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【ご相談内容】
社長が突然「従業員持株会を作ること」と言い出し、現在準備を進めているところなのですが、当社は株式上場を予定していない中小企業であり、かつ社長が100%株式を保有しており、正直何のために従業員持株会を作るのか分からない状態です。
中小企業において従業員持株会を作る意義と共に、どのような点に注意しながら設立準備を進めていけばよいのか、教えてください。
【回答】
従業員持株会とは、従業員が会社の自社株を取得することを奨励する社内的な制度をいいます。従業員の財産形成、モラル向上、企業経営参加意識の高揚などに役立つことから、株式上場会社や株式上場を目指す会社を中心に導入が図られています。
もっとも、近時では、株式上場を予定しない、いわゆる中小企業においても導入される事例が増加しつつあります。様々な理由が考えられますが、理由の1つとして事業承継対策を考慮し従業員持株会が導入されることが多いようです。
本記事では、株式上場を予定しない中小企業を念頭にしつつ、従業員持株会を設立するための手続きが検討しておきたいポイント等を解説します。
【解説】
1.従業員持株会について
(1)メリット・デメリット
従業員持株会を組織する場合、次のようなメリットがあるとされています。
- 会社側のメリット
・従業員の福利厚生に寄与できる
・従業員に経営参加意識を持たせることができる
・株式の社外流出を防止することができる - 従業員側のメリット
・配当金と奨励金で高利回りが期待できる
・会社が倒産しない限り元本保証が約束されている
一方、従業員持株会を組織することで、次のようなデメリットも生じることになります。
- 会社側のデメリット
・オーナーによる会社支配権に綻びが生じる
・従業員持株会の公正な運営ができない(特に会社が過度に干渉する場合)
・配当内容に不満を持つ従業員が生じてくる - 従業員側のデメリット
・会社の財務状態によって資産形成ができない場合がある
・株主として会社経営に関与することが難しい
・従業員持株会の運営負担が生じる
(2)非上場会社・中小企業と従業員持株会
従業員持株会は、上場会社又は上場を予定している会社で組織されることが多かったのですが、最近では上場を全く予定していない非上場会社でも組織されることが多くなってきました。
もちろん上記のようなメリットを考慮しているのですが、それ以外でも「事業承継対策」として利用されることが増えています。例えば、次のような事例を想定した場合、オーナーの相続税対策に従業員持株会が寄与していることが分かるかと思います(なお、事業承継対策として従業員持株会を利用する場合、税務が関係することから、必ず税理士に相談して検討・実行するようにしてください)。
(例)
オーナー社長はX社の株式を100%保有しているところ、従業員持株会を設立し、その15%を従業員持株会に譲渡する。なお、発行済株式数は1,000株、株式の相続税評価額は10万円、配当還元価額は1万円と仮定した場合…
①評価額
⇒ 10万円×1,000株=1億円②売却による評価額
⇒ 10万円×850株=8500万円(売却後のオーナー保有分の株式評価額)
1万円×150株=150万円(従業員持株会への売却額)③減少額の試算
⇒ 1億円-(8500万円+150万円)=1350万円
ポイントは、従業員持株会へ株式を売却する場合、配当還元価額を用いることが可能という点です。すなわち、株式の評価について「相続税評価額>配当還元価額」という関係が成立する場合、相続対象となるオーナーの資産を合法的に減少させることが可能となります。
この点を重視し、最近では事業承継を必要とする非上場会社や中小企業でも、従業員持株会を組織することが増えてきています。
2.従業員持株会を設立する前に検討しておきたい事項
従業員持株会が設立されるきっかけの多くは、経営者・オーナー側の発案です。本来的には従業員のみが参加した上で協議・検討し、設立されることが望ましいのですが、現実的ではありません。
したがって、ある程度経営者・オーナー側で道筋を示す必要があるところ、税務上の問題を意識しつつ、次のような法務課題についても検証し、従業員持株会の縦鼻を担当する従業員に提案することが望ましいといえます。
(1)組織形態
