ジョブ型雇用導入に際しての注意事項について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社では、職能資格制度の見直し及び年功序列型賃金の廃止を経営方針とし、人事体系の見直しを図っているのですが、最近ジョブ型雇用という制度が注目を浴びていると聞き及びました。

職務給、職務等級制度等についてなんとなくイメージができるのですが、どういった法律上の問題点が潜んでいるのか今ひとつわかりません。

ジョブ型雇用を導入するにあたり、法務上どういった点に注意するべきか教えてください。

 

 

【回答】

ジョブ型雇用とは、職務=業務内容に注目し、職務に応じた賃金を支給するという特徴を有する雇用制度となります。

このジョブ型制度はつい最近開発された雇用制度ではなく、欧米では従来より存在し当然のように用いられていることから、日本の雇用制度(終身雇用、年功序列、ジョブローテーションを前提とした総合職の存在など)改革の一環として、急激に注目を浴びるようになりました。

もっとも、日本の従来型人事体系である職能資格制度からジョブ型雇用の特徴である職務等級制度への変更は、かなり大きな変革を伴うものであり、労働者によっては賃金減額が生じるなどの不利益変更の問題が付きまといます。

また、ジョブ型雇用を導入するに際しては、抽象的な職種(例えば営業職や職人といった分類)ではなく、個別具体的な業務内容を検証し体系化する職務分析・職務評価を必要とするところ、この職務分析・職務評価は一朝一夕で対処できるものではありません。そして何より職務記述書と呼ばれるものを作成し、従事するべき具体的な職務と期待する職責を明確にする必要があるところ、少なくとも日本国内では職務記述書の作成方法について十分に普及しておらず、何を書けばよいのか分からないという現場の声も散見されるところです。

本記事では、ジョブ型雇用を導入するに際して留意するべき事項につき、法務視点を中心としつつもそれのみに限定することなく、ポイントの解説を行います。

 

 

【解説】

 

1.ジョブ型雇用の背景

 

ジョブ型雇用が注目を浴びている背景事情としては、日本型の雇用慣行、すなわち年功序列型賃金制度では運用が困難になっているという点があげられます。すなわち、既に高度経済成長が終了し少子高齢化が進む現在の日本では、企業における収入は増えないにもかかわらず、賃金負担額だけが増大する事態に陥っており、何らかの歯止めをかけることが喫緊の課題となっています。

また、やや近視眼的な観点から考えた場合、ジョブ型雇用を前向きに検討したほうが良いという事情もあります。例えば、次のような点です。

 

①同一労働同一賃金への対応

いわゆる働き方改革により「(日本型)同一労働同一賃金=均等待遇・均衡待遇」が法的に義務化されたことはご存じのとおりです。

まず誤解のないよう指摘しておくと、同一労働同一賃金(均等待遇・均衡待遇)はジョブ型雇用の導入を義務付けるものではありません。ただ、例えば、同一労働同一賃金のガイドラインでは、

  • 「各事業主において、職務の内容や職務に必要な能力等の内容を明確化するとともに、その職務の内容や職務に必要な能力等の内容と賃金等の待遇との関係を含めた待遇の体系全体を…労使の話合いによって確認」することが肝要であること
  • 「今後、各事業主が職務の内容や職務に必要な能力等の内容の明確化及びその公正な評価を実施し、それに基づく待遇の体系を、労使の話合いにより、可能な限り速やかに、かつ、計画的に構築していくこと」が望ましいこと

と記述されていることを踏まえても、今後の政府の方針はジョブ型雇用を念頭に置いていることは明らかと考えられます。

そして、今般の同一労働同一賃金(均等待遇・均衡待遇)へ対処する方法論として、ジョブ型雇用は親和性があることは間違いありません。

 

②無期転換後の正社員との処遇格差への説明

有期雇用労働者は、一定条件を満たすことで無期雇用の正社員になることができる法制度が既に施行され数年経過しています。

ところで、従来より存在する正社員と無期雇用転換後の正社員とでは、もともと期待される役割や業務内容が異なるところ、同じく正社員と表現されることから、なぜ賃金その他処遇格差が生じるのかやや説明がしづらいところがありました。しかし、無期転換後の正社員についてジョブ型雇用とした場合、従事する職務の範囲や内容とそれに対する対価との関係性が明確となり、賃金その他処遇格差を説明する1つの事由になると考えられます。

