改正電子帳簿保存法について法務視点でのポイントを弁護士が解説!

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【ご相談内容】

2022年1月1日より改正電子帳簿保存法が施行され、例えば、経理書類をスキャナ保存すれば、原本を廃棄してよいと聞き及びました。

過去の経理書類の保管場所確保に悩んでいたので、非常に便利な法改正でありメリットが大きいと考えているのですが、何か注意するべき事項があるのでしょうか。

 

 

【回答】

本記事を執筆した2021年12月時点において、電子帳簿保存法の改正内容の周知が不十分であり、2022年1月1日より全面適用することについて留保が付される可能性がある事態となっていますが、本記事では留保事項については除外し、電子帳簿保存法の改正内容のポイントに絞って解説を行います。

さて、電子帳簿保存法の改正ポイントですが、端的に指摘すると次のように整理できます。

  • パソコン等の電子端末で作成した帳簿(電子帳簿等)の保存、及び主として取引先発行の書類のスキャナ保存について、従来の紙媒体保管以外に電子データによる保存が認められた(選択制になったという点で、納税者にとって利便性がアップした)
  • ネット通販等の紙発行を予定していない電子取引における資料の保存は、電子データのみに限定されることになった(従来のプリントアウト方式が認められないという点でかえって硬直化した)

以上の通り、改正電子帳簿保存法の内容は一長一短であり、特に電子取引における資料の保存は、従来以上の負担が強いられる可能性が高いものと言わざるを得ません。また、注目されているスキャナ保存についても、これが認められるためのハードルは高く、執筆者個人としては中小企業がこのハードルを越えることは相当難しいのではないかという気がしています。

電子帳簿保存法の改正内容については、他にも色々な文献等があるかと思いますので、本記事では、弁護士視点(法務視点)で、今後の現場実務で注意したい事項を中心に解説します。

 

 

【解説】

 

1.電子帳簿保存法の概要

 

(1)3種類の保存方法

帳簿等の資料の電子的保存方法について、電子帳簿保存法では3パターンを定めています。

 

①電子帳簿等保存

最初から最後まで一貫して自己のコンピュータで作成したデータの保存のことをいいます。会計ソフトを利用して作成する決算書類や帳簿等のデータが代表例です。

 

②スキャナ保存

紙媒体をスキャンすることで作成した電子データの保存のことをいいます。なお、スキャン保存という言葉が用いられますが、要件を充足する限りスマホやデジカメ等での撮影によるデータ保存も含まれます。紙の領収書や契約書等をPDF等のデータに変換して保存することが代表例です。

 

③電子取引による電子保存

インターネット取引、EDI取引、電子メール上等での通信取引により作成されたデータの保存のことをいいます。アマゾンや楽天等のネット通販でWEB上に表示される取引データが代表例です。

 

(2)保存方法に対応する対象資料

①電子帳簿等として保存可能な対象資料

「帳簿」と「書類」が該当するとされています。ここでいう「帳簿」とは、仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳などがあげられます。一方「書類」については、貸借対照表、損益計算書、棚卸表などの決算に関係する書類と、契約書、注文書、領収書、請求書などの取引に関する書類の2種類が含まれます。

なお、誤解を生みやすいのですが、あくまでも自社内の処理として一貫してデータ上で管理している場合に電子帳簿等保存の対象とすることができるという意味であって、取引先に対して、当該データをプリントアウトして引渡した場合であっても、電子帳簿等保存の対象とすることが可能です。一切のプリントアウトが禁止されているわけではないことに注意が必要です。

 

②スキャナ保存することが可能な対象資料

上記①とは異なり、「帳簿」は対象外、「書類」の中でも決算に関係する書類は対象外となります。すなわち、「書類」の内、契約書、注文書、領収書、請求書などの取引に関する書類のみが対象となります。

基本的には取引先が発行した紙媒体の契約書、注文書、領収書、請求書等が対象になると考えられますが、自社が発行した注文書等の“控え”(原本は取引先に提出)も対象とすることができます。

 

