研究開発事業者が知っておきたい法務課題と対処法について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社は××に関する研究開発を行い、その成果を他社にライセンスする等して事業展開を行っています。

近時、当社の研究員が機密情報を持ち出す、取引先が当社より得た情報を元に当社のライバル会社と製品の共同開発を進めるといった事態が発生するなど、トラブルが続いています。そこで、社内の管理体制を見直そうという話になり、現在どういった問題が生じやすいのか検証しているところです。

典型的なトラブル事例やその対処法について、いくつか教えてください。

 

 

【回答】

執筆者が知る限りですが、研究開発を主たる事業とする会社は、対外交渉に慣れていないことが多く、交渉又は取引実行の過程において、一部のズル賢い取引先・取引候補者にノウハウや技術を含む重要な機密情報を奪われてしまうということが多々あるようです。

もちろん、機密情報を奪い取る方が悪いのですが、道徳的に非難はできても法的な責任追及をするのは、自らが防衛策を講じておかないことには如何ともし難いという現実があります。

また、性善説を前提にしたかのような社内管理があまい会社も多く、悪質な従業員が機密譲歩をライバル会社に売りつけるといった事例も少なからず発生しています。

そこで、本記事では、主として研究開発を事業内容とする事業者において、特に注意したい事項を「ヒトに課する課題」「モノ(成果物)に関する課題」「カネに関する課題」と分類した上でその対策の1つとしてどのような書面を取付け、契約内容を定めておいたほうが良いのかをサンプルを引用しながら解説します。

なお、公正取引委員会が公表しているスタートアップ事業者向けの資料も有用かと思いますので、ご参考までにリンクを貼っておきます。

 

(参考)

スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針(公正取引委員会)

 

 

【解説】

 

1.ヒトに関する課題

 

(1)社内におけるヒトの問題

・研究開発者が入社する場合

研究開発を中心とする企業の場合、個々の研究員の能力・技術などといった属人的スキルが重要な経営資源となります。そのため、他社に優秀な研究者がいるのであれば引抜きを含め自社への入社を働きかけるといったことが行われているようです。

もっとも、当該研究者が他社の重要な情報を保有していたり、競業他社への転職を行わない旨の誓約書を提出していたりすることがあり、当該研究者が入社した後、他社とトラブルになる事例も多くみられます。

そこで、他社の重要な情報を保有していると考えられる人物を入社させる場合、次のような誓約書を徴収することをお勧めします(ポイントは第4項と第5項です)。

なお、当該研究者に競業禁止義務が課せられている場合もありますが、一般的には競業禁止義務は無効と考えられます。ただ、ケースバイケースの判断が求められますので、弁護士に相談し確認したほうが無難です。

 

【参考書式】

誓約書(入社時)

 

1.私は、貴社の就業規則、秘密情報管理及び服務に関する諸規定を遵守し、貴社業務の従事者として誠実に職務を履行いたします。

2.私は、貴社の秘密情報を、在職中はもちろんのこと、退職後も貴社の許可なく 第三者に開示、漏洩または使用いたしません。なお、秘密情報とは、公然性の有無を問わず下記に記載したもの、及び下記記載以外にも秘密として管理している生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものであることを確認します。

××

3.私が将来、秘密情報の形成、創出に関わる場合であっても、貴社の業務遂行上作成するものでありますから、当該形成、創出される秘密情報は貴社に帰属することを確認します。また当該秘密情報について私に帰属する一切の権利を貴社に譲渡し、その権利が私に帰属する旨の主張を致しません。

4.私は、第三者の秘密情報を含んだ媒体(文書、図画、写真、USBメモリ、DVD、ハードディスクドライブその他情報を記載又は記録するものをいいます)を一切保有しておらず、また今後も保有しないことを約束いたします。

