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【ご相談内容】
2022(令和4)年4月に道路交通法が改正され、小規模な事業者であっても、安全運転管理者を選任し、アルコールチェックをしなければならないと聞き及びました。
具体的にどういった現場対応が必要となるのか、教えてください。
【回答】
飲酒運転による悲惨な事故が発生していることを踏まえ、飲酒運転撲滅をスローガンとして様々な法改正が行われていることは、どこかで耳にしたことがあるかと思います。しかし、飲酒運転者自身に対する取り締まり強化については関心が高いものの、2022(令和4)年4月から施行(一部は同年10月から施行)された改正道路交通法の内容については、意外と知られていないようです。
そこで、本記事では、車両を業務のために利用する事業者において、改正道路交通法によりどのような影響が生じるのかについて、解説を行います。
具体的には、安全運転管理者の選任対象範囲が拡大されたこと、酒気帯びの有無に関する確認事項が大幅に増加されたこと、この2点がポイントとなります。
【解説】
1.安全運転管理者の選任・届出
大量の業務用車両を保有している事業者であれば、そもそも安全運転管理者制度とはどういったものなのか知らないということもあるかと思います。そこで、ここでは安全運転管理者制度の概要について解説します。
(1)選任義務がある場合とは?
2022(令和4)年4月1日より、安全運転管理者を選任しなければならない対象事業者が拡大したわけですが、そもそもこの安全運転管理者については道路交通法第74条の3第1項の根拠があります。
自動車の使用者(道路運送法の規定による自動車運送事業者(貨物自動車運送事業法(平成元年法律第八十三号)の規定による貨物軽自動車運送事業を経営する者を除く。以下同じ。)及び貨物利用運送事業法の規定による第二種貨物利用運送事業を経営する者を除く。以下この条において同じ。)は、内閣府令で定める台数以上の自動車の使用の本拠ごとに、年齢、自動車の運転の管理の経験その他について内閣府令で定める要件を備える者のうちから、次項の業務を行う者として、安全運転管理者を選任しなければならない。
そして、「内閣府令で定める台数」が変更となり、小規模な事業者であっても安全運転管理者を選任する必要が生じました。変更後の具体的内容は、次の通りです。
- 自動車運転代行事業者である場合
- 自家用自動車を5台以上使用している場合(なお、大型自動二輪車と普通自動二輪車(50ccを超えるもの)は0.5台として換算)
- 乗車定員11人以上の自家用自動車を1台以上使用している場合
例えば、外回り営業のために自動車や自動二輪車を一定数以上保有している場合、今後は安全運転管理者を選任しなければならなくなったということになります。
ちなみに、自家用自動車を20台以上使用している場合は、20台ごとに副安全運転管理者をさらに選任する必要があります(注:20台ごとですので、例えば59台自家用自動車を保有している場合、副安全運転管理者を2名選任する必要があります)。なお、自動車運転代行業者の場合、10台ごとで副安全運転管理者を選任する必要があります。
(2)資格要件は?
安全運転管理者は、一定の要件を充足した者しか選任できません。具体的には次の通りです。
- 【年齢】
20歳以上(ただし、副安全運転管理者を選任する場合は、30歳以上)- 【運転管理の実務経験(いずれかの一つに該当していること)】
・自動車の運転の管理に関し、2年以上の実務経験を有する者
・上記の者と同等以上の能力を有すると公安委員会が認定した者- 【欠落要件】
・公安委員会の命令により安全運転管理者等を解任され、解任の日から2年を経過していない者
・下記の違反行為等をした日から2年を経過していない者
ひき逃げ
無免許運転、酒酔い運転、酒気帯び運転、麻薬等運転無免許運転にかかわった車両の提供、無免許運転の車両への同乗
酒酔い・酒気帯び運転にかかわった車両の提供、酒類の提供、酒酔い・酒気帯び運転の車両への同乗
酒酔い・酒気帯び運転、無免許運転、過労運転、放置駐車違反等の下命・容認
自動車使用制限命令違反
妨害運転(著しい交通の危険、交通の危険のおそれ)
なお、今まで安全運転管理者を選任したことがない事業者にとって、「(2年以上の実務経験を有する者)と同等以上の能力を有すると公安委員会が認定した者」とはどういった者を指すのかが重大な関心事とになっているようです。この点、例えば、茨城県警察本部のWEB上では、「事業所において運転に関して従業員の指導的⽴場にあるので安全運転管理者として適任である旨の申出があれば原則認定する」と記載されています。しかし、各都道府県によって取り扱いが異なる可能性がありますので、管轄の警察に聞くのが一番の対処法と考えられます。
(3)届出は必要?
