開発者・ベンダーが検討するべきシステム開発契約書のポイントを弁護士が解説!

【ご相談内容】

システム開発契約書を作成し締結しようと考えていますが、どういった点に着目しながらリーガルチェックを行えばよいでしょうか(システム開発受託者側の視点)。

 

【回答】

業務範囲をできる限り具体的に書くこと、委託料の範疇に含まれる業務内容は何か関係性を明確にすること、(規模が大きければ大きいほど)途中で計画が頓挫した場合の報酬精算に関する取り決めを行うこと、絶対に意識しなければならないのがこの3点となります。

これ以外にも色々とありますが、具体的な条項を見ながら【解説】欄で検証していきます。

 

【解説】

具体的な条項例を見ながら、ポイントを解説していきます。

第×条(契約の目的)

1.ユーザは、本契約の定めるところにより、ユーザの××(以下「本件システム」という)の開発に関する以下の業務をベンダーに委託し、ベンダーはこれを受託する。

①企画支援業務

②基本設計業務

③ソフトウエア作成業務

④移行・運用準備支援業務

2.ベンダーはユーザに対し、本件システムに関する保守管理業務を別途定める契約に基づき行うものとする。

システム開発契約において一番重要となる条項は、何をどこまで制作するのかできる限り具体的に明確化することです。

ここではサンプルである関係上、抽象的にしか記述していませんが、例えば「企画支援業務」といっても、現在稼働しているシステムを一から作り直すのか、現在稼働しているシステムに新たな機能を実装するだけなのか、実装するのであれば他のシステムとの連携や整合性はどうするのか等、内容は多岐にわたります。

私個人の経験則に過ぎませんが、システム開発のトラブルは、ユーザ(発注者)側とベンダー(受注者)側の認識の齟齬、すなわち「どの範囲まで業務を行うのか」の相違に由来することが一番多いように思いますので、この部分は十二分に意識して欲しい内容となります。

なお、システム開発契約を締結する時点では、個別具体的な開発内容が定まっていないことから明確化しづらいという現場の問題もあるかもしれません。

この場合は、「具体的内容については個別契約にて定める。」としておき、ある程度作業が進んでから、業務範囲の明確化を図ればよいでしょう。

第×条(成果物の納入)

ベンダーは、両者合意の上定めた期限までに、ベンダーが本契約に基づいて作成したもの(以下「成果物」という)をユーザベンダー合意により定められた方法により納入する。但し、ユーザにより本件業務内容が変更された場合、天災地変その他不可抗力によってベンダーの業務遂行に支障が生じた場合には、ベンダーは、ユーザに対し、納期の延長を求めることができる。

ベンダー側とすれば、納入期限を明らかにしておくことはもちろん重要です。

しかしもっと大事なことは、様々な事情(ユーザ側からの追加注文や工程上発見された新たな課題解決のために余計な時間を費やした等)により、成果物の納入が期限までに間に合わない状態となった場合に備えて、納入期限の延期手続きが認められる場合を明示しておくという点です。

これは、後々トラブルとなった場合、必ずと言っていいほど、ユーザ側から「納期限に間に合わなかった」という点を主張してくるからです。

なお、当然のことながら、ベンダー側の見込み違いで納入期限に間に合わなかったのであれば、ユーザ側からの主張を甘受するべきです。

また、成果物の納入方法についても、できる限り具体的に記載するべきです。例えば、システム制作といっても、プログラムソースをDVD等の媒体を用いて納入するのか、ユーザ指定のサーバーにデータ移行させればよいのか、クラウド上のストレージに納品すればよいのか、色々なパターンがあります。

納品トラブルの典型例は、納品を受けていない=データが消失したという事例のように思われます。納品後はユーザ側の管理下に置かれることをはっきりさせるためにも、納品方法については十分に意識してください。

第×条(再委託)

ベンダーは、必要に応じて、各個別業務の全部又は一部をベンダーの責任において第三者に再委託することができる。但し、当該委託先に対し、第8条に定めるベンダーの秘密保持義務と同等の義務を負わせるものとする。

中小のベンダーの場合、フリーランス等の個人プログラマーに一部委託してシステム開発に従事する場合もあります。

したがって、上記条項例のようにベンダー側の裁量で再委託できることが望ましいのですが、一方で、ユーザ側としては、責任の所在が不明確になることや情報漏えいのリスクなどを懸念して、再委託はできる限り事前承諾の形式にしようとします。

バランス論としては、業務遂行を行うに際し、あらかじめ第三者に再委託(下請)させることが予定されている場合、その点を事前にユーザ側に告知の上で、例えば「但し、ユーザは、ベンダーが○○に対して本件業務の一部を再委託することにつき、予め承諾する。」という条項を入れておくべきでしょう。

