ブラック企業と呼ばれないために会社が対処するべき事項について、弁護士が解説!

【ご相談内容】

いわゆるブラック企業と世間一般から言われないために労務コンプライアンスの整備を図ろうと考えています。検討材料として、ブラック企業と呼ばれるきっかけとなった事例や対策等について教えてください。

 

 

【回答】

ブラック企業と呼ばれる企業の典型例は、酷いハラスメント(パワハラ、セクハラ、マタハラ等)が社内で横行しているというパターンです。ただ、これ以外の事例でもブラック企業とレッテルを貼られる場合があります。以下では、その中でも、求人票記載の労働条件と実際の労働条件の齟齬、長時間労働と残業代未払い、退職妨害の3点について解説を行います。

なお、パワハラについては、以下の記事もご参照ください。

 

◆(参考)会社が従業員よりパワハラと言われないために対処法を弁護士が解説!

 

 

【解説】

 

1.ブラック企業

ブラック企業という用語例それ自体は法律用語ではありません。したがって、どういった要件を充足すればブラック企業であるといった厳密な要件があるわけではなく、またブラック企業だから何らかの法律上の効果が生じるということでもありません。

もっとも、このブラック企業というレッテルを貼られると、社内で働く従業員の士気が落ちるなどして社内秩序の維持が難しくなる(離職者が増える、新たな人材が入社してこない、残った従業員もやる気をなくす等)、対外的には問題のある企業としてユーザが離れていく(利用実績のあるユーザが商品購入・サービス利用を控える、風評被害により新規ユーザも増えない等)、その結果として売上減少が生じ、企業の維持・継続が難しくなるといった事実上の悪影響も生じえます。

もともと、ブラック企業という言葉は、労務コンプライアンスに問題のある企業に対して向けられる言葉として世間一般に認知されています。したがって、企業としては、ブラック企業と呼ばれないよう、今まで以上に労務コンプライアンスに気を配る必要があります。

以下では、執筆者が見聞したこれまでの実例を踏まえて、特にブラック企業と言われやすい労務上の問題点をピックアップし、必要な対処法について解説を行います。

 

2.求人票に記載する内容を確認する

 

(1)固定(定額)残業代の記載は注意を要すること

過去話題になった事例として、求人票には「月給25万円」と書いてあるので基本給25万円と期待して申込んだところ、実際には「基本給15万円、固定残業代10万円」であったというものがありました。求職者からすれば騙し討ちにあったということで、一部では社会問題化しました。

このような状況を受け、ハローワークは、固定(定額)残業代が存在するのであれば、基本給とは分けて求人票に明記する運用方針を決め、これに反する求人票の受け付けは行わないという対策をとるようになりました。また、このハローワークの動きを踏まえ、民間の有料職業紹介会社においても同様の求人票記載を求めるようになっています。

間違ってほしくないのですが、いろいろ批判はあるものの、固定(定額)残業代制度を採用すること自体は現行法上問題ありません。したがって、ハローワークも固定(定額)残業代制度を否定しているわけではなく、同制度を採用するのであれば、内訳を適切に明記するよう求めているというだけにすぎません。

要は、基本給があたかも高給であるかのような見せ方(記載)をすることが問題であると理解すればよいかと思います。

 

なお、固定(定額)残業代制度を採用するということは、当然のことながら一定の残業が発生することを意味します。そして、固定(定額)残業代から、企業が想定した残業時間を逆算することが可能です。この逆算の結果、例えば月40時間を超える想定残業時間と算出された場合、今度は過重労働を強いる企業であるとして批判を受けるリスクがあります。

適切に固定(定額)残業代制度を採用するにしても、何時間分の残業時間に相当するのかも意識しないことには、ブラック企業と言われかねないこと注意が必要です。

 

(2)正社員募集と安易に記載しないこと

正社員と非正規社員との待遇差は現実に存在する以上、求職者は可能な限り正社員として採用されたいと考えています。したがって、求人票でも正社員募集と書いたほうが好反応となります。

さて、実は労働法上、正社員という用語例が存在しないため、法律上の定義はありません。しかし、世間一般では正社員とは、定年までという条件はあるものの無期雇用の労働者を指すとされています。このため、「正社員募集」と求人票に書いてあった場合、求職者は無期雇用をイメージしますし、そのイメージは正当に保護されて然るべきものです。

ところが、いざ採用段階となると非正規社員(=有期雇用契約)を打診された、いつの間にか非正規社員での採用となっていた、という事例は多く存在すると言われています。求人票に記載されている労働条件と実際に適用される労働条件が異なることになった場合、やはり労働者は不満を持ちます。そして、こういった不満を持つ労働者が増加していった場合、どこかでその不満情報が流通し(典型的には求人サイトの口コミ)、やがてブラック企業というレッテルを貼られることになります。

