顧客からの過剰要求・過剰クレームへの対応について(ショート記事)

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企業法務に関する相談を受けていると、ある程度似通ったご相談をお受けすることがあります。

このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。

 

 

ご相談内容

当方の不注意で、お客様の衣服を汚してしまいました。

お客様より、①新品の衣服に取り換えること(又は新品を購入するための金銭を支払うこと)、②精神的ショックを受けたので慰謝料を支払うこと、の2点を要求されています。

この要求に応じなければならないのでしょうか。

 

回答

結論から申し上げると、①②とも、お客様の要求に応じなくても法的には問題ありません。

ただし、正確に回答するのであれば、

  • ①の場合、原則的には修理費(汚れを落とすためのクリーニング相当額)の範囲で損害賠償を行う必要があること(※重要な例外があることは後述参照)
  • ②の場合、原則として慰謝料を支払う必要はないこと

となります。

 

解説

まず、①についてですが、衣服等の「物」に対する損害賠償の基本的な考え方は、不法行為以前の状態に戻すこと、すなわち修理に必要なお金を損害賠償すればよいというものになります。

この点、本件の場合、おそらくは「修理費(クリーニング代)<新品購入費」となるはずです。

したがって、相手の要求は法的に認められる損害賠償の範囲を超えているので、応じる必要はない(ただし、修理費(クリーニング代)相当額の賠償義務はある)という結論になります。

もっとも、物に対する損害賠償の場合、重要な例外があります。「経済的全損」という考え方なのですが、要は「修理費>物の時価額(不法行為時点)」という場合、法的に認められる損害賠償額は、物の時価額に留まります。

すなわち、修理費全額を支払う必要はないという結論になります。このように考えるのは、先ほど“「物」に対する損害賠償の基本的な考え方は、不法行為以前の状態に戻すこと”と説明したところ、時価額相当額の状態にするためには一部の修理で足り、修理費満額を賠償した場合は、かえって被害者が利得したことになるという理屈が成り立つからです。

現場実務で不法行為に基づく損害賠償の交渉を行っている私の肌感覚としては、被害者の方にはなかなか納得してもらえないというのが正直なところです。しかし、最高裁判所が採用している理屈ですので如何ともしがたいところがあります。

 

次に、②についてですが、物の損害の場合、原則として慰謝料は発生しません。法律上慰謝料が発生するのは人身損害の場合、すなわち人に怪我をさせた場合や死亡させた場合に限定されているからです。

もっとも、この考え方についても一定の例外があり、最近では個人の住宅における酷い建築瑕疵があった事例や、ペットを怪我させた場合には慰謝料を認めている裁判例も存在します(ただし、個人住宅の建築瑕疵事例だから、ペットを傷つけた事例であれば当然に認められるという訳ではなく、ケースバイケースの判断となります)。

本件事例の場合、衣服という「物」が被害対象ですので、法的に慰謝料支払い義務はないと考えて間違いないかと思われます。

 

 

<2024年5月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 

コンプライアンスのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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