売上金の回収手続きの際、回収担当者が事前準備したい事項を弁護士が解説!

【ご相談内容】

取引先が支払い期日を過ぎても商品代金を支払ってくれません。債権回収手続きを進めようと考えているのですが、どのような事項に注意しながら方針を組み立てていけばよいのでしょうか。

 

【回答】

まず事前準備として、証拠はそろっているのか、消滅時効の問題はクリアーできるのかを確認する必要があります。その上で、取引先に連絡を取り、取引先と協議ができるようであれば協議を行いつつ回収を目指す、連絡が取れない・協議できる状態ではない場合であれば速やかに法的手続きに移行して回収を図る、という方針をとることが無難ではないかと考えられます。

 

【解説】

1.債権の存在を証明する証拠を確保する

当然のことながら、債権が発生していることを裏付ける証拠については、取引先の署名・押印のある契約書があればベストであることは間違いありません。ただ、口約束で取引を行う場合も現実にありますし、契約書を締結したくても取引先が応じてくれないという実情もあり得ます。では、契約書がない場合、債権回収は諦めざるを得ないのでしょうか。

まず大前提の知識ですが、債権が発生するための条件として契約書の有無は関係がありません(保証など一部例外はあります)。そして、契約書がないのであれば、①契約関係を裏付ける他の資料がないのか探す、②証拠がないのであれば新たに作出する、この2つの方向で検討を行えばよいことになります。

この点、①についてですが、例えば、売買取引で当方が売り主の場合、次のような書面がないでしょうか。

  • 取引先発行の見積もり依頼書
  • 取引先発行の発注書
  • 運送会社発行の運送伝票
  • 取引先発行の受領書
  • 取引先発行の検収書

こういった取引開始にまで至るプロセス上発行されている書面を組み合わせて、契約関係があると裏付けることが可能です。また、売買価格についても、過去に同種の商品の取引を行ったことがあるというのであれば、その際の取引を裏付ける書面と相手方からの支払い額を裏付ける資料(銀行の入金履歴等)を準備すれば、ある程度裏付け可能となります。

次に、②についてですが、端的に言えば未払いであることを確認する書面の作成や言質を取ることがポイントとなります。詳細については別稿で記載します。

2.消滅時効に注意する

(1)消滅時効期間が経過している場合の対応

本来支払ってもらうべき「お金」であるにもかかわらず、消滅時効制度はその支払い義務を無くしてしまう劇的な制度といえます。したがって、この劇的な制度を適用させないためにも、債権者は「債権管理」が必須業務となるのですが、消滅時効の期間が経過している場合、対応策は非常に限定されてしまいます。

端的には、債務者が消滅時効の成立を主張(援用)する前に、債務者に未払いであることを認めてもらうことが唯一の対応策となります。具体的には「債務承認」と呼ばれるものですが、これは支払いを待ってほしいといった言質を取ることも有効ですし、支払い方法に関する書面を取り付けるという方法もあります。さらには、少額でもいいので一部の支払いをしてもらうという方法もあります。あえて誤解を恐れずに指摘するとすれば、消滅時効が成立していることについて債務者に気が付かれる前に、先手を打つ、その証拠を残すというのが債権回収担当者の腕の見せ所と言ってしまってもよいかもしれません。

なお、ご参考までに現時点での主だった消滅時効期間を掲載しておきます(2020年4月1日以降に発生する債権については改正民法により消滅時効期間は原則一律5年となります)。

債権の性質(内容) 消滅時効の期間
<原則>
商取引上の債権(債務不履行に基づく損害賠償債権を含む)
5年
<例外1>売掛金 2年
<例外2>工事請負代金 3年
<例外3>宿泊代金・飲食代金 1年

(2)消滅時効期間の経過が直前に迫っている場合の対応

一番大きな対策としては、消滅時効の進行をストップさせること(時効の進行を振り出しに戻すこと)になります。この消滅時効の進行をストップさせる対応を「更新(改正民法上の用語。なお、従来は「中断」と呼んでいました)」というのですが、この更新(中断)を行うことを目的とした債権管理業務の代表例は、「訴訟提起」と「債務承認」となります。

