アプリリリース時に必要となる利用規約の条項例について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社において新たなアプリを開発し、ユーザ向けにリリースすることが決定しました。そこで、ユーザ向けの利用規約を作成しようと考えているのですが、参考までに同業他社の利用規約等を検証したところ、似ているようで微妙に異なっている等の理由で、何をどこまで定めればよいのか、かえって分からなくなり混乱しています。

アプリ利用規約を作成するに際してのポイントについて教えてください。

 

 

【回答】

一口にアプリと言っても、様々なサービスが提供されており、これらを包含する定型的な利用規約は存在しません。したがって、アプリ開発事業者が提供するサービス内容に応じて、適宜個別具体的に作成するほかないのですが、とはいえ、サービスの異同を問わず定めておいたほうが良いと考えられる条項は存在します。

そこで、本記事では、サービスの異同を問わず定めておきたい条項を「共通条項」と称した上で、11項目取り上げ、サンプル条項と共にポイントの解説を行います。

また、記事の公判では、サービス内容・業態に応じた特徴のある条項について、いくつか取り上げたうえで簡単な解説を行います。

なお、アプリ開発事業者が自ら利用規約を作成する場合、できる限り専門の弁護士にリーガルチェックを受け、問題点の洗い出しと修正を依頼したほうが無難です(後で問題点が発覚した場合、下手をすればアプリビジネスそれ自体ができなくなってしまう恐れがあります)。

また、自社で利用客を作成することが難しい場合、弁護士に一から作成してもらうことも検討したいところです。

 

ところで、最近では単なる文字の羅列だけでは利用規約の内容が分かりづらいとして、利用規約の主だったポイントを抽出した上で短文化(箇条書き)又はイラスト化する等して、分かりやすいものにするといいった工夫がみられます。この動き自体は問題ないのですが、ただ時々、ポイントに書いてある内容と利用規約本文の内容が矛盾していたりします。また、一定の制限があるにもかかわらず、ポイントには細かな制限事項を明記していないがために、不十分な打消し表示と言わざるを得ないような事例も散見されます。

こういった問題についても、十分に注意してください。

 

 

【解説】

 

1.はじめに(他社の利用規約をコピーすることの危険性)

利用規約を作成するに際し、同一又は類似するサービスを展開する他社の利用規約を参照するということがあるかと思います。たしかに、他社の利用規約を参照し、色々なヒントを得ること自体は有用です。

しかし、他社の利用規約をそのままコピーすることは危険と言わざるを得ません。なぜなら、自社が展開するサービスと同業他社が展開するサービスが完全に同一ということはあり得ないからです。例えば、ECにおいて、自社では無条件返品を認める方針ではなかったのに、他社の利用規約をそのままコピーしたが故に無条件返品を受け入れざるを得ないといった事態が生じたりします。必ず相違点がありますので、そのままコピーすることは絶対に避けてほしいところです。

なお、利用規約ですが、通常は著作物に該当しないと考えられています。しかし、利用規約の表現内容がかなり独創的なものである場合、著作物に該当するとした裁判例が存在します(東京地裁平成26年7月30日)。ケースバイケースの判断になるとはいえ、他社の利用規約をそのままコピーした場合、著作権侵害の問題が生じる可能性あることも押さえておきたいところです。

 

 

2.共通条項

 

他社利用規約をそのままコピーすることは何かと不都合があることは前述のとおりですが、とはいえある程度決まり文句として規定する内容があります。ここでは提供サービスの異同を問わず、規定することが多い条項について解説します。

 

(1)利用規約への同意

当たり前のことですが、アプリ開発事業者が利用規約を作成しても、ユーザがその内容に同意しないことには、利用規約に従った契約関係が成立しません。同意の取得方法については技術的な問題もあるのですが(画面遷移・構成・表示など)、利用規約上の条項としては次のようなものが考えられます。

第×条

1.利用規約に同意しない限り、ユーザはアプリを利用することができません。

2.ユーザが情報端末にダウンロードしたアプリを現実に利用した場合、ユーザは利用規約に同意したものとみなされます。

3.ユーザは、利用規約の定めに従って、アプリを利用するものとします。

第2項の「みなし同意」条項を書くべきかについては、アプリ開発事業者によってスタンスが分かれるところがありますが、執筆者個人としては、念には念を…と考えますので、入れておいた方が無難だと思います。

