製造物責任法(PL法)とPLD対策について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社はメーカーとして消費者向け商品を大量生産し、小売店等を通じて販売を行っています。今般、当社が製造した商品に関し、ユーザーである消費者より欠陥品ではないかという問い合わせを受けました。

当社としては、ユーザーと直接のつながりのある小売店等に対応を任せたいのですが、そのような対応は可能でしょうか。仮に難しい場合、どういった点に注意して対処していけばよいのか、教えてください。

 

 

【回答】

本件の場合、メーカーとユーザーとの間では直接の契約関係に立たないことから、契約責任を理由としたクレームの場合、対処する必要がないと言えるかもしれません。しかし、メーカーである以上、製造物責任法(PL法)の責任追及を免れることはできません。したがって、たとえ契約関係にないユーザーとはいえ、連絡があった以上はメーカーで対処する必要があります。

以下では、製造物責任法(PL法)の内容を解説すると共に、問い合わせに対する初動対応の注意点(いわゆるPLD対策)について解説を行います。

 

 

【解説】

 

1.PL法が不法行為責任の特則といわれる理由

 

(1)はじめに

製造物責任法(PL法)とは、製造物(製品)の欠陥によって人の生命、身体又は財産に被害を被ったことを証明した場合に、被害者は製造業者等に対して損害賠償を求めることができるとする法律のことをいいます。この製造物責任法(PL法)の特徴は「不法行為責任の特則」と言われていますので、まずはこの点を解説します。

 

(2)不法行為責任とは

例えば、当事者間で車を売買する約束を行ったとします。ところが、売主が正当な理由なく車を引き渡さない、あるいは買主が合理的根拠もなく売買代金を支払わないといった事態となった場合、売主は車を引き渡すという約束に違反し、あるいは買主は売買代金を支払うという約束に違反することになります。このように約束(合意=契約)を守らなければならない義務があるにもかかわらず、この義務に違反したことを原因とし責任追及する法的構成を契約責任(債務不履行責任)と呼びます。

一方、交通事故、例えば歩行者が車に轢かれてケガをした場合、歩行者は運転者に対して責任追及するはずです。しかし、上記の売買の事例と異なり、歩行者と運転者には何らかの約束や合意があるわけではありません。このような契約関係がない当事者間において責任追及する手段が不法行為責任となります。この場合、前方を注視して安全運転を行わなければならない義務が運転者にはあったにもかかわらず、その義務に違反して歩行者をひいてしまった、つまり義務違反があったとして不法行為責任を追及することとなります。

まとめると、契約責任と不法行為責任は契約関係の有無という点で相違があるものの、両者とも「義務違反があること」を根拠に責任追及するという点では同じです。そして、この義務違反については法律用語で「過失」という言葉に置き換えられるのですが、いずれにしても、相手に責任を追及する場合、相手の過失を根拠にする必要があるというのが法律の大原則論となります。

 

(3)(不法行為責任の)特則とは

何が特則かという点について、最初に答えを出してしまうと「無過失責任」という用語がキーワードになります。この無過失責任の対極の用語として過失責任という用語があるのですが、これらを理解するために次の事例を検討してみます。

例えば、販売専門のWEBショップでノートパソコンを購入し、通常に使用していたところ突然ノートパソコン火を噴いて、家が燃えてしまい、住人がケガをしたという事例があったとします。さて、この事例の場合、ケガをした住人はどういった法的構成にて責任追及ができるのでしょうか。

まず考えられるのが、購入元である小売店(WEBショップ)に対し、不具合があるノートパソコンを売りつけたことが約束・合意違反である、つまり不具合のないノートパソコンを売らなければならない義務があるにもかかわらず、その義務を怠ったとして契約責任を追及することが考えられます。もっとも、実際問題として、小売店(WEBショップ)はメーカーではありませんので、ノートパソコンの不具合の有無について注意義務違反があったといえるのか怪しいところがあります。また、仮に小売店(WEBショップ)の責任が認められたとしても、果たして小売店に損害賠償できるだけの資力があるのか分からないという根本的な問題が出てきたりします(WEBショップの場合、大手家電量販店から個人の副業のような形態まで色々なものが存在します)。

