独立支援型フランチャイズ契約書作成に際してのポイントについて、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社は飲食事業を営んでいるところ、お客様からの評判もよく、同一看板にて複数の直営店を展開することができるようになりました。

もっとも、これ以上の拡大戦略を取りたくても各店舗への監視の目が行き届かないこと、店長クラスの従業員が「自分の店を持ちたい」として離職することが増えてきました。そこで、いわゆる暖簾分け、すなわち独立自営を希望する従業員に対し、一定の条件を充足した場合には当社の直営店事業を譲渡し、当該店舗の運営をお任せするという社内独立制度を構築しました。

現在、数名の従業員が社内独立制度への申込を行い、近いうちに当該従業員に店舗営業権を譲渡する予定です。

そこで、社内独立制度を経て自営する元従業員との間で、必要な契約書を整備したいのですが、どのような点に注意すればよいのか教えてください。

 

 

【回答】

飲食店や美容室などを中心に、従業員による独立支援を積極的に行うことで、複数店舗の出店・同一看板チェーン店の展開を加速させる本部が急増しています。

このような手法はフランチャイズと類似することから、基本的にはフランチャイズ契約書を参考にしながら、従業員との間で必要な契約書を整備することになります。

もっとも、全くの部外者がチェーンに参画するのではなく、現場実務を経験している元従業員がチェーンに参画するため、通常のフランチャイズ契約書と全く同様の内容にする必要性はありません。また一方で、従業員の独立支援を行う体裁上、通常の加盟者には提供しない特別な支援を行うことも多いことから、この点も意識して契約書の作成を行う必要があります。

以下では、一般的なフランチャイズ契約書を念頭に置きつつ、どのような相違が生じるのかにつき、「金銭負担に関する条項」、「事前説明に関する条項」、「日々の運営に関する条項」、「契約期間に関する条項」、「契約終了後の措置に関する条項」という観点から、そのポイントを解説します。

なお、従業員独立支援型フランチャイズ契約書を作成する場合、相当高度な専門知識が必要となることから、弁護士の支援を受けることをお勧めします。

 

 

【解説】

 

1.金銭負担に関する条項

 

従業員独立支援型フランチャイズ契約の当事者となる(元)従業員は、本部・チェーンの方針や考え方を理解していることはもちろん、店舗運営等の現場経験を積んでいます。したがって、外部からチェーンに加盟する者と比較し、開店までのサポートや開店後の店舗運営について、本部は相対的に手間暇をかける必要がないというメリットがあります。このメリットを考慮し、従業員独立支援型フランチャイズ契約においては、本部の労力が割かれることで軽減した費用負担分をフランチャイジー(元従業員)に還元=金銭負担減という形で定められることが通常です。

一方で、従業員独立支援型フランチャイズの場合、元従業員に対して特別なサービスを提供する場合があることから、その分は元従業員において負担増となることもあります。

具体的には次の通りです。

 

(1)加盟金

各フランチャイズ本部によって、加盟金の対価内容は様々なものがあると考えられますが、例えば初期研修に対する費用が含まれている場合、元従業員に対して改めてゼロから研修を受講させるということはナンセンスです。

したがって、初期研修分を控除した加盟金を設定するということが考えられます。

 

なお、従業員独立支援を積極的に展開している事業者の場合、従業員独立支援型フランチャイズ契約を締結するインセンティブとして、加盟金を減額・免除するといった手法も用いられることがあります。

加盟金に含まれる対価内容とは連動させて減免することが難しい場合は、上記のようなことも検討してよいかと思います。但し、本来の加盟金より減免したということを契約書に明記すると、税務上の処理(免除益の問題)が厄介になる可能性がありますので、端的に減免した金額のみ契約書には書いたほうが無難かもしれません。

 

(2)保証金

本来的に保証金は、加盟者が本部に対して金銭支払いを行わない場合の担保として徴収するものであり、この不払いリスクについては、元従業員であろうと外部からの加盟者であろうと変わらないはずです。

したがって、従業員独立支援型フランチャイズ契約であっても、保証金については外部加盟者のフランチャイズ契約と同額に設定するという本部も見かけるところであり、考え方としては間違っていません。