 

(2)変更

利用規約を制定したらそれで終わりという訳ではありません。社会情勢の変化、法令の改廃、裁判例の動向等を踏まえて、随時利用規約の内容をメンテナンス(変更)する必要があります。この点、2020年4月1日より施行された改正民法、すなわち定型約款における変更手続きを考慮しながら定めることがポイントとなります。例えば、次のような条項です。

第×条

1.当社は、ユーザの承諾を得ることなく、本規約をいつでも変更できるものとします。利用規約が変更された場合、ユーザは、アプリを利用するに当たり、変更後の本規約に従うものとします。

2.当社は、前項の変更を行う場合、×日以上の予告期間を置いて、変更後の利用規約の内容をユーザに通知するものとします。ただし、変更が軽微かつユーザに特に不利益にならないと当社が判断した場合は、通知による予告をしないものとします。

3.前項に定める予告期間経過後に、ユーザがアプリを利用した場合は、ユーザが変更後の利用規約の内容に同意したものとみなします。

 

なお、民法改正により定められた定型約款については、次の記事もご参照ください。

民法改正に伴う約款(利用規約、会員規則など)の見直しポイントについて、弁護士が解説!

 

 

(3)連絡方法

前述の利用規約を変更する場面にも当てはまりますが、それ以外にも何らかの事情でアプリ開発事業者がユーザに対して連絡を取らなければならない場面が生じえます。一方で、ユーザがアプリ開発事業者に対して連絡を取りたいという場面も当然想定されます。顔の見えない電気通信のみによる関係性であることを踏まえると、相互の連絡手段については明確に定めておいた方が無難です。例えば次のような条項です。

第×条

1.アプリに関する当社からユーザへの連絡は、当該アプリ内又は当社が運営するWebサイト内への掲示、その他当社が適当と判断する方法により行います。

2.アプリに関するユーザから当社への連絡は、当該アプリ内に設置する「お問い合わせフォーム」を通じて行うものとします。

なお、上記は例示であり、例えばEC系アプリであれば、お客様からの問い合わせについてはむしろ電話受付のほうが良いということも考えられます。事業内容に応じて適宜連絡手段については検討を行ってください。

 

(4)アカウントの管理

ユーザにアプリを利用させるに際し、何らかのユーザ登録を行ってもらうことが通常です。そしてアプリ開発事業者は、ユーザ登録された識別子を通じて、個々のユーザが利用するアプリサービスとの紐づけを行っています。すなわち、アプリ開発事業者からすれば、この識別子以外にユーザの判別方法がないことから、ユーザに対して厳格な管理を要請する必要があります。このような事情を踏まえて定められる条項として、次のようなものが考えられます。

第×条

1.ユーザは、アプリ利用に際して求められる登録事項について、真実・正確・完全な情報を当社に提供するものとします。

2.前項の登録情報について変更が生じた場合、ユーザは直ちに当社所定の手続きに従って、変更情報を当社に提供するものとします。

3.ユーザは、アプリ利用に際して登録したID及びパスワードについて、不正に利用されないようユーザの責任と負担で厳重に管理するものとします。

4.当社は、前項に定めるID及びパスワードを利用して行われた一切の行為について、当該ID及びパスワードに紐づくユーザ自身の行為とみなすことができます。

アカウント管理で重要となるのは、上記の第4項です。このみなし条項を入れておかないことには、ユーザより「自分がやってことではない」といったクレームを受けた場合に、アプリ開発事業者はうまく対応できなくなりますので、必ず明記しておきたいところです。なお、当然のことながら、アカウントの不正利用の原因がアプリ開発事業者側にある場合(アプリ開発事業者自らの情報漏洩等はもちろん、プラットフォーマーを含むアプリ開発事業者が委託している第三者による情報漏洩等を含みます)、上記第4項を根拠にした対応は困難となります。