5.私は、貴社の業務に従事するにあたり、第三者が保有するあらゆる秘密情報を、当該第三者の事前の書面による承諾なくして貴社に開示し、又は使用若しくは出願(以下「使用等」といいます)させない、貴社が使用等するように仕向けない、又は貴社が使用等しているとみなされるような行為を貴社にとらせないことを約束いたします。

 

株式会社×× 御中

 

年  月  日

 

(住所)

(名前)

 

・研究開発者が退職する場合

上記とは逆に、自社にて勤務していた研究開発者が退職することになった場合、企業としては重要な機密情報を持ち出されないよう何らかの防止策を講じる必要があります。

ただ、研究開発者の頭の中に記憶されてしまった情報については、持ち出しを禁止することは不可能と言わざるを得ません。

そこで、持ち出されてしまうことを前提に、持ち出した情報の使用範囲を制限するといった視点で、当該研究開発者の約束を取り付けることが重要となります。例えば、次のような誓約書です(2項が使用制限に関する条項となります)。

なお、退職時の誓約書に競業禁止条項を定める場合がありますが、単純に定めただけでは法的に無効と判断されることが多いのが実情です。有効性を担保したいのであれば、誓約書に明記すること以外の対策が必要となりますので、この点については是非弁護士にご相談ください。

 

【参考書式】

誓約書(退社時)

 

1.私は、下記に記載する情報、及び下記記載以外にも秘密として管理している生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報が、貴社の秘密情報に該当することを確認します。

××

2.私は、貴社から開示を受け又は事情の如何を問わず知りえた秘密情報について、厳重に秘密を保持するものとします。また、私は、貴社の許可なく、口頭、書面、電子的・磁気的方法、記録媒体へのアクセス、その他方法の如何を問わず、第三者(業務の遂行上秘密情報を知る費用の無い貴社の役員、従業員、株主等を含む。以下同じ)に対して秘密情報を開示もしくは漏洩し、秘密情報の複製を作成もしくは譲渡し、又は私自身もしくは第三者のために使用しないことを約束します。

3.私は、貴社を退職するに際し、貴社の秘密情報が記録された全ての媒体物を貴社に返還したこと、並びに秘密情報が複写された書類及びデータを保有していないことを誓約します。

4.秘密情報の形成、創出への関与の如何を問わず、当該形成、創出された秘密情報は貴社に帰属することを確認すると共に、私個人に帰属する旨の主張を行わないことを確認します。

5.貴社(子会社、関係会社を含む)の従業員に対し、退職の勧誘、引き抜き行為等をしないことを誓約します。また、貴社取引事業者に対して、営業活動を行うこと、自ら又は第三者をして取引を行うこと、貴社との取引を妨害すること、その他貴社に不利益となるような言動を行わないことを誓約します。

 

株式会社×× 御中

 

年  月  日

 

(住所)

(名前)

 

 

(2)社外関係者におけるヒトの問題

・第三者へ開示する場合

秘密情報を開示する場合、秘密保持契約書(NDA)を締結することが多くなりました。

ただ、相手企業と秘密保持契約書を締結する場合、例えば、①相手企業に属する従業員等であれば誰でも秘密情報を知り得る状態となること、②相手企業の親会社、子会社、関連会社等にも秘密情報が開示されるおそれがあること、③相手企業に属し秘密情報を知りえた従業員が退職等することで漏洩する可能性が生じること、といった問題を意識して秘密保持契約書を締結しているでしょうか?

研究開発を行う事業者の場合、情報の取扱いが極めて重要となります。したがって、秘密保持契約書を締結しただけで満足するのではなく、その中身にも拘ってほしいと考えるところです。例えば、次のような条項が定められている場合、要検討となります。

【修正検討したい条項例】

第×条(秘密保持)

情報受領者は、秘密情報について秘密を保持するものとし、第三者に対し、秘密情報を一切開示又は漏洩してはならない。但し、次のいずれかに該当する場合は除く。

(1)情報受領者の役員、従業員

(2)情報受領者が依頼する弁護士、公認会計士、税理士、ファイナンシャルアドバイザー等の外部専門家

(3)本契約に関連して秘密情報を必要とする情報受領者の親会社及び子会社の役員、従業員

 

