ドローン・ビジネスを行う上で注意したい法規制について、弁護士が解説!

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【ご相談内容】

当社は新たにドローンを用いた事業、例えば、なかなか人が立ち入ることができない場所で空中撮影し、その撮影画像を分析・改正した上でデータ販売する事業、機材を用いて当該場所に立ち入ることが困難な場合は機材を運搬する事業などの展開を検討しています。

いわゆるドローン・ビジネスを実施するに際し、気を付けておきたい法的課題があれば教えてください。

 

 

【回答】

ドローンと呼ばれる無人航空機については、2015年(平成27年)頃に一気に法規制に関する議論が進みましたが、その後は小康状態が続いており、法律上曖昧な状態が現在も継続している状態です。2021年4月時点のものとなりますが、

・ドローンの機器それ自体に関係する法規制

・ドローンを飛行させることに関係する法規制

・ドローンを使った撮影に関係する法規制

の3つに分類して、以下解説を行います。

 

 

【解説】

 

1.ドローンの機器それ自体に関係する法規制

ドローンを操作するためには無線電波を用いることになります。この無線電波については、無秩序に電波が飛び交うことによる混線等の問題を防止することを目的として、電波を発信する無線設備に対し、電波法による規制が行われています。

この点、ドローンを操縦するための送信機は無線電波を発信する以上、無線設備に該当します。また、映像情報等を送信するタイプのドローン(多くのドローンはこのタイプと思われます)についても、やはり無線設備に該当します。この結果、ドローンを操作する者は「無線局」を開設したことになるため、電波法に基づく総務大臣の免許を取得する必要があり、この免許を取得しない限り、ドローンの操作ができないというのが原則論です。

もっとも、ドローン及び送信機について、電波法に定める「特定無線設備」(小規模な無線局に使用するための無線設備であって法務省令に定めるもの)に該当し、かつ事前に電波法に基づく技術認証(いわゆる技適マーク)を取得していた場合、電波法に基づく免許が不要となります。この例外に該当するか否かは、専らメーカー側による対応となってしまいますが、ドローン操作者にとっては、技適マークがついているか否かは重要な判断材料となります。

ちなみに、海外からの輸入品の場合、技適マークマークがついていないドローンが多いようです。この場合は原則論通り、ドローン操作者側において電波法に基づく免許を取得する必要があります。

 

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2.ドローンを飛行させることに関係する法規制

2015年に法規制が進んだのは、ドローンを飛行させることに対するものとなります。現時点で意識しておかなければならない法規制としては次の5つと考えられます。

 

(1)航空法

航空法とドローンとの関係と言えば、飛行禁止区域の設定に関することをイメージする方も多いかと思います。たしかに、空港等の周辺上空の空域、150m以上の高さの空域、人口集中地区の上空はドローンの飛行が原則禁止されており、これらの空域でドローンを飛行させたい場合は国土交通大臣の許可が必要とされています(航空法第132条)。ちなみに、ドローン飛行禁止区域内で自ら不動産(土地)を所有していたとしても、やはり許可が必要とされています。

なお、空港等の周辺上空の空域や人口集中地区は、具体的にどこなのかを調査したい場合、国土交通省の次のWEBにて調査可能です。

 

無人航空機の飛行の許可が必要となる空域について(国土交通省)

 

さて、航空法では、上記のような飛行禁止区域の設置以外にも、飛行方法に関する10の規制についても定めています(航空法第132条の2)。

具体的には、①アルコール又は薬物等の影響下で飛行させないこと、②飛行前確認を行うこと、③航空機又は他の無人航空機との衝突を予防するよう飛行させること、④他人に迷惑を及ぼすような方法で飛行させないこと、⑤日中(日出から日没まで)に飛行させること、⑥目視(直接肉眼による)範囲内で無人航空機とその周囲を常時監視して飛行させること、⑦人(第三者)又は物件(第三者の建物、自動車など)との間に30m以上の距離を保って飛行させること、⑧祭礼、縁日など多数の人が集まる催しの上空で飛行させないこと、⑨爆発物など危険物を輸送しないこと、⑩無人航空機から物を投下しないこと、がその内容となります。

なお、上記規制によらずにドローンを飛行させたい場合、国土交通大臣の承認が必要となります。

 

さらに、ドローンを用いて運送事業を行いたいと考える場合、航空法上の「航空運送事業」に該当するのかについても検討する必要があります。

この点、現行の航空法を前提とする限り、航空機とは人が乗って航空の用に供することができる飛行機等(航空法第2条第1項)と定義されているため、航空運送事業の定義からは外れるものと考えられます。もっとも、今後のドローンの活用方法の拡大を踏まえると、おそらくは何らかの規制が及ぼされるものと予想されます。法改正の動向に注意する必要があります。