もっとも、(元)従業員に対するインセンティブを付与するという観点から、保証金についても一定の減額措置を講じている本部も存在します。

どちらが正解・間違いという話ではありませんので、本部と元従業員との関係性を考慮し、保証金の額を設定すればよいと考えられます。

 

(3)初期研修費

加盟金の対価内容として初期研修を含む場合もあれば、加盟金とは別に初期研修費を徴収する本部も存在します。この点、加盟金に包含させるのか、初期研修費を別にするのかは法律上のルールがありませんので、どちらで処理しても問題ありません。

ただ、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、元従業員に対して、一から初期研修を受講させる意義は乏しいことが通常です。

したがって、初期研修費を別にする場合、初期研修は不要であるとして費用を免除する、あるいは初期研修のプログラムを大幅にカットしたものを受講させることを前提に初期研修費を減額するといった対応をとれば問題ありません。

なお、初期研修費の減免した旨契約書に記載すると税務処理(免除益)の問題が生じますので、免除するのであれば契約書に初期研修費のことは明記しない、減額するのであれば減額後の金額のみ初期研修費として明記するといった対応が望ましいと考えられます。

 

(4)ロイヤルティ

ロイヤルティの対価内容については本部によって様々と考えられますが、開店後の店舗運営における経営指導への対価と位置付けることが多いと思われます。

このように考えた場合、従業員独立支援型フランチャイズ契約の当事者である元従業員に対して、本部が手取り足取り経営指導を行うことは不要といえますので、ロイヤルティを減額することも検討に値します。

もっとも、ロイヤルティの主たる対価内容をノウハウや看板(商標)の継続的使用に対する対価と位置付けた場合、元従業員であろうと外部加盟者であろうと差異を設ける必要はありません。

したがって、ロイヤルティについては元従業員と外部加盟者とで同額(同率)にするということでも問題ありません。

 

(5)資産譲渡に伴う分割金

資産譲渡に伴う分割金と名付けましたが、従業員独立支援型フランチャイズの場合、既存店舗を元従業員に譲渡し、引き続き元従業員が店舗運営を継続するという形をとることが多いとされています。

このため、本部と元従業員との既存店舗の売買契約(事業譲渡契約)に基づき、元従業員は本部に対して売買代金を支払うことになるのですが、一括支払いは難しいことが通常です。この結果、本部と元従業員は分割による支払い契約を締結し、キャッシュフロー面で本部が元従業員を支援することになります。なお、実際の売買代金についても、元従業員を支援するという名目で多少の減額を行うことが通常ですが、減額幅が大きすぎる場合、税務上の問題(実質的な無償譲渡)が生じますので、この点は注意が必要です。

 

ところで、この分割支払いについて、従業員独立支援型フランチャイズ契約に定める場合もあれば、別途売買契約(事業譲渡契約)に定める場合もあり、どちらでも問題はありません。

もっとも、本部として留意しておきたい事項があります。

それは、従業員独立支援型フランチャイズ契約が何らかの事由で終了した場合、売買契約(事業譲渡契約)に基づく売買代金の支払いについて期限の利益を喪失する旨定めておくという点です。意外と忘れていて、従業員独立支援型フランチャイズ契約終了後に、元従業員より如何にして回収するのか問題が生じているという本部を見かけますので、注意してほしいところです。

 

(6)物件使用料(転貸等の場合)

上記(5)で解説した通り、従業員独立支援型フランチャイズの場合、本部が所有する既存店舗に係る営業用資産を元従業員に譲渡することで、元従業員が店舗運営を継続できるよう便宜を図ることが多いのですが、不動産など第三者が所有するものについては、本部と元従業員との間で取り決めることはできません。

店舗運営を継続するためには、賃貸借、リース、火災保険、水道光熱、通信回線などの権利を有する第三者との調整が必要であるところ、一般的には本部と第三者との契約を終了させ、元従業員が新たに当該第三者と契約を締結しなおす方法がとられます。しかし、賃貸借の場合、家主側より元従業員と直接賃貸借契約するのは不安が残るとして、賃貸借契約は従前の通りとし、本部が元従業員に転貸することを許諾するという形をとることがあります。

