従業員による兼業・副業、従業員シェアを検討する場合の注意点を弁護士が解説!

【ご相談内容】

新型コロナウイルスによる事業停滞により、当社は従業員1人当たりの業務時間を減らすなどして雇用維持対策を行っているところです。このような状況下を踏まえ、従業員に対しては、他社での兼業・副業を奨励しようと考えています。兼業・副業を認めるに際し、どういった点に注意するべきでしょうか。

また、最近話題になっている、従業員シェアについても注意点を教えてください。

 

【回答】

兼業・副業自体は、法律上規制されているわけではなく、むしろ昨今の働き方改革の議論を踏まえると推奨されているところです。ただ、兼業・副業を認めることにともなう周辺的な問題点が未解決であるため、現行の法制度及び法解釈を踏まえる限り、兼業・副業を無条件に認めることは、非常にリスクがあります。

したがって、兼業・副業の実施については許可制をとりつつ、許可不許可のルールを定めた上で、柔軟な運用を行うことで対処するのが無難と考えられます。

一方、従業員シェアは、基本的には従来からある在籍出向と同じ考え方をとれば対処可能です。ただ、新型コロナウイルスの影響により注目を浴びている従業員シェアは、従来認められてきた在籍出向とは背景事情を異にすることを意識しつつ、職業安定法にも配慮しながらの慎重な運用が必要と考えられます。

 

【解説】

 

1.兼業・副業について

 

(1)兼業・副業を一律に禁止することは可能か

おそらく多くの会社の就業規則では、兼業・副業は禁止する旨の規定(服務規律の1つとして定められている場合もあれば、独立した禁止条項が定められている場合もあります)が存在しているものと思われます。

しかし、よくよく考えると、会社業務を遂行する以外の時間(例えば勤務終了後から翌日の勤務開始までの時間)は従業員にとってプライベートの時間です。すなわち、従業員が何をしてもよい時間であり、会社があれこれ指示命令を出せる時間ではありません(なお、指示命令を出したら労働時間に該当します)。そうであれば、会社業務を遂行する以外の時間において、従業員が他の仕事に従事することは原則問題ないと考えるのが筋論となります。

したがって、一切の例外なく、従業員に対して兼業・副業を禁止することは法律上不可と考えることになります。

 

(2)兼業・副業が許容される場面とは

一切の例外がなく兼業・副業を禁止することは法律上不可とする場合、どういった場面で兼業・副業は禁止できるのでしょうか。

この点、兼業・副業を認める会社であっても、多くの場合は許可制、すなわち会社が許可した場合のみ兼業・副業は可能であるとする社内規程を定めていることが多いようです。すなわち、兼業・副業については原則禁止、例外的に会社が許可した場合はOKというスタンスの会社が多いというのが実情と思われます。もっとも、昨今の働き方改革の議論で示された方向性は、兼業・副業については会社に届出さえすればOK、何らかの支障が生じる場合は、会社は兼業・副業を禁止できるというものです。つまり原則と例外を逆転させたものとなっています。

たしかに、過去の裁判例を分析すると、大きな枠組みとしては「職場秩序に影響せず、会社(事業者)に対する労務提供に格別の支障を来さない程度・態様の兼業・副業については認めるべき」という判断基準が示されています。したがって、会社の自由裁量により兼業・副業の可否を判断するという訳にはいかず、職場秩序への悪影響や労務提供への支障があることを会社側が示さないことには、兼業・副業を禁止することはできないと今後は考え方を改める必要があると思われます。

ちなみに、職場秩序への悪影響、労務提供への支障を判断するうえでの具体的な考慮要素としては、次のようなものが考えられます。

・兼業・副業先が競業関係に該当するか

・秘密保持義務違反を招来しないか

・利益相反取引にならないか

・会社(事業者)の対外的信用を毀損しないか

・総労働時間が過重となり、健康を害することにならないか

・総労働時間が過重となり、本業の遂行に問題が生じることにならないか

 

ところで、働き方改革で示された方向性は、従業員は会社に届出さえすれば、原則兼業・副業を行ってもよいというものでした。この方向性を受け、厚生労働省が公表しているモデル就業規則でも、兼業・副業については届出制に変更されています

しかし、執筆者個人としては、届出制という緩やかな制度に一気に変更することは止めておいた方が良いのではと考えています。なぜならば、次で記載するような兼業・副業を認めることに伴い必然的に生じる問題・リスクへの対応が、現行の法制度では十分にできないからです。このため、兼業・副業については一定の歯止めをかけるべきと考えます。

