事業(営業)譲渡契約を締結するに際して注意するべき事項を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

個人が経営する小さな飲食店舗を譲受け、当社で引き続き飲食店を経営することを計画しており、必要な契約書の作成準備を行っています。どういった契約書を作成すればよいのでしょうか。なお、小さな飲食店舗であるためデューデリジェンスを行う予定はありません。

 

【回答】

相手当事者が経営する店舗での飲食事業を丸ごと購入することになることから、事業(営業)譲渡契約を行うことになります。デューデリジェンスを行わないとのことですので、比較的簡易な契約書でもよいかとは思うのですが、やはりポイントは押さえておきたいところです。小規模なM&Aとはいえ、事業譲渡契約を行うに際しては必ず押さえておきたいポイントを以下解説します。

 

【解説】

1.対象となる財産を特定する

本件事例のように店舗運営を引き継ぐ場合、店舗運営に必要となるもの全てのものを包括的に譲渡することを可能にする契約として、事業(営業)譲渡契約を締結するとイメージされる方も多いかと思います。たしかに、契約の目的はその通りなのですが、実は事業(営業)譲渡契約は、法律的には個々の財産を個別に譲渡する、端的に言えば売買契約の1類型にすぎません。

したがって、事業(営業)譲渡契約を締結する場合、何を譲渡対象とするのか個別具体的に定めることがまずもってのポイントとなります。例えば次のような条項です。

なお、譲渡財産をピックアップするに際しては、譲渡人が単独で処分可能なものなのか(譲渡人が所有権者なのか)、第三者の承諾等が必要となるものなのか(譲渡人のみでは処分ができないものなのか)を区分して検討する必要があります。第三者の承諾が必要となる典型的なものとしては、不動産賃貸借やリース契約です。ちなみに、水道光熱や通信(インターネット)については譲渡対象とせず、譲渡人は水道光熱等の契約を終了させ、譲受人は新たに契約を締結するという形式で対処することが多いように思われます。また、許認可が必要な事業については、通常は承継対象になりませんので、個別に譲受人で取得する必要があります。

第×条(譲渡資産)

譲渡人は、譲受人に対して、別紙「譲渡対象財産目録」に記載の財産(以下「譲渡財産」といいます)を譲受人に譲渡するものとします。

【別紙】

動産 ××

店舗付着物 ××

従業員 ××

契約関係 ××

顧客リスト ××

 

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2.対象財産の引渡し方法を確認する

事業(営業)譲渡の対象となる財産のうち、譲渡人が所有する動産(有体物)であれば単純に引渡しをすれば足りますので、特に問題となることはありません。

問題は店舗運営に必要となる動産(有体物)ではあるものの、第三者が所有権を有している場合(典型的にはリース物件)です。この場合は第三者(リース会社など)が関係してきますので、譲渡人と譲受人のみで引渡し方法を決めるわけにはいきません。このような第三者が関係する場合はどうやって引渡しを実行するのかをあらかじめ決める必要があります。例えば次のような条項です。

なお、従業員も第三者ですので従業員の承継についても取り決める必要がありますが、これについては後述します。

第×条(譲渡財産の引渡し)

1 譲渡人は、本件店舗および譲渡財産を現状有姿の状態で、譲受人に対し本件店舗を引き渡します。

2 譲渡人は、譲渡財産につき、譲渡人以外の第三者の権利の対象とされているものではないことを、譲受人に対し保証します。

3 譲受人は、譲渡人に対して、譲渡財産に隠れたる瑕疵があっても一切の異議を申し述べないものとします。

4 本件店舗にかかる建物賃貸借契約・リース契約その他第三者との権利関係の承継等の処理については、譲受人と譲渡人とが協力して実施するものとします。なお、本件店舗にかかる建物賃貸借契約・リース契約その他第三者との権利関係の承継等の処理について必要となる費用については譲受人の負担とし、その他詳細については別途譲受人譲渡人間にて覚書等にて定めるものとします。

3.事業(営業)譲渡の実行日を確認する

法律上は譲渡財産の引渡日を実行日として取り決めることになるのですが、本件のような店舗の引継ぎの場合、譲受人において店舗運営が可能となる日も含めて検討することが多いようです。もっとも、理屈の上では、譲渡財産の引渡日と店舗営業可能日とは意味が異なりますので、この点は分けて検討を進める必要があります。例えば次のような条項です。

