改正育児介護休業法に基づく育児休業への対応について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

令和3年(2021年)6月に育児介護休業法が改正され、令和4年(2022年)以降に順次改正内容が施行されていくと聞き及びました。

今回の改正内容を踏まえ、当社が講じるべき対策について教えてください。

 

 

【回答】

令和3年(2021年)6月の育児介護休業法の改正ポイントは、「男性従業員の育児休業取得率の向上を図る」の一言につきます。

以下の解説では、父親となる従業員に対して、どういった対応が必要になるのかという観点で説明を行いますが、大まかに整理すると次のようになります。

①権利取得の対象者拡大(1年未満の雇用期間であっても取得可能)

②権利行使の機会付与(雇用環境整備措置の義務化、個別に意向確認することの義務化)

③権利行使の柔軟性(2回までの分割取得、出生時育児休業の新設)

 

 

【解説】

 

1.令和4年(2022年)4月1日施行される内容について

 

(1)有期雇用労働者の取得要件緩和

本記事執筆時点(2021年11月)の現行法では、育児休業を取得できる労働者の範囲について、①引き続き雇用された期間が1年以上であること、②1歳6カ月までの間に契約が満了することが明らかではないこと、の二要件を充足する必要があります。

しかし、令和4年(2022年)4月1日より施行される改正育児介護休業法では、上記要件のうち①が撤廃されます。この結果、育児休業を取得可能な労働者の範囲が拡大することになります。

この改正内容に対する事業者の対策ですが、育児休業を含め、育児に対する時間を確保しようという社会の流れは今後も続くと思われますので、今回の改正内容をそのまま受け入れ、社内環境を整えるということも一案かと思われます。もっとも、人員に余裕のない中小企業の場合、正直なところ、育児休業の対象者を拡大されては困るという実情があるかもしれません。こういった実情を踏まえたい場合、過半数組合又は過半数代表者と書面による労使協定を締結することで、令和4年(2022年)4月1日以降も「引き続き雇用された期間が1年以上であること」という要件を定めておくことが可能となっています。

したがって、事業者としては、育児休業の対象範囲を現行法通りにするのか、改正内容に従い拡大するのか方針を固めたうえで、現行法通りで進めたい場合は労使協定を締結するという対応をとる必要があります。

 

(2)雇用環境整備措置

端的には、社内で育児休業が取得しやすい風潮にしてくださいということです。具体的な措置内容としては、次のようなものが考えられます。

・研修の実施

・相談窓口の設置

・自社における育児休業の取得事例の収集と提供

・育児休業制度とその取得促進に関する方針の通知

なお、これらを全部実施することまでは求められず、1つ以上を実施すれば足りるとされています。

今後、厚生労働省より、改正育児休業法に関する一般向けパンフレット等その他資料が公開されるはずですので、事業者としては、当該資料を用いながら啓発を図るという対応でよいものと思われます。

(参考 改正後の条文)

第22条第1項

事業主は、育児休業申出が円滑に行われるようにするため、次の各号のいずれかの措置を講じなければならない。

①その雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施

②育児休業に関する相談体制の整備

③その他厚生労働省令で定める育児休業に係る雇用環境の整備に関する措置

 

(3)個別の周知・意向確認措置

これについては、やや誤解がされているところがあるのですが、

  • 労働者から妊娠又は出産の申出があった場合、育児休業制度に関する事項を当該労働者に告知すれば足りること
  • 告知を受けた労働者が、育児休業取得の有無につき回答を行わない場合、回答を行うまで働きかける義務を負うわけではないこと

がポイントとなります。

つまり、そもそも論として、労働者は妊娠や出産について事業者に報告する義務を負うものではありませんし、事業者が労働者の妊娠や出産について調査する義務を負うわけではありません。あくまでも、労働者が事業者に対し、妊娠又は出産した旨の報告を行った場合、事業者は労働者に対し、育児休業制度に関する事項について案内と利用意向を問い質す必要があるというものです。なお、案内を行った後、労働者が育児休業制度を利用するか否かについて回答を行う義務はありませんし、事業者が労働者に対して回答を強制できるわけでもありません。

法律上の制度としては上記の通りですが、現場実務の対応としては、育児休業を取得した場合の人員配置の準備を行う都合上、早めに労働者の意向を知りたいというのが実情かと思われます。したがって、労働者からの回答を得る義務はないとはいえ、育児休業を取得する意向があるのか、むしろ事業者は積極的に働きかける必要があるものと考えられます(労働者本人が回答を拒絶した場合、如何ともしがたいところがありますし、執拗に回答するよう促すとマタハラと言われかねないリスクが付きまといますが…)。

ちなみに、案内するべき「育児休業制度に関する事項」とは次のようなものとなります。

  • 育児休業に関する制度
  • 育児休業を取得する場合の申出先
  • 育児休業給付に関する内容
  • 育児休業期間中の社会保険料の取扱い(労働者負担分)