そこで、発想の転換を行い、大規模で支払い能力もあると考えられるメーカー側に対して責任追及ができないかということを次に検討することになります。

この点、ケガをした住人とメーカーには何らかの約束や合意といった契約関係はありません。したがって、不法行為責任基づいて責任追及することとなります。ただ、上記(2)で記載した通り、不法行為責任を認めてもらうためには、メーカーの過失を証明する必要があります。では過失ありとされるためには具体的に何を証明するのか、という話になるのですが、次のように分析することができます。

製品を使用したことによってケガをした

製品に不具合があるのでは?

製品の××(具体的箇所)に欠陥があった

欠陥の原因の特定

欠陥が生じることについてメーカー側で予見可能だったのか

予見可能であることを前提に欠陥を取り除く(結果回避)は可能だったのか…

理屈の上では上記のようになるのですが、どういった製造工程で不具合のあるノートパソコンが製造されたのか住人側は知ることが困難です。この結果、メーカーの過失=「不具合(欠陥)の具体的原因の指摘と不具合を予見可能なのに防止しなかった義務違反」を立証したくても、全く情報もなければ専門的知識もないため、メーカーの過失=注意義務違反を指摘することさえできない結果、法律上は損害賠償請求が認められないという結論に行き着いてしまいます。

ただ、これではあまりにも不合理であるという感覚を持つのではないでしょうか。こういった事態を踏まえ、過失=注意義務違反についてまで遡って証明しなくてもよい(過失責任の否定)、注意義務違反の結果である欠陥についてまで証明すれば、メーカーに対して責任追及することが可能としたのが製造物責任法(PL法)となります。つまり、契約関係にはない当事者に対する責任追及手段して「不法行為責任」を選択しつつも、過失までは証明しなくてもよいという意味で「特則」とされているわけです。

 

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2.製造物責任法(PL法)の概要

 

製造物責任法(PL法)は、上記1.でも記述した通り、法律の大原則論である相手の義務違反(過失)を証明することなく責任追及可能とする法律ですので、さぞかし難しい法律内容になっていると思われる方もいるかもしれません。しかし、製造物責任法(PL法)は実は6カ条しかない、きわめてシンプルな法律です。特に重要となるのが3条なのですが、次のようなことが書かれています(※「 」は執筆者が便宜上付けています)

「製造業者等」は、その製造、加工、輸入…した製造物であって、その引き渡したものの「欠陥」により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物について「のみ」生じたときは、この限りでない。

 

この第3条を5W1H風に分解すると次のようになります。

【誰   が】製造業者等が

【誰 に対し】他人の

【何   を】生命、身体又は財産を

【どうやって】製造物の欠陥により

【結   果】侵害したとき損害賠償責任を負う。ただし、製造物のみの損害に留まる場合はPL法の適用なし。

 

以下では、特に勘違いしやすい点につき補足的な解説を行います。

(1)製造物責任を負う主体(製造業者等)

製造物責任を負担する主体である製造業者等については、製造物責任法(PL法)第2条第3項に定められています。一般的な用語例からイメージされるものよりかなり広範なものとなっていることに注意が必要です。

 

・当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者(第2条第1項第1号)

製造や加工した事業者が製造業者等に該当するのはイメージしやすいと思われますが、一切工作することなく単に「輸入した者」も製造業者等に該当すること、要注意です。海外の商品を個人の方が輸入しWEBショップで販売するという場合があるのですが、たとえ一個人で輸入しただけにすぎなくても製造物責任法(PL法)に定める「製造業者等」に該当することになります。

 

・当該製造物に、製造業者として(又は製造業者と誤認するような)自己の氏名、商標その他の表示をした者(2号)

これはいわゆるOEM商品のことをイメージすればよいかと思います。一昔前のガラケーを例にとるのであれば、三洋電機が自社ブランドのガラケーを製造販売すると共に、パナソニック用のガラケーを製造し、それをパナソニックブランドとしてパナソニックが販売していたといったものがOEMの代表例となります。