 

もちろん、理屈の上では、求人票の記載は、あくまでも広告にすぎず、企業が求人票記載のとおりの労働条件にて採用しなければならないという法的拘束力まであるわけではないと一般的には解釈されています(申込みの誘因と呼んだりします)。

このため、求人票記載の内容と異なる労働契約を締結すること自体は当然に違法と判断されるわけではありません(但し、平成29年3月30日に京都地方裁判所は、求人票記載内容と異なる労働契約書が存在し、その契約書にサインしていたとしても、労働契約書に記載されている契約内容は無効(求人票記載の内容で労働契約が成立していた)とする判決を出しています。事例判断にはなりますが、このような裁判例が存在する以上、求人票記載の内容は当然に労働条件とはならないと言い切ることはできないこと要注意です)

とはいえ、求人票記載内容と異なる労働契約を締結するのであれば、労働者の意思確認を十分に行い、かつ異なることについて労働者が了解したことについて証拠を適切に残すという方法をとる必要があると考えられます。

 

(3)求人手続きである以上、労働者として迎え入れること

労働契約による様々な制約を嫌ってか、求人手続き上で応募のあった求職者に対し、あえて労働者として採用せず、業務委託(=個人事業主)として契約する企業が少なからず存在するようです。

たしかに、上記(2)でも記載しましたが、求人票記載内容と異なる契約を締結すること自体は当然に違法とされるわけではありません。ただ、求人募集=労働者としての勤務募集であるにもかかわらず、労働契約ではなく業務委託契約となると、上記(2)以上に乖離は激しいといわざるを得ません。その意味では、このような提案を行うこと自体がブラック企業であると言われても仕方がないところがあります。

ちなみに、求職者が業務委託を受け入れることについて、よほどしっかりした証拠を残さないことには、業務委託契約ではなく労働契約が成立していたと法的にみなされてしまうリスクは相当高いと考えられます。また、悪質な労働法規制逃れ、又は実態は偽装請負であるとして行政が動いてくるリスクも想定されます。したがって、何か特別な事情(企業のみならず求職者にとってもメリットがある等の納得のいく正当理由)がない限り、求人募集広告を利用して業務委託契約を締結するということは回避したほうが無難です。

 

(4)試用期間を独立した労働契約としないこと

試用期間については、世間の考えと法的な考えのズレがあるといわれています。すなわち、法的に見た場合、試用期間とは、あくまでも労働契約に定められている一期間中における、ある一部分の期間のことを指すにすぎず、試用期間であろうと試用期間以後であろうと同じ労働契約が継続していると考えます。このため、試用期間満了は労働契約期間の満了ではなく、試用期間満了をもって辞めてもらおうとするのであれば、あくまでも解雇手続きをとる必要があります。

一方、世間的には試用期間は、企業と労働者の相性や能力を確かめあう期間という意味が強く、企業からすれば試用期間満了時点で労働者の能力や性格上問題があると判断した場合、当然に辞めてもらえるという認識を持っていることが多いように思われます。しかし、上記の通り法律的には間違いといわざるを得ません。

このような法律と世間の考えを埋め合わせる方策として、試用期間に相当する有期雇用契約を締結し、試用期間満了時点で問題のある労働者については解雇することなく期間満了で退職させる、問題のない労働者については、改めて無期雇用契約を締結するという2本立ての契約で対策するという方法が一部で用いられるようになりました。この方法についても、結局のところは、求人票を見て応募してきた求職者が納得の上で労働契約を締結したというのであれば、当然に違法というわけではありません。ただ、試用期間あり=有期雇用契約を別途締結するという世間常識があるとは言えませんので、労働者の了解と証拠確保が重要である点では上記(2)(3)と同じ問題といえます。

企業としては問題ない上手な対応であると考えていても、試用期間満了時点で退職することになった労働者が声を大きくした場合、世間的にはブラック企業であると言われるリスクは生じます。

 

3.残業代未払いに注意する

 

(1)年俸制であっても残業代は発生すること

どういった理由で広がったのか分かりませんが、年俸制を採用した場合は、いくら働かしても残業代を支払わなくてもよいという誤解が今でも一部では続いています。しかし、これは間違いというほかありません。

