裁判以外の手続きで回収を行う際に、回収担当者が意識したい事項を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

未払い金回収手続きを行っているのですが、裁判はどうしてもハードルが高いと感じてしまいます。裁判以外でどういった回収手段があるのでしょうか。

 

【回答】

回収手段としては、内容証明郵便の送付、商品引揚や代理図両党の任意処分、公正証書の作成などが考えられます。

ところで、裁判手続き外での回収手続きとなると一種の駆け引きが必要となります。回収手段の選択と合わせて交渉スタンス(駆け引きの仕方)についても以下の【解説】で触れておきます。

 

【解説】

1.内容証明郵便の送付

「内容証明郵便」と一般的には呼ばれていますが、正確には「配達証明付内容証明郵便」となります(相手方へ送達されたことを証明してもらうために「配達証明」を付し、相手方へ送達された内容を証明してもらうために「内容証明」を付すということになります)。

ところで、内容証明郵便にどの様な効果があるかというと、正直に言うと、法的にはほとんど効果がないと言わざるを得ません。唯一、法的な意味で効果があるとすれば、消滅時効が迫ってきたときに配達証明付内容証明郵便を送付し、相手方が受領すれば、受領日から6ヵ月間は消滅時効の完成を防止することができるという程度に過ぎません。

では、何故、世間一般で「内容証明郵便」が持てはやされているかというと、一言で言えば債権者の本気度を示している、裏を返せば債務者への強い心理的プレッシャーを与えるという事実上の効果が期待できるからです。特に、内容証明郵便の送付名義人を弁護士とすることで、より一層の本気度を示すことができるので、ビックリした債務者が任意に支払ってくれる…という事例が一定程度存在します。もし内容証明郵便の送付だけで債権回収ができたとすれば、費用も少額で済みますし、比較的簡易な手続きで済みますので、これに越したことはありません。こういった実情があることから、内容証明郵便が回収策として利用されているとイメージして頂ければと思います。

ちなみに、内容証明郵便には一定の条件があります。代表的なものとして、1枚当たりの文字数が決まっていること(横書きであれば、1行26文字以内、1枚当たり20行以内な

ど)、郵便局に同一の書面を3通出さなければならないこと、全ての郵便局で取り扱っている訳ではないこと等です。詳細は、郵便局のWEB等で確認して下さい。

ところで、配達証明付内容証明郵便で送付すると最低1,000円はかかります。そこで、内容証明まではいらないが、とにもかくにも文書を債務者が受領したか否かの確証が欲しいと考えて、ヤマト運輸のメール便や佐川急便の飛脚便などにある追跡履歴をもって証拠にしたいと考える方もいらっしゃるかもしれません。一見すると安上がりに思われるかもしれませんが、実は法的には非常に危険な考え方となります。なぜならば、本件のような「お金を支払え」という意思を示す文書は法律上「信書」として取り扱われますので、信書法に基づき、郵便のみしか送付してはダメですよと規定されているからです。つまり、請求書という文書を上記民間会社で送付することは、法律上はアウトなのです。もちろん、信書法による取り締まりがどの程度なされているのか(現実にはほとんど行われていない?)疑問もありますが、ただ、債務者より信書法違反だなんて言われることは気分が悪いですし、変に弱みを握られるのも交渉上決して良いものとはいえません。

したがって、請求通知を出すのであれば、郵便を利用した方が無難となります。

 

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2.任意処分

任意処分と抽象的に書きましたが、ここでは裁判外で利用可能な5つの回収手段を示します。

(1) 商品の引揚げ(※後述4.(3)記載の注意事項も参照)

取引先に対して「商品」を売り渡している場合であれば、自社商品の引き揚げを検討することも多いかと思います。一方で、たとえば自社がサービス業である場合は「(自社)商品」がありませんので、相手方が取り扱っている他社商品を引き揚げることで回収を図るという方法を考えたりします。

さて、商品引き揚げを行うに際し、相手方の協力はもちろん必要ですが、引き揚げを正当化する法的根拠はどうするのかという視点を持つことが重要です。相手方への協力を促すための説得材料という意味もありますが、後で文句を言われない(後日の返還要求トラブルに巻き込まれない)ことも考えておかなければならないからです。

