契約書チェック・審査のコツについて、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

法律関係の勉強をしたことがないのですが、社内の配置転換により契約書のチェックや審査業務を担当することになりました。どういった点に注意しながら契約書の審査業務を進めてよいのか、教えていただけないでしょうか。

 

 

【回答】

契約書というと、イレギュラーな事態が生じた場合に備えて整備するものであること、したがって、リスクと想定されるものを中心にチェック・審査を行うべきという考え方を持つご担当者様が多いように感じられます。

たしかに、上記考え方は間違いではありません。

ただ、幹と枝とでも言えばよいでしょうか、枝の場面であるイレギュラーな場面ばかり焦点を当て枝葉末節に拘り過ぎることで、幹の部分である肝心の商流・取引内容の“個性”が抜け落ちてしまっていると感じることも多々あります。その結果、商流・取引内容と契約内容に食い違いが生じ、いざという場面が発生しても契約書が実態にそぐわないため使い物にならないという経験を何度もしてきました。

そこで、こういった問題を回避するべく、執筆者個人の方法論にすぎませんが、執筆者が意識しながら行っている契約書のチェック・審査方法について、以下解説を行います。

 

 

【解説】

 

1.いわゆる一般条項をいったん消去する

ここでいう一般条項とは、例えば、「期限の利益喪失条項」、「契約解除条項」、「債権譲渡禁止条項」、「秘密保持条項」、「損害賠償額の予定・違約金条項」、「反社条項」、「不可抗力条項」、「連帯保証人条項」、「合意管轄条項」といった多くの契約書で共通に用いられる条項のことです。

なぜ、こういった一般条項をいったん消去するかというと、これら一般条項を消去することで、契約書に定められている取引内容の特性や個別具体的事情が目立つようにするためです。そもそも契約書というのは、あくまでも当事者間の取引条件を含む合意事項を書き記したものであす。そして、それぞれの取引は千差万別であり取引実情に応じた“個性”があります。その“個性”を見極めた上で、その“個性”が契約内容に反映されていないことには、いくら契約書に立派なことが書いてあっても取引現場では使い物になりません。

そこで、一般条項の検討をまずは後回しに、契約書が読み取れる大まかな取引内容を理解することを起点とすることをお勧めしています。

 

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2.正常取引段階での時系列に沿って条項を抽出する

契約書について、イレギュラーな事態が生じた場合を想定しどういった対処を行うのかを記載したものというイメージがつよいかもしれません。たしかに契約書の機能の1つである紛争予防機能という観点からは、間違ったものではありません。

ただ、前提となる取引の流れを掴まないままイレギュラーな事態を想定しても、それは机上の空論にすぎず、実際には想定する必要がない場合もあれば、イレギュラーな事態に伴うリスクはもともと織り込み済みであり気にする必要はないといった場合もありうる話です。

こういったズレを生じさせないためにも、まずは上記1.で抽出した取引内容に関する条項について、正常取引の流れに応じて並び替えるという作業がお勧めしています。

具体的なイメージを持っていただくべく、以下では3つ事例をあげて解説します。

(1)売買取引の場合

売買取引の場合、売買対象となる目的物を指定した上で、売主が買主に発注し、買主が受注の意思表明することで、売買取引が成立します。そして、売買取引に従って、目的物を納品し、納品されたものを検査し、問題がなければ代金支払う…という経過をたどることが一般的です。

こういった取引の流れを踏まえて契約書に記載されている条項より、「取引の対象となる売買目的物を特定する条項」、「注文方法に関する条項」、「注文確定=(個別)取引成立に関する条項」、「納品に関する条項」、「納品物検査に関する条項」、「代金支払いに関する条項」を時系列に沿って抽出します。

こうすることで、この契約における売買取引の全体像が見えてくることになります。

 

(2)業務委託の場合

業務委託の場合、まずは委託する業務内容の特定と報酬額を相互に確認した上で、受託者が契約期間内にあらかじめ定められた業務を遂行し、それによって得られた成果(物)を納品する。そして、委託者が当該業務に対する報酬を支払い、成果(物)を使用する…という経過をたどるのが一般的です。