安全運転管理者及び副安全運転管理者を選任した場合、15日以内に事業者の所在地を管轄する警察署に届出る必要があります(なお電子申請も可)。
また、必要書類を添付しなければならないのですが、執筆者が調査した限り、各都道府県の警察によって微妙に提出書類が異なるようです。必ず管轄の警察署に確認をとってほしいのですが、共通して必要となる書類は次の通りです。
- 安全運転管理者等の選任届
- 運転免許証の写し
- 運転記録証明書(自動車安全運転センターが発行しているもの)
(4)安全運転管理者の業務内容
警視庁のWEBサイトでは次のような説明が行われています。
- 運転者の適正等の把握
自動車の運転についての運転者の適性、知識、技能や運転者が道路交通法等の規定を守っているか把握するための措置をとること。- 運行計画の作成
運転者の過労運転の防止、その他安全な運転を確保するために自動車の運行計画を作成すること。- 交替運転者の配置
長距離運転又は夜間運転となる場合、疲労等により安全な運転ができないおそれがあるときは交替するための運転者を配置すること。- 異常気象時等の措置
異常な気象・天災その他の理由により、安全な運転の確保に支障が生ずるおそれがあるときは、安全確保に必要な指示や措置を講ずること。- 点呼と日常点検
運転しようとする従業員(運転者)に対して点呼等を行い、日常点検整備の実施及び飲酒、疲労、病気等により正常な運転ができないおそれの有無を確認し、安全な運転を確保するために必要な指示を与えること。- 運転日誌の備付け
運転の状況を把握するため必要な事項を記録する日誌を備え付け、運転を終了した運転者に記録させること。- 安全運転指導
運転者に対し、「交通安全教育指針」に基づく教育のほか、自動車の運転に関する技能・知識その他安全な運転を確保するため必要な事項について指導を行うこと。
そして、改正道路交通法により新たに追加される業務が次の2つとなります。
- 酒気帯びの有無の確認及び記録の保存(令和4年4月1日施行)
ア 運転前後の運転者に対し、当該運転者の状態を目視等で確認することにより、当該運転者の酒気帯びの有無を確認すること(改正後の道路交通法施行規則第9条の10第6号)。
イ アの確認の内容を記録し、当該記録を1年間保存すること(同第7号)。- アルコール検知器の使用等(令和4年10月1日施行)
ア 上記アの確認を、国家公安委員会が定めるアルコール検知器を用いて行うこと(同第6号)。
イ アルコール検知器を常時有効に保持すること(同第7号)。
この新たに追加された「酒気帯びの有無の確認及び記録の保存」が、現場における主な実務対応にとなるのですが、その点については後述2.で解説します。
2.酒気帯びの有無の確認に際しての現場対応
2022(令和4)年4月に施行された改正道路交通法において、現場実務において重要となるのが「酒気帯びの有無の確認」となります。この点に関するポイントを整理します。
(1)確認方法
安全運転管理者がドライバーと対面することで、酒気帯び有無の確認を行うことが原則となります。
この際、運転手の顔色、呼気の臭い、応答の声の調子など五感の作用を用いて確認することが重要となります。また、令和4年10月以降は、対面時にアルコール検知器での検査も追加して行う必要があります。
では、例えばドライバーが直行直帰するため、対面による酒気帯び有無の確認ができない場合、安全運転管理者はどのような手段を用いて確認すればよいのでしょうか。
この点、通達によれば、一例として次のような方法を掲載しています。
例えば、運転者に携帯型アルコール検知器を携行させるなどした上で、
① カメラ、モニター等によって、安全運転管理者が運転者の顔色、応答の声の調子等とともに、アルコール検知器による測定結果を確認する方法
② 携帯電話、業務無線その他の運転者と直接対話できる方法によって、安全運転管理者が運転者の応答の声の調子等を確認するとともに、アルコール検知器による測定結果を報告させる方法