③電子取引による電子保存の対象資料

電子取引において、電子的にやり取りされた契約書、請求書、領収書等の全てが対象資料となります。この電子的にやり取りされたとは、前述したインターネット取引(ネット通販など)、EDI取引、電子メール上での取引(添付ファイルを含む)以外にも、例えば、ICカードの支払いデータ、スマホアプリの決済データ、クラウドサービスを利用した請求書等の書類の授受、DVD等の記録媒体に保存した請求書等の書類なども含まれます。

 

(3)電子保存するための要件

①電子帳簿等保存

最低限必要となるのは次の4要件です。

  • 正規の簿記の原則(一般的には複式簿記)に従って記録されること
    …会計ソフトを利用している限り、通常は問題にならないと考えられます。
  • システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること
    …システム概要書等については、会計ソフト等を利用していれば入手することが可能であり、それほど準備の手間はかからないと思われます。一方、事務処理マニュアルは自社で作成する必要があります。この事務処理マニュアルには、入出力管理の手順や電子データの保存の手順等を定める必要があり、少々手間がかかる作業になるかもしれません。
  • 保存場所に、電子計算機、プログラム、ディスプレイ、プリンタ及びこれらの操作マニュアルを備え付け、記録事項を画面・書面に整然とした形式及び明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと
    …操作マニュアルを整備し素早く取り出せるようにしておけばよいだけであり、会計ソフト等を利用しているのであればそれほど手間はかからないものと思われます。なお、紙媒体として準備する必要はなく、オン来マニュアルでも問題ないとされています。
  • 税務職員による質問検査権に基づく 電磁的記録のダウンロードの求めに応じることができるようにしておくこと
    …これは文字通りの対応準備をしておけば足ります。

 

②スキャナ保存

細かくは、スキャナ保存の対象資料を「重要書類」(=資金や物の流れに直結・連動する書類。例えば契約書や請求書、領収書など)と「一般書類」(=資金や物の流れに直結・連動しない書類。例えば見積書や検収書など)に分類した上で検討を行う必要があります。しかし、本記事では大枠を掴むという観点から、分類せずに解説しています。

要件としては次の通りです。

 

  • 入力期間の制限
    …対象物をいつまでにスキャナ保存しなければならないかという要件です。この項目は、2021年改正(2022年1月1日施行)の目玉となっており、「おおむね7営業日以内」又は「その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内」のどちらかを選択できることになりました。
  • 一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り
    …解像度200dpi、256階調以上という水準が定められています。
  • タイムスタンプの付与
    …一般社団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプという制限が付されていますので、第三者が提供する何らかの有料サービスを利用することになると思われます。なお、タイムスタンプを付さなくてもよい例外条件も一応は定められています。
  • 読取情報の保存
    …前述の「一定水準以上の解像度及びカラー画像による読み取り」と対をなしているのですが、保存される情報について、解像度200dpiと256階調以上を維持する必要があります。また、対象物の大きさに関する情報を保存するよう定められています。
  • ヴァージョン管理
    …スキャンされた情報について、訂正・削除履歴を残すこと又は訂正・削除ができないようにすることが定められています。
  • 入力者等情報の確認
    …スキャン担当者とその監督者を事後でも確認できるよう定められています。
  • 帳簿との相互関連性の確保
    …例えば、領収書をスキャンした場合、その領収書と紐づく経費帳や現金出納帳が判別できるようにすることが定められています。
  • 見読可能装置の備付け等
    …14 インチ(映像面の最大径が 35cm) 以上のカラーディスプレイ及びカラープリンタ並びに操作説明書を備え付けること等が定められています。
  • 電子計算機処理システムの概要書等の備付け
    …要は取扱説明書を準備するよう定められています。
  • 検索機能の確保
    …スキャンしたデータについて、取引年月日(日付)、取引金額及び取引先で検索ができるようにすること等が定められています。

 