無期転換後の正社員については、職務限定契約(限定正社員)として位置付けることになりますが、妥当な人事及び賃金体系を構築しやすくなります。

 

③テレワークへの対応

テレワークの場合、管理者が労働者を勤務時間中に常時監視できるわけではありませんので、必然的に業務遂行により生じた成果によって人事評価を行うことになります。

この点、ジョブ型雇用とし、担当するべき職務内容と責任(成果)を明確にすることができるのであれば、テレワークによる人事評価が容易となります。もちろん、テレワークにおいて実施可能な職務内容をどのように設定するのか職務分析と評価が重要となりますが、成果という客観的指標にて評価が可能となるため、業務遂行結果を重視するテレワークとジョブ型雇用は非常になじみの良い人事制度と言えます。

なお、念のため付言しておきますが、ジョブ型雇用を採用したからといって、テレワーク中における労働時間管理が容易になるわけではありません。この点は注意が必要です。

 

その他にも、例えば定年後再雇用においてジョブ型雇用を導入した場合、定年後再雇用の労働者の人的属性を考慮することなく、当該労働者が遂行する職務に対して賃金を支払うことになりますので、定年前と定年後とに担当業務に差異を設けることができる場合、再雇用後の賃金減額の合理性を説明する1つの理由として用いることが可能となります。

そして、何よりジョブ型雇用は実は中小企業のほうが導入しやすいという事情もあると思われます。

すなわち、大企業であればジョブローテーション、すなわち総合職として色々な業務を経験させジェネラリスト人材を作り上げていくことが多いのですが、中小企業の場合、ジョブローテーションはもともと予定されていないことが多く、業務内容の変更を伴う配置転換も実施されないことが通常です。したがって、中小企業の場合、その職務に結び付いたスペシャリスト人材を(意図的ではないにせよ)育てていることになり、職務給をベースとするジョブ型雇用に馴染むという実態があります。

 

 

2.ジョブ型雇用導入に際して最初に検討するべき事項

 

(1)職務給の導入

ジョブ型雇用とは、ジョブ=職務を特定・指定した雇用契約のことをいいます。したがって、職務を遂行したことに対して賃金が支払われることになります。ここで重要なのは、誰が職務を遂行したかによって賃金に変動が生じるわけではなく、当該職務を遂行すれば誰であっても同じ賃金が支払われることが原則となります。

この結果、属人的な要素を一切捨象した「職務」により区分され、職務ごとで職務給が設定されることになります。もちろん、当該職務を効率よくこなして人一倍の成果を出す者もいれば、適当にこなしてそれ相応の成果しか出さない者もいますので、実質的公平の観点から、賃金レンジを設けた上で、業績評価(ここでいう業績評価とは会社の業績のことではなく、職務を遂行した労働者の業績評価のことです)に応じたランク分けを行い、支給する賃金の差を生み出すことも可能です。

では、職務給でいう「職務」とは何を指すのでしょうか?

一般的には営業職、事務職、現場職、管理職、外勤職…といったものをイメージするかもしれません。しかし、職務給における職務とは上記のような抽象的なものを指しません。もっと個別具体的な従事するべき業務内容といえばよいのでしょか、例えば営業職と一口でいっても、マーケティング計画、宣伝広告(広報)、販促活動、受注対応、クレーム・返品処理、請求書発行指示などなど様々な業務が含まれています。また、さらに細分類化すると、例えば一口に販促活動と言っても、訪問営業(得意先回り、新規飛込み)、電話営業、提案営業、DM、接待、コンペ、入札、キーワード選定(WEB)、SNS上の投稿、UIの設定・修正などなど、やはり色々な業務が含まれています。

要は、会社として営業職に求めている業務内容を洗い出し(細分類化し)、当該業務の遂行により会社が期待する成果や責任をリンクさせること、これらを包含するものを職務給での「職務」と呼びます。

そして、この職務の洗い出し、成果や責任を明確にすることを、一般的に「職務分析・職務評価」と呼んでいます。

 

(2)職務分析、職務評価とは

識者によって職務分析・職務評価の定義づけが異なっていたり、職務分析・職務評価という言葉のいずれか又は全部を用いなかったり、職務分析・職務評価を一体化して用いたり等々バラバラなところがあるのですが、本記事では、職務分析=従事するべき業務内容の洗い出し・細分類化を行う作業のこと、職務評価=職務ごとの価値を割出した上で社内での序列・ランク付けすること、という意味で用いることにします。