この場合、本部は元従業員に対し、事実上保証人になるという便宜を供与することになるのですが、契約上、本部は家主に対して直接の賃料支払い義務を負担することになります。もっとも、その賃料の支払い原資は元従業員からの転貸料の支払いとなり、本部が実際に金銭負担することはありません。このような特殊性を考慮し、転貸借契約を締結するに際しては、例えば転貸料の支払いを怠った場合、本部が立替えて賃料を支払う義務はなく、場合によっては賃料不払いによって賃貸借契約が解除されること(転貸借契約も消滅すること)を定めといった手当を行うことポイントとなります。

なお、転貸料が不払いとなっても、本部は家主に対して賃料を支払う必要があることを考慮し、上記(2)で記載した保証金については、フランチャイズ契約と転貸借契約の両方をカバーできるよう、外部加盟者よりも割高にするということも検討に値します。

 

(7)総務サポート費・事務処理代行費

一部の本部では、元従業員に店舗の現場業務に集中してほしいとして、給与計算や会計帳簿の作成、従業員や取引業者への支払い等の業務を本部が元従業員より受託するということが行われています。独立自営を前提にするのであれば、本部が加盟者に対してこのような代行サービスを提供することはあり得ないことを考慮すると、これも元従業員への支援と位置付けることができます。

この業務を受託するに際し、総務サポート費・事務処理代行費等と称してロイヤルティとは別に徴収するのか、ロイヤルティの対価に包含させるのかについては、本部の裁量判断となります。ただし、総務サポート・事務処理代行等については、外部加盟者に対して提供しない独自サービスであり、本部も相応の業務負担がある以上、元従業員にとっては金銭負担が増える方向で作用することが通常です。したがって、総務サポート・事務処理代行等については選択制とすることが望ましいと考えられます。

 

ところで、コンビニエンス業界のように、元従業員の店舗運営により生じた売上金全額を本部が一旦預かり、必要経費を控除の上、後日に残額を元従業員に返還するという形式をとる場合、オープンアカウントと呼ばれる会計処理を行うことになります。近時このオープンアカウントについては色々と社会的批判が出ていることから、お金の管理の在り方については慎重に制度設計を行った方が無難です。

 

 

2.事前説明に関する条項

 

フランチャイズ契約を締結するに先立ち、本部は加盟候補者に対し、チェーンに参加することで可能となる事業内容、サポート内容、金銭負担等について説明を行うことが義務付けられています。したがって、従業員独立支援型とはいえ、フランチャイズ契約を締結することになる以上、本部は(元)従業員に対して、チェーンに参加するにあたって必要かつ十分な説明を行う義務が発生します。

もっとも、(元)従業員は全くの部外者ではなく、むしろ現場で事業遂行を経験していた者であることから、自ずとその説明内容も異なってきます。

この点を考慮し、従業員独立支援型フランチャイズ契約の内容は、外部加盟者向けフランチャイズ契約と異なる事項が生じてきます。具体的には次の通りです。

 

(1)売上予測・売上実績の開示

売上予測を行う本部は少ないと思われますが、類似する環境下での別店舗の売上実績、あるいは類似環境の有無を問わず現在稼働中の店舗での売上実績を説明することは通常です。また、これら売上実績を記載した資料を加盟者に開示することもあります。

さて、上記の説明内容及び資料開示に関し、本部としては当該説明・資料の数字だけが独り歩きしないよう、フランチャイズ契約書において「同様の売上及び利益を保証するわけではない」と定めることで対策を講じることが通常です。そして、この対策は従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合も同様といえます。

もっとも、元従業員は一から開店場所を探索するのではなく、本部から既存店舗を譲受けて開業することが多いという実情があります。この点を考慮した場合、「従前どおり(=本部直営時代)の売上が確保できることを保証しない」と追記するといった対応も考えられます。

 

(2)立地診断

売上予測は行わないものの、どの程度の集客を見込めるのか、地域実情に応じた顧客単価はどれくらいか、ライバル(同業他社)との競争の可能性はあるのか等々を調査し、出店場所とて適切か否かを診断することで開業場所選定の支援を行うサービスのことを立地診断と一般的には呼んだりします。

