フランチャイズ本部が押さえておきたい典型的なトラブル対処法を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

フランチャイズチェーンの本部として事業活動を行っているのですが、フランチャイズの加盟者より次のようなクレームを受けています。どういった対応を行えばよいのでしょうか。

(1)フランチャイズ契約の途中解約を理由として加盟金の返還を要求してきた場合

(2)本部が提示した売上予測通りに事業運営ができていないことを理由とした損害賠償を要求してきた場合

(3)加盟者が運営する店舗の近隣地域に同一チェーンの店舗が開店したことを理由とした損害賠償の要求

(4)本部が指定する取引業者より安価であることを理由とした原材料仕入れ業者の変更要求

【回答】

(1)加盟金は返還しない旨の合意が通常行われており、また加盟金の対価内容について本部として履行済みであるというのであれば、加盟金を返還する義務は原則ありません。ただし、フランチャイズ契約を途中解約することになった原因について、本部の帰責性が認められる場合、別途検討が必要となります。

(2)売上予測と現実の事業運営上の結果とに乖離があること、それ自体で当然に本部が損害賠償責任を負うわけではありません。もっとも、売上予測を作成するに際してのプロセスに問題があった場合(適切な資料に基づく合理的判断を行っていなかった等)は本部が損害賠償責任を負う可能性が生じます。

(3)いわゆるテリトリー制を認めていない限り、本部が責任を負うことは原則ありません。ただし、本部の加盟勧誘時の説明内容や提供資料などから明らかに一定の商圏については競合しないことを前提にしている場合などの事情があれば、本部が責任を負う可能性が生じます。

(4)安価であることだけを理由として仕入れ業者の変更を認める必要はありません。もっとも、本部としてなぜ指定業者からの仕入れを強制するのか、その正当性を説明できない場合、独占禁止法違反として処断されるリスクがあります。

【解説】

1.加盟金返還の可否(設問(1))

フランチャイズ契約には加盟金不返還特約条項があることが通常です。また、フランチャイズ加盟勧誘時から中途解約に至るまでのプロセスにおいて本部側の対応に何ら問題がない(仮に問題があったとしても違法とまでは言えない)という前提であれば、本部は加盟金を返還する義務はありません。

もっとも裁判例の中には、たとえ加盟金不返還特約があったとしても、

①本部側の一方的事情で事業を中止した結果、加盟者の営業継続が困難となりフランチャイズ契約が終了するに至った事例

②加盟直後で開業前の初期研修が行われていない段階でフランチャイズ契約の中途解約がなされた事例

などでは、加盟金の返還を認めた事例が存在します(但し、②については一部返還が認められたのみです。加盟金の対価内容のうち履行されていない部分のみの返還を認めた事例となります)。

また、後述の2.に記載するような、いわゆる説明義務違反(典型的には売上予測に関する説明)の場合や、そもそもフランチャイズ本部としての実態を有していなかった事例(詐欺に該当するような事例)では、加盟金相当額の損害賠償請求が認められている裁判例もあります。

したがって、解約するに至った背景事情、及び解約の決定的原因が本部側の責任であるという場合には、本部は加盟金返還(加盟金相当額の損害賠償)を行う義務が生じることになります。

 

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2.売上予測に関する説明と損害賠償請求の可否(設問(2))

(1)はじめに

フランチャイズに加盟するに際し、加盟希望者にとって最大の関心事は、「このチェーンに加盟し事業運営することでどの位儲かるか。」であることは争いがないと思います。このため、フランチャイズ契約締結に際しての売上予測の説明と実際の売上が異なる場合、加盟者の期待を大きく裏切ることになることから、「全ては本部の責任だ!」といいたくなるのも気持ちとしては理解できます。しかし、フランチャイズ契約は本部も加盟者も独立の事業者です。このため、加盟者の経営責任=自己責任を抜きにして、本部に対して責任追及することは困難と言わざるを得ません(もちろん、本部側が「最低でも○○の売上は確保できます」と保証する旨の特約を締結していれば別ですが、通常はその様な特約は締結されていません)。

