給料前払いサービスの導入に際しての法的注意点につき、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

給料の前払いや前貸しの依頼を受けることが多く対応に苦慮しているため、民間事業者による給料前払いサービスの導入を検討しています。もっとも、給料前払いサービスを行う事業者が逮捕されたというニュースも聞いたことがあり、躊躇もあります。

給料前払いサービスを導入するに際して、気を付けるべき事項は何か教えてください。

 

 

【回答】

ご相談事項に記載のある逮捕事例は、「給料ファクタリング」と呼ばれるもので、実質的には貸金業であるにもかかわらず、貸金業の登録を行っていなかったという事例です。したがって、給料ファクタリングに該当する給料前払いサービスを導入する際は、貸金業登録の有無を確認するといった対策が必要となります。

一方、「給料立替払い」と呼ばれるものは、一定の条件はあるものの現時点では問題なしとされています。

どちらのタイプに該当するのかを見極めたうえで、導入の是非を検討する必要があります。

【解説】

 

1.給料前払いサービスの形式

 

上記回答でも触れましたが、給料前払いサービスと呼ばれるものには、①給料ファクタリングという形式を用いる場合と、②給料立替払いという形式を用いる場合の2種類存在するようです。それぞれの概要は次の通りです。

 

①給料ファクタリング

労働者が使用者に対して有する賃金債権を、サービス提供事業者が買取り(形式的には賃金債権を譲り受ける)、給料日前にサービス提供事業者が労働者に一定額(買取代金相当額)を支払う。労働者が給料の支給を受けた後、サービス提供事業者は労働者より、当該一定額の返還を受ける。

 

②給料立替払い

サービス提供事業者が労働者に対し、給料支払日前に一定額を給料として立替払いを行う。給料支払日後、サービス提供事業者は使用者より、立替払い相当額の支払いを受ける。

 

この点、上記①の形式でサービス提供を行っていた一部事業者は、逮捕される事態となっています。ただ、逮捕された理由は、

・給料ファクタリングは、実質的に労働者に対する貸付である

・貸付である以上、サービス提供事業者は貸金業登録が必要である

・しかし、サービス提供事業者は貸金業登録していないので貸金業法違反である

というロジックです。

したがって、貸金業登録を行っているのであれば合法ということになります。なお、給料ファクタリングの形式でサービス提供を行っていた一部事業者は労働者に対し、高金利での返還を要求していたという実態もあったようで、この点で出資法違反も認められるところです。

上記の通り、給料ファクタリング形式によるサービス提供の場合、貸金業登録の有無や貸出利率の妥当性などを検討の上、会社として労働者に案内するべきか判断する必要があります。ちなみに、金融庁は次のような見解を公表し、注意喚起を行っています。

 

金融庁の見解(ノーアクションレターに基づく回答)

 

ところで、やや専門的な話になるのですが、ファクタリング形式での給料前払いサービスの場合、サービス提供事業者は労働者より賃金債権を譲受けているので、サービス提供事業者は使用者に対して支払い請求を行うはずでは、という疑問が生じるかもしれません。この点については、昭和43年3月12日の最高裁判決を踏まえると(最高裁の事例は厳密には退職金に関する事例です)、賃金債権を譲渡することは可能、しかし労働基準法第24条第1項が存在する以上、譲受人(サービス提供事業者)は使用者に対して直接の支払いを請求することができないと解釈することになります。

したがって、サービス提供事業者は、賃金債権を譲受けても、使用者に対して直接の支払い請求ができない以上、労働者に対して返還請求するほかない状況ですので、賃金債権のファクタリングは非常に特殊なものと考えることになります。

 

一方、上記②の給料立替払い方式についても、全く問題がないと言い切ることもできません。給料という性質上、労働基準法第24条に定める直接払いや一定期日払いに抵触しないかという問題、使用者から後日回収する点でサービス提供事業者は貸金業者に該当しないかという問題があります。以下では、この2点について検討を行います。

 

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2.給料立替払い形式と労働基準法第24条

 

まず、労働基準法第24条は次のように定めています(一部抜粋)。

労働基準法第24条

1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(以下省略)