制度の枠組みとしては、引き続き許可制としつつ、上記のような考慮要素のいずれにも該当しないことを労働者が証明した場合(なお、厳密な証明は困難であることから、従業員に表明保証させるといったことでも十分と考えられます)、原則許可する方向で運用実施する、とするのが望ましいのではないかと考えています。

 

(3)兼業・副業を許容した場合の留意事項

上記で触れた、兼業・副業を認めることに伴って生じる問題・リスクですが、具体的には次の2点となります。

 

◆労働時間の通算と労働基準法第38条

まず、労働基準法第38条第1項は次のように書いてあります。

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」

行政解釈では「事業場を異にする」=事業主を異にする場合を含む、とされていますので、兼業・副業の場合も労働基準法第38条第1項が適用されることになります。ただ、これが適用されることで、本業に該当する会社は色々と困ったことになります。例えば、

・本業の36協定で時間外労働は40時間と規定

・兼業・副業で35時間分の労働を行う

・本業で残業を命じることができるのは5時間分のみ

という結論になってしまいます。つまり、本業に該当する会社(事業者)は、兼業・副業を認めた従業員に対して残業命令を出すことができず、仕事を任せることができないという問題が起こることになります。この結果、兼業・副業を認めた従業員に対する人事評価は、残業をしながら仕事をこなす従業員よりもどうしても低下することになります。また、兼業・副業を認めた従業員にお願いできない以上、他の従業員へしわ寄せがいくことになります。結局のところ、本人にとっては人事評価上のデメリットが生じ、会社にとっては従業員間の待遇格差や処遇上の配慮に頭を悩ますことになります。

 

ちなみに、上記は本業に該当する会社(事業者)にとっての問題点ですが、兼業・副業に該当する会社(事業者)にとっても頭の痛い問題が生じます。それは本業を行っている従業員が本業で1日8時間労働を行っていた場合の処理です。

労働基準法第38条第1項が適用されるということは、兼業・副業による業務遂行時間はすべて法定時間外労働に該当することになります。兼業・副業の会社・事業者は、たとえ8時間未満の労務提供しか受けていない場合であっても割増賃金を支払う必要があります。この結果、兼業・副業を行う従業員を働かせる場合はかえって人件費の高騰を招くことになります。また、万一、本業での業務従事を行っていることを知らなかった場合、当該従業員から後で割増分の未払い賃金請求を受けるリスクを抱え込むことになります。

 

結局のところ、本業に該当する会社(事業者)、兼業・副業に該当する会社(事業者)の双方が、兼業・副業を行う従業員の処遇上の問題・リスクを負うこととなります。このため、労働基準法第38条第1項の適用がある以上、リスク回避のためには兼業・副業を認めないという会社(事業者)の動機を生みやすくなっているのが実情です。

 

◆安全配慮義務(労働時間管理)

兼業・副業を行う従業員は、雇い主は異なるとはいえ長時間労働を行っていることになります。このため、どうしても兼業・副業を行っていない従業員よりも多くの身体的・精神的負荷を受ける状態であり、兼業・副業を行っていない従業員よりも何らの異変が起こりやすくなっているものと言わざるを得ません。

一方、会社としては、自らが管理する労働時間内であれば必要な安全指導等が行うことができたとしても、他の事業主の下での業務遂行については管理のしようがありません。しかしだからと言って、兼業・副業を行って従業員について、他の従業員(兼業・副業を行っていない従業員)よりも負担の少ない仕事のみ従事させる、労働時間を短縮させる等の特別な配慮を行うのもおかしな話です。

結局のところ、兼業・副業を認めた場合、本業に該当する会社(使用者)、兼業・副業に該当する会社(事業者)は、兼業・副業を行う従業員に対し、どこまで気を配ればよいのか明確な判断基準がない状態です。このため、会社(事業者)は、いつどこで安全配慮義務違反として責任追及を受けるのか分からないリスクを抱え込むこととなるため、かえってリスク回避のためには兼業・副業を認めない方向になりがちとなっているのが実情です。

 

(4)兼業・副業を禁止する社内規程が存在しない場合

就業規則を設けている会社では、兼業・副業について何らかのルールを定めていることが多いと思われます。では、就業規則を含めた社内規程上、兼業・副業に関するルールを定めていない場合、従業員による兼業・副業は一切禁止できないでしょうか。