第×条(委託料)

1.ユーザのベンダーに支払うべき本件業務の対価は、総額金××円とし、ユーザは、これを以下の通りベンダーに支払う。

①一時金として、金××円を本契約成立時に支払う。

②それ以降は、以下の通り順次支払う。

・×年×月×日限り、金××円

・×年×月×日限り、金××円

・成果物の引渡しと引き換えに、残額金××円

2.ベンダーは以下に定める場合、ユーザに対し、委託料の変更を求めることができる。

①ユーザがシステムの仕様を変更した場合

②ユーザがシステムの納期を変更した場合

③ユーザの提供した情報、資料に含まれた問題に起因して、ベンダーの開発費用が増大した場合

委託料の支払い方法は、ユーザ側とベンダー側の力関係が影響するため、様々な支払パターンが出てくるかと思います。したがって、基本的には当事者間合意で決めればよいのですが、下請法の適用がある場合は、下請法に従った支払い期限を定める必要があること注意が必要です。

ところで、紛争となるパターンとしては、次のような2つのパターンがあります。

1つ目は、委託料と業務内容との関係性が不明確であるため、ユーザ側にとっては当初契約の範囲内の業務であると認識しているのに対し、ベンダー側は新たな別業務であると認識し、結果的に追加報酬の有無で紛争となるものです。

これに対応するものとして、上記契約条項では2項が存在しますが、結局のところ、受託業務の内容をできる限り明確化することで、対価と業務の関係性を委託者にも認識可能な状態にするというのが一番の対策になります。

2つ目は、システム開発が途中で頓挫したというパターンです。頓挫した場合、ユーザ側より委託料の支払いを渋られたという経験は、ベンダー側は必ずと言っていいほど経験しているのではないでしょうか。

このような問題を解決するためには、例えば、経済産業省が公表しているモデル契約例(いわゆる多段階方式)を参照しつつ、それぞれの工程ごと(企画、要件定義、外部設計、内部設計等)に委託料を支払ってもらうことが望ましい契約形態となります。

ただ、いわゆる多段階方式の契約が実際現場で用いられているかというと、私自身は正直見たことがありません。工程に応じた出来高をあらかじめ定めておき、出来高報酬を定めるというのが現実的な対応かもしれません。

第×条(資料等の提供、管理、返還)

1 ユーザはベンダーに対し、本件業務に必要な資料等の開示、貸与等の提供を無償で行う。

2 ベンダーは、ユーザから提供された資料等を善良なる管理者としての注意義務をもって管理、保管し、かつ本件業務以外の用途に使用してはならない。

3 ベンダーは、本件業務が終了した後、速やかにユーザに対し返還する。

この条項は、どちらかというと情報流出や漏えいを防止したいユーザ側が要求する条項となります。

ベンダー側としても、ユーザ側より開示された情報を濫りに開示することは当然慎むべきですので、この程度の条項であれば受け入れた方が無難です。

なお、ベンダー側でチェックする内容としては、貸与された資料等について費用が発生するのか、貸与された資料等について保管場所など管理方法に制限が付されているのか、返却の時期はいつなのか、といった内容となります。

第×条(連絡協議会)

ユーザ及びベンダーは、本件業務が終了するまでの間、その進捗状況の報告、問題点の協議・解決、その他本件業務が円滑に遂行できるよう必要な事項を協議するため、別途定める方法により連絡協議会を開催することとする。

よく見かける条項なのですが、ユーザもベンダーも大手である場合を除き、実際には連絡協議会をきちんと開催して進めていくのは、むしろ稀ではないかというのが個人的な印象です。

また、システム開発契約の法的性質を委任契約と考えれば進捗状況については報告義務を負いますし(民法645条参照)、請負契約と考えても、システム開発はその性質上、両者の協力なくして開発を進めることは不可能です。

したがって、連絡協議会という会議を設けるか否かはともかく、ベンダー側としては、業務遂行に際してベンダーが要請した場合、ユーザも情報開示を行う等の協力を行う義務があることを明記することが望ましいかもしれません。

第×条(知的財産権の取扱い)

1.本件業務遂行の過程で生じた発明その他の知的財産権又はノウハウ等(以下「発明等」という)がユーザ又はベンダーのいずれか一方のみによって行われた場合、当該発明等に関する特許権その他の知的財産権、ノウハウ等に関する権利(以下「特許権等」という)は、当該発明を行ったものが属する当事者に帰属する。この場合、ユーザ又はベンダーは、当該発明等を行った者との間で特許権等の承継その他必要な措置を講ずるものとする。