 

・職務分析の方法

職務分析に方法は色々ありますが、本記事を執筆した2022年1月時点でとりあえず参考資料として入手しやすいのは、厚生労働省が公表している「職務分析実施マニュアル」ではないかと思います(なお、職務分析マニュアルはもともと非正規労働者と正社員との同一労働同一賃金(均等待遇・均等待遇)実施のための資料であり、ジョブ型雇用の資料として作成されたものではないことに注意が必要です)。

職務分析実施マニュアルを参照しながら職務分析を行う場合、おそらくは「インタビュー法(職務説明書を活用した職務分析)」を用いたほうが理解しやすいと考えられることから、以下では簡単に要点のみ記載します。

【ステップ1】情報の収集

・「日々の業務」をすべて聞き出す

・「業務の目的」を聞き出す

・必要な「知識・技能」をどのくらいの期間で習得したのかを聞き出す

・与えている「権限・責任」を聞き出す

※執筆者注:いきなり上記のようなインタビューを労働者に行っても、おそらくは当該労働者も困惑し、何を回答すればよいのか分からないという事態に陥ることが想定されます。本来ジョブ型雇用は、会社が職務を定め期待する成果や責任を明確にすることが前提です。したがって、ある程度会社より誘導してインタビューし、回答を得やすくする工夫が必要です。なお、業務内容の細分類については、厚生労働省が公表している「職業能力評価基準」を参照しつつ、具体的な業務内容例を労働者に開示するのも一案です。

 

【ステップ2】情報の整理

・主な業務を抽出する

(①その職務の特徴を表しかつ無くてはならない業務であること、②その成果が事業に対して大きな影響を与える業務であること、③その労働者の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務であること、に該当するものを主な業務とする)

・権限・責任の程度

(①どのような権限を与えているのか、②業務の成果についてどのような役割を与えているのか、③トラブル発生時や臨時・緊急時はどこまで対応するのか、④どの程度の成果を出すことを期待しているのか、を考慮して決める)

※執筆者注:情報整理を行うに際し、労働者それぞれにおける属人的な差異を排除し、共通項を抜き出していくことを第一義に置いた方が作業を進めやすいと思われます。なお、属人的な差異については、最終的には業績評価として賃金差異が生じる要素と整理しておけばまずは十分です。

 

【ステップ3】職務説明書

※執筆者注:後述する通り、ジョブ型雇用の場合は職務記述書の作成が事実上必須となるため、あえて職務説明書を作成する必要はないと考えます。

 

上記のような職務分析を行い、業務内容の細分化と再定義を行ったうえで、職務を決めていくことになります。

 

(参考)

職務分析実施マニュアル(厚生労働省)

 

職業能力評価基準について(厚生労働省)

 

・職務評価

職務分析を通じて明らかとなった「職務」について、社内での序列・ランク付け(最終的には職務ごとに賃金差異を生み出す)を行うことになります。ただ、例えば、やや抽象的な例となりますが、営業職と現場製造職とのどちらが優れているのかについて、安易に判断でできるものではないことは明らかです(ほんとどの人は、売るものがなければ営業職は成り立たない、売る人がいなければ製造職は成り立たないとして、価値の優劣をつけることができなのではないでしょうか)。

ちなみに、職務評価の分析手法として、序列法、分類法、点数方、要素比較法など様々なものが存在しますが、これとて素人が簡単に理解できるものではありません。

きっちり適切に評価するのであれば、専門家に依頼した方が良いかと思いますが、世間相場的な1つの指標をあげるとすれば、例えば、厚生労働省が公表している派遣労働者の賃金水準(いわゆる労使協定方式にて派遣料を定める場合の賃金水準のことです)を参照するのも1つの考え方かもしれません。但し、上記厚生労働省の資料は、あくまでも同一労働同一賃金(均等待遇・均衡待遇)に関するものであることに注意が必要です。

 

(参考)

派遣労働者の同一労働同一賃金について(※労使協定方式(労働者派遣法第30条の4)「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」について)(厚生労働省)

 

(3)職務記述書の作成

・職務記述書とは

上記2.(2)で少し触れましたが、職務記述書とは、職務分析を通じて明らかとなった職務の目的、内容(業務内容、業務量、業務環境、業務時間、業務手順など)、担当する人材に必要となるスキル・資格・要件、責任・職責等をまとめた書面のことをいいます。