③電子取引による電子保存

次の3要件を充足する必要があります。

  • 改ざん防止のための措置をとること
    …前述②のスキャナ保存で解説したタイムスタンプ付与が原則的な取り扱いとなりますが、例外的に履歴が残るシステムの導入、改ざん防止のための事務処理規程を定めるといった方法もあります。現実的には改ざん防止のための事務処理規程を定めて運用するという実務になると予想されます。
  • 「日付・ 金額・ 取引先」 で検索できるようにすること
    …システムで対応するのが望ましいとは思われますが、エクセル等で索引簿を作成する等の方法でも問題ないとされています。
  • ディスプレイ・ プリンタ等を備え付けること
    …文字通りの準備をすれば足ります。

 

 

2.法務視点からの電子帳簿保存法の検討

 

(1)電子帳簿等保存

 

【ポイント1】対象資料に注意すること

電子帳簿等保存を行うことが可能なものは、「最初から最後まで一貫して自己のコンピュータで作成したデータ」です。したがって、例えば、契約書をパソコンで作成し、プリントアウトした上で双方当事者が署名押印し、当該書類をデータ化した場合、電子帳簿等として保存対象にすることはできません。スキャン保存か紙の契約書それ自体を保管することを検討する必要があります。

また、取引先が紙で領収書等を発行し、それを自社でデータ化しても電子帳簿等として保存対象にすることはできません。

さらに、パソコンで作成した請求書等を電子メールで取引先に送信する方法にて発行している場合、電子取引に該当しますので、やはり電子帳簿等として保存対象にすることはできません。

電子帳簿等として保存可能な対象範囲は絞られていますので、注意が必要です。

 

【ポイント2】電子保存要件となる事務処理マニュアルを整備すること

上記1.(3)①の要件のうち、「システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)を備え付けること」で少し解説した事務処理マニュアルについて自社で作成し運用する必要があります。この点、国税庁が公表している「電子帳簿保存法一問一答」のQA9の部分で、次のような参考書式が掲載されています。

 

国税関係帳簿に係る電子計算機処理に関する事務手続を明らかにした書類(概要)

 

(入力担当者)

1 仕訳データ入出力は、所定の手続を経て承認された証票書類に基づき、入力担当者が行う。

 

(仕訳データの入出力処理の手順)

2 入力担当者は、次の期日までに仕訳データの入力を行う。

⑴ 現金、預金、手形に関するもの…取引日の翌日(営業日)

⑵ 売掛金に関するもの…請求書の発行日の翌日(営業日)

⑶ 仕入、外注費に関するもの…検収日の翌日(営業日)

⑷ その他の勘定科目に関するもの…取引に関する書類を確認してから1週間以内

 

(仕訳データの入力内容の確認)

3 入力担当者は、仕訳データを入力した日に入力内容の確認を行い、入力誤りがある場合は、これを速やかに訂正する。

 

(管理責任者の確認)

4 入力担当者は、業務終了時に入力データに関するデータをサーバに転送する。管理責任者はこのデータの確認を速やかに行う。

 

(管理責任者の確認後の訂正又は削除の処理)

5 管理責任者の確認後、仕訳データに誤り等を発見した場合には、入力担当者は、管理責任者の承認を得た上でその訂正又は削除の処理を行う。

 

(訂正又は削除記録の保存)

6 5の場合は、管理責任者は訂正又は削除の処理を承認した旨の記録を残す。

 

おそらく上記のような参考書式が公表されていること自体、現場実務では浸透していないように思われます。法務担当者としては、経理部門の業務は経理担当者と税理士に任せて大丈夫と考えるのではなく、社内規程の1つとして積極的に作成に関与したほうがよいものと考えられます。

なお、この書類が整備されていない場合、青色申告の取消や消費税仕入額控除の否認など重大なリスクが生じかねないことに要注意です。

 

【ポイント3】税務上の有用性と法務上の有用性は異なること

例えば、取引先と紛争が生じた場合、取引に関係する書類として契約書や注文書、領収書、発注書などを証拠を準備し、必要に応じて証拠として提出するといった対処を行うことになります。この点、電子帳簿等保存の対象となる書類はあくまでも自己のコンピュータで一貫して作成したものとなることから、証拠価値としては弱いものと言わざるを得ません(証拠価値が高いのは、相手方が作成に関与している書面、典型的には相手方の押印のある書面です)。