 

(参考 改正後の条文)

第20条

1 事業主は、労働者が当該事業主に対し、当該労働者又はその配偶者が妊娠し、又は出産したことその他これに準ずるものとして厚生労働省令で定める事実を申し出たときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該労働者に対して、育児休業に関する制度その他の厚生労働省令で定める事項を知らせるとともに、育児休業申出に係る当該労働者の意向を確認するための面談その他の厚生労働省令で定める措置を講じなければならない。

2 事業主は、労働者が前項の規定による申出をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

 

 

2.令和4年(2022年)10月1日までに施行予定の内容

 

現場実務で影響が大きいと思われるのは、この令和4年(2022年)10月1日に施行される改正内容です。本記事執筆時点(2021年10月)では施行まで1年を切っていることから、早急に対策を進める必要があります。

 

(1)出生時育児休業

まず、誤解が多いので指摘しておきますと、現行法でも出生時より育児休業を取得することが可能です。また、出生時から8週間以内に育児休業を終了させた場合、再度、育児休業を取得することが現行法上可能です。ただ、実際に取得できる育児休業期間の設定に柔軟性を欠くため、使いづらいという実情がありました。

そこで、改正育児介護休業法では、「出生時から8週間」と「8週間経過後、子が1歳になるまで」と時期を分断した上で、

・「出生時から8週間」について、新たな育児休業制度を設け対応する

・「8週間経過後、子が1歳になるまで」については、現行の育児休業制度で対応する

ことで、育児休業を取得できる回数を増やし、取得時期の柔軟性を図ることにしました。

ちなみに、新たに設けられる「出生時から8週間」内で取得可能な育児休業制度について、「産後パパ育休」「パパ休暇」といった愛称が付けられていますが、これは女性(母親)の場合、産後は当然に産後休業となるため(労働基準法第65条第2項)、実際に適用対象となるのは配偶者(基本的には父親を想定)になることが理由です。

 

さて、この出生時育児休業ですが、押さえておくべきポイントは次の5点となります。

  • ①取得回数…2回まで(分割取得可)
  • ②取得可能日数…最大(合計して)28日間
  • ③申出期限…原則育児休業の2週間前
  • ④就業…労使協定に基づき、労使合意した場合は就業可
  • ⑤適用除外…出生日から起算して8週間経過した日の翌日から6ヶ月経過する日までに労働契約が終了する場合、労使協定に基づき勤続1年未満を除外した場合など

 

以下、事業者として特に留意したい①③④について補足説明します。

①については、後述の(2)とも関係しますが、育児休業の分割取得が認められたというのが大きな変更点となります。例えば、出生時育児休業の利用の仕方として、出生から7日間取得し、里帰りから戻ってきたタイミングに合わせて後で残り21日取得する、といった方法が可能となります。ただ、育児休業を取得する労働者にとってはありがたいものの、事業者側としては、どうしても業務担当や人員配置等の社内調整が必要となりますので、育児休業申出者の意向を最大限尊重しながら協議を行いつつ、一方で事業者としては調整のための準備期間を確保できるよう、育児休業申出の期限を前倒しにする(③の例外を検討する)、休業期間中に少し業務を分担してもらう(④の適用ができるよう協議する)、申出時に分割して取得する期間を前もって明らかにしてもらう、といった対応が必要となります。そして、この対応を実行するために、③④それぞれにつき育児介護休業法の改正に合わせた社内規定の整備等が事前に必要となります。

 

③ですが、例外として労使協定を定めた場合、申出期限を最大1ヶ月前までに変更することが可能です。但し、この労使協定についてはやや特殊であり、単に申出期限を変更するといった内容を定めるだけでは不十分で、出生時育児休業申出が円滑に行われるようにするための雇用環境の整備等も合わせて定める必要があります。具体的な内容は厚生労働省が定める省令を検討する必要がありますが、育児介護休業法が定める以上の措置(前述1.(2)参照)を講じることを内容とする労使協定にする必要があるものと考えられます。この点は注意が必要です。

 

④は非常に勘違いしやすいのですが、出生時育児休業の場合のみ、一定の条件の下で就業可となったことを正確に理解する必要があります。すなわち、現行法の育児休業法では就業禁止とされていることはもちろん、育児介護休業法改正後においても「8週間経過後、子が1歳になるまで」に取得する育児休業については、引き続き就労不可です。この点は誤解の無いよう、是非押さえておく必要があります。

さて、出生時育児休業のみ認められる就業可に関する条件ですが、労使協定の締結、労働者からの申出、事業者からの就業可能日等の提案、労使合意という手順を踏む必要があります。この手順だけでも十分厄介なのですが、事業者の現場実務上もっと厄介な事項として、労使合意を行った後であっても、労働者は出生時育児休業の前日までに一方的破棄することが可能とされている点です。事業者としては「合意を後でひっくり返すとは何事か」と憤慨するかもしれませんが、改正育児介護休業法で労働者による合意破棄が正当な権利として認められている以上、如何ともしがたいところがあります。また、労働者による一方的な合意破棄に対して何らかの報復措置を講じた場合、パタハラ等として新たな問題を引き起こしかねません。

