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ご相談
当社の取引スタンスに気を悪くした取引先が、当社に対して慰謝料を請求すると息巻いている。慰謝料が発生しない場面としてどういったものが考えられるか。
結論
「慰謝料」という言葉はよく耳にしますが、「嫌な思いをしたら当然もらえる」「相手が悪いことをしたのだから慰謝料だ」といった誤解も少なくありません。慰謝料は、修理代や返金のような何らかの財産損害が生じたといったものではなく、精神的苦痛(財産以外の損害)を金銭で評価して賠償するものです。
慰謝料が発生するかどうかについて、次の解説にある3つの軸で整理すると見通しが立ちます。
解説
① 被害者は誰か(法人は認められにくい)
まず見るべきは「被害を受けた人(被害者)が誰か」です。慰謝料は「精神的苦痛」の賠償ですから、基本的には人(自然人)が対象になります。
このため、会社などの法人は感情を持つ存在ではないため、人と同じ意味での「精神的苦痛」を前提にする慰謝料は、原則として考えにくい場面が多いのが実務的な感覚です。
ただし、ここで「法人なら何をされても請求できない」という意味ではありません。
法人は、信用や名誉が傷つけば、信用棄損による売上減、取引停止、風評対策コスト、調査・広報・削除対応の費用など、別の損害として請求が問題になります。つまり、法人の場合は「慰謝料」と呼ぶより、信用・名誉の侵害に伴う無形損害や具体的損害に組み替えて考えることになります。
② 被害対象は何か(物損だけなら原則慰謝料は発生しない)
次に、「何が傷ついたのか」を見ます。ここで典型的に誤解が多いのが物損です。
車やスマホ、建物、家具など、物が壊れた場合の基本は、修理代・買替費用といった財産的損害で回復することです。そこで原則として、物が壊れたこと自体について、別途の慰謝料(精神的苦痛の賠償)が認められるケースは多くありません。
もっとも、例外がゼロではありません。たとえば近時はペットへの傷害(法律上は「物」扱いです)や建物(マイホーム)の不備などで慰謝料が認められた事例があります。とはいえ、一般的な日常トラブルでは「物が壊れた=慰謝料」という短絡は危険です。物損は財産賠償で解決するのが原則と押さえておくべきです。
③ 違法性の程度はどうか(単なる不快や契約違反だけでは原則発生しない)
結論として、単に不快だった、腹が立ったというだけでは、慰謝料は発生しません。
社会生活では意見の対立や相性の問題もあり、一定程度の不快感は避けがたい面があります。そこで裁判実務では、生活上我慢すべき範囲(いわゆる受忍限度)を超えるかどうかが判断のポイントになります。受忍限度を超えないと評価されれば、違法性が否定され、慰謝料も否定されやすいのです。
また、契約のトラブルでも同じ構造が見られます。たとえば「納期遅れ」「仕様どおりでない」「連絡が遅い」などは、確かに腹が立つこともありますが、法律上は通常、返金・代金減額・修補・遅延損害金・逸失利益などの「お金の損」として処理されます。つまり、単なる契約違反だけでは、精神的損害としての慰謝料は出ないと考えたほうが無難です。
【まとめ】
慰謝料は、①被害者(人か法人か)、②被害対象(物損か、人格的利益か)、③違法性の程度(受忍限度を超えるか、契約違反を超えるか)の順に検討すると整理しやすくなります。
「慰謝料が欲しい/請求された」という場面では、まず上の3軸でそもそも慰謝料が発生する条件を満たすのかを確認し、次に証拠(経緯、言動、記録、損害の内容)を固めるのが現実的です。
なお、個別事情で結論は変わりますので、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
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弁護士 湯原伸一
































