新規事業を立ち上げる際に知っておきたい許認可について、弁護士が解説!

この記事を読むのにかかるおよその時間  約 2

 

【ご相談内容】

社会情勢の変化等を踏まえ、当社としても新規事業を立ち上げ準備を行っています。

ただ、事業モデルはある程度構築できてはいるものの、行政に対して何らかの申請手続きが必要なのか検討できておらず、調査方法も分からない状態です。

新規事業を進めるうえで知っておきたい許認可について教えてください。

 

 

【回答】

日本では1万を超える許認可手続きがあるとされているところ、一業種に対して複数の許認可が必要となる場合があること、取扱い官庁が異なることから、手続きが非常に複雑かつ煩雑であると言われています。また、必要な許認可を検討するに当たり、業種に対応する業法から探せばよいという訳ではなく、そもそも許認可の根拠法令が業法以外に定められていることも多数存在することから、素人はもちろん専門家でも必要十分な調査を行うことが難しいとされています。

したがって、時には見切り発車で事業展開を行わざるを得ない場面もあるのですが、やはりできる限りの対処が望ましいことは言うまでもありません。

そこで、執筆者がこれまで受けた新規事業展開に関する法律相談のうち、比較的多い類型をピックアップしながら以下では解説を行います。

なお、許認可という言葉には、許可・認可・届出等色々なものが含まれるのですが、本記事では、行政に対して申請が必要という意味でまとめて「許認可」という言葉をあえて用いていることにご留意願います。

 

 

【解説】

 

1.マッチングサービス・仲介(プラットフォームビジネス)

 

ネット上で利用者同士をマッチングさせるサービス(=仲介サービス)を展開したいと考える事業者は、最近多くなってきているようです。例えば、物を売りたいと考えるユーザと買いたいと考えるユーザとの売買契約をインターネット上で斡旋するサービスなどが代表的です。

さて、マッチングサービスを行うこと、それ自体に許認可は原則不要です。但し、次の点に注意する必要があります。

①第三者転売を禁止している場合に注意
②取引成立への関与具合に注意
③一定規模のプラットフォーマーの場合はデジタルプラットフォーマー規制法に注意

 

それぞれポイントを簡単に触れておきます。

 

①についてですが、有体物の商品として正規市場にて流通している場合と、バーチャルの世界で発行された無体物(=価値情報)の場合とでは分けて検討する必要があります。

すなわち、有体物の製造者が転売を禁止した場合であっても、正規の流通ルートにて取得した商品であれば、転売することは原則可能です。従って、プラットフォーマーとしてはあまり気にする必要はないと考えられます(例外的なものとして、並行輸入における商標法の問題があります。また周辺領域的な問題とはなりますが、出品者がメーカー作成画像を無断で用いることによる著作権法の問題などがあります)。

一方、バーチャルの世界、例えばオンラインゲーム上で用いるアイテム(仮想通貨など)を取引する場合、プラットフォームを利用するユーザ同士で取引を行うこと自体は物理的に可能です。しかし、オンラインゲームの場合、ゲーム運営者が利用規約等で転売等の取引を禁止していることが通常です(RMTなど)。そして、禁止されている取引を行った場合、ゲーム利用者のアカウント停止措置をとる等のかなり強硬な対応を取ってきますので、実質的には取引が禁止されていることと同様の状態となります。プラットフォーマーが第三者制定の利用規約等につきどこまで関知するべきという点はさておき、プラットフォーム利用者とのトラブルを防止する観点からは、バーチャルの世界で発行された無体物を取引する場合の注意喚起を行った方が無難と思われます。

 

②については、プラットフォーム利用者間で直接交渉を行うことを原則としつつも、適宜プラットフォーマーが当該利用者間のやり取りに介入するという場合、取り扱う商品によって許認可が必要となることに注意が必要です。例えば、不動産仲介であれば宅建業法、人材紹介であれば職業安定法、運送(交通機関)や宿泊先の情報提供であれば旅行業法といった各種業法による許認可が必要となることがあります。また、中古品のネットオークションであれば古物営業法に基づく届出(古物競りあっせん業)が必要となることも注意が必要です。