この職務記述書ですが、法律上作成しなければならない書面ではありません。また、法律上作成が義務付けられている労働条件通知書(労働基準法第15条)とは異なる書面です。あえて言えば労働条件通知書に記載しなければならない「従事すべき業務の内容」について細分化しかつ具体化したものであって、労働者が業務遂行するに際して指針となるものと言えばよいかもしれません。

職務記述書は法律上の作成義務はありませんが、ジョブ型雇用(職務等級制度)を採用する場合、事実上作成する必要があります。なぜなら、ジョブ=職務が明らかにならないことには、ジョブ=職務を遂行したか否か判断ができず、業績評価及び人事評価はもちろんのこと、最終的には賃金の算定及び支払いのしようがないからです。その意味では、職務記述書はジョブ型雇用を支える根幹となるものといっても過言ではありません。

 

・職務記述書に記載する内容

「職務記述書」でWEB検索を行うと、様々な書式が無料で公開されていますので、色々と見比べてイメージしていただければと思うのですが、最低でも次の3事項を記入することが一般的です。

①成果責任(その職務の内容とその職務に対する職責の明示)
例)営業部長であれば、部下の営業手法を管理統制し、より効率的な営業手法の確立を実施するというのが職務の内容であり、営業手法の改革によって昨年より短労働時間で昨年同様の売上を達成することが職責といった具合です。

②能力要件(その職務に従事するに際して必要となる技能や能力の明示)
例)製造部長であれば、製造に際して必要な国家資格を保有し、CAD等の必要なソフトウェアを利用できる能力を必要とするといった具合です。

③職務情報(職務評価に際して考慮する事項の明示)
例)年度予算や投資金額の達成度、決裁権限などを記載するといった具合です。

 

・職務記述書の契約内容化

せっかく職務記述書を作成しても、職務に従事する労働者に交付し、その内容を認識してもらわないことには意味がありません。また、職務記述書を交付しただけでは、果たしてこの内容がどこまで強制力を持つものなのかも不明確となります。

したがって、労働契約の内容を構成することを理解し確認したことを証するためにも、職務に従事する労働者より署名押印してもらうといった対策を講じるべきです。

なお、職務記述書の内容と就業規則に定める事項とに矛盾がある場合、特に職務記述書に記載されている内容が、就業規則に定める労働条件を下回ることになる場合、その部分については職務記述書に記載されている内容が法的に効力を持たないことになります(労働契約法第12条)。このため、労働者に職務記述書を交付する前に、就業規則と矛盾抵触がないか先に確認し、適切な対策を講じる必要があることに注意が必要です。

 

 

3.ジョブ型雇用導入のための手続き

 

一般的な会社の場合、職能資格制度による人事・賃金体系を定め、運用しているものと思われます。このような状況下においてジョブ型雇用を実施する場合、それは職能資格制度を廃止することを意味し、職務等級制度への改革を行うものとなるため、必ずと言っていいほど労働条件の不利益変更の問題が発生します(典型的には賃金減額となる労働者が発生するということです)。

この点への対処法としては、次の3つが考えられます。

 

①個々の労働者より同意を得て、労働条件を変更した労働契約を締結する

法的には一番確実であり、かつ労働者が真摯に同意している限りは紛争も生じにくい方法となります。

ただ、会社が労働者に対して一方的にジョブ型雇用への変更をアナウンスし、同意書面を取り付けたというだけでは、いざ紛争となった場合、特に近時の裁判例の傾向を踏まえる限り、同意が無効と評価されるリスクが付きまといます。個々の労働者より同意を得るに際し、少なくとも次のような態様は回避するべきです。

・変更内容を十分に説明することなく、労働者の理解不十分なままで書面にサインさせた場合

・書面の内容を十分に確認させる時間的余裕を与えずに、サインさせた場合

・労働者からの問い合わせや質問を受け付けず(事実上問い合わせ等を行わせない圧力をかけることも含む)、書面にサインさせた場合

・拒否することができない状況下(拒否した労働者に対して制裁を与えることを明言した場合のみならず、無言であっても制裁されかねない雰囲気であった場合を含む)で書面にサインさせた場合

・労働者にとって不利な点を説明しない、または過小評価した説明により、書面にサインさせた場合

 