この点、「訴訟提起」は読んで字の如くですが、裁判手続きになれていない方からすれば非常にハードルが高い業務かもしれません。一方、「債務承認」は、「債務があることは分かっている」「今は支払えないが、近日中に支払うので待って欲しい」という内容の書面を書いてもらうこともOKですし、「一部の支払いをしてもらう」ことでも債務承認となります。このため、債権管理業務の主たるものは債務者より債務承認の書面その他証拠を入手することとなります。

ところで、時効の更新(中断)を行う目的として「内容証明郵便(厳密には配達証明付内容証明郵便)」の手続があるのでは、という問い合わせを受けることがあります。まず、一般論として、内容証明郵便を送付する手続自体は、弁護士も利用する制度ですので、有効打であることは間違いありません。しかし、時効の更新(中断)という観点からみた場合、決定打ではないことに十分注意する必要があります。つまり…、

  • 配達証明付内容証明郵便を送付しただけでは「時効の更新(中断)」とはならないこと。
  • 配達証明付内容証明郵便を債務者が受領しないことには、何らの効果が得られないこと。

という注意事項があります。

1つ目については、内容証明郵便を発送してから6ヵ月以内に訴訟提起などの「次のアクション」を取る必要があること、裏を返せば、消滅時効の完成期間を最大6ヵ月猶予させる効果を有するに過ぎないことに注意が必要です。2つ目については、債権回収を行うにも連絡が取れない場合に問題となるのですが、配達証明付内容証明郵便を出したものの、宛名違いや不在(保管期間満了)で届かずに戻ってくる場合があります。こうなると、6ヵ月間の猶予という効果さえ得られなくなりますので注意が必要です。

結局のところ、内容証明郵便の目的は、最大6ヵ月間の時効完成猶予という法的効果と債権者の本気度を示すという事実上の効果に過ぎないことに留意する必要があります。

(3)特約で消滅時効の期間を延長することが可能か

結論から言うと、たとえ双方当事者が納得了解し契約書を交わしたとしても、消滅時効の期間を法律以上に延長することは無効です。ただし、民法改正により1年間だけ、当事者の書面による合意により時効の完成を延長(猶予)させる制度が創設されます。この制度では最大1年に限って消滅時効の完成が猶予されるだけにすぎないこと、注意が必要です。

ところで、上記に記載した通り、時効完成猶予の合意制度が新民法で設けられるため、今後はあまり意味を持たない可能性が出てきますが、従前までどういった対策を講じていたのかご参考までに記載しておきます。

例えば、売掛金の消滅時効は2年間とされています。したがって、債務承認の書面を徴収しても再び2年経過すれば再度消滅時効の危機にさらされることになります。そこで、もっと時効期間を延長できないかと考えるのですが、最初に記載した通り、単に当事者間で時効期間を10年とすると定めても、それは法的に無効ですので無意味です。

もっとも、合法的に5年間に延長させる方法はあります。それは、準消費貸借という形式に変換してしまうことです。要は、書面を徴収する際に、売掛金というものを、あたかも金銭の貸し借りに見立て、借りたお金として返還する旨合意するという手法が民法588条で認められています。そして、この様な合意(これを準消費貸借といいます)が成立すれば、法律上は貸金債権として取り扱われますので、その結果、商取引の一般債権の消滅時効期間である5年間として取り扱われます。本当に債権者有利で進めることができるのであれば、準消費貸借という形式も検討して良いかと思います。

3.回収方針を決める

(1)最初に行うべき措置

債権回収を行う場合、支払いを怠っている取引先に対してどういったアプローチをとるのか色々やり方があると考えられます。このため、これが唯一の正解という訳ではないことを予めお断りしつつ、執筆者の場合、まずは「取引先と連絡が取れるのか確認する」という作業を行います。