いわゆる業法規制の有無については、ネット等で検索をかけることで直ぐに情報を入手することが可能だと思われます。ただ難しいのが、業法規制の例外に該当するのか、特に単なる情報掲載にすぎないのか、取引に介入していると評価されるのかは微妙な判断を伴うことから、事業を開始する前に専門家である弁護士に相談したほうが無難です。

 

③は、正式な法律名称は「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」です。デジタルプラットフォーマー規制法はGAFAと呼ばれる巨大プラットフォーマーを適用対象としており、新規事業で立ち上げた段階では適用されることはまずあり得ません。しかし、この法律の適用対象は今後拡大する可能性を秘めていることから、プラットフォームビジネスを行うのであれば、改正動向に注意を払う必要があります。

 

ところで、許認可の問題とは離れてしまいますが、プラットフォームビジネスを展開する場合、ユーザとの権利義務関係、特に何ができて何ができないのかを示すと共に、プラットフォーマーの責任範囲を明確にすることが必須となります。利用規約はもちろんのこと、画面表示・画面遷移を含むインターフェイスが極めて重要となりますので、事業展開に際しては是非とも弁護士に相談してほしいところです。

なお、最近の傾向として、プラットフォーマーは場を提供しているだけでユーザ間のトラブルに一切責任を負わない、と言い切るのは難しくなりつつあります。この辺りの対処法についても弁護士に相談し、適切な対策を講じたいところです。

 

 

2.ものづくり

 

ものづくりというと工業製品などの有体物を指すことが通常ですが、本記事では便宜上無体物(システム等)も含めて検討します。

 

(1)製造(有体物)

一口に製造業といっても様々なものが含まれるため、本記事内ではすべてを網羅することは難しいところがあります。

イメージとしては、人の口の中に入る物であれば許認可が必須と考えておけば間違いありません。例えば、食料品であれば食品衛生法、医薬品であれば薬機法に基づく許認可が必要となります。

一方で、人の口の中に入らない物であっても、例えば、医療目的で使用される機器・器具や化粧品ついては薬機法に基づく許認可が必要です。なお、医療機器に該当するか否かは高度な判断が必要となりますので、必ず専門家に事前確認するべきです。また、製造するに際して、どういった原料を用いるか、どういった機械・器具を設置するのかによって必要な許認可が異なる場合があり、特に地域限定の条例のみで規制されていることもあります。従って、最寄りの役所等で相談し情報収集しながら準備を進めていくことが無難と考えられます。

なお、製造業それ自体の許認可とは別に、工場等の製造場所を確保する場合、都市計画法に基づく用途制限、建築基準法に基づく建築制限、条例に基づく制限などを意外と見落としがちになります。その場所に工場を設置すること自体に問題ありとなると、設備投資等が全て無駄になりますので、この点も忘れずにチェックしたいところです。

 

(2)建設(有体物)

建物等を建設する場合、建設業の許認可が必要であることは一般的に知られているかと思います。

ところで、建設業というと建物に代表されるように、何か物を建築する場合のみ必要と考える方もいるようですが、例えば内装工事であっても、建設業の許認可は必要となります。 但し、例外として、建築一式工事以外の建設工事で500万円未満の工事であれば不要です。

さて、上記のような例外を説明した場合、例えばフランチャイズチェーンを展開する本部が、加盟者より500万円未満の内装工事を請負い、当該内装工事を再委託先に依頼することで、請負代金と下請代金との差額で利益を得る(いわゆる中抜き)ことを考える場合があります。中抜きすること自体は法律上当然に違法という訳ではありません。しかし、本部において内装工事を行う能力がなく、再委託先に内装工事を丸投げする場合、これは一括下請負禁止に該当することになります(建設業法第22条。なお、上記事例の場合、注文者である加盟者からの承諾を得ることで一括下請負禁止違反を免れることが可能です)。

建設業を営む場合(下請業者を利用する場合を含む)、許認可取得の煩わしさから逃れるために例外要件の充足性に関するご相談を受けることが多いのですが、たいていの場合、何かを満たしても、他の何かに支障が出るということが非常に多いのが実情です。基本的には建設業の許認可取得を検討したほうが無難と考えられます。なお、許認可の対象範囲ですが、建設工事の内容如何によって事細かに区分がなされていること(例えば電気工事や左官など)に注意が必要です。