この点、「自社商品+売買契約書あり」の場合、所有権の移転時期はいつと定められているのかチェックして下さい。もし、「代金決済時に所有権が移転する」となっているのであれば、これは所有権留保と呼ばれる状態ですので、所有権に基づき商品を引き揚げる法的根拠が存在することになります。したがって、法的根拠があることを示し相手方を納得させた上で、自社商品を引揚げることで回収を図ることが可能となります。

では、所有権留保が付いていない、又は所有権は相手方にあるという場合は対処法が無いのでしょうか。結論から申し上げると、「あり」ます。ただ、若干テクニカルになります。 例えば、代金支払いが滞っていることを理由に売買契約を解除するという法的構成を取ることで、解除に基づく原状回復請求(イメージ的には、解除→再び当方に所有権帰属→所有権に基づく返還請求です)により、未決済となっている商品の引揚げを行う法的根拠を得ることが可能となります。また、相手方との協議がまとまるのであれば、買戻しの合意(商品の再売買代金と売掛金を相殺する。なお、解除という法的構成の場合、未払い分の商品は上記のような理屈付けとなりますが、決済済みの商品はそもそも解除の対象にならない以上引き揚げることができません。したがって、買戻しという別の法的構成を検討する必要が生じます)ということも考えられるかもしれません。さらに、厳密には裁判所の手続きを介する必要がありますが、動産売買先取特権という担保権(=商品を販売した場合、実は先取特権という担保権が法律上当然に取得することになっています)に基づき、商品の返還を受けることも可能です(ただし、法的にはその後競売申立を行う必要が生じますので、裁判所の関与が出てきます)。

上記のような法的根拠を上手く組み合わせながら、相手方の納得を得た上で回収を図ることとなります。

次に、「自社商品なし(他社商品あり)」の場合、相手方の協力が絶対不可欠となってしまうのですが、代物弁済契約による回収を検討することが一案となります。よくある事例としては、相手方が在庫商品を抱えており売り先が見つかっていない、一方当方は当該在庫商品の売り先を知っている(あるいは若干たたき売りとはなってしまうが現金化できる業者を知っている)という場合、両者の利害が一致します。そこで、代物弁済契約を締結し、当該在庫商品の相手方から当方への売渡相当額(在庫商品の価値相当額)と、当方の相手方への売掛金とを相殺し、当方は現金を動かすことなく在庫商品を入手し、その在庫商品を現金化することで結果的に回収を図るということができたりします。

ただ、注意をしておかなければならいのは、このパターンの回収の場合、売掛金を全額回収することは非常に困難であるという実情があると言うことです。どういうことかと言いますと、売れ残った在庫商品ですので、通常は「相手方が現実に負担した仕入額>市場価値(在庫商品の価値)」という関係になります。相手方は当然仕入額を回収したいと考えるでしょうから、代物弁済による売買代金は仕入額に近い金額になってきますので、その分の売掛金と相殺勘定することになります。その結果、代物弁済により取得した商品を現金化したときには、「売掛金の額面>商品売却による現金」となってしまうことが非常に多いのです。このように、実質的には売掛金の額面を下回る回収しかできないことにはなりますが、モノは考えようで、「全くのゼロ回収よりはマシ」という考え方も成り立ち得ます。執筆者はよく「明日の100万より、今日の10万」なんていう例え話をするのですが、相手方の状況に応じて、少しでもキャッシュを得るという方針を採るのであれば、十分検討に値するのではないかと思います。

なお、自社商品・他社商品にかかわらず、商品引揚げによる回収方法については大きな制限が生じる場合があります。典型的には、相手方が法的倒産手続き(破産、民事再生、会社更生など)に入った場合ですが、法的倒産手続きに入らなくても詐害行為取消権という厄介な制度も存在します。これらの制度のことまで意識しながら回収を行うことは正直難しいところもありますので、回収額が大きいといった事情があるのであれば、可能な限り、弁護士などの専門家に相談し、よりリスクの少ない手段を取ることが肝要です。また、他に注意するべき事項として、後述4.(3)も参照してください。

(2) 取引先が有する債権を譲り受ける

例えば、取引先が商品の転売先に対して売掛金を持っていたとします。この売掛金を一種の売買対象物とみなし、当方と取引先との間で“この売掛金”の売買を行います。この売買代金の決済は、当方が相手方に対して有する債権との相殺で行います。