 

(2)小型無人機等飛行防止法

この法律が制定された背景は、2015年に発生した首相官邸内にドローンが侵入し、屋上に落下(着地?)した事件となります。

小型無人機等飛行防止法も航空法と同じく飛行禁止区域を定めており、具体的には国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空での飛行については、飛行禁止とされています。ちなみに、航空法は国土交通省が所管するのに対し、小型無人機等飛行防止法は警察庁所管となるという相違があります。また、飛行禁止区域の定め方については、小型無人機等飛行防止法がより具体的であり、警察庁所管の法律なだけに、違反した場合はすぐに警察沙汰になるという相違もあったりします。詳しくは警察庁の次のWEBで確認してください。

 

小型無人機等飛行禁止法関係(警察庁)

 

(3)条例

ドローンの飛行禁止区域については、上記の航空法及び小型無人機等飛行防止法以外にも、各地域の条例によってさらに細かく設定されています。例えば、寺院等の文化財、都市公園、港湾施設等の飛行規制です。

条例による規制の有無及び内容については、ドローンを飛ばそうとする地域の地方公共団体に逐一確認するしかないと考えられます。

 

(4)(空中)所有権

上記(1)から(3)は、行政が規制主体となって、ドローンの飛行を制限しようとするものであるのに対し、この(4)で説明するのは個人の権利侵害を原因とする民間同士の問題となります。

土地の上部(空中)に所有権が発生するのかという疑問を持たれる方がいるかもしれません。しかし、民法第207条では「土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。」と規定されており、土地所有権が空中に及ぶことが前提とされています。そうすると、たとえ航空法等が定める飛行禁止区域の問題をクリアーしたとしても、ドローンを飛ばす区域の土地所有者と個別交渉し、土地所有者の同意を得る必要が生じるのではないかという問題が生じてきます。

ただ、例えば、地上100メートルの場所をドローンが飛行している場合に所有権侵害といえるかというと、かなり微妙な問題だと考えられます(単にドローンが飛行しているのが気持ち悪い、不快であるといった主観的事情では所有権侵害にはなりません)。結局のところ、所有者による土地利用が制限されているのかという実質的な観点(要はケースバイケース、最終的には受忍限度論の問題となりうるかもしれません)で判断するほかないと考えられますが、一応、こういった問題もあることは意識したほうが良いと考えられます。

 

(5)貨物自動車運送事業法・道路運送法

上記(1)でドローンを用いた運送事業は航空運送業に該当するのかという点を触れましたが、運送業については、貨物自動車運送事業法及び道路運送法の問題についても検討しておく必要があります。

この点、現時点での法令解釈としては、ドローンによる運送事業は、貨物自動車運送事業及び道路運送事業に該当しないと考えられます。なぜならば、両法とも自動車を使用して貨物を運送する事業を前提にしているところ、ドローンは自動車に該当しないからです(貨物自動車運送事業法第2条第5項、道路運送車両法第2条第2項)。とはいえ、今後ドローンによる運送事業が本格化した場合、何らかの法規制が及ぶことは必須ですので、法改正等の動向を注視する必要があります。

 

 

3.ドローンを使った撮影(画像データ)に関係する法規制

 

(1)プライバシー権・肖像権

ドローンの魅力といえば、小型無人航空機特有の小回りが利く動き、すなわち人間が立ち入ることができない位置・場所からの画像データ(特に空撮による画像データ)を収集することができる点にあるとされています。

ただ、従来まで人間が立ち入ることができない位置・場所からの撮影を可能とした以上、被写体となる者は、予想もしない状況下で(無断)撮影されてしまうことにもなりかねません(撮影行為自体の問題)。そして、撮影された内容を、被写体が知らないうちにインターネット等で閲覧可能な状態にされることもあり得ます(ネット上での公開等の問題)。この結果、被写体のプライバシー権、肖像権との衝突問題が起こることになります。

この点、1つの判断材料として、総務省が公表している「ドローンによる撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」が参考になります。

まず、プライバシー権侵害については、「公開する利益と公開により生じる不利益との比較衡量により侵害の有無が判断されることになるが、一般に、個人の住所とともに当該個人の住居の外観の写真が公表される場合には、プライバシーとして法的保護の対象になり得ると考えられている。屋内の様子、車両のナンバープレート及び洗濯物その他生活状況を推測できるような私物が写り込んでいる場合にも、内容や写り方によっては、プライバシーとして法的保護の対象となる可能性がある。」という考え方を示した上で、「①住宅地にカメラを向けないようにするなど撮影態様に配慮する、②人の顔や車両のナンバープレート、住居内の生活状況を推測できるような私物にぼかし処理等を施すなど、プライバシー保護の措置をとらなければプライバシー侵害となるおそれがあると考えられる。」と結論付けていることが、1つ参考になるかと思います。

