従業員・労働者側(関係者含む)から書面を受領した場合の初期対応について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

従前より反抗的な態度をとる従業員が存在し悩みの種となっていたのですが、今般その従業員及び従業員の関係者と思われる人物より社長宛に通知書が送付されてきました。

従業員本人が送付してきた通知書については内容を吟味しつつ慎重に対応する方針ですが、従業員の関係者と名乗る人物からの連絡・通知書については、どう対処すればよいのか分からないところがあります。

従業員本人及び従業員関係者からの通知書受領後の、初動対応のポイントについて教えてください。

 

 

【回答】

従業員との間で日常的にコミュニケーションが取れている場合、わざわざ書面という形式で会社に連絡を行うことは考えにくいといえます。したがって、書面で連絡が来るということは何らかの労使紛争が発生したと考えるべきなのですが、誰が通知書を送付してきているかによって、今後の対応が変わってきます。

そこで、本記事では、従業員本人からの場合、行政機関(主として労働基準監督署)からの場合、弁護士からの場合、労働組合からの場合を念頭に置きつつ、最後に最近増加傾向にある退職代行業者についても簡単に触れつつ、初動対応のポイントについて解説します。

なお、本記事では裁判所からの通知書(本訴、仮処分、労働審判)は除外していること、予めご了承ください。

 

 

【解説】

 

1.従業員本人からの通知

 

(1)基本スタンス

たいていの場合、インターネット等で公開されている文例集を参照しながら作成された文章であるため、具体的な根拠を欠く内容になっていることが多いのが特徴です。なお、従業員自らがオリジナルで作成した文章の場合、趣旨不明な内容であり理解に苦しむということもあったりします。

このためか、会社側としても一切返答しない(無視する、静観する)といった対応を取ることも多いようです。

たしかに、従業員からの通知書を分析・検証した上で、戦略的に静観するという対応もあり得ます。しかし、当該通知書の内容を適切に分析・検証することなく、会社の論理だけで判断し無視するというのは考え物です。なぜなら、従業員側としても、通知書への応答が無いことを見越して、次の手段を事前に準備していることもあるからです。そして、この次の手段に打って出てきた場合、大掛かりな(時間・労力・費用の負担が重くなる)労使紛争に繋がることにもなりかねません。

したがって、会社内だけで安易に判断せず、弁護士等の専門家に相談し、静観する、何らかの返答を行う、何らかの先手を打つ等の対応策を検討するべきです。

ちなみに、従業員からの通知書の内容について、会社内で検討した限りでは意味不明と判断したとしても、弁護士が読む限り、バックに専門家が付いていること(特に弁護士が文案の作成代行を行っている場合、弁護士独特の言い回しが使われていることが多い)、したがって、より慎重な対策が必要であることを見抜くことができたりします。

なお、従業員からの通知書を受領し内容を確認したところ、社長又は管理職のボルテージが上がってしまい(?)、いきなり社長又は管理職が通知者である従業員に対して直接あれこれ詰問し出すというパターンもあったりしますが、よほどのことがない限り悪手です。特に感情の赴くままに従業員に対して発言することは、後で取り返しのつかないことになりかねません。事前分析・検証を行うことなく、いきなり従業員と直接対話することは絶対に避けるべきです。

 

(2)内容別での注意点

従業員本人が通知書を送付するタイミングは、多くの場合従業員が会社との関係が切れた後、すなわち退職後です。要は在籍中に言えなかったことを、後で言ってくるというパターンが圧倒的に多く、典型的なものとしては次の3つがあります。

 

未払い賃金(残業代など)

サービス残業等の言葉が一般的に普及したこと、インターネット等を用いれば簡単に情報を取得できることから、従業員が会社に対し、未払い残業代の支払いを求める通知書を送付してくる頻度は高まっています。

また、通知書を送付したにもかかわらず会社が無視した場合等を考慮し、次の手段を従業員側が準備していることが多いという特徴を有します。

したがって、会社としては、未払い賃金がないのか十分に精査した上で、適切な回答を行うことが望ましいと考えられます。

なお、残業代請求に関するものですが、方針を検討する上で考慮するべき事項については次の記事もご参照ください。

 

残業代を請求された場合に、会社が検討・対処するべき事項を弁護士が解説!

