希望退職手続きを実行する上で注意したい法務ポイントについて、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

諸般の事情により、まとまった数の人員を減らす必要となることから、個別の退職勧奨ではなく、希望退職を募ることを計画しています。

希望退職手続きを実施するに当たり、どういった事項に注意すればよいのでしょうか。法務面でのポイントを教えてください。

 

 

【回答】

希望退職制度は法律上の制度ではないことから、会社が自由に制度設計し、実施することが可能というのが原則的な考え方となります。

ただ、自由であるがゆえに逆にルールを会社自らが決めておかないことには、いざ希望退職手続きを実施しても、社内混乱や反発を招くだけであり、結果として人件費削減につながらず信用不安を招きかねない事態にもなりかねません。

したがって、希望退職手続きを実施するに際しては、事前にどういった制度設計にするのか十分に練ったうえで、画一的かつ事務的な処理ができるよう準備することが極めて重要となります。

以下では、事前にどういった準備を行うべきなのかを解説すると共に、現場実務でよく耳にする疑問点等について回答を行います。

 

 

【解説】

 

1.希望退職制度とは

 

(1)定義

希望退職制度については、法令上の定義があるわけではありません。ただ、一般的には、会社の経営不振による人員整理を行うに際し、従業員の全部又は一部を対象として、一定の優遇措置を示して退職希望者を募集することを意味することが多いように思われます。

ちなみに、従業員を辞めさせる制度として、「退職勧奨」や「整理解雇(いわゆるリストラ)」がありますが、次のような相違点があります。

  • 希望退職…会社が一定のグループに属する従業員に対して、集団的・画一的に退職を募ること
  • 退職勧奨…会社が特定の従業員に対して、個別に退職要請を行うこと
  • 整理解雇…会社が従業員と労働契約を一方的に打ち切ること

 

要は、希望退職と退職勧奨は、あくまでも従業員との合意に基づいて労働契約を終了させようとする点では同じなのですが、整理解雇は従業員との合意なく、会社の一方的判断で労働契約を終了させる点で相違します。一方、希望退職と退職勧奨は、辞めさせたい従業員を特定して退職の働きかけを行うかという点で相違があります。

 

(2)特徴(法的性格)

希望退職制度は法律上の制度ではありませんので、その法的性格は曖昧なところがあるのですが、一般的には、会社が希望退職の募集告知を行った時点では、あくまでも従業員に対する勧誘(申込みの誘引)に過ぎず、何らの法的効果が生じません。また、希望退職制度に基づき従業員が退職申込みを行った場合であっても、この時点では法的効果が生じない、つまり労働契約の合意解約の効果が生じないと考えるのが一般的です。あくまでも従業員からの退職申込みに対し、会社が承諾することで初めて法的効果、すなわち労働契約の合意解約があったものとして取り扱われます。

いつの時点で法的効果(労働契約の合意解約)が生じるのか検討する必要性は、従業員からの退職申込みに対し、会社が当該申込みを拒否できるのかという点で重要な意味を持ちます。具体的には、希望退職手続きを進めるに際し、会社としては残ってほしいと考える従業員から退職申込みがあった際に、退職申込みを撤回するよう説得可能かという点で相違が生じることになります。

 

(3)メリット・デメリット

いきなり解雇するのではなく、あえて希望退職手続きを実行するのは、法的リスクすなわち退職にまつわる紛争を防止するためです。希望退職手続きは、あくまでも会社と従業員との合意に基づき労働契約を終了させるにすぎませんので、あとで不当解雇である等の紛争を抑止することができます。この点が最大のメリットとなります。なお、整理解雇に際しては、4つの検討要素(経営上の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続きの妥当性)のうち、希望退職手続きを実施したことが解雇回避努力の重要な判断材料にもなることから、整理解雇による法的リスクを低減させることにもつながります。

また、希望退職手続きは、法律上に定められた制度ではない以上、柔軟かつ迅速に手続きを実施することが可能なこともメリットの1つとなります。具体的には、退職させたい従業員と残らせたい従業員の選抜が可能となること(上記(2)参照)、1~2ヶ月程度で手続きが終結するよう制度構築が可能であること等があげられます。