ちなみに、弁護士の中には、直ぐにでも訴訟提起を行うという方針をとる方もいるようですが、私個人としてはお勧めしません。いろいろ理由はあるのですが、訴訟は、裁判所に提出した訴状等の書類が取引先に送達されない限り開始しない、つまり連絡が取れない場合は裁判のスタート地点にさえ立てないからです。一方で、取引先と連絡が取れ話ができた場合、裁判以外の回収方法も選択肢として出てきます。当然のことながら、選択肢が多いほど回収可能性は高まります。こういったことを考慮すると、まずは取引先と話ができる状態なのかを優先したほうがよいと思います。

一方、取引先と連絡が取れるかにつき調査を行うことと同時並行して社内で行うべき準備があります。それは、自社が保有する債権の存在について証拠十分と言えるのかという点と、回収に使えそうな手段の確認を行うという点です。具体的には次のようなものがあります。

  • 債権債務残高および契約残高の確認(契約書、注文書・注文請書、手形、出荷伝票、納品書、請求書等)
  • 取得担保権の確認(留置権などの法定担保物権の有無、担保権設定契約書、登記済権利証、不動産・商業登記簿謄本等)
  • 担保物件の所在地、価値、現況等の確認
  • 売上商品の所在地および転売先の確認(動産売買先取特権)
  • 自社の関係会社の取引先に対する債権債務残高の確認(三角相殺)
  • 連帯保証人の有無(なお、連帯保証契約書がない限りは連帯保証人に請求することは不可。つまり口約束はダメです)

次に、これはどこまで行うかはケースバイケースですが、大型の債権回収の場合、「他の債権者の動向(取引金融機関、仕入先、販売先の対応等)」、「第三者からの情報収集(自社他部門からの情報、同業他社の風評、信用調査機関の速報等)」、「利害関係人の意向(取引先の親会社・関係会社による救済の有無等)」などの情報収集を行うこともあります。

さて、話を戻しますが、連絡を取ってみたものの確認が取れない場合は後述(2)へ、確認が取れた場合は後述(3)を参照してください。

(2)確認が取れない場合

連絡を行ったものの確認が取れない場合、即座に取引先が稼働しているのか現地調査を行うべきです。そして、現地調査の結果、取引先は通常どおり稼働しているとなると、確認が取れない=これまでの交渉担当者、経理担当者や役員、社長などのキーパーソンと話ができないという状態に過ぎず、要は当方との接触を逃げていると考えたほうがよさそうです。この場合は、連絡が取れるまで時間をかけても仕方がありませんので、速やかに訴訟提起を行う、つまり取引先を当方の目前に引っ張り出すという対応を行った方が結果的に早期回収につながるように思います。

一方、現地調査の結果、取引先が稼働していないことが判明した場合、下手に動いて費用をかけるよりは、現時点での回収は保留する(税務処理がうまくできるよう対処する)と気持ちを切り替えたほうが良いというのが正直なところではないかと考えられます。

(3)確認が取れた場合

連絡を行ったところ取引先の応答があった場合、一般的には「なぜ支払いが遅れているのか」という言い訳を取引先は行ってくるかと思います。この言い訳を踏まえて、取引先と支払い協議を行うことにはなるのですが、漫然と言い訳を聞くだけではダメですし、また「いつ支払ってくれるのか」という支払約束だけを行うのも不十分です。債権回収の実効性を上げるための与信管理という視点を持ち合わせるのであれば、意識的に

  • 資金繰り悪化の主な原因の追及(過剰在庫、過大な設備投資、本業以外の投資、売上不振、業界の構造的不況、貸倒金の発生、経営者の経営判断の失敗など)
  • 資金繰りの状況(一時的な資金ショートなのかなど)
  • 他の債権者への接触状況(他の債権者への猶予要請の有無、猶予要請に対する他の債権者の承諾の有無、他の債権者へ申し入れていない場合、何故当社に行ったのか理由など)

の事情を聞き出すことがポイントとなります。

なお、上記全ての情報を収集することは難しいかと思いますが、最低限「他の債権者への接触状況」は聞き出したいところです。例えば、金融機関が回収に動いているというのであれば、おそらくはスピードでも効率性でも金融機関が上手であり、取引先も倒産寸前状態と言えますので一部だけでも回収をするといった方針転換を検討する必要があるからです。一方、当方のみ支払延期を要請しているのであれば、「当方を下に見ている(支払優先度が低いと取引先は考えている)」ということになります。この場合、取引先に対して、当方へ優先的に支払わなければ取引先自身が困るといったプレッシャーを与えながらの交渉を検討することになります。