 

ハラスメント

上司又は同僚より嫌がらせを受けたとして慰謝料請求を行う、それに付加して逸失利益(例えば、有期雇用契約において、期間満了まで勤務することで得られたであろう賃金相当額)の請求を従業員が行ってくるということがあります。

ハラスメントの有無を判断するためには、適切な社内調査に基づき明らかとなった事実を踏まえ評価を行う(違法性あり、違法性までは無いが社会通念上妥当性を欠く、該当なし)必要がありますが、双方の言い分が異なる、決定的な証拠がない等の理由で非常に悩ましいことになりがちです。

可能な限り、ハラスメントの該否判断や対応方針の組み立て方等について弁護士に相談し、何をどこまで回答するべきなのか慎重に見極めながら進めるべきです。

なお、社内調査の進め方については、次の記事をご参照ください。

 

社内調査を進めるに際し注意するべき事項について、弁護士が解説!

 

また、どういった言動がハラスメントに該当するのかの具体例については、厚生労働省が公表している資料などをご参照ください。

 

(参考)

職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)(厚生労働省)

 

解雇・退職

従業員本人から通知書が送付される場合、不当解雇であることを理由とした解雇撤回、退職届の提出を強要されたことを理由とした退職無効を主張してくる場合は少ないように思います。解雇・退職に至った経過において会社に不備(ハラスメント等)があることを指摘した上での慰謝料請求、あるいは離職票の退職事由を会社都合にするよう求めるといった事例が多いというのが執筆者の印象です。

さて、上記のような通知書を受領した場合、金銭支払いについては応じるつもりはないが、離職票の退職事由については応じてもよいと考える会社が一定数存在します。たしかに、絶対に間違いとは言い切れません。

しかし、損害賠償請求については、従業員側が次の一手を準備している可能性がありますので、静観するにしても、最低でも退職に至った経過について調査しておくことをお勧めします。

一方、離職票の離職理由については、直接的な金銭支払いにつながるわけではないかと考え、会社都合と離職票に記載することは吝かではない…と安易に判断することは避けるべきです。なぜなら、例えば、既に受給している助成金の返金対象になるリスクがあること、将来的に助成金の申請手続きを進めるに当たって障害事由となるリスクがあるからです。また、今後ハローワークでの求人手続きを行う上で支障を来す場合もあるからです。離職票の離職理由の記載は色々なところでマイナス要素として波及する恐れがあることから、十分に検討した上で判断する必要があります。

 

 

2.行政機関(労働基準監督署など)からの通知

 

(1)基本スタンス

労使紛争に関して行政機関が介入し連絡を行ってくるパターンの代表例としては、労働基準監督署からの来所依頼(=労働基準監督署まで出向いてほしいという要請)または会社への訪問依頼(=労働基準監督署の担当官が会社へ訪問する旨の連絡)となります。

執筆者個人の感覚に過ぎませんが、来所依頼は会社の言い分を聞いた上で適宜アドバイスを行うに留まることが多いようです。一方、会社への訪問連絡の場合、労働基準監督署として紛争内容に重大な関心(労働基準法等の法律違反の可能性が高い)を示しており、何らかの処分(是正指導、是正勧告)に繋がりやすい傾向があるように思います。

いずれにしても、労働基準監督署からの依頼に対して無視するという対応は、事を大きくし複雑化させるだけですので、会社にとってメリットは無いと考えられます。万一労働基準監督署から何らかの指摘を受けたとしても、今後問題が生じないよう改善するというスタンスで粛々と対応したほうが無難です。

 

(2)内容別での注意点

様々なパターンがあるのですが、ここでは代表的な3事例をあげておきます。

 

労働時間

労働基準監督署が動いてくる場合、必ずと言っていいほど質問を受けるのが労働時間の管理状況です。例えば、36協定の締結の有無、就業規則や労働契約書等から分かる所定労働時間の確認、タイムカード等の勤務時間が分かる資料、法定労働時間越えの勤務実態の有無などを聞かれることが多いです。

