Ed Tech(エドテック)事業に参入するに際して留意するべき事項を弁護士が解説!

【ご相談内容】

通信インフラの整備や社会情勢(ウイルス流行など)などの影響もあり、IT技術を使った教育事業(Ed Tech)への参入を検討しています。法務的な観点からはどういった事項に注意すればよいのでしょうか。

 

【回答】

通信インフラの整備や社会情勢(ウイルス流行など)などの影響もあり、Ed Techと呼ばれるITを使った教育(education)事業への関心が高まっています。

Ed Techに関する検討は色々な切り口で行われていますが、ここでは、ヒトの問題、モノ(権利)の問題、カネの問題、情報の問題に分類して留意事項を検討します。具体的には次の通りです。

・ヒトの問題…未成年者への対応、講師との関係

・モノ(権利)の問題…著作権法への対応

・カネの問題…スマホ決済の注意事項、違約金

・情報の問題…事業者が発信するべき情報(特定商取引法)

 

【解説】

 

1.Ed Techと“ヒト”にまつわる問題①~未成年者

 

(1)未成年者との取引と取消可能性

教育事業といえば、真っ先に思いつくのは学習塾や家庭教師などに代表される学校教育の補完に関係するものです。最近ではスマートフォン等の携帯端末で授業を提供するサービスも始まっており、こういったものが代表例となります。

さて、上記のような学校教育の補完サービス事業で問題となるのは、サービス受領者が未成年であるという点です。これまでの学習塾や家庭教師といったリアル(非ネット)の世界で行われる場合、こういったサービスの申込当事者は父母等の法定代理人親権者であることから、あまり意識する必要はありませんでした。ところが、ITを用いた授業等のコンテンツ配信に関する契約の場合、未成年者が直接サービスの申込当事者となる場合があります。

未成年者との契約となると気を付けなければならないのは、あとでサービス契約の取消しを主張されるリスクです。すなわち、民法第5条では、法定代理人(通常は父親・母親)の同意を得ない法律行為(例えば授業等のコンテンツ配信サービスに関する契約締結行為)について、たとえ教育サービス実施事業者に責任がなくても一方的に取消しが可能と定められています。万が一、取消しを主張された場合、授業等のコンテンツ配信サービスを適切に提供したにもかかわらず、授業料を請求することはできませんし、支払い済みの授業料があれば返還しなければならないという事態に陥ってしまいます。

したがって、学生等の未成年者を対象とした教育サービス事業を実施する場合、未成年者からの申込に対してどういった対策を講じるのかが重要なポイントとなります。

 

(2)未成年者取引による取消への対抗策

ところで、インターネット上における未成年者対策として、よく「ご両親の了解を得ていますか」といった確認画面を表示させ、「YES」とクリック操作しない限り、サービス契約が締結できないという対策を講じることがあります。

しかし、これだけでは法定代理人の同意を得た証拠としては不十分と言わざるを得ません。なぜならば、確認画面を操作している人物が、どういった属性・立場の人物なのか全く確認ができないからです。

ところで、未成年者が成年であることについて詐術を用いた場合、取消しすることができないという規定が実は民法に存在します。そこで、未成年者対策として、「あなたは成年ですか」という警告画面を表示させて、未成年であるにもかかわらず「成年である」というクリック操作を行った場合は詐術であるとして取消しさせないといった方法をとる事業者も存在するようです。あるいは、先ほどの「ご両親の了解を得ていますか」という警告表示について、了解を得ていないにもかかわらず「YES」とクリック操作した場合には、詐術にあたるとして取消しを認めないと主張する事業者も存在するようです。

しかし残念ながら、これらの手法だけでは民法が定める詐術に該当するとは言えないというのが主流の考え方です。詳細は例えば経済産業省が公表している電子商取引の準則等を見ていただければと思うのですが、なかなか一筋縄ではいきません。この未成年者対策については、ケースバイケースで複合的な対策を講じる必要があることを念頭に、専門家等とも相談して対策を講じていく必要があります。

 

 

2.Ed Techと“ヒト”にまつわる問題②~講師

 

(1)講師との契約形態

講師を迎えるにあたって、リアル世界での学習塾や家庭教師については労働者(正社員かアルバイト等の非正規社員であるかは別として)として雇い入れることが通常かと思われます。

ところが、EdTechの場合、授業風景を録画し、それをコンテンツとして編集した上で、あとは繰り返し授業映像として再現して利用するということが見受けられます。この場合、リアル世界での学習塾や家庭教師と異なり、継続的に講師を採用し続ける必要がないため、労働者としてではなく、個人事業主として業務委託契約を締結するという方法も用いられているようです。