上記ではあえて“売掛金”を売買したと記載しましたが、転売先から見れば債権者(支払先の宛名)が相手方から当方に変更しています。この債権者の変更が生じる手続きを債権譲渡と呼びます。要は、当方は転売先より直接回収することで現金化を図ることができるということです。

ただ、転売先(法律上は第三債務者と呼びます)が関係してくるため、債権譲渡の手続きは非常に厳格です。したがって、債権譲渡の手続きを正確に理解しないことには安易にこの手段を用いることは危険を伴います。また、債権譲渡を行うと、結果的に当方は相手方ではなく、転売先から回収を行うことになるのですが、転売先が相手方以上に支払能力がない場合や、もともとの相手方と転売先と取引に何らかの不具合があり、転売先がその不具合を理由に支払いを拒絶するという場合もあったりします。したがって、債権譲渡による回収手段は、転売先(第三債務者)が確実に支払ってくれることが予め分かっていることが大前提となります。

(3)代理受領・立会受領・振り込み指定

これは非常に単純な話で、上記(2)で示した例を踏まえた場合、転売先が相手方に対して代金を支払うに際し、相手方が転売先に要請して、当方が管理している金融機関口座等に支払ってもらうということです。要は、転売先からのお金を当方がいったん預かることになるのですが、預かったお金を相手方に返金する債務と当方が相手方に有する債権とを相殺することで、債権回収を図るという手段となります。

債権譲渡は転売先から見た債権者(支払先の宛名)が変更となりますが、代理受領等の場合は債権者(支払先の宛名)の変更はありません。表面上は相手方が管理しているかのようにみえる(実際には当方が管理している)金融機関口座等への送金先の変更にとどまります。このため、転売先(第三債務者)を巻き込むことが少ないため、債権譲渡よりは簡易に行いやすいという特徴があります。

(4) 三角相殺(三者間で行う債権譲渡+相殺の組み合わせ)

例えば、①当方は相手方に債権を持っている、②相手方は当方子会社に債権を持っている、という場面があったとします。形式的にはそれぞれ当事者が異なっている以上、相殺することはできません。ただ、当方側の事情、すなわちグループ全体から見れば、一方で当方子会社は真面目に支払いつつ、他方では当方親会社は回収に困難を極めるということも有り得るため、一括で処理を行いたいというニーズが出てきます。

そこで、三当事者間で協議し、例えば当方が相手方に有する債権を当方子会社に債権譲渡し、当方子会社と相手方が相殺を行うという形で決済処理を行うというのが三角相殺という手法となります。当然のことながら、当方と当方子会社との間で何らの対価関係ある取引を行わないことには、当方は損失を被ることになります。ただ、グループ全体で見た場合は損失を回避できたという意味でのメリットがありますので、この三角相殺という手段が用いられたりします。

(5) 新規・追加担保取得交渉(約束手形の取得など)

これは文字通り、相手方より新たな担保を提供してもらうということです。ただ、担保となりそうなものは既に金融機関を含むほかの債権者に抑えられていることが多いのが通常だと思われます。そこで、少しでもプレッシャーをかける意味で、相手方名義の約束手形を発行させたりすることが一昔前までは行われていました。ただ、最近では約束手形を使うこと自体が減少傾向ですので、回収手段としての有用性はなくなりつつあるように思われます。

3.公正証書

「公正証書」という言葉については聞いたことがあるものの、今一つ使い方が分からないという方もいらっしゃるかもしれません。

まず、少なくとも金銭の支払い関係で公正証書を作成しなければならない義務はありません(例外として公正証書が必要となるのは、事業用定期借地契約や2020年4月1日に施行される改正民法での保証意思確認などです)。では、公正証書を作成するメリットは何でしょうか。これは公正証書の中に、強制執行受諾文言と呼ばれるものを入れておくことで、裁判等の手続きを経ることなく、いきなり強制執行ができるという点にあります。つまり、債権者にとっては都合よく回収手続きを進めることができるのに対し、債務者にとっては何らのメリットが無いと言っても過言ではありません。裁判手続きを経て強制執行手続きを行う場合、どんなに急いでも最低2カ月はかかるのが実情です。ブランクを開けることなく、直ぐに強制執行手続きを行いたいというのであれば、公正証書を作成しておいた方が無難です。

