内定/内々定を出すことによる法務リスクについて、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

近時、会社が一方的に内定取消を行い、そのことが世間に明るみになって当該会社が非難されるという事象を見かけることが多くなってきたのですが、感情論はともかく法的に何が問題となるのか今一つ理解できていません。

そこで、内定を出すに際し、会社として気を付けるべき法律問題について教えてください。

 

 

【回答】

世間一般ではやや誤解されているところがあるのですが、内定通知を出した場合、実は会社と求職者との間では既に労働契約が成立したと法的には評価されることになります。この結果、内定取消とは法律上は解雇にほかならず、解雇権濫用法理が適用されますので、会社の一方的都合により内定取消しを行うことはできないという点を押さえておく必要があります。

なお、似て非なる用語として内々定というものがあるのですが、これは法的には労働契約が成立する前段階のことを指します。

以下では、内定と内々定の相違を意識しつつ、会社が知っておきたい内定に関する法律問題について解説します。

 

 

【解説】

 

1.内定と内々定の違い

 

世間一般では「内定」、「内々定」という言葉が混同されて用いられることもありますが、一般的な法解釈としては、内定と内々定は次のような違いがあります。

  • 内定=労働契約が成立している(但し、将来のある時点を勤務開始日とし、当該勤務開始日までに一定の事由が発生した場合に解約可能な留保権が付された契約)
  • 内々定=労働契約は未だ成立していない

 

ちなみに、現場実務の感覚からすると、いわゆる新卒採用については内々定(6月1日から内定が出るまでの期間中)、内定(10月1日以降)というプロセスを踏むことが多いように思われます。

一方、中途採用の場合は内々定というプロセスを踏まず、求職者が前職にて勤務継続中であり、採用面接から勤務開始日まで一定の期間が必要となる場合は内定を出す、求職者が現在無職である、勤務継続中であっても直ぐに勤務開始可能という場合にはいきなり正式な労働契約を締結することが通常のように思われます。ただ、中途採用の場合、新卒のような内定通知書の発行や内定承諾書を徴収することが稀であることから、内定から勤務開始日までに一定の事由が発生した場合に解約可能な留保権が付された契約とはやや言いづらいところがあるという点で、新卒における内定と事情が異なるものと考えられます。

 

なお、何をもって内々定(労働契約不成立)と判断するのか、内定(労働契約成立)と判断するのかは個別具体的な事情によります。この具体的事情についてですが、例えば新卒の場合であれば、入社日の日付が入っている通知書を会社が求職者に交付していること、求職者より内定承諾書を徴収していること、会社が開催する研修に求職者を参加させること等々の事情がある場合、内々定ではなく内定と評価されると考えられます。一方、中途採用の場合、具体的な労働条件、特に賃金について何らの交渉を行っていない段階であれば内定には至っていないと評価されることが多い、といった具合です。少なくとも、新卒採用において、10月1日より前の段階での会社が求職者に採用試験合格通知を出しただけだから内定は成立しない、といった形式判断で決まる事柄ではないことに注意が必要です。

 

 

2.内々定時に生じうる問題

 

主に新卒採用における内々定に際し、問題となりうる事項としては次のようなものがあります。

 

(1)いわゆるオワハラ

オワハラという言葉自体に正式な定義があるわけではありませんが、「就職活動終われハラスメント」の略称、要は学生の求職者に対し、他社への就職活動を控えるよう執拗に要請することで、当該求職者が嫌悪感を有するに至った場合に用いられる用語となります。

まず会社担当者として知っておくべき事項ですが、上記のようなオワハラという言葉自体は存在するものの、学生の求職者に対し、あの手この手で自社に入社してもらうよう働きかけを行うことは原則適法です。ただ、これが行き過ぎと評価される場合(違法性がある場合だけではなく、社会通念上不当と考えられる場合まで含みます)、問題化することになります。この“行き過ぎ”の該当性については、例えば、就職問題懇親会は次のような事例は問題ありとして注意を呼び掛けていますので、参考にするべきです。

