建築業で注意したい法務のポイントについて弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社は、大手住宅販売会社の系列下で、自社・外部を問わず職人を抱えこみながら住宅建築を行っている会社です。立場上、下請や孫請とならざるを得ないことが多いのですが、最近特に元請からの圧力が厳しいと感じているため、何らかの対策を講じる必要があると考えているところです。

また、下請からの脱却を図るべく、自社独自の活動としてリフォーム業も開始しました。こちらについては積極的な広告宣伝を行いながら顧客を獲得するというスタイルをとっていますが、営業活動に対するクレームも発生するようになり、改善が必要であると考えています。

建築業を経営するに際して、気を付けるべき法律問題があれば教えてください。

 

 

【回答】

中小の建築業者の場合、特定の元請から受注しながら事業運営を行うというスタイルが多いため、当該元請との結びつき・依存性が強いという特徴があります。このため、当該元請より多少無理難題を言われても応じざるを得ない、そしてその無理難題を協力会社に押し付けるという負の連鎖が生じていることもあります。

こうした状況のためか、建築業者における取引は種々の法律問題が内在しており、この問題が人事労務問題にまで連動するため、残念ながら何処かを突けば法律問題が見つかってしまうというのが実情です。

以下では、複数の建築業者の顧問弁護士として活動する中で、非常に多いと感じる典型的な法律問題のピックアップと対処法について解説を行っています。

 

 

【解説】

 

1.概説

建築業における人の問題については、特有の労務管理(出来高払い、職人の独立性の高さ、人員流動性など)に起因することが多く、単純に法律論に当てはめてしまうと、建築業者に不利な結論になりやすいという特徴があります。したがって、特有の労務管理をいかに合法的な制度に構築するのかがポイントとなります。

また、物に関する問題については、本記事では契約内容の曖昧さに由来する紛争問題を取り上げました。どうしても当初の想定通りの条件で事が進まないことから、最初に契約書で内容を固めておくことが難しい業界であるとはいえ、それでもなお明記しておいた方が良い事項がありますので、そういった点に注意を払っていただくことがポイントです。

さらに、お金に関する問題は、代金未払いに関する問題がかなり多いこと、最近の傾向として契約当事者以外から損害賠償請求されやすいという問題などを取り上げています。

最後に、情報に関する問題は、営業活動を行うに際しての注意事項を中心に解説しています。

 

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2.人に関する問題

 

(1)専門家(職人)の労働者性

例えば、家のリフォーム工事を行う場合、工事内容に応じて、とび職や左官工、内装職人、塗装職人、電気工事資格者など様々な専門家(職人)が関与することになります。これらの専門家(職人)をすべて労働者として雇入れている場合は問題とならないのですが、中小の建築業者の場合、現場ごとで専門家(職人)が離合集散するため、労働者なのか個人事業主なのか判断しづらいことがあります。例えば、建築業における求人募集の場合、名称はともかく実際には協力会社(個人事業主)を求めているといった紛らわしいものがあります。また、専門家(職人)と名乗り独立性を保っているような体裁をとりつつも、実際には特定の建築業者の仕事しか受注しておらず、作業時間に応じた報酬しか支払われないといった実態があったりします。

専門家(職人)の中には、普段は自らが労働者であると名乗らなくても、ある日突然労働者であることを前提にした請求(典型的には未払い賃金請求、怪我等により業務従事ができない場合の休業補償請求など)が行われることがあります。また、万一労働基準監督署等が介入し労働者認定を行った場合、労働基準法等の労働法を潜脱したものとして処分を受けたり、社会保険料等の遡及支払いが生じるなど、建築業者において様々な不利益が生じることになります。

建築業の場合、個人で活動する専門家(職人)が多いという特徴があるため、労働者性を争われた場合は微妙な判断になることも多いように執筆者個人は感じています。契約書で専門家(職人)の属性を明記するといった対策はもちろんですが、業務遂行管理や業務指示方法など現場での実情も併せて対策を講じる必要があります。労務管理に詳しい弁護士に相談しながら、労働者と個人事業主の峻別ができる体制を整えることが重要となります。

なお、労働者が個人事業主かの判断方法等については、次の記事もご参照ください。

 

フリーランスとの取引を開始する場合の注意点について、弁護士が解説!