資料等に不足があったとしても、会社の実情を説明しつつ、今後に向けて適切な指導を仰ぎたいという態度で臨めば、重大な事態(例えば刑事事件として立件化など)を招くことは少ないと思われます。

 

未払い賃金

上記の労働時間管理と連動するのですが、資料上明らかに未払いと考えらえる賃金がある場合、賃金支払いを行うよう是正勧告が行われるのが通常です。この場合は、労働基準監督署の指摘に従い支払ったほうが賢明です。

なお、労働基準監督署は裁判所ではありませんので、労使双方の言い分に食い違いがある場合、客観的な証拠が揃っていない限りは未払い賃金ありと認定しない傾向があります。例えば、勤務時間についてタイムカードに記載されている以外の時間もあると従業員が主張しても、それを裏付ける資料が見つからない限り、タイムカードに沿って判断するといったことがあります。また、管理監督者の該当性や支給されていた手当の残業代充当の可否(いわゆる固定残業手当の問題)についても、判断を回避する傾向があります。

このため、労働基準監督署が認定する未払い賃金額は、従業員が主張する未払い賃金よりも低額になることが多いのですが、会社側として誤解してはいけないのは、これで労使紛争が最終解決するわけではないという点です。あくまでも行政(労働基準監督署)として介入するのはここまでという話に過ぎず、労働基準監督署が認定しなかった差額分の未払い賃金については紛争の火種が残ったままです。場合によっては、従業員が当該差額分の支払いを求めて別の手段(裁判等)に打って出ることもありえます。そして、特に裁判の場合が顕著なのですが、労働基準監督署が出した結論を裁判官はほぼ無視し、独自に未払い賃金額を算定することが通常です。この結果、労働基準監督署が認定した以上の未払い賃金の支払い義務を負うといった事態もよくある話です。

会社としては、労働基準監督署対応が終わっただけに過ぎず、引き続き気を抜くことができないということに注意が必要です。

 

年次有給休暇

2019年4月より、1年度あたり5日間の年次有給休暇を取得させなければならないことになっているのですが、うまく対応できていない会社も多いようです。

年次有給休暇の取得の有無については形式的に判断ができることから、今後は労働基準監督署として取り締まる方向で動くようです(なお、新型コロナの影響による会社側の現場混乱を考慮し、労働基準監督署も取締りをしばらくは控えていたという話があったようです)。

言い逃れは難しいと考えられますので、労働基準監督署から指摘があった場合、会社としては素直に聞き入れ対処したほうが無難です。

 

(3)あっせん(労働局)

行政からの介入の代表例として上記(1)(2)では労働基準監督署をあげましたが、似て非なる機関として各都道府県に設置されている労働局からの通知もあります。典型的にはあっせん手続き開始に関する通知ですが、要は従業員が労使トラブルについて、労働局を通じて協議し解決を求めたいと申告してきたので、それに応じるか回答せよという連絡と考えればよいかと思います。

このあっせん手続きについて、正確に理解してほしいのですが、会社があっせん手続きに参加するか否かは自由に判断できます。そして、あっせん手続きに参加しないという回答を行えば、それで手続き終了であり、会社は特別な不利益を被るわけではありません。

このように書くと、不参加と回答しておけば面倒な手続きを回避できると考える会社も多いかもしれません。ただ、あっせん手続きが終了した場合、従業員側が次にどのような手段に出てくるのかを想定することはもちろん、従業員が主張している内容がどの程度真実性があるのか(=会社が何らかの責任を負う可能性があるのか)を吟味した上で、あっせん手続きへの参加の可否を判断したほうが良いと執筆者は考えます。

なぜなら、あっせん手続きは、よほどの例外がない限り1回の協議で終ること(迅速性)、裁判と比較した場合、会社側の言い分をある程度考慮した解決案を提示してくれることが多いこと(柔軟性)、紛争の最終解決を図りやすいこと(終局性)等のメリットが存在するからです。従業員の主張内容について、ある程度会社としても認めざるを得ないという場合は、むしろあっせん手続きに参加して解決を図る方が望ましいこともあります。この点の判断等については、是非弁護士に相談してほしいところです。

 

(4)ハローワーク(職業安定所)