 

(3)WEB制作・システム開発

WEB制作やシステム開発事業を行うに際しては、許認可は不要です。

なお、WEB制作事業者等が自社でサーバを設置し、他人の通信を媒介することになる場合、電気通信事業法上の届出が必要となります。また、第三者が提供するホスティングサービスをWEB制作事業者等がクライアントに再販する場合、やはり電気通信事業法上の届出が必要となることがあります。この届出は見落としがちですので注意が必要です。

 

(4)農作物

農業への参入を検討する事業者が増加傾向にあるとされていますが、事業者が農業を営むための障壁はまだまだ高いというのが現状であり、許認可でガチガチに固められていると言っても過言ではありません。

各市町村等で農業参入する場合のマニュアル整備や相談窓口を設けていますので、事前に十分な相談を行い、行政よりOKがもらえそうな感触を得てから、本格的な投資を行うといった順番で進めていくのが賢明と思われます。

 

 

3.商品の販売

 

(1)食品関係

販売対象となる食品に応じて、許認可の内容が異なります。代表的なものとしては次の通りです。

  • 酒…酒類販売の許可が必要。なお、海外製品を輸入して国内販売する場合、別途税関手続きに注意。
  • たばこ…製造たばこの小売販売業許可が必要。
  • 米…食糧法に基づく届出が原則必要。
  • 健康食品…完成済みの健康食品を販売するだけであれば許認可不要。なお、海外で販売されている健康食品を輸入する場合、検疫所での手続きが必要。また、海外では健康食品扱いであっても、日本国では医薬品に該当する場合もあるので注意が必要(薬機法に基づく許認可の問題が発生します)。

 

ちなみに、許認可の問題からは離れますが、上記の「健康食品」の場合、許認可の問題よりも広告表示の問題、景品表示法はもちろんですが、特に薬機法と健康増進法違反の問題が多数発生しているのが実情です。広告表示の問題はグレーゾーンの問題が多いとはいえ、確実性を期すのであれば弁護士に広告内容を検証してもらい、問題点の指摘のみならず、代案を出してもらう等しながら、適法かつ訴求力のある広告表示を行いたいところです。

 

(2)動物

いわゆるペットショップを営む場合、動物愛護法に基づく登録が必要となります。

なお、ペットブリーダーになる場合も動物愛護法に基づく登録が必要となりますが、忘れがちなのが、ペットの飼育・繁殖場所について、都市計画用の用途制限や条例規制に違反しないかという点です。また、悪臭や騒音、衛生問題等で近隣住民とトラブルになりやすいことにも注意が必要です。

 

(3)医薬品

医薬品を販売するに際しては、薬機法に基づく許可が必要となります。また、インターネット上で医薬品を販売する場合、実店舗販売の許可を取得していることを前提に、保健所への届出が別途必要となります。したがって、一般的な事業者が医薬品販売、特にネット通販事業に乗り出すことは事実上困難と言わざるを得ません(本記事執筆は2021年12月ですが、この分野については規制緩和に対する要望が強く、色々と動きがある分野です。今後の動向によって門戸が解放される可能性があることに留意してください)。

ところで、海外の医薬品について、事業者が個人に代わって輸入手続きの代行を行うという形態があります(いわゆる個人輸入代行)。ただ、厚生労働省が公表している個人輸入代行に関する通達内容を参照する限り、個人輸入代行業を行うことはほぼ不可能と言えます。ネット上では医薬品の個人輸入代行に関する宣伝広告が溢れていますが、非常に危険が事業形態であり、原則参入しないほうが良いものと考えられます。

 

(4)中古品

いわゆるリサイクルショップ事業やブランド品等の買取事業を行う場合、古物営業法に基づく許認可が必要となります。

なお、最近では消費者等のユーザの手元にある商品を、買取り事業者がユーザ宅まで訪問して買取りを行う事業に参入することが多くなってきていますが、この場合、許認可ではありませんが、特定商取引法に基づく「訪問買取」に該当することに注意が必要です。特に事業者にとってリスクが高いのは、クーリングオフの適用があることになります。特定商取引法を順守した契約書の整備などが必須となりますので、リスクを抱えたくないのであれば弁護士に相談するべきです。

