内部通報・内部告発を受けた場合の対処法を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

従業員から、当該従業員の上司に当たる者に不正行為があるとして内部告発・内部通報がありました。当社としてはどういった対応を行えばよいのでしょうか。

 

【回答】

内部告発・内部通報に備えた社内規程が存在するのであれば、基本的にはその社内規程に沿って対応することになります。もっとも、内部告発・内部通報の取扱いについては、公益通報者保護法が定める事項を遵守する必要があり、これを遵守しなかった場合、マスコミ等の外部に通報されても当該通報者を処分することができなくなってしまいます。

したがって、公益通報者保護法を意識した対策を講じることが必要です。

 

【解説】

1.公益通報者保護法の誤解

公益通報者保護法という法律自体がまだまだ浸透していないことも一因だと思われますが、公益通報者保護法というと、内部告発、すなわち企業不祥事を外部に漏らした裏切り者が守られてしまう法律とマイナスイメージで捉えられてしまっているようです。

たしかに、公益通報者保護法は、条件を充足すれば外部通報先(マスコミ等)に通報することも許されるとしています。この結果、内部告発者が企業不祥事情報を外部発信しても法的に守られてしまう側面があることは事実です。

しかし、公益通報者保護法は、決して企業不祥事情報を外部に発信することを奨励している法律ではありません。むしろ、企業不祥事は外に漏らすことなく、内部自浄作用によって解決することを大原則としている法律です。これは公益通報者保護法第3条を見れば明らかなのですが、端的に言うと、勤務先に通報する場合が一番要件が軽く(1号)、外部である行政機関(2号)、マスコミ等の行政機関以外の外部者(3号)への通報となるにつれて、法律上要件が加重されています。つまり、通報する従業員に対しても、安易に外部通報させないような仕組みを公益通報者保護法は採用しているのです。

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2.内部通報の受入体制の整備

上記1.で記載した通り、公益通報者保護法は企業不祥事情報を外部発信することを奨励する法律ではありません。もっとも、企業に内部通報を受け入れる体制が整備されていないことには、せっかく法律が企業の内部自浄作用を期待しているにもかかわらず、外部に企業不祥事情報が漏れ出すことになってしまいかねません。したがって、企業不祥事情報を外部発信されたくないのであれば、受入体制を整備することが必須となります。

では、受入体制とはどういったものを想定すればよいのでしょうか。例えば、消費者庁が運営している
公益通報者保護制度ウェブサイト」に掲載されているフローチャートを見ればイメージがつかめるかと思います。

受入体制に関する大まかなポイントは2つです。1つは、内部通報を受け付けた場合、一方では通報内容について調査を行うことです。もう1つは、通報者に対して進捗状況を報告することです。

企業において何か不祥事が発見された場合、社内調査を行うことが通常かと思われますが、この社内調査を行えばポイントの1つは充足することになります。問題は、社内調査の場合、一定の担当者レベルで処理していくため、当該担当者以外の従業員は蚊帳の外に置かれることが多いのですが、公益通報者保護法は、通報者に対して一定の報告を行う必要があることを定めています。そして、この報告を怠った場合、企業不祥事情報の外部発信が合法化される公益通報者保護法第3条第3号ニに定める「書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合」に該当することになり、その結果、外部通報が法律上許容されてしまうことになるのです。

 

3.内部通報制度の周知

(1)企業内部での処理

繰り返しますが、公益通報者保護法は、企業不祥事は外部ではなく内部に情報発信することを推奨している法律です。しかし、肝心の従業員が内部通報制度が存在することを知らない場合、従業員は外部の者に対して企業不祥事を情報発信してしまうかもしれません。もちろん、公益通報者保護法の要件を満たさない外部発信であれば、当該従業員に対する解雇等を含めた不利益処分が許される場合もありますので、当該従業員との関係では処理ができるかもしれません。ただ、企業不祥事情報が外部に発信されたとなると、行政からの制裁はもちろん、マスコミからの質問攻めや社会からの袋叩きなど、企業の信用は一瞬にして失われてしまい、場合によってはその企業の存続さえ許されないという事態にまで陥ってしまうことさえあります。こうなってしまうと、通報者である従業員に対して制裁を加えたところで、何も解決しません。

企業不祥事情報が外部に発信されないよう未然に防止するためには、従業員に対して、内部通報制度が存在すること、まずは内部通報制度を利用して欲しいことを企業は訴えかけ、かつ周知させる必要があります。そして、内部通報制度の具体的な内容として社内規程の整備を行うことが企業に求められることになります。消費者庁が運営する「公益通報者保護制度ウェブサイト」に掲載されている規程例を参照すればイメージしやすいかと思います。

なお、社内規程を作成する上でのポイントですが、通報窓口は社内のどこに属するのか明らかにすること、通報者は通報によって不利益を受けないことを明らかにすること、通報者の秘密は守られること、通報によって社内調査が開始されることを宣言することです。

 