上記条項以外にも、アカウント管理に関連する事項として、①アカウント削除に関する規定(ユーザによる削除、アプリ開発事業者による削除の両方が想定されます)、②一定期間未使用アカウントに対する(削除)措置、③アカウントが削除された場合の対応(コンテンツの消滅、アカウント復旧不可等)、④アカウントの一身専属性(譲渡貸与はもちろん、争いはあるものの相続対象にならないことを明記することも一案です)等についても、適宜定めておくことも有用です。

 

(5)アプリ利用条件

これについては様々なものが考えられるのですが、利用者(ユーザ)に関する条件、物的設備に関する条件、金銭負担に関する条件、コンテンツ(情報)に関する条件に分けて検討し、定めていくことが分かりやすいと思われます。典型的には次のような条項が想定されます。

第×条

1.未成年者はアプリを利用することができません。

2.日本国外にてアプリを利用することはできません。

3.ユーザは、アプリを利用するに際し、情報端末(デバイス)、通信機器・手段、電力等をユーザ自らの責任と負担で準備・用意し、アプリ利用中は維持しなければならないものとします。

4.ユーザは、当社が定める仕様基準(対応するOS、性能、機能等を含みますが、これらに限られません)に従わない限り、アプリを利用できない場合があることを予め了承します。

なお、第4項に関連し、仕様変更する場合の措置(アプリ開発事業者の都合により変更する場合の手順など)や、ユーザインタフェースの変更を行う場合があること等を規定するといったこともあります。

 

(6)損害賠償の制限

アプリの利用に伴い、ユーザが何らかの損害を被ったとして賠償請求を行ってくる可能性があること、このリスクヘッジに関する条項を定めたいと考えるアプリ開発事業者多いと考えられます。この点、一切責任を負わないと定めたくなりますが、ユーザに消費者が想定される場合、消費者契約法第8条に基づき当該規定は無効となります。したがって、この点を意識した定め方がポイントとなります。

第×条

当社は、当社に故意又は重過失がある場合を除き、アプリを利用することによって生じた損害について、債務不履行、不法行為、契約不適合等の原因如何を問わず、次の条件に従って賠償するものとします。

①現実に発生した直接かつ通常の損害に限ること(特別な事情から生じた損害は含まれません)

②アプリに対する月額利用料の×ヶ月分を上限とすること

損害賠償義務について検討する場合、①損害の範囲を限定するのか、②損害額の上限を設けるのか、この2点を意識して定めておくことが有用です。もっとも、あまり限定しすぎると今度は消費者契約法第10条により無効とされる可能性があること、また民法第548条の2第2項により合意対象外とされる可能性があるため、非常にバランスが問われることになります。このバランスが分からない場合は弁護士に相談するべきです。

なお、上記条項に関連し、逆のパターンである、アプリ開発事業者がユーザに対して損害賠償請求する場合の条項を定めておくことも一案です。

 

(7)非保証、免責

この条項を定める場合、アプリそれ自体に不具合がないことを保証できるのか、アプリを取り巻く周囲の使用環境変更により不具合が生じないことを保証できるのか、に分けて検討することが有用かと思います。例えば、次のような条項です。

第×条

1.当社は、アプリ及びアプリを通じて提供されるサービスについて、正確性、完全性、有効性、信頼性、安全性、適法性、特定の目的への適合性を含む、事実上又は法律上の一切の不具合がないことにつき、明示的にも黙示的にも保証は行いません。なお、セキュリティ等への欠陥・エラー・バグがないことについても保証しません。

2.当社は、アプリについて次の事項について保証を行いません。

①すべての情報端末に対応して正常に動作すること

②OS又はバージョンアップ等が行われた場合において正常に動作すること

③アプリストア等を含むプラットフォーマーの運用方針、規約等の変更が行われた場合において正常に動作すること

3.当社はユーザに対し、前2項にかかる一切の不具合について、当社の責任と負担で当該不具合の解消を行うことを保証しません。

上記条項を明記することは、ある意味アプリ開発事業者の能力を自ら否定することになるため、技術者視点ではつらいところがあるかもしれません。しかし、未知なるバグ等が日々発見される現状では、不具合がないことを保証することは不可能ですし、逆にできもしないことを保証することはかえって問題です。したがって、執筆者個人としては、ユーザへの注意喚起と事実上のトラブル抑止効果を期待して、必ず明記するべき条項と考えます。