ところで、連絡確認はとれたものの、逆切れする(不合理な弁解に終始する)、当方が売り渡した商品に不適合(瑕疵)があると強弁して支払いを拒絶するという反応ももちろん想定されます。この場合、取引先の話を聞きつつも説得しながら交渉するという方法もありますが、取引先の態度が変わらないようであれば見切りをつけて、訴訟等の法的手続きに移行させたほうが結果的には早期回収につながるのではないかと考えられます。なお、あくまでも執筆者の主観にすぎませんが、交渉が長引けば長引くほど回収可能性は低くなるという肌感覚を持ちあわせています。したがって、交渉打ち切りのタイミングの方が重要であると共に、交渉を打ち切った後の素早い対策がポイントになると考えます。

(4)取引先との協議内容を秘密録音することは問題があるのか?

色々な考え方があるかと思いますが、執筆者は、積極的に録音することを推奨しています。理由は単純で「言った言わない論争を防止する」ためです。

ところで、盗聴と言われたらどうしよう…という心配があるかもしれませんが、気にすることはありません。盗聴とは、当方に対して開示されていない会話内容を聞き取った場合です。取引先と面談協議している内容は、まさしく当方に開示されている会話内容である以上、盗聴には該当しようがありません。また、刑事裁判と異なり、民事裁判の場合であれば、たとえ隠し録音であったとしても、よほどのことがない限り問題なく証拠として用いることができます。

(5)取引先と合意書面を作成する場合の注意点

取引先(債務者)が真摯に対応し、書面にサインすることを厭わないというのであれば、やはり当方(債権者)にとって都合の良い内容に合意書を取り交わしたいところです。ここで都合の良い内容とは、例えば次のようなものです

  • 債務の発生原因(いつ、どういった契約を原因として)と金額(元金及び利息)を承認する文言
  • 売買であれば、商品が引渡し済みでありかつ瑕疵・不具合が無かったことを確認する文言(請負であれば、仕事の完成と納品、納品踏みの完成物に不具合がないことを確認する文言などが考えられます)
  • 具体的な支払い方法(支払期限など)を確認する文言
  • 一定条件を充足した場合(2回以上の支払い遅滞など)、期限の利益が喪失することを認める文言
  • 遅延損害金が発生することを承認する文言
  • 担保として連帯保証人をつける文言

上記のような事項をすべて記載した書面にサインをもらうことは意外と大変なことです。これは文面が長ければ長いほど心理的抵抗が大きくなり、いくら協力的な取引先(債務者)といえでも考え方を変えてしまう可能性があるからです。一方で、取引先(債務者)も未払いになっていること自体は理解しているので、特に未払いを起こした早い段階では当方(債権者)に対して申し訳ないという気持ちを持っているのが通常です。

このような債務者の心理状態を踏まえると、「債務の発生原因と未払い金額を確認する」ことだけを記載した書面については、意外とあっさりサインをすることが多いです。こういった簡易な書面であっても、いざという場合(訴訟などの法的手続き)は非常に有効な証拠となります。特に証拠が不十分である場合はあまり欲張らず、このような簡易な書面だけでも取得すれば大きなアドバンテージになるので、ぜひ実践してほしいところです。

4.債権回収のトラブル前(平常時)に対策しておきたい事項

(1)契約書を締結する場合

売買取引を開始するに当たり、売買契約書を締結するというのであれば、是非以下の9点について契約内容に盛り込まれているのか、売主の立場としては是非ともチェックしてほしい事項となります。

a)所有権留保条項はあるか?

所有権留保とは、商品代金全額を支払うまでは所有権は買主に移転しない(売主に留保したまま)ことを定めた条項のことを言います。例えば自動車をローンで購入したときに車検証を見ていただければイメージがつきやすいかと思うのですが、「所有者」欄にはディーラー名が記載され、「使用者」欄には購入者の名前が記載されています。これは所有権留保が行われている状態となります。

ところで、所有権留保条項がなぜ売上の回収に役立つのでしょうか?