 

(5)ネット販売

インターネット通販を行うこと、それ自体に実店舗とは異なる許認可が必要となるわけではありません(但し、例えば医薬品のように別途業法規制がある場合は別です)。

もっとも、消費者を利用対象とするインターネット通販の場合、特定商取引法が定める「通信販売」に該当し、表示義務(いわゆる特定商取引法に基づく表示)や返品特約(クーリングオフの適用が無い代わりに、事業者が特に定めない限り8日間の無条件返品を認める必要がある)等の特有のルールが定められています。次の記事等も参照の上、必要に応じて弁護士に相談し、適切な対策を講じるようにしてください。

 

ネット通販事業者が知っておきたいネット通販に関する法規制とは?弁護士が徹底解説!

 

 

4.サービス・役務の提供

 

(1)飲食系

・居酒屋・レストラン等

食品衛生法に基づく飲食店許可が必要となります。

勘違いしやすい点として、飲食店許可を取得することで自店舗内での消費を目的とした酒類販売が可能となります。但し、いわゆるお持ち帰り形式での酒販は不可です。また、喫茶店として許可を取得した場合、酒販は不可であることに注意が必要です。

また、飲食店営業を行うに際し、うっかり取得することを失念しているものとして、深夜営業許可(深夜酒類提供飲食店営業届)と防火管理者の選任があります。

前者の深夜営業許可は風適法(風営法)に基づく許認可となります。風適法(風営法)と聞くと、「当店はいかがわしいことはしていない」と事業者が口をすることが多いのですが、深夜営業許可は午前0時から午前6時までの間に主として酒類を提供する形態の飲食店である場合に必要となる許認可です。風適法が根拠になるとはいえ、いわゆる風俗営業の該当性とは全く関係のない許認可であることに注意が必要です。なお、この許認可を取得できない典型的パターンとして用途制限に引っかかっているというものがあります。飲食店を開業する場合、都市計画法に留まらず各地域の条例に基づく用途制限については必ず事前調査を行うべきです。

一方、後者の防火管理者ですが、執筆者が知る限り、そもそも選任する必要性があることを知らなかったという事業者が一定数存在します。そして、いわやるボヤ騒ぎを発生させる等して、消防署から指導を受けて初めて気が付くという事例が後を絶たないのが実情です。30人以上が収容可能な飲食店の場合、消防法に基づき必ず防火管理者を選任しておく必要があることに注意が必要です(特に、フードコートに出店する場合など)。

 

・パン、ケーキ屋

食品衛生法に基づく菓子製造許可が必要となります。

ちなみに、最近ではペット同伴可を売り文句とする店舗形態が増えてきていますが、この場合、合わせて動物愛護法に基づく「第一種動物取扱業」の登録が必要となることも押さえておく必要があります。

 

・バー、スナック

食品衛生法に基づく飲食店営業許可が必要となります。また、この種の営業形態は接客を伴うことになることから風適法(風営法)に基づく許認可も必要となります。

なお、この種の飲食店の場合、病院や児童福祉施設との距離制限などもあることに注意が必要です。

ところで、酒類提供をメインとしつつ深夜営業(午前0時から午前6時)を行う場合、深夜営業許可(深夜酒類提供飲食店営業届)が必要となることは前述のとおりですが、この深夜営業許可を取得しても、深夜営業時間帯に接客を伴う営業はできません。この点を回避するために、カウンター超しでの会話を行うこと前提に、深夜営業時間帯でも酒類提供を行う飲食店形態(いわゆるガールズバー等)がありますが、かなりグレーゾーンとなりますので、この種の営業形態を行う場合は注意が必要です。

 