①正式内定開始日前に内定承諾書、誓約書をはじめとした内定受諾の意思確認書類の提出要求

②6月1日以降の採用選考時期に学生を長時間拘束するような選考会や行事等の実施

③自社の内々定と引き替えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要することなど、学生の職業の選択の自由を妨げる行為や、学生の意思に反して就職活動の終了を強要するようなハラスメント的な行為

 

ちなみに、オワハラと評価されるような行為が発覚した場合、会社は次のようなリスクを抱えることになります。

  • 強要、脅迫等の刑事上の問題となりうる場合があること
  • SNS上での告発等により、ネガティブな印象その他風評被害を受けることがあること
  • 内定(労働契約が成立)と評価され、将来的に入社を拒否することが困難となるリスクが生じること

 

(2)会社による学費の支援

学生の求職者に対し、入社することを条件に、学費を会社が肩代わりするといった条件提示を行うことがあるようです。

たしかに、会社が学費を肩代わりすること自体は当然に違法という訳ではありません。しかし、例えば、当該立替分を貸付扱いとし、入社した労働者の賃金から控除して返済させるとなると、実質的には労働基準法第17条に定める前借金相殺の禁止に触れることになり問題となり得ます。また、会社が学生に対して貸付を行うことになる点で、会社は貸金業を営んでいることにならないか、貸金業であれば貸金業法上の登録が必要になるのではないかという疑義が生じることになります。

次に、入社後一定の在籍期間を経過した場合であれば、会社が肩代わりした学費返済を免除する、当該期間内に退職した場合は肩代わりした学費を返済させるという約束を入社時に取り交わすこともあるようです。しかし、これについては労働基準法第16条に定める賠償予定の禁止に触れる可能性が高いと言わざるを得ません。

なお、学生が入社した場合、会社が立替えた学費については免除する、入社しなかった場合は立替分を返済してもらうという形式をとる場合、学生に対する貸付という扱いを行うこと貸金業法上の問題が生じること前述の通りです。そこで、会社が学校に対して第三者弁済を行った形式にし、学費支払いに関する債権を会社が有しているという形式をとることで貸金業法上の問題をクリアーしようとする方法もあるようです。形式的には会社が学生に対して有する債権の性質は貸金ではないとはいえ、実質的には貸金業法の潜脱という問題は否めないことから、この方法をベースに学生への支援(囲い込み)を行う場合、弁護士とよく相談の上、適切な処置を行う必要があると考えられます。

 

(3)内々定の撤回

内々定の場合、労働契約が成立していないことから、会社はいつでも内々定通知を撤回できますし、逆に求職者はいつでも入社意思が無いことを通知することができるのが原則です。

しかし、会社の場合、上記原則論がやや修正される場面が出てきます。

例えば、会社が内々定通知を出した求職者に対し、オワハラにはならない程度に求職者の囲い込み勧誘を行い、また内定通知を行う日程を予め告知していたにもかかわらず、その内定通知直前になって内々定を撤回し、内定を出さなかった場合、求職者のよる入社への期待は相当程度高まっており、その期待は法的に保護に値するとして、会社は慰謝料支払い義務が負担する場合があります(いわゆる期待権侵害、又は契約締結上の過失理論)。ケースバイケースの判断になるとはいえ、内々定だからいつでも入社を拒否してもよいと考えるのは禁物です。会社としては、必要に応じて一定の補償を行うなど誠意ある交渉を行い、求職者の理解が得られるよう努めるべきです(不誠実な対応をした場合、今時であればSNSで晒されて炎上する可能性が極めて高くなります)。

では逆に、内々定を受けた求職者が、内定予定日直前に入社意思がないことを会社に伝えた場合、会社は求職者に対して損害賠償その他法的請求ができるのではないかと思われるかもしれません。しかし、よほどのことがない限り会社が求職者に対して法的請求を行うことは難しいと考えざるを得ません。なぜなら、仮に労働契約が成立していた場合、労働者は2週間前に申出ることで自由に退職することができます。そして、この退職の場合において、会社が労働者に対して損害賠償請求することはほぼ不可能というのが実情です。こういった労働者の場合との均衡を考慮すると、いまだ労働契約が成立せず内々定にすぎない求職者に対して損害賠償その他法的請求が成立すると考えることはできないからです。