たしかに、明確なルールが存在しない以上、当然に会社において兼業・副業を禁止することは不可能と言わざるを得ません。

もっとも、例えば秘密保持義務や競業禁止義務は、裁判例上、労働契約を締結している従業員において当然に負担するべき義務とされていますので、就業規則を含めた社内規程が存在しなくても、秘密保持義務違反や競業禁止義務違反が認められるような兼業・副業を禁止することは可能と考えられます。また、会社の名誉や信用を毀損することは当然法律で禁止されていますので、兼業・副業を行うことで会社の名誉・信用棄損が生じることが明らかな場合もやはり禁止することは可能と考えられます。

したがって、社内ルールがない場合と比較すると範囲は狭まりますが、会社(事業者)は、上記のような法律違反が認められる場合は、兼業・副業を禁止することが可能です。

 

2.従業員シェアについて

 

(1)はじめに

従業員シェア(シェアリング)とは、余剰人員を抱える会社(事業者)が、人員不足の会社(事業者)に対して一時的に人材を貸し出すことを指します。もっとも、シェアリング=共有という言葉が用いられることから、人材を人員不足の会社(事業者)に一方通行で移動させるという訳ではなく、将来的には送り出した会社(事業者)の元に戻ってくることが想定されているのが通常です。

なお、送り出しの対象となった従業員(人材)からすれば、兼業を行っている状態となります。

新型コロナウイルスの影響による雇用環境の変化で、人材シェアが注目を浴びていますが、以下法的観点から留意するべき事項を解説します。

 

(2)在籍出向による従業員シェアの実施

従業員シェアの特徴は、上記でも記載した通り人材の共有です。これを法的に表現すると、対象となった従業員は、送り出し側の会社(事業者)と受け手側の会社(事業者)の両方に籍を置くことになります。つまり、在籍出向の形式をとっていると考えることになります。

在籍出向を行うこと自体は、目新しいものではありません。特にこれまでの国内企業では、企業グループ内での人事交流で行われていたり、取引先への経営指導・技術指導のために行われていたり、従業員の職業能力開発の一手法として従前より実施されていました。また、不景気のときには雇用維持の手法としても利用されています。

したがって、これまでに在籍出向を行ってことがある会社(事業者)においては、従前の在籍出向の考え方(例えば、出向期間中どちらの社内ルールを当てはめるのか、賃金はどちらが負担するのか、労働保険・社会保険はどちらで加入させるのか等)をそのまま踏襲しても原則問題ないと考えられます。

ただ、新型コロナウイルスの影響により実施されるようになった従業員シェアは、法律上は在籍出向とはいえ、会社(事業者)にとっても、従業員にとっても、少なくとも労働契約締結時点では想定していない職場への人事異動と考えられます。このため、上記で記載したような従前型(企業グループ内の人事交流など)を前提にした在籍出向理論、すなわち就業規則や労働契約上の根拠規定があれば、会社(事業者)は在籍出向を一方的に命令することができるという理論を、このまま当てはまてしまってよいのかはやや疑問が残るところです。会社(事業者)としては、可能な限り、従業員シェア(在籍出向)の対象となる従業員より個別同意を得るよう対策を講じたほうが良いと考えられます。

 

(3)従業員シェアを事業として行うことの可否

在籍出向を実施する場合、職業安定法が禁止する「労働者供給事業」に該当しないかを意識する必要があります(この問題は従前より認識されている問題点であり、従業員シェア特有の問題ではありません)。

新型コロナウイルスの影響により、雇用維持のため一時的・臨時的に従業員シェア(在籍出向)を行うというのであれば、労働者供給“事業”と指摘されることはないかと思われますが、恒常的に行う場合はもちろん、反復継続して従業員シェアを行うことが前提となっている場合は、労働者供給事業に該当し、職業安定法違反として制裁を受ける可能性があります。

したがって、従業員シェアを事業として行うことは、現行法上困難と考えざるを得ません。なお、職業安定法が禁止する労働者供給事業の例外として位置付けられているのが労働者派遣事業となります。現行法上、従業員シェアを事業として行うのであれば、労働者派遣事業の許認可をとるほかないと考えられます。

 

ところで、従業員シェアが注目を浴びるにつれ、従業員シェアをマッチングさせるプラットフォーム事業も出現しているようです。ただ、当該プラットフォーム事業は、求職者と求人者の労働契約のあっせんを行っているだけに過ぎません。

したがって、当該プラットフォーム事業を行うのであれば、職業安定法に基づく有料職業紹介業の許認可が必要なることに注意が必要です。

 

 

<2020年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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