従業員持株会を組織する場合、理屈の上では「民法上の組合」として設立する場合と「法人格のない社団」として設立する場合の2種類があります。
もっとも、現状では「民法上の組合」として設立することが圧倒的に多いとされています。
これは税務上の問題、すなわち「法人格のない社団」として設立した場合、法人税が課税されるほか、社員(社団の構成員)への配当は雑所得として取り扱われ、配当控除が不可能であるのに対し、「民法上の組合」として設立した場合、法人税の課税なし、組合員(組合の構成員)への配当を配当所得扱いとなり、配当控除が可能という相違があるからです。
したがって、本記事でも、従業員持株会は民法上の組合であることを前提に解説を進めていきます。
(2)参加できる人的範囲
民法上の組合は、複数の当事者が出資することを念頭に置くのみで、加入者の人的範囲について特段の制限を設けていません。
もっとも、多くの従業員持株会では、パートやアルバイト等の非正規社員は加入できないと従業員持株会規約に定められていることが通常です。これはパートやアルバイトはあくまでも臨時的な雇用に過ぎず、愛社精神や経営参加意識を図ることが難しいからと考えられます。ただ、いわゆる日本版同一労働同一賃金(均等待遇・均衡待遇)が法制度化され、国の政策として強く推進されている状況下では、なぜ正社員は加入者になれるのに、パート・アルバイトが加入者から排除されるのはおかしいという声が近いうちに湧き上がってくるものと予想されます。
従業員持株会は、従業員が任意に組織したものであり会社は関与していないという建前論は主張できるものの、奨励金を出す、あるいは事実上会社の一組織として会社がコントロールしている実態を踏まえると、会社が主導して是正するべき福利厚生の待遇差と言われかねません。
そこで、資産形成するにもコストが発生するという観点からすれば、正社員or非正規社員という区別ではなく、収入状況に応じて組合加入の可否を線引きしたほうが良いのかもしれません(事実上、非正規社員であれば達成することができない年収額を加入条件にする等)。
次に、従業員持株会に取締役を加入させることができないか、という問い合わせを受けることがありますが、結論から申し上げると加入を認めるべきではありません。
これは、従業員持株会に対し、会社は奨励金等の名目で資金援助を行うことが通常であるところ、この奨励金等が取締役の報酬に該当するのではないか、該当するのであれば会社法が定める手続き(会社法第361条)に則る必要があるのではないか等々、色々と会社法上の不都合が起こってしまうからです。
従業員から取締役へ昇格した場合は、従業員持株会より脱退させる等の対策を講じたほうがよいと考えられます。
さらに、従業員持株会を一度脱退し、再度加入を認めてもよいのか、という問い合わせを受けることがありますが、原則的には再加入は不可とするところが多いよう思います。なぜなら、手続き的に煩雑という点もさることながら、再加入を認めることで脱退と加入を繰り返し、投機的な利用を行う従業員が発生する恐れがあるからです。
(3)株式を購入するための資金確保
従業員持株会に参加する加入者がお金を出し合って、株式を購入するというのが原則です。
このお金の出し方については、加入者が得る毎月の給料やボーナスより一定額を会社に控除(天引き)してもらい、その控除額を会社が従業員持株会に交付し、従業員持株会が管理し積立てていく方法が一般的です。もちろん、従業員持株会での内部手続きを経て、臨時で拠出するよう加入者に働きかけることで、購入資金を確保するという方法もあります。
次に、会社が奨励金等の名目で従業員持株会に拠出するという方法があります。一般的には積立額の5%前後で拠出することが多いと言われていますが、法律上明確な基準が存在するわけではありません。ただ、利益供与に該当する恐れがあることから、無制限に拠出するわけにはいかないことが重要となります。
なお、従業員持株会による株式購入を支援するために、会社が従業員持株会に貸付を行うという方法も一応は考えられます。しかし無利息や著しい低利息で貸付を実行した場合、本来あるべき利息との差額分について、従業員持株会の加入者が給与所得を得たとして課税対象となります。したがって、税理士と相談しながら、最低限度の利息を定めた貸付にすることがポイントとなります。
(4)議決権の行使方法