要は形式的に同意書面を取り付けるだけでは不十分であることに留意する必要があります。この「同意の取り方」については非常に微妙な問題が関係してきますので、弁護士に相談しながら進めることをお勧めします。なお、書面等の証拠を残さない同意の取付けは、法律上禁止されているわけではありませんが、現場実務の運用としては相当問題があり、後で紛争となった場合、労働者より同意を取得したと会社が主張しても、まず通用しないと考えたほうがよいかもしれません。

 

②就業規則の変更により対応する

個々の労働者より同意を得ることがなかなか難しい場合、就業規則の変更手続きを用いることで、労働者の同意を得ることなく不利益変更を実施することが可能です。

この就業規則の変更により対応する場合、まずもって押さえておくべきものとして、労働契約法第10条の規定です。

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

 

正直なところ抽象的な要件・規範しか定められておらず、一律で結論が出せるものではありません。どういった場合に就業規則により労働条件を不利益に変更することが可能なのかについては、弁護士に相談し、十分な対策を練ることをお勧めします(素人判断で検討した場合、残念ながら訴訟等の紛争の場面ではほぼ会社の言い分は通用しない、ということをよくよく知っていただきたいと執筆者個人は考えています)。

 

③労働協約により対応する

中小企業の場合、そもそも会社内に労働組合が存在せず、存在したとしてもごく少数の労働者が加入するのみといった場合がほとんどです。

したがって、中小企業にとってはあまり実効性のある対策とはならないのですが、同一事業場内で従事する労働者の4分の3以上の労働者が加盟する労働組合が存在する場合、その労働組合と協議し、労働協約と呼ばれる書面(要は合意書です)を会社と労働組合とで締結した場合、組合員はもちろん、非組合員に対しても労働協約の効力が法的に及ぶとされています(労働組合法第17条)。

社内に多数の労働者が加入する労働組合が存在し、かつ会社の方針に理解を示してくれるのであれば、労働協約の締結による対応を検討する余地があるかもしれません。

 

(4)経過措置の検討が必須

上記(1)から(3)は労働条件の不利益変更を行うための手続き要件に関する解説ですが、この(4)は直接的には手続き要件と関連するものではありません。

ただ、個々の労働者より同意を得ようとする場合であっても、就業規則の変更により一方的に対応しようとする場合であっても、何らかの不利益を被る労働者に対して緩和措置を講じることが説得材料になることはもちろん、法的有効性を高めるうえで重要な事由になってきます。特にジョブ型雇用により、賃金減額が予定される労働者が存在する場合、例えば3年程度は調整給を支給するなどして、実質的な賃金減額にならないようにするといった経過措置を置くことは紛争予防の点からも紛争の事後対策の点からも望ましいものと考えられます。

もちろん、経過措置を一切講じないから労働条件の不利益変更ができないという訳ではありません。しかし、より法的有効性を高める観点からは是非考慮するべきです。

 

 

4.ジョブ型雇用に対する課題・誤解

 

ジョブ型雇用を検討する上で、予め知っておいてほしい事項を以下簡単に整理します。

 

(1)職務を誰がどうやって評価するのか

これはジョブ型雇用を採用した後の運用面での課題となります。職務に対する業績評価を誰がどうやって行うのか、それを踏まえて人事評価をどうやって行うのかといった運用については、これまでの職能資格制度とは異なるものとなるため、導入当初はどうしても混乱が生じるかもしれません。

 

(2)賃金支払い総額を減額させる制度ではないこと

一昔前の成果主義の際に誤って認識されていた事項として、成果主義を導入すれば残業代は発生しないという点でした。成果主義であっても所定労働時間を超えれば残業代が発生することは当然のことなのですが、ジョブ型雇用であってもこの点は同様です。

決して、賃金支払い総額を減少させるための制度ではないことに注意が必要です。

 

(3)解雇を促進する制度ではないこと

ジョブ型雇用を導入した場合、一種の職務限定契約を締結したような格好となります。

しかし、職務(ジョブ)が何らかの事情で無くなった場合、直ちにリストラ(整理解雇)できるのかと問われると、裁判例の傾向を踏まえるとリストラ(整理解雇)可能と言い切ることは難しいというのが実情です。

また、職務が明確に定められることで、職務をこなせていない場合は能力不足・成績不良が業績評価により露呈することになります。ただ、だからといって直ちに普通解雇可能かと問われると、やはり裁判例の傾向を踏まえる限り、難しいところがあるといわざるを得ません。