 

・当該製造物に、諸事情から実質的な製造業者と認めることができる自己の氏名、商標その他の表示をした者(3号)

これについては、プライベートブランドなどをイメージすると分かりやすいかもしれません。小売店等が企画販売するブランド商品をメーカーが製造するものの、表面上は小売店が製造業者であるかのような外観を呈しているものが該当します。

 

(2)製造物責任の客体・被害者(他人)

よく製造物責任法(PL法)は、消費者保護のための法律であるという説明が行われていることがあるのですが、確かにその側面があるのも事実です。しかし、法律上は製造物責任の被害者=製造物責任法(PL法)を用いて責任追及できる者については消費者と限定されていません。法文上は「他人」と定められているにすぎない以上、被害者が事業者であっても製造物責任法(PL法)に基づいてメーカーに対する責任追及を行うことは可能です。

 

(3)製造物のみに損害が留まる場合

製造物責任法(PL法)は、製造物に不具合(欠陥)があることにより、製造物以外のもの(製造物以外の財産や人の生命・身体など)に損害が拡大した場合のみ適用があるとされています。ただ、勘違いしてほしくないのですが、あくまでも製造物責任法(PL法)の適用が無いとされるだけであり、一般的な不法行為責任等での責任追及は可能です。他の手段による責任追及手段が排除されるわけではないことに注意が必要です。

 

(4)欠陥とは

欠陥の内容については、製造物責任法(PL法)第2条第2項が定めています。

欠陥とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。

上記内容からも分かる通り、いわゆる「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」、「指示・警告上の欠陥」という用語や分類は法文上定められていません。あくまでも便宜上の分類にすぎないこと、したがって、「製造上の欠陥」、「設計上の欠陥」、「指示・警告上の欠陥」に該当しないから欠陥なしという結論になるわけではないことに注意が必要です。

 

さて、製造物責任法(PL法)第2条第2項では、当該製造物の特性、通常予見される使用形態、引き渡した時期に係る事情、その他製造物に係る事情、という4要素を考慮して欠陥の有無を判断すると定められています。勘違いしてほしくないのですが、欠陥ありと判断されるためにはこの4要素全てを満たす必要はない、という点です。すなわち、どれか1つでも該当すれば欠陥ありと判断されることになります。以下、4要素について簡単に解説を行います。

 

・当該製造物の特性

例えば、包丁は物を切る製造物であるため、当然のことながら人を傷つけることも可能な特性を持っています。しかし、人を傷つける可能性があるからといって切れない包丁を世に出すわけにはいかないのも自明です。こういった包丁の特性を踏まえると、包丁を通常使用していたところ、手を滑らせて指を切ってしまったという場合に欠陥があると主張することは、一般常識的にはおかしい(むしろ自己責任の範疇である)と判断されるかと思います。

要は、製造物の特性として社会的に認知されている有用性が、その危険性より上回っているかという判断基準とイメージしていただければと思います。

 

・通常予見される使用形態

先述の包丁の事例でいえば、世間的には台所・キッチン等で食材を切るために用いる製造物であって、少なくとも他人に対して振り回して使用するための道具ではないというのは社会の共通認識だと思います。こういった場合、包丁を他人に振り回すことによってたとえ人が傷ついたとしても、他人に振り回すこと自体が異常な行動であって、使用方法として通常予見ができない以上、包丁に欠陥があるとは言えない、とイメージしていただければと思います。また、包丁を他人に振り回すこと自体が異常行動である以上、このような異常行動があることまで想定して、振り回してはならないと指示警告表示する必要もない、という話になります。

 

・引き渡した時期に係る事情

製造物を市場に流通させた時点での科学技術の水準であれば、欠陥があるかどうか判りようがなかった場合には欠陥があるとはいえない、という判断基準とイメージしてください。なお、これについては当時の最高科学技術に基づく知見を要求されることが多いので、あまり判断基準としては機能していないという実情があります。実際の事例として考慮対象となるのは医薬品と言われています。が、今後、いわゆるIoT機器の流通により、人類が予想しえない(制御化しきれない)バグやウイルス等によって異常行動した製造物の欠陥の有無を判断するに際して、この引渡した時期に係る事情というものが用いられることも予想されます。