行政からの介入として、ハローワーク(職業安定所)からの連絡もあります。

ただ、これについては労使紛争の解決ではなく、離職票の記載、特に離職事由として会社都合か自己都合かという点での問い合わせが通常です。すなわち、従業員からすれば、会社都合にした方が、失業手当を早くかつ長期にもらえるというメリットがあるため、離職票の離職理由が自己都合扱いとなっていた場合、ハローワークに異議を出し、ハローワークが確認のため会社に連絡を入れるという流れとなります。

上記1.(2)でも触れましたが、安易に会社都合に変更することはお勧めできません。ハローワークから問い合わせがあった場合、会社として退職するに至った経緯を説明し、会社の認識としては自己都合である旨主張したほうが無難です。なお、会社が離職理由の変更に応じない場合、自己都合か会社都合かは最終的にはハローワークが判断します。

 

 

3.弁護士からの通知

 

(1)基本スタンス

弁護士が介入通知を送付してくる場合、たいていは従業員が辞めた後のことが多いようです。このため、従業員としても会社に遠慮する必要はなく、また弁護士費用を負担している以上、中途半端な形で終らせるつもりはない(交渉が決裂した場合は裁判もあり得る)という強い意思表示と見たほうがよいと考えられます。

したがって、従業員が弁護士を選任し、弁護士名義で連絡を行ってきた場合は、会社としても弁護士を選任する、何らかの事情で弁護士を選任できない場合であっても適宜弁護士と相談しながら都度方針を決めていくというスタンスを取ったほうが、リスクを軽減できると考えられます。

 

(2)内容別での注意点

弁護士から通知がくる場合、具体的な金銭支払い請求になっていることが通常です。典型的なパターンを3つ紹介します。

 

残業代

従業員の言い分のみで残業代を算出し、その額を支払うよう要求する通知書が送付されてくることから、会社としても最初はびっくりすることが多いようです。しかし、あくまでも従業員の言い分のみで算出しているにすぎない以上、会社側が適切に反論し、必要な資料を提示すれば妥当な金額に落ち着くことになります。どのような反論事項が考えられるのかについては、次の記事などをご参照ください。

 

(参考)

残業代を請求された場合に、会社が検討・対処するべき事項を弁護士が解説!

 

ところで、弁護士からの通知の場合、1回目は具体的な金額が書いておらず、残業代を計算するための根拠資料(タイムカード、日報、就業規則、労働契約書、給料明細書など)を開示するよう求めるだけの場合もあります。

この点、会社としてはこれらの根拠資料を開示しないことで、従業員側が正確に残業代を算出することができないと考え、あえて開示しないという判断をすることがあるようですが、非常に危険な方法となります。なぜなら、故意に開示しなかったことで慰謝料請求が別途認められたという裁判例が存在するからです。余計な金銭負担を増やすだけですので、根拠資料の開示を行った方がよいものと考えます。

 

解雇撤回

会社が不当解雇を行ったことを前提に、職場復帰と職場復帰するまでの賃金相当額の支払い、場合によって不当解雇による精神的苦痛を被ったとして慰謝料の支払いを求めるといったことも通知書に記載されていたりします。

そもそも解雇なのか(従業員より退職申出があったと会社は認識していないか)、解雇だとして解雇理由は何か(普通解雇or懲戒解雇のどちらなのか、就業規則上のどの事由に該当するのか等)、解雇の対象となった従業員の言動内容とその裏付けはあるのか(問題視している言動について労使双方の認識に食い違いがないか)、従業員の問題言動があったとして解雇相当なのか(解雇以外に選択肢の余地が無いと法的に評価可能か)等々を検討した上で方針を組み立てる必要があります。高度な専門知識を必要とする以上、必ず弁護士に相談し、適切な方針を組み立てるべきです。

なお、解雇撤回・職場復帰と表面上は主張しつつも、実際の落しどころとしては、解雇を撤回した上での合意退職扱いとし、一定の解決金を従業員に支払うということで解決することが多いと思われます。

従業員の本音と建前を見極めつつ、会社としてどこまで徹底抗戦するべきなのか判断することがポイントとなります。

 