研究開発事業者において情報を開示する側になる場合、まず、但書として情報開示者の

承諾を得ることなく開示可能な第三者の範囲が適切かを検討することになります。

例えば、1号について、取引に関係しない役員や従業員にまで開示可能というのは考え物です(取引に関係しない以上、情報の重要性を認識しないまま漏洩させるリスクがあるため)。したがって、1号については、「本契約に関連して秘密情報を必要とする情報受領者の役員、従業員」といった修正を行いたいところです。

また、情報受領者の規模にもよりますが、3号に定めるような関連会社(親会社・子会社)に属する役員や従業員についても開示可能というのは、慎重に判断する必要があり、原則的には削除したい条項です。

さらに、情報受領者に対しては、第三者へ開示した後の監視義務、特に第三者が取引の利害関係から離脱した場合の対応についても定めておきたいところです。そこで、第2項として次のような条項を追加することも検討したいところです。

「2.情報受領者は、前項但書に該当する第三者に対し、その在職中・契約期間中及び退職後・契約終了後も、本契約における情報受領者の負担する義務と同等の義務を負担させ、当該第三者が本契約に定める義務に違反した場合は、一切の責任を負うものとする。」

 

・派遣社員へ開示する場合

派遣先企業は派遣社員に対し指揮命令権を有するものの、直接の労働契約がありません。このため、派遣先企業が派遣社員に対し、当然に守秘義務を課すことは難しく、派遣元企業と秘密保持契約を締結した上で、派遣元企業が派遣社員に対し守秘義務を課すといった間接的な方法を用いざるを得ないことが通常です。

もっとも、派遣元企業の協力を得て、派遣社員との間で直接の秘密保持契約を締結することは理屈の上では成り立ちうる話です(なお、直接の秘密保持契約を締結することに抵抗感がある1つの理由として、派遣先企業と派遣社員との間で直接の雇用関係があると後で言われかねないという点があると思われます)。派遣社員との直接の秘密保持契約を裏付けるための書面としては次のようなものがあります。

 

【参考書式】

誓約書

 

私は、××株式会社(以下「派遣元」といいます)の派遣社員として、×年×月×日より貴社にて業務従事するにあたり、次の事項を約束します。

 

1.私は、派遣元の就業規則を遵守すると共に、貴社の指揮命令に従い誠実に業務従事します。

2.私は、貴社の秘密情報を、派遣社員として業務従事中はもちろんのこと、業務従事終了後も貴社の許可なく 第三者に開示、漏洩または使用いたしません。なお、秘密情報とは、公然性の有無を問わず下記に記載したものであることを確認します。

××

3.私は、派遣社員としての業務従事期間が終了した後であっても、前条の規定を遵守します。

4.私は、派遣社員としての業務従事期間が終了した場合、貴社の秘密情報が記録された全ての媒体物を貴社に返還すること、並びに秘密情報が複写された書類及びデータを保有しないことを誓約します。

5.私は、派遣元の就業規則及び本書に違反した場合、貴社が被った損害を賠償するものとします。

 

株式会社×× 御中

 

年  月  日

 

(住所)

(名前)

(注)入社時誓約書及び退社時誓約書で定めた、秘密情報に対する権利帰属に関する条項はあえて定めていません。これは、派遣先企業と派遣元企業との間で、知的財産権を含めた情報の帰属に関する取り決めを派遣契約において定めることが通常であり、その内容を意識しないことには誓約書に明記することができないからです。

 

なお、万一秘密情報が漏洩した場合、派遣社員に責任追及したところで、実際には対応能力も支払能力もなく、何らの補償を受けることができません。したがって、派遣先企業としては、派遣社員から誓約書を徴収することで一種の心理的効果を期待できるに留まることを肝に銘じるべきです。実際の責任追及は派遣元企業となりますので、派遣契約において情報漏洩等が生じた場合の対応及び補償について、どのような取り決めとなっているのか必ず確認し、必要に応じて条項の修正を含めた契約交渉を行う必要があります。