(2)本部が責任を負う場合

もっとも、「自己責任の原則」という言葉のみで全てが片付くわけではありません。上記(1)でも記載した通り、加盟希望者の関心事は「いくら儲かるか」であり、かつフランチャイズに加盟する最大の動機となっていることは、本部も十分に認識しているはずです。この様に考えると、本部がいい加減な売上予測を行った場合、例えば、当該売上予測を行うに際して適切な調査方法を取らなかった、あるいは調査結果の分析に客観性合理性がなかった、という場合には本部が責任を負うことになります。

ちなみに、現実問題として売上予測(事業予測というべきか)の提示は、将来の事業活動の成果を事前に予想することであり、基本的に不可能な作業と言わざるを得ない点があります。そして、時々刻々変化する経済情勢や顧客志向の変化、その他諸々の事情によりフランチャイズを取り巻くマーケット環境は大きく変化する性質を有します。このため、絶対的な売上予測を行うことは不可能である以上、単に売上予測と現実の売上額との乖離が大きいという事情だけで、本部が責任を負うというわけではないというのが裁判所の判断傾向と言ってよいと考えられます。

結局のところ、「売上予測が行われたプロセスに問題」があること、すなわち売上予測の手法自体が明白に相当性を欠いた不合理なものであったり、これに用いられた基礎数値が客観的根拠を欠いている場合などで、加盟希望者におけるフランチャイズ契約に関する判断を誤らせたと評価される場合には、本部が責任を負うということになります。

(3)全額の損害賠償責任が認められない可能性

本部が責任を負う場合があるとしても、裁判例を紐解くと、必ずしも加盟者が要求する損害全額が認められている訳ではありません。これは、加盟者も「独立した事業者」である以上、事業リスクを負担すべきという自己責任の原則が働き、損害の公平な負担を図る「過失相殺」という制度で減額されてしまうことが多いからです。

どういう場合に加盟者に対して「過失相殺」が適用されるかはケースバイケースとなってしまいますが、例えば、加盟者が自ら立地調査を行おうともせず、安易に本部担当者のセールストークを鵜呑みにしてしまったような場合は、過失相殺により、大幅な減額がなされる事もあり得ます。

(4)消滅時効に注意

理屈の話になってしまうのですが、最高裁判所が平成23年4月22日に言い渡した判決内容を踏まえると、売上予測等のフランチャイズ本部の説明義務違反に基づく損害賠償請求については、「説明内容が虚偽であることを加盟者が知ったときから3年以内」に不法行為に基づき請求を行うことになると考えられます。

本部としては、この消滅時効の管理についても検討を行う必要があります。

(5)まとめ

以上の通り、売上予測と現実の売上額との乖離を原因とした本部が責任を負う可能性を検討するに際しては、①責任が認められるのか(裏付け根拠のない説明を行ったのか)、②損害賠償額の減額が認められるか(加盟者側の過失相殺)、という2つ問題を考えなければならず、きちんと整理しながら検証することが必要です。

3.商圏競合・カニバリと本部の責任(設問(3))

(1)同一商圏への出店の可否とテリトリー制

加盟店の営業地域(商圏)に同じチェーン店を出店することが可能かについては、テリトリー制を採用しているのかによって結論が変わってきます。

まず、テリトリー制について決まった定義がある訳ではありませんが、大まかには、「本部が加盟者に対して営業上の地域を指定すること」を指すと考えれば良いかと思います。そして、このテリトリー制の内容として、当該地域において独占的な営業権を加盟者に与える排他的なテリトリー制もあれば、単に加盟者の店舗設置場所を指定するに留まる場合もあります。どの様なテリトリー制が定められているかは、フランチャイズ契約書及び法定開示書面を確認するしかないのですが、例えば、「本部は、加盟者の同意無き限り、本地域に自己又は他の加盟者が経営する店舗を設置しない。」等と定めている場合、加盟者は当該地域で独占的に営業ができる合意が成立していると解釈できます。

以上の通り、この様なテリトリー制に関する合意があるにもかかわらず、本部が直営店を出店させたり、本部が他の加盟者の出店を許諾する場合には、本部は合意違反による損害賠償責任を負うことになります。

一方、上記のような合意が無い場合、本部が自ら又は他の加盟者を通じて出店させることは原則問題ないと考えられます。したがって、本部は損害賠償責任を負わないというのが基本的な結論になります。ただし、例えば、本部が加盟者に対する嫌がらせ目的があるなど不当な動機がある場合、加盟契約交渉に際して提示される売上予測等の資料が明らかに一定の地域での独占的販売を前提にしている場合などがあれば、たとえフランチャイズ契約書にテリトリー制に関する規定がなくても別途検討を行う必要が生じると考えられます。