出生時育児休業に限り一定条件下で就業させることが可能となったとはいえ、かなり不安定な制度であることに事業者は留意する必要があります。

なお、就労させることが可能な時間も「所定労働日・所定労働時間の半分」等の制限がありますので、フルタイム勤務を前提にすることはできないことも注意が必要です。

 

(参考 改正後の条文)

第9条の2第1項

労働者は、その養育する子について、その事業主に申し出ることにより、出生時育児休業(育児休業のうち、この条から第9条の5までに定めるところにより、子の出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日まで(出産予定日前に当該子が出生した場合にあっては

当該出生の日から当該出産予定日から起算して8週間を経過する日の翌日までとし、出産予定日後に当該子が出生した場合にあっては当該出産予定日から当該出生の日から起算して8週間を経過する日の翌日までとする。次項第一号において同じ。)の期間内に4週間以内の期間を定めてする休業をいう。以下同じ。)をすることができる。ただし、期間を定めて雇用される者にあっては、その養育する子の出生の日(出産予定日前に当該子が出生した場合にあっては、当該出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から6月を経過する日までに、その労働契約が満了することが明らかでない者に限り、当該申出をすることができる。

 

第9条の3第3項

事業主は、労働者からの出生時育児休業申出があった場合において、当該出生時育児休業申出に係る出生時育児休業開始予定日とされた日が当該出生時育児休業申出があった日の翌日から起算して2週間を経過する日(以下この項において「2週間経過日」という。)前の日であるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該出生時育児休業開始予定日とされた日から当該2週間経過日(当該出生時育児休業申出があった日までに、第6条第3項の厚生労働省令で定める事由が生じた場合にあっては、当該2週間経過日前の日で厚生労働省令で定める日)までの間のいずれかの日を当該出生時育児休業開始予定日として指定することができる。

 

第9条の3第4項

事業主と労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる事項を定めた場合における前項の規定の適用については、同項中「2週間を経過する日(以下この項において「2週間経過日」という。)」とあるのは「次項第2号に掲げる期間を経過する日」と、「当該2週間経過日」とあるのは「同号に掲げる期間を経過する日」とする。

①出生時育児休業申出が円滑に行われるようにするための雇用環境の整備その他の厚生労働省令で定める措置の内容

②事業主が出生時育児休業申出に係る出生時育児休業開始予定日を指定することができる出生時育児休業申出があった日の翌日から出生時育児休業開始予定日とされた日までの期間(2週間を超え1月以内の期間に限る。)

 

(2)育児休業の分割取得

現行法上の育児休業については、①分割取得ができないこと、②1歳以降の延長の場合は、1歳と1歳半になった時点を基準とした休業取得しかできないこと、とされていました。しかし、育児休業取得の柔軟性を欠くため(例えば、配偶者と交代で育児休業を取得できない等)、労働者にとっても事業者にとっても運用がしづらいという欠点がありました。

そこで、改正育児介護休業法では、2回までの範囲で育児休業の分割取得を認めることにしました(なお、上記(1)で記載した出生時育児休業と独立して2回に分割して育児休業の取得が可能という意味です)。

事業者における現場実務対応としては、2回分割による育児休業取得自体は受け入れざるを得ませんので、労働者が育児休業を申請の際、育児休業をそれぞれ何日から何日まで取得するのか、予め明確にするようお願いし(つまり1回の申告で分割による各取得期間が分かるようにする)、人事配置の都合をつけることになると考えられます。

 

 

3.令和5年4月1日までに施行予定の内容について

 

常時雇用する労働者の数が1000名を超える事業者の場合、育児休業所の取得状況を公表することが義務付けられることになります。

多くの中小企業にとっては関係のない改正内容になるかと思われますが、少し大きめの工場を稼働させている製造業の場合、意外と1000名の労働者がいたということがあったりしますので、注意が必要です。

 

 

4.父親となる男性従業員に対する育児支援制度の整理

 

改正育児休業法により、育児を担う男性従業員に対して考慮するべき制度は、時期に応じて次のように整理できます。

 

①出産から8週間まで

出生時育児休業(育児休業)

 

②出産から1歳まで

育児休業

なお、1歳から1歳2か月まではパパママ育休プラス、1歳2カ月から1歳6カ月までは延長、1歳6か月から2歳までは再延長につき確認する必要あり。

 

③8週間か3歳まで

所定労働時間の短縮措置、所定外労働時間の制限

 

④8週間から小学校入学まで

子の看護休暇、時間外労働の制限、深夜業の制限

 

 

 

<2021年11月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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