ハラスメント

在職中にセクハラやパワハラを受けたとして慰謝料の支払いを求める、セクハラやパワハラを受けて退職せざるを得なかったとして逸失利益(勤務することで得られたであろう賃金相当額)の支払いを求める通知書が送付されてくることが多いようです。

上記1.(2)でも解説した通り、社内調査を進めた上で事実関係の把握、その事実関係を前提とした上でのハラスメントの該否を判断することになりますが、特にハラスメントの該否は法的評価を伴うため、会社担当者のみで正確に判断することは難しいのが実情です。ハラスメントの該否については弁護士の見解を得ると共に、どういった方針を組み立てれば会社として一番リスクを少なくできるのかを弁護士と一緒に考えて対処すことが望ましいといえます。

 

(3)弁護士のスタンスを見極めることが重要?

あまり大っぴらにすることはできないのですが、従業員の代理人弁護士の属性を見極めることも実は方針を組み立てる際には重要となります。

公言することはやや憚れますので、本記事では詳細を書きませんが、会社が弁護士に相談する際は、従業員側の代理人弁護士の属性について尋ねてみるのも良いかもしれません。

 

 

4.労働組合からの通知

 

(1)基本スタンス

労働組合が介入通知を出してくるパターンとして、弁護士と同じく従業員が辞めてからの場合もありますが、従業員としての身分を保持したまま(つまりまだ在籍している)の場合も多いのが1つの特徴と言えます。この点について、弁護士はどうしても事故的な紛争処理を行うことを念頭に対処することが多いのに対し、労働組合の場合は今問題となっている労使環境の改善を念頭に対処するという相違があるからだと考えられます。

労働組合が介入通知は、通常は団体交渉申入書です。団体交渉は非常に特殊な条件下での交渉となりますので、次の記事をご参照いただきつつ、可能な限り弁護士のアドバイス・立ち合いを前提に対処したほうが無難ではないかと考えます。

 

労働組合より団体交渉申入れを受けた場合、会社が講じるべき初動対応を弁護士が解説!

 

(2)内容別での注意点

団体交渉という手段の違いはありますが、残業代支払い、解雇撤回、ハラスメント対応を要求してくる事例が多いという点では、上記3.で解説した弁護士の場合と同様です。ここでは、従業員が在籍している場合の要求事例を3つ取り上げておきます。

 

人事処遇の撤回

降格、配置転換、懲戒処分(解雇を除く)などが不当であるとして撤回を求めると共に団体交渉を通じて協議するよう要求するというのが典型例です。

人事処遇については会社としても譲歩しづらいところがありますので、なかなか協議で解決するという訳にはいかないところがありますが、それ相応の根拠をもって会社が説明する限り、労働組合としてもそれ以上の行動を起こしづらいというところもあります。

したがった、人事処遇の必要性・相当性について筋を通すことができるかが重要となります。なお、会社として筋が通ると考えても、法的には問題ありということは意外と多く存在しますので、念のため弁護士に相談し意見を聞いたほうが無難です。

 

雇止め、復職不可に伴う自然退職

有期雇用契約において更新をしない旨通告したところ、雇止めに該当し違法であるので引き続き雇用するようことを求め団体交渉を要求する、私傷病休職の期間満了時における復職不可判断を行い自然退職扱いとしたところ、復職不可判断に問題があるとして職場復帰に関する団体交渉を要求する、といったものが想定されます。

雇止めに該当するか、復職不可判断に問題がないか、については専門知識が必要であることから必ず弁護士に相談すると共に、一方で労働組合が考えている落しどころはどこにあるのかを見極めながら方針を組み立てることが重要となります。なお、労働組合の本音と建前を聞き出す場合、弁護士を間に入れて交渉したほうがスムーズな場合もあります。

 

メンタルヘルス不調

ハラスメント、長時間労働、過重労働など会社側の原因によりメンタルヘルス不調となったので、就業環境や業務遂行のあり方を見直すよう求め団体交渉を要求するといったものが典型例です。他にも、メンタルヘルス不調による休職期間中の賃金保障やリモートワーク等の導入、復職時の就業への配慮といった、法的根拠があるとは考えにくい要求もあったりします。