あくまでも会社が内々定通知を撤回する場合のみ、例外的に責任を負う可能性あることを押さえておく必要があります。

 

 

3.内定辞退

 

(1)内定者から行う場合

内定者からの内定辞退に対し、会社として拒否ができないのかというご相談を受けることがあるのですが、結論から申し上げると拒否することはできないと言わざるを得ません。なぜなら、内定となると条件付きとはいえ労働契約が成立していると法的には評価されます。そして、労働契約である以上、内定者(労働者)は内定辞退(退職)の意思表示を行ってから2週間経過することで労働契約を終了させることが可能だからです(民法627条第1項)。

したがって、会社としては、内定辞退をしないよう説得を試みることはできますが、内定者が翻意しない限り受け入れざるを得ないことになります。

ところで、この内定辞退をしないよう説得を行うに際し、損害賠償請求を行うことを指摘しながら交渉を行う会社も存在するようです。しかし、本来内定者(労働者)は内定辞退(退職)の自由を有する以上、損害賠償義務を負担することは通常あり得ないと考えられます。たしかに、理屈の上では、例えば、内定者が会社に対して、確実に入社すると伝達し、会社から入社することを前提にした特別な便益を受け、入社できないことが判明したにもかかわらず直ちに通知することなく、入社予定日直前になって内定辞退を行うといった、特殊例外的な事情があれば損害賠償請求が成立する余地はあるかもしれませんが、極めて稀と考えたほうが無難です。

あと、新卒の場合に多いのですが、内定者本人ではなく、親兄弟が内定辞退の連絡を行ってくるということがあったりします。こういった場合、内定辞退として取り扱ってよいのか会社としては判断に迷うかもしれませんが、本人からの連絡ではない以上、内定辞退として取り扱うべきではありません。最近では電子メール等でやり取りすることが多いかもしれませんが、あえて文書にて連絡を入れる等して本人の意向を確認する必要があります。なお、親兄弟が本人の代理人であると主張する場合、正式な委任状の提出してもらう等して慎重に判断する必要があります。

 

(2)会社から行う場合

会社から内定者に対して、内定を辞退するよう申し入れることができるのかという問い合わせを受けることがあります。結論から申し上げると、申し入れること自体は何ら問題ありません。あえて例えるなら、通常勤務している労働者に対して退職勧奨を行うことが原則問題ないと考えられていることとパラレルに考えれば足ります。

ただ、退職勧奨もやり過ぎるとパワハラと言われたり、退職強要として違法行為とされる場合があります。結局のところ程度問題とはなるのですが、次のような事項に留意しながら内定を辞退するよう説得を図ることになるものと考えられます。

 

  • 内定辞退を要請するに際し前提となる事実の指摘する(SNS上で炎上騒動を発生させた、研修態度に問題があった、能力・資格を有していないことが判明した、会社の経営状態が悪化している等の事情を具体的に指摘する)
  • 上記前提となる事実が内定通知書又は就業規則に触れることを指摘する(内定通知書記載の内定取消事由に該当する、内定後入社時までにおける会社からの要請事項に違反する、適用可能であれば就業規則の服務規律に違反する等の根拠を示す)
  • 今時であれば電子メール等の電子媒体で内定辞退の要請を行うことも可能であるが、誠意を示すためにも、できる限り直接会って要請する。
  • 内定辞退を要請するための話合いに際し、会社側としては2名で対処することを心掛ける。
  • 言った言わない論争を防止するためにも、隠し録音でもいいので、ICレコーダー等を通じて協議内容を録音する。
  • 内定辞退を要請するための協議時間は長くても1時間以内に抑える。
  • 言葉遣いに気を付ける(淡々と話す。決して感情的な物言いはしない。内定者が隠し録音している可能性があることを肝に銘じる)
  • 内定辞退の要請に応じてもらった場合、必ず内定辞退書を提出してもらう(なお、協議直後に提出させるべきかについてはケースバイケースの判断)