もちろん、業務委託契約方式が違法というわけではありません。が、例えば、大学生等の未成年講師を一個人事業主としてみなして業務委託契約を締結することが、果たして実態として適当なのかは検討したほうがよいかもしれません。また、授業内容が1コマ完結型ではなく、継続的なものとなる場合(例えば半年や1年など)、使用従属性や指揮命令関係が強くなる傾向がどうしても出てきますので、偽装請負と言われないためにも労働契約として取り扱ったほうが無難ではないかという視点も持った方が良いと考えられます。

 

(2)講師が有する人格権への対応

リアル世界での学習や家庭教師の場合、あくまでも講師と対面する受講生のみに自己の肖像が開示されることになります。ところが、EdTechの場合、映像として全世界に配信されることから、講師によっては肖像権を主張してくる場合があります(特に、退職後に主張してくることが多いようです)。

したがって、映像配信する場合は、地理的範囲(配信対象地域に制限があるのか)、時間的範囲(いつまで配信するのか)、使用範囲(映像編集に制限があるのか等)を意識した肖像権の使用許諾を講師より書面等の証拠化できる形で取得することが望ましいと言えます。また、講師によっては独特のパフォーマンス等で魅力ある授業を実施する場合も想定されますので、その場合は著作権(著作隣接権、著作者人格権)についてもライセンスを受けるといった権利処理を意識したほうが良いかもしれません。

 

 

3.Ed Techと“ヒト”にまつわる問題③~シェアリングサービス

上記2.ではEdTech事業者自らが教育サービスを提供することを前提にしていましたが、「知識技能を教える人(講師)」と「知識技能を教えてもらう人(受講者)」とをマッチングするシャアリングサービスも今後は盛んになるかもしれません。

この場合、EdTech事業者はプラットフォーマーとして位置づけられることになりますので、講師を雇い入れる、業務委託するといった形式にはなりません。また、受講者との関係でも、教育サービスを実施する事業者というわけではありません。

したがって、教育サービスの内容それ自体に対する不具合等について、EdTech事業者が責任を負うことは原則ないものの、最近の議論の方向性として、プラットフォーマー(媒介事業者)は一切免責されるわけではないという風潮が出てきています(実際の複数の裁判例でも、この点に関する考え方が示されるようになってきました)。プラットフォーム上のサービス品質を維持するという観点からは、「知識技能を教える人(講師)」に対して、一種の服務規律に準じた利用規約等に設ける同意させ、管理を行う必要があると考えられます。

 

 

4.Ed Techと“モノ(権利)”にまつわる問題~教育目的での著作物使用ルール

 

(1)教育は聖域ではない

「教育産業であれば著作物を無断利用しても問題はない」、このような考え方を持っている方は一定数いるような気がします。が、営利目的での教育産業に携わるのであれば間違いと考えるべきです。

以下、EdTechに関係しそうな内容についてのみ取り上げます。

 

(2)インターネット回線を用いた授業の同時中継(公衆送信)

よく指摘を受けるものとして著作権法第35条があり、一見すると授業の同時中継を行う場合は教材等の著作物を無許可で利用することが可能なように読めてしまいます。しかし、著作権法第35条は「営利を目的としない教育機関」となっています。このため、EdTechに携わる事業者が著作権法第35条に基づいて、無許可で教材等の著作物を利用することは不可能です。

この結果、授業の同時中継において教材等の著作物を使用する場合は、著作権者の許諾を取る必要があります。

なお、ここで注意を要するのが、許諾を得る場合に単にプリント等の配布物(有体物)としての許諾のみでは足りないという点です。理屈上のやや難しい話になってしまいますが、プリント等の配布物への許諾は複製権に関する問題となります。一方、例えばインターネット利用者の端末画面上に教材等の著作物を提示する場合、公衆送信権の問題となります。一口に著作権といっても、実は著作権は非常に細かな権利(上記のような複製権や公衆送信権といった著作財産権と呼ばれるものがあれば、著作者人格権と呼ばれるものがあり、その他多種多様な権利があります)の集合体であるため、その細かな権利ごとで許諾を得る必要があるからです。

 

(3)試験問題として用いる場合

これもよく指摘を受けるのですが、著作権法第36条では試験目的で著作物を利用する場合は無許可で使用してよいことを定めています。ただ、よく読んでほしいのですが、営利目的の場合は「補償金」を支払うことが条件となっています。したがって、無料で使用できるというわけではないことに注意が必要です。

 

 

5.Ed Techと“カネ”にまつわる問題~決済手段

 

(1)スマホアプリ上でサービス提供する場合

スマートフォン端末の場合、アプリケーションとしてサービス提供をすることが想定されます。アプリケーションとして提供する場合、多くはプラットフォーマー(androidであればGoogle Play、iPhoneであればAppStore等)を通じて利用者に提供するということを想定するかと思います。

