刑事告訴を行う場合に注意するべき事項について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社内で発生した犯罪に該当すると思われる事象について、当社としてコンプライアンスに則り適切な処理を行ったことを内外に示す意味で、刑事告訴を行うことを検討しています。刑事告訴を行うに際しての注意点を教えてください。

 

 

【回答】

告訴の建前論としては、告訴を行った場合、警察等の捜査機関は告訴を受理することが当然の義務とされています(犯罪捜査規範第63条第1項参照)。

しかし、現実にはあれこれ注文を付けられる等してなかなか告訴受理してもらえず、警察に動いてもらえないというのが実情です。

以下では、警察になかなか告訴を受理してもらえないという現実を踏まえ、どうすれば告訴を受理してもらいやすくなるのか現場実務の観点で解説を行います。

 

 

【解説】

 

1.犯罪に該当するのか確認する

そもそも論になってしまうのですが、法律上どのような犯罪に該当すると考えるのかをまずは明らかにする必要があります。ときどき「あいつはけしからん」という理由で告訴ができないかというご相談をいただくことがあるのですが、刑事罰は国家による重大な人権侵害行為である以上、どういった場合に犯罪となるのか予め法律上定められています。この法律が定める犯罪に該当しないにもかかわらず告訴することは不可能ですし、場合によっては相手より虚偽告訴であるとして、逆に告訴されかねません。

なお、酷い行為を受けたがどの犯罪に該当するか分からないので警察に相談して決める、という方もいるようですが、酷い行為の内容にもよりますが、おそらく警察の対応として話を聞いて終わりであり、どういった犯罪に該当するのかの回答やどのような手続きを取ればよいのか等のアドバイスまでは行わないものと予想されます(端的に申し上げると、警察も忙しいので、そこまで懇切丁寧な対応は期待できないという意味です)。

 

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2.告訴期間が経過していないか確認する

告訴期間と書きましたが、やや概念が混乱して用いられているようです。告訴期間については、おそらく次の2種類の意味が混在して用いられているように思われます。

①親告罪と呼ばれる犯罪類型については、原則として犯人を知ったときから6ヶ月以内に告訴を行う必要があること(刑事訴訟法第235条)

②公訴時効が成立した場合は、告訴を行っても犯人を処罰することができないこと(刑事訴訟法第250条以下)

 

上記①については、文字通り告訴を受付けてもらえる期間のことです。ただ、この期間制限が適用されるのは親告罪と呼ばれる犯罪類型に該当するものであり、例えば名誉棄損罪や侮辱罪、器物損壊罪などが該当します。なお、一昔前はいわゆる性犯罪についても親告罪となっていたのですが、平成29年7月13日より非親告罪に変更されています。

上記②についてですが、公訴時効とは検察官が起訴できる期間のことをいいます。例えば傷害罪であれば10年が公訴時効となります。ちなみに、傷害罪を例にとった場合、犯罪が発生してから9年11ヶ月目で告訴を行ったとしても、捜査や起訴するまでの準備期間等を考慮すると公訴時効までに起訴することは現実的には難しいと考えられます。このため、公訴時効が完成する直前に告訴を行っても、警察に受付けてもらえないという実情があります。実務的な感覚としては、公訴時効経過前であっても、犯罪被害を受けたことを知ってから年単位で時間が経過している場合、告訴を受付けてもらうこと自体困難と考えられます。

 

 

3.誰が告訴権者なのか確認する

個人が犯罪被害者である場合、被害者が告訴権者であるということは分かりやすいのですが、会社が関係する犯罪の場合、誰が告訴権者なのかを見極める必要があります。

例えば、最近よく耳にするカスタマーハラスメント(カスハラ)について検討した場合、顧客が会社の担当者に対して、社会通念上相当性を超える酷い言葉を浴びせるなどしたという侮辱行為であれば、直接的な被害者は会社担当者になりますので、当該担当者が告訴権者になります。一方、顧客が時間を問わず執拗に連絡することを繰り返したことで会社組織全体の業務を妨害したというのであれば、被害者は会社となりますので、会社(代表取締役)が告訴権者になります。

なお、告訴権者に該当しない者は、告発や被害届の提出といった手法をとることもできます。ただ、上記2.でも記載した親告罪の場合、告訴権者本人が動かないことには起訴まで持って行けませんので、警察側はどうしても消極的な対応になりがちです。また、非親告罪であっても、なぜ直接の被害者であり告訴権者である者が動かないのかと警察は必ず聞いてきますし、場合によっては告訴権者が告訴しない限り、警察は対応しないと言い切られることもあります。