 

なお、内定辞退を要請する場合、何らかの説得材料があったほうが協議を進めやすいところがあります。そこで、内定通知書等に会社として想定しうる内定取消事由を列挙するだけ列挙し、いざという場合に内定取消事由を引用しながら協議を進めることも方法論として有り得るところです。ただし、あくまでも説得材料として用いるにすぎず、内定取消として会社が一方的に労働契約を解消可能な、法的正当性のある内定取消事由は限定的に解釈されています。

したがって、内定取消事由を列挙することは構いませんが、説得材料のために事実上用いるのか、労働契約解消の法的根拠として用いるのかについては使い分けが必要となることに注意が必要です。詳細は次の4.(1)で解説します。

 

 

4.内定取消

 

(1)内定者側に原因がある場合

内定者側に起因する事情により会社が内定取消(会社が一方的に労働契約を解除すること)を行う場合、①内定通知書等に記載のある内定取消事由に基づき対処する、②内定取消事由を引用することなく対処する、の2パターンが考えられます。

 

①内定取消事由による対処

当然のことながら、内定通知書等に内定取消事由が明文化されていることが大前提となりますが、たとえどんな事由であっても明文化されていれば法的に内定取消の有効性が認められるという訳ではありません。一般論としては、採用内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような業務遂行に支障を及ぼすような事由に該当する必要があります。したがって、例えば、特定の政治集会に参加していることを内定取消事由として定めていたとしても、当該事由が業務遂行に支障を及ぼすとは通常考えられないため、内定取消は無効と判断されます。こういった解釈論を踏まえ、おおむね次のような取消事由を明記することが多いものと思われます。

  • 勤務開始日までに現在在籍している学校を卒業できないことが判明したとき
  • 勤務開始日までに現在就労している勤務先を退職することができないことが判明したとき
  • 提出された書類の内容や勤務開始面接時に確認した事項が事実と異なるものであったとき
  • 傷病により正常な勤務ができないと判断されるとき
  • 当社が指示した書類を指定期日までに提出しなかったとき
  • 参加を約束した研修・打合せに正当な理由なく参加しなかったとき
  • 勤務開始日までに就労できないことが判明したとき
  • その他、当社で就労が継続できない事由が発生したとき

 

ところで、最近の現場実務において関心が高くなっていると執筆者個人が感じるものとして、「傷病により正常な勤務ができないと判断されるとき」の取扱いについてです。端的には採用手続きにおいて、求職者に対して病歴(特に精神疾患)についてあらかじめ問い合わせを行い、就労開始日までに改善がされない(就労制限があると判断される)場合、内定取消を実行したいという企業ニーズがあるからです。

ただ、病歴という極めてプライベートな情報を取得すること自体、感覚的に憚られるところもあり、どこまで踏み込んで問い合わせてよいのか分からないという声もあるところです。

この点に関する考え方ですが、例えば、運転・配送等のドライバー業務を募集する場合において失神等の発作がないか確認すること、食品などの加工業務を募集する場合において食物アレルギーがないか確認すること、接客などの対人業務を募集する場合において社交不安症がないか確認することといった、職業上の必要性がある場合であれば採用手続き中に問い合わせを行うことは何ら問題ないと考えられます。

結局のところ、採用手続きの段階において、従事予定の業務内容と関連性を有する範囲において、「現時点で健康を理由とする就業制限があるのか」「あるとすれば就業制限の内容・範囲」について求職者より情報収集を行い、就労開始日までに就業制限が解除されない場合は正当に内定取消しを行うことが可能になると考えられます(なお、就業制限の原因となる具体的な病名・症状・治療経過等についてまで問い合わせることはケースバイケースの判断になると考えられます)。また、採用手続きにおいて求職者が適切な回答を行なわず、就労開始日までに実は就業制限のある病気があることが発覚した場合でも内定取消を行うことが可能と考えられます。