等の対面による確認と同視できるような方法が含まれる。
上記のような説明を踏まえると、例えば、メールやチャット等の場合、ドライバーの反応等を五感の作用により確認することができませんので、不可となります。
なお、令和4年10月よりアルコール検知器による確認が必須となりますが、アルコール検知器について、通達及びQA集で次のような注意喚起がなされています(執筆者において一部要約しています)。
- アルコール検知器の性能等
アルコール検知器については、酒気帯びの有無を音、色、数値等により確認できるものであれば足り、特段の性能上の要件は問わないものとする。
また、アルコール検知器は、アルコールを検知して、原動機が始動できないようにする機能を有するものを含む。- アルコール検知器を常時有効に保持することについて
「常時有効に保持」とは、正常に作動し、故障がない状態で保持しておくことをいう。このため、アルコール検知器の製作者が定めた取扱説明書に基づき、適切に使用し、管理し、及び保守するとともに、定期的に故障の有無を確認し、故障がないものを使用しなければならない。- アルコール検知器が壊れた場合
令和4年10月以降、アルコール検知器が壊れた場合であっても、代替のアルコール検知器を用いるなどして必ず確認を行う必要があること。- アルコール検知器の車両搭載
各車両にアルコール検知器を搭載することまでは原則不要であること。- 対面によらない方法による確認
令和4年10月以降は、必ずアルコール検知器を使用して確認する必要があること。したがって、運転者に携帯型のアルコール検知器を携行させるなどする必要があること。
(2)確認主体
酒気帯び有無の確認を行うのは安全運転管理者となります。
しかし、業務の都合等により常に安全運転管理者が確認を行えるとは限りません。この場合、通達では、次のような説明がなされています。
安全運転管理者以外の者による確認
安全運転管理者の不在時など安全運転管理者による確認が困難である場合には、安全運転管理者が、副安全運転管理者又は安全運転管理者の業務を補助する者に、酒気帯び確認を行わせることは差し支えない。
なお、安全運転管理者とドライバーの就業時間が異なるため、実際の現場対応としては安全運転管理者による確認ではなく、その補助者による確認が常態化するということも有り得るかもしれません。
この場合、直ちに違法とまでは言えないと考えられるものの、やはり何のための安全運転管理者の選任なのかを問われかねません。就業実態を考慮しつつ、誰が安全運転管理者として適任なのかという点から見直しを図る必要があると考えられます。
ところで、安全運転管理者は、車両が使用される本拠ごとに選任される必要があります。したがって、A事業所でXが安全運転管理者として選任され、B事業所でYが安全運転管理者に選任されている場合、XがB事業所にある車両を利用したドライバーに対して確認を行うこと、YがA事業所にある車両を利用したドライバーに対して確認を行うことは原則不可となります。もっとも、例外的に許される場合として、通達では次のような記載があります。
同一の自動車の使用者が他の自動車の使用の本拠において安全運転管理者を選任しており、当該他の自動車の使用の本拠となる事業所(以下「他の事業所」という。)において運転者が運転を開始し、又は終了する場合には、他の事業所の安全運転管理者の立会いの下、運転者に他の事業所の安全運転管理者が有効に保持するアルコール検知器を使用させ、測定結果を電話その他の運転者と直接対話できる方法で所属する事業所の安全運転管理者に報告させたときは、酒気帯び確認を行ったものとして取り扱うことができる。
(3)確認時期
令和4年の道路交通法の改正により、道路交通法施行規則第9条の10第6号は次のような規定となりました。
運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者に対し、酒気帯びの有無について…(確認を行うこと)