 

(8)権利義務等の譲渡

ユーザがアプリを利用しうる地位を勝手に第三者に移転させたところで、アプリ開発事業者の同意を得ない限り法的効力が生じないこと、法律上は当然のこととなります。

しかし、上記のような「契約上の地位の移転」ではなく、単なる「債権譲渡」の場合、少し事情は異なります。というのも、民法改正により、譲渡禁止特約の有無にかかわらず、債権譲渡は原則有効とされたからです。例えば、ユーザがアプリの利用に基づき何らかの請求権を取得した場合、ユーザは当該債権を第三者に譲渡することが可能となります。但し、当該第三者に悪意又は重過失がある場合、アプリ開発事業者は当該第三者からの請求を拒絶できるとされています。

アプリ開発事業者としては、悪意重過失を裏付けるものとして、またユーザ以外の第三者から権利主張されることを防止するべく、次のような条項を定めておくべきです。

第×条

当社は、ユーザがユーザたる地位、ユーザたる地位に基づきアプリを利用する権利及びユーザの権利又は義務を第三者に譲渡、販売、貸与、承継、使用許諾、担保としての提供その他一切の処分をすることを禁止します。

 

なお、上記とは逆に、アプリ開発事業者に対して権利義務等の譲渡を禁止する旨定めるべきか検討が必要です。なぜならば、アプリ開発事業者同士のM&Aが行われる可能性もあれば、アプリの運営権を第三者に委ねることも将来的にはあり得るからです。

第×条

1.当社がアプリ事業を第三者に譲渡した場合(事業を譲渡する場合のみならず、合併、会社分割等のM&Aによる場合も含みます。)、当社は、利用規約に基づく権利義務、契約上の地位、会員登録事項や顧客登録情報等のアプリ上の情報を当該第三者に譲渡できるものとします。

2.ユーザは、前項の定める内容について予め合意したものとします。

ユーザに対しては権利義務譲渡禁止、アプリ開発事業者に対しては権利義務譲渡可能と片務的な内容となりますが、この程度の差異であれば、法律上はユーザに対して一方的に制限を課しているものと評価されることはないと考えられます。

 

(9)分離可能性

仮に利用規約の一部の条項に法令違反があり、少なくとも当該条項が無効と判断される場合において、それに引きずられて利用規約全体も無効となるのではないかという疑義が生じます。アプリ開発事業者としては、利用規約全体まで無効となってしまうと、アプリの運用自体が困難となってしまう恐れがあることから、こういった事態は避けたいと考えるはずです。

そこで、次のような条項を設けることが有用です。

第×条

利用規約のいずれかの条項又はその一部が、消費者契約法その他の法令等により、無効又は執行不能と判断された場合であっても、利用規約の残りの規定は、完全に有効なものとして、引き続き効力を有するものとします。

なお、上記のような条項を定めても、一切の例外なく適用可能かと問われると微妙な問題があります。例えば、アプリを用いたサービス内容それ自体が違法性を有する場合、サービス内容を定めた根幹となる条項が無効であることはもちろん、それを前提にした各種条項も無効になると判断せざるを得ない場合があります。したがって、常に有効に作用する条項ではないことに注意が必要です。

 

(10)言語、準拠法、裁判管轄

裁判管轄については、一般的な契約書や利用規約でもよく見かける条項であるためイメージできるかと思います。「言語」については、典型的には利用規約が日本語以外に翻訳された場合において、その翻訳に誤りがあった場合にどちらの言語の利用規約が優先するのかという判断材料のために規定することが一般的です。また、「準拠法」については、どこの国の法律が適用されるのかを明らかにするために規定します。具体的には次のような条項です。

第×条

1.利用規約の成立、効力、解釈及び履行は日本法に準拠して解釈されるものとします。

2.利用規約が日本語と日本語以外の言語にて作成された場合、当該利用規約の言語間での矛盾又は相違が生じた場合は、全ての点において日本語を優先するものとします。

3.アプリサービス又は利用規約に関し、当社とユーザとの間で生じた紛争の解決については、××地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とします。