 

(2)未払い賃金

建築工事の場合、工事の完成時期が決まっていることから、途中で作業が遅延した場合はどこかで集中的に作業を行い、作業遅延を取り戻すという方法が取られます。この結果、工事作業が平日に留まらず休日に差し込んだり、数週間ぶっ通しで作業を行ったりするといった現場も存在します。

ところで、建築業の場合、作業時間に応じて賃金計算を行い支給することが多いのですが、この計算時において、1日8時間超の業務従事となった場合の割増賃金、週40時間超の業務従事となった場合の割増賃金、休日労働にかかる割増賃金を失念していることを結構見かけたりします。一方、日給月給制にて賃金支給する建築業者の場合、現場作業の職人には直行直帰を指示し、現場で実働の労働時間管理を行う者を選任しないということも少なくありません。このため、残業が発生しているにもかかわらず残業代が未払い状態となっている建築業者もあったりします。

ちなみに、執筆者が偶々見かけることが多いだけかもしれませんが、社歴の長い建築業者の場合、所定労働時間が7.5時間になっていることがあります。この場合、法定労働時間である8時間を超える場合は割増分を付加した残業代を支払わなければならないことはもちろんなのですが、7.5時間を超え8時間に達するまでの30分間についても残業代(但し割増分な不要)を支払う必要があります。不利益変更の問題は生じてしまいますが、所定労働時間の見直しも含めて検討を行う必要があるのではないかと考えるところです。

なお、建築工事は肉体的疲労が大きいため、特に夏場などは昼食休憩以外の休憩をとることが多いようです。この結果、一般的な休憩時間である60分を超えて休憩時間を付与していることになります。しかし、実労働時間管理が甘い場合、裁判官によっては昼食休憩以外の休憩の付与に疑義を挟み、休憩時間として取り扱わないということもあったりします(60分を超える休憩付与は通常あり得ないのではと考える裁判官が一定数存在します)。休憩付与とならない場合、休憩時間と考えていた時間帯も賃金支払い義務が生じることになりますので、やはり未払い賃金の問題が生じてしまうことになります。

建築業の場合、現場作業が多いこと、突発的な対応等で不規則な時間になりがちであること等の理由で、労働時間管理がしづらく賃金計算も複雑となりがちです。また、近年未払い賃金請求を行うためのハードルが低くなっているため、この種の問題は今後増加するものと予想されます。未払い賃金対策は紛争時になってからでは何も対処できません(残念ながら労働者から言われるがままの状況に追い込まれやすく、しかも負担の大きい一括支払いとなるのが原則です)。平時より対策を講じておく必要が極めて重要ですので、例えば業務拡大により、これまでお付き合いのなかった新たな従業員を雇入れる等のタイミングで、是非とも弁護士に相談し、対策を講じてほしいところです。

 

(3)休業手当(現場作業がない場合の対応)

建築業界における現場作業の職人に対する賃金体系として、業務遂行時間に応じて支給するという形のところが多いようです。一種の出来高払いに近い形となりますが、1ヶ月当たりの実支給額と業務遂行時間から算出される単価が最低賃金を下回らない場合は、法律違反となりません。

ただ、現場作業がない以上、賃金が支給されないのは当たり前と考えるのが果たして法的に正しいと言えるのかは微妙なところがあります。というのも、仕事があるか無いかは建築業者側の事情であり、職人等の従業員からすれば業務遂行して賃金を得たいにもかかわらず、建築業者側の都合で業務遂行を拒絶されたと考えることもできるからです。もしこのような考え方が成り立つ場合、建築業者は職人等の従業員に対して休業手当を支給する必要があります。

結局のところ、賃金の発生する業務遂行日の設定ルールをどのように定めるのかという問題に帰着するのですが、これは建築業者における全体的な労務管理問題に及ぶ事項であり、かなり複雑かつ専門的な知識を必要とします。一種のプロジェクトとして一定の時間をかけながら対応する必要があるところ、全体的な流れや情報整理、矛盾の無い体制づくり等は弁護士と相談しながら進めていくのが安心です。

 

(4)問題社員対応

問題社員への対応は業種・業界を問わず、どこでも頭を抱える問題なのですが、建築業の場合、技術や能力不足を原因として何か処分したいという話は案外少なく、管理者等の上司に反抗的態度をとる、言葉遣いが荒く自社のみならず協力会社の職人等が委縮している、暴力事件を起こしたといったものが多いような印象を受けています。

もちろん社内秩序の維持のためには、指導はもちろん懲戒処分を含めて何らかの対応をとる必要があるのですが、問題となってくるのは対応の中身です。中小零細の建築業者であれば就業規則自体が存在しないことも多く、懲戒処分を行いたくても行う根拠がないという事例は意外とあったりします。また、指導を行おうにも、指導する適切な人材がいないという問題があったり、どう指導すればよいのか分からない(相手が口達者でうまく反論できない、パワハラ等と指摘されることを極度に恐れる)といった現場の声もあったりします。