 

・研究施設見学者

取引先によっては、施設の衛生状態、稼働状況等を確認するべく、研究施設の見学を行いたい旨の申出をおこなってくることがあります。もちろん取引を進めるにあたってはこの申し出を拒絶する必要性はないのですが、ただ、研究施設は秘密情報やノウハウが集積しており、場合によっては見学の名の下で秘密情報を盗み取られてしまい、以後取引先との交渉が進まないばかりか、取引先が独自に開発を進めてしまうということさえ起りえます。

このような事態を回避するために、見学者に対し次のような誓約書を徴収したいところです。

 

【参考書式】

秘密保持誓約書

 

この度、当社の従業員××が×年×月×日、貴社××研究施設における××工程を見学させていただくにあたり、下記の事項を厳守することを誓約いたします。

第1条(秘密保持の誓約)

当社は、貴社施設の見学に際し、貴社が当社に開示し、かつ開示の際に秘密である旨明示した一切の情報(以下「秘密情報」といいます。)について、厳に秘密を保持するものとし、事前に貴社の書面による承諾を得た場合を除き、第三者に秘密情報を開示いたしません。ただし、当社が書面によってその根拠を立証できる場合に限り、以下の情報は秘密情報の対象外とさせていただきます。

① 貴社から開示を受けたときに既に当社が保有していた情報

② 貴社から開示を受けたときに既に公知であった情報

③ 貴社から開示を受けた後、当社の責めに帰し得ない事由により公知となった情報

 

第2条(承諾を得ない使用の禁止)

当社は、貴社から開示された秘密情報を、貴社の事前の書面による承諾を得た場合を除き、使用いたしません。

 

第3条(従業員に対する開示)

当社は、秘密情報を必要最小限の範囲において当社の従業員に開示します。この場合、当社は、秘密情報を知り得た当社の従業員(貴社施設を見学した従業員も含む。)について、その在職中及び退職後は、本誓約書と同趣旨の義務を課すこととさせていただきます。

 

株式会社×× 御中

 

年  月  日

 

(住所)

(会社名)

(代表者名)

 

 

2.モノ(成果物)に関する課題

 

(1)発明者との権利帰属

研究開発を進めていく中で何らかの成果物が出来上がった場合、その成果物に対して知的財産権による保護を図ることができないか検討することがあります。また、知的財産権による保護が難しい場合であっても、その成果物及び成果物に対する生産工程におけるノウハウ等を秘密情報として門外不出にするといった対応を検討することもあります。

ただ、会社として上記のような方針を検討する場合に考慮しなければならいのが、いわゆる職務発明の問題です。特許法は原則として発明者に権利帰属すると定めていることから、発明者すなわち個々の従業員に権利が帰属し、会社は権利者ではない(実施権を付与されるにすぎない)という取扱いになります。

この原則論を十分に理解した上で、会社としては、会社に権利が帰属するよう事前に社内規程の整備を図る必要があります。なお、発明考案と異なり、著作物に関する著作権は原則会社に帰属するため、以下のような社内規程の整備は不要です。

 

【モデル社内規程(特許庁公開資料の抜粋)】

第1条(目的)

この規程は、×株式会社(以下「会社」という。)において役員又は従業員(以下「従業者等」という。)が行った職務発明の取扱いについて、必要な事項を定めるものとする。

 

第2条(定義)

この規程において「職務発明」とは、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属する発明をいう。

 

第3条(届出)

1 会社の業務範囲に属する発明を行った従業者等は、速やかに発明届を作成し、所属長を経由して会社に届け出なければならない。

2 前項の発明が二人以上の者によって共同でなされたものであるときは、前項の発明届を連名で作成するとともに、各発明者が当該発明の完成に寄与した程度(寄与率)を記入するものとする。