取引先からの債権回収が期待できない場合、せめて未払い分の商品を引き上げることで損失拡大を防止したいと考えた場合、所有権留保条項があること、すなわち当方に所有権があるという法的根拠になりますので、目的達成に欠かせないものとなります。この点だけでも非常に効力を発揮するのですが、所有権留保条項が生きてくる場面は、次のような場面です。それは、所有権を持つ売主に「商品を返せ!」と言われてしまったら買主は困ってしまう(事業ができなくなってしまう)、つまり心理的なプレッシャーを与えることができますので、その分、買主としては他の債権者より優先的に支払おうとする動機となりえます。要は、資金繰りが苦しくなった場合、買主としては、多々ある債権者の中から(勝手に)優先順位を決めて支払いを行うことになるのですが、その優先順位を引き上げる事実上の効果をもたらすのです。債権回収のコツは心理戦なんて言われたりしますが、この心理的効果を狙ったのが所有権留保条項となります。

なお、若干専門的な分野となりますが、所有権留保条項を設けることで、買主が法的な倒産手続きに入った場合、別除権という形で商品を取り返すことができる場合があること(損失拡大を防止できること)、第三者が商品に対して強制執行手続きを行った場合に異議申立を行うことで、第三者に商品を持って行かれないようにすること等の法的な効果も期待できます。

b)期限の利益喪失条項はあるか?

まず、ここでいう「期限の利益」の意味について確認します。例えば、支払いは1ヵ月後という約束で商品が引き渡された場合、売主は売掛金を、買主は商品を取得します。つまり、商品引渡と同時に商品代金を支払わなくても良いという意味で、買主は「メリット(=利益)」を得ています。このことを「期限の利益」といいます。裏を返せば、売主は支払期限を待つ=後払いを認めるという意味で与信していることになるのですが、買主が信用不安を起こした場合、いち早く回収に走りたいというのが売主の心情です。

しかし、法律上、「期限の利益」がある場合、買主より「いや、支払期限は×月×日だから支払うことはできない」と言われてしまった場合、売主としては法律上の対抗策を取ることができない状況に追い込まれてしまいます(つまり我先にと追い込みをかける他の債権者の動きを、支払期限が来るまで指をくわえて待つ…ということになります)。これでは売主としては困りますので、買主の期限の利益を剥奪する条項を設けることで、動きを取れるようにする必要があります。これを実現するのが、期限の利益喪失条項です。

例えば、監督官庁より営業停止処分を受けた場合とか、1回目の不渡り処分を出した場合とか、差押えを受けた場合など、買主が信用不安を起こしたと見ることができる事由を具体的に列挙し、当該事由に該当した場合は期限の利益を喪失する旨定めることになります。 債権回収はスピードが大事と言われますが、このスピードを実現することで売上の回収を図ることを目的とする条項となります。

c)契約解除条項はあるか?

例えば、買主が特別な契約違反を起こしたわけではない、しかし信用不安を起こしており、このまま商品を売り渡しても実際に支払ってくれるか分からない…という場面があったとします。この場合、契約解除条項が無いことには、売主は、不安を感じながらも商品を売り渡さなければならない法的義務を負います。が、もしその不安が的中したのであれば、悔やんでも悔やみきれないことだってあり得ます。

そこで、契約違反(法律上は債務不履行といいます)があるわけではないが、某事由に該当する場合には契約を解除することができる旨定めておく必要があり、それを実現するのが契約解除条項となります。ちなみに、契約解除条項は上記「b)期限の利益喪失条項」と重複することが多い、つまり信用不安と見ることができる事由を具体的に列挙することが一般的です。

契約解除条項は、主として将来的な損失拡大を防止するという側面が強いのですが、将来的な取引停止を持ち出すという事実上の武器を手に入れることで、買主に対する支払いへの心理的圧力をかける効果もあります。すなわち、商品を取得できない買主は、事業を継続することが困難である以上、何としてでも商品を取得したいと考えることが通常ですので、契約を解除されないよう、他の債権者に優先して支払いを行ってくることが期待できる場合もあり得るのです。したがって、売上の回収を実現するための心理的効果を狙う観点から、契約解除条項を定めておく意義があります。

d)相殺予約条項はあるか?