一方、デメリットとしては、一時的なキャッシュアウトが見込まれるという点です。希望退職手続きを進める場合、本来予定していなかった同時期に複数名の退職者が発生すること、しかも従業員が応じやすいよう割増退職金等のオプションを付けることが通常です。したがって、ある程度の体力がないことには事実上希望退職手続きを進めることが困難といえます。

また、メリットで記載した“退職させたい従業員と残らせたい従業員の選抜が可能”という点も実はデメリットの作用する可能性があります。なぜなら、希望退職手続きを進める場合、残ってほしいと会社が考える従業員ほど見切りをつけて、さっさと辞職手続きを行う可能性があるからです(民法第627条第1項では、従業員は2週間の予告期間を置くことで一方的労働契約を解消することが可能です)。

希望退職手続きを実施する場合、従業員数を減らして人件費を削減したい、しかし優秀な従業員は残ってほしいと相反する会社の考えを、どうやって実現するのかその制度構築が重要となります。したがって、希望退職手続きを実施する準備段階から、弁護士等の専門家を交えて検討することが重要です。

 

 

2.希望退職手続きを実施するための準備

 

希望退職手続きを実施するに当たり、次のようなフローを想定し検討することが一般的です。

①人員削減の対象、目標値、募集時期の検討

②希望退職制度の条件設定の検討

③組合・従業員(キーパーソン)との協議

④希望退職制度導入の正式決定と従業員への説明

⑤従業員からの応募受付、承認、合意書の作成

 

以下では、項目ごとに分けてポイントを解説します。

 

(1)人員削減の対象、目標値、募集時期の検討

まず希望退職制度の適用となる対象範囲をどのように設定するのかが重要となります。例えば、工場を閉鎖することに伴い、当該工場にて勤務していた作業員を対象とするといった具合です。もちろん、一切の制限を設けず全従業員を対象として希望退職の募集を行うことも可能ですが、対象範囲を広く設定すればするほど、会社として残ってほしいと考える人材が流出するリスクが高まることに注意が必要です。

なお、希望退職制度は法律上の制度ではありませんので、例えば「当該工場にて勤務していた作業員を対象とする。ただし××(個人名)は除く」といった募集の仕方も法律上は問題ありません。しかし、対象者と非対象者との人間関係が微妙になることはもちろん、職場全体のモチベーション低下等の影響もあることから、あまりお勧めできる方法ではありません。一方、例えば「当該工場にて勤務している作業員の内、××と△△と□□(いずれも個人名)を対象とする」と定めることは、いくら法律上の制度ではないとはいえ問題ありといえます。特定の個人を対象とする場合、個別の退職勧奨によるべきであって、希望退職の募集という形式に乗じた一種の晒しものにするようなやり方は、ハラスメントであるとして別問題を惹起させかねないこと注意が必要です。

 

次に募集人数についてですが、「若干名」といった具体的な数字を明記しない方法もあれば、「30名」と上限を明確にする方法もあれば、「25名程度」と幅を持たせた方法があり、ケースバイケースで使い分けることになります。

ただ、若干名等と具体的な数字を明確にしなかった場合、あるいは「程度」という言い方をした場合、会社の人件費削減に対する真剣度が今一つ伝わらないことから、応募してくる従業員が少なくなる傾向があります。

一方、上限を明確にした場合、応募超過となった場合にどのように処理するのか検討が必要となります(早いもの勝ちという考え方もありますが、この場合、対象外となり引き続き勤務することになった従業員のモチベーションはもちろん、社内の人間関係に支障を来すことが予想されます。なお、応募超過分も含めて退職させる場合、退職割増金等の想定外の出費が必要となります)。逆に上限数を満たさなかった場合、第二次募集を行うのか、整理解雇に踏み切るのか決断を迫られることになります。また、希望退職の募集を行う場合、たいていは金融機関等から人件費削減を要請されたうえで実施するところ、人件費削減を十分に行えない経営者であるとの評価がされてしまい、ますます金融機関との関係性が悪化するといった事態が起こりえます。