 

第4条(権利帰属)

職務発明については、その発明が完成した時に、会社が特許を受ける権利を取得する。

 

第5条(権利の処分)

1 会社は、職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、当該職務発明について特許出願を行い、若しくは行わず、又はその他処分する方法を決定する。

2 出願の有無、取下げ又は放棄、形態及び内容その他一切の職務発明の処分については、会社の判断するところによる。

 

第6条(協力義務)

職務発明に関与した従業者等は、会社の行う特許出願その他特許を受けるために必要な措置に協力しなければならない。

 

第7条(相当の利益)

1 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。

××

××

2 発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益の内容の通知を受けた日から×日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

 

第8条(支払手続)

前条に定める相当の利益は、××までに支払うものとする。

 

第9条(実用新案及び意匠への準用)

この規程の規定は、従業者等のした考案又は意匠の創作であって、その性質上会社の業務範囲に属し、かつ、従業者等がこれをするに至った行為が当該従業者等の会社における現在又は過去の職務範囲に属するものに準用する。

 

第10条(秘密保持)

1 職務発明に関与した従業者等は、職務発明に関して、その内容その他会社の利害に関係する事項について、当該事項が公知となるまでの間、秘密を守らなければならない。

2 前項の規定は、従業者等が会社を退職した後も適用する。

(参考)

中小企業等の皆様へ ~職務発明規程の導入~(特許庁)

 

(2)共同研究開発における成果物の帰属・利用制限

自社単独では研究開発が難しいので、複数社と協力しながら研究開発を進め、何らかの成果物を生み出すということは、よくある話かと思います。

ただ、共同研究開発の場合、何らかの成果が得られたことで、その成果の権利帰属・利用方法・収益分配等で紛争となる恐れがあります。また一方で、何らの成果も得られなかった場合、これまでの業務実施により生じた費用の清算方法について紛争となる恐れがあります。

したがって、共同研究開発を実施する前に、成功した場合と失敗した場合を見据えた契約書を締結しておくことが望ましいといえます。上記問題点を解消するための条項例としては次のようなものが考えられます(なお、実際の共同研究の実情や目的、共同研究後の戦略に応じて条項案を定める必要があります。必ず弁護士と相談しながら適切な条項を定めるようにしてください)。

 

【参考条項例】

第×条(費用の分担)

甲及び乙は、本契約に定めた各自が担う業務遂行に要する費用をそれぞれ各自にて負担し、両者が共同で行う業務の費用は、甲乙別途協議してその分担を決定するものとする。

 

第×条(成果の帰属)

甲又は乙が本研究開発の期間中に本研究開発の実施により取得した発明、考案及び創作並びに技術上及び営業上のノウハウ(以下、「本成果」という。)は、甲乙の共有とし、その持分は均等する。

 

第×条(成果の利用)

1 甲及び乙は、本成果及び本知的財産権を、それぞれ無償で実施することができる。

2 甲又は乙が、自己の持分に係る本成果又は本知的財産権を第三者に譲渡し、又は第三者に実施を許諾することを希望する場合は、甲乙があらかじめ協議し、その可否及び条件を定めるものとする。

 

第×条(知的財産権の取扱い)

1 本成果に含まれる発明、考案又は創作について、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、回路配置利用権等の知的財産権を受ける権利及び当該権利に基づき取得される知的財産権(以下、「本知的財産権」という。)は、甲乙の共有とし、その持分は均等とする。

2 甲及び乙が本知的財産権について出願をする場合は、当該出願の内容及び出願国について協議し、共同で当該出願を行う。

3 前項に基づく出願手続及び権利保全手続に係る費用は、甲及び乙が持分に応じて負担する。

4 本知的財産権に関し、その取得又は維持のために審判請求、訴訟等を提起する場合、第三者から審判請求、訴訟等が提起された場合、若しくは本知的財産権を第三者が侵害した場合は、甲及び乙は、相互に協力してその解決を図るものとする。