(2)流通系

・運送業

荷物を運ぶ場合(トラック、軽貨物など)、貨物自動車運送事業法に基づく許認可が必要です。人を運ぶ場合(タクシーなど)は、道路運送法に基づく許可が必要です。

新型コロナの影響により相談は少なくなりましたが、訪日観光客をメインターゲットとした荷物運搬や観光タクシー事業の展開を検討する事業者は、かなり多かったという印象を執筆者は持っています。再びこれらの事業展開を検討する事業者は増加するものと思われますが、許認可手続きは相当ハードルが高いことに留意したいところです。

 

・倉庫業

倉庫業法に基づく登録が必要です。

ところで、倉庫業法に定める「倉庫業」に該当するか否か、かなり微妙な問題があったりします。例えば、一時的な商品保管の場合や配送センターの場合は倉庫業法に基づく登録が不要となっていますが、最近では個人の方が副業で、事実上倉庫業を営んでいるのではないかという事例を見かけたりします(典型的には、ネット通販のピッキング・包装代行業務を行っている個人事業主が事業拡大した場合に見受けられる現象です)。

また、いわゆるトランクルームについては、倉庫業法に基づく登録が不要とされていますが、営業形態によっては登録が必要となったりします。

ネット通販が主流となり商品の保管場所確保ニーズが大きくなってきていること、個人を中心に捨てることはできないが家の中では保管しきれない物品整理のニーズが高まっていることから、倉庫業は注目されている事業形態のようです。ただ、倉庫業法自体があまり知られていないのも実情ですので、うっかり許認可を失念し後で行政処分を受けたということがないように、事前に確認を行いたいところです。

 

・廃棄物処理業

廃棄物処理法に基づく許可が必要となります。

ちなみに、不用品回収業を行う場合、廃棄物処理法に基づく許可以外にも、家電リサイクル法及び小型家電リサイクル法への対応が必要となることが多いようです。また不用品として回収したものを再度販売する場合、古物営業法に基づく許認可も必要となります。

なお、最近では遺品回収・遺品整理と称する営業を行う事業者が増加しているようですが、この種の事業展開を行う場合も廃棄物処理法に基づく許可が必要となることに注意が必要です。

 

(3)対人系

・労働者派遣

労働者派遣法に基づく許可が必要です。

なお、労働者派遣事業の許可を新たに取得するためのハードルが高いことから、派遣業以外の形態で事業展開を行う事業者も一定数存在します。もっとも、請負形態の場合、委託者が受託者側の作業者へ直接の指揮命令行うことによる偽装請負リスクがつきものです。また、いわゆる在籍出向という形態にする場合もありますが、いわゆる登録型派遣に準じた営業を行うには難があります。

近時、派遣業に対しては厳しい目が向けられており労働基準監督署等の行政は取締りを強化していること、労働者派遣法違反に基づくみなし申込制度(派遣労働者と委託者との直接雇用契約を成立させる制度)等の制裁があることを踏まえると、労働者派遣法による規制を免れるようとするグレー行為は控えたほうが無難です。

派遣以外の形態で人材供給業を行いたい場合、事前に弁護士と念入りに協議し、労働者派遣法及び職業安定法等の脱法行為と言われないような事業スキームを構築することが重要となります。

 

・介護

介護保険法に基づく許認可が必要です。

ちなみに、介護保険制度を前提としない民間サービスが色々と存在しますが、介護保険の利用対象となるのか(保険給付対象サービスと言えるのか)という問題と、介護事業として取り締まり対象になるのかという問題は別議論となります。この点を意識せずに事業展開している事業者も存在するようですが、ある日突然営業ができなくなるリスクを抱えていますので、早めに弁護士等の専門家に相談したほうが無難です。

 

・美容院、理髪店

理髪店であれば理容師法、美容院であれば美容師法に基づき、それぞれ届出が必要となります。

最近では、出張・訪問による理美容サービス事業の展開を検討する方が増えてきているようですが、現行法上は原則禁止です。但し、老人ホーム・介護施設等への出張・訪問による理美容サービスは例外的に可能とされていますが、市町村によって取扱い状況が大きく異なるように執筆者は感じています。事業展開を行う前に、管轄の市町村に相談することをお勧めします。

 

・旅館(宿泊サービス)