税務上は問題ないからと言って、相手方の押印のある紙媒体の契約関係書類を破棄し、電子データ上でのみ残すという対応は、法務視点ではかなり問題のある対応となってしまうことに注意が必要です。

 

 

(2)スキャナ保存

スキャナ保存について法務視点で考えた場合、電子帳簿等保存で記載した「ポイント3」については同様に当てはまります。以下では、それ以外に留意したい事項を3つあげておきます。

 

【ポイント1】本当に導入できるのか確認すること

スキャナ保存ができるようになると、書類の場所を取らない、検索が容易になる、リモートワークが可能になる等のメリットが大きいことは間違いありません。そして、国税庁がしきりに“スキャナ保存が導入しやすくなった”と宣伝していることから、スキャナ保存を検討している事業者も多いと思われます。

しかし、前述1.(3)で記載した要件を充足すること(現場で運用すること)は、正直並大抵のことではないと考えられます(執筆者個人としては、中小企業においてはまだまだハードルが高すぎて、スキャナ保存については見送るほかないという結論にならざるを得ないのではないかと考えています)。

タイムスタンプの導入費用などの資金的な問題もありますが、上記要件を充足した上での運用を継続しない限り、税務上のリスク(青色申告の取消、消費税仕入額控除の否認など)を招来してしまうことを踏まえると、法務視点としては導入を見送る勇気も必要になるような気がします。

 

【ポイント2】スキャナ保存の期間延長のための手続きを確認すること

2021年改正(2022年1月1日施行)の目玉である、「その業務の処理に通常要する期間(最長2ヶ月)を経過した後おおむね7営業日以内」という期間延長についてですが、法務視点としては「その業務の処理に通常要する期間」について、どのような裏付け資料を残すのかという点を気にする必要があります。

この裏付け資料について、国税庁が次のようなサンプル書式を公表しています。

国税関係書類に係る電子計算機処理に関する事務の手続を明らかにした書類

 

(書類の受領)

1 営業責任者は、作成または受領した以下の書類について、経理責任者に引き継ぐ。

⑴取引先から請求書を受領した営業責任者は、請求書を経理責任者に引き継ぐ。

⑵取引先から納品書を受領した営業責任者は、納品書を経理責任者に引き継ぐ。

⑶見積書を作成した営業責任者は、その控えを経理責任者に引き継ぐ。

⑷取引先から注文書を受領した営業責任者は、出荷指示書を作成し、商品を出荷した後に、注文書及び出荷指示書を経理責任者へ引き継ぐ。

 

(スキャニングの準備)

2 作業担当者は、次の期日までにスキャニングの準備を行う。

⑴請求書…請求書受領後、5日以内

⑵納品書…毎月末

⑶見積書(控え)…1月から6月までに発行したものは7月末、7月から12月までに発行したものは翌年1月末

⑷注文書…1月から6月までに受領したものは7月末、7月から12月までに受領したものは翌年1月末

 

(スキャニング処理)

3 作業担当者は、××社製●●システムを活用し、スキャニング処理を実施する。

 

(管理責任者の確認)

4 作業担当者は、正確にスキャニングされていることを確認した後に、画像(電子化文書)及びCSV(検索項目)をサーバに転送し、管理責任者にこれを引き継ぐ。管理責任者は電子化文書と原本の確認を速やかに行う。

 

(タイムスタンプの付与)

5 管理責任者は、●●株式会社のタイムスタンプを付与し、本システムに登録する。

 

(電子化文書の保存)

6 本システムにより電子化されたデータは、国税に関する法律の規定により保存しなければならないとされている期間まで保存する。

 

経理フローを電子帳簿保存法に合わせた形に整理・修正した上で社内規程を作成し、この社内規程に基づいた運用を確実に実行し、定期的に検査すること(いわゆるPDCAサイクル)が必要になると考えられます。