この立地診断は、外部より加盟しフランチャイズ契約を締結する者のとっては開店場所選定の上で重要な情報であると共に、立地診断の結果いかんによっては、開業による莫大な損失を未然に防止しうる可能性あるという点で、有用なサービスとなります。一方、従業員独立支援型フランチャイズ、特に既存店舗を譲受けて開業する元従業員にとっては、今さら立地診断を行っても仕方がないというところあります。また逆に、本部としても、開業から数年経過している既存店舗について、周囲の環境変化等を考慮し改めて立地診断を行うと違った結果が出て困惑するといった事態も生じえます。

したがって、従業員独立支援型フランチャイズにおいては、立地診断に関する条項は削除すると共に、本部が元従業員に対して行うサービスとして、「立地診断は行わない」旨明確に定めることで、双方の誤解を避けられるよう対策を講じることが無難かもしれません。

 

(3)開店資格

一般的なフランチャイズ契約書では、フランチャイズ契約を締結しチェーンに加盟したら直ぐに出店可能という定め方はしていないことが多いと思われます。例えば、初期研修を受講し研修修了認定が出ない限りは出店不可とする、出店場所につき本部の承認を得ない限り出店不可とする、といったものが代表例です。

この点、従業員独立支援型フランチャイズの場合、既存店舗を譲受けて開店することが多いことから、上記のような開店資格は通常問題とならず、従業員独立支援型フランチャイズ契約書からは削除するべき内容となります。但し、従業員独立支援型フランチャイズであるが故に、むしろ新規で追加するべきか検討する事項が生じます。すなわち、上記1.(6)において、店舗運営を継続するに当たり第三者との契約関係を整理しておく必要がある旨解説しましたが、これを開店資格の条件とするべきではないかという点です。例えば、店舗物件について家主との賃貸借契約が締結できていない、あるいは本部が元従業員に対して転貸することにつき家主の承諾を得られていないといった事情がある場合、元従業員の名義と計算で店舗運営を行うわけにはいきません。

そこで、「店舗を使用する正当な権原(賃貸借契約の締結等)を有すること」を開店資格の条件として追加するといった対応が求められることになります。

 

(4)初期研修

上記1.(1)でも少し触れましたが、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、元従業員に対して初期研修で定められているプログラム全てを受講させることは、あまり有意義とは言えません。

したがって、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、初期研修に関する定めを削除するといった対応をとることが通常です。なお、初期研修の中でも座学研修と現場研修とに分かれており、座学研修だけでも受講させたいというニーズは一定程度であるようです。この場合、初期研修として何を実施するのか明記した上で、初期研修の条項を準用する等の対応が必要となります。

 

 

3.日々の運営に関する条項

 

従業員独立支援型フランチャイズ契約の対象となる元従業員は、もともと現場実務を経験していることから、店舗運営に関する知識と対処法を有していることが通常です。

したがって、開店当初に本部が加盟店舗に人員を派遣し、数日間は店舗に張り付いて業務支援を行う、開店後数ヶ月間は頻繁に遠隔指導するといったことが行われないのが通常です。その意味では、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、本部が元従業員に対して日々の運営に対する支援業務を行う頻度は減るはずです。

しかし、外部加盟者は程度の差はあれ独立した自営業者として意識を有し日々の運営を行うのに対し、元従業員の場合、どうしても独立した自営業者としての意識が薄いという場合もあります。

この点を意識しつつ、独立支援型フランチャイズ契約において、特有の条項と考えられるものにつき解説します。

 

(1)総務サポート・経理代行等

上記1.(7)でも少し触れたのですが、従業員独立支援型フランチャイズ契約を締結する元従業員は、事前に現場実務を経験すると共に、経営者として必要な一通りの知識等の本部より教えてもらっていることが通常です。しかし、日々の経理作業までは手が回らず、給与支払い手続きを失念するといったトラブルが起こりがちです。

そこで、元従業員が現場での店舗運営に専念できるよう、本部が経理作業と記帳代行、勤怠管理と給与計算、業者・従業員への支払い等の作業を本部が代行するといった特約が定められることがあります。

もちろん、必ず定めなければならないという条項ではありませんが、もともと本部が直営で出店していた店舗であり、本部としても当該店舗の営業を継続したいと考えることから、あえて手厚いサポートを提供することが通常です。このサポート内容は、本部によって様々ですので、その内容に応じて従業員独立支援型フランチャイズ契約に定める必要があります。

