減給の懲戒処分を行う場合の注意点(ショート記事)

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企業・事業者様よりご相談を受けていると、ある程度似通ったご相談をお受けすることがあります。

このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。

 

 

ご相談

問題行動の多い従業員に対し、減給の懲戒処分を行おうと考えている。何か注意するべき事項はあるか。

 

回答

形式面では、就業規則が存在するのか、就業規則の中に懲戒処分として減給の制裁に関する規定が定められているか、問題行動が減給の対象となる懲戒事由に該当するか、対象従業員の言い分は聞いているか、といった事項が注意事項となります。

内容面の注意事項については、次の「解説」で解説します。

 

解説

懲戒処分を行う場合、就業規則に定めている内容を確認した上で手続きを進める必要があること、上記「回答」に記載した通りです。

次に、減給の懲戒処分を行うに際して留意しなければならないのは、労働基準法第91条の存在です。ポイントは

  • 1回あたりの減給は平均賃金の1日分の50%以下にすること
  • 複数回の減給処分を行う場合の総額は一賃金支払期の賃金総額の10%を以下にすること

2つを充足する必要があるという点です。

例えば、月給22万円、平均賃金1万円の従業員に対して減給の懲戒処分を行う場合、1回あたりの減給額は5,000円以内とすること、問題行動が複数ある場合に、問題行動ごとに減給処分を行う場合はその総額を22,000円以下にすること(@5,000×5回の懲戒処分を行うことはNG)ということになります。

このように書くと、5つの問題行動があるのに4回分の減給しかできないのかと思われるかもしれませんが、それは誤解です。

法律は「一賃金支払期」としていますので、4回分を当月に、残り1回分を翌月に回して処分すれば問題ありません。

ところで、労働基準法第91条に従う限り、思ったほどの減給額にはならないと思われるかもしれません。また、公務員の不祥事であれば6ヶ月間の減給処分といったニュースを耳にしたことがあるので、違和感を覚えるかもしれません。

しかし、公務員は労働基準法とは別の法律に基づいて制裁処分を受けますので、比較すること自体が誤りです。

インパクトのある懲戒処分にはならないと思われるかもしれませんが、こればっかりは致し方ないと考えてください。

 

さて、減給の懲戒処分に関連して、よくあるお問い合わせ内容とそれに対する回答を簡単に整理しておきます。

まず、「減給の懲戒処分を行った結果、最低賃金に満たない支給額となった場合は問題があるのか」という問い合わせがあります。結論から申し上げると、最低賃金法違反には該当しません。なぜなら、減給前の賃金額が最低賃金を上回ればよいとされているからです。

次に、「人事評価の結果としての降職(降格)・降級に伴い賃金減額となる場合、労働基準法第91条の範囲内で対応する必要があるのか」という問い合わせがあります。これについては、職位・等級に応じた賃金制度を定め、その職位・等級に応じた賃金額の変更が予定されているのであれば、懲戒の減給処分に該当せず、労働基準法第91条の適用はありません。なぜなら、あくまでも人事裁量権の行使に過ぎず、懲戒処分とは無関係という取扱いになるからです。

最後に、「出勤停止の懲戒処分の際、出勤停止期間中は無給としているが、これについても労働基準法第91条の適用があるのか」という問い合わせがあります。これについても労働基準用第91条の適用はありません。なぜなら、減給の懲戒処分は、就労したことで既に発生した賃金を減額するものであるのに対し、出勤停止による無給扱いは、就労を行っておらず賃金が発生したことを前提にしたものではないという差異があるからです。要は、出勤停止の懲戒処分と減給の懲戒処分は別物である以上、適用がないと考えておけば足ります。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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