なお、国税庁は「スキャナによる電子化保存規程」というスキャナ保存に関する全体をカバーすることを目的とした参考書式も公表していますので、あわせて確認しておきたいところです。

 

参考資料(各種規程等のサンプル)内の「スキャナによる電子化保存規程」(国税庁)

 

【ポイント3】民間のスキャナ保存サービスを利用するに際し特に注意したいこと

スキャナ保存を利用するためには、何らかの会計ソフトに付随するスキャナ保存サービスを利用することが一般的になるものと予想されます。納得の上で利用を開始すれば、スキャナ保存サービスが提供され続ける限り、大きな問題とはなりません。

問題は、スキャナ保存サービスがサービス提供事業者側の事情により終了する場合、又はユーザ側の事情で他のサービス提供事業者に乗り換えたい場合です。要は、スキャナ保存サービスの終了時点における処理についてです。端的に指摘すると、当該サービス提供事業者に預けていた電子データをユーザが持ち出すことができるのか、もっと言えば、当該電子データは当該サービス提供事業者が提供するサービス上でしか利用できない環境(独自データ)となっていないかを、利用開始前に確認する必要があります。

一種の出口(イグジット)戦略のようなところがあるのですが、電気通信上のサービスを利用する場合、当該サービスを利用して生成されたデータは引継ぎ可能なのかという視点で契約書(利用規約、約款)を検証するのは、法務視点としては非常に重要となります。十分な検討を行うことなくサービス導入を開始した場合、後で当該サービスに不満があっても事実上利用を継続せざるを得ないという事態になりかねませんので、注意が必要です。

 

 

(3)電子取引

 

【ポイント1】紙と電子の選択制ではなく、電子保存の一本化に注意すること

電子帳簿等による保存及びスキャナ保存については、紙媒体による保管以外の方法として、電子データにしてもよいという意味で、事業者(納税者)に対して選択権を付与し、事業者の利便性向上を狙った制度となります。

一方、電子取引における電子保存は、電子データでの保管を義務付ける(強制する)制度となります。例えば、メールに添付されていた請求書データ等をプリントアウトして、紙媒体にて保管するという現場運用は比較的多くのところで用いられていたのではないかと考えられますが、2022年1月1日から施行される改正電子帳簿保存法によりNGとなることに特に注意が必要です(なお、本記事を執筆した2021年12月時点における一部報道では、税務署に届出ることにより2年間の適用猶予が認められる可能性あるとされています。国税庁のWEB等から最新の正確な情報を入手するようにしてください)。

従前の取扱いを改める必要性が高いという意味で、経理業務の処理フローの洗い出しと改善を図る必要があります。

 

【ポイント2】改ざん防止のための事務処理規程を作成すること

タイムスタンプ付与や履歴の残るシステムの導入を行う場合、どうしても設備投資が必要となります。費用面で難ありという場合は、必然的に「改ざん防止のための事務処理規程」を作成の上、この規程に則って現場運用するほかありません(当然PDCAサイクルにて運用する必要があります)。

この規程については、国税庁がサンプルを公表しています(以下の規程は法人を対象としたものです。個人用は別途公表されています)。これを参照しながら、自社用に作り変えていく必要があります。

 

電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程

 

第1章 総則

(目的)

第1条 この規程は、電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法の特例に関する法律第7条に定められた電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存義務を履行するため、○○において行った電子取引の取引情報に係る電磁的記録を適正に保存するために必要な事項を定め、これに基づき保存することを目的とする。

 

(適用範囲)

第2条 この規程は、○○の全ての役員及び従業員(契約社員、パートタイマー及び派遣社員を含む。以下同じ。)に対して適用する。

 

(管理責任者)

第3条 この規程の管理責任者は、●●とする。

 

第2章 電子取引データの取扱い

 

(電子取引の範囲)

第4条 当社における電子取引の範囲は以下に掲げる取引とする。

一 EDI取引

二 電子メールを利用した請求書等の授受

三 ■■(クラウドサービス)を利用した請求書等の授受

四 ・・・・・・

記載に当たってはその範囲を具体的に記載してください

 