第×条(事業譲渡)

譲渡人は、×年×月×日(以下「本件引継日」といいます)をもって、××に関する営業を譲受人に譲渡し、譲受人はこれを譲り受けるものとします。

第×条(損益の帰属等)

1 本件引継日以降においては、譲受人は別途譲渡人と合意の上で、自己の飲食店舗として本件店舗を営業することができます。但し、譲受人は、譲渡人との間で別途契約を締結しない限り、従前譲渡人が用いていた店舗名称にて営業を行ってはならないものとします。

2 本件店舗の損益は、本書に特段の定めがある場合を除き、本件引継日の前後において区分し、同日より前日のものは譲渡人に、同日以後のものは譲受人に、それぞれ帰属します。

4.決済・清算方法を確認する

事業(営業)譲渡の対価について、いつまでにどうやって支払うのかを定めることは当然のこととなります。それに加えて、本件のような店舗引継ぎの場合、引継ぎに際して様々な経費が生じますのでこれを誰が負担するのか、その区分・基準を明確にすることでスムーズに清算ができるようにすることがポイントとなってきます。例えば次のような条項です。

第×条(本件譲渡の対価および支払方法)

1 本件譲渡の対価(以下「本件対価」といいます)は金×円(消費税込み)とします。

2 譲受人は本件対価を譲渡人の指定する口座に振り込んで支払うものとし、その振込み手数料は譲受人が負担します。

第×条(諸経費等)

1 本件店舗を運営するために必要となる諸経費および公租公課は、本件引継日を基準に日割り計算とし、本件引継日の前日までの費用を譲渡人が、本件引継日以後の費用を譲受人が負担します。

2 譲渡人は本件店舗で加入している損害保険がある場合は、これを本件引継日をもって解約処理し、譲受人は新たに所定の損害保険に加入します。

3 本件店舗の消耗品等の在庫は譲受人・譲渡人による棚卸をおこない、未開封未使用のもので本件引継後の営業に支障なく使用できるものについて、譲受人は仕入れ価格で譲渡人より買い取ります。

4 譲渡人は本件店舗で取得した「×許可証」について、本件引継日までに廃業の手続きをとるのものとし、譲受人は新たに自己の責任と費用により「×許可証」の交付を受けるものとします。

5.従業員の承継方法について確認する

前述2.でも記載しましたが、譲受人が従業員を引継ぐことを希望しても、従業員が承諾しない限り引継ぐことは不可能です。また、仮に引継ぐにしても、従業員の労働条件はどうするのか(譲渡人が雇用していたときの労働条件と同一なのか、変更が生じるのか等)、従業員が難色を示している場合に譲渡人が説得等の協力を行うのか等の、様々な考慮するべき事項が出てきます。したがって、従業員の承継について、別条項としたうえで細かな事項を定めておいた方が無難です。次に例示として挙げる条項は、その意味では内容が薄いものとなりますが、一応汎用性はある条項にはなります。

第×条(従業員の取扱い)

本件引継日現在、本営業に従事する譲渡人の従業員(アルバイトおよびパートタイマーを含む)の雇用(転籍)、給与等の労働条件に関しては、譲受人譲渡人協議の上、別途これを定めるものとします。

6.譲渡人が競業禁止義務を負担するのか確認する

譲受人としては店舗を譲受けて、利益を出すべく事業活動を行います。ところが、譲渡人が新たに同種又は類似の店舗を近隣に開店させてしまった場合、譲受人は事業を妨害されたと受け止めることになりトラブルが生じることになります。そこで、譲渡人は競業禁止義務を負担するのか予め明確にしておいた方が無難です。例えば次のような条項です。

第×条(競業禁止義務の免除)

譲渡人は、本件譲渡にかかわらず、譲受人に対して、商法第16条(会社法第21条)に定める営業(事業)譲渡人としての競業禁止義務を負わないものとします。

7.契約を実行するための条件が具備されているかを確認する。

事業(営業)譲渡契約の場合、その経済規模によっては株主総会の特別決議が必要になるなど社内手続きが必要となったりします。また、ある程度まとまったお金が動くことになりますので、譲受人は融資が実行されたことを条件に手続きを進めている場合があります。そこで、双方安心して契約締結手続きを進めることができるよう、事業(営業)譲渡契約を進めるにあたった必要となる条件を充足していることを相手当事者にそれぞれ誓約することが必要となります。例えば次のような条項です。