問題社員対応については、事実関係の確認、裏付けの取れる問題行為の絞り込み、問題行為に対する社内評価、適切な処分の実施という手順で進めていくことになるのですが、この手順を建築業者の担当者のみで実行することは思いのほか難しいというのが実情です。内部調査や労務問題を取扱っている弁護士に相談依頼し、必要に応じて弁護士に立ち会ってもらう等しながら、問題社員に対して中途半端な態度に終始しないように弁護士のサポートを受けることが重要となります。

 

(5)突然出社しなくなった従業員への対応

建築業界に限った話ではありませんが、職人の場合、比較的転職しやすい環境にあるためか、ある日突然会社に来なくなるといったことが結構な頻度で起こるようです。会社に来なくなった理由は色々なものがあるのですが(単に病気という場合もあれば、警察に逮捕されたという場合や、会社への不満から勝手に辞めてしまった場合など様々なパターンがあります)、いずれにせよ会社としては処遇を考える必要があります。

一般的には連絡が取れる場合は就労意思を確認しつつ、従業員本人の帰責度や会社への迷惑状況などを考慮して処遇を決めることになります。一方、連絡が取れない場合は、連絡するよう従業員に伝わる環境にしつつ、一定期間の経過とともに処遇を判断する、といった対応を取ることになります。ただ、手順を知らない建築業者によっては、いきなり解雇扱いにしてしまい、あとで従業員と連絡が取れた場合に処遇をめぐってトラブルになる事例が後を絶ちません(不当解雇によるバックペイの問題など)。

法的な専門知識が必要となることはもちろんですが、どう動けば建築業者に不利にならなくて済むのか等は色々とコツが必要となります。建築業者でいきなり何らかの処遇を決めるのではなく、処遇決定前に弁護士に相談し、必要な知識と進め方のアドバイスを受け実行することが、トラブル回避のポイントとなります。

 

 

3.物に関する問題

 

(1)注文主との“一式”契約

建築業界の場合、契約書等の書面を作成することなく、工事の受発注手続きを口頭で済ませてしまい、書面は建築業者が作成した請求書のみということも結構あったりします。

ところで、建築業界で多いトラブルといえば、施主等の注文主が、完成物に対して不満があるとして代金の支払いを拒絶するというものがあります。このようなトラブルは、「どのような完成物にする必要があったのか」という点につき、施主等の注文主と建築業者とに認識の齟齬があることに根本的原因があります。この認識の齟齬を生み出さないようにするために契約書を作成し、工事内容の詳細を定めておくことが理想なのですが、せっかく契約書を作っていても、また請求書等の場合は紙幅の都合上、「請負工事一式」等の記載しかなく、何をどこまで行えばよいのか客観的に決めることができないといったことがよくあります。そして結果的に、建築業者に不利な内容で解決を図る(余計な時間と労力とお金をかけて補修工事を行う等)ことが多いのが実情のように思います。

受注内容を文字化しようとする場合に難しく考えすぎて、結局書面化できないという建築業者の担当者も結構おられるようです。そういった場合も含めて、工事内容をどのように表現すればよいのか、文字以外の記載方法がないのか、どこまで詳しく書くべきなのか等のポイントについては、是非弁護士と相談して確認を取ってほしい事項です。結局のところ、工事内容に関する当事者の共通認識をどうやって証拠として残すのかという点につきますので、例えば請求書であれば、建築業者の実情に合致するよう弁護士にカスタマイズしてもらうこと、これが重要となります。

 

(2)注文主との書面契約の重要性

建設業法第19条では、建設工事請負契約を締結する場合は書面で行う必要があることを定めています。書面での契約を締結しなかった場合、当然建設業法違反となりますので、監督官庁より何らかの処分が行われることになります。しかし、建設業法第19条違反で重めの処分があまり出ないためなのか、あるいは建設業法第19条に違反したからといって、口頭での契約の有効性自体に影響を及ぼすものではないためなのかは分かりませんが、建築業界は書面で契約を締結するという実務があまり浸透していないのが実情のようです。