この文言からすると、一労働日において、ドライバーが運転を行う都度、また運転を終了させた都度、酒気帯びの有無について安全運転管理者は確認を行わなければならないように読めるかもしれません。
しかし、このような解釈を行う必要はありません。
あくまでも一連の業務において、最初に運転を行う前に確認する、最後に運転を終了させた後に確認する、という2回で足りると警察庁は公式見解で述べています。ちなみに、通達では次のように記載されています。
府令第9条の10第6号に定める「運転しようとする運転者及び運転を終了した運転者」における「運転」とは、一連の業務としての運転をいうことから、同号に定める酒気帯びの有無の確認(以下「酒気帯び確認」という。)は、必ずしも個々の運転の直前又は直後にその都度行わなければならないものではなく、運転を含む業務の開始前や出勤時、及び終了後や退勤時に行うことで足りる。
「一連の業務」における開始時と終了時の2回で酒気帯びの有無を確認すれば足りますので、例えば、日を跨いでの業務に従事し途中で仮眠が認められている場合であっても、仮眠の開始(業務の中断)及び終了(業務の再開)時に個別確認を行う必要はありません。あくまでも業務の開始時と終了時に確認すればよいことになります。
また、長期出張の場合、一労働日ごとで業務開始時と業務終了時に確認を行えばよいことになります。
ところで、執筆者個人として今後現場において悩ましい問題が生じるのではないかと考えているのが、酒気帯びの有無の確認と事業場外労働との関係です。例えば、直行直帰の場合や長期出張の場合であっても、酒気帯びの有無の確認という観点からは、いつから業務を開始したのか、いつの時点で業務を終了させたのかを把握する必要が生じます。しかし、一方で、直行直帰や長期出張の場合、いわゆる事業場外みなし労働制を採用している事業者も多く、むしろ業務開始時間と終了時間はあえて把握していないのが通常です(把握すれば事業場外みなし労働時間制を利用できない恐れがあるため)。
この相反する事情に対してどのように対処するべきなのかは、各事業者の実情に応じて異なってくるかとは思いますが、事業場外労働者に対する人事労務体系の見直しを含め抜本的に検討したほうがよいかもしれません。
(4)確認対象車両
安全運転管理者による酒気帯びの有無の確認は、業務遂行時間を対象とするものとなります。したがって、通勤時の車両使用に対しては確認不要です。
また、事業者が保有する車両を業務のために使用する場合に酒気帯びの有無の確認が必要となる点からすると、私有車やレンタカーを使用する場合も確認不要となります。但し、私有車やレンタカーであっても、常日頃から業務用として使用している実態がある場合は、確認する必要性が生じることに注意が必要です。
3 記録
安全運転管理者の重要な業務として酒気帯びの有無の確認がありましたが、もう1つ重要な業務として、確認結果の記録義務があります。
記録するべき内容は次の通りです。
- 確認者名
- 運転者
- 運転者の業務に係る自動車の自動車登録番号又は識別できる記号、番号等
- 確認の日時
- 確認の方法
ア アルコール検知器の使用の有無(令和4年10月より)
イ 対面でない場合は具体的方法- 酒気帯びの有無
- 指示事項
- その他必要な事項
なお、「指示事項」とは、例えば、本日は運転しないように指示したといった、飲酒の有無や体調等により運転に関して指示した内容を記入することになります。
「その他必要な事項」については、例えば、アルコール検知器の保守や点検状況など、適宜補足事項を書くことが想定されています。
記録事項は決まっていますが、書式は自由ですので、Excel等で予め定型書式を作成しておくことをお勧めします。
<2022年5月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
弁護士 湯原伸一 |