 

・その他製造物に係る事情

いわゆるバスケット条項=様々な事情を総合的に考慮するという意味なので、なかなか一概にいうことはできないのですが、例としては行政が定めた安全基準があげられたりします。もちろん行政の安全基準を充足していたから欠陥がないと直ちに言い切ることはできませんが、行政の安全基準を充足していたというのであれば、一応欠陥がない製造物であると推定されるのではないでしょうか。

 

 

3.PL事故が発生した場合の初期対応(PLD対策)

 

(1)最初からクレーマー扱いにしないこと

製品不具合に関する指摘を受けた場合、初期対応としては「ねばり強く&気長」に「話を聞いてあげる」ことを意識する必要があります。これは少し前のいわゆる東芝クレーマー事件などを紐解けばわかりますが、初動対応の拙さによって事態が拡大し(いわゆる炎上騒ぎを含む)、収拾がつかなくなるリスクが相当にあるからです。

クレームに対する初期対応のポイントについては、別記事もご参照ください。

 

クレームを受けた場合の初期対応のポイントを弁護士が解説!

 

(2)一報があった直後の対応

一般的な初動対応は上記(1)及びリンク先の記事内容をご確認いただきたいのですが、PL事故の場合、その特殊性として次のような対応も是非取りたいところです。

 

・お客様に対して

お客様へのお詫びやヒアリングなど一通りの対応を行った後、お客様に対して必ず事故状況の保存依頼を行ってください。具体的には、事故品の事故時の状態についての撮影依頼、清掃や片付け前の事故現場の撮影依頼、事故関連品は捨てずに保管しておいてもらうといったことがあげられます。欠陥の有無を判断するにあたっては、まずはメーカー自らによる調査が不可欠になるところ、現場保存ができず状況に変動が生じた場合、原因究明が困難になると考えられるからです。

次に、できる限り事故品の回収を行ってください。回収に際しては、当事者間で回収時点での事故品の状態を確認すると共に、事故時の状態を維持できない破壊等を含む検査を行うことにつき了解を得ることも忘れずに行いたいところです。

 

・保険会社に対して

保険金の支払い請求を行うか否かはともかく、保険会社に対して事故報告は行うべきです。なぜなら、保険約款上、事故が発生した場合は直ちに報告するよう義務付けられているところ、この報告を長期間怠った場合、事例によっては保険会社が告知義務違反として保険金支払いを拒絶する事例も存在するからです。

なお、報告を受けた保険会社は、調査会社を通じて原因調査等に協力してくれることもありますので、積極的に活用することも検討に値します。

 

・行政及びステークホルダーに対して

「消費生活用製品」で重大事故(死亡事故、重傷病事故、後遺障害事故、一酸化炭素中毒事故や火災等の重大製品事故)が発生した場合、消費生活用製品安全法に基づく国への報告義務がありますので、該当するか否か検討を行う必要があります。

また、事故の内容如何によっては、直ちにリコールを行うことも検討する必要があります。

 

(3)初動対応後の流れ

一報を受けた直後の初動対応を行った後は、次のような対応を順次進めていくことになります。

・事故の内容の調査(事故の状況を図面や写真で残しておく、事故の目撃者からの事情聴取や、警察・消防署等の関係機関の調査結果の聴取等を行う)

・損害の状況調査(人身損害にまで被害が及んでいるか確認の上で損害の査定。なお、人身損害の場合、入院期間、休業期間、治療費、後遺症の程度、被害者の収入等の調査も必要)

・製品とその環境の調査(事故時の製品の状態、製品の修理やクレーム歴、流通経路などを調査する)

・調査結果を文書にして記録保存

 

上記のような対応を進めていき、メーカー側に非があると判断する場合は、速やかに示談交渉を進めることになります。

 

 

 

<2021年2月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

 

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