従業員持株会の組織形態が民法上の組合である場合、議決権の行使は理事長に一括して行使させることが通常です。
従業員持株会の加入者がどうしても議決権を行使したい場合、従業員持株会に対して議決権の不統一行使(会社法第313条)を行うよう申立て、内部処理手続きを実行する必要があると考えられます。
なお、加入者の一切の意向を反映させることなく、理事長の判断のみで議決権を行使するといった規約を定めても、法的には無効と判断されると思われます。
ところで、中小企業のオーナーからすれば、相続税対策として従業員持株会を活用したいが、株主として従業員持株会が経営に口を出すのは避けたい、と考えるかもしれません。
この場合、例えば従業員持株会に譲渡する株式を議決権制限株式にするといった方策を講じることが可能です。ただ、議決権制限株式にするのであれば配当優先のオプションを付与するといった便宜を付与しないことには、従業員持株会への加入メリットが薄れてしまい、結果的に従業員持株会の維持運営が困難となりかねません。また、議決権制限株式を発行するのであれば、定款変更等の社内手続きが必要となります。
やや手続きが複雑ですので、弁護士等の専門家に相談しながら手続きを進めていったほうが良いと考えられます。
(5)従業員持株会より脱退した場合の処理
従業員持株会の目的として、会社への愛社精神、すなわち従業員に経営参加意識を持たせるといった点を考慮すると、任意で脱退する場合はもちろんのこと、会社を退職する場合にも自動的に脱退するというルールを定めておくことが重要となります(その他取締役等の役員となった場合も自動脱退とした方が無難であることは、上記(2)参照)。
次に、従業員持株会を脱退した場合、元加入者との清算はどのように行うかですが、一般的には、当該加入者の持分に相当する株式を従業員持株会が買取り、持分価格に相当する現金を支給する方法で清算します。
ここで問題となるのは持分価格についてです。
原則的には、従業員持株会の規約において価格算定方法を定めていれば有効と考えられていますので、額面(旧商法上の額面株式を前提)とすること、発行価額とすること、配当還元価額とすること、取得価格とすること等と定めておけば事足ります。すなわち、従業員持株会の規約で定めている限り、当然に時価額での買取り義務が無いということがポイントとなります。
もっとも、従業員持株会に加入している期間中配当が実施されていない、市場での株式取引が予定されていた、加入者の積立額を上回っていない等の事情がある場合、いくら従業員持株会の規約に価格算定方法が定められていたとしても、無効と判断される可能性があります。ケースバイケースの判断になるとはいえ、複数の裁判例も存在するところですので、注意が必要です。
なお、従業員持株会の加入者が死亡した場合に、どのように処理するのかについて決めておくことも検討に値します。
考え方としては、従業員の地位を喪失した場合は脱退扱いになること、株式評価は当該従業員の死亡時を基準として算出すること、当該従業員の相続人全員より請求があった場合を条件として払戻しに応じること(但し、払戻請求権は理論的には可分債権と考えられるため、相続人の範囲が確定する限りは法定相続分に応じた支払いを行う必要があると考えられます。このような規約の定めは、あくまでも相続人探索の煩雑性を従業員持株会が負担しないようにするための便宜策にすぎないこと注意が必要です)等を規約に明記するといった対処法が考えられます。
(6)解散
会社の経営状況が悪化し配当ができなくなった場合、従業員持株会への加入者が減少した場合、退職者の急増により払戻しが困難になった場合など、様々な原因で従業員持株会を解散するという場面は当然生じえます。
従業員持株会の組織について民法上の組合であることを前提にした場合、民法では次のような規定が置かれています。
・民法第682条
組合は、次に掲げる事由によって解散する。
①組合の目的である事業の成功又はその成功の不能
②組合契約で定めた存続期間の満了
③組合契約で定めた解散の事由の発生
④総組合員の同意
・民法第683条
やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができる。
民法第682条第3号にある通り、一定の事由が生じれば組合は解散することを規約で定めておくことが望ましいと言えます。
