連絡の取れない内定者に対する内定取消は可能か(ショート記事)

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使用者(企業・事業者)側で労務トラブルに関するご相談を受けていると、似通ったご相談をお受けすることがあります。

このWEBサイトを訪問されている方におかれまして、ご参考までの情報共有として、以下記載します。

 

 

ご相談内容

とある求職者に対し内定通知を出しました。入社に向けて準備を進めている最中なのですが、当社より連絡を試みてもがなかなか応答がなく、しまいには返信さえこなくなりました。

このような人物を雇入れるのは不安があるため、今からでも内定を取り消したいのですが、可能でしょうか。

 

 

回答

世間一般ではやや誤解されているところがあるのですが、内定通知を出した場合、実は会社と求職者との間では既に労働契約が成立したと法的には評価されることになります。

この結果、内定取消とは法律上は解雇にほかならず、解雇権濫用法理が適用されますので、会社の一方的都合により内定取消しを行うことはできないという点を押さえておく必要があります。

本件の場合、①何とか連絡を付けて内定辞退を促すか、②覚悟を決めて内定取消を実行するのか、を検討することになります。

 

 

解説

 

①内定辞退を促す方法

会社から内定者に対して、内定を辞退するよう申入れること、これ自体は何ら問題ありません。あえて例えるなら、通常勤務している労働者に対して退職勧奨を行うことが原則問題ないと考えられていることとパラレルに考えれば足ります。

ただ、退職勧奨もやり過ぎるとパワハラと言われたり、退職強要として違法行為とされることがあるところ、内定辞退を促す場合も同様の問題が生じ得ます。

結局のところ程度問題とはなるのですが、次のような事項に留意しながら内定を辞退するよう説得を図ることになるものと考えられます。

  • 内定辞退を要請するに際し前提となる事実の指摘する
  • 上記前提となる事実が内定通知書記載の内定取消事由や内定後入社時までにおける会社からの要請事項に違反することを指摘する
  • 今時であれば電子メール等の電子媒体で内定辞退の要請を行うことも可能であるが、誠意を示すためにも、できる限り直接会って要請する
  • 内定辞退を要請するための話合いに際し、会社側としては2名で対処することを心掛ける
  • 言った言わない論争を防止するためにも、隠し録音でもいいので、ICレコーダー等を通じて協議内容を録音する
  • 内定辞退を要請するための協議時間は長くても1時間以内に抑える
  • 言葉遣いに気を付ける(淡々と話す。決して感情的な物言いはしない。内定者が隠し録音している可能性があることを肝に銘じる)
  • 内定辞退の要請に応じてもらった場合、必ず内定辞退書を提出してもらう(なお、協議直後に提出させるべきかについてはケースバイケースの判断)

 

②内定取消しを通告する方法

内定通知書等に内定取消事由が明文化されていることが大前提となりますが、たとえどんな事由であっても明文化されていれば法的に内定取消の有効性が認められるという訳ではありません。一般論としては、採用内定当時に知ることができず、また知ることが期待できないような業務遂行に支障を及ぼすような事由に該当する必要があります。

本件の場合、応答が遅延している理由を探らないことには、果たして内定取消の正当性が認められるのか微妙なところと言わざるを得ません。

安全策を取るのであれば、入社予定日を過ぎても応答が無いことを理由に内定取消しを実行するといった時間をかけた手段が望ましいかもしれません。

 

 

<2024年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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