もっとも、消費者を対象とする場合は裁判管轄の合意を否定する(消費者救済的な)裁判例も少なからず存在します。また、準拠法についても「法の適用に関する通則法」があるため、必ずしも上記条項通りに対処されるわけではありません。しかし、ユーザに対して注意喚起する意味では定めておいた方が無難と考えられます。

 

(11)プラットフォーマーの免責

これは意外と気が付かないことが多いのですが、アプリ開発事業者がプラットフォーマーと契約する場合、その契約の中にプラットフォーマーが定める事項(例えばプラットフォーマーのユーザに対する免責条項など)を、アプリ開発事業者がユーザ向けに定める利用規約に明記するよう義務付けられています。

したがって、本来であれば当該事項を利用規約の中に盛り込む必要があるのですが、明記されていないことが多いようです。

たしかに、プラットフォーマーも明記していないから直ちにアプリサービスを停止するといった強硬措置を講じているわけではありません。しかし、アプリ開発事業者とプラットフォーマーとの間に何かトラブルが発生した場合、トラブルとは関係のない明記義務違反を理由に、ある日突然アプリサービスの提供が停止されてしまう恐れがあります。その意味では明記することが無難です。

なお、プラットフォーマーが定める事項を参照しながら利用規約に落としこむ必要があるため、本記事ではサンプル条項を掲載していないこと、ご了承願います。

 

 

3.サービス内容・業態に応じて付加したい条項

 

上記2.では、アプリサービスを提供するに際して定められる利用規約のうち、サービス内容の如何を問わず用いられることが多い共通条項を取り上げました。以下では、サービス内容・業態によっては定めておいたほうが良い、注意したほうが良いと考えられるものについて、解説を行います。

なお、具体的な条項内容について、サービス内容・業態によって個別具体性が要求されることから、サンプル条項は記載していないことご了承願います。具体的な条項例を定めたい場合は、是非弁護士にご相談ください。

 

(1)プラットフォーム機能を実装する場合

近時、アプリ開発事業者自らがプラットフォームビジネスに参入することが増加しているとされていますが、一方でプラットフォーマーの行き過ぎた責任逃れの対応が目につくため、新たな法規制について検討が進みつつあるようです。新たな法規制が導入された場合、利用規約の内容について全面的な見直しが必要になると考えられますが、本記事執筆時点(2022年1月)での状況を踏まえて検討したい条項を以下解説します。

 

  • プラットフォーマーの立ち位置・役割を条項化すること(要は、ユーザ間の取引の場を提供しているにすぎず、ユーザ間の取引に関与せずかつトラブルが発生しても関知しないことを宣言する等)
  • ユーザ間で行われる取引ルールについて条項化すること(例えば、ECアプリであれば、契約成立の時点を定めること、決済は指定された方法のみで行われること、キャンセルの条件を明確にすること、商品に不具合があった場合の処理方法を定めること等)
  • ユーザの属性に応じた遵守事項を条項化すること(例えば、ECアプリにおける売主側であれば、特定商取引法、景品表示法、古物営業法、商標法等の法令順守を義務付けることはもちろん、出品不可の商品や出店料の支払いなどのプラットフォームを利用する上でのルールを義務付ける等)
  • いわゆるエスクロー決済を導入する場合、ユーザから見て、いつの時点で決済完了となるのか条項化すること(なお、どの時点を選択するかによって資金決済法の適用問題が生じるため、慎重な判断が必要です)

なお、プラットフォームビジネスを展開する場合、そもそもビジネスモデル自体が各種法令に違反しないか、許認可が必要とならないかを事前に検証する必要があります。この点については、次の記事もご参照ください。

ネット上でプラットフォームビジネスを行う際に留意したい法的事項を弁護士が解説!

 

また、EC系サイト特有の利用規約に関する注意点については、次の記事もご参照ください。

ネット通販事業者が利用規約・約款を作成するための法的ポイントを弁護士が解説!