なお、規約に解散事由を定めていない状況下で、従業員持株会を解散しなければならない状態に陥った場合、規約の変更手続きに従い解散事由を新たに規約に定める旨の組合決議を行う、当該解散事由に従って従業員持株会を解散する旨の組合決議を行う、といった方法が考えらえます。
3.従業員持株会の設立の手順
(1)流れ
上記2.では従業員持株会を設立するに際して事前に検討したい事項につき、解説を行いました。ただ、これらの事項は個別論点に過ぎませんので、ここでは従業員持株会を設立するまでの一般的なフローを示しておきます。
- 準備室の設置(担当者の選任)
・スケジュール調整
・規約・細則案作成
・発起人、従業員持株会役員(理事、監事)の内定
・役員会への報告、了承 - 設立総会の開催
・発起人会の発足
・総会議事録の作成
・設立契約書の調印
・会社との契約書調印
・会社と過半数代表者(従業員)と天引きに関する労使協定
・従業員持株会預金口座の開設
・会社内事務局(担当者)の選任 - 参会者の募集
・募集資料の準備、作成
・従業員向け説明会、質疑応答 - 入会手続き
・加入者名簿の作成
・給与天引き控除のための社内準備 - ・給与天引き開始、持株会へ送金
(2)従業員持株会規約
従業員持株会の運営をスムーズに行うためには、事前にルールを定めておくことが重要です。そのルールである従業員持株会規約について、一般的なものは次の通りです。
なお、最低限のことしか書いてありませんので、実情に応じて修正が必要であること、分からないことがある場合は弁護士等の専門家に相談することが望ましいこと、ご注意ください。
【参考書式】
従業員持株会規約
第1条(名称)
本会は●●従業員持株会規約(以下「本会」という)と称する。
第2条(組織形態)
本会は民法上の組合とする。
第3条(目的)
本会は、●●株式会社(以下「会社」という)の株式を取得することで、加入者の財産形成に資することを目的とする。
第4条(加入者)
加入者は、会社の従業員であり、かつ勤続年数●年以上の者に限られる。
第5条(入会及び退会)
1 従業員は、いつでも本会に入会し又は退会することができる。但し、一度退会した場合は入会することができない。
2 加入者が従業員たる地位を喪失した場合は、自動的に退会する。
第6条(配当金)
本会の所有する理事長名義の加峰氏に期待する配当金は、加入者に現金交付する。
第7条(払込み)
1 加入者は、毎月の給料日及び賞与支給時に積立を行う。
2 会社は、前項の積立金に対して奨励金を付与することができる。
3 前2項に定める積立金及び奨励金は、一括して株式の購入に充てる。
4 理事長名義の株式に割り当てられた増資新株式については、加入者がこれを払込む。
第8条(貸付金)
本会及び会社は、加入者に対して貸付の斡旋を行うことができる。
第9条(株式の登録配分)
第7条により取得した株式又は無償交付その他の原因により割り当てられた株式は、割当日現在の加入者の登録配分株数に応じて登録配分する。
第10条(株式の管理及び名義)
1 加入者は、前条により自己に登録配分された株式を、理事長に管理させる目的をもって信託する。
2 前項により理事長が受託する株式は、理事長名義に書き換える。
第11条(議決権の行使)
理事長名義の株式の議決権は、理事長が行使する。但し、加入者は各自の持分に相当する株式の議決権の行使について、理事長に対し各株主総会ごとに特別の指示を与えることができる。
第12条(持分の一部引出し)
加入者は登録された持分を、理事長の決定価額で本会に譲渡し、その代金を受けることができる。但し、株券での引出しは認めない。
第13条(処分の禁止)
加入者は、登録配分された株式を他に譲渡し、又は担保に供することができない。
第14条(退会時の持分の返還)
1 加入者が退会した場合、本会は加入者に対し、当該加入者に登録配分された株式(小数点第4位以下を切捨て)を現金にて払戻しを行う。
2 前項の払戻しの株式の評価は、別に定める株式の評価規定に従う。
第15条(役員)
1 本会の業務を執行するため、次の役員を置く。
理事3名(うち理事長1名)
監事1名
2 前項の役員は総会において加入者の中から選任し、理事長は、理事の中から互選によって選任する。
3 理事長は本会を代表する。但し、理事長に事故があるときは、他の理事がこれに代わる。
4 監事は本会の会計を監査し、その結果を定時総会において報告する。