なお、経理代行の内容如何によっては税理士法に抵触する可能性があることにご注意ください。

 

(2)職務専念義務

一種の競業禁止に近い内容にもなるのですが、独立支援型フランチャイズの場合、店舗の現場実務に精通しているのが元従業員であることから、本部としては、元従業員に店舗の現場業務に従事してほしいと考えることが多いようです。

そこで、一般的な競業禁止義務(同種・類似の事業を自ら又は第三者を通じて行わない)以外に、「可能な限り、店舗における現場業務に従事するよう努める」といった定めを置くといったことが考えられます。

なお、この職務専念義務について、元従業員に対し契約期間中はずっと義務を課すことは行き過ぎた制限と考えられます(元従業員は独立自営の事業者であり、他の事業に手を出すことは本来自由であるため)。したがって、職務専念義務を課すにしても、店舗営業を開始してから1年間といった時期的制限を設けるといった対応が必要になると考えられます。

 

(3)什器備品、内外装の早期劣化と修繕

従業員独立支援型フランチャイズの場合、元従業員は本部の直営店を譲受けて店舗営業を開始することが多いところ、店舗の内外装及び什器備品については現状有姿での引渡しとなることが通常です。

この結果、従業員独立支援型フランチャイズの場合、内外装及び什器備品は既に劣化が始まっており、新品を取り揃えて開店する外部加盟者と比較して、早期に内外装及び什器備品の修繕が必要となることを想定する必要があります。

外部加盟者を対象とするフランチャイズ契約の場合、抽象的に加盟者に修繕義務があることを定めることが一般的ですが、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、例えば3年後に修繕を行う、その修繕費用は元従業員の負担とするといった形で、明確に定めることを検討したいところです。

 

(4)経営指導

外部加盟者とのフランチャイズ契約と従業員独立支援型フランチャイズ契約を比較した場合、経営指導の内容に相違がある本部を見かけたりします。

例えば、従業員独立支援型フランチャイズ契約の対象となる元従業員の場合、現場実務に通じていることから定期的な指導は行わず、研修参加義務のみ課すといった経営指導を簡素化するパターンもあれば、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合のみ求人採用に関する支援・援助を行うことを定めるといった逆に重厚化するパターンもあります。

もちろん、外部加盟者と元従業員に対する経営指導の内容は同一にしても何ら問題ありませんので、結局のとこと、経営指導の内容については本部の考え方次第で差異を設けることになります。ただ、差異を設ける以上、フランチャイズ契約書に反映させることを忘れないようにすることがポイントです(フランチャイズトラブルで、加盟店からの一番の不平不満は本部のサポートが不十分であるという点です。経営指導として何をするのか、しないのか意識しながら定めることが肝要です)。

 

 

4.契約期間に関する条項

 

(1)従業員独立支援型と外部加盟者向けフランチャイズ契約との比較

従業員独立支援型フランチャイズ契約と外部加盟者向けフランチャイズ契約とにおいて、契約期間について差異を設けるか否かは本部の裁量判断となります。

もっとも、本部直営店を譲受けて店舗営業する元従業員に対しては、什器備品等の耐用年数や投下資本(初期投資分)の回収を考慮し、外部加盟者向けフランチャイズ契約よりも短く設定することがあります。また逆に、元従業員に譲渡した既存店舗はもともと直営店であり、なるべく長期間営業を継続してほしいという本部の考えから、外部事業者向けFC契約よりも長期に設定することもあるようです。さらに、店舗物件の賃貸借契約に本部が関与している場合(典型的には本部が賃借人兼転貸人の役割となっている場合)、賃貸借契約の期間を考慮して、従業員独立支援型フランチャイズ契約の期間を設定する場合があります。

フランチャイズ契約の期間については、そもそもどの程度の契約期間を設けなければならないといった法規制は存在しません。結局のところ、本部の裁量判断に基づき、契約期間を設定することになります。

 