 

(2)アプリ内でユーザによる投稿機能を実装する場合

投稿ルールの設定

いわゆる掲示板のような、ユーザが投稿することで、他のアプリユーザ等が閲覧可能な機能を実装する場合、まずアプリ開発事業者が気にしなければならないのは、当該投稿内容に問題がある場合、どういった対応を行うのかルールを定めておくということです。この点については、一般的には次のようなものを定めておく必要があります。

 

  • 禁止される投稿について、個別具体的に列挙した上で条項化する(例えば、誹謗中傷の禁止、アダルトコンテンツの禁止など)。
  • アプリ開発事業者が禁止される投稿を発見した場合、当該投稿をアプリ開発事業者の裁量により削除できることを条項化する。また、禁止行為者に対するペナルティを課すこと(例えば一定期間の利用停止、アカウント削除など)についても条項化する。
  • アプリ開発事業者は、投稿内容について監視し削除する義務を負うわけではない旨の確認規定を条項化する。

 

最後の3つ目は、現実的な問題として、アプリ開発事業者が掲示板を24時間365時間監視することは不可能であることをユーザに告知することで、クレーム(特に投稿内容によって精神的苦痛を受けたと主張するユーザ)の発生を抑止する目的で定めることになります。また、偶然にもアプリ開発事業者がある種の投稿を認識したとしても、違法性のある投稿、違法性はないものの利用規約に違反する投稿、不穏当ではあるものの利用規約に違反するか否か微妙な投稿などを判断することは難しいことから、直ちに削除等の措置を講じなかったことをもって、ユーザよりクレームをけることを防止する目的もあります。

 

権利帰属ルールの設定

ユーザが投稿する内容について、誰がどういった権利を保有するのか明記することが無難です。多くの場合は著作権の帰属の問題となりますが、次のようなものが考えられます。

 

  • 投稿内容に関する著作権はどちらに帰属するのか条項化する(ユーザ、アプリ開発事業者のどちらに帰属させるかは選択の余地があります。しかし、最近の流れからすると、権利はユーザに帰属させたうえで、アプリ開発事業者はラインセンスを受けるという形にすることが多いように思われます)
  • (アプリ開発事業者がライセンスを受ける場合)ライセンスの内容(複製可能か、翻案可能か、期間制限があるのか、アプリ利用以外の目的で利用可能か等)及び著作者人格権の処理について条項化する。

 

その他

色々なものが想定されますが、執筆者が日々相談を受ける中で特に注意が必要と考えるものを3つ記載しておきます。

 

  • マッチングアプリの場合、「インターネット異性紹介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(いわゆる出会い系サイト規制法)を遵守した上で、必要事項を条項化すること。
  • いわゆる出会い系サイト規制法に該当しないアプリであっても、一定のフィルタリングやモニタリングを行う場合あることを条項化すること(例えば児童虐待防止の観点から)。
  • 特定のユーザ間でのやり取りが可能となる機能を実装する場合、電気通信事業法を遵守した上で、必要事項を条項化すること。

 

(3)アプリ内で用いるコンテンツ等を購入する機能を実装する場合

厳密にはコンテンツ等を購入しているわけではなく、ユーザはアプリ開発事業者よりコンテンツのライセンスを付与されているだけにすぎないのですが、一般的には購入と称されていることから、ここでも購入という用語例に従います。

 

購入したコンテンツ等の利用条件の設定

上記でも少し触れましたが、法律上は購入=所有権の移転ではなく、あくまでもコンテンツ等のライセンス・使用許諾を行うにすぎません。ユーザの中にはコンテンツ等を購入した以上、自分の物であるという意識が強い人が一定数いますので、誤解を解く意味でも注意喚起的な条項を定めておく必要があります。

  • コンテンツ等に関する一切の権利はアプリ開発事業者に帰属することを条項化すること。
  • コンテンツ等について一定の免責事項があることを条項化すること(例えば、バグや不具合が無いことは保証できない等)
  • コンテンツ等の使用許諾条件を条項化すること(例えば、アプリ内でのみ利用可能であること、アプリ外でコンテンツ等を自由に使用し、収益を得たり、処分することは不可であること等)。
  • アプリサービスが終了した場合、何らかの事情でユーザがアプリを利用することができなくなった場合、コンテンツ等は利用不可となることを条項化すること。
  • コンテンツ等利用不可となった場合において、アプリ開発事業者は返金その他損害賠償義務を負わないことを条項化すること。