しかし、例えば、上記(1)とも関連しますが、書面上、工事内容の詳細について何らかの記載があった場合、「どのような完成物にする必要があったのか」という点について、当該書面を証拠として用いることが可能となります。また、工事内容の詳細を書面化していた場合、工事の途中で注文主の要求事項に変更があり、これによって作業等に変動が生じたという事例においては、当初定めた工事内容とは異なることを根拠に追加報酬を請求することが可能となることがあります。さらに、何らかの理由で請負契約が途中で中断した場合に備えて清算方法を書面で定めていた場合、スムーズに清算処理することが可能です(書面で何も定めていなかった場合、未完成ということで報酬ゼロということもあり得ます。業務遂行分は当然に報酬がもらえるわけではないことに注意が必要です)。

建築業界で発生しうるトラブルの三大パターンとして、完成物への不満に関するクレーム、中途解約時における清算方法に関するクレーム、追加変更工事による報酬支払いに関するクレームではないかと執筆者個人は考えるのですが、こういった三大トラブルも契約書に明記しておくことで、そのほとんどを防止することが可能です。

なお、契約書を作成するに際し、民間工事標準請負約款等を用いようとしたところ、長文すぎて使いづらい又は注文主が嫌がる(長文なので面倒くさがって読んでくれない)といった問題も一部現場では生じているようです。契約書は何でもかんでも書けばよいというものではありませんし、内容的にも分かりやすく使い勝手の良いものにする必要があります。内容の取捨選択や言い回し・表現の仕方などは、弁護士であればトラブルにならないようにするためにはどうすればよかったのかと逆算して提案することが可能です。トラブル等で余計な時間や労力をかけたくないのであれば、現場実情に理解を示す弁護士に依頼し、契約書等の書類を作成してもらい、当該書類を運用していくのか賢いやり方となります。

 

(3)丸投げ(一括下請負)

一括下請負が原則禁止されていることは、建築業界の関係者であれば知っている方も多いと思われます(建築業法第22条)。したがって、建築業者同士で一括下請負を行うことは少ないと予想するのですが、問題になってくるのは施主との間に入っている人より紹介を受けるパターンです。

例えば、多店舗展開する飲食店事業者が、新規で出店する店舗の内外装工事を依頼してきたとします。建築業者は依頼者が建築主であると考えていたところ、実は依頼者とは別の加盟事業者が運営しようとしている店舗の内外装工事であり、本当の建築主は加盟事業者であったという事例は結構あったりします。つまり、加盟事業者が依頼者に内外装工事を委託し、当該依頼者が建築業者に内外装工事を再委託しているというパターンなどがあります。そもそも論として、依頼者である飲食店事業者が内外装工事を請け負ってよいのかという問題もあるのですが、飲食店事業者が一切内外装工事に関与しないとなると、建築業者は内外装業務を丸投げされた格好になりますので、一括下請負に該当するものと言わざるを得ません。

仕事欲しさにあえて一括下請負でも受託する建築業者もいるようですが、それは論外として、執筆者が相談を受けている事例の限りですが、よく分からないうちに一括下請負になっていたということもあるようです。一括下請負に対しては営業停止を含め監督官庁も厳しめの対応を行ってくる傾向があるようですし、経営事項審査でも影響が出てきます。一括下請負の禁止違反にならないための対策等については、是非弁護士に相談しアドバイスを受けてほしいところです。

 

(4)近隣トラブルへの対応

誰もいないところで建築工事を行うことは稀であり、特にリフォーム工事の場合、近隣に居住者がいる中で工事を行うことが通常です。建築業者も最大限の注意を払いながら工事を行っているはずなのですが、近隣からのクレームはいくら気を付けていても発生することがあります。

近隣からクレームを受けた場合、あえて無視する、わざと威圧的な態度に出て抑え込む(?)といった方法をとる一部建築業者も存在します。しかし、そのような不誠実な態度をとった場合、今の時代では建築業者の交渉態度それ自体が映像化され、SNS等で拡散されることで、いわゆる炎上騒ぎとなり集中的な非難を浴びるリスクのある時代です。したがって、適切なクレーム対応が求められているのですが、どうやって従業員に指導教育すればよいのか分からないと考える建築業者は意外と多いようです。そういった場合は、弁護士に社内セミナーを担当してもらう等して、必要な教育指導を行ってもらうといったことも検討してよいと思われます。ちなみに、クレーム対応の中には法律問題への対処も含まれますが、法律問題だけ対処すればクレーム対応として必要十分とは言えません。この点を認識し、アドバイスができる弁護士に相談することがポイントとなります。

なお、クレームの初期対応については、以下の記事もご参照ください。

 

クレームを受けた場合の初期対応のポイントを弁護士が解説!