なお、欧米では一定額以上の年俸を支払っている場合は残業代を支払わなくてもよいとする法制度を設けている国も存在するようです。そこで、外資系企業などに多いのですが、この欧米の制度をそのまま日本国内で導入し、「高額の年俸を支払っている以上、この年俸の中には残業代を含んでいる」という主張を行ってくる場合があります。たしかに、実はこのような主張が認められた裁判例も過去には存在しましたが、非常にレアケースであり、この裁判例に続く裁判例が皆無の状態です。したがって、一定額以上の年俸を支払っているから残業代は支払う必要がないと認識することは、現時点では誤りと考えたほうが良いかと思います。

いずれにしましても、成果主義をベースとした年俸制を採用している、働く時間に制限はないが残業代は出ない…ということをアピールした瞬間、ブラック企業と言われますので要注意です。

 

(2)部長・課長は管理監督者ではないこと

社内・組織体制上の職位として部長職や課長職などの上長を置くこと、これ自体は全く問題ありません。ただ、残業代を支払わなくてもよいとされる労働基準法上の「管理監督者」に、このような部長や課長が該当するかは全く別問題です。部長や課長職に就いていれば問題ないと考えている方もいるかもしれませんが、残念ながら肩書や名義付与だけでは該当するとはいえません。

どういった労働者が労働基準法上の管理監督者に該当するのかについては、いろいろと考え方があるのですが、ただ、正直なところ、現在の裁判実務を踏まえると「管理監督者」に該当する労働者はほぼ皆無ではないかと思われます。したがって、長時間労働に伴う残業代対策として、役職を付与することで対応するという方針はとらないほうが無難です。

ちなみに、いわゆるマクドナルドの店長が管理監督者に該当しないという裁判例が出されて以降、対策として講じられたのは、部長職や課長職の労働者を管理監督者と捉えるのではなく、管理職手当を固定(定額)残業代と位置づけて残業代をあらかじめ支払うという方策だと言われています。ただ、固定(定額)残業代である以上、基本給や他の手当てと明確に分離され、何時間分の残業に該当するのか、超えた場合は清算する(超過分を支払う)といった運用を適切に行う必要があります。

とにもかくにも、単に管理職手当を支払っていたから、残業代を支払っていたとはならないことに注意が必要です。

 

4.退職妨害と言われないようにする

 

(1)労働者からの退職申出に対する有効な法的対策は無いこと

中小企業では、代替の従業員を確保するだけの余裕がないことから、いきなり労働者から退職の申出を受けても、簡単に応じるわけにはいかないという実情があります。このため、企業の維持継続のためには、翻意するよう説得することはありうる話であり、これ自体は特に問題ありません。しかし、労働者が強く退職を申し出ているにもかかわらず、企業が何かと理由をつけて退職させないとなると問題があり、ブラック企業と言われかねません。

したがって、労働者の退職意思が固い場合、企業としても諦めざるを得ないことになります。

さて、この退職妨害に関し、最近よく問題になっているのが引継ぎ業務を一切せず有給消化満了をもって退職するという申し出への対応です。企業からすれば、引継ぎもせずに退職することなど責任感欠如も甚だしいし、怒って当然だと思います。ただ、残念なことに、法律は有給消化満了をもっての退職、その結果として引継ぎ業務を行わないことによる退職を違法としていません。そして、労働者の退職申出によって社内に混乱が生じたとしても、企業は損害賠償請求することは困難です。

したがって、結論的には労働者の退職申出を受け入れざるを得ないのが実情です。

なお、時季変更権の行使については、時季変更権を行使したところで退職日が決まっている以上、他に割り当てる年次有給休暇日が存在しないので行使のしようがありません。このため、有給満了をもって退職する場合に時季変更権で対抗するということはできことに注意が必要です。

 

(2)労働者からの一方的退職申出に対して責任追及することは困難であること

一般的な継続的契約、例えば賃貸借契約の場合、一方の都合による中途解約は原則認められません。労働契約も継続的な契約である以上、同じ理屈が当てはまるはずなのですが、法律は大幅な修正を加えています。

一言でいうと、労働者はいつでも労働契約を終了(=退職)させることができます。ただ、いきなり今日とか明日では困りますので、2週間の予告期間を設けた上で退職可能という体裁をとっています。この労働契約終了(=退職)の申し出については、残念ながら事業者に拒絶権はありません。このような法制度になっている以上、突然退職を切り出したこと自体が違法であるとして、事業者が労働者に対して責任追及を行うということはおよそ不可能です。

退職されて困るというのであれば、労働者に対し、引き続き勤務するよう説得をするほかないのですが、その説得方法として、法的には請求困難であるにもかかわらず損害賠償請求を行うといった脅迫的な言動を用いることが最近では問題になっています。あくまでも、会社にとって必要な人材であるという点を強調して翻意を促すということを意識するべきです。

 

 

<2020年11月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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