相殺については、お互い債権債務を持っている場合に差し引きしましょう…ということで日常的に用いられているかと思いますが、「相殺予約」となると意味が分からなくなるかもしれません。例えば、売主が買主に対して、たまたまお願いしていたことがあり7月末に支払わなければならないとします。一方で、売主は買主に対し、8月末が支払期限となる売掛金を持っていたとします。さて、今般、7月中旬の段階で買主が信用不安を起こした場合、このままでは、売主は7月末支払い分と8月末売掛金とを相殺することができません。つまり、支払うだけ支払って、後で回収できずに泣き寝入り…という最悪の事態も想定されるのです。この様な事態を回避するために、お互いが債権債務を有することになった場合には、支払期限到来の有無を問わず、相殺が出来る旨の約定を設けておきます。

つまり、懐を痛めることなく、売上金の回収を実現する手段を確保するために、相殺予約条項は役立つことになります。

なお、相殺を実現するための一番のネックは「期限の利益」を相手方に付与していることですので、「b)期限の利益喪失条項」を設けることで、相殺予約の条項をあえて規定しなくてもある程度は実現可能です。ただ、期限の利益喪失条項以外の事由であっても、極論すれば特段の問題がない場合であっても、相殺勘定にすることで支払いの利便性を図る(結果的に売上の回収を実現できる)ことができますので、設ける必要性はなお高いと考えていただければと思います。

e)債権譲渡禁止条項はあるか?

これは上記「d)相殺予約条項」と深い関係がある条項となります。

相殺とは「お互いに債権債務がある状態」であることが大前提となります。しかし、買主が売主に有する債権を第三者に譲渡してしまった場合、売主と買主双方において債権債務がある状態ではなくなってしまいます。つまり、相殺が出来ない状態となってしまうのです。

要は、売上金の回収方法として、自分の懐を痛めない形をとるために相殺予約を用いるのですが、その実効性を担保することを目的として、債権譲渡禁止条項を設ける意義があるということになります。

f)担保提供義務条項はあるか?

この条項は読んで字の如くであり、ある事由が生じた場合には担保を提供するよう要求できる条項となります。ところで、この条項それ自体は実はあまり実効性はありません。というのも、この条項を発動するのは、たいてい買主が信用不安となったときなのですが、信用不安に陥っている以上、提供できるような担保はありません(主要な財産は銀行が押さえています)。また、買主が拒否すれば、それ以上は法的に追及しようがない(何か適当な担保をよこせ!と裁判することができない)からです。

では、何のために設けるかといいますと、実は「b)期限の利益喪失条項」を補完するためです。すなわち、期限の利益が喪失する場合は、民法137条というところに一応規定があります。民法137条の規定だけでは、とてもじゃありませんが売上の回収に役立たないため「b)期限の利益喪失条項」を設ける必要性があります。ただ、民法137条は「担保提供義務があるのに、しない場合は期限の利益を喪失する」と規定されていますので、この条項を入れておくことで、万一、期限の利益喪失条項で対応策をとれない場合であっても、担保提供義務違反=民法137条違反で期限の利益喪失という効果を得ることができるのです。

したがって、この条項も、スピードが大事と言われる債権回収の場面において役立つことになります。

g)損害賠償額の予定・違約金条項はあるか?

これは裁判実務に接しないと気が付かない問題かもしれません。買主に対して何かを請求したい場合、理論的に考えていくと、①売掛金などの請求権の発生根拠があるか、②発生するとして具体的な金額はいくらか、の2つの問題を検討する必要があります。

通常の売買取引であれば、商品代金が定まっていますので、①②の問題は意識されることなくクリアーできることが多いです。しかし、例えば、売買契約とは言いつつも請負的な要素が含まれる製作物供給契約などの場面において、仕掛かり(製作途中)状態で契約解消となった場合、成果物に対する報酬(売上)はいくらかという算定が、注文主と請負主とで意見が割れてしまう場合があり、請求したくても具体的な請求額が分からないため、請求することが難しいという場面に遭遇したりします。この様な場面に備えて、どこどこの工程まで業務したにもかかわらず契約解消となった場合には違約金として××円支払うという条項を設けておくと、上記②の問題を容易にクリアーすることができ、早期の売上回収を実現することが可能です。

つまり、この条項は、売上を回収するに際してハードルとなる、②具体的な金額はいくらかという問題をクリアーすることを実現する条項となります。

h)連帯保証人条項はあるか?