ところで、公正証書は公証役場で作成するものであるということは理解していても、時々

公証役場が提供している「確定日付」サービスと誤解をされている方もいます。これは、文書(一般的な契約書や合意書など)作成日について公証人が証明を行ってくれるというサービスです。タイムスタンプのようなものですが、これを利用するか否かも任意であり義務ではありません。そして、あくまでも文書作成日の証明にすぎず、公証人が関与して作成された公正証書にはなりえません。したがって、確定日付を押印してもらったからといって公正証書と同じ取り扱いを行うことができないこと、注意が必要です。

さて、公正証書を作成するに際しては、原則的に債務者本人(連帯保証人がいるのであれば連帯保証人本人)と一緒に公証役場を訪問しなければなりません。つまり債権者と債務者の両方が公証役場に行かないことには作成しようがないことになります。では、債務者本人が忙しくて、あるいは遠方で公証役場を訪問することができない場合はどうするかですが、債務者に委任状を発行してもらうことで対処することが可能となっています。しかし、この「委任状」が非常に厳密なものであり、かなり神経を使って作成しないことには全く役に立たない委任状になってしまいかねません。例えば、単純な「公正証書を作成する権限を委ねます」といったものではNGとなります。

端的に言うのであればポイントは3点となります。すなわち、①委任状には自署と実印が必要、②委任状と共に印鑑証明書(3ヵ月以内)が必要、③委任状の内容は「公正証書作成の件」といった抽象的なものでは無く、一字一句の契約内容の文言を記載した委任状が必要、となります。なお、債務者が法人の場合は3ヵ月以内の商業登記簿謄本(又は資格証明書)が必要となります。強制執行受諾文言付公正証書を作成できれば、債権者にとっては非常に強力な武器を持ち合わせることになります。ただ、公正証書を作成するにはかなり手間と労力、そして何より債務者の協力がないことには作成しようがありません。したがって、現場実務では利用しづらいというのが実情のように思います。

4.交渉スタンス(駆け引き)

(1)債権回収は心理戦

あくまでも執筆者個人の見解に過ぎないのですが、債権回収は心理戦のようなところがあるかと考えています。すなわち、いくら法律上の手続きを踏んだところで、債務者に返済する意思がないことには回収は難しいのが実情です。したがって、いかにして債務者に支払う動機を生じさせるのか(支払ったほうがメリットが大きいと考えさせるのか)が債権回収の現場では重要になってくると思います。

例えば、資金繰りに窮した取引先(債務者)は何を考えるのか、を想像してみてください。資金繰りに窮した取引先は、あえて債権者について優先順位を付けます。これは生き残るためには何が必要か、例えば取引先(債務者)が物販業であれば仕入れ先からの商品供給がストップされてしまうとたちまち商売ができなくなってしまうため、他の債権者に対して優先して仕入れ先に支払う動機が生じます。この動機づけの方法として、日夜問わず追い込みをかけるといった債務者の恐怖心を煽る方法をとるのか、一見すると債務者を助けているように見せかけるのか等、いろいろな作戦があり使い分けることが重要です。

なお、取引先との面談に際しての心構えとして、取引先が商品・サービスの受領自体を否定しているのか、単に手元不如意といっているのか、意識しながらヒアリングした方が良いでしょう。なぜなら、前者の場合、一応は理屈上支払い拒絶の理由になりうるため、当方で問題がなかったことの証明などの作業が増えてしまうからです。また、残念ながら後付けで前者のような方便を主張して時間を稼ごうとする取引先(債務者)も一定程度存在します。鉄は熱いうちに打て…ではないですが、後者の場合であれば、追い込みをかける前に「商品・サービスに問題なし」という言質を取る(証拠化する)ことを意識したほうが良いですし、この点を意識しただけでも、回収のスピードが全く異なってきます。

(2)契約書(証拠)の有無と交渉スタンス

契約書があれば、通常は証拠があるのでガンガン攻め立てたいところなのです。しかし、例えば、取引先が信用不安を起こしているとはいえ、支払期限が到来していないというのであれば、取引先は合法的に支払いを拒絶することができます(こういった場合に備えて、期限の利益喪失条項を設ける意義があります)。また、契約書が存在するものの、署名押印欄の記載が不十分、あるいは代表者名義のサインではないといった場合、果たして契約として有効に成立しているのか疑義が生じる場合もあります。