 

第×条(改良発明等)

1 本研究開発の期間の終了後×年以内に、甲又は乙が本成果に基づき新たな発明、考案又は創作(以下、「改良発明等」という。)をなし、当該改良発明等につき知的財産権の出願をしようとするときは、その内容を相手方に事前に書面により通知しなければならない。

2 前項による通知があったとき、甲及び乙は、その都度協議し、当該改良発明等の取扱いについて決定する。

 

(3)ライセンス契約における成果物の保護

自社が保有しかつ権利化していないノウハウ(成果物)につき、他社がライセンスを受けたいと申出ることがあります。ビジネスですのでライセンス料をどのように設定するのかという点に関心がいきがちですが、ノウハウ(成果物)を開示するということは、他社を含めた第三者に無断で使用されるリスクが高まるということを押さえておく必要があります。

したがって、無断使用されるリスクを抑えるための条項を定めた書面を締結することが必須となります。なお、検討したい条項としては次のようなものが考えられますが、ライセンス契約は個別性が強いものとなりますので、実情に応じて適宜条項を作成する必要があります。是非とも弁護士と相談しながら作成してほしいところです。

【参考条項例】

 

第×条(ライセンシーの遵守事項)

ライセンサーが開示するノウハウ及びこれに付随するアドバイスの内容、提供方法等については、ライセンサーの裁量によって行われるものとし、ライセンシーはライセンサーに対し、ノウハウ及びアドバイスの追加開示等を当然に要求することができない。

 

第×条(成果の報告等)

1 ライセンシーはライセンサーに対し、ノウハウを用いて得られた成果について、毎月末日までに、書面にて報告を行わなければならない。

2 前項の報告に際し、ライセンサーがライセンシーに対して追加の問い合わせ等を行った場合、ライセンシーは当該問い合わせ事項について速やかに回答を行う。

3 ライセンシーはライセンサーに対し、本条第1項に定める報告内容に基づいて、ライセンサーがノウハウの改良を行うことを予め承諾する。

4 ライセンシーは、前項に定める改良されたノウハウ(以下「改良ノウハウ」という)に関する権利についてライセンサーに帰属すること、及び当該改良ノウハウをライセンサー及びライセンサーが指定する第三者に対して、ライセンシーに対価を支払うことなくライセンサーの自由裁量により使用すること予め承諾する。

 

第×条(権利関係の処理)

1 ライセンサーがライセンシーに開示したノウハウ(改良ノウハウを含む。以下同じ)には、本契約に定める以外、いかなる意味においても、ライセンシーに対するノウハウの所有権の移転やノウハウに係る著作権、特許権等の知的財産権の譲渡、実施許諾又は使用許諾等の効果が生じるものではないことをライセンシーは確認する。

2 ライセンシーは、ノウハウについて、ライセンサーに無断で特許及び実用新案の出願、その他権利化のための申請手続き等を行ってはならない。

3 生産物・製造物等にノウハウが化体された場合であっても、ノウハウはなおライセンサーに帰属する。

4 ライセンシーがノウハウに基づき、新たな発明、考案、意匠の創作等の技術的成果を生み出した場合、直ちにライセンサーに対して通知する。なお、当該技術的成果については、ライセンサーライセンシー持分均等の共有にて帰属させるものとし、両当事者とも、相手方に無断で特許及び実用新案の出願、その他権利化のための申請手続き等を行ってはならない。

5 前項に定める技術的成果について、ライセンシーはライセンサー及びライセンサーが指定する第三者に対し、当該技術的成果をライセンシーに対価を支払うことなくライセンサーの自由裁量により使用すること予め承諾する。

 

第×条(模倣の禁止)

ライセンシーは、本契約の遂行により知り得た情報等に基づき、ノウハウと同一または類似する媒体物・データ・システム、その他模倣品(データを含む)を、ライセンサー以外の第三者に販売・譲渡し、あるいは第三者をして制作・販売させてはならない。