いずれにせよ、対象となる従業員へのメッセージ性、希望退職募集後の次の一手の準備状況、会社を取り巻く環境(利害関係人との調整)等を考慮しながら、募集人数の設定を行う必要があります。

 

最後に募集時期の検討ですが、例えば、賞与の査定期間満了後、支払日前に希望退職制度に基づく退職日を迎えるとったタイミングの場合、賞与分が損になると考える従業員は一定程度で存在します。あるいは8月や12月といった、一般的に求人数が少ない時期に退職日が設定されると再就職に支障が出るとして、申込みに躊躇する従業員もいるようです。

もちろん会社としても背に腹は代えられない事態に陥っていることから、あまり悠長に募集時期を検討することもができないかと思いますが、会社と労働者による合意を前提とするのが希望退職制度である以上、なるべく従業員が申込みを行いやすい時期に狙って実施するのがポイントとなります。

 

(2) 希望退職制度の条件設定の検討

希望退職制度への申込みを行ってもらうためには、従業員に対して相応のメリットを訴求する必要があります。

この点、退職日において従業員が受給できる退職金を前提としつつ、そこに相応の上乗せを行った上で、合計額を一時金として支給するということが一般的に行われます。ちなみに、退職金制度を設けている会社の場合、自己都合退職と会社都合退職とでは退職金の金額が異なることが通常です。希望退職手続きの場合、合意退職というゴール時点を強調すれば自己都合退職扱いと捉えることもできますが、会社からの働きかけが原因というスタート時点を強調すれば会社都合退職扱いと捉えることも可能です。どちらを選択した上で一時金の額を算定するのか予め確認しておく必要があります。

一方、退職金制度が存在しない会社の場合、端的に一時金としていくら支給するのかが制度設計のポイントとなります。執筆者個人の感覚とはなりますが、賃金1ヶ月分程度の一時金では従業員に対してアピールすることは難しく、最低でも3~6ヶ月程度の賃金相当額を一時金として支払うことを提示しないことには、なかなか申込者が増えないように思います(もちろん会社の支払原資との兼ね合いもありますし、従業員の年齢その他属性も考慮する必要がありますので、一律に決めることはできませんが)。

 

次に、一時金を算出するに際し、会社として予め留意したい事項があります。

1つは賞与の問題です。上記(1)で募集時期が賞与支給時期と重なった場合に退職申込みが少なくなる傾向があることを指摘しましたが、一時金とは別に賞与は支給するのか、それとも一時金の中に賞与分を包含した形にするのか事前に決めておく必要があります。そして、希望退職の募集の際に賞与の取扱いについて、従業員向けに先に説明しておいた方が無難です。

もう1つは年次有給休暇の買取りです。引継ぎ等の問題もあることから、会社としては年次有給休暇を行使してほしくない(いわゆる年休消化をもって退職日とする取扱いを避けたい)と考えるかと思うのですが、従業員の権利である以上、年次有給休暇を行使された場合は対処のしようがありません。この点を防止するべく、一時金とは別に年次有給休暇の買取りを行うことを検討するべきです。そして、買取り条件(日数や単価等)についても予め会社で決めた上で、希望退職の募集の際に従業員に先に説明するという方法が望ましいと考えられます。

最後に再就職支援企業の利用をオプションとして提示する場合です。再就職支援企業に要する費用は会社が負担することが通常ですが、従業員によっては再就職支援企業によるサービスの提供は不要なので、当該費用に掛かる分を一時金に上乗せしてほしいといった要請を出してくることがあります。もちろん、この要請に応じるか否かは会社の任意です。ただ、トラブルを避けるためにも、事前にこのような要請に応じるか否かについては会社内で検討し、希望退職の募集の際に先に従業員に説明しておいたほうが良いと考えます。

 