こういった取引の流れを踏まえて契約書に記載されている条項より、「業務内容を特定する条項」、「報酬額の算定方法や支払い時期、支払い方法に関する条項」、「業務遂行期間に関する条項」、「業務遂行中の双方の役割分担や注意事項を記載した条項」、「成果物の納品に関する条項」、「成果物の使用上の注意点に関する条項(権利帰属など)」を時系列に沿って抽出します。

こうすることで、この契約における業務委託取引の全体像が見えてくることになります。

 

(3)ライセンス取引の場合

ライセンス取引の場合、ライセンスの対象となるものは何かを特定することが最初の作業になるはずです。その上で、ライセンス対象物の利用期間や利用方法・範囲について合意し、ライセンス料を支払った上で、ライセンシーはライセンス対象物を利用して何かを生み出す…という経過をたどるのが一般的です。

こういった取引の流れを踏まえて契約書に記載されている条項より、「ライセンス対象物を特定する条項」、「ライセンスの利用期間に関する条項」、「ライセンスの利用方法や範囲を定めた条項(ライセンスを受けてもなお禁止される行為態様)」、「ライセンス料の計算方法や支払い方法に関する条項」、「ライセンス対象物より生じた派生物の取扱いを定めた条項」を時系列に沿って抽出します。

こうすることで、この契約におけるライセンス取引の全体像が見えてくることになります。

 

3.正常取引時と異常時における金銭の動きを確認する

 

(1)正常取引時の金銭の動き

タイトルに書いた「正常取引時における金銭」とは、上記具体例に即して記載すると、売買であれば売買代金、業務委託であれば報酬金、ライセンス契約であればライセンスフィーという対価のことを指します。

そして、「金銭の動き」についてですが、対価の支払い時期や支払い方法はもちろん重要なのですが、それだけに留まりません。特に意識して検討してほしい事項は対価の内容です。よく見かけるトラブルとして、支払った対価の中には、どういったことまで含まれているのか(逆に言えば別途費用となるものは何か)について、両当事者の認識の相違があるというパターンです。

例えば、売買代金の場合、この対価内容として売買目的物を買主の元に運ぶための運送費が含まれているのか、設置費が含まれているのか、不具合が生じた場合の対応費用やメンテナンス費用が含まれているのか等々を確認する必要があります。

業務委託の報酬の場合、例えば対価内容の主たるものがコンサルティングといった委任型であれば、受託者の移動費用(交通費や宿泊費など)や調査費用などが含まれているのか、対価内容の主たるものが目的物制作といった請負型であれば、第三者権利への対応費用(WEBやシステム制作の場合別途必要となることが多い)や素材・材料費(建設関係で別途必要となる場合が多い)などが含まれているのか等々を確認する必要があります。

ライセンスフィーの場合、例えばプログラムライセンスの場合であれば、ライセンス対象物を利用できる人物が限定されていないか、利用できる機器・端末が限定されていないか、社内での利用に限定されていないか等、特許や商標等の場合であれば、特許や商標を用いることができる商品・サービスが限定されていないか等の対象範囲を確認する必要があります。

 

(2)異常時の金銭の動き

異常時の金銭の動きの典型例は損害賠償です。

ただ、この損害賠償についても、一般条項として損害賠償や違約金に関する条項が定められている場合もあれば、各取引が正常に遂行している最中に何か不具合が生じた場合を想定した個別の損害賠償や違約金に関する条項の2種類が存在します。

一般条項としての損害賠償の場合、損害の発生原因(故意、重過失の場合に限定されていないか等)、損害の範囲(逸失利益等の特別損害、間接損害が範囲対象外となっていないか等)、損害額の上限(支払った対価額が上限額であり、それを超える損害については負担しない等)、責任を免れる事由(特定の事由が生じた場合は免責される等)などをピックアップすることになります。そして、自らが損害を被った場合には適切な損害金を受領できるのか、一方で自らが損害賠償責任を負う場合には不当に損害金を支払うことにならないかを中心に検討する必要があります。

 

次に各取引が正常に遂行している最中に何か不具合が生じた場合ですが、例えば売買取引の場合、納期遅延が発生した場合、納品後検査合格前までに売買目的物が滅失毀損した場合(いわゆる危険負担の問題)、検査段階で不具合が見つかった場合、検査合格後に不具合が見つかった場合(いわゆる契約不適合責任や製造物責任など)といった、一連の取引経過ごとで損害賠償に関する内容が定められることがあります。