もっとも、ジョブ型雇用を導入した場合、職務がなくなった以上は整理解雇の対象として優先順位を上げること(整理解雇における人選の合理性)は一定の妥当性を有すると考えられます。また、能力不足・成績不良による解雇の場合、従来では何をもって不足・不良とするのか、物差し・基準がなかったが故に会社敗訴となることが多かったところ、職務の明確化により裁判官にも判断可能な材料が整ったという点で、会社にとっては有利に作用すると考えられます。したがって、不当解雇訴訟において、会社の主張が従来よりも通りやすい環境とはなり得るかもしれません。

 

(4)年齢給・勤続給の支給は検討を要すること

ジョブ型雇用を導入し職務給による賃金体系とした場合、理論的には職務に対して賃金が支払われることになりますので、年齢や勤続年数によって賃金額が左右されることはありません。

したがって、ジョブ型雇用下において、年齢給・勤続給を支給し続けることは整合性を保てない賃金体系となります。

もっとも、年齢給・勤続給をいきなり廃止すると労働条件の不利益変更となってしまいますので、経過措置を設けるなどして慎重な対応が必要となります。

 

(5)役職手当・特殊勤務手当等の支給は検討を要すること

いわゆる職務関連手当と呼ばれるものが支給されている場合、その対価内容である業務については「職務」の中に包含されており、職務給として評価され支払われることになるので、不要となるのが理論的な帰結となります。

仮に職務関連手当の職務給とは別に支給する場合、賃金体系の構築に工夫が必要になると考えられます。

 

(6)家族手当・住宅手当等の支給は問題ないこと

上記(4)及び(5)で手当を支給することは、ジョブ型雇用(職務等級制度による賃金体系)と整合性が保てないことから、いわゆる生活関連手当を支給することも問題が生じるのではないかと考えてしまうかもしれません。

しかし、生活関連手当は職務とは関係のない、会社による恩恵的な手当てに過ぎない以上、ジョブ型雇用の導入と矛盾するものではありません。

もっとも、生活関連手当自体、法律上支給する義務があるわけではありませんので、同一労働同一賃金(均等待遇・均衡待遇)の観点からは、何らかの見直しを検討したほうが良いものと考えられます。

 

(7)賞与の支給は検討を要すること

ジョブ型雇用を導入することと賞与の支給は論理矛盾するわけではありません。

しかし、賞与の算定方法として、例えば勤続年数や年齢を基準とする場合、職務等級制度とは整合性を維持しにくいと考えられます。職務貢献度・業績に応じて支給するといった見直しが必要になるのではないでしょうか。

 

(8)退職金の支給は検討を要すること

ジョブ型雇用を導入したから退職金を支給してはならないという論理必然性はありません。ただ、賞与と同じく勤続年数等を考慮した退職金制度である場合、職務に応じた賃金を支払うとする賃金体系とはやや説明がしづらいところがあるのも事実です。

退職後の生活は退職金ではなく、勤務期間における労働者自らの運用で保持するべきという社会情勢からすると、そもそも退職金制度を設けず、その分を職務給として先払いするといった制度構築を行ったほうが良いかもしれません。

 

(9)賃金減額

職務等級制度による賃金レンジを就業規則(賃金規程)に予め定めた上で、業績評価を含む人事評価に基づき、その範囲内で降級し減額を行うことは問題ありません。

なお、紛争になるのは、人事評価に問題がある(人事権の濫用)というものであり、賃金減額制度を定めていること自体が問題となることは稀です。

 

(10)配置転換

ジョブ型雇用を導入した場合、職務限定契約となることが多いのですが、必ずしも職務限定契約にしなければならないという訳ではありません。すなわち、配置転換がある旨定めているのであれば、当該定めは有効であり、会社の合理的裁量により職務の変更を伴う配置転換を行うこと自体は可能となります。

問題となり得るのは、職務の変更に伴い賃金減額が実施された場合です。予め職務ごとでの賃金が就業規則(賃金規程)に明記されており、賃金減額がありうることが周知されているのであれば、有効性が認められやすいと考えられます。もっとも、そもそも論としてなぜ配置転換が必要なのかについて、紛争が起こりやすいかもしれません。また、従来のような会社による配置転換の自由裁量性については、職能資格制度・ジョブローテーションを前提にしたものであるため、ジョブ型雇用の場合、その自由裁量性については見直される可能性があることに注意が必要と考えられます。

 

 

<2022年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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