立退きを迫られた場合の対処法(ショート記事)

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もし突然、ビルオーナーから「立ち退き料を払うので退去してほしい」と申し出があったら、どう対応しますか?

実は、「立ち退き料を払う」と言われたからといって、必ずしも退去に応じなければならないわけではありません。
法律には、借主を保護するための重要なルールがあり、それを知らずに判断すると、損をしてしまう可能性もあります。

今回のコラムでは、実際に寄せられたご相談をもとに、「退去の必要性」や「立退料の適正な金額」について、法律の観点から解説します。
不意の申し出に戸惑わないためにも、ぜひご一読ください。

 

ご相談

テナントビルの一区画を借りて商売を行っていたところ、ビルオーナーより「一定額の立退料を支払うので、契約期間満了と同時に退去してもらえないか」という申出があった。

そもそも退去する必要があるのか。また、退去する場合の立退料はどのように算定されるのか。

 

結論

定期建物賃貸借ではない限り、原則として期間満了と同時に退去する必要はありません。なぜなら、借地借家法では、「正当の事由」が無い限り、家主は賃貸借契約を解約することができないと定められているからです。立退料は、あくまでも「正当の事由」の有無を補完するための考慮要素に過ぎませんので、立退料を支払うという一事由のみで「正当の事由」に該当することはありません。

次に、立退料の算定方法ですが、借地借家法等の法令に算定式が定められているわけではありません。ただ、裁判例の傾向を踏まえると、立退料を構成する要素として、①移転費用の補償、②営業権の補償、③借家権の補償をあげつつ、家主の事情と店子の事情を考慮して調整を図るという方法が用いられていると考えられます。

 

解説

締結済みの賃貸借契約書に、「賃貸人は×ヶ月前までに通知することで、契約の更新を拒絶できる」と定められていることから、賃貸は賃借人に対して退去を迫るということが行われているようです。

もし、上記契約書の定めだけを理由に退去を求めているのであれば、法の無知に付け込んだ悪質な行為というほかありません。

なぜなら、借地借家法第28条に「建物の賃貸人による(…更新拒絶の通知…)は、建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。」と定められています。そして、賃借人において、この借地借家法第28条より不利な契約内容はすべて無効と定められているからです(借地借家法第30条)。

したがって、賃借人は、上記のような賃貸人の要求を拒絶することができます。

 

それでは、賃貸人が立退料を支払うので退去して欲しい、と言ってきた場合はどうでしょうか。

もちろん、立退料をもらって、別の場所で商売を継続するというのであれば、賃借人は応じても構いません。

しかし、立退料の申出があったという理由だけで、賃借人は退去する必要はありません。

なぜなら、借地借家法第28条に定める「正当の事由」を考慮する上で、立退料は補充的な考慮要素と位置付けられているからです。建物老朽化が激しく今にも崩壊する、耐震基準を満たしておらず補修することが困難、再開発地域に指定されているなどといった事情があることを前提に、立退料の申出を行うことで、はじめて「正当の事由」に該当するというのが法的な考え方となります。

 

最後に、立退料はどのようにして算定されるのでしょうか。

これについては借地借家法には何も定めがありません。

また、裁判例を紐解いても明確な算定基準を示しておらず、裁判官によってブレがあると考えられています。もっとも、立退料がどのように構成されているかを検討した場合、①移転費用の補償、②営業権の補償、③借家権の補償であることは、ほぼ共通にしています。

この点、①の移転費用の補償とは、引越代、移転先の敷金等、仲介料、保険料などをいいます。移転に伴う実費と考えればよいでしょう。②の営業権の補償とは、移転先で営業を開始するために必要な設備費、休業期間中の損失、移転先での減収分に対する補填などをいいます。2年以内で補償することが多いようです。③の借家権の補償は、字義通り借家権を失うことによる補償をいいますが、営業権の補償と重複することもあり、裁判例によっては認められていない場合もあります。

賃貸人が提示した立退料が妥当なものか判断が付かない場合、弁護士等の専門家に相談したほうが無難です。

 

 

リスク管理・危機管理のご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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