60歳超有期雇用社員を期間満了で終了できる? 雇止め・無期転換・特別措置法の落とし穴

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ご相談

56歳になる者との間で、雇用期間を6ヶ月、特に問題が無ければ同一内容で更新することを労働条件とする有期労働契約を締結した。

なお、当社の定年は60歳であり、60歳以降は雇用確保措置として継続雇用制度を導入している。

労務管理上注意するべき事項はあるか。

 

結論

正社員に対する高年齢者雇用確保措置については、ある程度対策を講じている会社であっても、非正規(有期雇用)社員に対しては、対策が不十分又は誤解に基づく対応を行っている事例を見かけます。

注意事項は多岐にわたるのですが、本記事では、60歳を超えた非正規(有期雇用)社員を簡単に期間満了で契約を打ち切ることができない、という点につき解説を行います。

 

解説

①60歳を超えて更新しないとする特約の有効性

正社員の定年を60歳と定めている関係上、非正規(有期雇用)社員の更新上限を60歳までとする特約を定めて対応している事例を見かけます。

しかし、この特約が常に有効とは言えません

なぜなら、いわゆる雇止めの問題、すなわち契約更新を繰り返したことで実質的に無期雇用と同視される場合、60歳をもって契約を打ち切ってしまうと高年齢者雇用安定法違反(65歳までの雇用確保措置を実施していない)となってしまうからです。

どのような場合に「実質的に無期雇用」となるのかについては、労働契約法第19条の解釈になりますが、本件事例の場合、対象者が60歳になるまでに約8回前後更新していますので、実質的に無期雇用と評価される可能性は十分にあり得ます。

以上のことから、非正規(有期雇用)社員だから、定年で契約を打ち切ってよいと形式的に考えることはリスクがあります。

なお、本記事作成時点での高年齢者雇用安定法が65歳までは雇用確保措置を義務付けていることを踏まえると、更新上限を65歳までとする特約であれば、実質的に無期雇用と評価される、65歳をもって正当に契約を打ち切ることができる可能性はあると考えられます。

 

②61歳以降で無期転換権を行使してきた場合

上記①で解説を踏まえ、非正規(有期雇用)社員の更新上限を65歳までとした場合であっても、実は厄介な問題があります。

それは、無期転換権を行使された場合です(労働契約法第18条)。

本件事例の場合、対象者は61歳を過ぎた頃に通算契約期間が5年を超えることになります。そして、無期転換権を行使された場合、更新上限が適用されないため、会社は半永久的に対象者を雇用し続けなければならない事態に陥ってしまいます。これを回避するのであれば、65歳は定年であると定めた上で、更新条件を65歳までとするといった二重の対応が必要となります。

なお、無期転換権を行使した場合、現在の雇用契約が終了した日の翌日から無期雇用契約に転換することになります。このため、雇用契約の途中で65歳になり、それ以降に対象者が無期転換権を行使した場合、65歳を超えてから無期雇用となるため、定年による契約の打切りができません。この場合に備えて、第2定年制度を設けるといった対策も講じておく必要があります。

 

③有期雇用特別措置法の適用の有無

正社員につき60歳定年、65歳までの継続雇用制度を導入した場合、継続雇用制度の適用期間中に無期転換権が発生します。これを防止したいのであれば、有期雇用特別措置法に基づく手続きを行うことが現行法では求められています。

もっとも、本件事例のような、60歳前は非正規(有期雇用)社員の場合、有期雇用特別措置法の適用対象外となります。

有期雇用特別措置法に基づく手続きを行っているから、非正規(有期雇用)社員が60歳を超えて契約が継続していても無期転換権は発生しないと誤解している方が多いので注意を要します。

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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