第16条(理事会)
1 理事長は、毎年●月に定期理事会を招集し、必要があるときは臨時に理事会を招集する。
2 理事会は、理事の過半数の出席によって成立し、その過半数の賛成により議決する。
第17条(総会)
1 規約の改正その他の重要事項の決議及び役員の選任のため、毎年●月に定期総会を開催する。但し、必要に応じて臨時総会を開催することができる。
2 総会は理事長が召集する。
3 総会の議決は、出席加入者の過半数をもって行う。但し、加入者は、書面をもって議決権の行使を委任することができる。
4 加入者は1個の議決権を有する。
第18条(報告)
1 理事長は、毎年●月1日から●月末日までを計算期間とした本会の決算報告書を●月●日までに、本会の所在地に公告する。
2 加入者に対しては、前項に定める公告日までに加入者別の計算書を作成し送付する。
第19条(通知)
本会の通知は、原則として会社イントラネットを用いて行う。
第20条(本会の所在地)
本会の所在地は●●、●●株式会社内とする。
第21条(事務の委託)
本会の事務の一部は、●●株式会社に委託する。
4.従業員持株会に類似・関連する他制度について
従業員持株会を設立する目的は色々とありますが、従業員に会社の株式を保有してもらうスキームであることは間違いありません。
そこで、従業員に株式を保有してもらうのであれば、わざわざ従業員持株会を設立せずに従業員個人に保有してもらえばよいのではないか、という考えが生まれます。
一方で、従業員ではなく、役員を対象とした持株会を設立することはできないか、という考えも生まれます。
ここでは、これらの点について簡単にポイントのみ解説しておきます。
(1)従業員個人が直接株式を保有する場合
オーナーが特定の従業員に対して株式を譲渡する、会社が新株発行手続きを経て特定の従業員に株式を付与する等々の手続きを用いれば、実現することは可能です。
ただ、当然のことながらオーナーによる会社支配権に影響が生じることになります。
また、株式を保有する従業員が第三者に株式を譲渡しようとした場合の対策、当該従業員が会社を退職する際の対策を十分に考えておく必要があります。
ちなみに、一般的な中小企業であれば株式譲渡に制限が付されているものの、当該従業員が株式譲渡を強行しようとした場合、会社が時価で買取るか、会社が譲渡先を指定するといった対応が必要となります。譲渡制限が付されているから安心とは言い切れないこと、よくよく理解していただきたいところです。
また、従業員が退職する場合の対策としては、予め従業員と契約し、会社又は会社指定の第三者に特定価額で譲渡することを約束させる方法、従業員が保有する株式を取得条項付株式にする方法などが考えられます。ただ、契約内容が一方的な場合(従業員にとって著しく不利な内容)、無効と判断されるリスクが残ります。また、取得条項付株式を発行するには内部手続きが煩雑であること、取得条項に基づく権利を会社が行使する際の会社の財務状態によっては権利行使ができないこと(いわゆる自己株式所得に際して会社法が要求する財源規制をクリアーできないこと)といった不確実性が残ってしまうことも注意が必要です。
なお、従業員が死亡した場合、株式も相続対象となります。この場合に備えて、相続が発生した場合、会社は相続人に対して売渡し請求ができる旨定款に定めておくといった対策も検討したいところです(なお、この売渡請求についても財源規制がネックとなります)。
(2)役員持株会
上記2.(2)で解説した通り、役員を従業員持株会に加入させるべきではありません。しかし、加入者を役員のみとする役員持株会を設立することは法的に問題ありません。
もっとも、前述した奨励金等の支給を得られないことから、役員持株会の場合、株式購入費用の財源が限られます(役員が自己マネーで拠出するほかない)。
また、税務上の問題となりますが、同じ役員であっても、税務上、同族役員と非同族役員とでは株式の評価方法が異なります。したがって、役員持株会が株式を取得する際は、この税務上の評価を意識しながら購入価額を算出することに注意が必要です(この点を考慮して、同族役員用の持株会、非同族役員用の持株会と別々に設立する事例も存在します)。
<2022年5月執筆>
※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。
弁護士 湯原伸一 |