旅館営業については、旅館業法に基づく許可が必要となります。

いわゆる民泊については、住宅宿泊事業法に基づく届出が必要となります。

なお、これらの法律に基づく許認可を嫌って、ウイークリーマンション・マンスリーマンション等と称して賃貸借形態での事業を展開する事業者も存在しますが、執筆者個人としてかなりグレーなものではないかと考えます。

 

・通訳案内

訪日観光客を対象とした通訳事業を行う場合、許認可は不要です。ちなみに、官公庁が音頭を取って通訳ガイド資格を案内していますが、当該資格を取得することが義務付けられているわけではありません。

また、WEBサービス上での自動翻訳プログラムを提供することについても、特段の許認可は不要です。

なお、通訳ついでに外国人向けに鉄道切符や宿泊先の取次代行等を付随してサービス展開を検討する場合、旅行業法に基づく許認可が必要となる場合あることに注意が必要です。

 

 

(4)その他

・探偵業

いわゆる便利屋稼業の代表例として探偵業務を展開する事業者も多いようですが、探偵業法に基づく届け出が必要となります。

 

・警備

警備業法に基づく許認可が必要となります。

建設会社が工事現場において、自社作業員に交通誘導などの警備業を行わせる場合(いわゆる自家警備)は警備業法に基づく許認可は不要とされています。ただ、法律違反ではないものの、国土交通省は自家警備に関する注意喚起(問題視)を度々行っていますので、今後の動向(取締り対象になる等)に注意する必要があるかもしれません。

 

 

5.決済

許認可に関する問題とは若干離れるところがあるのですが、新規事業を立ち上げる目的の1つとして、ユーザより対価を支払ってもらうことで事業者は利益を得ることがあります。すなわち、事業展開を行うに際しては決済の問題は避けて通れないのですが、意外とこの点に関する検討が抜けていることが多いので、簡単にポイントを解説します。

なお、決済方法については、色々と法律が複雑に絡むことが多いため、事前に弁護士に相談しておくことが適切と考えられます。

 

(1)分割払いを認める場合

割賦販売法を意識する必要があると共に、分割払いに伴う利息を取る場合は利息制限に注意を払う必要があります。

ところで、事業者がユーザとの間で直接分割払い契約をすることは稀ではないかと思われます。したがって、事業者が割賦販売法に基づく直接的な規制を受けることは少なく、あまり意識する場面はないのかもしれません。もっとも、現場実務で多いのはクレジット払いのうち、ユーザが商品・サービスを購入するに当たり、事業者がユーザに対してクレジット会社を紹介し、新たにユーザとクレジットカード会社との間で契約を締結させる場合、「個別信用購入あっせん」という類型に該当します。クレジットカード会社が色々と指導を受けるかと思いますが、事業者自身が割賦販売法に基づく規制を受けることになる点は要注意です。

なお、個別信用購入あっせんの該否に関わらず、ユーザが事業者に対して負担する代金等につき、クレジットカード等で立替払いを行う場合、事業者はクレジットカード会社との加盟店契約に注意する必要があります。特に注意して確認しておきたい事項としては、手数料はいくらなのか、立替金の入金タイミング、ユーザより取引の有効性について異議が出された場合の処理(通常はクレジットカード会社の裁量判断で事業者への送金がストップされます)等があげられます。

 

(2)サイト内通貨等を発行する場合

WEB上のゲーム等が代表例ですが、事業者が運営する店舗・サービス内でのみ使用可能な通貨を発行し、当該通貨をユーザが購入する場合、資金決済法に注意する必要があります。

ちなみに、資金決済法の適用の有無については、前払いでユーザよりお金を預かることになるのかという意識を持てば対処可能かと思います。仮に資金決済法が適用される場合、原則として許認可の問題が出てくること、またユーザ保護の観点から事業者は法務局に一定額を供託する義務が発生することが、事業者にとっては悩ましい問題となります。

なお、どちらについても適用除外の例外規定がありますので、この例外規定に該当するよう事業モデルの構築を行うことがポイントになります。適用除外となるか否かについて誤った解釈を行わないためにも、事前に弁護士と相談したいところです。資金決済法については、次の別記事もご参照ください。

 

ポイント発行事業を行う場合の注意点について、弁護士が解説!