 

(5)注文元との不合理な取引条件

商取引の場合、当事者間のパワーバランスによって、一方当事者に有利な取引条件となること、それ自体は珍しい話ではありません。また、不公平な取引条件であることが直ちに何らかの法律違反になるという訳でもありません。

取引条件の偏りが法律上の問題となるか否かは、結局のところ程度問題と言わざるを得ないとことがあるのですが、一定の限界を超えた違法行為を類型化したものが建築業法19条以下の内容であり、下請法(建築工事以外の取引、例えば資材加工業務や設計業務など)と考えることになります。その他にも抽象的ですが、独占禁止法上の不公正な取引方法への規制(例えば優越的地位の濫用など)や民法上の公序良俗違反、信義則違反というものが考えられます。

ただ、忙しい建築業者においては、そもそも不合理な取引条件であると気が付かない場合があること、気が付いてもどうやって修正協議を切り出せばよいのか分からない場合があること、条項修正を要求する場合の根拠をどのように説明すればよいのか分からない場合があること、仮に条項修正を受け入れてもらったときに修正内容をどのように記録化(契約)すればよいのか分からない場合があること、等々の様々な問題を抱えているようです。法令上の根拠を探しつつ、一方で取引への影響度も配慮した交渉の進め方に関しては弁護士と相談し、対応を進めていくのが望ましいと言えます。

 

 

4.お金に関する問題

 

(1)代金未払い

注文主が何らかの事情でお金がなく支払ってもらえないという場合もありますが、相談事例の多くは、作業を終了させ完成させたにもかかわらず、完成物に不満があると注文主が主張して代金を支払わないというものとなります。

上記のような事例の場合、注文主の不満が報酬支払拒絶に値する法律問題(契約不適合、瑕疵)に該当するのかという、極めて専門的な判断を要しますので、早急に弁護士に相談し対応を協議するべきです。なお、トラブルになってからでは遅いという感はあるものの、例えばリフォーム工事なので、仕上げに問題があるというトラブルを回避したいのであれば、是非ともリフォーム前の状況を撮影し証拠化する、撮影に際して可能であれば注文主立会いの下で行うといった対策を講じることも有用です。なぜなら、リフォーム工事の場合、工事前の不具合の状況によっては、リフォーム工事を行ったところで改善のしようがないものがあるところ(例えば、下地を補正することなく壁紙を張り替えても、凹凸はどうしても出てしまう等)、工事前の撮影画像を証拠とすることで建築業者の業務に問題はなかったという主張・立証が可能となる場合があるからです。このような主張・立証ができる場合、たとえ注文主が完成物に不満があったとしても、主観の問題にすぎず法律上の支払拒絶事由には該当しないことになります。

一方、注文主が手元不如意で支払ができないという場合は、一般的な債権回収手続きを実行することが多いと思われます。ただ、建築業界特有のことで指摘するとすれば、当初は支払資金がないと言っていた注文主が、後日、完成物に不満があるので支払いできないと言い分を変えてくる場合があります。こうなると話が非常にややこしくなりますので、支払資金がないと言っている時点で、最低限の確認書(具体的な未払い金額と支払い義務があること、業務遂行及び業務の結果に一切の異議がないないことのみ記載した書面。なお、支払期日や支払方法まではあえて記載しないことがポイントです)を取得するようにし、後日、他の言い分を持ち出させないようにするといった対策も講じておくことが重要です。

建築業者において代金未回収は自社のみならず、協力会社への支払が滞るなど多方面へ悪影響を及ぼす事項となりがちです。早急かつ実効的な債権回収を行う必要がありますので、直ぐにでも弁護士に相談するべきです。

 

(2)代金回収方法としての施主等への直接請求

上記(1)とも関連しますが、直接の発注者からの代金回収が期待できない場合、当該発注者に対する元発注者(施主など)に対して、直接代金支払い請求を行えないかというご相談はよく持ち掛けられます。

まず、法律論だけで指摘するのであれば、基本的には発注者を飛び越えて施主等に代金支払い請求を行うことは不可です。なぜなら、建築業者と施主等との間に契約関係はないからです。ただし、債権者代位権と呼ばれる特別な法制度を用いた場合は請求ができる場合があります。ただ、色々と要件がありますので、専門家である弁護士に相談を行い、できれば弁護士に依頼して手続きを進めていったほうがよいと考えられます。

