同業他社に同調する、協力する場合に注意するべき事項を弁護士が解説!

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【ご相談内容】

経営方針として同業他社との競争ではなく、協業・協力を考えているのですが、次のような対応を行った場合、どういった問題が生じるのでしょうか。

(1)同業他社が競業商品の価格改定(値上げ)を行ったことから、これに乗じて当社も商品値上げを実施すること

(2)同業他社と協力して商品の共同販売を行うこと

 

【回答】

(1) 対外的には同じような時期に競業商品の価格引き上げが行われたと見えてしまうことから、カルテルの疑念が生じてしまいます。カルテルではないと説明できるような根拠づくりが必要です。

(2)例えば中小企業同士での共同販売であり、市場における競争に大きな影響を与えないのであれば、原則独占禁止法上の問題が生じることは有りません。ただ、念のため、不当な取引制限(独占禁止法2条6項)の該当性については検討したほうが良いでしょう。

 

【解説】

1.カルテル

設問(1)についてはカルテルに該当しないか留意する必要があります。

まず、誤解の無いよう指摘しておきますが、たまたま他社の動向を踏まえて商品価格を改定(値上げ)したからといって、必ずカルテルに該当するわけではありません。

それでは、そもそもカルテルとはどういった定義なのでしょうか。独占禁止法2条6項では次のように定められています。

『この法律において「不当な取引制限」とは、事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することをいう。』

ポイントは、①他の事業者と共同して対価を決定する等の行為を行うこと、②一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、です。

他の事業者と共同して対価を決定する等の行為を行うこと

まず、①についてですが、ここでいう「共同して」というのは、事業者間相互において「意思の連絡」があったと認められることと解釈されています。典型的には、事業者間で商品の一斉値上げを行う旨の取り決めを行うことですが、明示的に合意したという場合だけではなく、事業者間で情報交換を行ううちに暗黙の了解で商品価格の一斉値上げを行ったという場合も含まれるとされています。したがって、同業種間での会合・勉強会等を通じて、業界内における商品価格の維持・増額に関する話を聞いてしまった場合、「意思の連絡」があったと言われかねないリスクがありますので要注意です。なお、商品価格の値上げ等について事業者間で合意したものの、商品価格の値上げ等について業者ごとで時期をずらした場合、一見するとカルテルに該当しないように思われるかもしれません。しかし、カルテルの違法性の判断時期は、意思の連絡が行われたときとされています。そのため、時期をずらしたから問題ないと考えるわけには行かないことにも注意が必要です。

一定の取引分野における競争を実質的に制限すること

次に、②についてですが、いくら事業者間でタッグを組んだところで市場に影響力が無い、つまり、タッグを組まなかった事業者に顧客が流れるだけに過ぎないというのであれば、「競争を実質的に制限」したことにはなりません。しかし、タッグを組んだ事業者が商品価格を値上げすることで、タッグを組まなかった事業者も同調して値上げするという場面も十分想定されます。こういった場合、果たして市場に影響力が無いと言い切れるのか、微妙な判断が伴います。したがって、例えば市場でのシェアが低いので市場への影響力が無いと判断するのは早計となります。

 

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2.不当な取引制限

設問(2)は不当な取引制限に留意する必要があります。この定義は独占禁止法2条6項に定められており、条文については上記カルテルの解説をご参照ください。

さて、共同して販売することから、価格カルテル等の該当性が気になるかもしれません。しかし、例えば、中小企業がそれぞれの供給する商品に共通ブランドを付けるなどして、販売促進活動に伴うリスクとコストを共同で負担する場合、大手企業に対する有効な競争手段となり、むしろ競争が促進されるという積極的側面があります。価格カルテル等が禁止されるのは、競争が制限されることによる市場への悪影響にあることからすれば、本事例のような場合には、むしろ逆の作用が生じる可能性が高い以上、禁止する理由はないこととなります。結局のところ、個々の事例ごとでの判断にはなってしまいますが、基本的には、①共同販売に参加する事業者の当該市場での合計シェア、②共同行為の内容等を勘案しながらの判断になると考えられます。

この点、参加事業者における市場でのシェア率が低い場合、独占禁止法上の問題は原則生じないと考えられます。もっとも、いくら市場のシェア率が低いとはいえ、明らかに商品の価格維持目的での共同販売である場合、様々な要因により、共同販売に参加していない事業者が事実上同調して価格調整を行う可能性も否定はできません。そして、この結果、当該市場において実質的な競争制限が生じてしまったという場合には、価格カルテル等と同じような効果が生じますので、問題ありとされてしまうリスクも一応は頭の片隅に置いておく必要があります。なお、参加する各事業者が中小零細企業であったとしても、市場で一定のシェアを保有しているのであれば、当然のことながら競争が制限されるリスクが生じてきます。企業規模ではなく、市場規模で判断する必要があることには注意が必要です。

 

<2020年7月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

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弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

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