当該従業員の個人に関する問題として個別処理を行うのか、当該従業員のみならず他の従業員にも影響を及ぼす全体問題として処理するのかによって、会社の方針も大きく変わってくるものと考えられます。また、法的対応範囲を超えた特例措置を果たして認めるべきなのか、仮にこれを認めた場合、今後労働組合の言いなりになってしまわないかという観点からも検討が必要となります。

メンタルヘルス不調の問題に限らず、労働熊井との対応はかなりナーバスな問題となりがちです。会社がAと返答した場合、労働組合は次にどういった手段を講じてくるか、それに対して会社が取りうる次の対抗策は何か等、常に一歩先を見越して対処する必要がありますので、経験豊富な弁護士に相談しながら1つずつ着実に処理する必要があります。

 

(3)労働委員会からの通知

上記2.のところで触れるべきなのかもしれませんが、労働組合との交渉が決裂した場合、労働組合が次に行ってくる手段が、労働委員会(厚生労働省に属する組織の一つです)への不当労働行為救済命令申立手続きとなります。

不当労働行為救済命令申立手続きとは、誤解を恐れずに簡単に説明すると、労働組合に対して不当労働行為(例えば不誠実団交を繰り返した等)を行ったので、労働委員会より会社に対して注意指導と制裁を行うよう求めるというものとなります。

不当労働行為救済命令申立が行われた場合、労働委員会より手続き開始の通知書が会社宛てに送付されてくるところ、これに一切応答しなかった場合、会社にとって不利益な処分が下されるリスクがあり、しかもこの処分には法的拘束力があることから、会社としては無視するという対応をとることはできません。ただ、対応するにしても、裁判手続きに近い形で手続きが進められるため、相当な専門知識と対応能力、そして手続きの勘所を押さえておく必要となるところ、会社担当者のみでは正直対応しきれないのが実情です。

労働委員会からの通知書を受領した場合、すぐに弁護士を探し依頼することで、リスクを最小限に食い止めるよう動くことが肝要です。

 

 

5.退職代行業者からの通知

 

(1)基本スタンス

近時、退職代行業者と呼ばれる、従業員本人に代わり退職手続きを代行する事業者が増加してきています。

たいていの場合、突然、退職代行業者から書面が送付されてくること、退職代行業者の態度が非常に事務的なものであることから、会社としても困惑することが実情です。このためか、従業員本人の意思によるものなのか、何故自ら退職の申出をしてこないのか等々の疑問が残るため、従業員本人と直接話をしたいと考える会社が多いようです。

しかし、退職代行業者に依頼している時点で、既に従業員本人は会社と直接話をする気はなく、会社より連絡を取っても応答がありません。また、退職代行業者に従業員本人と話をしたいので取り次ぐよう依頼しても拒否されます。

したがって、退職代行業者が介入し、退職通知書を送付してきた場合は、淡々粛々と退職手続きを進めたほうがよいと考えられます。

 

(2)注意点

一般的な退職代行業者は、退職手続きを代行(退職届の提出、会社貸与物の返還、私物の返還など)するのみであり、それ以外の交渉を行うことはありません。

しかし、一部退職代行業者の中には、退職手続きの代行以外に、未払い賃金の請求、年次有給休暇の買取り、ハラスメントを理由とした慰謝料請求といったことまで持ち掛けてくるところもあるようです。

もちそん、退職代行業者が弁護士又は労働組合である場合は、こういった交渉を行う権限を有している以上、会社としても対処し必要に応じて交渉する必要があります。しかし、弁護士又は労働組合以外の一民間企業が運営する退職代行業者である場合、このような交渉を行うこと自体が弁護士法違反となります。

したがって、余計なトラブルに巻き込まれないためにも、会社は、退職代行業者の運営者がどういったものなのかを確認し、一民間事業者にすぎない場合は一切の交渉は行わない(金銭負担を行わない)ことが重要です。

なお、既に発生している賃金や年次有給休暇の取得(有給期間満了日を退職日とすること)については、特に交渉するような事項ではありませんので、形式的に処理しても問題はないかと考えます(但し、賃金の支払先は退職代行業者指定口座ではなく、従業員名義の口座にするべきです)。

 

 

 

<2022年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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