異動歴が無いことを確認してから特定記録郵便にて解雇通知書を送付します。
最後に、身元保証人や家族等と連絡を取れるのであれば、これらの関係者に対しても解雇の意思表示を行った旨の報告を行います。
一般論としては、ここまでやっておけば、後で「あの時の解雇は無効だ」といって労働者が争ってくる可能性は低くなります。
ただ、後日何事もなかったかのように出社してきて、「あの時の解雇は無効だ」と主張してくる労働者も中には存在します。この場合、その場で無断欠勤を理由に改めて解雇を言い渡すといった方法で対処することになります。
最後に解雇する場合ですが、いわゆる即時解雇ではなく、30日経過を待っての予告解雇の方が無難と考えられます。
なぜなら、即時解雇の場合、解雇予告手当の支払い義務が生じるからです(解雇予告手当をどうやって支払うのかという新たな問題が生まれかねません)。一方、予告解雇の場合、30日経過後に解雇の効力が発生すること、当該期間中は勤務していない以上は賃金が発生しようがありません(ノーワークノーペイ。なお、社会保険料等の会社負担分が発生しますが、1ヶ月分の賃金と比較すれば微々たるものと割り切るほかありません)。
<2024年8月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
弁護士 湯原伸一 |