(3)組合・従業員(キーパーソン)との事前協議

社内に労働組合が存在する場合、当該労働組合との間で労働協約を締結していないか、締結している場合、人員削減を行う場合は労働組合の同意が必要であること、又は事前に労働組合と協議を行う必要があることが定められていないか確認する必要があります。もし労働組合の同意又は事前協議が必要である旨定められている場合、正式に希望退職の募集を行う前に、労働協約に従って協議を進めていく必要があります。

一方、上記のような定めがない場合、事前に労働組合と協議を行うか否かは会社の裁量判断となります。ただ、希望退職の募集を会社が検討していることを労働組合が知った場合、まず間違いなく団体交渉の申入れを行ってきます。いずれにせよどこかのタイミングで協議を行う必要がある点を考慮すると、原則的には事前に労働組合と協議を行った方が無難ではないかと考えます(事前協議を行わなかった場合、労働組合はメンツをつぶされたとして、会社に非協力的態度に出てきますし、組合員に対して希望退職に申し込まないよう働きかけを行う等の対抗策を講じてくることがあります)。

 

社内に労働組合が存在しない場合、役員等で検討を進め、いきなり従業員に対して希望退職の募集を実施すること、特に問題はありません。ただ、経営サイドには属さないものの、従業員に対して強い影響力を持つ人物などがいる場合、希望退職の募集を実施する前に事情を説明し、反応を伺う、必要に応じて意見を聞くといった対応を取ったほうが良い場合もあります。もちろん、この場合、正式な発表前に一部従業員に漏れ伝わることを前提にする必要があることに注意が必要です。

なお、これに関連して、会社として残ってほしいと考えている従業員に対し、希望退職の募集を実施予定だが退職申込まないようにしてほしいと要請することも現場実務では行われたりします。こういった要請を行うことも法律上は特に問題とはなりませんが、対象者以外の従業員に情報が漏れだす可能性があることもちろん、対象者本人のモチベーション低下につながることもあり得ますので、説明の仕方などを含め慎重に進める必要があります。

 

(4) 希望退職制度導入の正式決定と従業員への説明

役員等の関係者のみで協議を重ね、会社の方針として希望退職手続きを実施することを決めた場合、従業員に対して正式に公表すると共に募集を開始することになります。

この従業員に対して正式に公表する際ですが、希望退職制度の根幹部分、すなわち募集期間、退職日、退職条件、申込み方法、相談窓口、承諾条件等については書面にて配布してよいかと考えます。しかし、会社の現況、業績見込み、実施済みの経費削減策(役員報酬カット等)とその効果、実施済みの解雇回避策(外部出向、一部帰休)の状況等の希望退職手続きを実施するに至った背景事情については、口頭で説明することがポイントです。なぜなら、これらの情報が会社の信用にかかわる重要なものであるところ、書面等の媒体物で従業員に配布した場合、思わぬ形で外部に公開される(今時であればネット等に晒される)ことで、信用不安を招きかねないからです。なお、口頭で説明する場合も、家族その他相談先など必要最小限の範囲に開示することは致し方ないとしても、原則他言無用であることを念押しするべきです。

ところで、従業員に対して正式公表する際、背景事情以外に希望退職が功を奏さなかった場合の次の措置についてまで言及するのか、という問題があります。要は整理解雇を実施する予定があることを告知するべきなのかということですが、ケースバイケースによるというほかありません。たしかに、整理解雇実施予定であることを告知した場合、会社の真剣度が従業員に伝わりますので、希望退職制度への申込みを行わせる動機づけになる面があります。しかし、会社の窮状具合を曝け出すことにもなりますので、社内は不安で覆いつくされ従業員のモチベーション低下は避けられません。また、優秀な従業員(会社として残ってほしいと考える人材)ほど退職申込みを行う動機づけになり、たとえ希望退職制度への申込みを行わなかったとしても、会社に見切りをつけて近い将来転職する可能性を高めてしまうことにもなりかねません。

細心の注意を払いつつ、場合によっては弁護士とも相談しつつ、どこまで情報を公開するのか決めるほかないかと考えます。

 

