労働条件を変更する場合の手順とは? 手続きの進め方等について弁護士が解説!

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【ご相談内容】

昨今の社会情勢への対応や、高齢者雇用に伴う賃金負担額の増大防止を図るべく、当社では年功序列型人事制度ではなく、職務型(ジョブ型)人事制度への転換を考えています。

ただ、職務型(ジョブ型)人事制度を進めるに当たり、一部手当の廃止や基本給の見直しを実施せざるを得ず、また一部労働者は結果的に賃金減額となり得ることから、反発や混乱も予想されるところです。

合法的に労働条件を変更するための方法や手続きを教えてください。

 

 

【回答】

労働条件の変更=労働契約の内容を変更したい場合、使用者(事業者)と労働者と協議して、相手の同意を得るというのが大原則であり、この原則論は他の契約と同様です。

もっとも、労働契約の場合、たとえ労働者が反対していても、使用者(事業者)が一方的に就業規則を変更することで労働条件を変更できる場合があり、他の契約にはない特殊性があります。

本記事では、まずは原則論である労働者からの同意を得る場合の方法や注意点を解説します。そして、例外論ではあるものの、現場実務では実施することが多い就業規則の改定による労働条件の変更の仕方や注意点を解説します。

なお、労働組合が存在する場合、たとえ個々の労働者より同意を得なくても、労働協約を締結することで労働条件を変更することが可能です。ただ、中小企業の場合、そもそも労働組合が存在せず、あるいは存在したとしても全労働者のうちごく一部しか加入していない少数組合であることがほとんどです。したがって、本記事では労働協約を用いた労働条件変更手続きについては触れないこととします。

 

 

【解説】

 

1.労働者から同意を得て労働条件を変更する方法

 

一度合意した契約内容を変更したい場合、相手当事者=労働者から同意を得ることが法律の大原則となります(労働契約法第8条)。

ここでは、就業規則が制定されていない場合と就業規則が制定済である場合とに分けて、検討を行います。

 

(1)就業規則が制定されていない場合

頭書にも記載した通り、労使双方が合意することで労働条件を変更することが可能です(労働契約法第8条)。

この合意の方法について、労働契約法では特に手段を定めていません。したがって、口頭での合意でももちろん問題ありません。ただ、口頭での合意の場合、合意があったことを裏付ける証拠が確保できないことから、書面による合意を行うことが通常です。

 

では、労働条件を変更する旨定めた書面に、労働者が署名押印しさえすれば問題ないといえるのでしょうか。

というのも、労働者の使用従属性、すなわち労働者は非常に弱い立場にあることから、単に書面による同意を得ていただけでは不十分と考えられる場面もあるからです。例えば、本心では労働条件の変更に納得していなかったものの、使用者(事業者)からの不当な仕打ちを恐れ、受け入れざるを得ない立場にあるといった場合です。

このような実情を考慮し、裁判の場面では、労働者からの同意の有無につき、かなり厳格に判断されています。有名な最高裁判例である平成28年2月19日判決(山梨県信用組合事件)では、一般論として次のように判断しています。

使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服すべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである。

そうすると、就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である。

 

ところで、上記の山梨県信用組合事件では、退職金の変更に関し、労働者より同意書面を取得していました。そして、この同意書面の取得に際し、使用者(事業者)側が無理やり書かせた、圧力をかけた等の事実は存在しないようです。

しかし、最高裁は次のように判断しています。

(労働者)が本件基準変更への同意をするか否かについて自ら検討し判断するために必要十分な情報を与えられていたというためには、(労働者)に対し、旧規程の支給基準を変更する必要性等についての情報提供や説明がされるだけでは足りず、自己都合退職の場合には支給される退職金額が0円となる可能性が高くなることや、…同意書案の記載と異なり著しく均衡を欠く結果となることなど、本件基準変更により(労働者)に対する退職金の支給につき生ずる具体的な不利益の内容や程度についても、情報提供や説明がされる必要があったというべきである。

…したがって、本件基準変更に対する(労働者)の同意の有無につき、上記…のような事情に照らして、本件同意書への(労働者)の署名押印がその自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する(とは言い切れない)。

 

要は、労働者から同意書面を形式的に取得したとしても、それだけでは不十分であると最高裁は判断したことになります。

もちろん、最高裁の判断は個別具体的な事件に対するものであり、一律に同意書面だけでは不十分と言っているわけではありません。

しかし、このような判断が示された以上は、労働者に不利益がある労働条件の変更を実施する場合、使用者(事業者)は次のようなスタンスが求められると考えられます。

 