なお、ここからさらに踏み込んで、例えば「前職における休職歴の有無、期間、原因病名」、「(業務との関連性を示すことなく抽象的に)現在の通院歴、病名、症状、治療内容」を聞き出すことで、適切な人材を登用したい(将来的に安全配慮義務違反の問題が生じないよう事前に芽を摘んでおきたい)という企業ニーズもあるかと思います。しかし、従事予定の業務内容と関連性がない以上は、プライバシー侵害や職業安定法上の問題を指摘されるリスクは相当高いものと言わざるを得ません。

以上の通りですが、上記以外にも、そもそも病歴については要配慮個人情報に該当し、個人情報保護法上特別な取り扱いが必要となることにも注意が必要です。

 

②取消事由によらない対処

内定取消事由を定めていないから内定取消ができないという訳ではありません。また、内定取消事由として定めている場合、規定事由以外の事項で内定取消ができないという訳ではありません。上記①でも解説した、「採用内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような業務遂行に支障を及ぼすような事由」が客観的に発生し、内定取消を行うことが合理的と判断されれば、内定取消は可能となります。

ただ、ケースバイケースの判断になり法的安定性を欠くと言わざるを得ないため、内定取消に納得しない求職者とのトラブル発生率はどうしても高くなると考えられます。したがって、内定取消事由についてはできる限り明確に定めておきたいところです。

なお、内定取消事由に寄らない内定取消に関する裁判例を紐解くと、やや特殊な事例なのですが、内定期間中にデモに参加し公安条例違反により逮捕(但し起訴猶予)されたことを理由とする内定取消が認められた事例が存在します(最高裁昭和55年5月30日。なお、会社は当時、デモを実行した組織による闘争行為によって職場秩序が乱されていたという背景事情がありました)。

 

(2)会社側に原因がある場合

例えば、経営状態の悪化により、就労させることが困難となった場合に内定取消ができないかという形で問題化します。

この点、経営者の中には、内定取消はいつでも好き勝手にできると誤解している人もいるようですが、明らかに間違いです。そして、最近では経営悪化による一方的な内定取消についてSNS等で可視化される事態となり、炎上騒ぎとなって更なる経営悪化を招くといった事態も発生しているようです。したがって、補償を含め誠意をもって対応することが肝要となります。

さて、会社都合による内定取消ですが、内定取消事由への明記の有無を問わず、一定の条件を充足すれば可能と考えられています。すなわち、整理解雇(いわゆるリストラ)に準じて対処することになります。この整理解雇については、法律上特段の定めがありませんが、裁判例上、次の4つの要素を総合的に考慮して有効性を判断するという手法が確立しています。

・人員削減の必要性(経営状態の悪化等)

・解雇回避努力(役員報酬カット、経費削減など)

・人選の合理性(非正規労働者から優先的に解雇する等)

・手続きの妥当性(話し合いの有無、内容、頻度、程度など)

 

ちなみに、内定を出した当時、ある程度の経営悪化が見込まれており、もともと採用することに無理があったという場合と、内定後に急激な経済情勢の変動により経営悪化を余儀なくされたという場合であれば、必然的に後者の方が内定取消は認められやすくなるものと考えられます。

ところで、内定ではなく内々定取消の場合、労働契約が成立しているわけではありませんので、一方的に内々定を撤回することは可能、すなわち整理解雇に準じて検討する必要はありません。しかし、内々定撤回のタイミングその他事情によっては、期待権侵害(契約締結上の過失理論)として損害賠償責任を会社が負う場合あること、上記2.(3)で解説した通りです。

 

なお、これは蛇足ですが、内定取消しをあえて行わず、勤務開始日を予定より先延ばしにするといった対応はとれないかという相談を受けることがあります。

たしかに、理屈の上では会社と内定者との間で合意ができるのであれば、そのような対応を取ることも可能です。ただ、休業手当を支払わないための脱法行為という疑いはどうしても生まれます。また、後になって内定者が「勤務開始の先延ばしを強要された」と言い出すと、会社としても非常に反論しづらい立場に追い込まれてしまいます。

したがって、先延ばし期間中に何らかの補償を行う場合であればともかく、基本的には勤務開始日を先延ばしにするという対応はとらない方が無難と考えられます。

 

 

 

<2022年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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