従業員に対して正式に公表後、直ちに対象となる全従業員との個別面談を実施するべきです。これは公表内容の補足説明を行うこと、質疑応答の機会を設けること、及び具体的な一時金を明示するといった意義があることはもちろんですが、不平不満を聞きつつ冷静な判断を促す機会となること(一種のガス抜き)、会社における当該従業員に対する率直な評価(要は残ってほしい人材か否か)を伝える機会となること、当該従業員の意向を探る機会が得られること等のメリットがあるからです。

ところで、この個別面談の際ですが、当該従業員との個別交渉、例えば当該従業員のみ更なる割増金を追加するといった、希望退職制度として公表した設定条件と異にする退職条件を持ち出すべきではありませんし、当該従業員から提案されても原則拒否するべきです。なぜなら、個別交渉を認めてしまうと、他の従業員に対しても同様に行う必要性が生じ収拾がつかなくなるからです。あくまでも希望退職制度として設定した条件について一律の説明を行うことが重要となります。そして、一律の説明を行うためにも、想定問答集の作成はもちろん、会社面接担当者によるブレが生じないようヒアリングシートを作成しておくことも有用です。

なお、社内に労働組合が存在する場合、対象従業員との個別面談実施に反対される場合があります。会社としては必要性等を説明し、できる限り労働組合との協議を尽くすべきですが、頑強に反対される場合、個別面談は諦めたほうが良いかもしれません。強行した場合、労働組合が組合員に対して、希望退職制度への申込みを行わないよう働きかけるリスクがあるからです。

 

(5) 従業員からの申込受付、承認、合意書の作成

希望退職手続きを実施し、従業員から退職申込みがあった場合、口頭で受付を済まさず、必ず書面等の後に残る媒体物を通じて退職申込みをさせる必要があります。これは言うまでもなく、後で退職申込みを行ったか否か不明確となることを回避するためです。申込書自体を予め会社で作成しておいたほうが無難です。

次に、従業員からの退職申込みに対し、会社が承認したことを示す何らかの履歴を残すことを検討する必要があります。これは、希望退職制度をどのように構築するかにもよるのですが、一般的には上記1.(2)で記載した通り、希望退職手続きに対して従業員が退職申込みを行い、会社が承認することで初めて退職合意が成立したと法的には扱われるからです。つまり、裏を返せば、従業員からの退職申込みがあったにもかかわらず、会社が従業員に対して明確に退職申込みを承認する旨の意思表示を行わない限り、従業員は退職申込みを撤回できることになります。このような事態を回避するためにも、会社が承認したことを示す履歴、できれば書面等の後に残る媒体物にて行うことが無難です。

なお、労働契約を終了させることだけを考えれば、従業員からの退職申込と会社の承認により手続きを完了させることができますが、希望退職手続きを実施するに際しては、一時金の支払い等の退職に際してのオプションを付与していることが通常です。申し込みを行った従業員からすれば、そのオプションが実行されることに関する会社の確約が欲しいと考えることを踏まえると、退職に関する合意書を締結することをお勧めします。内容的には次のような事項を定めることが多いように思われます(なお、第5項及び第6項については明記しない場合もあります)。

株式会社××(以下「甲」という)と××(以下「乙」という)は、甲乙間の労働契約ついて、次の通り合意した。

 

1 甲及び乙は、×年×月×日をもって労働契約が終了することを確認する。

2 乙の退職事由は×都合とし、甲及び乙は退職に伴い必要となる手続きを行う。

3 甲は、乙に対して、退職金として金×円の支払義務があることを認め、これを×年×月×日限り、乙が賃金支払先として甲に届出た金融機関口座宛に振込んで支払う(振込費用は甲負担)。

4 乙は、甲に対し、第1項に定める労働契約終了日より×日以内に、健康保険証を返還する(郵送などの方法により返還する場合は、送料は乙の負担とする)。

5 甲及び乙は、第三者に対し、乙が合意退職をした事実を除き、本合意書の内容、本合意を行うに際して開示された書類及び情報、並びに労働契約に基づき知りえた技術上・営業上の秘密情報を開示しないことを相互に確認する。