業務委託の場合であれば、業務開始前、業務遂行中、業務完了後の取引段階ごとで分けて損害賠償に関する条項が定められることがあります。

ライセンスの場合、ライセンス期間中におけるライセンサー側の事情として、ライセンス対象物に何か問題があった場合(第三者の権利を侵害していることが発覚した場合など)、一方ライセンシー側の事情として、ライセンス対象外の利用を行っていた場合などで損害賠償責任に関する条項が定められることがあります。またライセンス期間終了後であっても、ライセンサー側の事情として、ライセンス対象物が第三者権利を侵害していることが事後的に発覚した場合の損害賠償に関する条項が定められていることがあります。

それぞれの取引経過中の段階で定められる損害賠償に関しては、上記一般条項での検討対象と同様のことが当てはまりますが、一般条項に定める損害賠償条項と内容が重複しないか、重複することで矛盾・抵触が生じないか、矛盾・抵触するのであればどちらを優先させるのか等の視点も持ちながら検討する必要があります。

 

4.正常取引が終了した後のアフターケアを検討する

契約書の効力が発揮される場面は、契約の有効期間が終了してからと言っても過言ではありません。なぜならば、契約の有効期間中は取引関係にある以上、取引関係を潰さないためにも相応の対応を行うことが多いのですが、取引関係が終了した場合は利害が無くなる以上、一切対応しないという相手当事者も存在するからです。

例えば、売買取引の場合、買主の立場としては、売買目的物に不具合や稼働不良があった場合にアフターケアをしてもらえるのか(契約不適合責任に関する条項)、契約を解除して代金を返金してもらえるのか(契約解除と原状回復に関する条項)、売買目的物によって当事者以外の第三者が損害を被った場合に補償してもらえるのか(製造物責任、損害賠償責任に関する条項)などを精査する必要があります。

また、業務委託の場合、例えばコンサルティングサービスのような委任型の場合における委託者の立場であれば、誤った指導や成果が得られない場合に補填は行ってもらえるのか(代償措置に関する条項)、損害が生じた場合に責任を負ってくれるのか(損害賠償責任に関する条項)などが、受託者の立場であれば、契約目的を超えた成果の使用継続に対する責任追及(損害賠償に関する条項)などが検討対象となります。一方、例えば目的物制作のような請負型の場合における委託者の立場であれば、売買取引の場合と同様に、アフターケアや代金返還、第三者損害への対応等を検討することになります。

さらに、ライセンス取引の場合におけるライセンシーの立場であれば、例えば第三者権利を侵害しているライセンス対象物に基づき研究開発を行った場合の損失や生成された製品・サービスを回収・中止することによって生じた損害等を補填してもらえるのか(損害賠償に関する条項)、あるいは代用可能な新たな技術等を提供してくれるのか(代償措置に関する条項)などを検討することになります。一方ライセンサー側であれば、ライセンス契約終了後もライセンス対象物を使用継続した場合における責任追及(製造やサービス提供の差止めに関する条項)や無断ライセンスによる被害状況を確認するための対応(調査受忍義務に関する条項)などを検討することになります。

 

正常に取引が終了した場合の「後」段階の検討は、やや専門的な知識が必要となります。したがって、慣れないうちは、いきなり条項を探すという作業を行うのではなく、まずはどういった場面が想定されるのか、その場合にどういった対処を講じたいのかを整理し、想定した個別具体的な場面について、条項が整備されているのか当てはめてみるという作業を繰り返すことが精度を上げるポイントになると思われます。

 

5.取引を途中で終了させるための条項を検討する

継続的な取引関係を前提した契約書である場合はもちろんのこと、スポット的な取引を前提にした契約書であっても、何らかの事情で先方による履行完了前に契約を打ち切りたいという場面が生じる場合があります。

契約書チェック・審査については、従来はどうやって相手を縛りこんでいくのか(契約上の義務を負担させるのか)、如何にして自分のリスクヘッジを確保するのかという、契約が存続することを前提にした観点が多かったように思われます。しかし、最近では、上記のような従来型観点以外にも、経営の機動性確保の観点から不必要となった取引を如何にしてきれいに清算するのか、という観点も重視されつつあります。