さて、法律論としての結論は上記の通りなのですが、理屈では無理であってもあえて施主に元請から代金支払いを受けていないことを告知するという方法は、場合によっては有用な回収戦術となる場合があります。例えば、工事が未完成の段階で未払いが発生した場合、建築業者としてもこれ以上業務を遂行してもタダ働きとなることから、工事を中断することになります。工事を中断された場合、元請は当然困りますが、もっと困るのは施主です。このため、施主が元請に対して直ちに支払いを行うよう圧力をかけてくれたり、場合によっては施主が元請に代わって立替払いを行ってくれることがあるからです。ただ、これはあくまでも事実上の期待に過ぎず、施主が上記のような動きを行う保証はどこにもありません。また、いきなり下請業者が元請を飛び越えて施主に対して何か物申した場合、かえって施主が不快感を示し、物申す下請業者を工事から外すよう元請に指示してくるリスクさえあります。

施主等への直接請求を行うに際しては、法律上は原則無理であることを念頭に置きつつ、果たして回収策として功を奏するのか状況の見極めが必要です。債権回収に詳しくかつ的確な状況判断ができる弁護士と相談しながら、アプローチの仕方や交渉の進め方等をシミュレーションしていくことが重要です。

 

(3)追加料金の発生要件

注文主は依頼している工事の範囲内での変更であり別途支払は不要と考えている、一方で建築業者は変更に伴い作業工程はもちろん資材や作業内容が異なってくる以上、別途料金が発生すると考えている、といったトラブルは発生しがちです。

ただ、こういったトラブルの大半は、注文主の変更依頼に対して、その変更依頼の都度、建築業者が追加料金の発生可能性を指摘し、かつ追加料金に関して了承を得ていれば防止できるトラブルと言わざるを得ないところがあるのも事実です。もちろん様々な事情により指摘等ができないという場面も想定はされるのですが、しかし、最終的に訴訟手続にまで移行して債権回収を行う場合、追加料金発生可能性の指摘や説明をしていない、作業内容等の変更につき協議を行っていない等の事情は、不利な事情とみられがちであり、なかなか建築業者にとって有利な解決に至らないこともあります。

上記3.(1)でも記載した、受注した工事内容を具体的に記載することで工事範囲の明確化を行う、変更指示はその範囲外となることが客観的に分かるようにする、そして範囲外であることを注文主に指摘し協議を行うといったことが、追加料金を請求するためには最低限必要になってくると考えられます。もっとも、現場の実情に応じて、追加料金を請求するための要件は色々と変わってくることがあるのも事実です。可能な限り、身近に相談できる弁護士を確保しておき、必要な交渉や書面作成、証拠の確保の仕方等につき、アドバイスを受けながら業務遂行するという体制を整えたいところです。

 

(4)中途解約となった場合の清算

建築物等の工事着工後に中途解約するという事例はおそらく多くはないと思われるのですが、基礎調査を行い、いざ本工事へ進めようとする段階で中途解約に至るという事例については意外と多いと聞き及びます。

さて、前者のような工事着工後の場合、未完成とはいえ何らかの成果物が残存することが多く、当該成果物を利用すれば他の第三者によって完成までさせられることが多い類型と言えます。このような場合は出来高による報酬支払いという形で解決することが多いです。

一方、何らかの成果物があってもいったん取り壊す、あるいは本工事着工前に中途解約するとなった場合、報酬支払いをめぐってトラブルになりやすいようです。このトラブルの原因ですが、請負契約の場合、業務遂行分について当然に報酬が発生するわけではないこと、業務遂行分が当然に出来高と算定されるわけではなく、出来高はあくまでも業務遂行により生じた結果(建築の場合であれば完成前の成形物)で算定するのが法律上のルールであること、この2点について建築業者が誤解していることが多いからだと執筆者は感じています。つまり、出来高を算定しようがないため、法律上のルールをストレートに適用してしまうと報酬発生の根拠が乏しいと言わざるを得ない状態となります。

もちろん話し合いにより、建築業者が実費負担しているもの、例えば材料費や社外の職人使用に対する実費相当分については注文主が支払って解決するといった事例も存在します。しかし、法律上のルールでは実費について当然に負担しもらえるわけではないこと、上記のような解決の場合、建築業者の稼働分については一切考慮されていないこと等の問題は残ってしまいます。

結局のところ、こういった出来高を算出しづらいパターンの中途解約トラブルについては、事前に何らの対策を講じておかない限り、残念ながら建築業者が損失を被る構図にならざるを得ません。上記3.(2)でも触れましたが、契約書等で事前に清算ルールを定めておくことが非常に重要となります。もっとも、こういった契約書の締結するに際しては、注文主との交渉が難航することも予想されるところです。ルールの定め方やルール内容の文字化(契約条項化)、契約書の作成はもちろんのこと、交渉の切り出し方や進め方など等については、弁護士と相談し、時には交渉の場に弁護士に立ち会ってもらう等しながら、対処していくべき事項となります。