理屈の上では告発や被害届の提出という手法もあるものの、告訴権者以外の者が動く理由の正当性・妥当性が説明できない限り、実務的にはなかなか警察に対応してもらえないという実情があることに注意が必要です。

 

※告発とは、捜査機関に対して、犯罪が行われた事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示のことであり、申告する主体に制限がない点で告訴と異なります。

一方、被害届とは、捜査機関に対して、犯罪が行われた事実を申告することであり、犯人の処罰を求める意思表示が含まれていない点で告訴及び告発と異なります。

 

 

4.加害者は認めているのか確認する

告訴するに際し、加害者が犯罪事実を認めている(自白)しているか否かは法律上の要件ではありません。

もっとも、告訴を受付けてもらえるか否かという実務的な観点からは、かなり重要な要素となるのも事実です。なぜならば、警察に告訴を受理してもらうに際し、警察より追加証拠の提出を要求されることが多いところ、否認事件と自白事件とでは追加証拠の収集等の準備作業の時間や負担に大きな差異が生じてしまうからです。また、これは執筆者個人の感覚にすぎませんが、自白事件の場合と否認事件の場合とでは、警察における捜査の難易度や手間等も相当異なることから、特に否認事件の場合、警察は告訴を受理するに先立ちあれこれ注文を付けて来ることが多いように感じています。

なお、ケースによっては、加害者と疑わしき者に対する調査・弁明を行わずにいきなり告訴する、すなわち加害者が犯罪事実を認めているか否か不明という場面もありうるかと思います(加害者が証拠隠滅を図る可能性などを考慮して)。こういった場合は、次の5.で記載する客観的証拠をどこまで収集し、警察に提出できるのかがポイントになってきます。

 

 

5.客観的証拠の収集状況を確認する

そもそも警察が捜査を通じて犯罪事実を裏付ける証拠を収集するのが筋ではないか?という疑問を持たれる方もいるかもしれません。ご指摘はごもっともなのですが、少なくとも弁護士が関与する告訴手続きの場合、一切証拠を提出することなく告訴を行っても、まず警察は受け付けてくれないと思われます。

したがって、警察に告訴を受理してもらえるよう、ある程度こちらで証拠を収集・整理した上で警察に提出するという準備作業が必要となります。

さて、証拠といっても色々なものが考えられます。上記3.で記載したカスハラの事件を例にとった場合、加害者が署名押印した犯罪事実を認める旨の書面(自白書面)は重要な証拠の1つです。また、顧客の言動を録音したデータ及び録音反訳文、顧客が会社に送付してきた手紙や電子メール、電話会社発行の通話履歴、加害者のSNS(会社とのやり取りを記載したもの)、被害者の陳述書なども証拠となります。色々な証拠が考えられますが、ここでいう客観的証拠とは人間の記憶に依存した証拠ではないとイメージしてください。そう考えた場合、上記例で言えば顧客の言動を録音したデータ及び録音反訳文、顧客が会社に送付してきた手紙や電子メール、電話会社発行の通話履歴、加害者のSNS(会社とのやり取りを記載したもの)が客観的証拠と一応は言いうることになります。このような人間の記憶に依存しない証拠=機械的に跡が残ってしまう証拠をどこまで収集できるのかがポイントとなります。あえて誤解を恐れずに言ってしまうと、警察が手間をかけずに事件処理ができるように環境を整えるといった方が正確かもしれません。

こういった客観的証拠が揃っているほど、警察に告訴受理してもらいやすくなるという傾向はあるように思われます。

ところで、「加害者は犯罪事実を認める書面を自ら作成の上署名押印し、当社に提出している。したがって、この書面だけ提出すればよいのでは」という質問をよく受けます。たしかに、これはこれで有力な証拠であることは間違いないのですが、執筆者個人が知る限りでは、自白書面だけで警察が告訴を受付けることは稀ではないかと思います。この理由ですが、おそらく警察は、「自白だけでは有罪とすることできない」と定めた日本国憲法第38条第3項及び刑事訴訟法第319条第2項を意識しており、仮に自白がなくても他の証拠で犯罪事実を立証することが可能なのかという観点で、告訴受理の判断を行っているからだと考えられるからです。

上記4.で記載した内容と一見矛盾するように思われるかもしれませんが、犯罪事実を認める旨の書面(自白書面)は告訴を受付けてもらいやすくするための必要条件とはなるものの、十分条件ではない、とイメージすれば分かりやすいかもしれません。

 

 