2.ベンダーが従前から有していた特許権等を本件システムに利用した場合又は前項によりベンダーに帰属する特許権等が本件システムに利用された場合、ユーザは、本契約に基づき本件システムを自己利用するために必要な範囲で、当該特許権等を実施又は利用することができる。

3.本件業務の過程で生じた発明等がユーザ及びベンダーの共同で行われた場合、当該発明等についての特許権等はユーザベンダーの共有(持分均等)とする。この場合、ユーザ及びベンダーは、それぞれに属する当該発明等を行った者との間で特許権等の承継その他必要な措置を講ずるものとする。

4.ユーザ及びベンダーは、前項の共同発明等にかかる特許権等について、それぞれ相手方の同意等を要することなく、これを自ら実施又は利用することができる。但し、これを第三者に実施又は利用を許諾する場合、持分を譲渡する場合及び質権の目的とする場合は、相手方と事前に協議した上で、実際又は利用の許諾条件、譲渡条件等を決定するものとする。

5.本条の定めにかかわらず、成果物に関する著作権については、第9条によって定めるものとする。

 

第×条(著作権の帰属)

成果物のうち、プログラムの著作権について、当該プログラムに結合され又は組み込まれたものでベンダーが従前から有していたプログラム(コンテンツ及びデータベースを含む。以下同じ)の著作権及びベンダーが本件業務において新たに作成したプログラムの著作権は、ベンダーに留保されるものとする。但し、ユーザは、納入された当該プログラムの著作物の複製物を、自己使用の範囲において自由に使用し、また著作権法第47条の2の規定に基づき複製、翻案することができるものとする。

 

第×条(成果物の所有権)

ベンダーが、ユーザに納入された成果物の所有権は、第4条に基づき、ユーザよりベンダーへ委託料が完済されたときにベンダーがユーザに移転する。

いわゆる権利帰属に関する条項です。

システム開発契約の場合、権利の性質を検討することなく、大ざっぱにユーザ側に帰属させるという形式にすることも多いのですが、ベンダー側として厳密に検討した場合、他の案件で技術ノウハウやプログラムを転用できない可能性が生じるため、全てをユーザ側に帰属させるというのは得策ではないと思われます。

ここでは、著作権、著作権を除く知的財産権、所有権の3つに分けて、その帰属とライセンス(使用許諾)の問題を定めてみました ただ、権利帰属の問題も、両当事者間の力関係によって決まることが多いことから、必ずしも権利をすべてベンダーに留保しなければならないと形式的に考える必要はないかと思います。

特に、著作権についてどうしてもユーザ側に帰属せざるを得ないこともありますので、例えば、上記9条のように、契約前に保有していた著作権と本件業務遂行によって発生した著作権とを分けて、対処するのも一案です。

第×条(検品)

1.ユーザは、ベンダーより成果物の納入がなされた日から×日以内に、成果物の検査を行い、その検査結果についてベンダーに通知するものとする。

2.前項の期間内にユーザよりベンダーに通知がなされなかった場合には、当該成果物は検査に合格したものとみなす。

これもよく見かける条項ですが、ベンダー側として注意するべき視点は、2項のような「みなし合格」の条項が入っているか否かです。

この条項がないことには、検査期間は経過したものの、いつまでたっても合否の連絡がないために報酬を支払ってもらえない、あるいは完成していないことを理由とした修正に応じなければならないということにもなりかねません。

第×条(成果物についての保証)

1.ベンダーはユーザに対し、ユーザが指定する仕様書通りの成果物が開発されていることを保証する。

2.前項の保証期間は納入日から3ヶ月とし、同期間内に前項の保証事項に反することが原因で成果物に稼働不良等の不具合が生じた場合には、ベンダーは、自らの費用と責任において改修作業を行うものとする。

3.成果物が第三者の特許権等又は著作権を侵害して、当該第三者より成果物の使用を差し止められた場合又は損害賠償を求められた場合、ベンダーは、第4条に定める委託料総額を限度として、ユーザに生じた損害を賠償するものとする。

ベンダー側からすれば、あまり大きな保証をしたくないというのが本音かと思います。が、ユーザ側からすれば、プロに委託して報酬も支払っている以上、成果物に対する一定の保証を行ってもらいたいと考えるのは当然のことであり、この問題を避けて通るわけにはいかないと考えるべきです。

むしろ、ベンダー側としては、上記3項で記載したような、保証することを前提にしつつ、万一の場合の損害賠償リスクをどこまで軽減できるのかに注力を払うべきです。

 

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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