端的には、中途解約を念頭に置く側からすれば、無条件での中途解約を認める条項が存在するのか、存在する場合は清算する際の条件はどうなっているのかを検討することになります。

一方、中途解約を防止したい側からすれば、中途解約に関する条項の有無の確認はもちろん、明示的に中途解約を禁止する旨の条項を設ける必要がないかを検討する必要があります。なぜなら、例えば業務委託契約の場合、その法的性質を(準)委任や請負と考えた場合、いずれの場合であっても民法上は中途解約を認める法的根拠が存在するからです。ただ、この民法上の規定は当事者間の合意により変更可能な任意規定と考えられていますので、中途解約を阻止したいのであれば、明示的に中途解約を禁止する条項を設けることを検討することになります。

なお、中途解約条項を設置するについてやむなしという場合、清算方法について一工夫することも要検討となります。例えば、売買取引において買主が中途解約を申し入れてきた場合、本来得られた売買代金額と売主がやむを得ず第三者へ転売することによって得られた代金額の差額を支払うといった清算内容を明記するのも一案です。また、業務委託取引において委託者が中途解約を申し入れてきた場合、例えばコンサルティングのような委任型の場合であれば、契約終了までに本来発生した報酬のうち一部を支払ってもらうという清算内容、一方で目的物制作の請負型の場合であれば、製造工程段階に対応したスライド報酬による清算内容といったことが考えられます。さらに、ライセンス取引においてライセンシーが中途解約を申し入れてきた場合、上記業務委託の委任型のような清算を行う、といったことを検討することになります。

 

6.取引上の問題が生じた場合の条項を確認する

上記3.(2)で記載した「異常時の金銭の動き」と重複する部分があるのですが、何か問題が生じた場合、金銭支払い以外の対応を求める条項が存在する場があります。

例えば、売買取引の場合、納期遅延や検査不合格となった場合は売主の指示する期間までに商品を納入する、第三者よりPL責任の追及があった場合は原因探索と交渉対応を行うといった条項です。

業務委託の場合、例えばコンサルティングのような委任型において、コンサルティングによる成果が得られない場合は追加のコンサルティングを実施する、一方目的物制作の請負型において委託者の要望通りに仕上がっていない場合は修正を行うといった条項の有無を確認する必要があります。

ライセンス取引の場合であれば、ライセンス対象物に対して第三者がライセンシーに対して権利侵害を申し立ててきた場合、ライセンシーはーライセンサーに対して全ての交渉権限を付与する、あるいはライセンシーが交渉せざるを得ない場合は逐一ライセンサーに報告し、報告がない場合ライセンサーは一切責任を負わないといった条項があったりします。

これについてもやや専門的な知識を必要とします。契約書チェック・審査に慣れていない場合は、通常の商流を想定した上で、商流から外れてしまうのはどういった場面が想定されるのか、当該場面が生じた場合はどういった事項を要望するのかを整理しつつ、想定した個別具体的な場面について、条項が整備されているのか当てはめてみるという作業を繰り返すのが重要と考えられます。

 

7.一般条項の検討

一般条項については、上記1.で記載したような「期限の利益喪失条項」、「契約解除条項」、「債権譲渡禁止条項」、「秘密保持」、「損害賠償額の予定・違約金条項」、「反社条項」、「不可抗力条項」、「連帯保証人条項」、「合意管轄条項」といったものがあげられます。

紙幅の都合上、内容面に関する解説はここでは行いませんが、よくあるパターンとして、一般条項を他の契約書データから切り貼りしたがために、

・甲乙等の当事者が逆になる誤り

・突然他の条項では用いられていない用語例が出てくる誤り

・引用条項にズレが生じる誤り

といった形式的な問題が結構な頻度で生じたりします。

また、上記3.(2)でも触れましたが、一般条項に定める内容と他の条項で定める内容が重複したり矛盾抵触したりする場合の処置(適用優先順位を付けるなど)が不十分であるといったこともあります。

こういった点についても意識して契約審査を行いたいところです。

 

 

<2021年1月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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