  • 労働条件を変更する必要性の説明(例:会社の存亡の危機にある、賃金配分の適正化を図る等)
  • 労働条件の変更内容、特に労働者にとって不利益となる変更内容の開示(例:人事評価によっては最大で×%の賃金減額があり得る等)
  • 労働者に対する聴聞の機会付与(例:全体説明会を開催し、他の労働者が監視する状況下での意見交換を行う等)
  • 個々の労働者からの意見表明の機会付与(例:全体説明会では意見しづらい場合を考慮し、労働者が個別に質問・要望を伝えることができる体制を構築する等)

 

なお、使用者(事業者)が労働者に対して説明するに際し、口頭やスライドのみでは、労働者はその場限りでしか検討できず、十分な熟慮期間を付与したとは言い難いと考えられます。

したがって、できる限り書面等の媒体物を労働者に提供する形式が望ましいといえます。

もちろん、当該書面等が取引先等の第三者に開示された場合、会社経営に悪影響を及ぼす可能性がありますので、当該書面は社外秘扱いにするといったことも合わせて検討する必要があります。

いずれにせよ、労働者より労働条件の変更に対する同意を取得する場面は、かなり慎重に行う必要がありますので、弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めします。

 

さて、上記は、労働条件を変更するにあたり、労働者より明示的な同意を取得する場合の注意点の解説でした。

では、明示的な同意を得られなかった場合、労働条件を変更ことは無理なのでしょうか。

この点については、2つの視点で検討することになります。

①労働者が黙示的に同意したとして取り扱うことができないか

②就業規則を新たに制定することで対処できないか

 

まず、①ですが、明示的な同意取得においても厳格な判断が行われている状況下では、労働条件の変更につき黙示的な同意を得たと評価できる場面は、かなり制限されるものと考えられます。

現場実務でよくあるパターンとしては、使用者(事業者)が労働条件を変更し、労働者も特段異議を述べずに一定期間が経過している事例において、労働者が黙示的に同意していたと評価できないかといったものがあります。

ただ、結論として、正直黙示の同意があったと考えるのは難しいと思われます。労働条件の変更内容につき説明を行ったことは当然の前提として、変更によって労働者が被る不利益について具体的に指摘し労働者に十分認識させているか、労働者からの意見・要望等のヒアリングの機会を設けたか、労働者からの意見・要望等に対して使用者(事業者)が適切な回答を行っているか等々の事情を考慮して判断することになります。が、往々にして、現場実務では使用者(事業者)が一方的に変更内容を説明して終わり…に過ぎず、裁判の場面にまで持ち込まれると、使用者(事業者)は苦戦を強いられることになりがちです。

 

次に、②ですが、理論的には考え得る対処法となります。

なぜなら、就業規則は労働者の同意の有無を問わず、使用者(事業者)が一方的に制定することができるからです。

ただ、この方法を用いる場合、後述2.で解説する就業規則の不利益変更に準じた手続きを実施する必要があると考えられます(厳密には、就業規則の変更ではないのですが、明文化されていないものの労働者に一律に適用される労働条件を変更する場面に該当するので、就業規則の変更手続きを定めた労働契約法第10条を類推適用することになります)。

全労働者からの同意が得られず、やむなく就業規則を制定することで労働条件の変更を図る場面が想定されるところ、非常にシビアな問題となりますので、是非弁護士に相談してほしいところです。

 

(2)就業規則が制定済みである場合

就業規則が存在する場合であっても、労働者から同意を得ることで、労働条件を変更することが可能となります。

ただ、この場合に注意するのは労働契約法第12条の存在です。

就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

 

例えば、就業規則上は××手当を支給すると定めている場合、個々の労働者より××手当の支給を廃止する旨の同意書面を取得したとしても、この同意は無効となります。

どうしても××手当の支給を廃止したい場合、就業規則を変更する必要があります。現場実務を見ていると、就業規則の中身を十分に確認しないまま、労働者からの個別同意のみで対処し、後で問題点を指摘されるというパターンが非常に多いので注意が必要です。

 

なお、就業規則が制定されているにもかかわらず、労働者からの個別同意を取得して労働条件の変更を実施する場面は、かなり限定されると考えられます。

例えば、次のような場面です。

・職務内容を限定する労働契約を締結していた労働者との間において、職務内容の限定を外すことに合意し、労働条件を変更する場合

・就業場所を限定する労働契約を締結していた労働者との間において、就業場所の限定を外すことに合意し、労働条件を変更する場合

・基本給など具体的な賃金額が就業規則上定められていない場合において、基本給の一部カットに同意し、労働条件を変更する場合(賃金規程等で賃金テーブルを定めるなどして具体的な賃金額を定めている場合は、就業規則(賃金規程)の変更手続きを実施する必要があります。ここで記述しているのは、例えば「基本給は、労働者の職務内容、技能、勤務成績、年齢を考慮して各人別に定める」とだけ就業規則に定められているにすぎず、具体的な賃金額を算出できない場合のことを指しています。)