6 甲及び乙は、本日以降相手方の名誉、信用を毀損し、又は業務の妨害となるような一切の言動及び行動をしないことを確認する。

7 甲及び乙は、本合意書記載事項を除き、何ら債権債務がないことを相互に確認する。

 

 

3.現場対応Q&A

 

希望退職手続きを実施するに際し、よく受ける質問とそれに対する回答を整理してみました。

 

(1)申込に関する事項

・申込拒絶の可否

希望退職手続きに従い、複数の従業員から退職申込みがあったが、一部従業員は会社として残ってほしいと考えている人材であるため、当該一部従業員に対しては、退職申込みを拒絶しようと考えているが対処可能か、といった質問を受けることがあります。

これについては、上記1.(2)も関連しますが、結局のところは希望退職制度をどのように設計するかによって結論が変わります。すなわち、端的には希望退職の適用について、会社の承諾制にするという形式にすれば、一部従業員からの退職申込を拒絶することは可能となります。

但し、注意を要する点として、希望退職手続きの適用を拒絶することができるだけであり、当該一部従業員が通常の退職手続きを行ってきた場合、会社としては止めようがないという点です(民法第627条参照)。優秀な従業員であればあるほど、希望退職手続きを実施するような会社に見切りをつけてくる可能性は十分にありますので、拒絶するにしても、なぜ拒絶するのか当該一部従業員に対して十分説明する必要があります。

 

・申込撤回の可否

希望退職手続きに従い、某従業員が退職申込みを行ったところ、翌日になって「やはり会社に残りたい」と言い始めた。会社としてはこのまま退職手続きを進める方針だが問題ないか、という質問を受けることがあります。

これについては上記2.(5)でも少し触れたのですが、希望退職制度を会社承諾制とした場合はもちろん、一般的な希望退職制度の解釈論からすると、会社が従業員からの退職申込みに対して、明確に承認する旨の意思表示を行っていない限り、従業員は退職申込みの撤回が可能ということになります。したがって、会社が承認を行ったのかが結論の分かれ目となります。非常に言い方が悪いのですが、戦力外と捉えている従業員より退職申込みがあった場合、会社は直ちに承認の意思表示を行うといった現場対応が重要となります。

 

(2)対象者の選定

・募集対象者の絞り込み

希望退職手続きを実施するに当たり、全従業員を対象とするのではなく、役職、年齢、職務・職種、勤務地等を限定して実施することは可能か、という問い合わせを受けることがあります。

結論から申し上げると、基本的には対象を限定して希望退職手続きを実施することは問題ありません。但し、例えば女性労働者のみを対象とする、労働組合に加入している従業員のみを対象とする、特定の思想信条を有する者のみ対象とする、といった法令違反に該当するような絞り込みは当然不可となります。

なお、対象者を選定するための基準作りは、希望退職手続きが功を奏さなかった場合における後の整理解雇手続き(特に四要素の内の人選の合理性)にも影響を与えるものとなりますので、弁護士とも相談しながた基準を作ったほうが望ましいと思われます。

 

(3)退職条件の整備

・一時金(オプション)の不平等扱い

希望退職手続きにおけるオプションとして、例えば、年齢や役職に応じて一時金の計算方法を異にする、勤務地によって割増率を変動させるといった区別を設けることが可能か、という質問を受けることがあります。

この点ですが、原則可能と考えて差し支えありません。これは希望退職制度自体が法律上の制度ではなく会社の自由裁量により制度構築が可能であること、男女差別等の法令違反になる場合であればともかく原則的には全従業員に対して一律平等のオプションを付与する義務がないことが理由となります。

ところで、このオプションの不平等扱いに関連してですが、希望退職手続きを実施したが募集人員に達せず一旦締め切ったところ、二次募集を行うことになったという事例において、一次募集の際の退職条件と二次募集の際の退職条件とで差異を設ける(二次募集の方が条件的に優遇されている)ことは可能か、という質問を受けることがあります。