 

コンテンツ等購入のための決済条件の設定

一般的にはクレジットカードを用いて決済することが多いと考えられますが、最近では他社が発行する共通ポイント等の現金代替物での決済も多くなりつつあります。いずれにせよ、決済に第三者が関係する以上、この第三者を意識する必要があります。

  • 決済方法について指定がある場合は、その指定内容について条項化すること(特にサービスごとで使用可能な決済方法が異なる場合は、利用規約以外の画面上でも注意喚起したほうが無難です)。
  • カード決済の場合、カード加盟契約又は決済代行業者がユーザに告知するよう指定する内容を条項化すること。
  • 他社が発行するポイント等を用いて決済する場合、ポイント発行会社がユーザに告知するよう指定する内容を条項化すること。
  • 決済に関与する第三者に対し、ユーザ情報が提供される場合あることを条項化すること(利用規約はもとより、プライバシーポリシーへの反映も意識する必要があります)。
  • 決済ができなかった場合の処置について条項化すること。

 

ゲームアプリ特有の条件設定

アプリを通じたゲームの提供は多く行われていますが、例えばその課金方法の分かりにくさや射幸心を煽る方法などは既に問題視されており、今後の規制動向を考慮しなければならない要注意の業界となってきています。利用規約を作成する上で色々な点を考慮する必要があるのですが、典型的な4点についてあげておきます。

  • 利用期間が特に限定されていない場合、アプリ開発事業者の都合にてサービス終了となる場合があることを条項化すること(なお、サービス終了する場合の事前告知方法、アプリ内コンテンツ等の販売中止のタイミング、利用期間に満たない利用料の返還方法なども合わせて条項化する必要があります)。
  • 景品表示法違反や賭博に該当しないよう条項化すること(ゲームコンテンツによりますが、例えばコンプガチャであれば景品表示法違反となりますので、それを前提にした利用規約も無効になる可能性があります)。
  • RMT(リアルマネートレード)禁止を条項化すること。
  • 位置情報などプライバシーに関連する情報を取得する場合はその旨条項化すること(利用規約はもとより、プライバシーポリシーへの反映も意識する必要があります)。

 

(4)仮装通貨(デジタルマネー)を実装する場合

上記(3)で触れたゲームアプリなどが代表例ですが、アプリ内でのみ利用可能なポイント・コイン等の仮想通貨をアプリ開発事業者が販売し、ユーザが購入するといった取引が行われることがあります。このような仮想通貨を発行する場合、避けて通れないのが資金決済法の適用についてです。

資金決済法の適用がある場合、資金決済法に基づく表示が必要となることから、当該表示を利用規約内に定めることになります(なお、利用規約とは別に「資金決済法に基づく表示」と称した別画面を準備するといった対応も検討に値します)。一方、資金決済法の適用がない場合、適用が無いことを明確にする意味を含め、次のような条項を定めておく必要があります。

  • 仮想通貨の利用条件について条項化すること(例えば、アプリ内のみで利用可能であること、他のユーザに譲渡等することはできないこと、同一ユーザが複数のアカウントを有していたとしても仮想通貨の合算や承継はできないことなど)。
  • 仮想通貨の有効期限について条項化すること。
  • 仮想通貨の払戻は原則行わないことを条項化すること(資金決済法の適用がある場合は原則払戻禁止ですが、適用がない場合であっても出資法違反になる可能性があることから明記したほうが無難です)。
  • RMT(リアルマネートレード)禁止を条項化すること。

 

なお、仮想通貨を購入するためには決済が必要となり、これに関連する条項が必要となりますが、その点については上記(2)をご参照ください。

また、仮想通貨を含むポイント発行を行う際の全般的な注意点については、次の記事もご参照ください。

ポイント発行事業を行う場合の注意点について、弁護士が解説!

 

 

 

<2022年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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