(2)公益通報者保護法に定めのない通報事由の受付

ところで、現場実務ではよく問題となるのですが、公益通報者保護法の対象となっていない事実についても内部通報を受け付けるべきか、という議論があります。

まず前提知識の確認ですが、公益通報者保護法が「公益通報」として保護している内部通報・内部告発は実は法律上列挙されています(公益通報者保護法第2条第3項)。したがって、理屈の上では、公益通報者保護法に定められていない公益通報であれば、公益通報者保護法に則った対応や通報者保護(後述4.を参照)を行う必要がないと一応は言えます。

ただ、通報者自身が、「自分が行おうとしている内部通報は法律上の対象になるのだろうか」と検討することを期待する方が現実的には難しいと言わざるを得ません。そして、こういった検討が必要になることが内部通報を控える原因となってしまうのであれば、本末転倒であり、逆に企業不祥事情報が外部に発信される動機にもなりかねません。

企業不祥事情報をできる限り外部に漏らさない、ひいては企業不祥事を内部で自浄することで健全な会社にするためには、法律上の対象事実か否かを問わず、広く従業員が企業に対して不自然に感じる情報を通報してもらうような運用設計にする方が良いのではないかというのが執筆者の見解となります。

もっとも、場合によっては、単なる不満のはけ口になってしまう可能性もあり得ます。そこで、社内規程の作成及び周知活動の上では、どういった情報を内部通報窓口に申告して欲しいのか、具体例を記述することで従業員にメッセージを発信することをお奨めします。

 

(3)匿名通報の受付

あと、現場実務で悩ましい問題として、匿名による内部告発を受け付けるべきか、という議論があります。

この点については、企業不祥事情報をできる限り外部発信させないようにするという考え方からすれば、匿名通報であっても受け付けるべきという結論になります。ただ、匿名通報の場合、調査対象が不明確になったり、通報者からのヒアリングその他追加情報提供が難しいなど、対応に限界が生じるのが実情です。一方で、このような限界を知らない匿名通報者が「社内調査はやっぱり信用ができない」として、今度は外部に企業不祥事情報を発信するという事態もあり得ることです。

抜本的な解決策は存在しないのが実情ですが、通報段階でのボタンの掛け違い、すなわち、匿名通報の場合は調査に限界が生じることを予め宣言することで、通報者に分かってもらうようにする、それによって外部発信リスク軽減するというのが現実的対応ではないでしょうか。なお、一部の著作権管理団体といった機関によっては、むしろ匿名通報かつ秘密厳守を宣伝文句として、内部告発を促している外部機関が存在することにも企業は知っておく必要があります。

 

4.公益通報者保護法によって禁止される企業の活動

(1)禁止行為

具体的には公益通報者保護法第3条及び同法第4条に規定されているのですが、保護要件を満たして「公益通報」を行った通報者(労働者など)は、次のような保護を受けます。裏を返せば、企業は次に記載するようなことを行ってはならないことになります。

①公益通報をしたことを理由とする解雇の無効・その他不利益な取扱いの禁止

②(公益通報者が派遣労働者である場合)公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効・その他不利益な取扱いの禁止

 

では、公益通報者保護法による保護のない通報であったばあい、企業は不利益処分を課しても大丈夫なのでしょうか。

公益通報者保護法による保護を受けない以上、公益通報者保護法が禁止する解雇等の懲戒処分を行っても良いというのが、公益通報者保護法のみを見たときの結論となります。ただ、実際には他の法令と兼ね合いを検討する必要があり、解雇であれば労働契約法第16条に定める「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合は労働契約法により無効と判断されてしまいます。あるいは、懲戒処分についても、労働契約法第15条が「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と定めていますので、やはりこの要件を充足するか否かの問題が生じてきます。したがって、公益通報者保護法による保護を受けないことと、懲戒処分の有効性は別問題であると認識する必要があります。

 

(2)通報者による情報不正取得への対応

ところで、公益通報を行う前提として、通報者が不当に企業の情報を取得する行為があった場合はどう考えればよいでしょうか。

公益通報者保護法は、内部通報、内部告発という情報発信行為について保護を及ぼす法律に過ぎません。したがって、通報対象となる情報を取得する行為については何ら規定していませんので、場合によっては窃盗罪や背任罪、不正競争防止法違反の罪といった刑事罰の対象となりうることも想定はされます。

もっとも、違法手段により取得した情報ではあったものの、結果として公益通報者保護法により保護される通報であったという場合、果たして、情報取得行為と情報発信行為を区別して、情報発信行為は不問、情報取得行為は不利益処分の対象としてしまってよいのかは考え方が分かれるでしょう。公益通報者保護法が施行される前の裁判例となりますが、情報取得行為に違法性を認めつつも、内部の不正をただすという意味では会社の利益に合致することを理由に違法性が減殺されると説示するものも存在します。したがって、ケースバイケースの判断が要求されると考えるべきです。

 

<2020年8月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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