(2)中途解約時権の設定・条件

そもそも加盟店側からによる中途解約権を認めるべきか検討する必要がありますが、仮に中途解約権を認める場合、その条件に差異を設けるべきかがポイントとなります。

例えば、①店舗開店前(物件探索中)の段階であれば、外部加盟者による中途解約は可能、元従業員による中途解約は不可、②店舗開店後の段階であれば、外部加盟者の場合は店舗の原状回復と違約金の支払いを前提に中途解約可能、元従業員の場合は店舗(店舗資産を含む)の無償譲渡及び本部からの借入金等の一括支払いを条件に中途解約可、といった具合です。

色々な考慮要素があると考えられますが、

・中途解約を認めた場合の店舗運営はどうするのか

・本部の逸失利益を加盟者に負担させるのか

・フランチャイズ加盟に当たり本部が加盟者に拠出した金銭をどのように清算するのか

・加盟者が本部に支払った金銭の取扱いはどうするのか

・中途解約の申出から契約終了まで、どの程度の期間を設定するのか

等々を考慮しながら、契約書に反映させることになります。

 

 

5.契約終了後の措置に関する条項

 

(1)原状回復義務の免除

外部加盟者とのフランチャイズ契約の場合、店舗の内外装及び什器備品等は本部所有の物ではないため、内外装の撤去及び什器備品の処分といった原状回復義務が定められることが通常です(なお、稀に先買権と称される、本部が加盟店舗を優先的に買取るための交渉権を定めている場合もあります)。

一方、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、もともとは本部が直営店舗として営業していた店舗を元従業員に譲渡したという経緯もあることから、元従業員が営業を断念するのであれば、再び本部が直営店舗として営業を行いたいと考えることが多いようです。そのため、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、原状回復ではなく現状有姿にて本部に譲渡することを原則とする、例外的に本部が譲受けを拒否した場合に原状回復義務を負うという内容を定めておく必要があります。

 

(2)契約終了後の措置

外部加盟者とフランチャイズ契約を終了させる場合、フランチャイズ契約に定める内容に従って終了後の措置を講じれば対応可能なことが多いと考えられます。

一方、従業員独立支援型フランチャイズ契約の場合、従業員独立支援型フランチャイズ契約とは別の契約、例えば、後述6.に記載するような事業用資産の譲渡契約に基づく未払い売買代金、転貸借契約終了に基づく未払い賃料、資金を融通した際の金銭消費貸借契約に基づく未払い債務等々の処理も同時に行う必要があることが通常です。

したがって、これらの従業員独立支援型フランチャイズ契約以外の契約関係に基づく金銭支払いについても一括で処理ができるよう、例えば期限の利益喪失条項の適用範囲を拡大する(従業員独立支援型フランチャイズ契約以外の契約関係に基づく債務についても期限の利益喪失が適用できるようにする)等の対応を行うことが望ましいといえます。

ところで、従業員独立支援型フランチャイズ契約の終了に当たり、本部と元従業員との間で終了合意書を別途締結するということがあります。そして、その合意書において、従業員独立支援型フランチャイズ契約以外の契約関係に基づく処理に触れることなく、清算条項(本合意書に定めるほか何らの債権債務が無いことを相互に確認する)を定めてしまい、後で本部が元従業員に対し、従業員独立支援型フランチャイズ契約以外の契約に基づく支払い請求が困難となるといったミスが発生しているようです。清算条項を当然に定めてよいのかという視点は、是非持っておいてほしいところです。

 

 

6.(参考)フランチャイズ契約以外で締結することを検討するべき契約

 

従業員独立支援型フランチャイズの特徴として、①本部の直営店舗を元譲受人に譲渡(売買)することで店舗物件を用意することが多いこと、②店舗を賃借するに当たり、本部が家主と元従業員との間に入ることが多いこと、③元従業員の開業支援の一環として一定額の資金援助や信用供与を行うことが多いこと、があげられます。

また、従業員独立支援型フランチャイズ契約を締結する準備段階、すなわち候補者が本部の従業員として勤務する場合、④有期雇用契約(終期=独立して自営を開始するとき)を前提に知識やノウハウの提供を受ける特殊な勤務形態となることが多いと考えられます。

したがって、これらに対応した次の契約書も準備しておく必要があります。

 

①事業(資産)譲渡契約書

②転貸借契約書

③金銭消費貸借契約書、保証委託契約書

④労働契約書

 

 

 

<2022年7月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

フランチャイズについてのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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