この点についても、やはり同様の理由で原則問題ないと考えてよいかと思います。ただ、一次募集に応じた従業員からは当然不満が上がってきますし、また申込未了の従業員からすれば、もう少し待てばもっとよい退職条件が提示されるのではないかという変な期待を持たせることにもなりかねません。したがって、一次募集と二次募集とで差異を設けることは、あまりお勧めできる方法ではないと執筆者個人は考えます。

 

・競業禁止を条件とすることの可否

希望退職制度における退職条件として、競業会社への転職や自ら競業事業を立ち上げることを禁止することを定めてもよいか、という問い合わせを受けることがあります。

これについては、原則有効と考えて問題ないかと思います。たしかに、従業員の職業選択の自由を制限する条件であることは間違いありませんが、従業員が競業会社への転職等を考えるのであれば、希望退職手続きに基づく退職ではなく、通常の退職手続きを行えば事足りるからです(なお、入社時や退社時の誓約書に競業禁止が定められている場合、その競業禁止特約が有効かという別議論となります)。

もっとも、現場実務の悩みとして、実際に元従業員が競業会社への転職等した場合、なかなか対抗策を講じることが難しいのが実情です。したがって、希望退職制度における退職条件として、競業禁止を条件とする自体は可能であっても、事実上実効性がないと捉えたほうが良いかもしれません。実効性を少しでも確保したいと考えるのであれば、弁護士と相談しながら策を練るべきです。

 

・希望退職手続き実施前に退職合意している者との均衡

偶然にも希望退職手続きを実施する前に退職申込みを行った従業員が存在した場合において、当該従業員より希望退職制度に準じた退職条件の適用を要求されたが応じる必要があるのか、という質問を受けることがあります。

結論から申し上げると、要求に応じる義務はありません。

例えば、会社が希望退職手続き実施を回避するために、個別に退職勧奨を行っていたところ、その際に退職条件の提案として「これ以上有利な退職条件は提示しない」と会社が明言していたにもかかわらず、当該従業員が退職申出を行った直後に希望退職手続きを実施した(希望退職制度による退職条件の方が従業員にとっては有利だった)といった、一種の騙しのような特殊事情があれば検討の余地がありますが、よほどのことがない限りは気にする必要はないかと思われます。

 

(4)事後措置

・募集人数を上回った場合の処置

希望退職手続きを実施したところ、予め設定した募集人数を超えた退職申込みがあった場合、どういった対応を取ればよいのか、という相談を受けることがあります。

もちろん全ての退職申込者に対して、希望退職制度による退職条件を適用し、退職させるということも選択肢とあり得ます。ただ、想定外のキャッシュアウトになることから、全申込者を適用することも難しいという事態もあり得る話です。

この場合、事前にこういった事態を想定して選別基準を設けているのであればともかく、設けていないのであれば、原則的には退職申込みの早かった順番で充足していき、退職申込みが遅かった従業員に対しては速やかに拒絶通知を行うといった対応を行うのが1つの考え方かと思われます。ただ、こういった早い者勝ち(?)という基準を用いる場合であっても、希望退職制度を従業員に公表する際、あらかじめ明示しておいた方が無難です。

 

・募集人数を下回った場合の処置

希望退職手続きを実施したが、募集人数に達することなく募集期間が終了した場合において、会社として次に打つべき手はどういったものがあるのか、という相談を受けることがあります。

希望退職手続き実施後に次にしなければならない手段については特段の決まりごとはありません。したがって、目標未達成とはいえ人員削減を図れたとしてしばらく様子を見る、第二次の希望退職手続きを実施する、個別の退職勧奨を行う、整理解雇(いわゆるリストラ)を断行する等々の様々な対応が考えられるところです。なお、希望退職手続きを実施したから整理解雇が劇的に行いやすくなるわけではありませんし、強引な退職勧奨が許されるわけではありません。退職勧奨にせよ整理解雇にせよ、別問題としてその有効性を検討する必要がありますので、詳しくは弁護士に相談したほうが良いと考えられます。

 

 

<2022年2月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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