 

 

2.就業規則の変更手続きを通じて労働条件を変更する方法

 

(1)就業規則とは

就業規則とは、多数の労働者との労働条件や職場規律を画一的・統一的に処理することを目的として定められた規則のことをいいます。

この就業規則は、次に掲げる通り、必ず明記しなければならない事項(絶対的必要記載事項)と、制定するのであれば明記しておく必要がある事項(相対的必要記載事項)との2種類に分類されますが(労働基準法第89条)、一般的には就業規則を作成する場合、絶対・相対に関係なく全てを明記します。

・始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項

・賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項

・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)

・退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

・臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項

・労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項

・安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項

・職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項

・災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項

・表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項

・当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

 

上記の中でも、「労働時間」、「賃金」、「退職手当」の変更については、なかなか全労働者からの同意を得ることが難しいという実情があります。このため、就業規則の変更手続きを実施することで、労働条件の変更を行うことが多いようです。

 

(2)就業規則の変更手続きによる労働条件変更の有効要件

形式的には、使用者(事業者)のみで就業規則の変更手続きを実施することが可能とされていますので、結果的に労働条件も使用者(事業者)都合で一方的に変更可能ということになります。ただ、これでは色々と問題があるということで、労働契約法は次のような制限を設けています。

第9条

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

 

第10条

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

 

就業規則を使用者(事業者)都合で一方的に変更したところで効力は認めない、したがって労働条件を変更することはできないことが原則となります。

もっとも、変更後の内容を「周知」させることを前提しつつ、次の事項を考慮し「変更が合理的」と認められる場合には、例外的に就業規則の変更が有効となり、したがって労働条件の変更が可能という建付けとなっています。

  • 労働者の受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情

 

ところで、労働契約法第9条及び第10条は、労働者にとって「不利益」となる場合に適用される条文であって、労働者にとって「有利」な変更となる場合は、そもそも適用がありません。

それでは、極一部の労働者にとっては不利とはなるが大多数の労働者にとっては有利となる就業規則の変更の場合、あるいは全労働者にとって有利に作用する事項もあれば不利に作用する事項がある場合はどうするのか、という疑問を持つかもしれません。

結論から言いますと、いずれの事例であっても「不利益」な変更が行われるものとして、労働契約法第9条及び第10条の適用があります。

要は、各労働者にとって一部でも不利益な変更内容が含まれている場合は、全て就業規則の不利益変更の問題として処理することになります。

 

(3)合理性判断のための考慮事項

上記(2)で記載した合理性を判断するための考慮事項ですが、労働契約法第10条では並列的に定められているものの、実際の裁判例を参照する限り、

①労働者の受ける不利益の程度と労働条件の変更の必要性を比較検証する

②労働者の受ける不利益の程度と、変更後の就業規則の内容の相当性を比較検証する

③労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情を補充的に考慮する

という判断手法がとられていると考えられます。

 

労働者の受ける不利益の程度と労働条件の変更の必要性の比較検証について

この2つの考慮事項は相関関係に立ち、例えば、労働者の不利益の程度が重いのであれば、労働条件の変更につき高度の必要性が求められる、一方労働者の不利益の程度が軽いのであれば、労働条件の変更につき業務上の必要性があれば足りる、とされています。

具体的には、次のようなものが考えられます。

・賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利の不利益変更の場合、高度の必要性が求められる(例えば、経営危機による倒産回避の必要性、合併による労働条件統一の必要性、定年延長に伴う高年齢者の賃金是正の必要性、人件費総額に変更が無いことを前提に能力主義・成果主義賃金制度導入による労働生産性向上の必要性などについては、高度の必要性ありと認定されやすい傾向)

・労働時間、休日、休暇の変更についても、高度の必要性に準じた変更の必要性が求められる(例えば、完全週休2日制を実現するために、総労働時間を変動することなく1日当たりの労働時間を数十分程度増加させる場合は変更の必要性有と認定されやすい傾向)

・福利厚生など労働者にとって比較的軽微な不利益変更の場合、業務上の必要性があれば足りる(例えば、会社の経費削減の観点から表彰規定を削除する場合であれば業務上の必要性有と認定されやすい傾向)

 

労働者の受ける不利益の程度と変更後の就業規則の内容の相当性の比較検証について

この2つの考慮事項についても相関関係に立って判断しますが、「変更の必要性」が総論的な議論であるとすれば、「変更後の内容の相当性」については個別具体的な各論として機能する考慮事項となります。