 

 

3.カネに関する課題

 

(1)職務発明への対応

前記2.(1)で記載した通り、発明・考案等に関する権利については原則発明者である従業員に帰属するため、当該権利を会社に譲ってもらうためには、何らかの対価支払いが必要となります。

一昔前にいわゆる青色発光ダイオード訴訟において、会社に対し200億円の支払いを命じる判決が出たことで、産業界は大騒ぎとなり、最終的には特許法の改正にまでつながりましたが、そうであっても発明者に対して相当な対価支払いが必要である点は現在でも変わりません。この対価の支払い方法については様々な事情を考慮する必要があるため、弁護士等の専門家に相談して頂きたいところです。

なお、職務発明に対応するための社内規程は前期2.(1)で記載した通りですのでそちらを参照していただくとして、対価の支払いに関する条項のみ、ここでは抜粋しておきます。

 

【参考条項例】

 

第7条(相当の利益)

1 会社は、第4条の規定により職務発明について特許を受ける権利を取得したときは、発明者に対し次の各号に掲げる相当の利益を支払うものとする。ただし、発明者が複数あるときは、会社は、各発明者の寄与率に応じて按分した金額を支払う。

××

××

2 発明者は、会社から付与された相当の利益の内容に意見があるときは、その相当の利益の内容の通知を受けた日から×日以内に、会社に対して書面により意見の申出を行い、説明を求めることができる。

 

第8条(支払手続)

前条に定める相当の利益は、××までに支払うものとする。

 

(2)PoC貧乏への対応

PoCとは、技術検証・実証実験と訳されることが多いのですが、要は、研究開発事業者が保有する技術・ノウハウ(成果)について、取引候補者が商業的利用価値の有無を見定めるために、共同研究や共同開発を行う前段階で実施する事前検討とイメージすれば分かりやすいかと思います。

このPoCですが、往々にして、取引候補者からの要請に基づき、研究開発事業者が無償又は実質的には無償に近い状態で作業させられることが多いという実態があります。そして、多くの場合、ビジネスに繋がらず、研究開発事業者が時間・労力を割いたにもかかわらず、何らの対価が得られない、場合によっては対価を得られないどころか、取引候補者が技術・ノウハウが事実上抜き取ってしまい、研究開発事業者を用済みとして切り捨てるという事態が生じていることを踏まえ、PoC貧乏という言葉が生まれているところです。

PoC契約の雛形については、次で紹介する特許庁のWEB等を参照していただければと思うのですが、PoC貧乏を回避するという視点で検討した場合、次のような条項は是非とも明記したい内容となります。

なお、PoC契約は当事者の利害対立が大きくなりやすい内容を含むため、ある程度の契約修正交渉が必要となることが多いと思われます。契約書の作成はもちろんのこと、契約交渉時に直ぐに相談できる弁護士を付けておくことが重要となります(契約交渉に弁護士が代理人として活動するのではなく、社内検討に際し、弁護士の意見を聞けるようにするという意味です)。

 

(参考)

オープンイノベーションポータルサイト(特許庁)

 

なお、PoC契約全般に関する解説については、次の記事もご参照ください。

PoC(技術検証・実証実験)契約について、弁護士が解説!

 

【参考条項例】

甲:研究開発事業者 乙:取引候補者

 

第×条(委託料及び費用)

本検証の委託料は●万円(税別)とし、本契約締結時から10営業日以内に全額を、甲が指定する金融機関の口座に振込送金する方法により支払うものとする。振込手数料は乙の負担とする。

 

第×条(共同研究開発契約の締結)

甲及び乙は、本検証から研究開発段階への移行及び共同研究開発契約の締結に向けて最大限努力し、乙は、甲が提出した本報告書(※検証結果を記載したレポートのこと)の確認が完了した日から2ヶ月以内に、甲に対して共同研究開発契約を締結するか否かを通知する。