なお、フランチャイズの加盟募集の際に、セールストークの一環として、「この地域に直営店を出す予定はありません」「あなたに独占的に営業してもらいますよ」という説明があったとしばしば言われることがあります。結局のところ、いわゆる言った言わない論争に陥りがちにはなってしまうのですが、単にフランチャイズ契約書に記載はないと形式的に結論付けるという対応も行いにくいのが実情です。本部としては、加盟募集担当者に対し、安易なセールストークは厳に慎むべきよう適切な指導を行う必要があります。

(2)本部に求められるスタンス

ところで、若干法律論から離れるところがありますが、本部としても、合意が無いから出店は問題ないと即断することは必ずしも適切な加盟者対応ではないと思われます。

加盟者とフランチャイズ契約を締結したら終わりというわけではなく、契約締結後の継続的な経営指導を行うことが通常です。この経営指導の一環として、事前に同一チェーンの店舗が開店予定であること、何故出店が必要なのか、この開店に伴う経営環境の変化やそれに対する対応策等を伝える方が、加盟者の不満を押さえることとなり、相互協力を図りやすいと言えるのではないでしょうか。

いずれにせよ、テリトリー=商圏は、加盟者の売上に直結するものですので、本部・加盟者とも認識に齟齬が出ないよう、十分に話し合う必要があります。

4.加盟者による本部指定業者の変更の可否(設問(4))

(1)はじめに

フランチャイズブランドの統一性(ブランドや品質の維持)という観点からは、食材供給業者を指定することを本部が決定すること自体は直ちに違法と言うわけではありません。したがって、加盟者からの仕入れ業者変更要求に対して当然に応じる必要はありません。また、加盟者が本部の指導を無視して、本部指定業者以外の仕入れ業者より仕入れを続けるようであれば、フランチャイズ契約を有効に解除することも可能です。

(2)独占禁止法との関係

ところで、この様に記述すると、フランチャイズ本部による仕入れ業者の指定や販売価格の拘束行為は、「不公正な取引方法(独占禁止法19条、2条9項)」に該当し、公序良俗違反(民法90条)として無効ではないかと質問を受けることがあります。たしかに、フランチャイズ本部が指定した仕入れ業者からの仕入れ価格が、市価と比較して極端に高かったり、本部が当該仕入れ業者から多額のリベートを取っているような場合には、上記問題が生じる可能性があると思います。あるいは加盟者の所有に属する商品について、消費期限等の関係で売り切らないことには損失を被ってしまう事情があるにもかかわらず、一切の値引き販売を禁止することは不合理な制限であると言える場合もあると思います。

しかし、フランチャイズとして顧客の支持を得て、店舗の維持・発展を行って行くためには、ブランドイメージや品質を確保する必要があります。この必要性を実現するために、本部が加盟者に対して指示・指導を行うわけですが、当該指示・指導に従わない加盟者が存在すると、フランチャイズのイメージや品質が損なわれ、結局は維持・発展ができないということになってしまいます。

この様な実情もあることから、公正取引委員会が公表している「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(いわゆるFCガイドライン)でも、「フランチャイズ・システムによる営業を的確に実施する限度にとどまるものであれば、直ちに独占禁止法上問題となるものではない。」と記載されているところです。

もっとも、営業を的確に実施する限度を超えている場合、例えば、正当な理由がないのに、本部又は本部の指定する事業者とのみ取引させることにより、良質廉価で商品又は役務を提供する他の事業者と取引させないようにしたり、必要な範囲を超えて、本部が仕入数量を指示し、当該数量を仕入れることを余儀なくさせるような場合は、独占禁止法が定める不公正な取引方法(特に優越的地位を濫用)に該当し、本部の指示・指導は違法と判断されることになると考えられます。

なお、本部は加盟希望者に対し、独自の仕入れルートや販売戦略を持っているのか問い質すこと、フランチャイズに加盟するに際し、食材等の仕入れ先について制限があることを十分に説明するべきです。一方で、本部としては、ブランドイメージを維持するために必要な範囲を超えた統制を加えていないか、市価の実情を無視した制限を加えていないか等に十分留意する必要があります。

 

<2020年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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