どういうことかというと、例えば、賃金削減を実施する理由として、会社が倒産の危機に瀕しているというのであれば、変更の必要性が労働者の受ける不利益を上回り優先されると考えられます。もっとも、賃金削減の対象となる労働者階層について、50歳までは10%の削減、51歳以上は30%の削減といった年齢層だけを基準とした変更内容であった場合、特定層への不利益が大きすぎることから変更内容の相当性を欠くのではないか、という検証を行うことになります。

なお、上記のような事例の場合、変更内容の相当性を欠くという判断に流れやすいことから、激変緩和のための経過措置を講じる、代償措置を講じるといった対策を使用者(事業者)は行うことで、変更内容の相当性につき補強を行うことが通常です。

 

労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情について

裁判例を検討する限り、就業規則の不利益変更に伴う労働条件の変更について、たとえ多数組合との間で合意が得られていたとしても合理性なしとして変更を認めなかった事例が存在します。したがって、多数組合、労働者の大多数から同意が得られたことのみをもって、就業規則の不利益変更につき合理性ありと判断されると考えることは禁物です。

もっとも、多数組合や労働者の大多数から同意が得られたということは、労使間で誠実な交渉が行われたこと、使用者(事業者)が労働者側に十分な情報提供と説明を行ったことを推認させる一事情にはなると考えられます。この観点からすれば、就業規則の不利益変更に伴う労働条件の変更を行うにあたっては、できる限り労働者より多くの同意を得ておいたほうが合理性を維持しやすいと考えられます。

 

(4)ご相談事項への当てはめ

職務型(ジョブ型)人事制度導入による職務給制度への変更を内容とする就業規則の不利益変更を行う場合、ケースバイケースの判断が必要なのですが、例えば、

  • 労働者に支払う賃金の配分方法を効率的にすること(経営上の必要性)
  • 賃金原資総額を減少させるものではないこと(労働者の受ける不利益の程度)
  • 職務に対する業績評価及び人事評価制度が適正であること、賃金減となる労働者に対して一定期間の調整手当支給等の経過措置が設けられていること(変更内容の相当性)
  • 半数以上の労働者が賃金の増減なし、1~2割程度が賃金増となり、残り1~2割程度が賃金減となる制度であること(労働者の受ける不利益の程度)
  • 9割以上の労働者からの賛同を得ていること(その他変更に係る事情)

といった事情があるのであれば、就業規則の不利益変更であっても合理的と判断されやすいのではないでしょうか。

 

 

3.労働者本人からの同意と就業規則の変更との関係

 

前記2.(3)において、就業規則の変更につき多数の労働者より同意を得たとしても、これだけで合理性ありと当然に判断されるわけではないと記述しました。

では、全労働者が就業規則の不利益変更に同意している場合であっても、合理性の判断に影響を与えるのでしょうか。

この点、全労働者が同意しているのであれば、就業規則の不利益変更に対する合理性の問題を検討する必要はないとされています。

ちなみに、前述した最高裁判決である平成28年2月19日判決(山梨県信用組合事件)でも、「労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができるものであり、このことは、就業規則に定められている労働条件を労働者の不利益に変更する場合であっても、その合意に際して就業規則の変更が必要とされることを除き、異なるものではない」と判断していることから、全労働者が就業規則の不利益変更に同意しているのであれば、合理性の有無を問わないという立場と考えられます。

したがって、就業規則の不利益変更を行うに際しては、

  • 全労働者より同意を得ることを目指す(就業規則の不利益変更が合理的な否かの問題を回避する)
  • 多数の労働者より同意を得ることを目指す(合理性ありと判断するための補充的な考慮要素を確保する)
  • 少数の労働者より同意を得られなかった場合は、合理性を判断するための他の考慮要素(必要性、不利益の軽減、内容の相当性)の充足性を重視する

という視点が重要になると考えられます。

 

 

4.弁護士関与の重要性

 

労働条件を変更することは、労働者の利害得喪に直結する事項であり、使用者(事業者)が思っている以上にナーバスな問題です。

軽い気持ちで労働条件の変更を提案した場合、労働組合を結成されて労使関係がぎくしゃくしたり、労働条件の変更手続きを強引に進めた場合、後で手痛いしっぺ返し(多額の金銭支払い等)をくらうこともあります。

労働条件を変更したいと考える理由は様々だと思いますが、変更したいな…と考えたときがまさしく弁護士に相談するタイミングです。

弁護士と相談しながら、うまく労働条件の変更手続きを進めてほしいところです。

 

 

 

 

<2022年10月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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