これ自体は特段問題ではないのですが、問題は利用料の回収方法=課金方法です。androidの場合問題は起こらないのですが、iPhoneの場合は少し注意が必要です。というのも、AppStoreを通じてアプリケーションを販売する事業者との利用規約上、課金は必ずアプリ課金を用いることが義務付けられているからです。つまり、アプリ外で直接EdTech事業者が利用者に対して利用料を回収すると利用規約違反となり、iPhoneでのサービス提供が今後できなくなってしまうというリスクがあるということです。

いわゆるフリーミアム戦略を取り、一部の講義について無料で提供しつつ、どこかのタイミングで有料講義に切り替えてもらうという戦略をとる場合、EdTech事業者と利用者との間で直接的なやり取りが発生し、EdTech事業者があらかじめ準備した決済方法(クレジットカード決済など)に誘導しがちなのですが、少なくともiPhone端末利用者に対してこの方法を取ってしまうと上記の通り利用規約違反として処断されますので、課金方法について十分な戦略を練っておく必要があります。

 

(2)利用開始後の中途解約と違約金

リアルの世界でもあることですが、何らかの理由により受講契約を中途解約したいという場面はどうしても生じてきます。

この場合の対応として、①そもそも中途解約を認めるのかという問題、②中途解約を認めるとして何らかの制裁をかすのかという問題(典型的には違約金の発生や前払い受講料の不返還など)について、EdTech事業を進める上ではあらかじめ検討するべきです。

後述6.の解説で詳説しますが、サービス内容が学校教育の補習等に該当する場合、特定商取引法の規制に服することになります。この場合、中途解約は認める必要がありますし、違約金の上限や前払い受講料の返還などのルールが定められていますので、これに従う必要があります。

一方、特定商取引法の規制が及ばない場合であっても、利用者が消費者に該当する場合は消費者契約法を意識する必要があります。消費者契約法は事業者に対して様々な規制を課していますが、結論から言うと、対消費者ビジネスを展開するのであれば特定商取引法に準じたルールの設定(中途解約は認める、前払い受講料のうち未消化受講部分は返還する、違約金についても特定商取引法が定める違約金の上限を参照するなど)を行ったほうが無難と考えられます。

なお、特定商取引法の規制が及ばない、利用者は事業者に限定されるという場合、原則的にはEdTech事業者が自由にルール設定できます。ただ、当然のことながら、あまりに非常識な違約金を課すといった場合は公序良俗違反により無効といったこともありえます。

 

 

6.Ed Techと“情報”にまつわる問題~事業者が発信するべき情報

 

(1)特定継続的役務提供の該当性

「特定継続的役務提供」とは、特定商取引法に基づき規制されている取引類型の1つとなります。具体例をあげたほうが分かりやすいかと思うのですが、学習塾や家庭教師サービスが該当します(特定継続的役務提供に該当する具体的取引は本執筆時点で7種類です)。

EdTechにより提供するサービス内容が、学校教育の補習や入学試験対策といった教育サービスとなる場合は学習塾(または家庭教師)となり、特定継続的役務提供に該当しますので同法の規制を順守する必要が生じます。代表的なものは、①ユーザーに対する書面交付義務、②クーリングオフの適用、③ユーザー都合による中途解約時の損害金(違約金)の上限設定ですが、WEB上でのサービス展開であるが故に特に気を付けたいのが、上記①です。

この書面交付義務には、厳密には見込客に対して交付する概要書面と呼ばれるものと、契約締結時に交付する契約書面の2種類が存在するのですが、現行法上どちらも紙(=有体物)で交付する必要があります。WEB取引の場合、見込客向けのパンフレットや契約書に代わる利用規約(約款)は、WEB画面上の表示で済ませてしまうことが圧倒的に多いのですが、このWEB画面上の表示だけではNG、つまり特定商取引法違反ということになってしまいます。

そして、非常に重要かつ頭の痛い問題なのが、特定商取引法に基づく契約書面を交付していないことになるので、いつまでたってもクーリングオフの開始期間が始まらないことになります。これは裏を返せば、散々サービスを利用しつくした後でユーザー側からクーリングオフの申出があった場合、受講料等を全額返金しなければならないということです。事業の根幹を揺るがす事態になりかねないことから、書面交付義務の順守には十分に意識する必要があります。

 

(2)通信販売規制について

上記(1)の特定継続的役務提供に該当しなかった場合、特定商取引法に基づく規制を免れることができるかというと、そういうわけではありません。インターネット上でサービス(役務)の提供を行う以上、特定商取引法に定める「通信販売」に該当します。

したがって、いわゆる「特定商取引法に基づく表示」として14項目の表示義務が課せられることはもちろん、未承諾での電子メール広告配信禁止(オプトイン規制)といった義務も課せられます。

なお、ときどき誤解されている方がいるのですが、通信販売に留まるのであればクーリングオフの適用はありません。ユーザー都合による解約について認めたくないのであれば、その旨明記すること(契約内容として組み入れること)を心がけてください。

 

 

<2020年7月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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