 

(3)エスクロー決済を行う場合

プラットフォームビジネスの場合、売主と買主の顔が見えないことから、プラットフォーマーが買主よりお金を預かり、その旨売主に通知し、通知後売主が買主に商品を発送した上で、プラットフォーマーが売主に預り金を送金する、といった決済方法が取られる場合があります。

このエスクロー決済については、資金決済法に定める資金移動業に該当するのではないかという議論がくすぶり続けているのですが、本記事執筆時点(2021年12月)では、資金移動業に該当しないと考えられています。但し、重要な前提として、買主がプラットフォーマーに対して、売買代金を送金したことにより、売主との決済が完了したこと(要はプラットフォーマーが売主に代わって代理受領したこと)が条件となります。プラットフォーマーが自らのリスクを減免するために、上記前提条件を満たさない利用規約等を作成することで、実は資金移動業に該当し資金決済法上の許認可が必要な状態となっているということがあったりしますので、この点は要注意です。

 

(4)決済資金の融通を行う場合

例えば、プラットフォームビジネスにおいて、決済資金不足に陥った買主に対してプラットフォーマーが資金融通を行う場合、貸金業登録が必要になるものと考えられます。

コンビニエンスストア事業ではオープンアカウントと呼ばれる制度が採用されているのですが、これに準じた取り扱いを検討する事業者も一定数存在します。ただ、貸金業登録の説明を行うと、ビジネスモデルの見直しを検討する事業者が多いのが実情ですので、予め注意したいところです。

 

 

6.その他(参考)

 

以上の通り、執筆者が新規事業展開に関するご相談を受けた中で、特に事業遂行の上で支障が生じがちの事例をいくつか拾い上げて解説を行いました。

ただ、どういった許認可があるのか正確に把握することは難しいという実情があります。

こういった事情を踏まえ、最近では「ルールメイキング」と称した考え方が盛んになってきており、法務戦略を練る上でも重要となっています。その代表的なものとして、次の2つの公的制度を紹介しています。

 

①グレーゾーン解消制度

対象法令を所管する行政機関に対し、新規事業の適法性確認を求める制度です。

行政が違反か否かを直接回答してくれるという点では魅力的なのものとなります。しかし、照会対象はあくまでも新規事業に限定されること、回答内容が公表されるため秘匿性のある新規事業には適さないという難点があります。

 

②ノーアクションレター制度

対象法令を所管する行政機関に対し、事業活動を行うに際しての許認可の要否、事業活動を行うことによる不利益処分の可能性等について照会を行うという制度です。

原則として30日以内に回答が得られること、既存事業を対象に照会できることという点で魅力的なものとなります。しかし、グレーゾーン解消制度と同じく、やはり回答内容が公表されるため、下手をすれば既存事業の違法性を世間に印象付けることにもなりかねず、この点では難点があります。

 

なお、両制度ともどういった前提事実を行政機関に説明したうえで、欲しい回答に近づけるべく、どういった質問・照会事項を投げるのか色々とコツがいります。

したがって、やみくもに利用するのではなく、事前にしっかり戦略を練って利用するべきですので、弁護士と相談しながら進めたほうが無難です。

 

 

 

<2021年12月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

コンプライアンスのご相談


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

弁護士へのご相談・お問い合わせ

当サイトの記事をお読みいただいても問題が解決しない場合は
弁護士にご相談いただいた方がよい可能性がございます。

下の電話番号もしくはメールにてリーガルブレスD法律事務所までお問い合わせください。

06-4708-7988メールでのご相談

運営事務所

当事務所は大阪で中小企業の法務に特化したリーガルサービスを提供しています。一貫して中小企業法務に力を入れてきたため、高い専門性とノウハウを取得することができました。結果として大阪を中心に多くの企業様から支持を受けています。企業の法務問題で顧問弁護士をお探しの方は、リーガルブレスD法律事務所にご相談ください。

アクセスランキング


人気記事ランキング

MAIL MAGAZINEメールマガジン

法律や話題のニュースを弁護士の視点で解説。
無料で読めるメルマガの登録はこちらから。
プライバシーポリシーに同意の上、登録してください。

メールマガジン登録