(取引データの保存)

第5条 取引先から受領した取引関係情報及び取引相手に提供した取引関係情報のうち、第6条に定めるデータについては、保存サーバ内に△△年間保存する。

 

(対象となるデータ)

第6条 保存する取引関係情報は以下のとおりとする。

一 見積依頼情報

二 見積回答情報

三 確定注文情報

四 注文請け情報

五 納品情報

六 支払情報

七 ▲▲

 

(運用体制)

第7条 保存する取引関係情報の管理責任者及び処理責任者は以下のとおりとする。

一 管理責任者 ○○部△△課 課長 XXXX

二 処理責任者 ○○部△△課 係長 XXXX

 

(訂正削除の原則禁止)

第8条 保存する取引関係情報の内容について、訂正及び削除をすることは原則禁止とする。

 

(訂正削除を行う場合)

第9条 業務処理上やむを得ない理由によって保存する取引関係情報を訂正または削除する場合は、処理責任者は「取引情報訂正・削除申請書」に以下の内容を記載の上、管理責任者へ提出すること。

一 申請日

二 取引伝票番号

三 取引件名

四 取引先名

五 訂正・削除日付

六 訂正・削除内容

七 訂正・削除理由

八 処理担当者名

2 管理責任者は、「取引情報訂正・削除申請書」の提出を受けた場合は、正当な理由があると認める場合のみ承認する。

3 管理責任者は、前項において承認した場合は、処理責任者に対して取引関係情報の訂正及び削除を指示する。

4 処理責任者は、取引関係情報の訂正及び削除を行った場合は、当該取引関係情報に訂正・削除履歴がある旨の情報を付すとともに「取引情報訂正・削除完了報告書」を作成し、当該報告書を管理責任者に提出する。

5 「取引情報訂正・削除申請書」及び「取引情報訂正・削除完了報告書」は、事後に訂正・削除履歴の確認作業が行えるよう整然とした形で、訂正・削除の対象となった取引データの保存期間が満了するまで保存する。

 

附則

 

(施行)

第10条 この規程は、令和○年○月○日から施行する。

 

 

※個人用のサンプル規程については

参考資料(各種規程等のサンプル)内の「電子取引に関するもの」欄を参照

 

 

【ポイント3】検索性の要件について見誤らないこと

保存した電子データについて検索機能を確保する必要があるのですが、具体的には、次の3つを全て充足する必要があるとされています。

 

  • ⑴取引年月日その他の日付、取引金額及び取引先を検索の条件として設定することができること。
  • ⑵日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること。
  • ⑶二以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること。

 

例えばネット通販を利用した場合、端末上で取引履歴を閲覧し、一定条件にて検索することが可能となっていることが多いのですが、(2)や(3)まで検索機能を備えているものが現状ほぼ皆無ではないかと思われます。この場合、ネット通販の取引履歴を閲覧可能な状態にしておくだけでは、電子帳簿保存法上の保存要件を満たさないことになります。

そこで、国税庁は、例えばエクセル上に必要事項を記入することで、検索可能な索引簿を作成すること等を提案していますが、正直なところ、いちいち作成するのは面倒というのが実情だと思われます。

この場合、(1)に定める事項を遵守することを前提に、税務職員の求めに応じてダウンロード(提出)可能な状態にするという代替手段をとることが認められていますので、この方法を活用することが現場実務では多くなるものと予想されます(なお、会計ソフトで(1)から(3)まで充足できるのであれば、そちらで対応する場足りますが、ソフト会社に対応済みか確認する必要があります)。ただ、この代替手段の場合であっても、保存した電子データのファイル名を、例えば「20220101_㈱××_300,000」といった取引日・取引先・取引金額からなる規則的なファイル名に打ち直す必要があります。これを誰がやるのかを含め経理フローの見直しが必要であることに注意が必要です。

 

 

 

<2021年12月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

コンプライアンスのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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