一方、肖像権侵害については、撮影された場所が公共の場所であるか否かによって結論が異なりうることが示されています。具体的には、「公共の場において普通の服装・態度でいる人間の姿を撮影・公開することは受忍限度内として肖像権侵害が否定されることが多い。例えば、肖像権侵害を肯定した事例においては、特定の個人に焦点を当ててその容貌を大写ししていること等の事情が重視されており、公共の場の情景を流して撮影したにすぎないような場合には肖像権侵害は否定される」という考え方を示しています。一方、「公共の場でない場所における撮影はこの限りではない。例えば、被撮影者の承諾なく、住居の塀の外側から撮影者が背伸びをした姿勢で、居宅の一室であるダイニングキッチン内の被撮影者の姿態を写した場合は受忍限度を超えている」としています。

 

プライバシー権、肖像権侵害については一律の判断基準を示すことは難しく、ケースバイケースの判断にならざるを得ません。判断基準が曖昧である以上、トラブルに巻き込まれないことの方が重要ですので、

・撮影に際しては、住宅地にカメラを向けないようにするなど撮影態様に配慮する

・人の顔やナンバープレート、表札等の生活状況を推測できるような私物が映り込んでしまった場合はぼかしを入れる等の配慮を行う

といった予防策が重要になります。

 

(参考)

ドローンによる撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン(総務省)

 

(2)個人情報保護法

撮影で入手した画像データであっても、個人の識別が可能な情報は個人情報保護法上の個人情報に該当することになります。また、画像データをデータベース化した場合は個人情報データベース等に該当することになります。

個人情報保護法が適用される場合、個人情報の利用目的の特定や安全管理措置、第三者提供の制限といった規制への対応が必要となることはもちろんですが、特に意識しなければならないのは、不正手段による個人情報取得の禁止(個人情報保護法第17条)との関係です。ドローンを用いた被写体の盗撮であれば、間違いなく不正手段による取得に該当することになります。また、意図的な盗撮ではなく映り込んでしまった場合であっても、上記(1)で取り上げたプライバシー権や肖像権侵害が成立することが明らかである場合には不正手段による取得と言われかねません。

ドローンを用いた撮影は、一歩間違えると不正手段による個人情報の取得と言われかねないリスクのある撮影行為であることを認識しておく必要があります。

 

(3)著作権法など(人物以外の撮影)

上記(1)(2)は被写体が人物であることを前提にしていましたが、人物以外の無体物を撮影した場合、特に著作権法を意識する必要があります。

例えば、普段公開されていない彫刻等を撮影した場合は著作権侵害の問題が生じます(屋外に恒常的に設置されている場合は著作権侵害の問題は生じません)。

また、被写体の人物はぼかしたものの、当該人物が着用していた衣装に有名キャラクターが描かれていた場合、やはり著作権侵害の問題が生じます(但し、映り込みが分離困難である場合は著作権侵害とはなりません)。なお、キャラクターが商標登録されている場合は商標権侵害の問題が、キャラクターが有名であればあるほど不正競争防止法の問題も一応は検討する必要があります。

さらに、独創的な建造物を撮影した場合も著作権侵害の問題が生じえます(もっとも、建築物は一般に公開されていることから、著作権法に基づく自由利用に該当する場合が多いと考えられます)。

撮影者に権利帰属しない物を撮影する場合、常に何らかの権利侵害の問題が生じないか注意を払う必要があります。

 

 

 

<2021年4月執筆>

※上記記載事項は弁護士湯原伸一の個人的見解をまとめたものです。今後の社会事情の変動や裁判所の判断などにより適宜見解を変更する場合がありますのでご注意下さい。

 

 


弁護士 湯原伸一

「リーガルブレスD法律事務所」の代表弁護士。IT法務、フランチャイズ法務、労働法務、広告など販促法務、債権回収などの企業法務、顧問弁護士業務を得意とする。 1999年、同志社大学大学院法学研究科私法学専攻課に在学中に司法試験に合格し、2001年大阪弁護士会に登録し、弁護士活動を開始する。中小企業の現状に対し、「法の恩恵(=Legal Bless)を直接届けたい(=Direct delivery)」という思いから、2012年リーガルブレスD法律事務所を開設した。現在では、100社以上の顧問契約実績を持ち、日々中小企業向けの法務サービスを展開している。

 

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