6.警察が受領するまで忍耐強く交渉する

これはタイトル通りなのですが、残念ながら、現場実務ではなかなか警察に告訴を受理してもらえないという実情があります。色々理由は考えられるところですが、警察も他の案件処理に忙殺されており人員リソースが足りない(端的に言えば仕事が増えて面倒である)というのが大きな要素であることは否めません。

そういった実情を踏まえて、告訴を受理してもらうべく、こちら側で証拠収集を行い整理し、警察が動きやすい環境を作り出す必要があるのですが、それでもなお警察は告訴をなかなか受理してくれない場合があります。この場合、やや力業にはなるのですが警察が告訴を受理するまで警察署内に何時間でも留まり続けるといった方法も行うことも視野に入れる必要があります。

ちなみに、警察より、追加証拠を提出すれば告訴を受理するといった説明を受ける場合もあります。この場合、この説明を行ったのは誰なのか警察官の氏名や配属先などをきちんと聞き取り(可能な限り名刺をもらう)人物特定ができる状況にすることは大前提として、必ず追加証拠を提出すれば告訴を受理するという言質を取るようにするべきです。そして、追加証拠を提出し、告訴を受理してもらった場合、必ず受理番号を教えてもらうようにしてください。なぜなら、当方が告訴を受理してもらったと認識していても、警察としてはあくまでも告訴状を検討目的で預かっただけであるといった方便(?)を言われて、後日告訴状が返却されてしまうことがあるからです。

 

なお、弁護士を代理人として立てることなく、告訴権者が告訴するために警察を訪れたところ、生活安全課に通されて相談だけで終わった、あるいは被害届を出すだけで終わったという話はよく耳にします(前者は相談だけにすぎませんので、以後警察が動くことはありません。また、後者も被害届に留まりますので、捜査するか否かは警察の任意であり、その後の進捗についても警察に報告義務がありません)。犯罪内容によっては非常に警察も協力的になってくれることもあるのですが、一方で残念ながら何としてでも告訴は受け付けない態度に終始する場合もあります。そして、上記のように告訴以外の手続きに誘導することもあるのです。

大げさな表現かもしれませんが、告訴状を受理してもらうべく警察を訪れるのであれば、その日は潰れるくらいの覚悟で臨んだほうが良いかもしれません。

 

 

7.民事問題と絡めないように注意する

これは一般の方にはなかなか理解してもらえないかもしれませんが、警察は、民事案件を有利に進めるための手段として告訴をあえて利用していないか、かなり意識しています。一私人が国家権力(警察)を用いて有利に事を進めようとする不公平さへの警戒心もあるかと思うのですが、民事案件が解決した途端、刑事手続きには一切協力しなくなる告訴権者が存在したり、極端な場合は民事案件が解決した瞬間に告訴を取り下げて、警察の今までの捜査努力を水の泡にしてしまうことへの嫌悪感を持っているからだと考えられます。

もっとも、現実の事件処理を行う場合、民事案件と刑事案件は表裏一体であり、同時並行で事が進んでいくことの方がむしろ通例です。したがって、上記に記載した警察が抱く警戒心や嫌悪感を完全に消し去ることは難しいのですが、告訴を行うのであれば、民事案件はあえて動きを止める、場合によっては民事案件は度外視していること(民事案件の解決は視野に入れていないこと)を警察に宣言するといった対応をとることも検討に値します。

なお、告訴受理前の段階で、民事不介入などと言いつつ、民事問題として解決したほうが良いのではないかと警察が説得にかかることがあります。この説得に乗ってしまうと、告訴受理が遠のいてしまいますので、絶対に応じず、民事のことは考えてない、あくまでも加害者に対する刑事処罰を望んでいるというスタンスを貫き通すべきです。

 

 

8.告訴受理後も引き続き協力する

告訴を受理してもらうまで一苦労するのですが、受理してもらったら後は警察が勝手に動いてくれると思ったら大間違いです。むしろ、受理後は警察も真剣に動き出しますので、新たな証拠の準備や事情聴取のための来署要請など、様々な指示が飛んでくるようになります。この指示に対して素早く応答していくことがとにもかくにも肝要です。警察からの指示への対応を怠っていると、警察も他の案件に忙殺されていますので、当方が告訴した案件処理が鈍くなったりすることもありますので注意が必要です。

なお、告訴するに際して、自社以外の関係者にも協力してもらっている場合、告訴受理後も引き続き協力してもらえるよう事前に話を付けておくことも重要なポイントとなります。

 

 

<2021年2月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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