 

第×条(本報告書等の知的財産権)

1 本報告書及び本検証遂行に伴い生じた知的財産権は、乙または第三者が従前から保有しているものを除き、甲に帰属する。

2 甲は、乙に対し、乙が本検証の遂行の目的のために必要な範囲に限って、乙自身が本報告書を使用、複製及び改変することを許諾するものとし、著作者人格権を行使しないものとする。

 

(3)共同研究での費用負担

PoC貧乏と同じような問題があるのですが、例えば、大手企業から共同研究の提案を受け、心浮かれた研究開発事業者が何らの取り決めを行うことなく、大手企業から言われるがままにあれこれ業務を遂行し、その成果を報告していたところ、ある日突然共同研究開発を打ち切られ、今までの作業が無駄になった、結果的にノウハウ・技術を無償で提供することになってしまった、という事態が生じています。

このような事態を回避するためにも、共同研究開発を実施する前に何らかの合意書を締結しておきたいところなのですが、上記のような問題を回避するという視点で検討した場合、次のような条項を定めておくことをお勧めします。

なお、PoCと同様、共同研究開発契約書の内容は当事者の利害対立が大きいものとなります。契約書の作成はもちろん、契約交渉過程においても随時相談できる弁護士を付けておきたいところです。

 

【参考条項例】

甲:研究開発事業者 乙:取引候補者

 

第×条(役割分担)

甲及び乙は、本契約に規定の諸条件に従い、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。

①甲の担当:技術者の選任・派遣、試作品の製造

②乙の担当:原材料の調達及び供給、技術指導、試作品の検証テスト及び評価

 

第×条(費用の分担)

甲及び乙は、本契約に定めた各自が担う業務遂行に要する費用をそれぞれ各自にて負担し、両者が共同で行う業務の費用は、甲乙別途協議してその分担を決定するものとする。

 

第×条(研究成果に対する対価)

本研究が所期の目的を達成したときは、乙は、甲に対し、次の定めに従って研究成果に対する対価を支払うものとする。

①試作品が別紙に定める性能を達成したとき:×円

②商品化したとき:商品価格に対する×%

 

第×条(第三者との競合開発の禁止)

甲及び乙は、本契約の期間中及び本契約終了後●年間、相手方の文書による事前の同意を得ることなく、試作品と同一または類似の製品について、本研究以外に独自に研究開発をしてはならず、かつ、第三者と共同開発をし、または第三者に開発を委託し、もしくは第三者から開発を受託してはならない。

 

(4)損害賠償への対応

PoC契約、共同研究開発契約、ライセンス契約など研究開発事業者が他社と何らかの契約を締結する際、ノウハウ・技術(成果)を搭載した商品・役務に何らかのトラブルが生じた場合、原因の有無・程度を問わず、全て研究開発事業者が責任を負担することを求められることがあります。

もちろん、研究開発事業者が提供したノウハウ・技術(成果)に起因するものであれば責任を負わなければならないのですが、全責任を当然に負うというのは一方的と言わざるを得ません。

そこで、損害賠償について一定の制限を課すことができないか検討することになりますが、例えば次のような条項を定めることができないか交渉を行うことが考えらえます。

 

【参考条項例】

甲:研究開発事業者 乙:取引先

 

第×条(保証)

甲は、乙に対し、本契約に基づき開示したノウハウ・技術等を用いた製品の設計・製造・販売について、本契約締結時点において甲が知る限り、第三者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証する。

 

第×条(損害賠償)

1 甲は、本契約に違反して乙に損害を与えたときは、乙に対して当該損害を賠償する責任を負う。但し、乙にも帰責性がある場合、甲は、その責任負担割合に応じた賠償責任を負う。

2 前項の損害賠償の総額は、甲に故意または重大な過失に基づくものである場合を除き、本契約に基づき支払われた報酬額を上限とする。

 

 

<2022年5月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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