 

(5)損害賠償

建築関係での損害賠償問題と言えば、建物が傾いている、雨漏りがする、外壁にヒビが入っているといった建築瑕疵に基づく、施主から建築業者への損害賠償請求をイメージする方も多いかもしれません。たしかに、建築瑕疵については建築業者にとって頭の痛い問題です。

ただ、建築瑕疵に基づく損害賠償については頻繁にあるものではなく、建築業者において類型的に多い損害賠償問題は次のようなものだと思われます。

  • 【施主等の注文主との関係】
    納期遅延による損害賠償問題、工事作業の最中に注文主の所有物を損壊させたことによる損害賠償問題、仕様間違い(契約違反)による損害賠償問題など
  • 【協力会社・下請先との関係】
    貸出した機械器具の不具合により怪我をした場合の損害賠償問題、威圧的な態度・暴言・無理難題の押付けによる(精神的苦痛への)損害賠償問題、安全確保措置不十分による損害賠償問題など
  • 【近隣等の第三者との関係】
    騒音・振動・悪臭・埃等による損害賠償問題、作業員の悪態や暴言による損害賠償問題、違法駐車・たばこのポイ捨て等のマナー問題に端を発する損害賠償問題など
  • 【従業員との関係】
    作業中の怪我による損害賠償問題(特に労災保険対象外の部分に関して)、ハラスメントによる損害賠償問題、過重労働等での精神疾患による損害賠償問題など

 

相手より損害賠償請求されてしまうと、怯んでしまったり、逆に反発してしまったりするなどして冷静に判断ができない場合があります。そもそも論として建築業者に責任があるのか、あるとして損害賠償の範囲はどこまでなのか、適正な金額算定はどうやって行うのか等相当専門的な知識が必要であり、素人判断ではなく、必ず弁護士に相談して責任の有無・範囲・負担額につき客観的な見解を得ておくべきです。また、損害賠償問題に対応するにあたっての交渉戦術や方針等についても、随時弁護士から指導を受けたほうが無難です。さらに目撃者からのヒアリング、損害保険会社との意見のすり合わせ等の第三者との連携の仕方や方法等についても、色々とポイントがありますので、やはり弁護士からアドバイスを受けたほうがスムーズです。

早期円満解決を目指すのであれば、是非弁護士を利用してください。

 

 

5.情報に関する問題

 

建築業において情報に関する問題が生じるとすれば、図面やデザイン等の著作権侵害といったものがあるのですが、中小の建築業者の場合、あまりこのような問題は発生しないようです。執筆者個人としては、商業的情報の発信、すなわち宣伝広告や営業活動に関する相談が多いように認識していますので、以下ではその点を中心に触れておきます。

 

(1)過去取引のあった顧客へのDMの発送等

建築業に限らず、過去に取引のあった顧客に対して、再発注を促す営業活動を行うことは当たり前のように行われています。新規顧客をゼロから開拓するより、一度でも取引のある顧客を再度誘引した方が効率が良い等の理由があるのですが、ここで気を付けなければならないのは個人情報保護法です。

すなわち、個人情報保護法では個人情報を取得するに際して利用目的の明示を定めています。その利用目的の中に、例えば「新商品・サービスに関するお知らせ・特典等のご案内を行うため」といったことを定めていなかった場合、過去取引のあった顧客に対してDMを送付することは個人情報保護法上問題があります。また、顧客のプライバシー意識の向上もあり、DMを送付されること自体に嫌悪感を覚える顧客も一定数いるところ、このような顧客からクレームが出た場合、対応に苦慮することも有ります。

今では無料で企業ホームページを作成することができる時代です。企業ホームページに利用目的を掲載することで上記のようなトラブルを防止することも可能です。DMの発送など既存客に対する営業活動を行うに際しては、念のため弁護士に相談し、何か法律問題が発生しないのか、発生するのであればどのような対策を事前に講じておくべきかアドバイスを受けるべきです。

 

(2)訪問販売による顧客獲得

建築業者の営業活動として、予め地域を決めて一軒ずつ営業活動を行うといった方法や、受注した工事案件の業務遂行に際して、ついでに近隣住民に対して営業活動を行うといった方法は従来から行われているようです。

