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事業者側で労務相談を受けていると、よくある勘違いとして、次のようなものがあります。
このWEBサイトを訪問されている方におかれましては、間違って欲しくないという願いを込めて、以下記載します。
ご相談内容
従業員が何か問題行動(横領など)を起こした場合に備えて、違約金を支払うことを約束する書面を取り交わしたいが、問題はあるか。
また、問題行動を起こした従業員を辞めさせる場合、30日前の予告又は30日分の解雇予告手当を支払えば解雇可能と考えているが、そのような認識で大丈夫か。
回答
1.違約金の取り決めについて
入社時誓約書の作成依頼を受け、誓約書案を提示したところ、依頼者である事業者様より、「違約金の支払い条項を入れてほしい」と要請を受けることが結構あります。
ただ、違約金を支払う旨約束する条項を設け、それに銃御意運から了解のサインをもらったとしても、残念ながら労働基準法16条違反となり、法律上は無効です。
このため、執筆者はよく「法律上無効であることを承知の上で、違約金支払いの条項を定めるのであれは加筆しますのが、どうしましょうか」と事業者様にお尋ねしています。それでも依頼者である事業者様より明記してほしいと言われた場合、執筆者は条項それ自体は記入するのですが、注意点として
- 法律上無効なので、実際にこの条項を根拠に損害賠償することは不可能であること
- 昨今の風潮からすると、このような誓約書を会社に書かされたとしてSNS等に晒されることで、これを閲覧したSNS利用者から名指しでブラック企業等の批判を受けることになるリスクがあること(いわゆる風評被害が生じること)
を指摘するようにしています。
たしかに、法律上は無効でも、あえて明記することで従業員に対する事実上の心理的抑制を働かせるという方法はあります。
しかし、真正面から法律に違反する内容まで明記するのは、上記のような風評被害リスクもあり、執筆者個人としてはあまりお勧めしていません。
なお、念のため触れておきますが、従業員の問題行動により、会社が実際の損害を被った場合、従業員に対して実損分の損害賠償請求を行うことは当然可能です。あくまでも問題があった場合を見越して、予め違約金を約束させることがNGであるという点、区別してご理解いただければと思います。
2.解雇について
端的に申し上げると、解雇するに際し、30日前の解雇予告又は30日分の解雇予告手当の支払いを行うだけでは、「必要性は満たされるが、十分ではない」という結論となります。
なぜなら、有効な解雇を行うには、①形式的な手続き論と、②実質的な内容論、の2つ要件を充足させる必要があるからです。
今回の設問にある「30日前の解雇予告又は30日分の解雇予告手当の支払いを行う」というのは、上記①の手続き論を満たすだけです。
つまり、②の内容論=解雇するだけの正当性があるのか(簡単に言えば、解雇するくらい酷い問題行動を従業員が起こしたのか)の検討ができておらず、果たして有効な解雇とは一概に判断ができないところがあります。
そして、おそらくどこかで聞いたことがあるかと思うのですが、従業員解雇するのは非常に難しい(不当解雇であるとして争われてしまうと会社が負けてしまう)という話は、この上記②に関係するものです。残念ながら、裁判所は、事前に十分な教育指導をしたのか、再起更生の道を与えたのか等、様々なハードルを課しては会社からの解雇を簡単に認めようとしません。
この結果、あとで(元)従業員から不当解雇であると争われてしまうと非常に厄介なことになってしまうのです(最悪、復職させる必要が出てきます)。
単純に、「30日前の解雇予告又は30日分の解雇予告手当の支払い」を行えば事足りると考えるのは危険です。
弁護士 湯原伸一 |