連帯保証については批判もあるところですが、やはり債権回収の場面を考えれば、効果的な条項であることは否定できません。要は、法人のみならず、社長などの個人や第三者を連帯保証人として担保に取ることで、「逃げることはできない」という心理的効果を付与することで、売上回収の実効性を図る目的で、当該条項を設けることになります。

なお、2020年4月1日以降に連帯保証契約を締結する場合、改正民法が適用されます。書面による契約が必要であることに加え、公証人面前での保証意思が原則必要となること、主債務者の財産に関する情報提供義務が課せられること、極度額の定めが必要となること等の要件が新たに加重されます。連帯保証契約を締結する場合、民法改正を踏まえた対策を講じる必要があります。

i)合意管轄条項は必要か?

これも裁判実務を経験しないことには気が付かない問題なのかもしれません。たいていの契約書では、一番後ろの当たりに「紛争が生じた場合には××裁判所を管轄の裁判所とする」という条項が設けられています。さて、何らかの事由により、いざ売上を回収するために訴訟を行うぞ!となった場合、遠方の××裁判所にしか訴訟提起ができないとなると、出廷するまでの交通費等の経費や時間を食ってしまうこととなり、事実上、訴訟という回収手段を断念せざるを得ない場合が想定されます。

したがって、合意管轄条項を設けるのであれば、自分の近くの裁判所を定めるのがベストとなるのですが、それでは話がまとまりません。そこで、合意管轄条項については、思い切って削除してしまうというのが賢い選択肢となります。削除するとどうなるの?と思われるかもしれませんが、この場合、民事訴訟法に従って管轄問題は決定されますので、結論として、売主の最寄りの裁判所に訴訟を提起することができます。つまるところ、売上の回収のための選択肢の1つである訴訟という手段について、実効性を持たせためにはどうすればいいか、という視点で考えていただければと思います。

(2) 契約書の署名押印欄に代表者以外の者がサインしようとしている場合

契約書を徴収しているから大丈夫と思っていたところ、先方より、そんな契約書は知らないよ…と言われる場面に遭遇した方もいれば、これから出くわしてしまう方もいるかもしれません。何故、上記のような言い分が出てくるかといいますと、例えば買主が法人であれば、法人を代表する者は社長、すなわち代表取締役である以上、「××株式会社 代表取締役××」と署名されるのが大原則です。しかし、この様な署名がなされていない場合、例えば、社長ではない一担当者が署名したに過ぎない場合や単に社長の個人名だけが署名された場合、果たして正式な法人の署名といえるのか疑義が生じます。このため、上記のような反論が出てくるのです。法人取引であれば、「××株式会社 代表取締役××」という署名をもらうこと、個人事業主との取引であれば「××(屋号)こと××(代表者名)」という署名をもらうことを原則化しましょう(なお、大企業では社内組織上、部長や工場長クラスがサインすることも有りますが、その場合は必ず契約締結権限があるのか確認を行うべきです)。

そして、署名ではなく記名(ゴム判とかプリントアウトされただけの文字)の場合には、必ず代表印をもらうようにしてください(もちろん、署名の場合であっても、できる限り代表印はもらって下さい)。

要は、せっかく証拠としての書面を徴収するのであれば、きっちりしたものを徴収することで、早期の売上回収の実現を図ることを目的としたチェック項目となります。

 

【参考動画】民法改正 個人保証を取る場合のポイント

2020年4月1日に改正民法が施行されます。
実務上影響の大きい、個人保証を取る場合の注意点について債権者の視点で、フローチャートを用いて分かりやすくポイントを解説します。

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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