2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。(以下省略)

 

給料立替払い形式の場合、労働基準法第24条第1項に定める「直接労働者」に支払うという点を充足するのかという点(=使用者以外の第三者が賃金を支払うことが直接支払ったことになるのか)、及び労働基準法第24条第2項に定める「一定の期日」に支払うという点を充足するのかという点(=労働者がサービスを利用した都度、立替払いが実行される点では不定期払いとなり、一定期日に支払ったことになるのか)が問題となります。

しかし、この2点については、現行法の解釈としては気にする必要はないと考えられます。というのも、労働基準法はもともと使用者に対して規制を行う法律、つまり労働者を保護するための法律です。上記2点については、使用者以外の第三者が給料を支払うこと及び不定期であっても、賃金としての支払いを受ける以上、労働者にとって得にしかならず、損することはないからです。

したがって、労働基準法第24条に違反することはないと考えられます。

なお、立替払い形式の給料前払いサービスについて、厚生労働省も見解を公表しており、労働基準法第24条に違反するものではないとしています。ただし、厚生労働省は、

・使用者による賃金支払い義務が免除されるわけではない以上、サービス提供事業者による支払い状況について確認する義務があること

・サービス提供事業者が労働者に対して支払うに際し、賃金であることが分かるように対処すること

という指摘を行っていますので、この点は念頭に置く必要があります。

 

厚生労働省の見解(グレーゾーン解消制度に基づく回答)

 

 

3.給料立替払い形式と貸金業

 

給料ファクタリング形式の場合、実態として、サービス提供事業者は労働者に対して貸付を行っているという取扱いになっています。そうであれば、給料立替払い形式の場合であっても、サービス提供事業者は使用者に対して貸付を行っているのであって、やはり貸金業の登録が必要なのではないかという疑問が生まれます。

この点、結論として、金融庁は一定の条件のもと貸金業には該当しないという見解を公表しています。

 

金融庁の見解(グレーゾーン解消制度に基づき回答)

 

執筆者個人としては、この金融庁の見解はかなり政策的な意味合いが濃い見解(要は苦し紛れの見解)だと正直思います。金融庁の見解によれば

・従業員の勤怠実績に応じた賃金相当額を上限とした給与支払日までの極めて短期間の給与の前払いの立替えであること

・導入企業の支払い能力を補完するための資金の立替えを行っているものではないこと

・手数料についても導入企業の信用力によらず一定に決められていること

を前提に貸付行為に該当しないと判断しています。

 

ただ、上記見解の反対解釈として、使用者(導入企業)にもともと賃金を前払いするだけの余裕がない場合や、サービス提供事業者が使用者(導入企業)の信用力を考慮した上で手数料を変動させている場合は、貸金業に該当する可能性が高いということになります。使用者としては、立替払い形式による給料前払いサービスを導入するに際し、サービス提供事業者より与信調査の依頼があった場合は、貸金業登録が行われているか等の調査が必要となる点に注意が必要です。

 

4.補足(労働基準法第25条との関係について)

 

給料前払いサービスを導入するに際しての法的検討事項につき解説を行いましたが、実は従業員より要請があった場合、使用者は賃金前払いを行わなければならない義務が労働基準法に定められています。

労働基準法第25条

使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であっても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。

 

あくまでも、従業員より請求があることを前提に、既に労務提供済み分の賃金のみの前払い義務にすぎないのですが、実は使用者が賃金前払い義務を負担していることはあまり知られていないようです。

ただ、使用者に対して前払い義務が課せられているとはいえ、この労働基準法第25条では支払期限が定められているわけではありません。もちろん、法の趣旨からすると遅滞なく支払わなければならないことは明らかなのですが、労働者が請求し、使用者が計算等の準備している間に賃金支給日が到来するということも有り得る話です。そのような実態を考慮すると、即時支払いに近い民間事業者が提供する給料前払いサービスの方が、労使双方にとって魅力的といえるのかもしれません。

とはいえ、使用者は賃金前払い義務があることは、使用者は頭の片隅に置いておく必要があります。

 

 

<2021年3月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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