こういった営業活動は特定商取引法に定める訪問販売に該当します。訪問販売は残念ながらネガティブなイメージも強い営業手法であり、またいわゆる消費者被害も多いことから、特定商取引法では訪問販売を行う事業者に対し、かなり厳しい規律を定めています。例えば、有名なクーリング・オフ以外にも、訪問販売に際しては事業者の名称や商品・サービスの種類等の勧誘目的を明示すること、契約に際しては書面交付義務があること、顧客より勧誘お断りの意思表示があった場合は再勧誘することが禁止されること等です。

訪問販売それ自体は禁止されていないものの、建築業者が考えている以上に規制が厳しいというのが実情です。特にクーリング・オフについては、顧客より権利主張されてしまうと、これまでの業務遂行は一切無駄となり、工事代金は返金、原状回復(=工事前の状況に戻すこと)まで負担させられることになります。したがって、訪問販売を行うのであれば、必ず弁護士に相談し、訪問販売により契約する場合の書面の作成支援はもちろんのこと、訪問による営業活動に際しての注意事項など全般的な事項につきアドバイスをもらい、かつ訪問販売開始後はいつでも相談できる体制を構築することが重要です。

 

(3)強引な営業・勧誘

上記(2)の訪問販売に付随して問題となることが多いのですが、顧客に何とか契約してもらおうと営業担当者が熱心に(?)なるあまり、強引な営業活動に関するクレームは後を絶たないようです。このような問題については、特定商取引法はもちろん、消費者契約法や消費生活センターの介入による指導など二重三重の規制が張り巡らされています。

営業活動として許される範囲はどこまでなのかについて不安があるのであれば、弁護士と相談した上で見直しを図ることをお勧めします。

 

(4)顧客誘引のための特典と景品表示法

建築業の場合、対面での営業活動が多く、顧客に契約してもらうための最後の一押しとして値引きを行ったり、景品や特典を付けるといったことが多いようです。このような営業活動は建築業者にとっては損とはなりますが、顧客にとっては得になることであり、特段の規制はないのではと思われるかもしれません。しかし、不当な値引き合戦や行き過ぎた景品の提供等は、市場の公正を害することから独占禁止法(例えば不当廉売など)や景品表示法(景品表示法は景品(=おまけ)に関する規制と表示(=広告)に関する2つの事項を定める法律です)での規制があります。

また、相見積もりとなっている場合は、自社の優位性を示すために他社を貶めるといった営業行為を行った場合、不正競争防止法違反として何らかの制裁を受ける可能性も否定できません。

とはいえ、直接的な消費者被害を招くような類型ではないため、執筆者が知る限りでは行政等による取締りは低調のように思われます。しかし、同業他社からの密告等により行政が何らかの指導を行う場合もあり得ますし、また、同業他社が不正競争防止法違反による法的請求を行ってくるリスクもあります。コンプライアンスが重視される今の時代であるからこそ、弁護士に相談し、その許容範囲を知っておくべきです。

 

(5)フランチャイズへの加入

営業活動の問題とは離れるのですが、最後にフランチャイズに関する問題に触れておきます。建築・建設事業の場合、特許取得済みの発明や、特許にはなっていないもののノウハウ要素の大きい工法を主たる内容とする、フランチャイズ(ライセンス)展開があります。中小の建築業者における経営多角化等の目的でフランチャイズに加盟すること、それ自体は経営方針として有り得る話です。

ただ、フランチャイズに加盟した場合、比較的ボリュームのあるフランチャイズ契約書に署名押印させられることになるのですが、このフランチャイズ契約書には、加盟者である中小の建築業者にとってかなり不利な内容が定められていることが通常です。もちろん、そのような不利な事項を考慮しても、なお事業としては利益を生み出すという場合もありますので、一概には判断できません。とはいえ、内容をよく読んでいなかったがために、加盟契約中はもちろん、加盟離脱後にトラブルになるという事例は後を絶ちません。

フランチャイズ契約の中身について、全てを加盟者有利に変更することは到底できません。しかし、何が不利な事項であるかを知ること、その不利な事項の中でも譲れるものと譲れないものとを線引きすること、あえて不利な事項を受け入れることによって将来的な事業運営にどのような影響を及ぼすのかを認識することは極めて重要です。このような経営戦略を判断する基礎情報を得るためにも、フランチャイズ契約書にサインする前に、フランチャイズ契約書を弁護士に確認してもらい、助言や修正交渉のやり方等を提案してもらうことも検討していただきたいところです。

 

 

 

<2021年7月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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