第×条(表明保証)

1.譲受人は、次の各事項が、本契約締結日および本件引継日において真実かつ正確であることを表明し保証します。

①譲受人は、本契約の締結および履行につき、法令および定款その他の社内規則上必要とされる一切の手続を完了していること。

②本件対価の支払に充てるため、金融機関に対し融資申請手続を行い、融資金が得られる見込みがあること。なお、融資申請手続きを行っていることを証する書面(原本証明済みの写し)を提出すること。

③譲受人による本契約の締結又はその履行は、法令もしくは定款その他の社内規則又は譲受人を当事者とする第三者との契約に違反するものではないこと。

(以下省略)

2. 譲渡人は、次の各事項が、本契約締結日および本件引継日において真実かつ正確であることを表明し保証します。

(以下省略)

第×条(前提条件)

1.譲渡人の譲渡財産引渡し義務は、以下の事項を前提条件とし、本件引継日において以下の事項が成就していない場合は、譲受人および譲渡人が別途合意しない限り、譲渡人は譲渡財産の引渡義務を負わないものとします。

①譲受人が、第×条に定める表明保証事項のすべてについて違反していないこと。

②譲渡人の株主総会において、本件譲渡についての承認決議がなされていること。

③譲受人が金融機関に対して行った融資申請手続が進行していること。

(以下省略)

2.譲受人の対価支払い義務は、以下の事項を前提条件とし、本件引継日において以下の事項が成就していない場合は、譲受人および譲渡人が別途合意しない限り、譲受人は対価の支払義務を負わないものとします。

8.万一の場合に備えての対抗策につき確認する

事業(営業)譲渡契約の実行に向けて手続きを進めていたものの、相手当事者が契約に従った履行しないため、対抗策として契約から離脱する、あるいは損害賠償請求を行うといったことを想定する必要があります。このような対抗策を明示したのが、例えば次のような条項です。

第×条(解除)

1.譲渡人は、譲受人が第×条に規定する本件対価を支払わない場合、または譲渡人が本件対価を捻出するために行った融資申請手続が認められず融資金を取得できなかった場合、本契約を解除することができるものとします。

2.譲受人は、譲渡人が第×条に規定する譲渡財産すべての引渡しを行わない場合、本契約を解除することができるものとします。

3.譲渡人および譲受人は、本件譲渡および本件対価の支払が完了した後は、いかなる理由によっても本契約を解除することはできないものとします。

第×条(損害賠償)

第×条に基づき譲渡人が行った表明保証に違反し、又は本契約に基づくその他の義務に違反したことにより、譲受人に損害(合理的な範囲内の弁護士費用を含む。)が発生した場合には、譲渡人は当該損害を賠償するものとします。

9.その他必要に応じて追加したい条項を検討する

事業(営業)譲渡契約の内容をどこまで詳細に規定するか、取引規模によって異なってくるかと思うのですが、必要に応じて定めたほうが良いと思われる内容(いわゆる一般条項)がいくつか存在します。例えば次のような条項です。

第×条 (秘密保持)

1.譲受人は、本契約内容に関する一切の情報をいかなる第三者に対しても開示・提供・漏洩等をしてはならないものとします。

2.譲受人が前項に違反した場合は、これにより譲渡人が被った損害(逸失利益・弁護士費用を含みます)を相手に対して賠償しなければならないものとします。

第×条(第三者との紛争)

本件引継日以降に生じた第三者との紛争については、譲受人の責任と負担で解決するものとし、譲渡人に一切の負担をかけないものとします。但し、当該紛争の原因が専ら譲渡人の責めに帰す事由による場合はこの限りではありません。

第×条 (協議)

本契約に定めのない事項又は本契約の解釈につき疑義を生じた事項については、譲受人および譲渡人は誠実に協議し円満な解決を図るものとする。

第×条 (管轄)

本契約に関する各当事者間の紛争は、譲受人の本店所在地を管轄する裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。

 

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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