こういった点を考慮することなく回収手続きに入っても、取引先より思わぬ反論を受けいきなり躓くことになります。そして、こういったことがあると、取引先としても「与しやすい債権者」であるとして、どうしても優先して支払わなければならないという動機を持ちづらくなってしまいます。したがって、契約書があったとしても、念には念を押して契約書の内容を確認する、万一上記のような反論が出てきた場合はどう切り返すのかシミュレーションしても損はありません。なお、契約書の内容チェック以前の問題として、例えば、

そもそも商品を引渡していないということはないか、商品に不具合等があるといってこないかについても事前検証が必要となります。

一方、契約書等の確たる証拠がない場合、足りない証拠についてどうやって相手方より言質をとるのか(自白を証拠化するか)など戦略を練って回収手続きを進める必要があります。戦略を練るに際してあらかじめ準備しておきたい1つの事項として、「取引があれば、通常発行される書面」を収集すること、例えば取引先より提出された書面や電子メール等を探す、取引に関係する第三者発行の書面等(運送伝票など)を探すことは是非行うべきです。こういった書類等があるかないかでは、取引先に対する説得度が異なってきますし、何より事前に準備することで取引先に対してプレッシャーを与えることができます。取引先にプレッシャーを与えることで優先支払いの動機が生じれば、たとえ確たる証拠がなくてもスムーズな債権回収に進むことになります(もちろん、この場合は債務確認書等の後付けの証拠を取れないか検討するべきです)。

(3)取引先が支払い猶予(先延ばし)、一部免除等を要請してきた場合

取引先が支払猶予や手形ジャンプ等の要請を行ってきた場合、応じるか否かは当方の裁量です。したがって、当方が相対的に有利な立場になることから、取引先に対してガンガンプレッシャーを与える…というのも1つの作戦となりますが、一辺倒になるのも考えものです。あくまでも債権回収をすることが目的ですので、取引際の要請に応じてもの良いのか、これを機会に情報収集を行うということも忘れずに行いたいところです。例えば、次のような情報です。

  • 資金繰り悪化の主な原因の追及(過剰在庫、過大な設備投資、本業以外の投資、売上不振、業界の構造的不況、貸倒金の発生、経営者の経営判断の失敗など)
  • 資金繰りの状況(一時的な資金ショートなのかなど)
  • 他の債権者への接触状況(他の債権者への猶予要請の有無、猶予要請に対する他の債権者の承諾の有無、他の債権者へ申し入れていない場合、何故当社に行ったのか理由など)

なお、相対的に有利になるからといって、過剰な要求を行ってしまうことで、取引先を潰したり、意固地にさせてしまって感情的に支払いを拒絶するようになってしまった債権回収という目的を達成することができません。あくまでも「支払い猶予に応じるか否かの判断材料を提供してもらう」点において、相対的に有利な立場に置かれるだけに過ぎないことを肝に銘じておくべきかと思います。

(4)犯罪行為に注意

債権回収を行うこと、それ自体は当然法律上正当な行為です。ただ、債権回収を行うという目的が正当であっても、何でもやってよいという訳ではありません。例えば、取引先の社長と連絡が取れないからといって、社長の個人宅に押し掛け、無理やり建物内に入ってしまうと、これは犯罪と言わざるを得ません。そして、犯罪行為となってしまうこと、今度は回収する側が弱みを握られてしまい(刑事事件として穏便に済ませたいという動機を見透かされてしまう)、不本意な形でしか回収ができないという事態も招きかねません。どこまで強硬策を取ってよいかという点については十分に注意を払ってください。

ところで、上記2.(1)で、取引先の協力が得られる場合の債権回収手段として「商品の引き揚げ」という手法をご紹介しました。この手法を紹介すると誤解をされる方が一定数いるのですが、所有権が当方にあったとしても、実際に商品を占有しているのは取引先となります。刑法はこの現実の占有関係を重視して、占有者である取引先の意思に反して占有物である商品を持ち出した場合、窃盗として処断します。このような考え方は不思議に思われるかもしれませんが、これが法律というほかありません。上記2.(1)先ほどご紹介した商品の引き揚げという手法は「取引先の協力=同意があること」を前提にしていること、ご注意ください。

 

【参考動画】民法改正 個人保証を取る場合のポイント

2020年4月1日に改正民法が施行されます。
実務上影響の大きい、個人保証を取る場合の注意点について債権者の視点で、フローチャートを用いて分かりやすくポイントを解説します。

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

債権回収についてのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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